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2011年4月18日 (月)

㈱大水社の内部統制システムは進化したか(二度目の不適切取引の発覚)

4月16日、魚類販売の株式会社大水社(大証2部)が不適切な取引に関するお知らせ と題するリリースを公表しており、元製品課長主導による架空循環取引が平成17年ころから行われていたことが発覚した、とのことであります。内部統制実務に詳しい方であればご存じかもしれませんが、同社は平成20年11月にも「業績に影響を与える事象の発生について」と題するリリースにて、同社元部長主導による架空循環取引が発覚し、過年度の決算訂正を行っております(ちなみに同社の平成21年3月期の内部統制報告書は「重要な欠陥あり」として有効ではない、との結論)。こうやって、ほぼ同様の事件が再び発覚したとなりますと、同社の内部統制についてはまったく改善されていないのではないか、との見方もできそうです。ただ、今回のリリースを読みますと、前回の不適切な取引の発覚と、今回のものとは、少し様相が異なることがわかります。

前回の架空循環取引に関する同社平成21年2月17日付報告書によりますと、同社の架空循環取引は、外部第三者(取引先)からの問い合わせによって不正が発覚したものでありますが、今回の事件は内部監査室による監査をきっかけとして不正が発覚しております。私がよく申し上げるところの「異常な兆候」を内部監査室が発見し、これを契機として社内調査委員会が発足し、本格的な調査の末、サバとサンマの取引における架空循環取引の事実を認定した、というものであります。「仕入代金の支払決済サイトが、取引先との合意ルールよりも短い事象が、不規則かつ頻繁に発生していた」ことを不審に思った内部監査室の報告が発覚の端緒となっており、帳合取引と架空循環取引との区別が容易ではない水産業界において、これは同社の自浄能力がうまく発揮された一例ではないかと思われます。

たしかに同社は、現時点でも大証より(内部管理態勢に問題あり、として)「特別注意市場銘柄」に指定されているわけですから、他社と比較しても十分な内部統制が整備・運用されているわけではないのかもしれません。また、前回の架空循環取引が発覚した時点で、なぜ今回の件についても調査で発見できなかったのか、といった批判も出てくるかもしれません。しかし平成21年3月に、大手の日本水産株式会社から経営支援を受けるようになり(具体的には過半数の取締役がニッスイさんから派遣されて、経営管理が開始されることになる)、また前回の事件における外部第三者委員会の指摘どおりに、内部監査室の実効性を高めたことで、たとえ架空循環取引が発生するリスクが社内に存在し、実際にそういった取引が発生したとしても、これを早期に発見する能力が以前よりも高まっている、と評価されても良いのではないでしょうか。

これは中小上場会社のように、内部統制の整備運用のために、人的にも物的にも多くの負担をねん出できないところにおいて、たとえ不正のリスク(不備)が社内に存在しているとしても、リスクが現実化した時点において早期に発見できるモニタリングが具備されていることによって内部統制の有効性・効率性が高まるような一例ではないかと考えます。こういった事件が発覚すれば、J-SOX上ではふたたび「内部統制は有効とは言えない」といった評価を下さねばならないのかもしれませんが、本当に費用対効果に気を使いつつ財務報告の信頼性を高めるためには、不正(リスクと考えるならば「不備」)を早期に発見する体制作りこそ全社挙げて取り組むべきではないかと思います。早期に不正を発見できれば、「重要性」の観点から、過年度の決算訂正にまでは至らないで済むでしょうし、また報告を受けた経営者らにとって、不正を隠すのではなく公表するインセンティブが働くこととなります。

ただ、「早期に発見できるモニタリングが具備されている」ことの評価は意外とむずかしいのでありまして、セルフチェック部門や内部監査、監査役監査など、おかしいと気づいたときに、これを「おかしい」といえるだけの職場環境がなければ絵に描いた餅になってしまうおそれがあります。結局のところ、こういった職場環境は、担当役員や代表者自身が、不正リスクの低減に向けての意識を有しているか否か、にかかっているのが現実なのかもしれません。大水社の前記リリースによりますと、今後は社外に第三者委員会を設置して、詳細な事実関係の解明および再発防止策の検討などがなされる予定のようでありますが、委員の方々は、このあたりをどのように評価されるのか、今後の委員会報告書の内容に注目したいと思います。

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コメント

調査委員会がらみですが、名証上場会社のリリースです。

http://post.tokyoipo.com/visitor/search_by_brand/infofile.php?brand=3915&info=625592

これほどひどい事実を明らかにした調査報告書は、シニアコミュニケーションに勝るとも劣らない、なかなかお目にかかれないものと思われませんでしょうか。(ちょっと、報告書自体が読みづらくて充分理解しづらいですが。)

デューデリの問題はともかく、帳簿操作、文書偽造、はてはその結果の架空増資(これが一番ビックリでしょうか・・)、そして、それを認容していた経営陣。

先生が中小会社の内部統制を論じられているのを拝読した後でしたので、このリリースを読んで唖然としてしまいました・・・

投稿: ponta | 2011年4月19日 (火) 01時00分

pontaさん、情報ありがとうございます
おお!これはスゴイ!
おっしゃるとおり、ちょっと読みづらいですが(笑)、明日にでもきちんと調査報告書の内容、確認しておきます。これも中小上場会社の内部統制を考える好例かも。。。

投稿: toshi | 2011年4月19日 (火) 01時39分

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