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2011年4月30日 (土)

詳説 不正調査の法律問題

本日の日経WEB「みずほ銀障害 なぜ大規模に 経営陣『勇気』欠く」は、調査報告書を読むようで、非常に興味深い記事です。きちんとした事実認定ができないと、深い原因究明に説得力が出ないと言われますが、こうやってプロセスを丹念に遡りますと、有効な再発防止策に向けて建設的な議論ができそうであります。

Huseityousahouritu さて、書店に並んだらすぐに読みたい、と思っておりました新刊書、GW初日を利用して一気に拝読させていただきました(230頁程度)。文句なし、上場会社等の総務、法務、内部監査等に携わっておられる方々へおススメの一冊であります。

「詳説 不正調査の法律問題」(小林総合法律事務所編 弘文堂 2200円税別)

NHK監査委員等を務めておられる小林英明弁護士ほか、日ごろ不正調査業務に携わっておられる小林総合法律事務所の弁護士の方々による不正調査マニュアルであります。題名は「法律問題」とありますが、とくに法律専門職が検討すべき理論とか実務、というよりも、実際に不祥事が発生した場合に、企業がどのように「自浄能力」を発揮して、降りかかっている危機から脱するか、という危機管理を指南することに重点が置かれています。もちろん、我々のように社内調査委員会を支援したり、第三者委員会の委員に就任した際の調査にも非常に参考になり、示唆に富むものであります。とくに、調査主体となる社員にとっては、調査を進めるにあたって「後押し」してくれる内容が豊富です。

どのように「後押し」してくれるかといいますと、まず不正調査に関連する判例が非常に豊富に引用されている、ということです。我々も調査のときに「こういった場面で先例となるような判例はないものか」と思案することが多いのですが、私も今まで気づかなかった多くの判例が紹介されており、これはとても参考になります。次に、不正調査の方法ですが、さすが検察官ご出身の執筆者の方がいらっしゃるので、「不正調査の謙抑主義」が貫徹されています。強制力行使の「おそろしさ」を実際に経験されておられるので、調査対象側の行動に対しての「人権配慮」が行き届いており、企業側が不正調査の失敗によって逆に負担してしまうリスクへの配慮が参考になります(つまり、この程度であれば、調査を続行しても大丈夫・・・という線引きが明確)。

また、不正調査の実務経験に基づく執筆だけあって、筆者の自信に満ち溢れた解説が印象的であります。したがって、たとえば日弁連第三者委員会ガイドラインの考え方には賛同しない、と明確に記されている個所が複数あり、また日本監査役協会「監査役監査基準」における監査役と第三者委員会との関係に関する見解とも明確に異なる意見が明示されています(たとえば不正調査における対象社員へのリーニエンシーの考え方など、なかなか説得的でおもしろい)。どこかの書籍から引用したものではなく、230頁、全編ほぼオリジナルな意見が詰まっておりますので、読んでいてまったく飽きさせないものでした。長期に亘る不正行為はどこまで遡るべきか、監査役監査と不正調査の関係は、ヒアリングの対象者から「録音させてほしい」と言われたときの対応は、社内調査は誰がヒアリングするのが望ましいか、いつ対象者を呼び出すか、調査期間中別の不正が発見されたらどうすべきか、認定した事実が後で間違っていた、とわかったらどうすべきか等、これまでのマニュアルよりも相当程度突っ込んだ解説がなされております。

私的に最も収穫だったのは、第三者委員や社内調査委員会支援において、最初に代表者に対して、「なぜ社員や他の役員に調査全面協力要請をかけてもらわないと会社が困るのか」その説明理由が理解できたところです。これまでのマニュアルでは、社長の一声が調査を円滑にする、というところまでは書かれているのですが、ではどうやって社長を説得するのか、というところまではヒントすらありませんでした。この本にはそのヒントがいくつか示されております。

ただ、良い点ばかり書いてしまいますと、「ちょうちん書評」になってしまいますので、物足りないと感じた点を少々。ひとつは、社員の不正調査については非常に分厚い内容でありますが、私が一番悩んでおります経営トップの不正調査については、すこし薄いかなぁと。内部通報窓口業務をやっておりますと、そのまま調査業務に移行する場合もあり、専務の不正問題や学校法人の理事クラスの大学教授の不正調査など、いわば経営トップへの調査を敢行しなければならない場面があります。また子会社のトップの不正問題などについても悩みが多いです。こういったケースは企業の危機でありまして、社内調査がなかなか機能しないのでありますが、監査役や代表者(理事長)を中心として危機を脱した場面もございますので、それなりにノウハウを語ることはできるのではないか、と。もうひとつは、やはり「異常な兆候」に関連する課題についても触れていただきたかったと。内部通報等、不正の端緒についての解説もありますが、受け身で対応するだけでなく、CAATの活用など、不正の端緒を積極的に見つけ出すことも「不正調査」の範疇に含まれるのではないか、と考えております。ただこれは、クライシスマネジメントというよりも、リスク管理のひとつなので、あえてはずしておられるのかもしれませんが。

「自浄能力」から出発するか、「有事のCSR」からスタートするか、不祥事に直面した企業の対応は様々であります。いずれにしましても、不正調査を中心に据えた本が伝統ある法律出版社から出された、ということの意義は大きいと思います。私自身も、これから本業におきまして、何度も精読させていただき、参考にさせていただきます。

4月 30, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月29日 (金)

有事の株主総会参考書類WEB開示に関する素朴な疑問

経済産業省が「当面の株主総会に関するガイドライン」を公表しておられます。そういえば日経新聞の4月15日付にて経産省の課長さんによるインタビュー記事が掲載されていましたね。3月決算会社の株主総会のご準備にはたいへん参考になるところかと思われます。

震災の影響により、紙の消費も控えたほうが良い、といったことで株主総会参考書類の株主への交付について、定款にWEB開示に関する規定を置く会社についてはWEB開示制度(会社法規則94条1項)が推奨されるそうであります。3月決算の上場会社の場合、約9割ほどの会社が定款でWEB開示を可能とする規定を置いているそうですが、実際に活用しておられる会社はごくわずか、というのが現実であります。(ちなみにWEB修正とWEB開示は異なります-念のため)

以下、上記ガイドランからの引用

2 考え方
現行法を前提としても、定款にウェブ開示の定めがある会社においては、ウェブ開示ができる事項についてはウェブサイト上での提供を行い、また、その他の会社においても必要以上の冊子を印刷しないことなどにより、印刷物の量を減らすことが可能と考えられる
3 ガイドライン
ウェブ開示について定款に定めのある会社は、株主の理解と協力を求めつつ、株主向け印刷物を削減することを検討することが考えられる

ネット環境等について、私は素人なもので、これは素朴な疑問なのですが、WEB開示というのは震災のような有事には耐久性が強いものなのでしょうか。WEB開示も、電子公告と同様、一定期間、継続してインターネット上で開示されていなければならないわけですが(会社法規則94条1項)、たとえば震災でサーバーが停止したり、被災者がネットにアクセスできない、という事態は考えられないのでしょうか。

ちなみに、江頭先生の「株式会社法」では、

電子公告と異なり、(WEB開示制度の場合は)開示の中断等の効果については定めはなく、法的瑕疵については実質的に判断される(第1版315頁)

とありますので、やはり継続開示に関する問題点、というものはありそうです。また、こういった法的瑕疵について株主が争った場合に、継続的に開示されていたことを、会社側がどうやって証明するのでしょうか。この証明方法は、計画停電によって左右されるようなことはないのでしょうか?(とりあえず株主の皆様には、証券取引所の招集通知PDFをみておいてください、といった注意喚起で足りるのかな?)このあたり、思いつきのために、私もよくわからないのですが、リーガルリスクについて若干の不安を抱きました。

4月 29, 2011 株主総会関連 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年4月28日 (木)

被災地支援特別講演・満員御礼(ありがとうございます

サイドバーにも掲載しております「東日本震災支援特別講演」(5月18日国際会議場8階)のお知らせです。本日現在、お申込みが定員30名を超えました(現在31名)。とくに当ブログをご覧の皆様方におかれましては、総務、経理、法務等関係者の方が多く、一番お忙しい時期ではないかと拝察いたしますが、お越しいただくこと、厚く感謝申し上げます。

会議場側と協議しましたところ、あまり窮屈感を出すことなく、机の並べ方であと5名ほどはなんとかお入りになれるようですので、もしこれからでも「聞いてみよう」とお考えの方がいらっしゃいましたら、なんとかします(笑)。

4月 28, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

ダイバーシティ-株主総会想定問答と「もうひとつの意味」

今朝(2011年4月28日)の朝日新聞の広告を読みながら、妻が驚く

「えぇ~!? もう信じられな~い! 祐ちゃんたら、まったくもう・・・・・。」(ちなみに、うちの妻は純粋な東京人でして、いまだに関西弁は一切話しません)

「私を抱いた祐ちゃんへ(ラブホテル写真付き)」(女性セブン)、とのこと。

内部通報の窓口や、内部告発代理人の仕事をしておりますと、こういったことはよくありますので、とくに珍しいものでもなく、私からしますと、「あらら、斎藤選手もやってしまったのね。若いし、独身なんだから。」程度のことなのですが、やはり女性ファンからすれば非常に厳しい評価が下されることになるのかもしれません。また、女性へのパッシングもあるかもしれません。(ちなみに私は本記事を読んでおりません)

私もセクハラやパワハラに関する女性の通報などを受け付けるたびに、どうしても「こんなの通報して彼女に何の得になるのか」「ひょっとして裏で取引があるんとちゃうか」とか「もともと交際していたけど、専務のほうが別の社員に手をだした はらいせ かな?」「派閥争いに彼女は利用されているのかな」などと動機を推測してしまいます。しかし、そうでもなさそう。

「自分の人生に区切りをつける」「同じ空気を吸いたくない」「強く生きていくための踏み絵みたいなもの」・・・・・・、よくわからないのですが、ともかく男性の頭では理解しにくい動機や理由が、社内における処罰を強く求める意識の根源にあるようです。どう考えても、私の頭では理解できないのですが、先の例のごとく、マスコミに面白おかしく(誇張表現も含めて)いろいろと書かれるよりは、社内でなんとか対処してすますほうが、企業としても信用を落とさないわけでして、リスク管理ということで一生懸命社内調査を行います。

美容整形医師の代理人業務などをしていても、同様のことを感じます。施術ミスに関する損害賠償事件の示談交渉などにおいて、男性の被害者には通用しないフレーズでも、女性の被害者には通用するのが

「あなたのような被害が二度とこのクリニックで起こらないように、あなたご自身の力を貸してください!あなたの手で、このクリニックを正しい方向に変えてください!」

なんで被害者である私が、お人よしにそんなことしなきゃならないの?と言われそうにも思うのでありますが(私なら逆に腹が立ちます)、けっこう女性被害者には紛争に冷静に対応していただくきっかけになる言葉となるのであります。正直、男性である私には女性の気持ちが理解できません。

最近、会社におけるダイバーシティ(人種の多様化)、とりわけ女性役員登用問題が議論されるようになりました。株主総会で株主から「おたくの会社はなんで女性の取締役がいないのか」と問われた場合の理想的な回答なども、想定問答集に記載されておりますね。たとえば日経ニュースで、西川善文氏が述べておられるところが、もっとも模範的なところではないかと。

役員や社員の多様性は、経営にとって最も重要な消費者ニーズの把握と深い理解、新たなビジネスチャンスの創出につながるものであります。この意識を全社に浸透させることが、ダイバーシティ経営を強力に進める上で重要と認識しております。いまはまだ役員にふさわしい女性が育ちつつある段階でして、今後の重要な検討課題と考えております。

たぶん、これで回答としては十分ではないかと。

しかし、ダイバーシティの本当の意味は、お互いにわかりあえない人間が集まって、わかり合えるための努力をする、もしくはわかりあえない者どうしでも、すくなくとも会社経営のレベルにおいては合意形成を行う、ということにあるのではないかと。「あ、うん」の呼吸程度であれば、女性役員でも十分に理解してもらえます。しかし、業界事情に精通しておられる女性の社外取締役の方でも、いざコンプライアンスに関する対処など、企業経営の根源にかかわる部分は「あ、うん」では済ますことができない。とくに取締役の利益相反にかかわる問題などについては、けっこう面白い見解が飛び出したりするケースもあります。「男と女は、おたがいにどんなにわかりあおうとしてもわかりあえないミゾがある」ということを認識したうえで、経営にあたることの認識、ということこそ、ダイバーシティの真意ではないでしょうか(もちろん、これを是とするか非とするかは別として)。

4月 28, 2011 株主総会関連 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月27日 (水)

震災ボランティアで実刑判決➔執行猶予判決

本日はとくにビジネス法務とは関係ございませんが、思わず目にとまったニュース。

震災ボランティアで温情判決 大麻取締法違反の男(産経ニュース)

大麻取締法違反被告事件で一審1年6月の実刑判決ということですから、情状は、あまりよろしくなかったのかもしれません(追記:今朝の読売ニュースによると、所持していた大麻の量がかなり多かったとか)。高裁審理中の保釈期間に震災が発生し、被災地へ出向いてボランティア活動を行い、これが評価され、高裁では実刑→執行猶予判決に変更されたそうです。直接判決を読んだわけではございませんので、そもそも量刑不相当と判断し、ボランティアをやったことが付記されたのか、ボランティア活動が本当に判断の重要なポイントだったのかはわかりませんが・・・・・

いろいろとご意見が分かれそうな判決ですね。いま保釈中の刑事被告人の弁護人は、どうしますかね・・・・・・ 「真のボランティア精神に基づいた行動」が今後増えるのでしょうか。。。

4月 27, 2011 刑事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月26日 (火)

韓国の上場企業にコンプライアンス・オフィサーの制度化決定

昨年10月の「街場のコーポレート・ガバナンス改正素案」なるエントリーにて若干ご紹介いたしましたが、お隣韓国の会社法改正におきまして、一定規模の上場会社に対して遵法支援人(遵法監視人-いわゆるコンプライアンス・オフィサー)制度が導入されることが決定したそうであります。すでに国会で可決され、制度施行は来年(2012年4月)だそうであります。これまでも金融機関においては義務付けられていたのですが、今回の法改正により、大規模な上場会社にも制度が義務付けられました。改正会社法では、一定規模以上の上場会社に対して、遵法支援人を1名以上置くようになります(常設だそうです)。遵法支援人の資格要件としては、弁護士、法科大学院教授等の法律専門家となっています。

遵法支援人制度の詳細はまだわかりませんが、これまでの金融機関における遵法監査人制度は、2000年に銀行法23条の3第2項、資本市場と金融投資業に関する法律第28条2項に基づいて制度化され、金融機関の取締役会によって任免されます。資格要件としては、実務経験を5年以上有する弁護士、会計士、研究員として5年以上の経験を有する大学の教授等となっており、職務の独立性を維持するため、金融機関における業務上の地位の独立性が確保されていることを要するものとされております。遵法監視人は、当該金融機関が内部統制基準を遵守しているか否かを調査し、内部統制基準に反するものと認める場合には、これを監査委員会または監査役に報告する義務を負っています。

従来、金融機関の持株会社には遵法監視人の設置は義務付けられていませんでしたが、2010年2月より、同持株会社にも設置が義務付けられるようになりました。(金融持株会社法第41条の5第2項)持株会社の遵法監視人の要請があれば、同会社および子会社の役員は、資料や情報を同人に提供する義務を負います。なお、サムソン電子など、一部の一般事業会社においては、すでに任意に遵法監視人を設置しています。

ただ、東亜日報など韓国マスコミのニュースを読みますと、弁護士資格を持つ国会議員の強い圧力によって制度化されたようで、「弁護士の雇用を1000以上増やすことは確実で、弁護士の食いぶちを確保するための制度ではないか」といった評価も強いようです。おそらく制度の詳細は今後国民の意見なども参考にして決定されるのではないでしょうか。わが国においても、「会計参与」に近い形で、監査役もしくは社外取締役を補佐して、内部統制システムの相当性に関する意見形成に寄与する、という形でのコンプライアンス・オフィサーもありうるかもしれません。とりわけ、この4月の日本監査役協会「監査役監査基準」の改訂にあたって、ひとつの目玉として「弁護士への意見聴取」(同基準第3条5項)が新設されております。ここでは外部の専門家ということですから、韓国の遵法支援人とは異なりますが、独立公正な立場でコンプライアンス支援に寄与するという点では共通するところがあります。

当ブログでも「この資格はとる意味がどこにあるのか?」と強く疑問視しておりました「企業財務会計士」制度の導入が見送られることになったようですが、おそらく日本でも、コンプライアンス・オフィサー制度は「弁護士の職域拡大的なもの」として、いろいろと批判の的になるかもしれません。ただ、たとえば上場ルールにおきまして、内部管理体制に問題ありとして、特設注意市場銘柄に指定された上場会社において、同銘柄指定期間中にはコンプライアンス・オフィサーの設置を義務付ける、といったあたりから導入することは検討に値するかもしれません。いずれにせよ「制度化」は、ある程度実効性のあるものとして、立法事実を積み上げる必要がありますし、またはたして「こんなコワイ立場は引き受けたくない」として、就任を希望する法律専門家がどれだけいるか(需要を満たすだけの供給はあるのか)は未知数だと思われます。今後の韓国での同制度の施行状況を楽しみにしております。

4月 26, 2011 コンプライアンス体制の構築と社外監査役の役割 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年4月25日 (月)

非常時のリーガル・マインド(超法規的措置とその限界)

法律雑誌ビジネス・ロー・ジャーナルの最新号(2011年6月号)は「震災法務」の特集号ということで、とりわけ企業法務の観点から参考にさせていただいております。ところで、本号の巻頭(インサイド・ストーリー)に(ときどきお会いする)日経新聞編集委員の三宅伸吾氏による「非常時のリーガル・マインド」なる小稿が掲載されております。

内容は松田公太参議院議員(タリーズコーヒージャパン創業者)が震災2日目に被災地に救援物資を届けようとしたところ、がんじがらめの行政規制によって空輸ができなかったこと、その後国交省が超法規的措置を例外的に認める対応をとったことを題材に、厳しい状況におけるリーガル・マインド(非常時のリーガル・マインド)について書かれたものであります。私利私欲に基づかず、緊急事態において行政法規に形式的に反してでも国民の生命、身体、財産を守る行動については、「正義」に適うかぎり、これを超法規的措置として許容しうること、そしてそのことを法律家が権威付けることの必要性について、私は三宅氏の意見に大いに賛同するところであります。そして、私は非常時のリーガル・マインドは行政対応だけでなく、民々の問題を処理するケースにおいても要求されるのではないか、と思うのであります。

4月11日の日経朝刊「法務インサイド」にて「訴訟でも震災の特殊事情が考慮され、平常時のルールがしゃくし定規に適用されるわけではない」と、私のコメントを掲載していただきましたが、たとえ訴訟に至らなくても、緊急時には行政、企業そして個人一人ひとりが法的判断を迫られるのであり、安全確保のために様々なルールが障害になってしまっては正義に反する結果となるのであります。たしかに平時であれば「法令遵守」の精神によって許容されないような事態であったとしても、有事となればあえて「法令に形式的に反する行動」が許容されうることは、おそらく国民の一般常識としても理解されるのではないでしょうか。

ただ、「超法規的措置を許容する」といいましても、弱肉強食の世界を許容するような解釈はとりえないことは肝に銘じるべきであります。たとえば罹災借地借家法(罹災都市借地借家臨時処理法-現在見直しの必要性が言われておりますが)の存在であります。これは私利私欲の世界であっても、緊急時には超法規的措置(民法、借地借家法の例外的措置)が許容されることの根拠となるでしょうが、なぜ平時のルールからすれば権利が消滅したり、対抗要件が失われたりするにもかかわらず、これを有事に保護するかといえば、緊急時における力の支配を許さず、後日の平和的解決の道を確保するためであります(文化国家における最低限度の法の支配)。

したがいまして、超法規的措置が許容される根拠としましても、私は「正義」というものを、そのまま用いることにはやや懐疑的です。「正義」という言葉は、非常に主観的、相対的、配分的なものであり、法の世界では自らの主張を正当化するために、いかようにも活用可能な言葉だからであります。企業や個人が超法規的措置の正当性を「正義」に求めることはいたしかたないとしても、せめて法律家は、先の罹災借地借家法ではありませんが、法的な根拠付けは必要ではないか、と考えます。たとえば被災者の自力救済や既存の法律上の地位確保のための対応につきまして、民法上の正当防衛や緊急避難に関する法理、許された危険の法理、推定的承諾の法理、継続的契約による信頼関係理論、そして最後は権利濫用(信義則)を活用して、その正当性を根拠付ける努力を法律家はすべきではないかと考えます。←すいません、私はこの程度しか思いつきませんでした。。。

超法規的措置は「無法地帯」を許容するものではありませんので、その点は厳に心得ておくべきではありますが、被災者、被災企業の緊急時の対応を後押しするような常識的な判断こそ、われわれが支援する際に最大限留意すべきことではないかと、先の三宅氏の論稿を拝読し、感銘を受けた次第であります(こういったことを、社会に影響力のある方が、もっと問題提起していただきたいです)。

4月 25, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (2) | トラックバック (1)

2011年4月22日 (金)

BCP(事業継続計画)と役員の法的責任

タイトルほど中身のあることではありませんが、最近「想定外」とか「不可抗力」とか、多くの企業で自社の震災被害について語られていますが、将来的にこれは株式会社の取締役等の責任問題とはどのような関係に立つのでしょうか?

あずさ監査法人さんが4月18日にリリースしたBCPに関する企業への調査結果(サンプルはセミナーに来られた企業122社だそうです)によりますと、地震対応のBCPを全く策定していなかった企業が35%、首都圏での地震を想定したBCPを策定していなかった企業は65%であった、とのこと。BCP(事業継続計画)をきちんと策定し、緊急時を想定したトレーニングを積んでいる企業のほうが「想定外」とか「予期せぬ出来事」といった範囲が狭くなることは間違いないと思います(そのために訓練するわけですから当然かと)。

事業を継続できるようきちんとプランを立てておくことは、企業価値にかかわる問題ですので、役員の責任問題等は二の次であることは承知しておりますが、しかしBCPをきちんと策定している企業の役員の方が債務不履行(「不可抗力」とはいえない債務者の責めに帰すべき履行不能→企業損害について株主代表訴訟のおそれがある)や不法行為(企業の被害等について予見可能性がある→過失)が認められやすくなる、ということになりますと、BCPを推進するインセンティブが薄れてしまうのではないでしょうか?

パロマ工業刑事事件判決でも、内部統制をきちんと構築している会社の社長さんのほうが、情報が正しく集約できるので、不作為の過失が認められやすい結果となるのはおかしいのではないか、と思いましたが、BCPについても、同様の状況が発生するのでしょうか?BCPを策定していながら有事に対応がまずかった場合には責任が発生して、なにも策定していなかったほうが「不可抗力」「予見可能性なし」といったことで免責される、というのも、なんか常識的に考えておかしいように思うのでありますが。

昨年、最高裁判決が出ました日航管制官ニアミス事件でも、ニアミスが発生した際、管制官が居眠りをしていたならば刑事責任を問われないのに、あわてて便数を言い間違えたために刑事責任を問われた、というケースもあり、このあたりはよく考えておいたほうがよろしいのではないかと思います。

まだ考え始めたばかりの問題ですので、どこかで誤解があるかもしれませんが、今後どこの企業もBCPについては速やかに検討されると思います。BCPに関わる役員の法律的な問題をどなたかがきちんと整理して解説していただければいいなぁと。

4月 22, 2011 パンデミック対策と法律問題 | | コメント (1) | トラックバック (1)

2011年4月21日 (木)

被災地法律相談(未成年後見制度と養子縁組の相談は?)

日弁連から「東日本震災法律相談Q&A」が公表されておりまして、毎日のように内容が更新されており(本日現在194問のQ&A)、自身の参考にしようと考えております。

なかには電話相談向けのちょっとマニアックな質問も列記されているようですが、子供たちの生活を守るための質問があまり見当たらないのですが、だいじょうぶなのでしょうか。たとえば未成年後見制度や養子縁組制度に関する質問などは、たとえ質問がでなくても、相談者の心のケアのひとつとして、親切に教えてあげなければならない必須の事項だと思います。親権者が死亡したり、行方不明の状況が続いているようなケース、親権者が子供の監護をできない状況にある場合など、普通に想定できるのですが。

東北地方の復興を担うのはまず子供たちであり、その権利関係を緊急時にどのように守るのか、そのあたりの緊急の方策について、どのように答えてあげればよいのか、自力で調べておかねばならないようです。

4月 21, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

企業不正の早期発見(全体把握と現場認識)

東電事故に関する「原子力損害賠償紛争審査会」会長の方が、避難・屋内退避を余儀なくされた住民の方々の精神的苦痛(いわゆる慰謝料)についても補償の範囲内として、仮払いの対象とする方針を示したそうであります。事業者損害や風評損害なども基本的には含まれるようですが、これまでの慣例では精神的損害は賠償の範囲外だったので、この報道にはビックリいたしました。実際に交通事故などでは、慰謝料金額算定のガイドラインが活用されておりますので、こういった仮払いのガイドラインも策定することは可能ではないかと思われます。すでに被災地の事業者の方が、東電を相手方とする仮払い仮処分命令の申立てを裁判所に提起しておられるようですから、司法救済と行政上の救済との混乱が懸念されましたが、こういった方針が明確になれば、当面の混乱は回避されるのではないでしょうか(もちろん、損害は個々の市民・事業者によって異なりますので、最終的な損害確定は司法の役割ではありますが)。また、こういった巨大賠償責任追及によって弁護士の仕事が増える、という事態も回避され、これはよい傾向ではないかと(少なくとも私は)思っております(電力供給契約違反の責任追及という巨大賠償責任追及の可能性はあるかもしれません)。

さて本題でありますが、4月10日のTBS「情熱大陸」は郵便不正事件における厚労省元局長や、強制起訴事件における小沢氏の弁護人を務める弘中惇一郎氏が出演されておりました。弘中氏の仕事ぶりが紹介されるなかで、感銘を受けましたことが2点ありました。

ひとつは弘中弁護士の「全体把握力」。元局長が身柄確保され、弘中氏は数日後に面会に行くのでありますが、事件の全体像を認識した段階で「これは冤罪だと確信した」とのこと。なぜ確信したかといいますと、検察の描いたストーリーは厚労省の組織ぐるみで「ニセの障害者団体証明書」を発行した(虚偽有印公文書作成・行使)、というものでありますが、本当に組織ぐるみだったら、「虚偽」ではなくて「本物」の証明書くらいすぐ作成できるだろう・・・というものでした。

なるほど、たしかにそう言われてみればそのとおりです。厚労省が組織ぐるみで政治家に便宜を図るのであれば、目的はどうであれ本物の障害者団体証明書を作ることができるわけでして、なにもわざわざ「虚偽の」証明書を作る必要はない、というわけであります。マスコミや検察からの事件公表によって、「ニセの証明書を作った」という点をほとんどの国民は疑わなかったのでありますが、この冤罪確信が弘中弁護士を「無罪弁護」へ駆り立てた大きな要因だったそうであります。番組の中では、こういった弘中氏の指摘がマスコミで早期に取り上げられなかったことが疑問視されていました。

そしてもうひとつは「現場認識力」。これは我々、ごく普通の弁護士も先輩からよく指導されておりましたが、どんなに争いのない事実であったとしても、かならず事件が発生した現場や、共謀があったとされる現場などを自分の目で確かめる、とのこと。弁護士にとって一番必要なのは「想像力」と番組の中で弘中弁護士が述べておられましたが、現場をみることで想像力を発揮することができる。マスコミの報道から受けていたイメージとは全く異なる現場の様子が認識され、また現場に立つと、事件の本筋がイメージとして湧いてくるそうであります。これによってマスコミ報道や権威者の解説にまどわされずに真実を発見することが可能と述べておられました。

最近、不正の早期発見スキームについて検討することが多くなりましたが、不正の前触れとなります「異常な兆候」は、なかなか定例の監査等で発見できるものではなく、非定例の深度ある監査(調査)によって初めて発見されるものであります。しかし、この深度ある監査(調査)というものは、非常に手間暇がかかる作業でありまして、これを継続するためにはそれなりのモチベーションが必要になってきます。このモチベーションを維持するために必要なのが全体把握力であり、また現場認識力ではないかと。また、こういったものを第三者に説明し、納得してもらえなければ不正発見のための調査に協力してもらえないのが現実であります。

こういった「全体把握力」や「現場認識力」は一朝一夕に身に着くものでもないでしょうし、弘中弁護士がインタビューで答えておられたように「僕はすぐに依頼者のことを好きになってしまうんですよ」といった個人の性格に依拠するものなのかもしれません。ただ企業不正の発見に関して言えば、社内の常識にとらわれてしまっては、これを疑う心を持ちえないために、「全体把握」は困難ではないかと思います。社外の目を取り入れることで、はじめて異常な兆候が見えてくる、ということもあるのではないでしょうか。

4月 21, 2011 企業不正のトライアングル | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月20日 (水)

被災地法律相談の日程が確定

さきほど大阪弁護士会から連絡があり、5月下旬に被災地法律相談に行くことが確定いたしました。釜石、大船渡、陸前高田等の避難所だそうです(どこの避難所へ出向くかは当日の朝でないと判明しないとのこと)。スケジュールがものすごくハードですが、被災地の方々や担当弁護士会の方々のことを思えば「あたりまえ」であり、むしろ体調を万全に整えておくことが一番大切なことですね。相談者の方々にお役に立てることだけでなく、現地の相談内容を集約・伝達して、立法政策等に寄与できるよう頑張りたいと思います。

昨日も2時間半ほど、2弁と日弁共催の被災地労働相談、生活相談の研修を受講しておりましたが(ライブのユーストリームという便利なツールがあるのですね)、労働事件の経験がないので(泣)、勉強しないとちょっと不安であります・・・・。普段着に運動靴とマスク姿で2名の弁護士が担当する、ということですが、阪神のときにもいろいろと混乱がありましたのでどんな状況になるかわかりませんが、早く現場の雰囲気に溶け込もうかと。。。

大阪弁護士会の名誉のために申し上げますが、このたびの岩手県弁護士会からの要請に対して、非常に多くの若手弁護士の方々が手を挙げておられたのですが、阪神淡路のときの経験なども配慮して、担当者が決まったような経緯もあるようです。自ら相談に行きたいと手を挙げておられた先生方の気持ちも持っていきますね(^^。また、私が向かいます岩手の対策本部のまとめ役の方も札幌弁護士会の方なんですね。現地の弁護士の方々も手一杯のご様子で、有事の法律相談の様子がうかがわれます。

さて、ゴールデンウィーク期間中は、東京3会のたくさんの弁護士の方々が、仙台弁護士会等と合同で宮城県約50か所の避難所で法律相談を開催されるそうです(交通費、宿泊費ほか現地での費用はすべて自己負担とか)。行かれた方、また情報を教えていただければ幸いです。

4月 20, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月19日 (火)

会計訴訟に耐えうるIFRS原則主義とは?

私が会員になっております全国社外取締役ネットワークの季刊誌(最新号)に、ビジネスブレイン太田昭和 会計システム研究所所長の方の講演録「包括利益が求める株主重視経営」が掲載されておりました。昨年この方の書かれた「包括利益経営」という本を読んでおりましたので、早速該当箇所を読み進めました。さすがIFRS最前線でコンサルティングをされておられるだけあって、海外の最新事情も含めたいへん興味深く拝読させていただきました。

米国もSOX法施行以来、原則主義に傾斜しているそうですが、なかでも(あくまでも講演者の私見とのことですが)会計不正と原則主義との関係については大きな課題となっているそうであります。細則主義のもとにおける会計訴訟の場合、被告側は「俺はこういったルールにのっとって、こういった処理をしたのだから免責されるのだ」といった抗弁を出していたものが、果たして原則主義のもとではどういった訴訟となるのか、訴える側も、訴えられる側も、今後どう対応すべきか悩んでいる、とのこと。「自分のところで決めたルールなんだろう」と言われて、果たして会社も監査人も法的責任を免れるのか?といった問題が、おそらく今後は避けて通れない論点になるようであります。

日本でも同様の課題はあるかもしれませんね。2回程度ではありますが、過去に監査見逃し責任訴訟の代理人をやった経験からしますと、粉飾決算事件の責任を追及する目的で「本来ならば○○であるにもかかわらず、▽▽なる会計処理を行った」という主張を検察官や民事事件原告が立てる場合、この「本来ならば○○であるにもかかわらず」という点が、理屈の点からみて、それほど一義的に明確ではないことが多いように思います。私もこの規範定立自体が自明のものではない、として争った経験があります。この規範定立は、事件が大きくマスコミ等で取り上げられた後、別の監査法人(フォレンジック部隊)が「後付で」測定した報告を根拠としているものであり、行為当時はそのような規範定立は一義的には困難な状況にあったと主張しました。

現行の会計基準を前提としても、会計訴訟における争い方に問題点があるわけです。ましてやIFRSの原則主義による演繹的な会計ルールの定立が問題となるケースでは、なおさら「本来ならば○○であるにもかかわらず」の部分が、被告もしくは被告人にとって異議を出されやすい場面になるのではないでしょうか。つまり会計訴訟は増える可能性が高いにもかかわらず、実際に司法の場で不正会計の事実が認定されるケースは少なくなるのではないか、と。このあたりは「法と会計の狭間の問題」として、以前から漠然とは思い浮かべていたのでありますが、専門家の方によって紹介された米国事情を見聞しますと、やはり同様の問題はいずれ日本でも話題になるものと認識いたしました。(とりいそぎ備忘録程度にて失礼いたします)

4月 19, 2011 IFRS関連 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2011年4月18日 (月)

㈱大水社の内部統制システムは進化したか(二度目の不適切取引の発覚)

4月16日、魚類販売の株式会社大水社(大証2部)が不適切な取引に関するお知らせ と題するリリースを公表しており、元製品課長主導による架空循環取引が平成17年ころから行われていたことが発覚した、とのことであります。内部統制実務に詳しい方であればご存じかもしれませんが、同社は平成20年11月にも「業績に影響を与える事象の発生について」と題するリリースにて、同社元部長主導による架空循環取引が発覚し、過年度の決算訂正を行っております(ちなみに同社の平成21年3月期の内部統制報告書は「重要な欠陥あり」として有効ではない、との結論)。こうやって、ほぼ同様の事件が再び発覚したとなりますと、同社の内部統制についてはまったく改善されていないのではないか、との見方もできそうです。ただ、今回のリリースを読みますと、前回の不適切な取引の発覚と、今回のものとは、少し様相が異なることがわかります。

前回の架空循環取引に関する同社平成21年2月17日付報告書によりますと、同社の架空循環取引は、外部第三者(取引先)からの問い合わせによって不正が発覚したものでありますが、今回の事件は内部監査室による監査をきっかけとして不正が発覚しております。私がよく申し上げるところの「異常な兆候」を内部監査室が発見し、これを契機として社内調査委員会が発足し、本格的な調査の末、サバとサンマの取引における架空循環取引の事実を認定した、というものであります。「仕入代金の支払決済サイトが、取引先との合意ルールよりも短い事象が、不規則かつ頻繁に発生していた」ことを不審に思った内部監査室の報告が発覚の端緒となっており、帳合取引と架空循環取引との区別が容易ではない水産業界において、これは同社の自浄能力がうまく発揮された一例ではないかと思われます。

たしかに同社は、現時点でも大証より(内部管理態勢に問題あり、として)「特別注意市場銘柄」に指定されているわけですから、他社と比較しても十分な内部統制が整備・運用されているわけではないのかもしれません。また、前回の架空循環取引が発覚した時点で、なぜ今回の件についても調査で発見できなかったのか、といった批判も出てくるかもしれません。しかし平成21年3月に、大手の日本水産株式会社から経営支援を受けるようになり(具体的には過半数の取締役がニッスイさんから派遣されて、経営管理が開始されることになる)、また前回の事件における外部第三者委員会の指摘どおりに、内部監査室の実効性を高めたことで、たとえ架空循環取引が発生するリスクが社内に存在し、実際にそういった取引が発生したとしても、これを早期に発見する能力が以前よりも高まっている、と評価されても良いのではないでしょうか。

これは中小上場会社のように、内部統制の整備運用のために、人的にも物的にも多くの負担をねん出できないところにおいて、たとえ不正のリスク(不備)が社内に存在しているとしても、リスクが現実化した時点において早期に発見できるモニタリングが具備されていることによって内部統制の有効性・効率性が高まるような一例ではないかと考えます。こういった事件が発覚すれば、J-SOX上ではふたたび「内部統制は有効とは言えない」といった評価を下さねばならないのかもしれませんが、本当に費用対効果に気を使いつつ財務報告の信頼性を高めるためには、不正(リスクと考えるならば「不備」)を早期に発見する体制作りこそ全社挙げて取り組むべきではないかと思います。早期に不正を発見できれば、「重要性」の観点から、過年度の決算訂正にまでは至らないで済むでしょうし、また報告を受けた経営者らにとって、不正を隠すのではなく公表するインセンティブが働くこととなります。

ただ、「早期に発見できるモニタリングが具備されている」ことの評価は意外とむずかしいのでありまして、セルフチェック部門や内部監査、監査役監査など、おかしいと気づいたときに、これを「おかしい」といえるだけの職場環境がなければ絵に描いた餅になってしまうおそれがあります。結局のところ、こういった職場環境は、担当役員や代表者自身が、不正リスクの低減に向けての意識を有しているか否か、にかかっているのが現実なのかもしれません。大水社の前記リリースによりますと、今後は社外に第三者委員会を設置して、詳細な事実関係の解明および再発防止策の検討などがなされる予定のようでありますが、委員の方々は、このあたりをどのように評価されるのか、今後の委員会報告書の内容に注目したいと思います。

4月 18, 2011 内部統制の費用対効果 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年4月16日 (土)

たくさんのコメントにお礼とおわび

ここ2週間ほどのエントリーに対しまして、多くのコメントをいただきまして、またコメント以上に多数のご意見メールもいただきました。新聞記者さんからのご質問も3件ほどいただいております。どれも目を通しているのですが、なにぶん本業のほうで忙しかったため、きちんとお返事ができておりません。お詫びすると同時に、また関連エントリーなどでご紹介させていただきたいと思っております。<m(__)m>

とくに社長解任劇のありましたサンコーさんのエントリー、そしてパルコ・イオン経営権争奪劇につきましては、反響が大きいです。サンコーさんのエントリーでは、たいへん興味深い内容のコメントをいくつかいただきましたが、残念ながらそのまま公開してしまうと関係者の名誉や信用毀損のおそれがありましたので、そのまま非公開とさせていただきました。コメントをお寄せいただいた方々、どうかご了承ください。

4月 16, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月15日 (金)

「社会の要請」と内部統制ルール(酔狂さんの疑問について)

3月23日のエントリー「郵便不正事件『証拠改竄-特捜検事の犯罪』を読んで」に対する酔狂さんとcpa-musicさんの議論を拝見し、興味を持ちましたので、酔狂さんの御質問をご紹介して私見を述べておきたいと思います。もちろん内部統制に詳しい専門家ということではなく、多少実務をかじった、あくまでも法律家的な立場からの意見です。酔狂さんのコメント部分から、ご質問部分を抜粋いたしますと、

本件の場合、守秘義務違反という組織の内部統制に反しても、検察最大の不祥事を暴くという「社会の要請」が貫徹されれば、「社会の要請」が優位に立つ、と理解しました。ところで、組織の内部統制と「社会の要請」は、こういう考え方で一般化できるのでしょうか。

この種の問題は、ここまで大きくなくても、日常業務ではよく起こります。かつて銀行の支店長をしていたとき、融資の決定権限が本部にある案件について、取引先からの融資依頼日に本部の承認が間に合わないとき、支店長として自信があれば、融資を実行していました。銀行の内部統制に反していることは明らかですが、それを護ることによって、取引先の資金繰りニーズに応えるという「社会の要請」と矛盾します。私は、迷うことなく「社会の要請」を優先していました。本部は、何日か遅れて承認していましたので、悪いのは、依頼日までに承認をしない本部の側にあると確信していました。本部サイドも、依頼日に間に合うように承認するという、少なくとも職業倫理に反していたことは明らかです。ところが組織の内部では、非難は本部には向かわず、支店長を一方的に悪者に仕立て上げます。今回の投稿には、こういう背景がありました。組織内でこうした矛盾が生じたとき、何が「正義」で、何が「悪い」のか、内部統制論としては、どのように考えるのでしょうか。ご教示をお願いします。

・・・・・・(中略)・・・しかしながら、言われるように、「社会の要請」と「会社のルール」は、トレードオフの関係にあることも多いとしますと、機動的な調整がなされない限り、内部統制は経営者の自己利益が主張されがちになり、社会からすると、内部統制の負の側面が濃厚に出てきます。本当にこれでいいのでしょうか。

ご指摘の通り、ルールを守ること、もしくは「社会の要請」に応えるルールに変更することが重要なことは当然ですが、この舵取りを如何に柔軟にするかが大きな問題と思えて仕方がありません。内部統制論では、そういう機動的な調整は、どのように検討されているのでしょうか。どなたか、ご教示をお願いします。

酔狂さんは、たしか大手都銀(まだ銀行名が変わる前)の基幹店舗の支店長も歴任された方です。酔狂さんが問題にされておられるのは、支店長として社内ルールに反してでも、支店長の独断で取引先への融資を行うことは、社会の要請に応えることであって「正義にかなう」、しかし社内稟議を経ずに融資を実行したことに対して、社内で悪者になるのは独断で融資を行った支店長であり、これは内部統制ルールが社内では「正義」とされているからではないか、そもそも「社会の要請」と「会社のルール」はトレードオフの関係にあることも多いのではないか、これをどう考えるべきか、といったあたりを問題にされておられます。

うーーーん、私は内部統制と「正義」というものは、あまり関係ないのではないか・・・・と考えております。

内部統制というのは、そもそも「切り口をどこに持ってくるか」ということで、語る人によって異なりますね。金商法を念頭に置けば開示のための内部統制報告制度を想定するでしょうし、株主や会社債権者、取引相手方といった関係者の利害調整を念頭におけば会社法上の内部統制(経営の自由度が高められた平成17年改正会社法下における取締役の善管注意義務)を想定するでしょうし、また企業の業績向上を目指す経営者を念頭に置けば経営管理の一種としての内部統制が想定されます。それぞれの目的がありますので、その目的達成のためのプロセス全般を「内部統制」とみるわけで、それぞれの目的達成のために有意であれば社会的な価値があるものと考えています。

もちろん「社会の要請」に応えるための内部統制、という意味では私も酔狂さんの考え方に同調するのですが、そもそも社会の要請と正義というものが一致するのかどうかは、よくわからないと思います。「正義」という言葉が行為時に客観的な物差しにはなりにくく、たとえば上の例でいえば、取引先の緊急の要請に応えることは「正義である」といえるのは、それが後日事故にならなかったからであって、緊急融資が後日再生債務者管財人から否認されるような事態になってしまえば、「正義」とは言えなくなってくるのではないでしょうか。「ほらみろ、だから社内ルールに従わなかった君が悪かったんだ」と言われても仕方がないということも、ありうるのではないかと。こう考えますと、内部統制に反する行為をとったことが正義に適う場面も、またおかしなルールだと感じながらもルールに従うことが正義に適う場面もありうるように思います。民事事件の代理人をやっておりますと、正義などというものは「絶対的なもの」ではなく、配分的なものであったり、相対的なものであったりするように感じます。

むしろ問題は、内部統制ルールを厳格に運用するあまり、内部統制を構築して得ようとしている企業価値(有意な目的の達成)をかえって毀損してしまうような事態にあるのではないでしょうか。たとえば内部統制報告制度(J-SOX)を運用するにあたって、財務報告内部統制の構築は、株主から負託された金銭を用いて行うわけですから、費用対効果に反することは許されないはずです。しかし、作業の確実な実行にばかり気を取られてルール遵守だけに配慮していると、とんでもない人的・物的資源の浪費につながる可能性があります。酔狂さんが指摘されておられるように、形式的にはルールに反していても、現場がフレキシブルに対応したほうが、取引先からは喜ばれ、社会の要請に応えることができることにもなります。そして現場のルール違反が社会の要請に反しているような運用があれば、これを「異常」として検出できる仕組みのほうに力点を置くシステムのほうが費用対効果という面からみても得策ではないかと思います。私はこれも内部統制のひとつだと考えています。

もし内部統制と正義の関連性を考えるとするならば、それは運用する側の倫理の問題ではないでしょうか。私は負の部分も正の部分もあると思いますし、内部統制システムを経営や法制度のなかで運用する者の心の問題ではないか、と考えますが、いかがなものでしょうか。

話は変わりますが、「郵便不正事件」といえば、4月10日の情熱大陸で弘中弁護士が出演されておりまして、「事件のつかみ」の鋭さに感嘆いたしました。事件の核心に迫っていくモチベーションを高めることや、裁判官を「なるほど」と説得させるためには、「事件のつかみ」がたいへん重要であることは私も同業者として理解しているところですが、弘中氏の「事件のつかみ」がインタビューのなかでうまく表現されており、たいへん参考になりました。これはまた興味深いので別のエントリーにてご紹介したいと思います。

4月 15, 2011 内部統制の費用対効果 | | コメント (13) | トラックバック (0)

2011年4月14日 (木)

被災地法律相談の心構え(有事であることの意識をもって)

(本日はビジネス法務とは関係がありませんので、あしからずご了承ください)

大阪弁護士会より、岩手県における被災地法律相談の割り当てがありましたので(避難所の統廃合によって変動があるかもしれませんが、私は5月末です)、さっそく相談担当弁護士の必須条件であります「震災時における法律相談」のe-ラーニングを受講いたしました。東京の弁護士会館で過日開催されたものですが、講師の森川弁護士、津久井弁護士(いずれも兵庫県弁護士会)の講義内容は素晴らしかった!まだ現在進行形で災害が続く状況のなか、避難所へ向かう弁護士にとって「有事の法律相談」であることの意識を昂揚させるものであります。

すでに仙台弁護士会の法律相談による相談事例なども紹介されましたが、自分の意識に不足していたものが3点あることに気づきました。

ひとつは、このような状況で被災地で行う法律相談は「多方面にわたる被災者のメンタルケアにおけるひとつの領域にすぎない」ということであります。偉そうに「法律相談ですよ」といった意識ではなく、足りない物資のひとつとして「リーガルサービス」を被災者の方々に提供する、といった意識を持たなければならない、ということ。すでに復興という状況で青空法律相談を行っていた阪神淡路の震災以上に、「生きることへの意欲」のために我々は専門的知識をもって支援しなければならないということです。

つぎに、実際に避難所の方々の相談内容を各弁護士が聴取し、これを弁護士会でとりまとめ、本当に必要な法政策を国に提言する、という目的があることです。現地においてどのような喫緊の問題があるかを整理して、これを司法制度のなかで提言するのか、それとも行政や立法のなかで解決してもらうのか、たしかに重大な課題であります。こういった役割を担ったことはこれまでありませんでしたが、このたびの被災地法律相談担当弁護士にとっては重要な役割であることを初めて知りました。

そしてもうひとつが、できるだけ早期に法律相談を行い、「現場における法律知識の浸透を図る」ことであります。法律的な解決ルールが被災者に周知徹底されることで、ずいぶんと無用な紛争が回避されるそうであります(これは阪神淡路の震災のときの、もっとも大きな経験智だったそうであります)。なるほど、こういった視点については、私もまったく認識しておりませんでした。

保険実務に関する知識も、きちんと勉強してから現地に向かいたいと思いますが、それよりも重要なのは、「背中を押してあげるための相談」なのか「二者選択に迷って専門家にすがる方に、明確な結論をさしあげるための相談」なのかを明らかにすることです。自分がすでに進むべき方向を決めているときに、これを法律的な側面から後押ししてほしいのか、それとも進むべき道がわからず、ともかく専門家の意見にすがろうとしておられるのかは、本当に現地でじっくり話を聞いてみなければわからないと思います。現場はおそらく想像を絶する状況にあると思いますし、欲するところによって、ケアの仕方も変わる、と思います。

「不可抗力」に関する講義のなかで、ふと思いましたが、阪神淡路の震災においては、現場に証拠は残っていたのです(たとえば「全壊」か「半壊」かが争われている事案において、後日検証すべき建物の一部は存在する)。しかし、このたびの震災は津波によって現場の状況がまったくわかならくなっている可能性が高いようです。私は、後日の紛争をできるだけ早期に解決できるよう、いまできる範囲での証拠の保存について、現地で少しばかりお話できたらなぁ・・・・・と思っております。

お知らせ

先週広報させていただきました5月18日の震災支援特別講演の件、現在27名の申込みがございます。あと3名様、ご応募できますので、よろしければメールにてお申込みくださいませ。

4月 14, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月13日 (水)

イオン社の事業提携・ガバナンス提案とパルコ社の「断固拒否」

(4月13日午後:追記あり)

毎度申し上げているところでありますが、私はM&A実務に詳しい弁護士ではございませんので、以下はあくまでも上場会社の社外役員という立場からみた素人的な感想でございます。

イオン社がパルコ社に対して事業提携提案とガバナンス提案を行い、パルコ社経営陣はこれを断固拒否している状況が続いております。パルコ社側は、従業員組合が現経営陣を支持する(つまり、イオンの事業提案に断固反対する)旨の意思を表明していたところ、本日、組合外の一般社員からも、事業提携案に反対する旨の表明書が提出されたそうであります。つまり、パルコがイオン化(事業提携→子会社化)してしまうことについて、パルコ社は全社あげて反対の意思表明を行った、ということのようであります。

サントリー・キリン統合劇のときにも申し上げましたが、私は①救済による場合、②国際競争力を向上させるような大義名分がある場合、もしくは③血も涙もないカリスマ創業社長が存在する場合以外で、従業員の反対が強いケースにおいて事業統合は成功しない、という信念を持っております。(たしかに、ときどき「有事に強い」プレイングマネージャーがおられて、うまく事業統合を進める方がいらっしゃいますが、そのような方は「平時」になりますと、社内で煙たがられてどこかへ飛ばされてしまうのではないでしょうか。)私自身が役員をしている企業の統合破談の経験からも、そのように確信しています。なので、今回のパルコ社のケースにおきましても、このままイオン社が強行した場合、うまくいく確率はかなり乏しいのではないかと。

素朴な疑問でありますが、ここまで社員の反対の意思が表明されていながら、イオン社および森トラスト社はパルコ社の企業価値を上げることが果たしてできるのでしょうか?これまで、こういった事態で経営権の奪取を強行して、うまくいったケースというものはあるのでしょうか(あればぜひ、調べてみたいので、どなたか教えていただきたいです。私は同様の状況で経営権奪取を強行した春日電機さんの例くらいしか思い浮かびません)。スティールPによるアデランス経営陣交代劇は、結局のところ失敗に終わってしまいましたし、MBO後のすかいらーく経営陣交代もいまだ軌道に乗っていません(なお、katsuさんより、「すかいらーくは、グループ全体としては業績が上がっていますよ」とご指摘いただきました)。状況は違いますが(TOB事案)、王子製紙による北越買収も、日本電産による東洋電機製造買収も、労働組合による買収反対表明により、断念されております。

たしかドンキホーテ社がオリジン東秀さんを敵対的買収で取得しようとした際、ホワイトナイトとして登場したのがイオン社であり、その際にはオリジン社の従業員組合がイオンの傘下となることに賛成の意思を表明したがゆえにイオンのオリジン子会社化が成功したものと記憶しております。あの事件からしても、イオンさんは「強硬な支配権取得は従業員の賛同がなければ奏功しない」ということを認識されていらっしゃるのではないかと思いますが。

パルコ社側の買収防衛策発動、転換社債の転換権行使など、強硬手段はあるにしても、法律上の問題点がありますので、イオン社と森トラスト社による株主権行使のほうが圧倒的に有利であることは承知しております。しかし、そもそも、45%の株式について共同議決権行使を行うイオン社と森トラスト社との利害関係は、今後も一致し続けることの確証はあるのでしょうか。また、自ら買収防衛策を導入しておられるイオン社として、同じく防衛策を導入しているパルコ社の事業提携等に関する検討の時間を不要として、森トラスト社と株主提案権に乗っかって検討を急がせる根拠はどこにあるのでしょうか?他社にルールを遵守するよう要求していながら、自社はルールを守らないでよい、とする正当な理由はどこにあるのでしょうか?とくに、このあたりは「そもそもルール違反ではないし、パルコの一般株主の利益を害するものでもない」とするイオン社の社外取締役の方々の判断理由を拝聴してみたいものです。私はどちらに肩入れするつもりもないのですが(むしろガバナンス提案の内容は興味深い)、社外役員という立場から、このあたりの理由がよくわからず、とても逡巡するところであります。

(4月13日午後 追記)

「パルコ、アジア最大の商業施設運営会社との提携を発表」(日経新聞ニュースより)

剰余金配当増額のお知らせとともに、適時開示情報が出ております。

パルコ社の一般株主の方々にも、いろいろご意見あるかもしれませんが、企業価値向上のために経営者同士が(株主にもわかるように)長期シナリオを掲げて戦う姿、個人的には好きです。

4月 13, 2011 企業買収と企業価値 | | コメント (17) | トラックバック (0)

2011年4月12日 (火)

「デジタルデータは消えない」(幻冬舎ルネッサンス新書)

Digital書店で思わず衝動買いしてしまった一冊。 不正調査の仕事において、デジタルフォレンジックに関する知識は必須ではないかと思いますが、私のような典型的な「文系人間」にも理解できる内容です。最近の大相撲八百長事件や厚労省データ改ざん事件などを例に、携帯メール復元の基本的なカラクリや、外部記憶装置におけるデータ復元の仕組みなどがわかりやすく解説されてており、読んでいて非常に興味が湧く内容であります。本書により、最近はセクハラ事件や労働事件でもデジタルフォレンジックが勝敗を決する場面があることを知りました。

デジタルデータは消えない(佐々木隆仁 著 幻冬舎ルネッサンス新書 171頁 836円税別)

会社内における情報漏えいリスクの管理なども、むずかしそうに思えるのですが、実際に発生している事件の90パーセント以上は「人の問題」(人災)に起因するとのこと。「不正な情報の持ち出し」に起因するケースは3パーセント程度のようで、その他は管理ミスや誤操作によるものだそうですから、これも全社的な統制によって管理可能なリスクだそうです。

また、社内の不正はこのように証拠化できる、誰が犯人なのか特定できる・・・というデジタルデータ解析の現状を知るにはおススメです。不正調査を業とする者からすると当然のことかもしれませんが、他人のパソコンから情報を抜き取る作業についての「作法」なども、ご存じない方には参考になろうかと思われます。スマートフォンの情報漏えいリスク、WEBメールの復元など、デジタルフォレンジックの現状を社員の方々に周知徹底すれば、誤操作や不正予防の効果もあるのではないかと思われます。

ただ、私が最近注目する「不正早期発見」という機能に限って言えば、デジタルフォレンジックといってもまだまだ進んでいない印象を受けました。「不正の疑いがある」と思われるときには非常に効果的に調査ができるのでありますが、そもそも「不正の疑い」をどのように察知するのだろうか?・・・・・となりますと、そのあたりはあまり触れられていないように思いました。もちろん、CAAT(デジタル技法調査)にように、全件調査においてなんらかの条件を入力することで、疑惑のある企業活動をピックアップする手法もあるのですが、これもまだまだ実用化するにあたっては課題が多いのではないかと思います。

アメリカのディスカバリー制度が日本にも採用されるかどうかはわかりませんし、今後、このようなデジタルによる証拠化手続きが必要とされる訴訟が増えるかどうかもわかりませんが(このあたりは筆者と私で意見が異なるところかもしれませんが)、掲示板、メール、ツイッター等、企業における情報伝達がデジタルに依存する傾向が強くなればなるほど、「情報の痕跡が残る」ことは本書でよく理解できるところであります。SESCではデジタルフォレンジック関連の予算が大幅に増えたようですし、また4月1日に提出されました刑法改正法案にも「ウィルス作成罪」が新設されておりますので、今後は官民そろってデジタル情報の証拠化の理論と実務が進展するものと思われます。

PS ルノーの情報漏えい事件については、事実無根だった可能性があるようで、ナンバー2の方が辞任されるようですね。

4月 12, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月11日 (月)

「便乗V字回復企業」への危惧

東証の決算発表予定一覧表によりますと、いよいよ来週あたりから3月決算会社の開示が本格的に始まるようであります(まだ未定の上場会社さんも結構多いようですが)。このたびは「(発表は)時期にとらわれる必要はない」そうですが、震災が業績に与える影響がどの程度なのか、投資家は注目しているので、できるだけ正確な開示がなされるよう努力していただきたい、というのが世間の期待するところです。

ただ、こういったことを申し上げるのは不謹慎であることを承知のうえでありますが、今回の震災は(被災地だけでなく)全国の上場会社の業績に影響があることはすでに報道されているところでして、そうなりますと「震災に便乗する」情報開示も出てくるのではないか、というのが懸念されるところであります。

便乗の動機づけとして最も強いのが「粉飾隠し」だと思います。これまで簿外債務や循環取引等によって、表に出ていなかった「不適切な会計処理案件」を、今回の震災による業績悪化のなかで一気に解消させてしまうというパターン。監査人も、会社側から「損失はできるだけ保守的に見積もって計上した結果です」と言われれば、(その中に過去の不適切処理案件が含まれていても)文句がいえないのではないでしょうか。また、そもそも業績が悪い、と開示するわけですから、税務調査等によって粉飾が発覚する可能性にも乏しいわけです。

さらにもっとスゴイのが「便乗V字回復」志向ではないかと。業績が今後飛躍的に伸びる可能性はないけれども、今回の震災関連の損失で一気に落としておいて、次年度以降に一気に回復したことを演出する(たぶん、このような手法は過去にも実際にあったような・・・)。経営手腕による業績悪化が株主や投資家から指摘されにくい今こそ、企業業績が向上していないにもかかわらず、企業価値が上昇したかのような外観を作出することを企図する企業経営者も出てくるような気がします。

会計不正事例を学ぶにあたり、私はよく年配の会計士の先生方から

以前から粉飾はたくさんあったんだよ。あんまり問題にならなかったのは、どこの会社も右肩上がりで業績が良かったからだよ。上場のときに無理しても、そのツケを好調な業績に紛らせることで何もなかったことにできたんだよね

と教えられました。ということは、今回のように誰もが業績の一時的な悪化はしかたがない、といった風潮のなかで、過去のツケを紛らせることも、やはり可能ではないかと思われます。また、それは「不正のトライアングル」的な言い方をすれば、「正直に開示しても誰も喜ばない。みんながハッピーになれるウソならば許容されるし、気がついた人がいても黙認してくれる。『企業倫理』という言葉は、事業を継続できる会社こそ言えるのだよ」ということになるのでしょうか。

こういった事態でもまじめに被害状況の把握に取り組み、誠意をもって情報開示する企業と、こういった事態を利用して、さらに不適切な開示をもくろむ企業とを、今後どうやって見分けることができるのか、とりわけ会計監査に携わる方々やアナリストの方々の御意見を拝聴してみたいものであります。そういえば、先の年配の会計士の方々いわく、

僕たちの時代は、経営者と飲みに行ったり、遊びに行ったりしていたから、「こいつ、悪いこと考えとるな」と顔見たらわかった。だから、「社長、ここまでは目をつぶるけど、これ以上の粉飾はダメですぞ」と念押しできた。今は遊ばんから、わからんし、念押しする機会もなくなったなぁ。

ということは、やはり経営者の資質によるところが大きいのでしょうかね。

4月 11, 2011 不正監査を叫ぶことへの危惧 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年4月 8日 (金)

”StartUp Engine2011” 開催のお知らせ(大阪国際会議場)

こういったときこそ、関西から元気を発信したい、という志をお持ちの方々の企画をご紹介いたします。

明るいセミナーのお知らせでございます。IPO研究会や内部統制研究会等でご一緒させていただいている「ベンチャー法務の部屋」の森理俊弁護士、「CFOのための最新情報」の武田雄治会計士らが主催されます「StartUp Enjine2011」(大阪証券取引所後援、株式会社幕末協力)が5月20日に大阪で開催されます。

Start Up Engine2011のWEBページはこちら

コンセプトは以下のとおりです。

『成長志向企業の経営者、起業・事業創造を志望するビジネスパーソン及び学生』を 主たる対象に、「次世代起業家、新事業を生み出す知識・人・気持ちが集まる場の創造」を目的とした企画です。

次世代起業家をサポートする活動「StartUp Engine」は、起業支援の経験豊富な各分野の最前線に立つプロフェッショナルが集結し、次世代起業家を支援することで関西から世界に羽ばたく企業を創造したいという想いが集結した活動です。

このたび、「StartUp Engine」第一回目の企画として、「次代起業家、新事業を生み出す知識・人・気持ちが集まる場の創造」を目的としたセミナーを開催します。

「手弁当」とおっしゃっておられますが、ずいぶんと豪華な顔ぶれですね。私が愛読しております林總(はやし あつし)さんの「騙されない会計」という本の中で、林さんは

日本は実効税率が高いからベンチャー企業が育ちにくいといわれますが、そうした問題以前に、新しいビジネスを立ち上げようとしている人たちへのサポートがない。少子化が大きな社会問題になっていますが、日本の場合、企業の少子化も深刻です

とおっしゃています。私もまったく同感です。こういったサポートのための知恵を共感する機会こそ、これから必要になってくるのでしょうね。

場所は国際会議場ということですから、私の震災支援講演と同じ場所です(でも、こちらのほうがもちろん大きな会場です)。参加費用もお手頃感がありますので、ご興味のある方はどしどしご応募くださいませ。

4月 8, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (2) | トラックバック (0)

震災支援・特別講演のお知らせ(途中経過)

(4月8日午後6時:追記あり)

さきほどの震度6強の地震により、岩手県でもたいへんな被害(火災や負傷者)が出ていることがニュースで報じられておりました。あらためてお見舞い申し上げます。被災地法律相談に行くと決めた以上は行くつもりです。でもこれでまた「自粛ムード」が復活するのでしょうね。

さて、一昨日広報させていただきました「5月18日 震災支援特別講演」でありますが、おかげさまで既に19名の方よりお申込みをいただきました(どうもありがとうございます)。定員まで、あと10名ほどの余裕がございますので、ご関心がございましたらお早めにお申し込みください(左サイドバーのバナーをクリックしていただきますと、詳細をご覧になれます)。

(8日午後6時現在、お申込み25名となりました。あと5名分空きがございます。)

4月 8, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 7日 (木)

闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)その4・政策法務はむずかしい

toryuさんから教えていただきましたが、売り場面積拡張でもめていたファストファッションのしまむら社と加茂市でありますが、このたび刑事告発問題は決着がついたようであります。4月1日の毎日新聞ニュース(新潟版)によりますと、県警から書類送検されていたしまむら社の60代男性役員について、地検は「構成要件該当性なし」として不起訴処分とした、と報じられております。お上にたてつくと、「江戸の敵を長崎で討つ」状況になってしまわないか、と萎縮してしまう企業が多い中、法令遵守の気持ちを強く持ち、行政と是々非々で向き合う「闘うコンプライアンス」の姿勢が実を結んだ好例であると思います。

当ブログでも過去3回にわたり、「闘うコンプライアンス」シリーズとして取り上げましたが、この事例は非常に興味深いものであり、また私自身もたいへん勉強になりました。本日はあまり時間もありませんので、多くの感想を抱いた中で、一点だけ疑問に感じているところを指摘しておきたいと思います。

今回、県警および地検は、加茂市の当該条例制定について、しまむら社を狙い撃ちした「後だしジャンケン的」な条例であることに注目したわけではないようです。注目していたのは、当該条例が建築基準法による規制を前提としているにもかかわらず、建築基準法が想定していない「売り場面積」(正確には売り場の床面積)という概念を新たに持ち出している点でありました。そして、地検は「建物自体を増築したわけではなく、もともとあった建物の一部を売り場として拡張して使用したのであるから、これは建築基準法の趣旨からすると売り場面積の拡張にはあたらず、構成要件該当性がない」と判断したようであります。

本事例を「線として捉える」、つまり条例制定前後の事実関係を詳細に認定して不起訴処分とするならば、後日の検察審査会への異議申立ての可能性が高まったり、当事者間における民事賠償問題の根拠事実として利用されたりする可能性があるので、「点として捉える」、つまり法と条例との関係という、きわめて法律的な解釈問題を持ち出して処理しようとする地検の対応は、なるほどと納得するところであります。

しかし、私の手元にあります政策法務に携わる公務員向けのハンドブック「自治体法務サポート 行政手法ガイドブック」(鈴木・山本著 第一法規 平成20年3月初版)によりますと、刑罰を伴う条例を制定する場合には、条例案が完成した後、議会にかける前に「検察審議」が行われることになっております(同書 146頁)。この検察審議といいますのは、法律で義務化されているわけではないのですが、罰則のある条例を制定したり、改廃したりする場合に、事前に地検と通例的に協議する機会のことであります。条例の実効性を確保するためには、自治体と検察庁との円滑な連携を図る必要性が高いために審議の場が設けられるそうであります(同書 75頁)。

もしこのたび、加茂市が検察協議を経て条例を制定しているとなると、上記の地検の判断はおかしいのではないでしょうか?条例には「売り場の床面積」という用語が出ており、これは建築基準法には出てこない用語であります。「点として捉える」のであれば、そもそも検察協議のなかで、今回の判断は地検が指摘していたはずであります(たとえば「売り場の床面積の拡張」というのは、既存の建物のうち、売り場でなかったところを拡張するようなことは含まないのかどうか曖昧である、など)。それとも、加茂市が事前に検察協議をしていなかったということなのでしょうか?(おそらくこれはないと思いますが・・・・)県警の判断と地検の判断とでは微妙なニュアンスの違いもありそうで(たとえば県警は「条例自体がおかしい」という見解で、地検は「条例は有効だが本件へのあてはめがおかしい」という見解ではないか等)、どうもよくわからないところもあります。

いずれにしましても、企業が「法令遵守」のために行政と闘うケースにおきましては、まず「点として捉える」手法を活用することの有効性が認識できたと思われます(たとえば本件でいえば「上乗せ規制」「横出し規制」「法律と条例の優先適用関係」等)。ほかにも、今回の不起訴に至る顛末を知ると、いろいろと疑問が出てくるのでありますが、とりあえずまた続き・・・ということで。

4月 7, 2011 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年4月 6日 (水)

震災支援特別講演「企業のパワハラ対応とコンプライアンス上の課題」

このたび、被災地法律相談の担当弁護士を志願いたしました。岩手県内の被災地ですが、5月となります(正式決定はまだですが)。被災地の皆様にどれだけお役に立てるのか全くわかりませんが、阪神淡路大震災のときの法律相談そして裁判の経験をもとに「昔とったきねづか」で頑張りたいと思います。ただし担当者は事前に日弁連のeラーニングを受講してください、とのこと。総会準備の関係でご迷惑をおかけする関係者の皆様、本当にごめんなさい・・・・・。今回限りのわがままをお許しください<m(__)m>

Tirashi0098 さて、上記とは全く別のお話でありますが、このたびの東日本大震災復興支援の一環としまして、ホンマに微力ながら、関西地区で特別講演会を開催することになりました。テーマは震災とは全く関係ないのですが、「企業のパワハラ対応とコンプライアンス上の問題点」です。昨年11月17日、18日と、某金融機関の全国支店長会議にお招きいただいたときに講演させていただいたものをベースにしておりますので、幹部クラスの方々向けのセミナーです。このたびの講演会は、出版社やコンサル会社等、いつもお世話になっております企業様のプロデュースによるものではなく、当事務所の手弁当によって設営・準備いたしますので、多少の不手際があるかもしれませんが、精一杯講演をさせていただきますので、どうか多くの方々にご参集いただければ幸いでございます。頂戴いたしました参加費用は全額、このたびの震災復興のための義捐金とさせていただきます。

要領は以下のとおりです。

「震災支援特別講演のお知らせ.pdf」をダウンロード

「企業のパワハラ対応とコンプライアンス上の問題点」

日時 2011年5月18日(水)午後2時から4時まで

場所 グランキューブ大阪(大阪国際会議場)8階会議室

参加費 5,000円(当日受付にてお支払いください)

定員 30名(先着順にて受付)

お申込み方法 toshi@lawyers.jp  までメールにて申込ください。なおお申込みの際には、ご氏名、所属団体、役職名をお書きくださいませ。

講演骨子

1 はじめに(組織におけるパワハラの現状認識)

2 企業におけるリスク管理の視点(なぜパワハラ対応はむずかしいのか)

3 パワハラに関する訴訟リスクの捉え方(加害者と被害者の区別のあいまいさ)

4 企業における取組の現状(内部通報制度との関係で)

5 社内調査のベストプラクティス(法務と人事の協働)

6 パワハラ対応における今後の課題(リスク管理として考える)

7 加害者とされる者への懲戒処分の在り方について

以上

広報媒体は当ブログだけですので、ご関心のある方に、PDFチラシをお渡しいただけましたら幸いです。年度変わり、また総会準備の時節がら、お忙しい時期かとは思いますが、どうかよろしくお願いいたします。同業の皆様、他士業の皆様方の御参加も歓迎でございます。

4月 6, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

サンコー(東証2部)、社長解任劇の顛末

昨年12月に「サンコー社、創業家社長解任劇の行方はいかに・・・」と題するエントリーを書きましたが、「東京弁護士」さんのコメントにもあるように、昨日(4月4日)、その解任劇に決着がついた模様であります。前回のエントリーで「このまま元社長は黙っているのでしょうか?」と予想したとおり、創業家である元の社長さん(現在は非常勤取締役)が反撃に転じ、このたび再度サンコー社の経営支配権を手にしたようであります。やはりパワーバランスは昨年12月の時点では崩壊していたのですね。

代表取締役の異動および役員の異動並びに労使共同宣言の撤回に関するお知らせ

今年2月に元社長さん(関係者を含め、50%以上の株式を保有する)より総会開催の要求があったにもかかわらず、会社側はこれに応じなかったため、元社長さんより臨時株主総会招集許可申立てが長野地裁に出され、この3月に許可決定が発令されたようです。株券電子化後、上場会社としては二番目の初めての株主請求による臨時株主総会が開催されることになります。(3月9日にJASDAQ佐藤食品工業さんの臨時総会における役員選任議案可決の例が初めてだそうであります。失礼いたしました。ご指摘いただきましたので訂正いたします。いつもいろいろな方からご指摘いただきまして、恐縮でございます。。。)

「労使共同宣言」の撤回、というのもスゴイですね。現在巷の話題になっておりますイオン・森トラスト共同体とパルコ経営陣との経営支配権争いも、本日パルコ側が従業員の「現パルコ経営陣支持」の宣言を取り付けたことが報じられております(産経ビズニュースはこちら)。45%以上の議決権ベースにおける株式を保有している共同体側ではありますが、やはりパルコ従業員の賛同がなければ企業価値向上は見込めないものと思いますので、これはパルコ側としての大きな反撃になりそうです。上記サンコー社リリースでも、早速「労使共同宣言」の撤回が伝えられておりますが、やはり敵対的買収や社内の支配権争いの場面では、労働者の支持をどちらがきちんと得られるか、ということが日本の企業社会では大きな意味を持つことが理解できるところです(すいません、海外ではどうか、という点につきましては存じ上げておりません)。

Sankochart 「勝てば官軍」と言われますが、こうやって元社長さんが再度経営権を握ってしまいますと、12月の社長解任劇は「クーデターにすぎなかった」と評される(ただ、昨年12月からの株価の動きと照らし合わせますと、これまたなかなか興味深い)。なお、元社長さんの名誉のために申し上げますと、この一連の騒動の終結において、ご自身が代表取締役の職に返り咲くことはせず、別の方を社長として選任するそうであります。またガバナンスの透明性を高めるため、法律専門家、会計専門家を社外取締役として選任する、とのこと。「解任劇」当時は新聞等でも報じられましたが、ここのところ震災関連ニュースが多いため、元社長復活劇については触れられておりません。そこで当ブログにてあえて報じることといたしました。(東京弁護士さん、情報どうもありがとうございました。)

4月 6, 2011 株主総会関連 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年4月 5日 (火)

企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説

Daisanhakaisetu 皆様、テレビや新聞で御承知のとおり、八百長相撲に関する特別調査委員会の調査報告について、「クロ」と認定された力士や親方よりブーイングの声が上がっております。親方衆の処分見直しの要請を、最後は理事会がタンカを切って思いとどめさせたことが報じられておりますが、「到底、調査委員会の裁定には納得ができない。訴訟も辞さない」と堂々とインタビューで答えておられる力士の方もいらっしゃいます。私自身も、別件の現在進行形の調査委員の業務におきまして、認定内容を支持する方々からは評価されるものの、その内容に不満の方々からは「あの弁護士はなんだ!」「ちょっと個人的にもう一度再考するよう面談を申し込みたい」「名誉毀損ではないか」など、いろいろとプレッシャーをかけられております。プロとして公正、独立の立場をもって不正調査を行う業務をご理解いただく範囲では、丁寧にご説明を差し上げておりますが。

企業の皆様方におかれましても、大相撲特別委員会の調査結果に対する関係者のコメントなどをご覧いただければ、企業不祥事が発生した際の第三者委員会は「けっこうしんどい作業」に従事するものであることをご理解いただけるのではないでしょうか。当ブログでも時々ご紹介しております日弁連「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」でありますが、このほど商事法務さんから、本ガイドライン作成に携わった方々によるガイドラインの解説書が発売されました。企業の不祥事だけでなく、大阪弁護士会が取り組みました学校法人における不祥事調査などにも活用されるため「企業等」とされております。

企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説(日弁連 弁護士業務改革委員会 編 商事法務 2400円税別)

土曜日にご紹介いたしました書籍同様、こちらも本業に関連するものゆえ、早速全てに目を通しました。こういった解説本が出る・・・ということは以前から聞いておりました。「どうせ解説といっても、ガイドラインの内容をなぞった程度だろう」と予想しておりましたが、いえいえ、本当にガイドラインの内容を深堀りした解説となっております。おそらく、本解説書の内容を公表するについても、あらためて各執筆者間での調整が必要だったものと推測されます。逐条解説の内容も詳しく、また参考判例や文献などの引用もあり、第三者委員や事実調査関与弁護士等に就任希望の方々には必読の一冊であります。さらに、各企業さんにとっても、平時の常備薬として、一社に一冊、ご購入されますことをお勧めいたします(巻末に、第三者委員会と企業との業務契約書ひな形も添付されております)。個人的にお勧めの箇所は、私自身も3月29日の社団法人企業研究会(麹町)のセミナーにて詳細に解説させていただきました「第三者委員会ガイドラインによる第三者調査を見据えた社内調査の在り方」であります。これはガイドラインではほとんど触れられていなかったところであり、この解説書では第5章で危機管理で著名な弁護士の方による解説が施されております。ここが一番、不祥事発生(発生の疑いのある)企業さんにとって知っていただきたいところかと。

少し気がかりな点は、日弁連ガイドラインと日本監査役協会さんの監査役監査基準第24条との関係ですね。この3月に改訂された監査役監査基準では、第三者委員会と監査役との関係について、新たに1条を設けております(公開草案に比べて、正式な条項では相当に変更されております)。監査役会と第三者委員会とのコミュニケーション、独立社外監査役は第三者委員会の委員に就任できるか等、実務上整理しておくべき課題が少しばかり残っているように思われます。果たしてこのガイドラインは現実企業における監査役(または監査役会)を、「理想の姿」で受け止めるのか、それとも「現実の姿」で受け止めるのか、今後の課題であります。また(これは本書に書かれているものではございませんが)、なにゆえ元高検検事長といった方々が第三者委員会の委員長として就任されるケースが多いのか、それは単に事実認定の巧拙や事件の組み立てに長けている、ということだけからなのか、といったあたりを「ぶっちゃけ」のホンネで考える良い機会にもなるのではないか・・・・などと考えたりもしておりました。

「本ガイドラインを策定するにあたっての最大の論点」(26頁)とされた、「第三者委員会は誰が依頼者なのか」という問題につきまして、ぜひ本書をお読みになって、読者ご自身の理解を深めていただければ、と思います。私自身も、本解説書を拝読し、勉強させていただきました。ただ、一抹の不安もございます。ステークホルダー、ひいては第三者委員会に期待する社会総体こそ真の依頼者である、という論調は、どこかで聞いたフレーズであります。忘れもしない2003年のRCC(整理回収機構)の詐欺告発事件。弁護士が普段手にしたことがない権力を手にしたことによって、その濫用が問題となり、明治生命さんから告発を受け、東京地検特捜部が動き、優秀な弁護士の方々が懲戒処分となり、最後は元日弁連会長さんが弁護士廃業届を出して終結した事件であります。我々弁護士は、報酬をいただく依頼者のために全力を尽くすことには慣れておりますが、社会の公器として権限を行使することには不慣れであります。たとえ「行き過ぎ」があったとしても、社会のため、国民のため、という正当化根拠によって判断が曇ってしまう現実を、当時私は(問題となった当該事件の)RCCの相手方代理人として目の当たりにしてまいりました(そういえば、あの事件はきちんと検証されないままだと思われます)。「弁護士が社会の公器として、その権力を行使するにあたっては、謙抑的でなければならない」ということは何度かこのブログでも申し上げましたが、これは当時私が体験した事件の教訓によるものであります。

広くステークホルダーのために第三者委員会が活動することは大いに賛同するところでありますが、その活動方法については、今後の委員会の実務経験を通じて、さらに検討していくべきところではないか、と考えています。

4月 5, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 4日 (月)

内部統制報告制度に関する事例集に学ぶ「有効性」と「効率性」

すでにご承知のとおり、3月31日に金融庁より「内部統制報告制度に関する事例集」が公表されました。これは副題にありますように、中堅・中小上場企業等における効率的な内部統制報告実務に向けて参考になるような事例を集めたものであります。

これらの事例が、主として中小の上場企業の内部統制報告制度の運用に資するものであることはそのとおりでありますが、私は中小の上場企業といいましても、内部統制の有効性評価のレベルについては大企業と同じものが要求されているわけですから(どちらの有価証券も、一般投資家による売買の対象としては変わりなし。中小の上場企業は、その組織の単純性ゆえに、有効性評価のレベルを下げずに効率的な運用のための工夫がしやすい、ということ)、むしろどのレベルの企業にとっても、我が国の内部統制報告制度の考え方を学ぶにあたっては非常に有用ではないかと考えております。ざっくりと申し上げるならば、経営者評価の方法を簡素化しても、有効性のレベルは達成できる工夫を、この公表事例は紹介しているのでありますから、つまり「効果的であること」と「効率的であること」のバランスをどのようにとりながら整備・運用していくか、という点については、すべての上場企業において参考とするところがあるのではないか、と思います。「簡易版COSO」「COSOモニタリング・ガイダンス」でも、多くの参考事例が掲載されておりますが、あれを読んだ私は、決してJ-SOXも担当者の「やっつけ仕事」にしてはいけない、ということを強く認識いたしました。

前回の改訂内部統制報告制度に関するエントリーでも述べましたが、そろそろ日本の内部統制システムも、開示制度と経営管理、金商法と会社法、といったそれぞれの分野で語られているものを整理していく時期に来ているのではないでしょうか。このあたりは、ブログで述べるよりも論稿等で著したいと考えております。

たとえば財務報告の信頼性を確保するための内部統制を整備・運用する、ということであれば、これをリスク管理(経営管理)の視点からは、①作業確実実行力の問題、②不備(不正)の早期発見力の問題、③不備が発生した場合の影響把握力(トレーサビリティ)の問題に分類することになりますが、今回公表されました21の事例につきましては、きっちりと3つのどれかに分類することが可能であります。たとえば決算財務報告プロセスについては、決算の時期との関係からみて、発見された不備が短期間に是正されることは困難ですから、現在でもやはり作業確実実行力が重視されるのでありますが(経理・財務に精通した担当者がいるかどうか等)、業務プロセスにつきましては、不備が発生しても、それを早期に発見できるキーコントロールやモニタリングに力点を置くことで効率化を図ることが可能であります。また評価範囲の問題やロールフォワードの方法等については、不幸にして不備が期末に残ってしまった場合など、不備が金額的にどの程度の影響が及ぶのかを短期間に説明できる根拠を提供してくれることになります。

内部統制報告制度は、そもそも開示規制に関わる制度ではありますが、こうやって参考事例を眺めておりますと、日常の経営管理としての内部統制にも有意性があることが理解できます(また、そうでなければもったいない!)。「有効である」と評価するために必要な作業をどんどん効率的に運用したい企業が多いとは思いますが、その有効性を経営管理の視点から考察してみると、「正しい効率化」の道筋も少しは見えてくるのではないでしょうか。また、こういったところに、金商法上の内部統制報告制度と、会社法上の(取締役が善管注意義務の履行として構築すべき)「財務報告内部統制」との接点も見えてくるように思います。

4月 4, 2011 内部統制の原点を訪ねる | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 3日 (日)

現場マネジャーのためのパワハラ・いじめ対策ガイド

3月31日の朝日新聞ニュースによりますと、大阪市の係長が、部下の内部告発に憤りパワハラを行ったことで、告発を受理したコンプライアンス委員会が大阪市に対して再発防止策を勧告した、ということであります(ニュースはこちらです)。社内での通報だけでなく、外部への通報に対しても、このような問題が発生するとなれば、ますます匿名性が確実に確保されるような告発が増え(たとえばネット掲示板)、社内不祥事に関する企業の対応がむずかしくなっていくように思われます。そのような中でも、とりわけパワハラ問題は企業対応が非常に難しいですね。

Oaoawuo 「金商法だけでなく、こんなのもやってます!どうかご笑納ください」と、西村あさひ法律事務所の石井先生から新刊書をいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。私自身の本業にも近い内容のため、早速拝読させていただきました。

現場マネジャーのためのパワハラいじめ対策ガイド(西村あさひ法律事務所 編著 石井輝久ほか 監修 武井一浩 日経BP社 2000円税別)

まず二つのことに驚きました。ひとつは、西村あさひの弁護士さん方の本といいますと、西村高等法務研究所叢書とか、M&A大全、金融レギュレーション、などのように、実務家向けの「かなり難しい本」のイメージがありますが、表紙のとおり、本当に「現場マネジャー」向けの読みやすいご著書であることに驚きました。事例も30ほど用意されており、関心のあるところから読み進めることができるように工夫されております。

もうひとつは、「このような分野をNAさんも取り扱う時代になったのか」という驚きであります。そういえば、昨年こちらのエントリーにてとりあげましたセクハラ事件の代理人事務所は、関西でもっとも大きな法律事務所ですし(しかも著名なパートナーが担当弁護士)、セクハラ・パワハラ対応問題は、大手企業にとっても避けて通れないコンプライアンス上の重要課題になりつつあることを象徴しているように思います。このあたりは「いまなぜパワハラ対策なのか?」という巻末のQ&Aを先にお読みになるほうがよろしいかもしれません。

さて内容でありますが、「新米監査役のつぶやきブログ」(リンクは控えさせていただきます)で、新米監査役さんが書評をお書きになっておられるとおり、社内の研修で使えるのではないか?と思われるほどに、事例が豊富かつ具体的な点であります。私など、(不謹慎にも)自分のセミナーでこっそり使っちゃおうかな・・・・・・と思ってしまうほど、事例がうまく作られております。おそらくNAさんの「労務グループ」の弁護士の方々が、日常もしくは訴訟等で経験された実話を参考にして作られているのではないかと思います。対応に関する成功、失敗の経験からフィードバックされた指摘事項が記述されているため、「なるほど」と思わせる提言もかなり多いのが特徴です。各事例解説の末尾には、参考となる裁判例なども紹介されています。

また、残念ながら紛争がこじれてしまった場合の危機対応、たとえば労務紛争の対処、グローバル企業における海外での問題発生など、大きな法律事務所だからこそ書ききれるパワハラ対応にもページが割かれているところがいいですね。いわばミクロとマクロの視点から企業のパワハラリスクを検討しているところが特徴的であります。

ただ、「現場スタッフ」はパワハラに気を付ける必要があるのですが、その「現場スタッフ」がパワハラに悩んでるケースも見受けられます。いま職場で病んでおられるのは「プレイングマネージャー」の方々ではないかと思います。プレイヤーとしては問題がなくても、部下を管理できずに思い悩む人も多く、パワハラ事件の真相を追及していくと、そこには精神的に追い詰められた中間管理職の姿が浮かび上がることも多いように思います。できれば、こういった本を読まれる際には、加害者と評されてしまう中間管理職の方々にも、思いやりをもって接してあげる必要があるのではないか、と。

あと、現場でパワハラ問題の解決を担当する方々も、結構たいへんですよね。昨日大相撲の特別調査委員会が、八百長相撲に23名の力士および親方が関与していた、と公表しました。この結果に対して「たったあれだけの調査で何がわかるのか!けしからん!」「訴訟も辞さない」と激怒した力士もいるようですが、パワハラに関する調査についても、よく似た状況となります。当事者に不満を残す結果になることもあります。そういった事態になる前に、調査はいかにあるべきか、といったところの記述は、かなり参考になるものと思われます。パワハラに該当するか否かという認定は、問題の一連の言動だけで判断するのではなく、そこに至った背景事情にまで踏み込む必要がありますので、結構「防止体制の構築」や「平時の研修」などが効果的だったりします。

いずれにしましても、パワハラ問題はセクハラ以上に企業対応が困難な課題です。セクハラについては加害者に味方をする社員はいませんが、パワハラについては、「熱心な上司」「積極的な指導」と紙一重にあるため、加害者を支援する従業員の存在なども無視できないところがあります。今後のパワハラ対策、パワハラ調査の実務上の参考資料として有用性がありますので、ご興味のある方は是非、書店にてお買い求めください。

4月 3, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 1日 (金)

昨夜のエントリー 削除しました

昨夜アップしましたエントリーにつきまして、基本的な事実に認識ミスがございましたので、いったん削除させていただきました。お恥ずかしいかぎりです。関係者の皆様には、ご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。早々にご指摘いただき、ありがとうございました。資料を見るときに隅々までチェックしていなかったこと、同じ勘違いをしたブログがあったことから、つい「うっかりミス」でした。今後は気を付けたいと思います。

なお、関係個所を精査、訂正のうえ、改めてアップさせていただきます。

4月 1, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)