「法の解釈」よりまず「立法政策」を!~被災地相談を終えて~
ただ今、大槌町から盛岡へ戻ってまいりました。さきほども、報道されているとおり釜石を震源とする余震(震度4)があり、地震に慣れていない関西人としては、不安な毎日であります。大阪弁護士会からの震災支援として、この月末、被災地弁護士相談を担当いたしました。私が担当させていただいたのは、岩手県大槌町、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、町長含め役場の3分の1の方々が津波の犠牲となった町で、震災の打撃が陸前高田、山田町と並び、もっともひどい町であります。
大槌町の「かつて」町の中心部だった場所を撮影
信じられないかもしれませんが、私が立っている場所は、まだまだ海浜部まで延々と陸地が続く場所であります。
大槌町では、津波の直後に火災が発生し、現在も残っている建物は黒く焦げていました。
私が担当した避難所(大槌町弓道場)。3月には250名の被災者の方が寝泊まりしておられましたが、現在は130名ほど。ただ、事前広報により、すでに避難所を退所された方々も相談にお見えになりました。(張り紙のとおり、内部の撮影は禁じられております)
本日(5月31日)が、避難所相談の最後の日(明日からは役場等)でしたが、多くの方々が相談に来られました。二重ローン問題、権利証紛失、特別融資制度、被災者への一時使用による建物賃貸、(夕方に仕事から帰って来られる方が増えるため)労務問題など。
「こちらから、相談者の身の上をあれこれと聞いてはいけない」と研修を受けておりましたが、皆様、こちらから聞かずとも淡々と身の上をお話されておりました。家族がすべて死亡してすでに生命保険金を受け取った方、夫が行方不明となり、なかなか認定死亡制度が適用されない方等々。とりわけ、遠方に出稼ぎに行っていたときに故郷(大槌町)が被災し、妻を思い、死に物狂いで帰ってきたところ、その生存が確認できたと同時に、妻が元の夫(被災者)を相談者所有の空き家に住まわせているのを発見したが、気の毒で何も言えない、せめて(そのまま元夫を住まわせて)建物の所有権は確保できるか、といったご相談には、胸がつまってしまい、涙が出てしまいました(なお、事案自体は守秘義務の関係上、若干の修正をしております)。
大規模半壊と全壊を区域によって一斉認定していること、税金滞納者にも全納者にも支給が平等になされていること等、行政の不平等を訴える声はピークに達しているように感じました。法律相談というよりも、情報提供と心のケアがほとんどでありましたが、阪神淡路大震災のときとは様子が違うことを痛感いたしました。あのときの弁護士の役割は、民々紛争を解決するなかで震災復興に寄与するものでしたが、この東日本大震災では、ともかく現地被災者の声を弁護士会で集約し、これを立法政策への提言に結び付けることが喫緊の課題であると思います。
あまり報道されていませんが、釜石市と大槌町の間にある両石町も悲惨でした。大槌町や釜石市はすでにがれき撤去作業が進んでおりましたが、ここは全く手つかずの状態。沿岸部の町のなかで、比較的復旧の気運で出てきたのが宮古市、釜石市、大船渡市。そして、まだまだなのが大槌町、山田町、陸前高田市。隣接市町村によって復旧の度合いが微妙に異なっていることが、問題を複雑化しているそうであります。また、田老町の有名な堤防が役に立たなかったことは報道されていますが、逆に普代町の堤防は、しっかり津波を押しとどめ、町民の命を救っていたことも、あまり報道されていないようであります。
盛岡から車で片道3時間。今回の被災地相談は、地元岩手県弁護士会の献身的な努力のうえに成り立っております。ボランティアに行く者よりも、ボランティアのお世話をする者のほうが数倍たいへんであることを今回実感いたしました。心より、岩手県弁護士会の先生方にお礼申し上げます。また、明日以降も、被災6市町を中心に被災地相談をされる東北、北海道の弁護士の方々にエールを送りたいと思います。被災地支援に派遣いただいた大阪弁護士会に、今回の情報を忠実に報告し、私の「職分」とさせていただきます。
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