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2011年6月15日 (水)

フツーの会社も「焼肉酒家えびす」と同じ運命をたどるのか?

本日(6月15日)より、いよいよ2011年の株主総会シーズンが本格化するため、本業に近いお話を書こうかと思っておりましたが、ちょっと気になるニュースが報じられておりますので、ユッケ食中毒事件関連についてのエントリーとさせていただきます。169名の食中毒被害者(6月10日現在)を出したユッケ集団食中毒事件に関連するニュースでありますが、昨日(6月14日)深夜の各紙報道によりますと、生食を提供している52%の飲食店が国の衛生基準を満たしていなかった、とのことであります(厚労省の調査結果の発表によるもの)。ちなみに東京や大阪では約80%の飲食店に違反がみられた、とのこと。

「焼肉酒家えびす」を運営するフーズ・フォーラス社は経営再会を断念し、60名の社員全員を解雇した、とのことであります。提供した生食肉により4名もの犠牲者を出した以上、これはやむをえない事態といえるかもしれません。ただ、被害者に対する損害賠償金の支払も困難になったと思われますので、被害者の方々はやり場のない怒りが残ることとなります。

ただ、冒頭の調査結果、および警察の捜査経過(まだ明確な結論は出ておりませんが)などを考えますと、フーズ・フォーラス社と同じように、生食の衛生面に十分な配慮をしていない飲食店は全国に多数存在するわけでして、固有の違法事実が特定されていないフーズ社の経営者としては、なぜ自分の店だけでこのような事故が発生したのか、本当に運が悪かった、という気持ちになっているのではないでしょうか。現に、解雇されたフーズ・フォーラス社の従業員の方々には、すでに大手飲食チェーン店より採用募集の声がかかっているそうで、「従業員は何も悪くない」といった気持ちをお持ちの同業者の方々もいらっしゃるようであります。

もちろん、国の衛生基準を満たしていない生肉の取扱いをしていた以上、フーズ社は悪くなかったとは言えないはずであります。しかし、なぜフーズ社の提供した生食だけに、このような惨事の要因が潜んでいたのか、そのあたりが解明されない以上は、どこの飲食店でも起こりえた事件であり、他店としましては、たまたまY商店から生食用牛肉を納入しなかったことで助かった、だけに過ぎないのではないかと思われます。

コンプライアンス経営に関する講演をさせていただくなかで、よく「形式的違反を放置しますか?」というお話をいたします。どこの会社にも、「同業者も同じように放置しているから」とか「違反していても、とくに誰かに迷惑をかけないから」といった理由で、そのまま放置されている形式的な行政取締法規違反が存在します。建築基準法違反の建物、消防法違反の付属設備、労基法違反の労働慣行、風営法違反の営業形態、そしてマニュアルに反した遊戯施設の運営などなど、挙げればきりがありません。それらの形式的な法令違反状態は、たしかに普段の企業活動では何も問題となることはなく、事業リスクに直面する可能性に乏しいものであります。

しかし、今回のフード社のように、他の飲食店でも同じように衛生基準は満たしていないから、というだけで普段は問題がない企業活動であったとしても、いざ自社内で事故が発生し、消費者に多大な迷惑をかけてしまえば、これが命とりになってしまうわけであります。「俺は悪くない、たまたま運が悪かっただけだ」と人から同情してもらおうとしても、やはり形式的にでも法令違反(もしくはルール軽視の企業対応)が見て取れるのであれば、「それはルールをきちんと守らなかった自分が悪い、人もやっているから、というのは理由にならない」わけでして、だからこそ、平時より社内を見回して、放置されているような形式的な法定違反は存在しないか、十分に配慮する必要があると考えます。

どうしても、このように悲惨な事件が発生してしまいますと、だれの責任なのか「犯人捜し」が始まります。そして一般社会的な見地から、犯人と思われるものが特定されますと、そこに批難が集中してしまい、その背後にある構造的な問題が見失われてしまいます(つまり、効果的な再発防止策が検討されなくなるため、また同じように悲惨な事故が発生してしまいます)。とくに今回のフーズ社の事件では、代表者が特有のキャラクターの持ち主であったようにも見受けられましたので、その責任批難の対象が容易に特定できたように思われます。しかし(前にも書きましたが)ひとつの責任追及のターゲットがみつかった場合には、運よく摘発を免れた同業者は胸をほっとなでおろすことになろうかと。そう思いますと、ユッケ食中毒事件というのは、ゾッとする事例であります。このフーズ社と同様の運命のたどり方は、おそらく当ブログをご覧の皆様の会社でも十分に発生可能性があるのではないか、と考える次第であります。

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コメント

この事件に関して気になるのが、役所関係です。

飲食店は、開業にあたり保健所の許可を必要とするし、立ち入り検査をすることができると考えます。問題あれば、営業の全部若しくは一部を禁止し、若しくは期間を定めて停止することができる。

一般の人が、ユッケを安全と考えてしまっても、保健所他は危険性を予測して、立ち入り検査をし、例え罰則がなくても、その事実を公表し、飲食店に是正を求め、一般に注意を換気する必要性や義務があったのではと思うのです。

単に保健所を批判するつもりはなく、何故そのような動きがなかったのか(あるいは、そう考える人がいても、役所としての動きができなかったのか)、原因を背景を含めて究明させる必要があると思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2011年6月15日 (水) 14時10分

コメントありがとうございます。保健所への批判ではない、というご意見まで含めて、私はコンサルタントさんとほぼ同じ意見です。

対策として「できること」と「できないこと」を区別する勇気が必要だと思います。そうでなければ、再発防止は困難ではないかと。

震災におけるBCP問題や、情報開示に関する東電問題なども同様だと思います。組織構造的なところの不備に勇気を持って疑問を投げかける人たちがどれだけいるのか、そのあたりがコンプライアンス的発想として重要ではないでしょうか。

投稿: toshi | 2011年6月15日 (水) 14時31分

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