会計の国際化に伴う国際紛争のリスクを考える
ここ1週間ほどのエントリーにつきまして、多くの方々から有益なコメントをいただいているにもかかわらず、あまりレスできておらず心苦しいところです。<m(__)m>どうも本業で忙しく、コメントへの返答を考えるどころか、ブログネタもきちんと考える余裕もないまま過ごしております。ときどき勘違いして事例を紹介してしまって関係者の方からお電話でお叱りを受ける・・・ということもありまして(反省)。
今夜のネタも、本当はしっかりと構成を考えて書きたかったのですが、とりあえず「頭出し」程度に私がずっと考えているところをご紹介したいと思っているものであります。例のIFRS強制適用時期の延期に関連する話題であります。せっかく強制適用時期が少しばかり延期されたのですから、この機会にぜひ準備しておくべき問題があるのではないか、と。
ある方とお話していて、IFRSの時代には粉飾決算の摘発が増える・・・ということをおっしゃっていて、その理由を含めとても興味を覚えました。まぁ、粉飾摘発リスクというものは、しょせん日本国内のことですから、これまでの延長線上で物事を判断できればなんとか慣れてくるだろう、また摘発の対象となる企業というのも限られていて、普通にまじめに仕事をしておられる上場会社にとってはそれほど大きなリスクでもないだろう・・・・などと考えております。←このお話はまた後日、じっくりとエントリーにてご紹介したいと思っております。
ところが、IFRSの時代にもっともおそろしい、と感じるのが海外投資家が「お前の会社、粉飾やないか」といちゃもんをつけて、集団訴訟を起こされるリスクであります。レディー・ガガさんが、被災地支援事業の収益金の一部を着服している、として米国の消費者訴訟に強い弁護団から訴えられ、弁護団は集団訴訟参加者を募っている、と報じられております。こういった訴訟はなかなか日本人には背景を含めてよくわからないところがありますが、同じように、実体的にはよくわからないのですが、「IFRSに沿って考えたらお宅の会社は粉飾や」と言われた場合、日本はどのように対応すべきなのでしょうか。それこそ集団訴訟によって非常に高額の賠償金が求められる裁判、ということになるのではないでしょうか。
会計が国際化されたとしても、結局のところ、従順でお金を持っている国の会社がターゲットにされることは間違いないわけですから、とりわけ日本の海外進出企業はそういった会計不正に関する国際紛争に巻き込まれる可能性は高いのではないかと。いや、海外進出企業に限らず、IFRSで連結財務諸表を開示している会社であれば、同様のリスクがあるのかもしれません。現在、こういったリスクについて真剣に考えておられる会計士や弁護士の方々って、日本にどれくらいおられるのか、ひょっとしてあまりいらっしゃらないのではないか・・・と一抹の不安を覚えます。
粉飾によって被害を受けた、とされる、その訴訟の実体が「苦笑しそうな、へんてこな主張」だとしても、問題は手続きですよね。ご承知のとおり、米国のディスカバリー制度のようなものによって、証拠を出せないとか、紛失したとか、要するに証拠提出のための準備ができていなかったりすると、たとえ主張がおかしなものであったとしても、裁判所が相手の主張を正しいと判断してしまうわけでして、特に日本には内部統制報告制度など、「文書化」を前提とした法制度なんかもあることから、「これはえらいことになるんでは」と思ってしまうわけであります。手続き面でリスクを背負うわけですから、後で弁護士や会計専門家の方から「意見書」をとって事なきを得る・・・というわけにはいきませんし、また監査見逃し責任を問われた監査法人さんも、デロイトやE&Yから立派なIFRS解釈に関する意見書をもらったとしても通用しない世界なのであります。
会計の国際化と国際的な会計不正訴訟、という問題は、おそらく弁護士(私のような田舎の弁護士ではなく、国際紛争やディスカバリに精通した弁護士)と会計士、そしてフォレンジック・コンサルタント会社の間で共同して検討していかなければ解決できない問題のように思えますので、これまでもほとんど話題になってこなかったのではないでしょうか。会計ルールが法律ではないことは百も承知でありますが、この会計ルールの適用をめぐって粉飾決算の有無は決せられるわけで、果たして日本の経営者はこの国際紛争リスクから免れることはできるのかどうか、今後大きな課題として猶予された時間に検討しなければいけないものと思います。とりいそぎ頭出し程度にて失礼いたします。
| 固定リンク
コメント
いつも楽しく拝見させていただいております。
エントリー内容は、海外投資家からの集団訴訟を主眼とされておりますが、当局側の興味深い意見を見つけました。
http://www.fsa.go.jp/sesc/keisai/20110410-7.pdf
ご存知だったかもしれませんが、会計基準の変質による先行き及び予見可能性及び当局による粉飾の摘発水準の変化という2点から、証券取引等監視委員会事務局次長が、今後の会計不正に対する考えを示されております。
当局の摘発水準が変わり、また海外投資家からの集団訴訟リスクが高まるとなると、監査法人も品質管理を義務付けられ、さらに高度なリーガルリスクに対応しなければならないということになり本当に大変ですね。
投稿: unknown1 | 2011年7月 7日 (木) 22時20分