キッコーマン野球賭博事件にみる形式的違法放置のリスク
東電の株主総会が開始される時刻に、私が役員を務める会社も株主総会が始まりましたが、お昼前には終了しました(ホッと一息・・・・・)。
さて、「コンプライアンス経営は難しい」シリーズでございます。すでに各社ニュースで報じられておりますとおり、キッコーマン食品(キッコーマンさんの関連会社)の工場勤務社員64名(元社員4名を含む)が、野球賭博被疑事件で書類送検された、そうであります(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。胴元となった社員は逮捕されたものの、他の職員はほぼ事実を認めているとのこと。1口500円で総額135,000円、「ほんのお小遣いかせぎ」のつもりだったのでしょうが、これだけ大きく報じられますと、企業コンプライアンス問題として無視できないものとなってしまうようであります。
このニュースに触れた方々の印象としては、「この程度のお遊びで、なんで書類送検なの?どこでもやってるでしょ。これくらい大目に見てやれよ」というところではないでしょうか。胴元となった社員は、トイレや食堂などで参加者を募っていた、とのことですから、胴元に限らず書類送検された64名の方々も、同じような感覚で10年前からの恒例行事として遊興していたのではないでしょうか。発覚したのはおそらく工場職員による内部通報もしくは内部告発があったものと推測されます。
私の拙い講演をお聴きになった方でしたら、すでに企業リスクについておわかりかと思いますが、実はこういった現場社員による形式的な不正を放置するリスクというのは結構、会社にとっては問題でありまして、最近でも、某上場会社の代表取締役の方が「現場社員による工場廃棄物の無断持ち帰り」について、自社の内部通報制度を活用した、というお話もございます(当番を決めて、工場から出る廃棄物を持ち帰り、処理業者に売却したお金を現場職員の送別会費用に充てている、というもの)。
こういった不正を放置するリスクといいますのは、現場の軽微な不正を放置していては社内にコンプライアンス意識が徹底しない、という「もっともらしい」理由もあるのですが、実はもっと深刻なものがございます。それは、先の廃棄物処理問題もそうですが、せっかく全社あげて反社会的勢力との絶縁を実現した、という矢先に、現場において反社会的勢力との癒着が生じるリスクがある、というものであります。ひょっとすると、キッコーマン事件におきましても、警察・検察が小さな野球賭博にも厳格な対応を示したのは、大手企業において反社会的勢力との癒着の温床となる賭博からは隔絶させる必要がある、と考えたためではないでしょうか。
また内部通報窓口の経験から申し上げますと、昨今のパワハラ問題への社会的関心の高まりもコンプライアンスリスクとなります(この7月からは厚労省においてパワハラ円卓会議が設立され、今年度中には提言がなされるとか)。たとえば外食産業におきまして、頭の痛いコンプライアンス問題のひとつが現場社員の無銭飲食、残食品持ち帰り、というものがあります。現場では「持ち帰り、ただ飯あたりまえ」という風潮などもあり、まじめな社員や新入社員にも、これを勧誘するのであります。こういった違法行為の強要は、まじめな社員さんにとっては非常に苦痛を感じるものであり、最近はパワハラにまで発展するケースもあります。もしキッコーマンの件が内部通報・内部告発によるものだとしますと、こういった社員の精神的苦痛から生じたものと思われます。現場の雰囲気に耐えきれず、内部通報を行う社員も増えており、そのようなところから現場における長年の不正が発覚する、ということもございます。
そしてもう一つのリスクが「二次不祥事リスク」であります。力士の野球賭博事件における警察の捜査(携帯電話の解析)がきっかけとなり、協会に蔓延する八百長事件が大騒動となった大相撲協会の事例が典型例です。軽微かつ個人的な不正について警察や検察が捜査をすることにより、いままで表面化していなかったような(別の)大きな不正が見つかる、という例は企業不祥事でも数多く見受けられます。警察や検察としても、見つけた以上は黙認するわけにはいかず、会社自身で調査するなり、告発するなりして、不祥事の公表を勧める事態となるわけであります。これは結構シビアな問題でありまして、まさにコンプライアンス経営のむずかしさを物語るものです。
今回の件も、実際に個々の社員の刑事処分とまではいかないものと思いますが、「この程度なら」という軽い意識のもとで職場の不正を放置しておりますと、大きな企業不祥事に発展してしまう可能性があることが理解できるものと思います。コンプライアンスリスクは、社内の至る所にころがっていることを認識していただければ、と。
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