(7月7日午後 重要な追記あります)
(7月7日午後 2度目の追記あります)
九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)2、3号機運転再開問題を巡り、経済産業省が6月26日に放送した県民向けの説明番組について、九電側が関連子会社に原発再稼働に賛成する内容の電子メールを番組あてに送るよう依頼していたそうであります。(6日、九電社長が事実を認め謝罪した、とのこと-読売新聞ニュースはこちら なお依頼内容はこちらです。)国会議員が、九電の内部文書をもとに国会で追及した、とのことですから、子会社従業員または九電社員による内部告発があったものと推測されます。番組放送前の6月25日より、ネット掲示板などで噂になっていたようですので、このあたりが告発の端緒となっていたものと思われます。
このような「やらせ」は、九電トップが仕組むことはまずありえないと思いますので、公表されたように一部の九電中堅幹部の社員が関連会社社員向けに依頼をしたことに間違いないと思います。まさに5月17日に当ブログのエントリー「東電社長はなぜ現場で陣頭指揮をとれないのか」において(某社専務さんがおっしゃっていた内容として)書かせていただいた組織力学が働いた模様。社長が矢面に立とうとしても、「いえいえ、ここは私がさばきますから、社長はしっかり構えておいてください」ということで将来のある中堅幹部の方々が前線で(愛社精神という美名のもとに)功を急ぐあまり暴走してしまう。平時の暴走は社内で処理できますが、有事は世間の注目を浴びている分、外部に漏れてしまう可能性が高いわけでして、その暴走が、再開が有力視されていた玄海原発の再開時期が遠のいてしまうほど、九電の社会的信用を毀損してしまう事態となりました。なんとも恐ろしい話であります。
(2度目の追記)7日午後のニュースによりますと、実際に依頼メールを送った課長さんは、部長級の方の指示で送ったことが判明したようであります。ということは、やはり「組織力学」によって、今回の事件が発生した可能性は高まったように思われます(今回の事件は、企業コンプライアンスという視点からは極めて関心の高いものであります)。
ところで、このやらせメール依頼を行った中堅幹部(もしくは指示をした部長)の方は、いったいどのような気持で依頼文書を送ったのでしょうか。
「課長、これまずいんではないですか?」
「いやいや株主総会にだって、社員株主っているじゃない。あれと同じだよ。我々だって九電の社員であると同時に一市民なんだからメールを送ることは問題ないよ」
といった気持でやってしまったのか。それとも、やらせメールはまずいとは知りつつも、送り先は九電ファミリーなんだから裏切るようなことはしないはず、みんな依頼どおりに番組に意見書を送ってくれるにちがいない、といった気持でやってしまったのでしょうか。
後者であるとすれば、毎日新聞ニュースによれば、この幹部社員が送信した依頼メールは合計7通ということですから、そこから外部に情報が漏れたとすれば、内部告発のおそろしさ、といった時代の流れを感じさせる出来事であります。もしくは、国会議員による追及は「九電関連会社が社員にメールを送った」とありますので、まず九電の幹部社員が数通のメールを流し、その後メールを受け取った関連会社の方が、社員に一斉メールを送ったのかもしれません。そうだとすれば告発リスクは非常に高まるものであり、ネット掲示板等へ流出するリスクを認識していなかったとすれば話にならないのではと。
そして前者であるとすれば、まさに「社内と社外の常識にズレがある」典型例であり、コンプライアンス経営の核心部分であります。社内の人間からすれば、九電の原発再開は悲願でありますので、問題の適否を考えるにあたっても、九電にとって好ましい結論に導く理由しか考えられない頭(偏見)になっております。国が主宰する会議の場では、九電と利害関係のない一般市民の意見が求められているわけですから、一般市民に扮して意見を送る、という行動は番組の進行を妨害する行動ととられてもいたしかたないわけでして、マスコミや原発付近住民から「どう映るか」を冷静に判断する必要があったと思われます。
本日の九電社長の謝罪会見においても、マスコミから「社長の指示はなかったのか」と聞かれ、「それは大きな問題なのですか?」と社長が回答したのをみましても(その後、ペーパーが回ってきて、あわてて「指示は一切ありません」と回答)、やはり世間からどう映るか・・・という点への意識が全社的に欠如していたのでは、とも推測されます。結果だけをみれば「アホやなあ」と思われるかもしれませんが、けっこう、どこの会社でも似たような「不正の芽」が見つかります。コンプライアンスを「法令遵守」と訳してしまうと、「屁理屈」で正当化してしまう問題行動が増えてきます。よく最近言われる通り「社会からの要請への柔軟な対応」と訳すことで、はじめて「うちの会社の行動が、外からどう映るのか」を冷静に考える余裕が生じます。あとは、これに気付いた社員が口に出す勇気の問題です。
最後にひとつだけ疑問が残ります。おそらく、依頼文書を送られた子会社社員から、まず九電本体に「これはまずいのではないか」といった質問が届いたはずであります。かりにそういった質問が届かなかったとしても、6月25日頃からネット掲示板で話題となり、マスコミからも九電に問い合わせがあった、ということですから、何らかの九電側の対処はあったものと推測されます。この質問等に対して、九電はどのように対処されたのか。その対処さえ適切なものであれば、内部文書が国会議員の手に渡ることはなかったのではないか、仮に渡ったとしても、国会で追及が始まる前に、九電本体によって自浄能力を発揮して、その社会的信用の毀損を少しでも抑制することが可能だったのではないか。この事件の報道に触れて、疑問を抱いたような次第であります。
(追記)
たいへん反響が多く、数名の方からご異論を頂戴いたしました。私も本エントリーをアップする時点より予想はしておりましたが、「九電のやらせメールのどこが悪いのか?」「支援企業であれば、これくらいは当然だろう!」「愛社精神があるなら、依頼メールを送るのが当然」「これは典型的な九電パッシングであり、世論とマスコミは意見が違う」など、であります。これはコンプライアンスを考えるうえでたいへん貴重なご異論の数々だと思います。一度、こういった問題を「企業価値」という視点から真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうかね。