« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »

2011年7月29日 (金)

保安院の「やらせ意見依頼」問題と九電のやらせメール事件の関連性

やらせメール事件は急展開を見せております。中部電力に続き、四国電力でも過去の説明会に対する保安院の「やらせ意見依頼」があったことが判明とか。

ということは、過去において九電に対しても保安院からの「賛成意見者を増やせ」といった依頼があったのでは?今回もあったのでは?かりに今回はなかったとしても、以前から保安院による依頼があったのであれば九電にモラル違反を問うことはどうなのか?はたして社長が辞任しなければならないのか?・・・・・・いろいろと疑問が湧いてまいります。

少なくともこれまでの九電さんの社内調査では、保安院からの要請といったことはどこにも出てこないわけであり、真の原因を隠ぺいしておられたのでしょうか?(当ブログを長年ご覧の方であれば、どこの組織でもよくあること、とおわかりのことだと思いますが)

とりいそぎ、仕事中なので速報版ということで。。。

| | コメント (2) | トラックバック (2)

ZAITEN9月号「迷走する公認会計士」に執筆いたしました(お知らせ)

Zaiten09 ZAITEN(財界展望)への執筆は今回が3回目となりますが、9月号(たぶん8月1日ころ発売)の特集は「迷走する『公認会計士』」ということで、かなり刺激的な内容になっております。この本は発行部数が半端じゃないので、結構執筆には気を使うのですよね、毎回。(もちろん他の執筆でも気を抜いているわけではございませんが・・・・やはりお読みになる方の理解度がマチマチなので、けっこう誤解を受けたりするリスクが高いのですよ。。。)

ZAITEN9月号の内容はこちらをご覧ください。

私は、すでに当ブログで取り上げております「非上場大会社への監査」について、ブログよりももう少し詳しい周辺事情なども織り交ぜて「ホントに非上場大会社の監査をする人はたいへんだろうな」というあたりを書かせていただきました。「非上場大会社」ではございませんが、最近の協同組合組織などの会計不祥事を見ておりましても、社内の監査システムがまったく機能していない事例が多く、こんなところで外部監査人の設置義務を課しても怖くて監査できないのでは?と痛感いたします。こういった分野に監査証明業務の運用を拡大することは、会計士業界にとっての職域拡大に資するものであり、ぜひとも進めていただきたいとは思っておりますが、「会計不正と監査人の責任」についての議論も併せて進めていく必要があるだろう・・・・と思います。

弁解がましくて恐縮ですが、(会計士業界の外野の者ゆえに)私の論考は比較的穏健な内容だと思います。といいますのは、編集部さんから送られてきた9月号を拝見いたしましたが、執筆陣を見ていただくとおわかりのとおり、テーマも内容もかなりスゴイ(^^;。先日の会長解任請求問題の背景(細野さん)、3大監査法人の経営分析(帝国データバンクさん)、IFRS延期問題(東京財団さん)、「おバカ」な会計士論(戸村さん)などなど、なかには「冷静に読んでちょうだいね(汗)」と先に申し上げたほうがよろしい内容なども含まれております。私は本業や委員会の関係で、いろいろな監査法人の大先生方と、普段からお話をする立場なので、ここに書かれている内容はほぼ承知しているのでありますが、執筆者の「思い」も加わり、楽しく読めました(楽しく読めない方も多いかも)。

弁護士業界同様、会計士業界も、これからの組織の在り方を検討することが急務であることは間違いないところですね。弁護士業界と異なり、会計士業界においてたいへんなのは監督官庁との関係だと思うのですが、そういえば一昨日、PCAAOB(金融庁/公認会計士・監査審査会)の事務局長に「あの方」が就任されたことがリリースされていましたね。あの方と、金融庁で1時間ほどお話をさせていただいたことがありましたが、市場の健全性確保のための会計士、監査法人の果たす役割については、とても思い入れが強いことが印象的でした。検査局審議官とご兼任だそうですが、ぜひとも頑張っていただければ・・・と。(相変わらず、あの雑誌LEONに登場する「ちょいワルおやじ」っぽい感じなのでしょうか?たぶん私と同年代ですが、どうやってあの体型を維持されているのか不思議であります)

ちなみに特集記事ではありませんが、私的には日揮社の社内事情を追った経済ジャーナリストの方の記事は一番おもしろかったです。日揮社といえば、今年FCPAで米国に180億円の罰金を支払って訴追延期合意をしており、米国との和解条件に内部統制システムの構築も含まれているわけですが、こういった社内事情のなかで、ホントに再発防止のための仕組みって、どうしたら構築できるのだろうか、と。担当役員の方はたいへんだろうな・・・などと勝手に思ってしまいました。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月28日 (木)

九電社長の「辞任届」の法的効果

いわゆる「やらせメール」事件は経営トップの方の進退問題にまで発展してしまったようであります。昨日(7月27日)の取締役会で進退をはっきり審議してもらう、とのことだったようですが、社長さんが欠席され、審議はされなかった、と各紙が報じております。果たして九電メール事件は、経営トップが辞任しなければならないほどのことだったのかどうか、そのあたりはまた別途論じることにいたします。

九州電力の社長さんは7月19日に、既に会長さんに辞表を提出していた、とのことであります。しかし7月20日の国会審議の場では「私の意向は(個人的には)決まっている」とは述べたものの「進退の時期については27日の取締役会で審議してもらう」と回答されています。

ということは、19日の段階で会長さんに提出したのは、表題がどうであれ正式な辞任届ではなく「辞任伺い」ということなんでしょうね。正式な辞任の意思表明であれば、会長さんは代表権がありますので19日に受理されてしまう(つまり社長さんは19日の時点で取締役ではなくなってしまう)ことになりそうです(まあ、代表取締役の解職という手続きがありますので、取締役会で受理する、という解釈もありますが)。しかし、19日に社長さんが提出したのは辞任伺いであり、進退は取締役会決議もしくは会長さんの判断に一任する旨を表明したもの、と解釈したほうがよさそうであります。したがって、取締役会の審議次第では、社長さんは今後も辞任の意思を撤回することも可能となります(辞任の意思表示が受理されていませんので)。

マスコミ報道では27日の取締役会に社長さんが欠席したために、審議ができなかったとされていますが、上記のとおり「辞任伺い」ということであれば、社長さんは今回の取締役会では「特別利害関係人」となり、会社法上は出席することはできないものと思われます(議決に参加できないのか、役員会そのものに参加できないのかは争いがありますが、通説は役員会における審議そのものに参加できない、ということなので)。したがいまして、社長さんが今回の取締役会に欠席するのはむしろ当然のことではないでしょうか。

むしろ社長さんから「進退伺い」が出されていたにもかかわらず、取締役会ではなぜ社長の辞任伺いに対する審議、受理するとして、いつ受理すべきか、という時期に関する審議をしなかったのか、ということであります。善解すれば、第三者委員会が発足し、更なる事実調査や原因究明、再発防止策が検討されるので、それまで審議を中断する、といった審議がなされたとみるほうが良いのかもしれません。現社長さんが就任する際、14人抜きといわれる抜擢人事だったそうですから、それだけ会長さんの支配力が強いのではないかと。そうであるならば、どこまで取締役会で実質的な審議がなされるかは、ちょっと疑問が残るところであります。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月27日 (水)

浜岡原発停止問題と住田弁護士の委員辞任

またまた某雑誌の原稿締切が迫っておりまして、ブログを更新する時間があまりございませんので、小ネタをひとつだけ。

今朝(7月26日)の日経新聞の隅っこの、5行程度の小さい記事が目に留まりました。住田裕子弁護士が原子力安全委員会の専門委員を辞任したことを報じたものです(住田裕子弁護士って、あの「行列」の元検先生ですよね?私はまったく存じ上げませんが)。電子版のほうの記事では、もう少し詳しい辞任理由が説明されておりまして、

住田氏は6月22日の専門部会で、中部電力浜岡原発が政治主導で停止した理由などの説明がないまま議論を進めることに対し、「お勉強会だ」(住田氏)と反発、辞表を提出していた

とのこと。私は原発反対派でも推進派でもありませんが、当ブログをご覧の皆様ならおわかりのとおり、いまだに浜岡原発の停止問題については法的根拠がよく理解できず、くすぶり続けております(ご興味のある方は、中部電力役員の英断と一般株主の素朴な疑問  闘うコンプライアンス 経産省vs中部電力 などのエントリーをご覧ください)。あれは適法な行政指導だったのか、違法な行政指導だったのか、また中部電力は「政治圧力」を理由に停止したことを説明していますが、それならば事実上は行政指導ではなく行政行為であり、指導の違法性を第三者が争う原告適格もあったのではないか?等々、疑問は尽きません。

先日も、東京で日弁連の偉い方の前で私見を述べ、日弁連としての意見を聞きたい・・・と迫りましたが、ほとんど明確な答えをいただけず、未だに気持ち悪いままであります。こういった前例が増えていきますと、そもそも法治行政の原則はどこへ行ってしまうのか・・・という懸念が今もございます。私が原子力安全委員会の委員だったとしても(そんなことはありえないですが)、原子力の安全性に関する指針を策定する前提として、まずは浜岡原発を停止しなければならない根拠を明確にして議論することを考えると思います。そのあたりがあいまいなまま議論は進められないと思うわけでして、やはりこのあたりのことに「いちゃもん」をつけたい法律家が(私以外に)存在したことに少し安心をいたしました。

こういった問題も、時間の経過とともに忘れられてしまうのでしょうね。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年7月25日 (月)

法律関係者がイマドキのコンプライアンスを語る理由

九電やらせメール事件やユッケ食中毒事件など、最近の企業コンプライアンスに関わる問題を考えているときに思うのは、法律家(法律関係者)がコンプライアンスを語る理由であります。最近は法令遵守だけでなく「社会的要請に柔軟に応えること」こそコンプライアンスの要諦である、と様々なところで語られるわけでありますが、そうであれば特に我々法律家がコンプライアンスを語る必要性はどこにあるのだろうか?もし必要性があるとしても、どのような視点からアプローチすべきなのか?とくに法律家でなくても、リスクコンサルタントの方々にこそ語る資格があるのではないか、と思うわけであります。先日、ある方が当ブログのコメントにおいて、そもそもコンプライアンスは法務部の仕事ではなく、もっと広い分野にまたがる課題である、といったご指摘をされましたが、これも同様の問題意識によるものではないでしょうか。

コンプライアンスを古典的に「法令遵守」と訳すのであれば、たとえば具体的な企業活動にとって、どのような法律が関連しているのか、またその活動は当該法令に違反したものではないのか、といったことがリスク管理の中心となるわけで、これは法律家の判断が必要な場面であります。とりわけ最近のように海外展開を必須とする企業の活動においては現地の法令に関する知識なども不可欠ですから、そういった要請は高いものであります。

しかしコンプライアンスを「社会的要請に柔軟に対応すること」といった最近よく聞かれる定義を前提とするのであれば、たとえ法令に違反するような企業行動はなくても、企業の社会的信用を毀損してしまうような行動は慎まなければならないわけであり、これは果たして法律とどのような関係にあるのか、ということを検討する必要がありそうです。「法令」にはハードローだけでなくソフトローも含まれるとするにしても、それだけで企業の社会的信用が毀損されるリスクをすべて網羅できるかというと、そうでもないように思われます。なぜなら企業が対応すべき社会的要請なるものは、法やソフトローのような普遍的かつ恒常的な規範を示すものではなく、もっとうつろで、属人的かつ一時的なものだからであります。結論から申し上げると、私は経営判断におけるレピュテーションリスクへの配慮、ということが法律家の視点からみるアプローチではないかと考えております。

たとえば金融庁による金融機関に対する規制のなかで、利益相反取引に該当するような行動を禁止するものがありますが、そこでは親会社の立場にある金融機関に対してグループ全体の利益相反取引禁止体制を求めています。そのなかで、「社会的評価又は金融市場における信用が傷つくリスク」と定義され、グループ企業としてのレピュテーションリスクへの配慮、ということが明記されております。利益相反取引によって顧客の利益が害される場合だけでなく、そういった企業行動が企業の信用を傷つけることに留意せよ、ということを示すものであり、ある程度は世間の空気にも配慮した経営というものも規制の対象となることを示したものといえます(ただし行政当局自身が、金融機関にとって「どの程度レピュテーションリスクに配慮すべきか」ということを具体的に指針として示すものではなく、これはあくまでも個々の企業の経営判断のなかで考慮すべき、としています)。

また司法の分野においては、経営判断においてレピュテーションリスクを十分に斟酌しなければならない、といったことに触れた裁判例はあまりありませんが、著名なダスキン高裁判決においては、社内の不祥事を公表しなければバレない、といった役員らのリスク認識を批判したうえで、直ちに自主的に公表することによる信用回復を図る必要性を認め、また損害論ではありますが、後日不祥事が発覚することと、直ちに自主的に公表することでは会社の損害額が異なることを前提としております。つまり取締役会における企業の意思決定が、たとえ法令違反ではないとしても、当該企業の社会的信用を低下させるようなものであれば、本来斟酌しなければならない事情を十分検討していなかったこととして取締役や監査役らの善管注意義務違反が認められる可能性があるのではないでしょうか。

社会の空気が常に正しいものではなく、企業活動が不適切なものではない、ということを経営陣は社会に説明すべき場合もあるかとは思いますが、社内の誰かが「社内の常識と社外の常識のズレ」に気づかなければ、レピュテーションリスクへの配慮がないままに、企業の社会的信用が毀損されてしまうことは、どこの企業でもありうる話かと思います。コンプライアンス軽視の企業体質が、そのまま経営トップの法的責任に結び付くことが考えられる以上は、やはり法律家がコンプライアンスを語る理由はあるだろう・・・・と思う次第であります。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年7月22日 (金)

ゲオ社役員会における取締役辞任勧告決議

最近、当ブログでも何度かとりあげておりますネステージ社でありますが、そのネステージ社を今年4月に子会社化したのがゲオ社。このゲオ社の不適切会計処理に関する調査報告書を先月こちらのエントリーで取り上げ、私は「不正早期発見型」の内部統制システムを高く評価したわけでありますが、またまた同社で話題となりそうなリリースが出ております。

役員の異動および当社取締役1名に対する辞任勧告の決議について(7月21日付け)

あらかじめ規定されている社内ルールに違反して、自社株取引を行った取締役に対する辞任勧告を、取締役会で決議されたそうであります。本日(7月22日)のリリースでは、インサイダー取引があったからではなく、あくまでも内規違反による辞任勧告を行ったもの、とされております。J-IRRIS登録の関係上、この取締役の方の自社株取引が判明したのかどうか、それとも何か外部の調査によって判明したのかは不明でありますが、いずれにしましても(役員間における抗争等、裏事情がなければ)社内ルール違反=レッドカード、ということとなり非常にコンプライアンス的にみて厳格な対応かと思われます。先の「不正早期発見型内部統制」もまんざら外向けではなく、社風改革の本気度を示すものなのかもしれません。

そういえば、先日の経産省幹部の方のインサイダー取引事件でありますが、「妻が勝手にやったこと」として容疑を否認されているそうでありますが、当該幹部の方は経産省の内規に違反して株取引については一切報告をしておられなかったそうであります。もちろん、インサイダー取引の構成要件該当性とは直接結びつかない事実ではありますが、やはり不正取引との親和性ということを想起させるものであり、企業としても今後はこういった内規違反についても厳格な対応が必要となってくるのではないでしょうか。

朝日新聞ニュースでは、もう少し突っ込んだ内容が書かれていますね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

会社法新判例50(ジュリストブックス)-弥永真生教授

L13605弥永教授から新刊著書をいただき、早速拝読させていただいております。平成20年から22年にかけての約3年間、弥永先生がジュリストに「会社法判例速報」として連載されていたものから、50件の裁判例を厳選され、加筆のうえ出版されたものであります。

ジュリストブックス-会社法新判例50 (弥永真生著 有斐閣1500円税別)

「事実」「判例要旨」「解説」がすべての判例について4頁でまとめられておりまして、非常に読みやすく、司法試験等学習者の方々にも人気が出そうな本です。もちろんそれぞれが著名な裁判例なので、詳しく研究される方には(本書のみでは)物足りないかもしれませんが、解説部分に広く参考文献が紹介されておりますので、(帯にも記載されておりますとおり)ここ数年の会社法判例の流れを概括的に押さえておくには最適です。会社法といいましても、ガバナンスやファイナンス、組織再編など、その範囲がかなり広いために、実務家としてもすべての分野をカバーすることはなかなか困難であります。少し勉強しようにも、すでに議論が進化していたりしますと、どこから手を付けてよいのかわらからず、結局「食べず嫌い」のまま研究を怠ったりするのですが、こういった本が手元にありますと、会社法分野のなかの「食べず嫌い」の分野について、勉強しようという意欲をかきたててくれるものとなり、たいへん重宝いたします。

しかし、こうやって平成20年以降の会社法関連の判例を眺めてみますと、当ブログでご紹介したものも結構ありますし、とてもなつかしいですね。自分が重要だと考えていた裁判例が取り上げられていたりしますと、「おお!弥永さんもこれは重要と認識していたんだ」と納得してみたり。。。

当ブログでは、私個人の取扱いました具体的事件の内容については(原則として)触れないことにしておりますが、私自身が米国投資ファンドの代理人として判決をもらった事例も選択されていたのには少々驚きました(No.42)。あの事件は日本で一番大きな法律事務所の方々が相手方代理人となり、正直とても恥ずかしい判決をもらってしまい「かっこ悪いなあ」と思っておりましたが、判決後は予想に反して学者の先生方が研究材料として取り上げることが多く、金融商事判例などの法律雑誌にも、比較的早い時期に判決全文が登載されました。

こういった判例解説は、解説者の意見が記載されているほうが、読み手には面白いのでありますが、本書では弥永教授の自説が各所において紹介されており、読んでおりましても飽きるところはないようです。価格もお手頃ですし、お手元に一冊、お勧めの参考書であります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月21日 (木)

社員の架空取引による相手先の損害を会社は負担すべきか?

東芝元社員による架空取引で損害を被った某リース会社が、東芝等4社に対して損害賠償を求めていた裁判において、東京地裁は「使用者責任」を認定して東芝等に対して約58億円の損害賠償を命じる判決を出したそうであります。(産経ニュースはこちら)もちろん判決は読んでおりませんが、事業執行性、重過失の有無、過失相殺の事情等、どのような認定がなされたのか非常に興味深いものです。

同様の裁判といえば、当ブログでも以前取り上げましたが、丸紅元社員による詐欺事件でリーマン関連会社が丸紅を(損害賠償を求めて)提訴した事件の判決がふたつほど出ております(いずれも原告の請求を棄却。今年4月の判決に関する丸紅社のリリースはこちら。もうひとつはすでに判例タイムスで判決文が入手できます)、元社員の取引的不法行為は丸紅の事業の執行についてなされたものではなく、またリーマン関連会社側も重過失あり、したがって丸紅は使用者責任を負わない、と認定されたものであります。東芝の件と丸紅の件の対比で検討いたしますと、実務家にとってはかなり研究価値があるかもしれません。法律解釈というよりも、事実認定の問題にすぎないと思いますが、巨額の使用者責任のリスクがありますので企業としての平時のリスク管理という面では貴重な題材ではないかと。

架空循環取引が破たんして、これに加担していた企業が損害を受けた場合、循環取引に関与していた企業に対して使用者責任を追及する、といった事例の裁判例も最近は出ていますね。いずれの事例も、社内から犯罪者が出てしまうことまでは防ぎきれないとしても、その不正によって他社が損害を受けた場合に、社員を支配していた企業が法的責任を追及されるリスクをどう低減するか・・・・・ということについては内部統制の問題として論点を整理してみるとけっこう有用なものになるかもしれません。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年7月19日 (火)

IFRSの強制適用と会計倫理問題

サッカー女子W杯優勝おめでとうございます。日本のマスコミはあまり触れたがりませんが、岩清水選手のカミカゼタックル(一発退場)は欧州の新聞等では称賛されていますね。「あれがなかったら米国は勝てた。汚いぞ日本!」のような論調も、米国ですらありません。自ら「一発退場」というペナルティを覚悟のうえで、チームのためにルール違反を犯すことは、あの時間帯ということも含め、サッカーの世界では非難の的にはならないのでしょうね。それどころか日本チームは大会を通じた「フェアープレー賞」を受賞し、これはとても栄誉なことだと思います。

これは会計(とりわけIFRS)の素人として、前から疑問に思っていることですが、IFRS(国際会計基準)が世界標準として財務報告の基準になったとしても、世界の各企業の業績比較はそれだけでは困難ではないか、と考えています。というのは、どんなに会計基準を標準化したとしても、各国の企業における会計倫理とか、各国の監査法人さんの監査倫理というものはマチマチであり、財務報告の信用性まで標準化されることはない、と思うからであります。最近、米国市場に上場している中国企業のガバナンスや内部統制が問題視され、業績が赤字転落しているところが出てきて、さらに米国は中国と共同で中国企業の監査を行うことまで提案されております。本日あたりの報道では格付けまで低下しているとか。どんなにIFRSが世界共通の会計基準となったとしても、これを適用する企業の倫理観とか監査法人の監査上のレベル感が異なっているのであれば、財務報告の信頼性が異なることとなるのが当然であります。

安易な考え方かもしれませんが、日本の場合には、先の「フェアープレイ」賞ではありませんが、世界的に見て「日本企業はまじめに会計処理を行い、監査法人は真摯に証明業務に従事する」といった定評が世界的にはあるのではないかと。そうだとすれば、むしろIFRSの標準化は日本企業にとっては有利になるのではないでしょうか。もちろん、日本にも粉飾決算事件は発生しておりますので、会計倫理という面では問題もあるかもしれませんが、少なくとも世界企業と呼ばれている企業においては、経理関連のスタッフも充実し、また監査法人の監査もかなり真摯に行われており、会計倫理・監査倫理という面で大きな支障はみられないように思います。昔「レジェンド問題」がありましたが、日本が会計基準の標準化を受け入れた場合には、逆に日本企業の財務報告の信頼性は高まるのではないでしょうかね(甘いかな)。

逆に、以前当ブログでも懸念しておりました「IFRS導入により、日本企業が海外でわけのわからない粉飾決算訴訟に巻き込まれるのではないか」といった問題を提起いたしましたが、7月14日のサンケイビズのニュースにより、米国で係争中のトヨタリコール問題に関連する株主訴訟のうち、原告主張の33件中、26件までが「裁判権がない」「国内で株式を購入していない」といった裁判管轄に関する理由で訴えが棄却されておりますので、IFRSによる粉飾決算訴訟の増加リスクも、米国証券市場等に上場していない限りでは、それほど大きなリスクではないかもしれません。

最近は、ニコン、資生堂、KDDI等の企業さんが、IFRS準備作業を見直し、情勢を見極めるといった報道がされておりますが、あまり、IFRSと会計倫理に関する議論というものを会計雑誌等でも聞いたことがありませんでしたので、女子サッカーの「フェアープレー賞」を称賛しながら、素朴な疑問を書かせていただきました。

| | コメント (7) | トラックバック (0)

2011年7月18日 (月)

ネステージ事件にみる「現物出資」による第三者割当増資の専門家リスク

連休中、皆様いかがお過ごしでしょうか?大阪は本当に暑い!かなり夏バテでして、いつも休日に通っております歯科クリニックにおいて、私は初めて口を開けたまま眠りにつく・・・・・という失態を演じてしまいました。

先日(7月14日)、ネステージ社の関係者逮捕劇については、初めてテレビで解説をさせていただき、1分ほど放映されましたが、やはりテレビの反響は大きかったです。あのような不公正ファイナンス事件の真相を、わずか1分でテレビの茶の間の方々に理解してもらうことはほとんど不可能なわけでありますが、まぁネステージ事件全体では15分の特集番組でしたので、全体をご覧になれば、証券市場の健全性を損なう事件・・・という程度のことはおわかりいただけたのではないかと思います。

ところで、本日、ろじゃあさんからもTBをいただいておりますが、ネステージ社に株式割当先会社を紹介したのは、今年1月に逮捕された春日電機の元社長さんだった、ということが新たに報じられており、闇の連鎖が垣間見えるようで興味深いところであります。「連鎖」というのは、摘発する側からすると、それぞれの事件の立件にあたり、不透明な部分を補強できる、ということを意味しますので、摘発事件が増えれば、また別件が容易に摘発できる、という「連鎖」もあるわけです。ということで、現在問題とされている「不公正ファイナンス」事件につきましては、ほかにも現在「疑惑」がもたれている件もあり、戦々恐々とされていらっしゃる方々も多いのではないでしょうか。

ただ、事件そのものへの関心よりも、私が身近なリスクとして喫緊の課題だと考えておりますのでは、こういった不公正ファイナンス事件への法律・会計専門家の関与であります。先日、ある元会計士の方に実刑判決が下りましたが、「確信犯」的に不正に関与されているケースというのは特に申し上げることはございません。しかし、不公正ファイナンス事件に弁護士や会計士などの専門家が巻き込まれるケースというのは要注意であります。

たとえばネステージの件について、割当される株式の評価額と、出資に用いられる不動産の評価額が著しく異なるのではないか?ということが問題とされ、不動産の評価を行った鑑定士の方が逮捕されたわけですが、こういった「現物出資」が行われる場合には、不動産鑑定士の評価だけでなく、裁判所の選任する検査役検査に代わる弁護士・会計士の評価額の相当性に関する証明が必要となります(会社法207条4項)。ネステージの件では、公認会計士兼税理士の方が、この現物出資の財産評価は適正である、と証明しておられ、また任意に設置された第三者委員会の弁護士や会計士の委員の方々が、一連の会社の手続きは適正であることを報告書で宣明されておられます。

今回の事件で逮捕された不動産鑑定士の方は、逮捕前の朝日新聞によるインタビューに対し、評価は適正である、何も悪いことはしていない、として容疑を否認されていたようでありますが、おそらく検査役調査に代わる会計士や弁護士の審査においても「価額は相当だ」と証明しているではないか、といったあたりを主張されているのではないでしょうか。私はこういった不公正ファイナンス事件について、評価金額の相当性が争われるようなタイプの立件を捜査機関はしてこないと考えています。評価の妥当性よりも、むしろ不動産鑑定士さんが誰から誰に紹介され、また事前に関係者とどのような協議をし、その結論として「はじめに鑑定結果ありき」といった事実を証明できる事実の積み重ねが重要なポイントになるものと考えます。したがって、別の怪しい鑑定評価が問題となった事件が調査されたり、別の不公正ファイナンス事件で立件された関係者とのつながりが認められるような場合には、公正な立場で鑑定しなければならないにもかかわらず、鑑定士さんは、鑑定判断に必要な条件となる前提事実自体を公正に拾い上げていない可能性が高いことになります。鑑定に必要な事実の拾い上げの部分にミスがあれば、これはもはや専門家領域の問題ではありませんので、事件の進展がみられる、といったことになり、今回の逮捕劇につながったのではないでしょうか。

これはキャッツ事件における最高裁の判断にもみられるところであり、専門家領域の判断を法律家が判断することへの批判を回避しつつ、専門家の関与(事件への加担)を糾弾する場合に用いられる判断過程であり、たとえば本件で、不動産鑑定士さんは立件するけれども、同じく現物の評価額の相当性について証明書を提出した会計士、税理士さんは立件しない、とする結論を支えるところではないかと。

ただし、そうは言いましても、民事損害賠償問題は別ですので、関与されている会計士、弁護士の方々のリスクというものはやはりあるだろうなあと思います。300万円、400万円の報酬を目の前にして、不動産鑑定士さんの鑑定評価書などを参考にして出資対象となる資産評価の相当性を判断するわけですから、我々専門家にとっては、ちょっと誘惑的な業務であります。しかし、ネステージ事件以外にも、相当数の不公正ファイナンス事件予備軍らしきものが散見され、そこでもやはり当の発行企業は専門家の判断を用意周到な手続きによって集めております。果たしてこういったリスクが会計士、弁護士などがどこまで認識しているのか、ひょうっとしてあまり認識せずに、請け負っているのではないか・・・・。そのあたり、私は非常に危惧するところであります。

インターネット総研さんは、粉飾決算事件による損害の公平な分担を求めて、子会社を販売した親会社、その子会社を監査していた監査法人を訴え、そして事件発覚から4年を経過した本年、東証さんを提訴しました。第三者割当増資に関する監査役の適法意見制度なども新設されましたが、これも果たしてどこまで機能するものか、心もとないのが実務運用の実際でありますので、不正事件が発覚した場合のリスクというものを誰がどのように負担するのか、今後の課題ではないでしょうか。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年7月14日 (木)

ネステージ社 不公正ファイナンス事件と金商法「偽計取引」の活用

ネステージ社(JASDAQ-上場廃止)の関係者の方々が、増資に関連する不公正ファイナンスを行い、金商法違反にて逮捕されたそうであります(朝日新聞ニュースはこちら)。不動産鑑定士さんも強制捜査の対象となっているところに特徴があります。大阪府警捜査二課と証券取引等監視委員会とのコラボは2009年11月のユニオンホールディングス事件以来と思われます。

こういった事件は、かつては刑法もしくは会社法違反で立件されていたかと思いますが、最近は金商法の偽計取引で立件されるケースが増えていると思われます。直接の取引の相手に対して詐術を用いるのではありませんが、株主や投資家を被害者として「偽計」ととらえる手法であります。これも最近のSESCの積極路線の現れではないかと。

なぜ捜索から逮捕まで相当の時間を要したのか?そして、不動産評価には幅があるにもかかわらず、これを「偽計」と認定して立件する「決め手」となったものは何か?このあたりを本日(7月14日)夕方の関西テレビ報道番組「アンカー」にて私が解説いたします(テレビ出演はあまり好きではありませんが・・・)。たぶん私が映るのは10秒程度かと(^^;。

| | コメント (2) | トラックバック (3)

2011年7月13日 (水)

ボトムアップ型のインサイダー情報管理体制の整備とは?

月曜日は大阪証券取引所主催の「インサイダー・セミナー2011」が開催され、パネルディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。400名以上の方がお見えになり、たいへん盛況でありましたが、「企業の情報開示体制とインサイダー情報管理の巧拙」のテーマの冒頭、

「朝日新聞朝刊の一面に、『揺れる統合~東証が大証にTOBか』なる見出しが躍ったにもかかわらず(また、株価も9%も上昇したにもかかわらず)、当日の朝、大証は何の適時開示もリリースしなかったのはおかしいのでは??TOBかける側でなくても、なんか一言あってもいいのでは??」(もちろん個人的な意見です)

と私が口走ってしまい、会場で(多少)ウケした一方で、主催者(および主催者側パネリストの方)を困惑させてしまったことを反省しております。「まあ、こういったことを笑って流せるのが関西のいいところでして」とパネリストの方から後でフォローしていただきましたが(^^;;えらいすんまへんでした。その分、J-IRISSの広報は十分させていただきましたので、それで勘弁してください。。。

証券取引等監視委員会(特別調査課)の元統括審査官の宇澤さんにも、かなり踏み込んだお話をしていただけたのも関西ならでは・・・というところだったのかもしれません(もちろん、個別案件についてのお話は一切ございませんでした。ねんのため・・・)。法の理屈というよりも、摘発する側の論理を語ってもらうことは非常に有益ですね。

ただ、今回のインサイダーセミナーのモデレーターをさせていただいて、非常に貴重な勉強をさせていただいたのは、原吉宏弁護士(北浜法律事務所・外国法共同事業)のセミナーレジメの解説と、パネリストとしての回答であります。私が重要事実の管理体制については、子会社の社員にまで管理体制を整備する必要があるのか?と質問したところ、原弁護士はきっぱりと「必要です。今の時代は企業というよりも、企業グループでインサイダー防止体制を整備しなければならない」と発言されました。

そういえばここ数年、インサイダー規制は厳格さを増しており、とりわけ「バスケット条項」を用いた規制が増えております。(インサイダー取引におけるバスケット条項の適用事例と論点については、旬刊商事法務の6月25日号でも、石井輝久弁護士が解説をされていますね)リコールやPLなどの会社事故の発生、企業不祥事の発生などであり、このたびの震災直後も、多くの企業でインサイダー情報が飛び交ったものと推測いたします。また決算に絡んだ不適切な会計処理などの発覚もこれに含まれるものと思われます。原弁護士は、こういった重要情報については、従来からの情報管理、つまりトップダウン型による管理体制だけでは対処できないため、ボトムアップ型による情報管理体制を構築する必要がある、と解説をされておられました。

なるほど、たしかに企業不祥事や社内重大事故などは、経営トップが先に知るのではなく、現場の社員が知るところであり、また「投資判断に影響を及ぼすものかどうか」は、なかなか経営中枢で判断ができないところであります(ひょっとすると現場社員は隠ぺいするかもしれません)。こういった情報が適宜適切に伝達されなければ、まさに多くの社員によるインサイダー取引が行われる可能性があり、情報伝達プロセスの整備について、ボトムアップ型による体制整備が必要となるわけです。こういった発想は、おそらく実務においてインサイダー防止体制の指導をされているからでしょうね。現実には、なかなか効果的な内部統制が構築されるわけではありませんが、やはり先ほどの原弁護士の発言のとおり、企業グループあげて、インサイダー研修を行い、誘発型も含めて情報管理を徹底しなければならないものと思われます。雇用の多様化に伴い、リスク・アプローチの観点から、人事政策面にも踏み込んだ体制整備の提案にも、(最近売れ筋の本「人事部は見ている」※を読んだせいからか)納得いたしました。

※・・・この本はオモシロイですね。著者ご自身が、人事部の仕事は企業統治と密接な関係にある、といった意見をお持ちなので、法律家にも全編、興味深いお話が詰まっております。この本を読んで、電力会社ではなぜ「会長職」の力が強いのか、課長昇進が一番早い同期が、かならずしも役員昇格で優遇されるわけではない(社内政治力がすべて)等、いろいろと考えがまとまりました。

調査(審査)する側、摘発する側、会社を支援する側と、バランスよくお答えいただきましたが、もう少し時間が許されたならば証券会社の方にも参加いただければよかったなぁと、企画する側としては少々反省をしております。あと日本板硝子さんの事例(空売り規制問題)や金融審議会での改正議論なども触れたかったのですが、時間的に困難でした。また、司会進行役は進行に徹して、あまり出しゃばらないほうが良い!ということも、猛省しております(^^;;。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月12日 (火)

九電やらせメール(依頼文書)の送付と「規範意識の鈍麻」

「九電やらせメール事件に複数の役員関与?」のエントリーには、多数のコメントをいただき、ありがとうございました。九電では、いよいよ外部有識者による第三者委員会が設置され、社外者を中心に調査がされるそうであります(毎日新聞ニュースより)。やらせメール依頼の事実については、九電子会社従業員の内部告発によって明らかにされた、ということだそうですが、私も最初は「2000通以上も子会社従業員に対して、やらせメール依頼を送信するのであれば、内部告発がなされるのはあたりまえで、それくらいどうして九電幹部がわからなかったのだろう」と考えました。また同旨のコメントもいただいております。

しかし、皆様方のコメントを読んでおりまして、どうもそんな簡単なものでもなさそうだ・・・・・と、少し思い直しております。たとえば従来から開催されていた地元説明会などでは、同様の依頼メールを送っていたのかもしれませんし、子会社も(以前は)組織的に動いていたのかもしれません。そのような中で、いつものように依頼文書を大量に送付してしまったのであれば、ひょっとするとコンプライアンスの発想については思考停止(規範意識の鈍麻)していたのかもしれません。このあたりは、もう少し調査委員会による調査の進展を待つ必要がありそうです。

これまで「規範意識の鈍麻」といえば、「なしくずし型」と「権威付け型」については皆様にもご紹介してきました。「なしくずし型」といえば関西テレビ「あるある大事典」事件が有名です。「許される誇張(強調)表現」と「許されない詐欺的表現」の境界があいまいなために、手綱を締める人がいなくなった瞬間、「視聴率をとってナンボ」の世界であるがゆえに、なしくづし的に詐欺的表現へ傾斜していき、規範意識が次第に希薄化していく、というパターンであります。そして「権威付け型」については、私自身が経験した「司法修習生近鉄電車運転事件」であります。司法修習生の毎年の恒例行事・・・ということだけで、それがコンプライアンス上問題ではないか、といった意識がとんでしまい、だれも問題視せず、後日新聞で問題にされて謝罪会見を開く、というパターン。今回のものは「潮目の変化型」といいますか、経営環境が変わったり、会社経営の危機に至った場合に、世間の会社に対する見方が変わっていることに気づかず、規範意識が鈍麻してしまう、というパターンになるのかもしれません。

実際、「やらせメール」とマスコミがこぞって表現するほどに、時期が悪かったと思います。「空気」が読めなかったのではないかと。平時の説明会であれば子会社従業員も問題にしなかったのかもしれませんが、こういった有事の説明会となると、「本当にやっていいのか。不公正ではないか」といった感覚を持つ方も出てくるわけで、平時には問題とされなかった依頼文書も、有事には大問題とされる可能性は十分にあります。「やらせメールのどこが悪いのか」といった理屈の問題ではなく、いまの時期にやってはいけない、といった空気の問題、世間の風潮の問題かと思われます。たとえばこんな「空気」の中で、九電側が正論を述べたとしても、いよいよ火に油を注ぐことになり、それこそ世論によって九電の対応は「炎上」してしまうのではないでしょうか。

「いままで何も問題が起こらなかったのだから」という九電幹部の方の気持ちがあったのであれば、それも無理からぬところであり、内部告発のリスクなどは考えていなかったのかもしれません。むしろ九電が平時から有事の体制となったにもかかわらず、世間の空気が予測できなかったことに最大のネックがあったように感じます。第三者委員会の調査に希望するものは、教科書的な規範論というよりも、有事における組織力学、行動心理学的な分析を重視したうえでの原因分析であります。

| | コメント (9) | トラックバック (0)

2011年7月11日 (月)

想定外シナリオと危機管理-東電会見の失敗と教訓

4785718916 東京の久保利英明先生からお手紙をいただきまして、「いつもブログを拝見しております。また、先生のNBLの論文を拝読し、参考になればと思い、一冊謹呈申し上げます」とのことで、久保利先生の新刊書を頂戴いたしました(どうもありがとうございます。<m(__)m>)

想定外シナリオと危機管理-東電会見の失敗と教訓(久保利英明著 1,400円税別 商事法務)

ただ、久保利先生には申し訳ないのですが、実は発刊と同時に一冊自費で購入しておりまして(当然といえば当然)、すでに読み終えたところでありました。NBLの論文を書き終えたころに、商事法務さんのメールマガジンを読み、久保利先生の新刊書が「東電問題」を扱われたものであることを知り、ドキドキしながら読み進めていたものであります。総会指導業務の合間をぬってしたためられた、とのこと。

実は私もNBL7月1日号にて「原発事故にみる東電の安全体制整備義務-有事の情報開示から考える」と題する論稿を発表させていただきました。私の論稿の次ページに、この久保利先生の新刊書が大きく広報されておりましたので、当ブログにお越しの方は、すでにお読みになった方も多いかもしれません。NBLでは、原賠法に詳しい森田章教授(同志社大学法科大学院教授)の論稿と共に掲載いただいたことをたいへん光栄に感じておりますが、私は(勝手な推測ですが)、東京の企業法務で著名な弁護士の方々は、おそらく東電もしくはメインバンク(みずほ)と何らかの関係があるため、東電を批評する論文は書きにくいのだろう、だから私のところにお鉢が回ってきたのだろう・・・と推測しておりました。

ところが、ところが。。。企業法務の第一人者でいらっしゃる久保利先生の「東電批判」はなかなかスゴイ。もちろんJA中央の代理人として、東電経営者とすでに賠償交渉をされている立場だから・・・という面もあるかもしれませんが、「ここまでハッキリ言うてええのん?」と思わせるほど、東電本体および同社役員個人の法的責任論について深く切り込んでおられます。先に本書を拝読していたら、私の論稿も、もう少し腰の引けていない(笑)論調になったかも(^^;。いや、おそらくこの違いは、やはり企業法務とりわけコンプライアンスや内部統制について実務で体得したものの違い(そこから来る自信)に起因するところが多いものと思いました。また、議員定数訴訟のスタンスと同様、国民の視点から東電を分析する、ということに力点が置かれているのが特徴的であります。

私の論稿と同様、本書でも、東電問題を扱うにあたり、リスク管理(リスクマネジメント)と危機管理(クライシスマネジメント)を分けて検討されており、原発事故発生前の安全対策、そして原発事故直後の危機回避の是非についての検討は、東電問題を超えて、危機に遭遇した企業の危機管理の在り方を再考させるものであります。私も本件を検討するにあたり、ダスキン事件判決は重要なモノサシになるものとして引用しておりますが、本書でも同様に情報開示のタイミングを含め、危機管理と役員の責任論を考える判断指針として掲げられております。リスク管理の面においては、「想定外」ではなく「想定しようとしなかったにすぎない」として、善管注意義務違反の有無についても明言されており、またクライシスマネジメントの面においては、やはり情報開示の失敗を検証され、「メキシコ湾で原油流出事故を起こした英国のBPと同様に、世界中の裁判所で世界中起こされる訴訟に対応せざるをえないだろう」とバッサリ。「マスメディアの失敗」は、昨今の「九電やらせメール」へのマスコミ対応などにも通じるところがあり、コンプライアンス問題を考えるうえでも参考になります。

本書を最後まで読み、ふと思ったことがございます。これだけ東電および東電の役員批判を痛烈に展開されているにもかかわらず、どうも「東電憎し」という印象が伝わってきません。著者は、これまでの電力会社の果たしてきた役割をご存じであるがゆえに、東電に完全に見切りをつけたわけではなく、むしろ東電の尻を叩いているのではないか?日本を支えてきた数々の経営者を輩出してきた名門企業だからこそ、荒治療を施してでも、名門復活のための体制整備が必要だと考えておられるのではないか、と思われます。マスコミでは「東電の甘い体質」「不適切な情報開示」という言葉が抽象的に使われており、その具体的な内容については語られていないことが多いのでありますが、本書においては何が体質として問題なのか、情報開示のどこが不適切なのかが(長年のご経験から)具体的に書かれており、だからこそ将来に向かっての改善策に説得力があります。

競争相手に負ければ倒産、という厳しい業界であれば、企業にとってコンプライアンス重視ということも身にしみるわけですが、これまで公企業は「不祥事が発生しても、頭を下げれば一件落着」という理解があったのではないでしょうか。おそらく電力会社にも、そのような企業風土が根強く残っているものと思われます。しかし、そうではない、ということを今回の痛ましい震災が証明したのでありまして、東電ですら、継続企業の前提について注記が付され、コンプライアンス違反によって存亡の危機に陥ること、そしていったん失った信頼を回復することは容易ではないことを東電に学んでほしい、だからこそ著者は国民の側に立って、本書を世に著したのではないでしょうか。

JR福知山線事故も、公企業にとって厳しい事件ではありましたが、解体の危機に至るものではありませんでした。しかし今回の事故については、賠償関連法の改正動向にもよりますが、本当に危機を招来しました。原発事故収束にはまだまだ気が遠くなりそうな時間を要するものではありますが、東電問題は国民の視点によるコンプライアンス経営を考えるうえで、今後も避けては通れないことを本書をもって再認識いたしました。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年7月 8日 (金)

(速報)九電やらせメール事件に複数の役員関与?

(追記あり)

最近、連日のようにマスコミ報道に驚いておりますが、本日(7月8日)お昼のニュースを見てビックリいたしました。一昨日の私のエントリーは、一部訂正する必要があるかもしれません。私は今回の「やらせメール」事件について、これは中堅幹部の方々が仕組んだものであり、まさか組織ぐるみ、ということはないだろう、と書きました。しかし本日の日経や産経のニュースでは複数の役員、しかも副社長クラスが関与していた、と報じられており、ただただ驚くばかりであります。しかも、実際にこの依頼文書の趣旨が関連会社の社員2300名ほどに届いていた、ということですから、ますますわけがわからなくなってまいりました。天下の九電さんの、どこをどう叩けば、このようなリスク管理思想が生じてくるのでしょうか???最近「想定外」という言葉が巷間よく用いられますが、この問題はまさに私にとっての「想定外」でありました。

この問題の重要なポイントは、私が昨日出席した会合でも(複数の方々から)出ていた意見であり、また本日コメントをいただいているケンさんや、直接メールでいただいている方々のように、「やらせメールというのは、どこがやらせなのか?」「やらせメールというネーミングが悪いのであって、単に意見促進メールにすぎないではないか?単にマスコミに踊らされているだけである」といった、九電メール「騒ぎすぎ」派の方々がかなり多い、という事実であります(これは紛れもない真実です)。たしかに今回の九電メールは、それ自体が法令違反、ということにはならないでしょう。しかし、(これは私見にすぎませんが)ここで問題となっているのは、九電は単なる平時のリスク管理ではなく、有事のリスク管理(いわゆるクライシス・マネジメント)の在り方であり、しかもそれは国民の生命・身体の安全にかかわるリスクだというところに特徴があります。たとえマスコミが報じていなくても、すでに6月25日の時点からネット掲示板等で話題になっていた、ということがこれを物語っているのではないでしょうか?

以前、JR西日本の福知山線事故に関するエントリーでも申し上げましたが、事故後に現場付近で自動運転停止装置が作動した事実を公表しないJRの姿勢について多くの批難が集中しましたが、あれは平時であれば(とくに報告するまでもなく)問題が生じなくても、痛ましい事故が発生したからこそ、市民がそのことに関心を抱いていたからであります。そういった感覚がリスク管理にはどうしても必要になってくるわけで、マスコミや世間が憤るのは、「またスピードオーバーの運転が行われた」という、うっかりミス自体ではなく、非公表という事実から垣間見える、企業としての安全軽視による利益第一主義の姿勢なのであります。

とりあえず、いまは新幹線の中ですので、速報版とさせていただきますが、この九電メール問題は、今回の東電情報開示問題と並び、どこの企業にでも、また明日にでも起こりうる不祥事として、今後長く「企業コンプライアンス」の視点から語り継がれていくような気がいたします。

(7月8日午後5時 追記)

読売新聞ニュースによると、やはり発端は子会社社員による内部告発だったそうです。「こんなコンプライアンス違反を許していいのか」と思い、共産党事務所に告発した、とのこと。そりゃ2300名以上の社員が知るところとなれば、告発があるのはほぼ100%の確率だと考えられます。そのあたり、九電の原発担当部署の方々はどう考えておられたのか。今後おそらく第三者委員会等による調査が行われると思いますが、ぜひきちんと認定していただきたいと思います。

| | コメント (28) | トラックバック (0)

なぜ経産省現役官僚はインサイダーに手を染めたのか?

エルピーダメモリ株の売買に関する経産省現役官僚の方のインサイダー疑惑でありますが、今朝(7月7日)の日経新聞一面記事を読み、本当に驚きました。産業再生法によるエルピーダ社の再生計画に関与するキャリア幹部が本当に奥さん名義で同社株式の売買をやるものなのでしょうか?10年前ならまだしも、これだけインサイダー規制が厳しくなっているご時世であります。ご本人は否定しておられるようですので、断定的な表現は差し控えますが、どうにも信じられません。自分の妻に、あの厳しい取調べが待っていると思うと、知情の有無を問わず、少なくとも私には耐えられないものであります。

金商法166条1項3号による「法令権限保有者」(主に企業に対する規制行政に関わる公務員)によるインサイダーは、すでに2005年3月、これまた経産省のキャリア係長の方がチノン社株の売買で摘発されていた例があり、おそらく今回の事例が2例目であります。前回の事件については、たくさんの経産省職員がインサイダー取引を行い、そのうちの一人だけが摘発された、といった事情でもあればまだわかりますが、こういった前例があるにもかかわらず、なぜインサイダー事件に手を染めたのか、本当に理解に苦しむところです。

インサイダー取引の調査は、取引所と監視委員会で二重の調査が行われており、また監視委員会の最近の規制傾向も、証券市場の信頼を確保すべき立場にある者の行為は決して許さない、という姿勢(たとえば証券会社、公認会計士、ディスクロージャー関連印刷会社、マスコミ等の役職員については、厳格な姿勢で臨む)で貫かれているわけですから、ましてや再生支援業務に関与している公務員のインサイダー取引については、一般の事例以上に取締りが厳しいはずであります。それでも当該現役官僚の方は、バレないと考えたのでしょうか。

ひとつ気になるのがエルピーダ社幹部の方の証言であります。エルピーダ社幹部曰く、「元審議官(疑惑の方)は、本当にうちのために猛烈に働いてくれた」とのこと。おそらく職務を全うするため全力で業務に取り組んでおられたものと思います。しかし、だからといって不正から縁遠いものと断定することはできません。我々CFE(公認不正検査士)がよく学ぶところの不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)にあてはめるならば、この経産省幹部の方は「これぐらい国家のために働いているんだから、すこしぐらい利益をもらってもバチが当たることはないし、正当な報酬だろう」と考えておられたのではないでしょうか。自分に都合の良いようにインサイダー取引行為の正当性を理解しようとするわけであります。

西友の社外取締役さんが、取引監視委員会から疑惑の目を向けられて、結局最後は社外取締役の方の夫がインサイダー取引を行っていたことが立件された例がありますので、まだ今後も当該疑惑事件には事実関係の解明に変遷がみられるかもしれません。もし今回の件が立件されるのであれば、ぜひとも経産省現役官僚の方が、一生を棒に振ることを覚悟でインサイダー取引に走ってしまった理由とか、自らの行動を抑止できないほどの正当化根拠がどこにあったのかを、ぜひとも知りたいところであります。

| | コメント (7) | トラックバック (1)

2011年7月 7日 (木)

九電やらせメール事件にみる組織力学とコンプライアンス

(7月7日午後 重要な追記あります)

(7月7日午後 2度目の追記あります)

九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)2、3号機運転再開問題を巡り、経済産業省が6月26日に放送した県民向けの説明番組について、九電側が関連子会社に原発再稼働に賛成する内容の電子メールを番組あてに送るよう依頼していたそうであります。(6日、九電社長が事実を認め謝罪した、とのこと-読売新聞ニュースはこちら  なお依頼内容はこちらです。)国会議員が、九電の内部文書をもとに国会で追及した、とのことですから、子会社従業員または九電社員による内部告発があったものと推測されます。番組放送前の6月25日より、ネット掲示板などで噂になっていたようですので、このあたりが告発の端緒となっていたものと思われます。

このような「やらせ」は、九電トップが仕組むことはまずありえないと思いますので、公表されたように一部の九電中堅幹部の社員が関連会社社員向けに依頼をしたことに間違いないと思います。まさに5月17日に当ブログのエントリー「東電社長はなぜ現場で陣頭指揮をとれないのか」において(某社専務さんがおっしゃっていた内容として)書かせていただいた組織力学が働いた模様。社長が矢面に立とうとしても、「いえいえ、ここは私がさばきますから、社長はしっかり構えておいてください」ということで将来のある中堅幹部の方々が前線で(愛社精神という美名のもとに)功を急ぐあまり暴走してしまう。平時の暴走は社内で処理できますが、有事は世間の注目を浴びている分、外部に漏れてしまう可能性が高いわけでして、その暴走が、再開が有力視されていた玄海原発の再開時期が遠のいてしまうほど、九電の社会的信用を毀損してしまう事態となりました。なんとも恐ろしい話であります。

(2度目の追記)7日午後のニュースによりますと、実際に依頼メールを送った課長さんは、部長級の方の指示で送ったことが判明したようであります。ということは、やはり「組織力学」によって、今回の事件が発生した可能性は高まったように思われます(今回の事件は、企業コンプライアンスという視点からは極めて関心の高いものであります)。

ところで、このやらせメール依頼を行った中堅幹部(もしくは指示をした部長)の方は、いったいどのような気持で依頼文書を送ったのでしょうか。

「課長、これまずいんではないですか?」

「いやいや株主総会にだって、社員株主っているじゃない。あれと同じだよ。我々だって九電の社員であると同時に一市民なんだからメールを送ることは問題ないよ」

といった気持でやってしまったのか。それとも、やらせメールはまずいとは知りつつも、送り先は九電ファミリーなんだから裏切るようなことはしないはず、みんな依頼どおりに番組に意見書を送ってくれるにちがいない、といった気持でやってしまったのでしょうか。

後者であるとすれば、毎日新聞ニュースによれば、この幹部社員が送信した依頼メールは合計7通ということですから、そこから外部に情報が漏れたとすれば、内部告発のおそろしさ、といった時代の流れを感じさせる出来事であります。もしくは、国会議員による追及は「九電関連会社が社員にメールを送った」とありますので、まず九電の幹部社員が数通のメールを流し、その後メールを受け取った関連会社の方が、社員に一斉メールを送ったのかもしれません。そうだとすれば告発リスクは非常に高まるものであり、ネット掲示板等へ流出するリスクを認識していなかったとすれば話にならないのではと。

そして前者であるとすれば、まさに「社内と社外の常識にズレがある」典型例であり、コンプライアンス経営の核心部分であります。社内の人間からすれば、九電の原発再開は悲願でありますので、問題の適否を考えるにあたっても、九電にとって好ましい結論に導く理由しか考えられない頭(偏見)になっております。国が主宰する会議の場では、九電と利害関係のない一般市民の意見が求められているわけですから、一般市民に扮して意見を送る、という行動は番組の進行を妨害する行動ととられてもいたしかたないわけでして、マスコミや原発付近住民から「どう映るか」を冷静に判断する必要があったと思われます。

本日の九電社長の謝罪会見においても、マスコミから「社長の指示はなかったのか」と聞かれ、「それは大きな問題なのですか?」と社長が回答したのをみましても(その後、ペーパーが回ってきて、あわてて「指示は一切ありません」と回答)、やはり世間からどう映るか・・・という点への意識が全社的に欠如していたのでは、とも推測されます。結果だけをみれば「アホやなあ」と思われるかもしれませんが、けっこう、どこの会社でも似たような「不正の芽」が見つかります。コンプライアンスを「法令遵守」と訳してしまうと、「屁理屈」で正当化してしまう問題行動が増えてきます。よく最近言われる通り「社会からの要請への柔軟な対応」と訳すことで、はじめて「うちの会社の行動が、外からどう映るのか」を冷静に考える余裕が生じます。あとは、これに気付いた社員が口に出す勇気の問題です。

最後にひとつだけ疑問が残ります。おそらく、依頼文書を送られた子会社社員から、まず九電本体に「これはまずいのではないか」といった質問が届いたはずであります。かりにそういった質問が届かなかったとしても、6月25日頃からネット掲示板で話題となり、マスコミからも九電に問い合わせがあった、ということですから、何らかの九電側の対処はあったものと推測されます。この質問等に対して、九電はどのように対処されたのか。その対処さえ適切なものであれば、内部文書が国会議員の手に渡ることはなかったのではないか、仮に渡ったとしても、国会で追及が始まる前に、九電本体によって自浄能力を発揮して、その社会的信用の毀損を少しでも抑制することが可能だったのではないか。この事件の報道に触れて、疑問を抱いたような次第であります。

(追記)

たいへん反響が多く、数名の方からご異論を頂戴いたしました。私も本エントリーをアップする時点より予想はしておりましたが、「九電のやらせメールのどこが悪いのか?」「支援企業であれば、これくらいは当然だろう!」「愛社精神があるなら、依頼メールを送るのが当然」「これは典型的な九電パッシングであり、世論とマスコミは意見が違う」など、であります。これはコンプライアンスを考えるうえでたいへん貴重なご異論の数々だと思います。一度、こういった問題を「企業価値」という視点から真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうかね。

| | コメント (5) | トラックバック (2)

2011年7月 5日 (火)

M&Aと企業買収契約の錯誤無効

先日、orzさんからコメントをいただき、私も知りましたが、循環取引によって8割から9割の売上が架空だったとされるアイ・エックス・アイ社(東証二部-当時)をTOBによって購入したインターネット総研(IRI)社が、IXIの元親会社であるシーエーシー社を訴えていた裁判におきまして、このほど和解が成立し、CAC社は和解金として30億円をIRI社に支払うことになったようであります。

注目すべきはCAC社のリリースでありまして、裁判所から和解による解決を強く求められ、代理人からも錯誤無効が成立する可能性が高いとの意見が出たため、和解に応じたとのことであります。請求金額と和解金の比率からみて、たしかにIRI社の実質勝訴といえそうな和解にも思えますので、ひょっとするとこのまま裁判を継続していた場合には、(返還すべきIXI社株式の評価額などが問題となるものの)M&Aの世界において錯誤無効の主張が認められるという、かなり興味深い判決が下される可能性があったということになります。動機の錯誤、ということでしょうから、そのような動機が契約自体に表示されており、要素の錯誤と認められる事態というのが一体どのような事実によって認められようとしていたのか、これは極めて重要な問題かと。

ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、IRI社がCAC社からIXI社株式を購入するにあたっては、日本を代表する著名証券会社、アドバイザー監査法人、法律事務所、などがフィナンシャルアドバイス、財務デューデリ、法務デューデリに関与しておられ、「間違いなく、IXI社はいい会社。お買い得です」との太鼓判を押されて購入したものであります。子会社を売る側としても、これだけ万全の体制で買主に株式を譲渡するわけですから、後日、当該子会社の粉飾決算が発覚して、錯誤による契約の無効を買主から主張され、それが裁判所で通ってしまいそうになる・・・ということは夢にも思っておられなかったのではないでしょうか。本件訴訟において錯誤無効の主張が通ってしまいそうな状況に至った経過を理解したいところでありますが、錚々たるメンバーが株式評価を行ったとしても、売買契約が錯誤無効となるリスクが発生する、ということは重大な出来事かと思われます(その割には、あまり世間では騒がれていないような気もします)。

IRI社は、CAC社だけでなく、売買当時IXI社の監査を担当していた新日本有限責任監査法人に対しても、おそらく監査見逃し責任を根拠に損害賠償請求訴訟を提起され、このほど1億5000万円を新日本監査法人がIRI社に支払う和解を成立させ、粉飾会社売買の責任の一端を同監査法人に負担させることとなったそうであります(リリースはこちら)。そして、いよいよ7月1日には、IXI社を東証二部に上場させて「信用」をつけさせ、粉飾決算判明後には、問答無用でIRI社を上場廃止とした(として)東京証券取引所を相手とする裁判を提起されたようです(ニュースはこちらです。債務不履行責任を追及するとか)。

IRI社の代表者としては、本件売買に関与していた数多くの利害関係人に対してIXI粉飾事件による損害を分担してほしい、との気持ちが強いと思われます。おそらく東証を訴えた事件においても同様の気持ちからではないかと。また、内容はいろいろと理解したいところでありますが、いまなおIXIの亡霊がうごめいているような気がいたしますね。IRI社による執念の裁判の結果が開示され、「ドキ!」っとされておられる関係会社の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月 4日 (月)

東京ドーム幹部への業務上過失致死罪適用はあるか?

ユッケ食中毒事件と同様、東京ドーム事件についても、経営陣の刑事責任を問うのはむずかしいのでは、と考えておりましたところ、今年1月、遊戯施設からの転落死という痛ましい事故が発生した株式会社東京ドームさんにつきまして、6月末のニュースによりますと、ドームシティ担当の執行役員の方をはじめ7名の幹部職員について業務上過失致死罪の被疑事実により書類送検されるそうであります(産経新聞ニュースはこちら)。

4年前のエキスポランドの事件では、役員の方2名に業務上過失致死罪の成立が認められ、地裁において禁固2年執行猶予4年の判決が下されましたが、やはりエキスポ事件と同様、業務上過失致死罪が適用されるのでしょうか?たしかエキスポの事件では、少なくとも事故の前年に、部品の亀裂について経営幹部が十分認識しえたにもかかわらず、根本的な対策を怠っていたことで、条理上、経営幹部にも安全配慮を怠った過失が認められたものでありました。

今回の東京ドーム事件でも、やはりエキスポ事件と同様、幹部職員に安全配慮を怠った過失が認められるとするならば、どのあたりに決定的な問題があったと考えるべきなのでしょうか?マニュアルに目視だけでなく、実際に安全バーを押し込んで確認すべし、とは書いていなかった点でしょうか、それとも運行規則には社員が運転すべし、とあるにもかかわらず、これをアルバイト社員にさせていた点でしょうか。アルバイト社員に実際に「バーを押して確認せよ」と口頭で指導をしていなかった点でしょうか。

重大な事故が発生する蓋然性について、役員クラスの方々が具体的に認識していなければ、刑事責任を問うことは困難だと思いますが、本件でもっとも重要な事実は過去には安全バーを実際に手で押さえて確認していたところ、最近ではそのような確認をしなくなったこと、また従前は社員に運転をさせていたにもかかわらず、最近はアルバイト社員に安全確認と運転の双方を任せるようになった、ということではないかと

なぜ従来の安全確認作業が行われなくなっていったのか、そのあたりがきちんと分析される必要があるように思います。以前の新聞報道などをみておりますと、かつて安全バーの確認を手で押さえて実施していたところ、乗客の下腹部が圧迫されて苦情がかなりあった、ということだそうで、こういった苦情への対応として、目視で足りる、との運用になったのではないかと推測されます。また、経費節減という事情として、運転者と安全確認者が同一人で行われるようになり、安全確認が万全に行われる余裕がなくなってきたことも要因かもしれません。いずれにしても、経営判断の過程において、従来の安全対策が何故緩和されるようになったのか、そのあたりにもっとも関心が湧くところであります。

こういった事故が発生するたびに、毎度申し上げるところでありますが、企業の役員クラスの人たちに痛ましい事故の刑事責任が厳しく問われる傾向にありますが、その企業における構造的な問題にまで原因究明を行わなければ、おそらく効果的な再発防止策は策定されないはずだと思います。個人の刑事責任が問われて、なんとなく事件が解決してしまった気になり、失敗を繰り返さないための本質的な改革がなされず、ふたたび事故を発生させてしまういった流れへの危惧であります。とくにエキスポランドと同様、東京ドームさんにも閉園に至っても不思議がないほどにインパクトの強い事故が発生したわけで、「こういった対策をとりましたので、二度と同じ事故は発生しません」といった説得的な再発防止策の実行が必要ではないでしょうか。警視庁は「本件は組織的な犯行」と判断し、アルバイト社員および現場責任者だった契約社員については立件を見送ったそうでありますが、組織的犯行とみて、刑事責任追及のなかで構造的欠陥を発見していこうとする対応が定着しつつある傾向を示すように思います。今後、本事件について検察がどのように判断するのか、注目されるところです。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年7月 1日 (金)

社外監査役選任議案、ついに否決例が出る(独立性に問題か)

facebookで知りましたが、6月28日のニフコ社の定時株主総会で、社外監査役選任議案が否決されたそうであります。急いで日経新聞(7月1日朝刊)を読むと、たしかにベタ記事が掲載されていますね。反対票が50%強だった模様。(追記:ニフコ社の6月30日付け臨時報告書を拝見しましたが、賛成49.05%ということで、本当にギリギリのところで否決されたようであります。当日出席株主の議決権行使結果まで集計しておられますね)

この社外監査役の方は、バリバリの企業法務に詳しい法律家の方(法制審の委員もされていらっしゃる)ですが、顧問弁護士と同じ法律事務所に勤めておられる方、とのことで独立性に問題あり、とされたのでしょうか(日経新聞は、そのような書きぶりです)。ただ、平成16年にニフコ社の社外監査役に就任されておられるので、「二期8年を超える者は社外とはいえない」として、こちらでも独立性を疑問視されたのかもしれません。

たしか昨年も、社外監査役の独立性に関しては、株主から強い批判票が集まっており、賛成比率が60%台だった企業が5社ほどあったように記憶しております。今年は監査役の改選が非常に多い年になりますので、否決例が出るのではないか、と思っておりましたが、「やはり」というのが実感でございます。

しかし、補欠監査役に選任された方、いきなり監査役に就任することになるわけで、心の準備はできていたのでしょうか?おそらく株主総会には出席されていなかったのではないかと。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

会計の国際化に伴う国際紛争のリスクを考える

ここ1週間ほどのエントリーにつきまして、多くの方々から有益なコメントをいただいているにもかかわらず、あまりレスできておらず心苦しいところです。<m(__)m>どうも本業で忙しく、コメントへの返答を考えるどころか、ブログネタもきちんと考える余裕もないまま過ごしております。ときどき勘違いして事例を紹介してしまって関係者の方からお電話でお叱りを受ける・・・ということもありまして(反省)。

今夜のネタも、本当はしっかりと構成を考えて書きたかったのですが、とりあえず「頭出し」程度に私がずっと考えているところをご紹介したいと思っているものであります。例のIFRS強制適用時期の延期に関連する話題であります。せっかく強制適用時期が少しばかり延期されたのですから、この機会にぜひ準備しておくべき問題があるのではないか、と。

ある方とお話していて、IFRSの時代には粉飾決算の摘発が増える・・・ということをおっしゃっていて、その理由を含めとても興味を覚えました。まぁ、粉飾摘発リスクというものは、しょせん日本国内のことですから、これまでの延長線上で物事を判断できればなんとか慣れてくるだろう、また摘発の対象となる企業というのも限られていて、普通にまじめに仕事をしておられる上場会社にとってはそれほど大きなリスクでもないだろう・・・・などと考えております。←このお話はまた後日、じっくりとエントリーにてご紹介したいと思っております。

ところが、IFRSの時代にもっともおそろしい、と感じるのが海外投資家が「お前の会社、粉飾やないか」といちゃもんをつけて、集団訴訟を起こされるリスクであります。レディー・ガガさんが、被災地支援事業の収益金の一部を着服している、として米国の消費者訴訟に強い弁護団から訴えられ、弁護団は集団訴訟参加者を募っている、と報じられております。こういった訴訟はなかなか日本人には背景を含めてよくわからないところがありますが、同じように、実体的にはよくわからないのですが、「IFRSに沿って考えたらお宅の会社は粉飾や」と言われた場合、日本はどのように対応すべきなのでしょうか。それこそ集団訴訟によって非常に高額の賠償金が求められる裁判、ということになるのではないでしょうか。

会計が国際化されたとしても、結局のところ、従順でお金を持っている国の会社がターゲットにされることは間違いないわけですから、とりわけ日本の海外進出企業はそういった会計不正に関する国際紛争に巻き込まれる可能性は高いのではないかと。いや、海外進出企業に限らず、IFRSで連結財務諸表を開示している会社であれば、同様のリスクがあるのかもしれません。現在、こういったリスクについて真剣に考えておられる会計士や弁護士の方々って、日本にどれくらいおられるのか、ひょっとしてあまりいらっしゃらないのではないか・・・と一抹の不安を覚えます。

粉飾によって被害を受けた、とされる、その訴訟の実体が「苦笑しそうな、へんてこな主張」だとしても、問題は手続きですよね。ご承知のとおり、米国のディスカバリー制度のようなものによって、証拠を出せないとか、紛失したとか、要するに証拠提出のための準備ができていなかったりすると、たとえ主張がおかしなものであったとしても、裁判所が相手の主張を正しいと判断してしまうわけでして、特に日本には内部統制報告制度など、「文書化」を前提とした法制度なんかもあることから、「これはえらいことになるんでは」と思ってしまうわけであります。手続き面でリスクを背負うわけですから、後で弁護士や会計専門家の方から「意見書」をとって事なきを得る・・・というわけにはいきませんし、また監査見逃し責任を問われた監査法人さんも、デロイトやE&Yから立派なIFRS解釈に関する意見書をもらったとしても通用しない世界なのであります。

会計の国際化と国際的な会計不正訴訟、という問題は、おそらく弁護士(私のような田舎の弁護士ではなく、国際紛争やディスカバリに精通した弁護士)と会計士、そしてフォレンジック・コンサルタント会社の間で共同して検討していかなければ解決できない問題のように思えますので、これまでもほとんど話題になってこなかったのではないでしょうか。会計ルールが法律ではないことは百も承知でありますが、この会計ルールの適用をめぐって粉飾決算の有無は決せられるわけで、果たして日本の経営者はこの国際紛争リスクから免れることはできるのかどうか、今後大きな課題として猶予された時間に検討しなければいけないものと思います。とりいそぎ頭出し程度にて失礼いたします。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »