証券市場の監視、「未然防止型重視」に向けた企業の対応は?
今年1月11日の日経電子版ニュースにて、証券取引等監視委員会の不正開示に関する検査が強化されることが報じられ、この7月の機構改革と同時に専門部署が新設される、とのことでありました。おそらく、このSESCの検査強化に合わせて・・・と思いますが、東証自主規制法人(COMLEC)でも、同様に市場監視体制の見直しが進められているように思われます。
本年3月頃に、そのような動きを少しだけ知った次第でありましたが、月刊監査役の最新号(6月号)に、東証自主規制法人常任理事の方による「未然防止型上場管理の取組みと監査役に期待される役割」といった論稿が掲載されましたので、早速拝読いたしました。誤解のないように申し上げると、これまで通り、虚偽記載事案や不公正取引事案の事後的審査(調査)もこれまで同様に鋭意行っていくが、それに加えて今後はこれら証券市場における不正事件を未然防止するための取組みを積極的に行っていく、とのことであります。機構改革を行うSESCも、おそらくこういった未然防止型の市場監視を今後推進していくのではないでしょうか。
では一体「未然防止型」による上場管理とはどういったものなのでしょうか?この月刊監査役で例示されているところは、たとえば①市場関係者との連絡体制の強化、②企業による「不正の早期発見」への取組み促進、③内部統制システムの運用に関する企業のチェック④第三者委員会との連携による原因究明、再発防止策の提言、⑤第三者割当に関する適法意見制度、⑥独立委員の活用などであります。これまでは不正の匂いがするところへ入っていって審査、調査を行うものであったところ、不正の匂いがしなくても、チェック体制のなかで不正を嗅ぎ取る、といったところかと。
不正の早期発見というのは、過年度の決算訂正に及ぶほどの重要な虚偽記載となる前にモニタリングによって不正を見つけることであり、これは(企業の取組みとして)とても重要なことではないかと考えております。当ブログでも「不正の早期発見」についてはずっとこだわってきたリスク管理手法でしたので、やっと日の目を見るようになってきました。また内部統制の運用チェックについても、監査役や内部監査人による独立モニタリングの機能を重視すべきものであり、J-SOXを補完するものとして期待されるところであります(会計監査人、監査役、内部監査人の連携協調により、企業はどこに財務報告の信頼性を毀損するおそれがあるとみているのか、説明できるようにしておくべき)。
第三者委員会との連携といいますと、一見すると「不正発覚後の事後審査ではないか?」とも思えますが、最近の不正事件は複合型(虚偽記載とインサイダー、不適切第三者割当と虚偽記載等)によって一般投資家の利益を毀損することが多いわけでして、不正を小さいうちに発見し、さらなる被害を防止する、という意味では重要なところではないでしょうか。また、第三者委員会の情報を早期に入手することで、行政目的や取引所の規制目的に沿った対応が打てる・・・という意味でも「連絡体制の強化」に資するのではないかと思われます。そのあたりの理由で、月刊監査役の論稿と同時に、旬刊商事法務5月25日号において「虚偽記載事案における第三者委員会と上場廃止審査等の実務上の留意点」(自主規制法人の審査役、調査役の方によるご執筆)が同時に出稿されたように思います(もちろん私の推測にすぎませんが・・・)。
前記「月刊監査役」のなかで、新興企業だけでなく、老舗の上場企業においても未然防止の必要性は変わらない、とありますので、今後はこういった証券市場規制の変化について、上場企業がどのように対応していくのか、という点が課題であります。ソニー、トヨタ、東電など、日本を代表する企業が「情報開示の在り方」でとても苦労しておられますが、「重要な虚偽記載」はなにも故意的行動によるものとは限らないわけでして、効率性と有効性をバランスよく調和させた未然防止型システムの整備が望まれるところであります。
PS
企業法務を取り扱う弁護士のブログといいますと、私的には活字フェチさん、ともさん(池永先生)、森理俊さんのが好みでありますが、コメントをお書きになっておられる東京の川井信之さんも精力的なブログを開設されておられます。おお!日本レップの件、取り上げておられますね!?事案は日経新聞(法務インサイド)でも紹介されておりますが、川井先生も最後のところでお書きになっておられる「当事者と代理人」の関係がおもしろかったりして・・・・・(^^;;ブログを6年も書いておりますと、諸事情により(笑)、書きたくても書けないネタが増えてきたりするのですが、こういった話題に今後も鋭くツッコミを入れていただければ、と。とても今後に期待の持てるブログのようで(細く、長く頑張ってください)。
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コメント
いつも楽しく拝見させていただいております。
昨日の日経に「世界の投資資金が香港」「東京は素通り」という言葉が躍っておりましたが、今後、日本市場に(ネオン的な)魅力を感じてもらうことが大切ではないかと思っております。
投資家・企業ともに魅力的に思ってもらうためには、「うっとしいなー」と思われたらアウトになると思います。個人的にはこの類のお話は大好きです(不幸が好きという意味ではなく、チェック体制を考えるのが好きという意味です。不幸は大嫌い。)が、「不正事件を未然に防止するための取組」「チェック体制の中で不正を嗅ぎ取る」ということは、「うっとしいなー」と思われることにならないでしょうか?「うっとしいなー」と思われないためには、投資家・企業の方を上回る度量でなければならないと思うのです。
投稿: cpa-music | 2011年6月 3日 (金) 09時03分
大学時代、ボートをやっておりましたが、コックスが「舵を切る」と抵抗となり、艇速が落ちるので「うっとおしい」と思いました。でも、長い距離を漕いで勝負する以上、コックスのかじ取りは重要なのですね。企業経営もまさに継続企業の前提で行われるわけで、この「抵抗」は勝負に勝つためには絶対に必要だと思います。
「未然防止」というのも、企業自身の内部管理体制の促進という側面からの支援ですので、「うっとおしい」かもしれませんが、企業の事業継続に必要なものは何か、思考停止することなく考えていかねばならないでしょうね。
投稿: toshi | 2011年6月 4日 (土) 11時52分