事業報告「社外役員に関する事項」の有用性ってどうよ?
また今年も暑い中、定時株主総会のため、D市民会館にやってくる季節となりました。昨年は180名ほどの株主の方々が会場におみえになりましたが、今年はおそらく(諸事情ありまして)200名を超えるのでは・・・・と思いながら、社外監査役として、前日の会場リハーサルに参加いたしました。
最新号の日経ヴェリタス(172号)では、日本経済研究センター主任研究員の方が「社外役員、姿の見える活躍を」と題して、会社法上では社外役員の活動状況の開示が義務付けられたにもかかわらず、取締役会への出席状況程度しか活用されていないことを指摘され、
「質的な貢献に関して事業報告に抽象的な記述しなないのは、特筆するほとどのすばらしい活躍をしていないからだと考えてもいいのかもしれない」
と締めくくっておられます。
私はといいますと、招集通知記載の「社外役員の状況」欄を確認したところ、取締役会出席率はちょうど80%、ということでして、まずます・・・といったところかと。ただ今年は諸事情により、監査役と会計監査人との連絡協議会や経営者を交えてのミーティングが多数回ありましたので、いろいろ考える時間も含めますと、7年間でもっとも監査役としての業務に時間を割いたことは間違いないと思います。
ところで、「活動状況が義務付けられた」とされる根拠であります会社法施行規則124条4号では、社外役員の活動に関する開示事項が規定されておりまして、役員会への出席状況のほか、発言状況、当該社外役員によって重要な業務執行の決定が行われた場合にはその事項について、また不当、不正な業務執行を予防したようなことがあれば、その事項について記載することが求められております。こういったことを開示することで、社外役員の活動状況を株主が把握でき、社外役員の選解任権行使に役立てることが期待されているものと思われます。
しかし、これは前からずっと思っているところでありますが、実際に自分が社外役員を経験してみると(とても活躍しているとは申しませんが)、はたして社外役員の活動、とくに「質的な貢献」というのは「開示規制」になじむものなのか、常に疑問を感じるところであります。そもそも社外役員が発言した内容によって重要な業務執行が決定される、といったことは、インサイダー情報に関わるようなものであって、会社として「おいそれ」と具体的な内容を記載できるようなものではありません。たとえすでに公表されたものであったとしても、社外役員の意見を受けて、実質的に業務執行を決定するのは社内役員でありますから、社外役員の発言はあくまでも「参考意見」として扱われるのではないでしょうか。ましてや、「不当、不正な業務執行」につきましては、事後対応くらいであれば記載できるでしょうけど、「予防しました」など、はたして不祥事が早期に発見されて、重大事に至らなかったことをどこの上場会社が事業報告に記載するのでしょうか?(不祥事公表義務などというものを、取締役の善管注意義務のひとつとして認めるのであれば別ですが・・・)また、私もそうですが、社外役員の中には「独立役員」として証券取引所へ届出をしている者もいるわけでして、独立役員である旨も事業報告に記載されております。いろいろと株主のために発言するのは、私の意識としては独立役員だからこそ発言する意識が強いわけで、これは会社法上の開示の対象とはならないようにも思われます。質的な貢献という意味では、この独立役員としての発言のほうが株主の関心が高いと思われるのですが・・・。
役員会への出席状況、というものにしても、「名ばかり社外役員」を防止するインセンティブ程度にはなると思いますが、ホンネで申し上げれば、あまり社外役員の有用性判断には役に立っていないと思います。もちろん取締役会が実質的な経営判断を決する場となっている企業もあることは承知しておりますが、すでに回覧済の議案についての形式的な決議の場となっている企業も多いと思われます。そのような企業において、社外役員が本当に当該会社の人事、報酬、監査に影響を及ぼす、たとえそこまででなくても、重要な意思決定に参画するためには、経営会議や常務会、執行役員会、(監査役ならば)会計監査人との報告会に参加することのほうがよほど重要でありましょう。そのあたりは開示規制というよりも、説明責任を果たすなかで語られることでありますから、現実は「出席状況」「発言状況」程度の開示規制でやむをえないのかもしれませんね。
ダスキン株主代表訴訟で、ひとりだけ被告とならなかった(当時の)社外取締役の方のように、問題が発生してから社外役員の活躍が見えた、というのが真実ではないか、と。社外役員の「姿の見える活躍」というものは、平時の開示規制では期待できないように思えて仕方がございません。
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コメント
山口先生、今回のエントリー、興味深く読ませていただきました。
私の感想は、若干長くなってしまったので、僭越ながらTBさせていただきましたが、結論として、山口先生のおっしゃるように、社外役員の「姿の見える活躍」というのは、平時の開示規制ではなかなか期待できないのが現実ではないかな、と思いました。
ただ、日経ヴェリタスの記事の締めくくり部分を無碍に無視することもできないなぁ、という思いも他方でありまして、個別論の開示・説明の代わりとしての外観的信頼性の確保といいますか、そういう点の努力も企業側では欠かせないのかもなぁ、などと考えてしまいました。
余り付加価値のある感想では無く恐縮ですが、今回のエントリーが興味深かったものですから取り急ぎ。
投稿: 活字フェチ弁護士 | 2011年7月 1日 (金) 00時47分
活字フェチ先生、いつもコメントありがとうございます。いえいえ、私のほうがたぶんひねくれた意見であって、先生のご意見のほうが穏健なものだと思います。現状の制度であっても、それなりにガバナンス向上のためには役に立っている部分があることは認めてよいのでは・・・と思っております。ただ今後はもう少し工夫をしないと、ほとんど意味をなさない制度になってしまわないかと少し心配しています。
しかし「エクスチェンジ・テンダー・オファー」のお話は参考になりました。活字フェチさんの、こういったブログネタが一番好きです。やっぱり実務家の経験・知見に基づく話は楽しいですね。今後も、このてのネタ、期待しております
投稿: toshi | 2011年7月 2日 (土) 02時01分