« 有事の株主総会参考書類WEB開示に関する素朴な疑問 | トップページ | 原子力損害賠償法に関する私の解釈(単なる試案ですが・・・) »

2011年4月30日 (土)

詳説 不正調査の法律問題

本日の日経WEB「みずほ銀障害 なぜ大規模に 経営陣『勇気』欠く」は、調査報告書を読むようで、非常に興味深い記事です。きちんとした事実認定ができないと、深い原因究明に説得力が出ないと言われますが、こうやってプロセスを丹念に遡りますと、有効な再発防止策に向けて建設的な議論ができそうであります。

Huseityousahouritu さて、書店に並んだらすぐに読みたい、と思っておりました新刊書、GW初日を利用して一気に拝読させていただきました(230頁程度)。文句なし、上場会社等の総務、法務、内部監査等に携わっておられる方々へおススメの一冊であります。

「詳説 不正調査の法律問題」(小林総合法律事務所編 弘文堂 2200円税別)

NHK監査委員等を務めておられる小林英明弁護士ほか、日ごろ不正調査業務に携わっておられる小林総合法律事務所の弁護士の方々による不正調査マニュアルであります。題名は「法律問題」とありますが、とくに法律専門職が検討すべき理論とか実務、というよりも、実際に不祥事が発生した場合に、企業がどのように「自浄能力」を発揮して、降りかかっている危機から脱するか、という危機管理を指南することに重点が置かれています。もちろん、我々のように社内調査委員会を支援したり、第三者委員会の委員に就任した際の調査にも非常に参考になり、示唆に富むものであります。とくに、調査主体となる社員にとっては、調査を進めるにあたって「後押し」してくれる内容が豊富です。

どのように「後押し」してくれるかといいますと、まず不正調査に関連する判例が非常に豊富に引用されている、ということです。我々も調査のときに「こういった場面で先例となるような判例はないものか」と思案することが多いのですが、私も今まで気づかなかった多くの判例が紹介されており、これはとても参考になります。次に、不正調査の方法ですが、さすが検察官ご出身の執筆者の方がいらっしゃるので、「不正調査の謙抑主義」が貫徹されています。強制力行使の「おそろしさ」を実際に経験されておられるので、調査対象側の行動に対しての「人権配慮」が行き届いており、企業側が不正調査の失敗によって逆に負担してしまうリスクへの配慮が参考になります(つまり、この程度であれば、調査を続行しても大丈夫・・・という線引きが明確)。

また、不正調査の実務経験に基づく執筆だけあって、筆者の自信に満ち溢れた解説が印象的であります。したがって、たとえば日弁連第三者委員会ガイドラインの考え方には賛同しない、と明確に記されている個所が複数あり、また日本監査役協会「監査役監査基準」における監査役と第三者委員会との関係に関する見解とも明確に異なる意見が明示されています(たとえば不正調査における対象社員へのリーニエンシーの考え方など、なかなか説得的でおもしろい)。どこかの書籍から引用したものではなく、230頁、全編ほぼオリジナルな意見が詰まっておりますので、読んでいてまったく飽きさせないものでした。長期に亘る不正行為はどこまで遡るべきか、監査役監査と不正調査の関係は、ヒアリングの対象者から「録音させてほしい」と言われたときの対応は、社内調査は誰がヒアリングするのが望ましいか、いつ対象者を呼び出すか、調査期間中別の不正が発見されたらどうすべきか、認定した事実が後で間違っていた、とわかったらどうすべきか等、これまでのマニュアルよりも相当程度突っ込んだ解説がなされております。

私的に最も収穫だったのは、第三者委員や社内調査委員会支援において、最初に代表者に対して、「なぜ社員や他の役員に調査全面協力要請をかけてもらわないと会社が困るのか」その説明理由が理解できたところです。これまでのマニュアルでは、社長の一声が調査を円滑にする、というところまでは書かれているのですが、ではどうやって社長を説得するのか、というところまではヒントすらありませんでした。この本にはそのヒントがいくつか示されております。

ただ、良い点ばかり書いてしまいますと、「ちょうちん書評」になってしまいますので、物足りないと感じた点を少々。ひとつは、社員の不正調査については非常に分厚い内容でありますが、私が一番悩んでおります経営トップの不正調査については、すこし薄いかなぁと。内部通報窓口業務をやっておりますと、そのまま調査業務に移行する場合もあり、専務の不正問題や学校法人の理事クラスの大学教授の不正調査など、いわば経営トップへの調査を敢行しなければならない場面があります。また子会社のトップの不正問題などについても悩みが多いです。こういったケースは企業の危機でありまして、社内調査がなかなか機能しないのでありますが、監査役や代表者(理事長)を中心として危機を脱した場面もございますので、それなりにノウハウを語ることはできるのではないか、と。もうひとつは、やはり「異常な兆候」に関連する課題についても触れていただきたかったと。内部通報等、不正の端緒についての解説もありますが、受け身で対応するだけでなく、CAATの活用など、不正の端緒を積極的に見つけ出すことも「不正調査」の範疇に含まれるのではないか、と考えております。ただこれは、クライシスマネジメントというよりも、リスク管理のひとつなので、あえてはずしておられるのかもしれませんが。

「自浄能力」から出発するか、「有事のCSR」からスタートするか、不祥事に直面した企業の対応は様々であります。いずれにしましても、不正調査を中心に据えた本が伝統ある法律出版社から出された、ということの意義は大きいと思います。私自身も、これから本業におきまして、何度も精読させていただき、参考にさせていただきます。

4月 30, 2011 本のご紹介 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/51528038

この記事へのトラックバック一覧です: 詳説 不正調査の法律問題:

コメント

コメントを書く