東京ドーム幹部への業務上過失致死罪適用はあるか?
ユッケ食中毒事件と同様、東京ドーム事件についても、経営陣の刑事責任を問うのはむずかしいのでは、と考えておりましたところ、今年1月、遊戯施設からの転落死という痛ましい事故が発生した株式会社東京ドームさんにつきまして、6月末のニュースによりますと、ドームシティ担当の執行役員の方をはじめ7名の幹部職員について業務上過失致死罪の被疑事実により書類送検されるそうであります(産経新聞ニュースはこちら)。
4年前のエキスポランドの事件では、役員の方2名に業務上過失致死罪の成立が認められ、地裁において禁固2年執行猶予4年の判決が下されましたが、やはりエキスポ事件と同様、業務上過失致死罪が適用されるのでしょうか?たしかエキスポの事件では、少なくとも事故の前年に、部品の亀裂について経営幹部が十分認識しえたにもかかわらず、根本的な対策を怠っていたことで、条理上、経営幹部にも安全配慮を怠った過失が認められたものでありました。
今回の東京ドーム事件でも、やはりエキスポ事件と同様、幹部職員に安全配慮を怠った過失が認められるとするならば、どのあたりに決定的な問題があったと考えるべきなのでしょうか?マニュアルに目視だけでなく、実際に安全バーを押し込んで確認すべし、とは書いていなかった点でしょうか、それとも運行規則には社員が運転すべし、とあるにもかかわらず、これをアルバイト社員にさせていた点でしょうか。アルバイト社員に実際に「バーを押して確認せよ」と口頭で指導をしていなかった点でしょうか。
重大な事故が発生する蓋然性について、役員クラスの方々が具体的に認識していなければ、刑事責任を問うことは困難だと思いますが、本件でもっとも重要な事実は過去には安全バーを実際に手で押さえて確認していたところ、最近ではそのような確認をしなくなったこと、また従前は社員に運転をさせていたにもかかわらず、最近はアルバイト社員に安全確認と運転の双方を任せるようになった、ということではないかと。
なぜ従来の安全確認作業が行われなくなっていったのか、そのあたりがきちんと分析される必要があるように思います。以前の新聞報道などをみておりますと、かつて安全バーの確認を手で押さえて実施していたところ、乗客の下腹部が圧迫されて苦情がかなりあった、ということだそうで、こういった苦情への対応として、目視で足りる、との運用になったのではないかと推測されます。また、経費節減という事情として、運転者と安全確認者が同一人で行われるようになり、安全確認が万全に行われる余裕がなくなってきたことも要因かもしれません。いずれにしても、経営判断の過程において、従来の安全対策が何故緩和されるようになったのか、そのあたりにもっとも関心が湧くところであります。
こういった事故が発生するたびに、毎度申し上げるところでありますが、企業の役員クラスの人たちに痛ましい事故の刑事責任が厳しく問われる傾向にありますが、その企業における構造的な問題にまで原因究明を行わなければ、おそらく効果的な再発防止策は策定されないはずだと思います。個人の刑事責任が問われて、なんとなく事件が解決してしまった気になり、失敗を繰り返さないための本質的な改革がなされず、ふたたび事故を発生させてしまういった流れへの危惧であります。とくにエキスポランドと同様、東京ドームさんにも閉園に至っても不思議がないほどにインパクトの強い事故が発生したわけで、「こういった対策をとりましたので、二度と同じ事故は発生しません」といった説得的な再発防止策の実行が必要ではないでしょうか。警視庁は「本件は組織的な犯行」と判断し、アルバイト社員および現場責任者だった契約社員については立件を見送ったそうでありますが、組織的犯行とみて、刑事責任追及のなかで構造的欠陥を発見していこうとする対応が定着しつつある傾向を示すように思います。今後、本事件について検察がどのように判断するのか、注目されるところです。
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コメント
2度目の投稿です。
この事件に注目した理由は、組織のありようが、裁判の対象になっていることです。その意味で、「ビジネス法務の部屋」に掲載されたことは、十分意味のあることだと感じました。
ジェームス・リーズンの受け売りですが、組織のありようが事故を起こしたのではないかとの視点から、役員である個人を裁くことが、公正な社会を作るために、役立つことなのでしょうか?
裁判で、個人の責任が確定したとしても、事故の真の原因が解明されたことになるのか大いに疑問に思っております。組織に起因する事故は、様々な要因が絡んでいるため、訴追を受けた個人に係わる要員は解明できたとしても、訴追を受けなかった個人あるいはその背景にある組織の課題は、解明されないままになり、事故を防止する為に必要な調査が必ずしも行われない結果にならないか危惧するものです。
判決により、当該組織に事故調査第3者委員会等を設置し、事故防止対策がなされることを確認する義務は、裁判所には無いように思います。刑事裁判と民事裁判を厳格に区分する必要はあるのかもしれません。しかし、刑事裁判が、世の中の公正な仕組みを維持するためにあるならば、組織が健全に機能するように、結論がなされ、一般国民に納得される結果を出すことまで、行うことは出来ないのでしょうか
ニアミス管制官の有罪判決をみても、一部の意見としては、組織全体の問題点を検討すべしとあるものの、少数意見のままであると思われます。
組織を背景とした事故への判例が、今後どの様に蓄積されてゆくのか、注目してゆきたいと思っております。
投稿: 法律素人 | 2011年7月 7日 (木) 11時24分