決算書の50%は思い込みでできている(東洋経済新報社)
さて本日はもう一冊、本のご紹介。当ブログにお越しの皆さま方にはお勧めといいますか、必読の一冊だと思います。さきほどご紹介した「架空循環取引」が書店に並んでいるのを確認に行った折、目にとまったのですが、思わず衝動買いをしてしまい、夢中になって半日で読んでしまいました。
決算書の50%は思い込みでできている(公認会計士 村井直志著 東洋経済新報社 1500円税別)
本のデザインはご覧の通り、ホンワカとしておりますが、中身は「会計トラップ(会計の罠)」をメインタイトルとしたもので、これがまた非常に会計素人にもわかりやすく「見積もりの罠」が解説されております。まさに会計は摩訶不思議な世界であります。以前に「会計士の先生方のご著書はホンネや私見があまり書かれてなくて、イマイチかも・・・」といった印象を抱いたことが何度かありましたが(もちろんそうでないご著書もありましたけど・・・)、本書では具体的な事例に対する村井先生の推論や私見がふんだんに記述されており、「摩訶不思議な部分」を堪能でき、これが非常におもしろい!著者はおそらくサービス精神旺盛な方なのではないか、と勝手に想像しております。(某事件の登場人物を存じ上げている身からしますと、よくぞここまで書いてくれた、と思えるところも出てまいります)
当ブログで過去に取り上げた事例が出てくる、出てくる!(*^_^*)TBS・楽天、りそな国有化、NOVA、IHI、アーバンコーポレーション、そして非上場子会社の株式評価が問題とされた三洋電機社の「三洋減損ルール」をテーマとした「見積もりの罠」など、なるほど会計士の方からみたらこうなるのか・・・と感嘆しきりでございます。「引当金」や「減損会計」に関する会計トラップについてもやさしく解説されており、とくに真柄建設社の合法的架空資産(という語彙が正しいのかどうかは不明ですが・・・)に関する事例などを読みますと、なるほどこういった理由でMBOに走る会社もあるのではないか・・・と想像したりしておりました。(と、考えながら読み進めておりますと、最後のほうで会計トラップから脱出するための方策として、カルチャーコンビニエンスクラブ社の事例などを挙げて、MBOが紹介されておりました-笑)
もちろん、素人が読んでもわかりやすい、ということは、会計専門家の方々には若干物足りなかったり、解説のデフォルメが気になったりするのかもしれませんが、会計はあくまでも社会科学であり、主観的判断と客観的判断が半分ずつで出来ている・・・といったご解説は、私が以前からモヤモヤっと抱いていた会計観に非常に近いものでして、当ブログ管理人としましては共感度の高い本であります。(今後のブログネタにも参考にさせていただきます)ご興味のあります方は、ぜひご一読ください。
PS 「会計トラップ」という言葉は日常的に使われているのでしょうかね?あまり関係ありませんが、つい最近、(懇親会の席上ですが)某証券取引所の女性審査官の方から「先生、ハニートラップに注意してくださいネ!」と言われたことを思い出しました(笑)。ハニートラップかぁ・・・ひさしぶりに心地よい響きの言葉を耳にしました(^^;;
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コメント
はじめまして。
いつも勉強させて頂いております。
本ブログにて本書「決算書の50%は思い込みでできている」を知り、拝読いたしました。
ご紹介ありがとうございました。
「会計上の見積り」の要素は年々比重が上がってきており、かつ、主観的要素を含む会計上の重要な論点であるところ、それを一般の方向けに解説されたという点で、画期的とも言える一冊であるとも言えそうです。
あえて突っ込みを入れたくはないのですが、1つだけ。少々気になったのは、例えばユニクロはポイント引当金の計上を回避するためにポイント制度を止めたとありますが、マーケティングや経営戦略上の理由なのではないか、会計上の理由による因果関係が過大に説明されているのではないか、といったところです。
ところで、山口先生におかれましても、既にご承知の上かとは存じますが、来月から始まる決算において、最も社会的注目を集め、そして金額的インパクトも大きく注目されるのが東京電力かと存じます。
「会計上の見積り」の特に大きなインパクトとして、福島原発に係る固定資産の減損損失、資産除去債務の計上額の見直し、損害賠償等の引当金などといった論点があるかと思います。
減損損失の計上は廃炉決定の報道がされており確定かと思われます。資産除去債務と損害賠償等の引当金は、「金額が見積もることが出来ない」ため計上しないというのは理屈としてはありますが、私の主観的な感覚、また、国民感情的(?)には許されないでしょう。
さらに、外部からは詳細の経緯はうかがい知ることの出来ない点ですが、決算短信時から有価証券報告書までの間の原発処理の進展等で計上の可否や計上すべき金額が同一に確定出来るのか、という要素もあります。そうすると、決算発表自体がどうなるか、といった点も含めて注目です。
(ご参考)
・資産除去債務に関する会計基準(抜粋)
(資産除去債務を合理的に見積ることができない場合)
5. 資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上する。
資産除去債務の見積りの変更
(割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更)
10. 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理する。資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合も、見積りの変更と同様に取り扱う。
・東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について(日本公認会計士協会:平成23年3月30日)
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/kaichou-tuucho-1-20110330.pdf
(解説)
東洋経済
日本公認会計士協会が東日本大震災に絡んで今年最初の「会長通牒」を発出
http://www.toyokeizai.net/money/markett2/detail/AC/c58114531fc93add05f2d284c4ace18e/page/1/
会計業界をユーザーフレンドリーに!
JICPA会長通牒「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」
http://blog.livedoor.jp/ohhara_cpa/archives/51809290.html
twitter@ASKLearn
投稿: ASK | 2011年3月30日 (水) 19時51分
ASKさん、はじめまして。いつもブログを閲覧いただき、ありがとうございます。また、ASKさんのブログも拝見させていただきました。東京電力の件、そちらで展開されている内容も現在進行形のお話なのでおもしろいですね。
「思い込み・・」の本は、ひさびさに私の琴線に触れた一冊でした。こんなことを考えておられる会計士さんとかいないのかな・・・と思っていたところに、ドンピシャの御見解だったので。やはり「画期的」でしたか?
林總先生の本も好きなのですが、また一味違ったところがあるように思います。
投稿: toshi | 2011年4月 1日 (金) 18時59分