« ネステージ事件にみる「現物出資」による第三者割当増資の専門家リスク | トップページ | 社員の架空取引による相手先の損害を会社は負担すべきか? »

2011年7月19日 (火)

IFRSの強制適用と会計倫理問題

サッカー女子W杯優勝おめでとうございます。日本のマスコミはあまり触れたがりませんが、岩清水選手のカミカゼタックル(一発退場)は欧州の新聞等では称賛されていますね。「あれがなかったら米国は勝てた。汚いぞ日本!」のような論調も、米国ですらありません。自ら「一発退場」というペナルティを覚悟のうえで、チームのためにルール違反を犯すことは、あの時間帯ということも含め、サッカーの世界では非難の的にはならないのでしょうね。それどころか日本チームは大会を通じた「フェアープレー賞」を受賞し、これはとても栄誉なことだと思います。

これは会計(とりわけIFRS)の素人として、前から疑問に思っていることですが、IFRS(国際会計基準)が世界標準として財務報告の基準になったとしても、世界の各企業の業績比較はそれだけでは困難ではないか、と考えています。というのは、どんなに会計基準を標準化したとしても、各国の企業における会計倫理とか、各国の監査法人さんの監査倫理というものはマチマチであり、財務報告の信用性まで標準化されることはない、と思うからであります。最近、米国市場に上場している中国企業のガバナンスや内部統制が問題視され、業績が赤字転落しているところが出てきて、さらに米国は中国と共同で中国企業の監査を行うことまで提案されております。本日あたりの報道では格付けまで低下しているとか。どんなにIFRSが世界共通の会計基準となったとしても、これを適用する企業の倫理観とか監査法人の監査上のレベル感が異なっているのであれば、財務報告の信頼性が異なることとなるのが当然であります。

安易な考え方かもしれませんが、日本の場合には、先の「フェアープレイ」賞ではありませんが、世界的に見て「日本企業はまじめに会計処理を行い、監査法人は真摯に証明業務に従事する」といった定評が世界的にはあるのではないかと。そうだとすれば、むしろIFRSの標準化は日本企業にとっては有利になるのではないでしょうか。もちろん、日本にも粉飾決算事件は発生しておりますので、会計倫理という面では問題もあるかもしれませんが、少なくとも世界企業と呼ばれている企業においては、経理関連のスタッフも充実し、また監査法人の監査もかなり真摯に行われており、会計倫理・監査倫理という面で大きな支障はみられないように思います。昔「レジェンド問題」がありましたが、日本が会計基準の標準化を受け入れた場合には、逆に日本企業の財務報告の信頼性は高まるのではないでしょうかね(甘いかな)。

逆に、以前当ブログでも懸念しておりました「IFRS導入により、日本企業が海外でわけのわからない粉飾決算訴訟に巻き込まれるのではないか」といった問題を提起いたしましたが、7月14日のサンケイビズのニュースにより、米国で係争中のトヨタリコール問題に関連する株主訴訟のうち、原告主張の33件中、26件までが「裁判権がない」「国内で株式を購入していない」といった裁判管轄に関する理由で訴えが棄却されておりますので、IFRSによる粉飾決算訴訟の増加リスクも、米国証券市場等に上場していない限りでは、それほど大きなリスクではないかもしれません。

最近は、ニコン、資生堂、KDDI等の企業さんが、IFRS準備作業を見直し、情勢を見極めるといった報道がされておりますが、あまり、IFRSと会計倫理に関する議論というものを会計雑誌等でも聞いたことがありませんでしたので、女子サッカーの「フェアープレー賞」を称賛しながら、素朴な疑問を書かせていただきました。

7月 19, 2011 IFRS関連 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/52246735

この記事へのトラックバック一覧です: IFRSの強制適用と会計倫理問題:

コメント

日本の監査がフェアプレー賞並みの品質だったか、そんな話題聞いたことないですねえ(監査の品質って話題になりにくい?)。

一般的・客観的に考えると、日本企業は欧米より監査報酬に対してシビアなので、品質を良くする(=多くの人数・時間をかけて監査することが彼らのビジネスモデルからは大前提となるはず)には結構しんどいのでは。

J-SOXとか取り入れると、経営者から反発を食らいますが、「良くやった」とは未だに聞かれないような…。

連結会計、CF計算書、時価会計、減損会計、退職金会計と色々変更し、J-SOXと監査法人も人が必要だったのに最近トーマツさんが早期退職を促したそうですし。

ただ、監査報酬などの限定的な環境の中では、よくやっていらっしゃるかもしれません。

中国の件は少なくとも4大監査法人はあまり絡んでいなかったのでは?4大監査法人の国際間での品質のばらつきは最小限に各社しているはずだと思います。

投稿: katsu | 2011年7月19日 (火) 12時11分

katsuさん、難しいエントリーにコメントありがとうございます。参考にさせていただきます。
私、監査法人(とくに大きい監査法人さん)の品質管理をみていて、その管理の方法すら日本と欧米とはかなり異なるのではないか、と思います。このような状況では、いくらグローバルな監査法人と提携してみても、各国の会計倫理までは統制されないものと思っています。そのあたり、また続編で紹介といいますか体験談を語ってみたいですね。

投稿: toshi | 2011年7月21日 (木) 11時05分

大手監査法人の監査を受けています。

監査の現場を会社側から見ている感じでは、提携先big4の作った電子システムに、せっせと入力しているので、技術的には、品質管理の方法は日本が欧米式と同じものになっているように見えます。

ただ、あくまでも使う道具が同じなだけで、その道具を使いながら口にしている言葉を聞いていると、いまだその精神は欧米と別物のようです。(どうしても過去のいきさつ、というものがあるのです)

また一方で、担当会計士の話を聞いていると、少なくない時間を「倫理」(=道徳)研修に費やしているようです。

この「倫理研修」の充実度合いが、IFRS時代には品質の裏付けになるのかもしれません。

先生の「続編」あるいは「体験談」に期待しています。

投稿: B型が苦手 | 2011年7月21日 (木) 23時25分

B型が苦手さんのご指摘、かなり持論に近いです。欧州やアメリカ、オーストラリアあたりでも、やっぱり手続きは似ていても、監査法人社員の会計思想がずいぶん違うように思います。監査法人の品質管理については、公認会計士法のなかでも、非常に関心のある分野ですので、また続編を書きますので、ご意見をください。

ちなみにB型が苦手さんのブログ、おもしろいですね。ご紹介してもよろしいのでしょうか?(僭越ですが、アクセス数の関係からか当ブログで勝手にご紹介しますと、後で管理人の方にお叱りを受けることがありますので・・・)「残高確認」のお話など、実は知られているようで、あまり知られていないのですよね。

投稿: toshi | 2011年7月22日 (金) 01時39分

私はかつてBig4の子会社に在籍していた関係上、多少監査のことは知っておりますが、卵と鶏の関係だと思います。

企業サイドにも監査を受ける意義が十分に理解できていないのではないでしょうか?(大手の優良企業等は、監査報酬をできるだけ値切って、適正意見を黙ってサッサと書け、という意識があると思いますよ)。

もっとも監査法人の方は、大事なクライアントですから、値切られた~と言っても最低限の監査をやらねばならない関係もあって、赤字受注しているケースも結構あるようです。

適正な監査報酬というものがどれぐらいなのかというのは、客観性がないので、容易ではない議論ですが(英米と比較すると単価は安いと思いますが)、お互いの倫理観のベクトルの一致が出来ているのかという前提はどうなのでしょうか?

投稿: katsu | 2011年7月22日 (金) 11時09分

返信ありがとうございます。

というか、1時半にコメントって、いつ寝られているのでしょうか?

さて、もし、私のブログをご紹介いただけるのであれば、問題はありませんので、是非お願いします。

また、告白すれば、私、過去に、黙ってコチラのブログにペタペタ、リンクを貼らせていただいております。

ですので、お気遣いは無用です。

投稿: B型が苦手 | 2011年7月22日 (金) 23時42分

少し前のロイターのニュースでは、4大監査法人も中国企業のIPOには懸念を示していることが伝えられています。実際にデロイトが中国企業の不正会計によって契約を解消したそうですね。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK893630020110627
関心のある方はどうぞ。

投稿: toshi | 2011年7月24日 (日) 10時31分

コメントを書く