「偽装ラブホ」と「類似ラブホ」では雲泥の差
facebookのほうでリクエストがございましたので、偽装ラブホ問題について一言コメントいたします。ただし、私は行政法に詳しい弁護士でもありませんので、あくまでも個人的な見解であることをお断りしておきます。産経新聞ニュースによりますと、今年1月の風営法改正により、これまで偽装ラブホを経営していた人たちが、ラブホテルとしての営業許可を「駆け込み」取得したために、結局、街中で堂々とラブホテルを経営できるようになってしまい、市民団体から「何のための法改正だったのか?」と批判されている、とのこと。(ニュースはこちら)
この記事のなかで、微妙に使い分けられているようにも思えるのでありますが、偽装ラブホと類似ラブホは言葉としては似ておりますが、法概念としては大きな差があるものと思われます。市民団体の方々が「偽装ラブホ」として問題視しておられるのは、法概念としての「類似ラブホ」のことであり、法概念としての「偽装ラブホ」とは異なるものですね。平成21年7月31日に公表されました風俗行政研究会のこちらの提言書が参考になるのではないかと思われます。「風俗行政研究会」というネーミングが若干「ゆるめ」に聞こえますが、前田雅英教授を座長として、警察庁の方々も委員に参加されています。コンプライアンスで有名な弁護士の方も委員です。
出会い系喫茶及び類似ラブホテルに対する規制の在り方に関する提言
この提言書を読みますと、上記記事では今になって「何のための法改正か」と批判を受けているようですが、すでに平成21年の時点で市民団体の方々は、法改正の問題点を把握されていたようで、反対意見を表明されていたようです。一般にマスコミ等で用いられている「偽装ラブホ」という言葉と異なり、法概念としての「偽装ラブホ」は、ラブホテルの要件を満たすにもかかわらず、そうでないホテルとして(許可を取得せずに)営業しているものであって明らかに違法であり、これは特に法改正以前からも取締りが可能だったものです。たとえば外観はビジネスホテルのように思えるのですが、客室がすべて2名用であり、朝食をとる食堂もなく、部屋には回転するベッドが置かれている(そもそも回転ベッドは消防法上も禁止されておりますが)、といったところかと。
しかし上記のようなラブホテルは、外観がビジネスホテルですから、とくに市民団体からは強い反対が出ることはなく、本当に問題なのは、外観はラブホテルにもかかわらず、食堂をきちんと作っていたり(使わないにもかかわらず)、1名様利用可、と表示していたり、客と対面するフロント設備がある等のためラブホテルとしての風営法の許可を要しない、いわゆる「類似ラブホテル」というものなのであります。ラブホテルなら営業禁止区域内での営業ができないにもかかわらず、類似ラブホということで、堂々と営業ができたわけであります。つまり「偽装ラブホ」はそもそも違法、「類似ラブホ」はグレーだけれどもいちおうは適法、ということでこれは雲泥の差であります。だからこそ、既得権を行政は認めざるを得ず(財産権の保障)、「駆け込み許可取得」の道を用意したものと思われます。罪刑法定主義の要請もあるでしょうし、また何と言いましても類似ラブホ業者の既得権を認めなければ、これまで規制してこなかった行政の「不作為の違法」も問われかねないからではないか、とも推測できます。
たしかに市民団体のように「何のための法改正だったのか」といった批判が出てくるものと思いますが、営業許可取得を促したことは、行政にとっては有意義なことではないかと。また、最近は条例によって類似ラブホテルまで規制しようとする動きなどもみられますので、今後とも行政手法とビジネス法務の関係で注目していきたいと思います。
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