現場マネジャーのためのパワハラ・いじめ対策ガイド
3月31日の朝日新聞ニュースによりますと、大阪市の係長が、部下の内部告発に憤りパワハラを行ったことで、告発を受理したコンプライアンス委員会が大阪市に対して再発防止策を勧告した、ということであります(ニュースはこちらです)。社内での通報だけでなく、外部への通報に対しても、このような問題が発生するとなれば、ますます匿名性が確実に確保されるような告発が増え(たとえばネット掲示板)、社内不祥事に関する企業の対応がむずかしくなっていくように思われます。そのような中でも、とりわけパワハラ問題は企業対応が非常に難しいですね。
「金商法だけでなく、こんなのもやってます!どうかご笑納ください」と、西村あさひ法律事務所の石井先生から新刊書をいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。私自身の本業にも近い内容のため、早速拝読させていただきました。
現場マネジャーのためのパワハラいじめ対策ガイド(西村あさひ法律事務所 編著 石井輝久ほか 監修 武井一浩 日経BP社 2000円税別)
まず二つのことに驚きました。ひとつは、西村あさひの弁護士さん方の本といいますと、西村高等法務研究所叢書とか、M&A大全、金融レギュレーション、などのように、実務家向けの「かなり難しい本」のイメージがありますが、表紙のとおり、本当に「現場マネジャー」向けの読みやすいご著書であることに驚きました。事例も30ほど用意されており、関心のあるところから読み進めることができるように工夫されております。
もうひとつは、「このような分野をNAさんも取り扱う時代になったのか」という驚きであります。そういえば、昨年こちらのエントリーにてとりあげましたセクハラ事件の代理人事務所は、関西でもっとも大きな法律事務所ですし(しかも著名なパートナーが担当弁護士)、セクハラ・パワハラ対応問題は、大手企業にとっても避けて通れないコンプライアンス上の重要課題になりつつあることを象徴しているように思います。このあたりは「いまなぜパワハラ対策なのか?」という巻末のQ&Aを先にお読みになるほうがよろしいかもしれません。
さて内容でありますが、「新米監査役のつぶやきブログ」(リンクは控えさせていただきます)で、新米監査役さんが書評をお書きになっておられるとおり、社内の研修で使えるのではないか?と思われるほどに、事例が豊富かつ具体的な点であります。私など、(不謹慎にも)自分のセミナーでこっそり使っちゃおうかな・・・・・・と思ってしまうほど、事例がうまく作られております。おそらくNAさんの「労務グループ」の弁護士の方々が、日常もしくは訴訟等で経験された実話を参考にして作られているのではないかと思います。対応に関する成功、失敗の経験からフィードバックされた指摘事項が記述されているため、「なるほど」と思わせる提言もかなり多いのが特徴です。各事例解説の末尾には、参考となる裁判例なども紹介されています。
また、残念ながら紛争がこじれてしまった場合の危機対応、たとえば労務紛争の対処、グローバル企業における海外での問題発生など、大きな法律事務所だからこそ書ききれるパワハラ対応にもページが割かれているところがいいですね。いわばミクロとマクロの視点から企業のパワハラリスクを検討しているところが特徴的であります。
ただ、「現場スタッフ」はパワハラに気を付ける必要があるのですが、その「現場スタッフ」がパワハラに悩んでるケースも見受けられます。いま職場で病んでおられるのは「プレイングマネージャー」の方々ではないかと思います。プレイヤーとしては問題がなくても、部下を管理できずに思い悩む人も多く、パワハラ事件の真相を追及していくと、そこには精神的に追い詰められた中間管理職の姿が浮かび上がることも多いように思います。できれば、こういった本を読まれる際には、加害者と評されてしまう中間管理職の方々にも、思いやりをもって接してあげる必要があるのではないか、と。
あと、現場でパワハラ問題の解決を担当する方々も、結構たいへんですよね。昨日大相撲の特別調査委員会が、八百長相撲に23名の力士および親方が関与していた、と公表しました。この結果に対して「たったあれだけの調査で何がわかるのか!けしからん!」「訴訟も辞さない」と激怒した力士もいるようですが、パワハラに関する調査についても、よく似た状況となります。当事者に不満を残す結果になることもあります。そういった事態になる前に、調査はいかにあるべきか、といったところの記述は、かなり参考になるものと思われます。パワハラに該当するか否かという認定は、問題の一連の言動だけで判断するのではなく、そこに至った背景事情にまで踏み込む必要がありますので、結構「防止体制の構築」や「平時の研修」などが効果的だったりします。
いずれにしましても、パワハラ問題はセクハラ以上に企業対応が困難な課題です。セクハラについては加害者に味方をする社員はいませんが、パワハラについては、「熱心な上司」「積極的な指導」と紙一重にあるため、加害者を支援する従業員の存在なども無視できないところがあります。今後のパワハラ対策、パワハラ調査の実務上の参考資料として有用性がありますので、ご興味のある方は是非、書店にてお買い求めください。
| 固定リンク
コメント