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2011年5月 2日 (月)

広報コンプライアンス-「訂正」と「非開示」のジレンマ

数日前の森トラスト社長さんのインタビュー記事(ロイター)を読んで、「あれ?これってイオンはパルコに圧勝したわけじゃなかったの?ひょっとして森トラストにうまく活用されたの?」といった感想を持ちましたが、5月1日の産経ビズのこちらのニュースを読んで、政策投資銀行の意向も動いていたことを知りました。また、私は従前のエントリーで「イオンと森トラストがいつまで利害関係が一致するかわからないのでは」と書きましたが、やはりM&Aは人間模様によって左右されることが再認識されました。本件につきましては、ずいぶんと冷ややかな目で眺めておられた方もいらっしゃいましたが、本当はけっこう熱かったようですし、記事にあるように「第二幕」も始まる可能性が高いのではないかと。

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さて、トヨタ、東電、ソニーといずれも日本を代表する企業の情報開示の在り方が問題になっております。いずれも企業活動が国民の生命、身体、財産に対する安全を破壊するおそれのある情報を、早期に開示しなかったことへの批判が、とりわけ海外において高まりました。トヨタの場合、製品の不具合については認められなかったという判定が強まりつつあるものの、情報の早期開示を怠ったことが15パーセントほどの企業価値低下につながったとするロイターの報道もなされております。またソニーの場合も、情報漏えい(流出)は人為的ミスではなくハッカーの侵害によるものと言われておりますが、それでもすでに情報開示の遅れについて訴訟が起こされる、と報じられています(私個人としては、事故情報を入手して1週間、というのはそれほど開示が遅延している、というものでもないように思うのでありますが・・・)。

情報開示が遅れる、というのは、それだけ正確な情報を開示したいといった企業側の論理があり、とくに拙速な情報開示によって国民に誤った情報を提供し、後日これを訂正することを嫌うところにあるように思います。ひたすら国民の生命、身体、財産の安全を、有事においても企業がしっかり保護する、ということでしょうか。

しかし、トヨタのリコール事件の後、広報リスクコンサルタントの方のお話をお聞きする機会があったのですが、日本と欧米とでは「リスクコミュニケーション」の手法が異なるため格別の注意が必要、とのお話が印象的でした。たとえばリコール対応の場合、我が国でも消費者庁設置によって少しずつ変わってはきているのですが、日本では正確な情報を企業自身が集約して、リコール対応の必要性を判断し、対応を決断した時点で情報を開示する。しかし、アメリカではリコールの是非は企業と市民が一緒になって考え、そもそも企業活動が万能の会社などありえない、どんな企業でも不具合製品を出したり、ミスが発生することはある、という発想から出発するのだそうです。したがって、市民が企業と一緒になって考えるだけの情報を速やかに提供しないことについては多くの批判が集まる。

情報漏えいや流出問題も同様だそうです。情報流出の疑義が認められた時点で情報を開示し、被害状況などを含めた情報を市民から集約し、市民が自己防衛手段をとる支援を行うのが企業の責務だとか。ここでも、リコール対応と同様に市民の自律の精神が基礎にあるそうです。日本の場合、情報漏えい(流出)事件が発生しても、あまり訴訟にまで発展するケースは少なく、お詫びの文書とともに、500円の図書カードが送られてきて満足する、といったことも聞かれるところです。

事故情報(不祥事情報)開示の在り方は、各国の国民性によって変わってくるのかもしれませんし、消費者保護に関する国の考え方によっても違うのかもしれません。ただいずれにしても、タイムリーな情報開示、とくに不利益情報の開示方法については、今回の東電事故に至るまで、あまりコンプライアンスの視点から議論されたことはありませんでした。東電事故は論外ですが、企業活動が国民にそれほど大きな損失を与えなかった場合であっても、不適切な情報開示により社会的信用を大きく毀損してしまい、企業価値を失ってしまう可能性があることを認識すべきであります。これもおそらく平時からの体制整備の差が生じる問題のひとつなのでしょうね。

5月 2, 2011 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

お国柄というよりは、個別企業の問題かもしれません。
日本ではトヨタ一色でしたが、昨年アメリカの Johnson & Johnson社でも一般大衆薬のリコール問題で大揉めになりました。

2010年6月ごろ正式にリコールされたのですが、09年に一度契約社員が該当商品をこっそり買い占めていた、という事実が発覚して、CEOは豊田社長同様アメリカ議会に呼び出されて、詰問されていました。

J&Jのようなコンプライアンスの鏡と思われていた企業でさえ、こんな状況ですので、残念でした。当社も開示が遅れたことと、製造していた工場が閉鎖された後も、その工場で出荷した製品のリコールを継続していたにもかかわらず、会社側から、十分な説明が行われたと消費者や投資家は思っていないような状況が継続しています(トヨタのほうがその後の説明はしっかりしていたように思います)。

すばやく開示というのは米国といえどもなかなか難しい問題のようで残念です。

投稿: katsu | 2011年5月 3日 (火) 01時35分

情報どうもありがとうございます。
なるほど、お国柄ということまでは言えないかもしれませんね。

私もJ&Jの例は非常に残念でした。ブログでご紹介しようかと思ったおですが、海外事例だったので、原因究明まで詰めきれませんでした。コンプライアンスの教科書には、どれもJ&Jの事例がお手本のように出ていますし。「法令順守」というよりも「広報コンプライアンス」といったほうが適切な事例のように思います。

投稿: toshi | 2011年5月 3日 (火) 19時49分

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