韓国の上場企業にコンプライアンス・オフィサーの制度化決定
昨年10月の「街場のコーポレート・ガバナンス改正素案」なるエントリーにて若干ご紹介いたしましたが、お隣韓国の会社法改正におきまして、一定規模の上場会社に対して遵法支援人(遵法監視人-いわゆるコンプライアンス・オフィサー)制度が導入されることが決定したそうであります。すでに国会で可決され、制度施行は来年(2012年4月)だそうであります。これまでも金融機関においては義務付けられていたのですが、今回の法改正により、大規模な上場会社にも制度が義務付けられました。改正会社法では、一定規模以上の上場会社に対して、遵法支援人を1名以上置くようになります(常設だそうです)。遵法支援人の資格要件としては、弁護士、法科大学院教授等の法律専門家となっています。
遵法支援人制度の詳細はまだわかりませんが、これまでの金融機関における遵法監査人制度は、2000年に銀行法23条の3第2項、資本市場と金融投資業に関する法律第28条2項に基づいて制度化され、金融機関の取締役会によって任免されます。資格要件としては、実務経験を5年以上有する弁護士、会計士、研究員として5年以上の経験を有する大学の教授等となっており、職務の独立性を維持するため、金融機関における業務上の地位の独立性が確保されていることを要するものとされております。遵法監視人は、当該金融機関が内部統制基準を遵守しているか否かを調査し、内部統制基準に反するものと認める場合には、これを監査委員会または監査役に報告する義務を負っています。
従来、金融機関の持株会社には遵法監視人の設置は義務付けられていませんでしたが、2010年2月より、同持株会社にも設置が義務付けられるようになりました。(金融持株会社法第41条の5第2項)持株会社の遵法監視人の要請があれば、同会社および子会社の役員は、資料や情報を同人に提供する義務を負います。なお、サムソン電子など、一部の一般事業会社においては、すでに任意に遵法監視人を設置しています。
ただ、東亜日報など韓国マスコミのニュースを読みますと、弁護士資格を持つ国会議員の強い圧力によって制度化されたようで、「弁護士の雇用を1000以上増やすことは確実で、弁護士の食いぶちを確保するための制度ではないか」といった評価も強いようです。おそらく制度の詳細は今後国民の意見なども参考にして決定されるのではないでしょうか。わが国においても、「会計参与」に近い形で、監査役もしくは社外取締役を補佐して、内部統制システムの相当性に関する意見形成に寄与する、という形でのコンプライアンス・オフィサーもありうるかもしれません。とりわけ、この4月の日本監査役協会「監査役監査基準」の改訂にあたって、ひとつの目玉として「弁護士への意見聴取」(同基準第3条5項)が新設されております。ここでは外部の専門家ということですから、韓国の遵法支援人とは異なりますが、独立公正な立場でコンプライアンス支援に寄与するという点では共通するところがあります。
当ブログでも「この資格はとる意味がどこにあるのか?」と強く疑問視しておりました「企業財務会計士」制度の導入が見送られることになったようですが、おそらく日本でも、コンプライアンス・オフィサー制度は「弁護士の職域拡大的なもの」として、いろいろと批判の的になるかもしれません。ただ、たとえば上場ルールにおきまして、内部管理体制に問題ありとして、特設注意市場銘柄に指定された上場会社において、同銘柄指定期間中にはコンプライアンス・オフィサーの設置を義務付ける、といったあたりから導入することは検討に値するかもしれません。いずれにせよ「制度化」は、ある程度実効性のあるものとして、立法事実を積み上げる必要がありますし、またはたして「こんなコワイ立場は引き受けたくない」として、就任を希望する法律専門家がどれだけいるか(需要を満たすだけの供給はあるのか)は未知数だと思われます。今後の韓国での同制度の施行状況を楽しみにしております。
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コメント
個人的には、弁護士が、企業内においてコンプライアンス業務を行うのはあまり良くないと思っています。理由はいくつかありますが、主として、
①コンプライアンス=法令遵守、のイメージが一層強くなる
②本質的には個人事業主である弁護士が、企業・組織文化で生きている従業員と相互理解するには時間がかかる
③法的に正しい説明によって、かえって従業者が真なる理解を得にくいことがある
④一般従業者にとって弁護士の敷居は高く、気軽な相談ができるか疑問がある
という点が大きく、法律に詳しいというメリットは顧問弁護士制度で十分に満足できるはずであるので、同じ従業者の中から、弁護士との橋渡しとして存在する方が、コンプライアンスオフィサーとしての存在意義が大きいと思っています。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2011年4月26日 (火) 13時32分
理論的に破綻してませんか?監査役の職務は何でしたっけ?コンプライアンスオフィサーの仕事は誰が監査するのでしょうか?組織が自ら考えるという意欲を削ぎませんか?
投稿: JFK | 2011年4月26日 (火) 20時25分
こんばんは。
うーーーん、論理的に破たんしているかどうかはさておき、たしか監査役協会において、この3条5項の新設は大いに紛糾したのではなかったかな、と。監査役協会ですらそうですから、ましてや昨今の各企業の状況からみて日本での実用化はむずかしいかと。
投稿: とおりすがりの元さん | 2011年4月27日 (水) 00時36分