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2011年5月17日 (火)

東電社長はなぜ現場で陣頭指揮をとれないのか?

本日、皆様よく御存じの某企業の専務さんと食事をご一緒したときのお話。私は、コンプライアンス(クライシス・マネジメント)の視点から、(たとえ世間向けのポーズであってもいいので)東電の社長さんは、原発事故の現場で陣頭指揮をとって、これを世間に公表すべきではないか、そういった社長の姿勢があれば、もう少し世間の東電に対する風当たりが弱くなるのではないか、との(とても一般人的な感覚の)意見を申し上げました。ちなみに、これまでの報道によりますと、東電社長さんは、作業現場へ激励に行かれたことはあったようですが、それも「社内の話」とされ、公表されることはなかったもので、ましてや「陣頭指揮」といったことはこれまでなかったように思います。

すると、その専務さんは

「そりゃ無理ですよ。東電くらいの規模の会社になってしまったら、本人が行きたくたって、周りがそれを許しませんから。『社長、それなら私が行きますから』で終わりですよ」

とのこと。電力会社で「原発畑」を歩んできた人は、「不祥事が発生したら責任をとらなければならない」立場にあるので、社長候補のエリートさんは社内で聖域化した「原発畑」を歩んでこなかった、だから陣頭指揮をとれないのだろう、と私は理解しようとしたのですが、そうでもないようです。専務さんによれば、

「たしかに社長さんは、自分の好きにやってあとは辞任すれば済む話です。でも本社の人間からしたら『現場の指揮に社長を行かせた』ということ自体、歴史的な屈辱ですよ。社長の周りにいる将来ある幹部からすれば自分が現場に行ってでも阻止するでしょう。それに、社長は常々、周囲の役職員に『ちゃんと調べたのか?』というのが口癖ですから、周りの者が社長に進言する際には、きちんと調査する。それを冷静に聞くのが社長ですから、少し時間をおいてしまうと行けなくなってしまうんですよ。」

そんなもんなんでしょうか。そういえば、社内の重大な企業不祥事が社長の耳に入らないのも、担当役員が「もう少し正確に事実調査をしてから社長に伝えよう」といった、自身の勇気のなさを正当化する理由から、というのがよくあるケースであります。もっと早く社長の耳に入れば不正を隠ぺいすることなく公表できたのに・・・と思うことがよくあります。

しかし今回は有事です。平時なら専務さんのおっしゃることもわかるのですが、このような有事なら、周囲の制止を無視してでも、社長が現場へのりこんで陣頭指揮をとってもいいのではないでしょうか?こう疑問を申し上げたところ、この専務さん曰く、

「先生、やっぱりサラリーマンの経験がないから甘いですわ(笑)。よう考えてみてください。周囲の意見をきかずに、みずから現場で陣頭指揮をとるような人がサラリーマン社長として出世できると思いますか?たしかにうちの会社にも、東電にも、そういった人はいますよ。でも、平時にそんな人はうっとうしくて、使い物にならないのですよ。有事に必要とされるような人は、いまごろは関連会社ですよ。周囲に優秀な役職員を置いて、的確な意見を集約して、冷静に経営判断をすることで上ってきた人は、有事にも同様の行為しかできないでしょう。」

「土下座はやれと言われたらやれますね。土下座というのは、屈服する姿勢ではないでしょう。まだまだ相手に要求する(相手を屈服させる)ことがあるからできるんですよ。国会議員だって、選挙前日ならやるでしょ?当選御礼ではやりませんよね。心から謝罪する気持ちだけだったら誰もやりませんよ。」

なるほど・・・・・・・・。そういえば刑事弁護人をやっていても、被害者と示談したいときには被告人は土下座して謝罪しますけど(情に訴えるのでしょうね)、示談ができなかったり、示談が終わった後にはしないですね(絶対に、とは申しませんが・・・)。企業組織の力学は在野の一介の法曹にはわからないものであります。

5月 17, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

コンプライアンスについて平時から企業の体質を鍛えておく。そのような発想も必要、と素人にも思わせるような専務さんの実話だと感じました。
周囲の意見と異なることを平時においても話し合える、有事にはそれが生きる。そのような風土を目指すことが、日常のコンプライアンス活動の一つだと思いたいところです。自ら現場で陣頭指揮を執るトップをうっとうしく思うことは、サラーリーマンとしての許せる範囲のくつろぎと、越えてはならない不正な一線の、コインの裏表であるように思えました。

投稿: 保険屋さん | 2011年5月17日 (火) 09時35分

普通に考えますと、計画停電対応(当時は)、電力復旧(代替エネルギー調達を含む)、原発事故、ステークホルダーへの説明(資金調達)など諸事項の総合最終判断を下す役割があると思われますので、原発現場で陣頭指揮をとることだけが優先されても、(計画停電の経験者から見れば)電力の利用者としても不安になってしまいます。社員も困るのでは?

判断を下すことが重要かと。陣頭指揮は判断材料の一つを提供する役目。但し、報連相に積極的に関与する姿勢は重要だとは思います。

しかし、ご指摘の通り、官僚的な会社の社長さんなので、体質的に動かない人かもしれませんね。

投稿: katsu | 2011年5月17日 (火) 09時36分

たいへんご無沙汰しております。(オフ会のころがなつかしいですね)今回の記事に思わず反応してしまいました。なにをかくそう、私も有事型人間のひとりとして、社内の機構改革を進言して2年ほど前に関連会社への片道切符となりました。でもなんとか元気でやっております。
その専務さんのお話は真実だと思います。業績が順調なときには数字でモノを考える人が順調に昇進する。でも、この企業にとって何が大切か、というモノを売る精神を大切にしていないと、業績が悪化したときに優先順位を間違えてしまうのですね。不祥事も平気でやってしまう体質です。たぶんこれから内部通報や内部告発が増えるような気がします。
いま、日経WEBで「居眠り八角」という小説が始まりましたね。パワハラの内部通報がきっかけで展開されるドラマですが、この先、どうなるか楽しみです。

投稿: halcome2005 | 2011年5月17日 (火) 11時45分

陣頭指揮はとれないでしょう。ろくに社内の出来事も知らないのだから。現場での対応なんか出来るわけがない。出来ると言うなら、なぜ女性社員は被爆したのか? マスクが足りなかった。こんな理由があるか。これだけで天下りの人間が支配している会社だと分かる。給料カットは法外な給料をもらっている人間は当然だが、末端の人間は低いのではないか?そんな人間からもカットするのか?
話はそれるが自民党の責任はどうなるのだ。高みの見物をしているようだが、福島の原発を認めた時の政権与党は何処だったのか?こいつらこそ陣頭指揮をして原発を収束させなければならない。

投稿: | 2011年5月17日 (火) 16時15分

 有事に必要な人材は会社から追い出される・・・・とってもリアルで、また、納得しました。と同時に、恐ろしさを感じました。
 東電程の会社になると、役員報酬は出世レースの賞金であって、職務執行の対価やリスクに見合った報酬とは言えなかったりして・・・・・・
  

投稿: Kazu | 2011年5月17日 (火) 17時41分

きっと出世レースの方が楽しいでしょうね!有事型の人間は、弁護士か医者ぐらいでしか必要とされないんじゃないでしょうか。現状→将来が頭からこびりついて離れない、言ったって別に誰も喜ばんのに。

投稿: unknown1 | 2011年5月17日 (火) 19時09分

これだけの大惨事を惹起した以上、東電の本社を福島へ移転し
全社員一丸となって取り組まなくてどうする。

投稿: 認知老人 | 2011年5月17日 (火) 19時30分

ごぶさたしてます。
多分陣頭指揮をしない理由は「する能力がない」からではないでしょうか。
現場経験のない、または現場を離れて長い社長がその場の断片的な情報を元にして頓珍漢な指示をした場合に(社会的にも)取り返しのつかないことになのでやはりやめたほうがいいように思います。総理大臣の陣頭指揮と同じですね。
それよりは社長なり経営陣は方針を決めたうえで現場に権限委譲して、原発対策や補償や需給調整に機動的な対応ができるようにしたほうがいいんじゃないでしょうか。
もっとも広報的にはポイントポイントで前面に出ることは必要だと思いますが。

投稿: go2c | 2011年5月17日 (火) 23時02分

皆様、ご意見ありがとうございます。このエントリーはとんでもないアクセス数となりました。たぶんエントリーの題名にもインパクトがあったのかもしれません。

ちなみに、私も「陣頭指揮」はポーズでもよいというイメージを持っていたのですが、それでも無理だろう、といった専務さんのお話でした。その専務さん、私がブログを書いていることなど、まったく知りません(笑)といいますか、ブログなど全く興味ないと思います。

投稿: toshi | 2011年5月17日 (火) 23時20分

ポーズでいいのです。ポーズなら、普通のそこそこの会社なら出来ます。それは社長の個性とも能力とも関係ありません。広報機能の実力次第です。地域独占の公益事業体に広報機能は基本的に不要ですから。

投稿: unknown3 | 2011年5月18日 (水) 01時30分

トップが全部仕切ろうとし前面に出ようとするとどういう悲喜劇が起こるか、この2ヶ月、今の私たちはよく、よく分かってますよね(笑)。

そんなことはしなくていいのです。混乱するだけですから。百害あって一利なし。迷惑です。小回りも利かさないといけない小売業や製造業とは違うのです。

他のかたも書かれてますが、ポーズだけでいい。というか、ポーズは必要、「ボク、陣頭指揮を執ってますよ(なんちゃって)」という。

投稿: 機野 | 2011年5月18日 (水) 01時52分

サラリーマン社長の捉え方がそうだから日本の会社は決断が遅いと言われてしまうのでしょうね。

投稿: 流れ | 2011年5月18日 (水) 09時11分

原油流出事故が起こったとき、BPのCEOって陣頭指揮を執ったんでしたっけ?
広報にはちょくちょく顔を出して、その度に火を噴いていたような印象もありますが……
「日本のサラリーマン社長だから」というのは思考停止にしか思えないんですけれどねぇ。

そして、恐らくBPのCEO報酬は東電の社長報酬(2010年度で65百万円程度)よりはるかに高いですし、東電の役員は毎年自社株を結構買っているので(単純計算で社長が限度額の12百万円程度)、役員報酬の仕組み的にはあまり責められるところはないかと個人的には思っています。

投稿: kazemachiroman | 2011年5月18日 (水) 11時52分

何でも知ってる社長が現場に行くのはいいが、
経営しかしらない社長が来たら邪魔。
現場でもヒラメで出世したリーダーは居ない方が
全然いいしね。

投稿: unknown1 | 2011年5月18日 (水) 17時33分

先生、ご無沙汰しております。

社長さんは、現場で陣頭指揮をとるといったパフォーマンスをするよりも、定例会見を行ったり、みんなが納得する状況報告をしていれば、それが一番のパフォーマンスになったのではないかと思います。
要するに、陣頭指揮をとろうがとるまいが、東電さんの外部へのアピール力が非常に弱かったことが問題なのだと思います。

投稿: m.n. | 2011年5月18日 (水) 18時13分

東電社長は陣頭指揮を執って、自らが被爆して来い、死んで来いということです。実際に現場で指揮を取る必要は無く、現場に行って責任を取って被爆してこいって話なんですよ。


東電は、会長さんを守ればいい企業なので、社長を現場待機させてしまえばいいんじゃないでしょうか?

投稿: ターナー | 2011年5月24日 (火) 02時08分

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