「便乗V字回復企業」への危惧
東証の決算発表予定一覧表によりますと、いよいよ来週あたりから3月決算会社の開示が本格的に始まるようであります(まだ未定の上場会社さんも結構多いようですが)。このたびは「(発表は)時期にとらわれる必要はない」そうですが、震災が業績に与える影響がどの程度なのか、投資家は注目しているので、できるだけ正確な開示がなされるよう努力していただきたい、というのが世間の期待するところです。
ただ、こういったことを申し上げるのは不謹慎であることを承知のうえでありますが、今回の震災は(被災地だけでなく)全国の上場会社の業績に影響があることはすでに報道されているところでして、そうなりますと「震災に便乗する」情報開示も出てくるのではないか、というのが懸念されるところであります。
便乗の動機づけとして最も強いのが「粉飾隠し」だと思います。これまで簿外債務や循環取引等によって、表に出ていなかった「不適切な会計処理案件」を、今回の震災による業績悪化のなかで一気に解消させてしまうというパターン。監査人も、会社側から「損失はできるだけ保守的に見積もって計上した結果です」と言われれば、(その中に過去の不適切処理案件が含まれていても)文句がいえないのではないでしょうか。また、そもそも業績が悪い、と開示するわけですから、税務調査等によって粉飾が発覚する可能性にも乏しいわけです。
さらにもっとスゴイのが「便乗V字回復」志向ではないかと。業績が今後飛躍的に伸びる可能性はないけれども、今回の震災関連の損失で一気に落としておいて、次年度以降に一気に回復したことを演出する(たぶん、このような手法は過去にも実際にあったような・・・)。経営手腕による業績悪化が株主や投資家から指摘されにくい今こそ、企業業績が向上していないにもかかわらず、企業価値が上昇したかのような外観を作出することを企図する企業経営者も出てくるような気がします。
会計不正事例を学ぶにあたり、私はよく年配の会計士の先生方から
以前から粉飾はたくさんあったんだよ。あんまり問題にならなかったのは、どこの会社も右肩上がりで業績が良かったからだよ。上場のときに無理しても、そのツケを好調な業績に紛らせることで何もなかったことにできたんだよね
と教えられました。ということは、今回のように誰もが業績の一時的な悪化はしかたがない、といった風潮のなかで、過去のツケを紛らせることも、やはり可能ではないかと思われます。また、それは「不正のトライアングル」的な言い方をすれば、「正直に開示しても誰も喜ばない。みんながハッピーになれるウソならば許容されるし、気がついた人がいても黙認してくれる。『企業倫理』という言葉は、事業を継続できる会社こそ言えるのだよ」ということになるのでしょうか。
こういった事態でもまじめに被害状況の把握に取り組み、誠意をもって情報開示する企業と、こういった事態を利用して、さらに不適切な開示をもくろむ企業とを、今後どうやって見分けることができるのか、とりわけ会計監査に携わる方々やアナリストの方々の御意見を拝聴してみたいものであります。そういえば、先の年配の会計士の方々いわく、
僕たちの時代は、経営者と飲みに行ったり、遊びに行ったりしていたから、「こいつ、悪いこと考えとるな」と顔見たらわかった。だから、「社長、ここまでは目をつぶるけど、これ以上の粉飾はダメですぞ」と念押しできた。今は遊ばんから、わからんし、念押しする機会もなくなったなぁ。
ということは、やはり経営者の資質によるところが大きいのでしょうかね。
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コメント
> 震災が業績に与える影響がどの程度なのか投資家は注目している
> できるだけ正確な開示がなされるよう努力していただきたい
東日本方面で苦境にある企業に関係する一人として、
正直カチンときます。
会計士からも被害を受けた事業所の扱いに関して、無茶というか、
心が無いとも思える要求が来てます。
被害の全貌も今後の見通しも、分からないものは分からない。
ですので、いくら「不謹慎であることを承知のうえでありますが」と
断り書きをされても、それは免罪符にはなりません。
こういうことは書かないでいただきたく存じます。
便乗する企業があったとしても、そんなことはどうでもいい、
ごく些細なことだとは思われませんか。
投稿: 機野 | 2011年4月11日 (月) 21時37分
機野さんのお気持ちは理解できます。
ただ、被災者の方々が苦労しているからといって、被害を受けていない方々(被害を受けた方もいらっしゃるかもしれませんが。)行っている被災地の泥棒や義捐金詐欺について、目をつぶる訳にはいかないというレベルと同じではないかと考えております。
実際、帳簿(コンピュータ)が流されたり毀損している、在庫が毀損している、原発の関係で事業所に立ち入れない等々、監査が十分昨日しないことも想定されます。こうした状況を見て、苦しい現状を少しでも楽にしようと粉飾に手を染める可能性は、否定できないのではないでしょうか。
私としては、機野さんのような正面から取り組んでいらっしゃる方がいるからこそ、そうでない方の不正の可能性に触れ、投資家の方等に注意喚起をして、真面目な方が損をしないように、またきちんと対処した会社に投資が集まるように、ということが大切ではないでしょうか。
私としましては、こうした問題意識について萎縮することなく情報を発信する山口先生のファンです。
投稿: Kazu | 2011年4月13日 (水) 11時43分
ちょっと話は違いますが(笑)、私、池田信夫教授のフォロワーなんです。あのひと、間違いもありますが、総じて一つのスタンダードな考え方として信用に足ると思ってます。(支持してるとか、鵜呑みにしてるということではありません)
ただ、この方の最大の問題点は、時たま「心が無いなあ」と思ってしまうこと(笑)。理屈は正しいかもしれませんが、人間はそれだけでは動きませんし、それと関係なく動くこともあります。
「心」…、「愛」というより「気持ち」と言い換えたほうがいいかもしれません。経済を動かすのも会社を動かすのも、その骨幹はひとの気持ちなのです。
私も含め、関東の人間の多くは今も途切れぬ余震のせいで「地震酔い」状態です。決して普通の状況ではない。原発問題もあり心身も感情もおかしくなっております。ましてや東北・北関東は殆ど「戦時状態」です。
山口先生が仰せになりたいことはよく分かりますし、内容に異論はありません。ありませんが、今、まだ、まだまだそれを仰せになる時期ではないように思います。
震災に便乗して業績をよく見せられるぐらいの程度の痛手しか負っていない企業なら、この際どんどん便乗して欲しいぐらいですよ(笑)。いや、笑い事ではありません。本当にこれから訪れる危機的経済状況から考えると、本当にそんなことは、ごくごく些細なことですから。
投稿: 機野 | 2011年4月13日 (水) 23時40分
機野さん、Kazuさん、コメントありがとうございます。
当ブログは、いろんなご意見があっていいと思います。むしろ機野さんのご意見と、私の意見とを比較して、どちらかに収束させたいとの意思もございません。そのほうが読む方にも参考になろうかと。
おそらく機野さんも、私が「仰せになる時期ではない」とおっしゃっても、これからもどんどん発信することを当然と考えてのご意見だと思います。当然、私も今こそこういったことを書くべきだと考えてのことですので、あまり気にしてはおりませんので。
今後とも、よろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2011年4月14日 (木) 01時24分