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2011年5月11日 (水)

ユッケ食中毒事件-厚労省の見解変更は「後だしジャンケン」ではないか?

当ブログ的には富士バイオメディックス粉飾決算事件や債権法改正中間論点整理に関する話題を取り上げるべきなのかもしれませんが、ユッケ食中毒事件につきまして、どうしても個人的には興味があるもので、またまたそちらの話題でございます。

すでに申し上げたとおり、FF社の代表者の方のキャラクターがマスコミ各社を本気にさせてしまったばかりに、皆さまご承知のとおり、FF社や(生肉販売業者である)Y商店に関する不祥事の新事実が連日報道されております(やはりマスコミはコワイ・・・)。生食用として販売したことを示すメール、飲食店側でトリミングは不要と指示されたようなメールなど、どうも最近の報道内容からしますと、FF社よりもY商店のほうにマスコミの目が向いているようにも思われます。(5月11日午前追記:産経ニュースによりますと、平成21年の東京都調査結果では、約7割の飲食店が、卸から「生食用です」と口頭等で説明されればお客に出す、と回答しているそうで、こういったアンケート結果からみてもY商店側に目が向くことになるのでは)

FF社の手元にそんなメールが存在するならば、最初の記者会見のときにマスコミに示しておけばよかったのに・・・・・と第三者的には思うのでありますが、時間的な余裕もなく、FF社の代表者としては、おそらくそこまで頭が回らなかったのかもしれません。しかし5月2日の記者会見の際、このメールは経営陣からマスコミに示されたことが5月3日の中日新聞ニュースで明らかになっております。つまり、「生食用」としてFF社はY商店から買い受けたのである、またY商店からトリミングは不要だということの指示を受けたから、それまでやっていた細菌検査も、飲食店におけるトリミングもマニュアルからはずしたのである、というFF社側の主張を裏づける証拠として、メールを示したのですね。

こういった方向性からしますと、FF社として業務上過失致死傷を基礎づける根拠事実が存在しないのではないか、ともいえそうな気がしてきます。

しかしここで不思議なのは厚労省の見解の変更。本日(5月10日)の山形新聞のニュースによりますと、山形県の担当者が、厚労省の「生肉に関する衛生基準の解釈変更」によって、たいへん困惑している、というニュースです。一部だけ引用しますと・・・

県は9日、あらためて厚労省に衛生基準を確認。同省の判断のあいまいさに振り回された県の担当者は「生食用の表示がなくても飲食店での処理が適正であれば生肉を提供できるとの見解だった。これまでの指導内容と異なる回答で困惑している」と述べた。

厚労省は新たな解釈基準を5月6日の午後6時にHP上で公表したので、それまでの山形県による検査が無意味なものになってしまったそうであります。この厚労省のリリースは合同捜査本部の一斉捜査が開始された直後、ということになります。

その衛生基準の見解変更といいますのは、従来は生肉流通に係る衛生基準に基づく検査にあたっては、「生食用」という表示の有無を調査して、その表示がない場合には販売もしくは提供してはならない、ということを重点とするよう指針が出ていたそうです。しかし、今回の厚労省見解では、生食用という表示自体にはそれほど意味がなくて、たとえ生食用という表示があってもなくても、実際に販売業者、飲食店がトリミング加工や調理器具の衛生チェックを履行しているかどうかを中心に調査する、というものに変わったそうであります。

しかしそうなりますと、FF社の立場が不利になります。FF社はY商店の「生食用である」「トリミングは不要である」とのメールを信じて提供していた、といった主張をしていたのですが、そもそも表示はそれほど重要ではない、むしろ実際に衛生基準に準じたチェックを行っていたかどうかが重要なのだ、ということが厚労省見解として出てきましたので、これは業務上過失致死傷罪における「過失」を裏付ける事実が変わってくることになります。たとえば捜査機関が「本件はFF社とY商店の過失の競合によって被害が発生したものである」といった捜査方針をとっているならば、FF社がたとえ生食用であること、飲食店側でのトリミングが不要であることを信じていたとしても、衛生基準の重要性は実際にトリミング加工を飲食店側で行うことにあるわけでして、FF社経営陣の注意義務違反が問われやすくなるものと思われます。

前のエントリーで述べたとおり、生食用牛肉の衛生基準の内容からすると「食品偽装」というよりも「性能偽装」に近い偽装が行われるものと思いますので、この厚労省の見解の変更自体は私も正しいのではないか、と思います。しかし、メールの公表→捜査の開始→厚労省の基準解釈の変更、といった時系列からみますと、これはFF社経営陣の刑事責任が認められやすくするための厚労省の意図的な後出しジャンケンのようにも推測されます。いずれにしましても、今後FF社経営陣に業務上過失致死傷罪が立件されることがあるとすれば、規制ではなく、行政指導の根拠にすぎない衛生基準の解釈が問題とされる可能性は十分にあると思います。O-111感染ルートが未だ明らかにされていない現時点においては、FF社経営陣の刑事立件は相当高いハードルがあるように感じられます。

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コメント

たいへん興味深く拝読いたしました。ただ、先生の読みは甘いと思います。厚労省の見解変更は自省への責任が及ぶことを回避するためでして、こういったことはよくあると思いますよ。朝日新聞が報じているとおり、外食部門でのトリミングを、加工業者と重ねて行う必要があったのかどうか、そのあたりの指導についてはあいまいなままです。重ねてトリミングを行う旨指導していた、という既成事実を作っておかないと、今後は厚労省に火の粉が降ってくる可能性があります。
厚労省としては、フーズフォーラスの経営者が刑事責任を問われようが、問われまいが特に関心はなくて、自身に責任がふりかかってくることだけは避けたい、ということで見解変更に至ったものです。

投稿: kureha | 2011年5月11日 (水) 12時05分

 どこかの記事で、FF社さんはY商店に乗り換える前に、コンサルさんに信奉して、飲食店で収益を上げ儲けを出すために、「店舗にはそれなりの給料を払わなきゃならない料理人や、食材を捌ける職人を置かないシェフレスだ!」と、店舗全ての運営をバイトスタッフでまわす事が出来ないと、出店ペースが落ち株式上場が早急に出来ない。そんな事が書いてありました。そしてバイトスタッフを競わせるために、社内資格制度つくり、肉に触れる人など店内でも賃金で格差をつけて、限界まで非正規スタッフの力を出させる。そんな戦略だったと。
(まぁ、いくらがんばっても料理人や職人の給料に届かないんだろうが・・・)
 いつもこの手の問題は、罰せられ叩かれなきゃならない事件を起こした側に関係する人達が、複数の民間会社に別れ、そして基準をつくり業者を指導したり規制する行政側も何かしら責任がある!という構図に持っていきがちなため、どんどん話が拡大し、どこの組織の責任割合で大きいか?綱引き状態に。
 そうなると、実質鳴くのはワリを喰ってしまう被害者、個人となるのでしょう。どうしても個人vs組織の話になると、感情的な個人は放置プレー。まずは、現行のルールや制度、ましてやそれらの運用が適切であったのか?まで争点になってしまう。死んでしまった人には気の毒ですが、傍観者から見たら、新しい事件が起きるので、どんどん時間とともに興味が希薄になっていきます。こんなことに巻き込まれたら、最後、ろくな事、目にならんわー的な居酒屋トークで終了。
 

投稿: う~ん不快ぃいい♪ | 2011年5月11日 (水) 17時04分

或る某牛丼チェーンの店舗だけが何故夜間強盗に襲われるのか?
(それはその企業だけ、深夜、一人店員にしているから。強盗の被害額より深夜増員するほうが桁違いに費用が掛かるゆえ、増員という対応策を取らない)

…というのを思い出しました。

投稿: 機野 | 2011年5月11日 (水) 23時49分

皆様コメントありがとうございます。このエントリーは、ものすごいアクセス数となりました。KUREHAさんのコメントは午前中だったので、そのあたりも読まれていたのかな、と。
日本は小さな政府が期待されているのか、大きな政府が期待されているのか、報道されているところからはよくわからなくなってきました。

投稿: toshi | 2011年5月12日 (木) 01時24分

厚労省の見解変更は、内容もタイミングもいたって適切なものです。食中毒を出さないことが基本的な命題なわけですから、本来、行政に言われなくても業者側がプリンシプルベースで実質を担保すべきことです。
また、過失の有無の評価は行為時点の事情に基づきますので、法的評価を左右するというのはちょっと大袈裟であり杞憂です。

メール文面に関するマスコミ報道はややミスリーディングな気がしています。私がニュースソースを見る限り、「ユッケ用のサンプルができました」「歩止り100%」等と書いたメールが存在する、という事実があるだけであって、トリミングを卸売店で行うことについて真の合意形成(原料の仕様または業務委託における役割分担)があったかどうかは法的評価の問題です。過失の有無の評価に関しては、表面上のやり取りの裏にある実態、例えば、歩止り100%の生食用肉が当該価格で買えると真に信じたのか半信半疑だったのか、信じたことに問題はなかったのかが争点です。
大麻の種を売買する際、売り手も買い手も「観賞用」と言い合うのが一般的なようですが、これと似ています(勿論程度は異なります)。暗黙の了解というやつですね。
表面上のやり取りがどうであっても、トリミングや細菌チェックをどちらが担当するかは実際宙に浮いていたという可能性は十分あります。過失の競合(双方共に結果回避義務違反があったか否か)に関して注目すべきはこのあたりではないでしょうか。

投稿: JFK | 2011年5月12日 (木) 06時25分

はじめまして。私は地方で焼肉屋を20年営んでいるものです。
20年の間にチェーン店化し、いま4店舗営んでおります。
その間、保険所から様々な形で衛生面の指導を仰ぎましたが、
私の記憶する限り、「生食用の肉は出さないように」と言われた事はありますが、「生食用で提供する時はトリミングするように」と言われた記憶は一度もありません。
何も知らず、通常の作業の一環としてトリミングは店内で行ってはいましたが、規則としてあったことは恥ずかしながら今回初めて知りました。知り合いの同業者に聞いても同じような感じです。
ちなみに今、ユッケは出してません。

投稿: 通りすがり | 2011年5月12日 (木) 16時46分

通りすがりさん、情報ありがとうございます。
お書きになっていたメールアドレスから、どちらのチェーン店か判明しますので、こちらで削除させていただきました。

投稿: toshi | 2011年5月12日 (木) 16時57分

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