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2011年7月18日 (月)

ネステージ事件にみる「現物出資」による第三者割当増資の専門家リスク

連休中、皆様いかがお過ごしでしょうか?大阪は本当に暑い!かなり夏バテでして、いつも休日に通っております歯科クリニックにおいて、私は初めて口を開けたまま眠りにつく・・・・・という失態を演じてしまいました。

先日(7月14日)、ネステージ社の関係者逮捕劇については、初めてテレビで解説をさせていただき、1分ほど放映されましたが、やはりテレビの反響は大きかったです。あのような不公正ファイナンス事件の真相を、わずか1分でテレビの茶の間の方々に理解してもらうことはほとんど不可能なわけでありますが、まぁネステージ事件全体では15分の特集番組でしたので、全体をご覧になれば、証券市場の健全性を損なう事件・・・という程度のことはおわかりいただけたのではないかと思います。

ところで、本日、ろじゃあさんからもTBをいただいておりますが、ネステージ社に株式割当先会社を紹介したのは、今年1月に逮捕された春日電機の元社長さんだった、ということが新たに報じられており、闇の連鎖が垣間見えるようで興味深いところであります。「連鎖」というのは、摘発する側からすると、それぞれの事件の立件にあたり、不透明な部分を補強できる、ということを意味しますので、摘発事件が増えれば、また別件が容易に摘発できる、という「連鎖」もあるわけです。ということで、現在問題とされている「不公正ファイナンス」事件につきましては、ほかにも現在「疑惑」がもたれている件もあり、戦々恐々とされていらっしゃる方々も多いのではないでしょうか。

ただ、事件そのものへの関心よりも、私が身近なリスクとして喫緊の課題だと考えておりますのでは、こういった不公正ファイナンス事件への法律・会計専門家の関与であります。先日、ある元会計士の方に実刑判決が下りましたが、「確信犯」的に不正に関与されているケースというのは特に申し上げることはございません。しかし、不公正ファイナンス事件に弁護士や会計士などの専門家が巻き込まれるケースというのは要注意であります。

たとえばネステージの件について、割当される株式の評価額と、出資に用いられる不動産の評価額が著しく異なるのではないか?ということが問題とされ、不動産の評価を行った鑑定士の方が逮捕されたわけですが、こういった「現物出資」が行われる場合には、不動産鑑定士の評価だけでなく、裁判所の選任する検査役検査に代わる弁護士・会計士の評価額の相当性に関する証明が必要となります(会社法207条4項)。ネステージの件では、公認会計士兼税理士の方が、この現物出資の財産評価は適正である、と証明しておられ、また任意に設置された第三者委員会の弁護士や会計士の委員の方々が、一連の会社の手続きは適正であることを報告書で宣明されておられます。

今回の事件で逮捕された不動産鑑定士の方は、逮捕前の朝日新聞によるインタビューに対し、評価は適正である、何も悪いことはしていない、として容疑を否認されていたようでありますが、おそらく検査役調査に代わる会計士や弁護士の審査においても「価額は相当だ」と証明しているではないか、といったあたりを主張されているのではないでしょうか。私はこういった不公正ファイナンス事件について、評価金額の相当性が争われるようなタイプの立件を捜査機関はしてこないと考えています。評価の妥当性よりも、むしろ不動産鑑定士さんが誰から誰に紹介され、また事前に関係者とどのような協議をし、その結論として「はじめに鑑定結果ありき」といった事実を証明できる事実の積み重ねが重要なポイントになるものと考えます。したがって、別の怪しい鑑定評価が問題となった事件が調査されたり、別の不公正ファイナンス事件で立件された関係者とのつながりが認められるような場合には、公正な立場で鑑定しなければならないにもかかわらず、鑑定士さんは、鑑定判断に必要な条件となる前提事実自体を公正に拾い上げていない可能性が高いことになります。鑑定に必要な事実の拾い上げの部分にミスがあれば、これはもはや専門家領域の問題ではありませんので、事件の進展がみられる、といったことになり、今回の逮捕劇につながったのではないでしょうか。

これはキャッツ事件における最高裁の判断にもみられるところであり、専門家領域の判断を法律家が判断することへの批判を回避しつつ、専門家の関与(事件への加担)を糾弾する場合に用いられる判断過程であり、たとえば本件で、不動産鑑定士さんは立件するけれども、同じく現物の評価額の相当性について証明書を提出した会計士、税理士さんは立件しない、とする結論を支えるところではないかと。

ただし、そうは言いましても、民事損害賠償問題は別ですので、関与されている会計士、弁護士の方々のリスクというものはやはりあるだろうなあと思います。300万円、400万円の報酬を目の前にして、不動産鑑定士さんの鑑定評価書などを参考にして出資対象となる資産評価の相当性を判断するわけですから、我々専門家にとっては、ちょっと誘惑的な業務であります。しかし、ネステージ事件以外にも、相当数の不公正ファイナンス事件予備軍らしきものが散見され、そこでもやはり当の発行企業は専門家の判断を用意周到な手続きによって集めております。果たしてこういったリスクが会計士、弁護士などがどこまで認識しているのか、ひょうっとしてあまり認識せずに、請け負っているのではないか・・・・。そのあたり、私は非常に危惧するところであります。

インターネット総研さんは、粉飾決算事件による損害の公平な分担を求めて、子会社を販売した親会社、その子会社を監査していた監査法人を訴え、そして事件発覚から4年を経過した本年、東証さんを提訴しました。第三者割当増資に関する監査役の適法意見制度なども新設されましたが、これも果たしてどこまで機能するものか、心もとないのが実務運用の実際でありますので、不正事件が発覚した場合のリスクというものを誰がどのように負担するのか、今後の課題ではないでしょうか。

7月 18, 2011 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

今回の件で注目されているのは不動産鑑定士さんが逮捕されたということなのではないかと思います。今後の類似の案件においては、聖域はないという風に当局が考えるのかどうかは今後次第だとは思いますが。

投稿: ろじゃあ | 2011年7月18日 (月) 08時51分

はじめまして。プラムと申します。いつもブログを拝見して勉強させていただいております。

今回の件は、たしか金融庁の幹部の方が、以前から名指しで警告していたもので、ある程度は予想されていましたが、それでも我々の業界では衝撃です。会計士や弁護士だけでなく、不動産鑑定士の鑑定の在り方にも課題を投げかけるものです。
けっして見込みで鑑定を行うものではなく、先生が危惧されているのと同様のリスクは不動産鑑定士業界にもあると思います。つまり「普通にまじめに業務を行っている鑑定士」でも事件に巻き込まれることがあるということです。
鑑定士逮捕という事件によって、この業界すべてに悪いイメージが残ってしまうことだけは避けてほしいと思います。
すいません、あまりうまく書けないので乱文失礼します。

投稿: プラム | 2011年7月18日 (月) 11時42分

いつも楽しく拝見させていただいております。エントリーの趣旨とは異なることと思いますが、感想を述べさせていただきたいと思っております。

昔、耐震強度偽装という事件がありました。私は、未だ心配する立場ではありませんが、それ以来、個人事務所を経営することを考えたとき、どのようなスタンスで業務を行うのかをそれなりに考えてきました。報道では、「単発の仕事。やりとりはメールだけで会ったことがない。」旨のことを発言していたようでありますが、逮捕された方がどのような考えの持ち主であるのかが最も興味があります。

報酬がなければ、事務所経営どころか、生活もできないわけでして、実際にこのような事件にならなければ「固いことを言うなよ」という類の発想・誘惑が、必ずあることと想像いたします。このような業務をしなくてもいいような、潤っている状況であれば、何も心配しなくてもよいのですが。

投稿: サラリーマンも楽じゃないけれど。 | 2011年7月18日 (月) 17時21分

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