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2011年8月31日 (水)

やっと認められた内部通報への制裁と「人事権濫用」論-オリンパス事件-

本日(8月31日)東京高裁においてオリンパス社員引き抜き事件の判決が下され、社内のヘルプラインに通報をした社員への配転命令の無効が確認された、とのことであります(会社に対する損害賠償も認容された、とのこと 朝日新聞ニュースはこちら)。社員側の完全な逆転勝訴判決であります。

私も、昨年出版いたしました「内部告発・内部通報-その光と影-」(経済産業調査会)の中におきまして、2010年1月25日の東京地裁判決(原審判決)に疑問を持ち、「この判決内容であれば、企業にヘルプライン(内部通報制度)を作らないほうがましである」(39頁)と述べ、またヘルプラインへ通報した社員に対する通報直後の配置転換ついては事実上の制裁であることの推定が働くため、配置転換の必要性は会社側が積極的に立証すべきであり、立証できなければ「人事権の濫用」とすべきである、そのほうが労働契約法15条の趣旨(懲戒権濫用の禁止)に合致する(196頁以下)と提案しておりましたので、このたびの高裁判決はまことに妥当なものと考えております。

内部告発者、内部通報者の保護については、これまで判例の上では「解雇権濫用」論によって浸透されてきたわけでありますが、浸透するにつれ、企業側も学習機能が働き、いわゆる事実上の制裁措置(社内の閑職に追いやる、隔離する、自宅待機を命じる)によって自主的な退職を迫る、という手法に変わってきました。配置転換は、いわば内部通報者に対する事実上の制裁措置としては企業側の「伝家の宝刀」でして、ここにメスが入った今回の高裁判決は非常に実務に与える影響は大きいものと判断いたします。とりわけトナミ運輸事件のような「内部告発」事例ではなく、社内の窓口への「内部通報」の事案に適用された意義が大きいのではないでしょうか。

また判決全文を読む機会がありましたら勉強させていただくとして、とりいそぎ速報版のみということで。

PS

昨日の日債銀事件差戻し控訴審判決につきましても、朝日の法と経済のジャーナルに判決要旨が掲載されており、エントリーを書きたいのですが、ちょっと本業が忙しいため、またの機会にさせていただきます。

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2011年8月30日 (火)

ゲオ社の企業統治(ガバナンス)と臨時株主総会

不祥事再発防止策、取締役のインサイダー疑惑(役員会での辞任勧告)、社外取締役選任のための臨時株主総会開催(10月13日)など、いつも私が関心を持ってしまいそうな話題満載のゲオ社でありますが、またまた筆頭株主の方による金商法違反に関する報道がなされております(毎日新聞のみが報じているようですね)。当局も事情を把握するために動いているとのこと。

これ、ずっと経過を追ってみますと、相当に社内事情が複雑な様子ですね(というか、社内事情については、もうすでにマスコミ等で報じられているのでしょうか?)誰が悪くて、誰が正義の味方・・・といった色づけがよくわからないところです。報道されていないような事情もありそうで、もう少し様子をみてから当ブログでも話題にしないと、関係者の方から怒られそうな予感がいたします(笑)。

ところでゲオ社の社内事情を調べていて初めて存じ上げたブログがございまして、これがなかなかオモシロイです。長年の株式投資のご経験から、総会での質問も鋭いようで。。ともかく株主総会に実際に行かれたレポートが満載でして、与党大物総会屋との会話なども書かれており、法学部生等、実際の株主総会の様子を知るうえではとても参考になるのではないでしょうか。法律面でわからないことがあると、「○○弁護士のブログを参考にしました!」といったように、きちんと調べていらっしゃる。マニアックさにおいては、当ブログは完全に負けておりますorz。ひょっとして、どっかでお会いしている方かなぁ。。。

来る10月13日のゲオ社の臨時株主総会にも出席予定で、レポートされるそうですから、とてもワクワクするブログであります(まだ、リンクさせていただいてよいものかどうかわかりませんので、ご興味がある方はご自身でお調べいただく、ということで・・・)

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2011年8月29日 (月)

内部統制報告制度の助言業務は「お払い箱」?

大手監査法人に「冬の時代が到来」とのことで、トーマツさんに続き、あずさ監査法人さんでも助言業務において50名の人員削減を行う旨のニュースが出ておりました(たとえばこちら。日経新聞でも3日ほど前に報じられていました)。とりわけ企業の内部統制部門における助言業務の減少に伴う希望退職の募集だそうで、「内部統制に関する助言業務の特需が出尽くしたことによるもの」と報じられております。

日経や上記ニュースなどを読みますと、もはや内部統制報告制度の助言業務は不要になってしまったようにも思われますが、そうではなくて、今回の内部統制報告制度の改訂(内部統制基準、実施基準の改訂)により、最も助言が必要と思われる中小規模の上場会社については内部統制監査人による指導的機能が強化されたことによるものと思われます。効率的な内部統制報告制度のために、経営者による内部統制の評価方法をなるべく尊重することとともに、会計監査人自身が「効果的、効率的な内部統制構築のために適切な指摘を行うこと」が明記されました。

各上場企業とも、効率的な内部統制報告制度の運用が必要なことは、この2011年3月期において内部統制が有効とはいえないと評価した会社がわずか8社であったことから明らかではないかと。せっかく各企業の内部監査部門が独立的評価の実力をつけてきたわけですから、効率的な運用を目指して、それぞれ会計監査人とのコミュニケーション能力を発揮する必要があり、適宜適切に監査法人さんが助言機能を発揮すべきなのかむしろこれからではないでしょうか。内部統制報告制度について、独立したコンサルティング業務は減少しても、監査証明業務を担当する監査法人さんの助言への要請が減少したわけではないと思います。

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2011年8月25日 (木)

他社をかばうことと「コンプライアンス経営」-九電メール事件と組織力学-

日経新聞の記事によりますと、佐賀県知事と6月21日朝に面談した九電の元幹部の方々3名が、8月23日に県の原子力安全対策等特別委員会に参考人として出席され、あらためて「悪いのは九電、県知事の思いを誤って発言メモに書いてしまい、たいへん迷惑をかけてしまった」と弁明されたそうであります。つまり九電の元佐賀支店長の方が、支店に帰ってから作成したとされる知事発言メモの内容について、あいまいな記憶によって作成してしまったのであり、やらせの要請が県知事からあったわけではない、と回答されたようであります。また8月24日の県知事の会見において、知事は、改めて発言メモと知事の発言とは趣旨が異なるものであり、九電に対する名誉毀損に基づく法的措置も検討中と述べておられます。

ちなみに九電メール事件に関する第三者委員会委員長は、「知事の発言が引き金になったことは否めない」と本日付の週刊ダイヤモンド特別リポート でコメントされております。

以下は私の単なる感想ですが、この九電元幹部の方々のお話はそのまま額面通りには受け取れず、やはり知事発言メモの内容は正確に記載されたものではないか、と考えております。その理由としては

①8月6日に各マスコミが公表した「知事発言メモの要旨」には、「九電へのお願い」として、知事から要請のあった事項が2つ記載されており、他の要旨部分とは趣を異にしていること、

②面談は午前10時からの(知事が出席しなければならない)県議会開催の直前に1時間程度のものであるにもかかわらず、場所を知事公舎に移して行われているため、単なる挨拶ではなく特別な意味があったと推測されること、

③この発言要旨に記載されている(当時)未公表だった予定事実は、そのほとんどが実際の公開説明会で実現しており(たとえば商工会議所の専務理事は実際に出席され、また放射線の専門医も予定どおり出席されています。また反対派の参加要請は困難という予想も当たっております)、発言メモの内容はほぼ正確であることが裏付けられていること、

④この発言メモは佐賀支店長の単なる備忘録として作成されたものではなく、面談直後、佐賀県のそば屋における当時の副社長の指示で作成されたものであり(ただし作成は佐賀支店に戻ってから、とのこと)、当初よりメモ作成における慎重さが要求されるものであったこと、

⑤翌日、原子力部門の部課長級社員100名にメール添付されることが予定されたものであり、あらかじめ社内で公開されることが前提であるため、まがりなりにも県知事の発言については正確に記載されていなければならないことは、一流のビジネスマンである九電幹部としては当然に認識していたものであること

等からであります。

ただ、あまりにも正確に記載されていたものがメールに添付されていたがために、これまた一流のビジネスマンである他の幹部社員が「このような知事の発言が企業グループ全体に知られてはまずい」と気が付き、翌日慌てて添付ファイルの抹消を、メール送り先の社員に指示したのではないでしょうか。

「発言メモ」はなぜ作成されたのか?(九電は一枚岩なのか?)

ところで、今回の九電メール事件をコンプライアンス的な発想で語るなかで、「九電の企業風土(体質)」なる言葉で括ってみたり、「第三者委員会と九電との対立」といった構図で現状を説明するようになってきましたが、そこに反映されているような「九電組織は一枚岩」を前提とした見方で果たしてよいものかどうか、少々疑問を持っております。

たとえば社長から「公表していない重大な問題があります」といったことがポツリと第三者委員会に報告されたり、社長の知らないところで証拠隠滅工作が行われ、内部通報によって社内調査が行われたり、というあたり、どうも社内派閥のような力学が問題をややこしくしているのではないか、と推測されます。

この「県知事の発言メモ」というものも、なぜ副社長(当時)が佐賀支店長に指示をして作成させたのか、最初から賛成派のやらせメールを意図していたのではないか、それは経営トップというよりも、いくつかの派閥(グループ)のなかでの意思決定として「メモ作成」に至ったのではないか、といったことも疑われるところです。

これだけ巨大な組織、それも現社長は14人抜きの異例の抜擢ということで、現会長さんの命を受けて社長就任となったわけで、おそらく人事は派閥単位で動くことになるのではないかと。昨年のメルシャンの架空循環取引における第三者委員会報告書では、キリンとメルシャンの人事模様にまで踏み込んで、なぜ疑惑が長期にわたって解明されなかったのか…という点の原因を究明しました。今回も、やらせメール事件を「不祥事」と位置づけるのであれば、なぜこのような問題にまで発展したのか、その組織力学にまで踏み込まなければ、真相は解明できないのではないでしょうか。

ちなみに、第三者委員会は九電社員等による内部通報を受け付ける窓口を設置されたそうであります(こちらのニュースより)。こういった私の予想からすると、結構、窓口には内部通報が届くのではないかと思っております。

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2011年8月24日 (水)

本格的な対応が要求される「反社会的勢力」の「共生者」リスク

25,26日と、某金融機関にて講演をさせていただきますが、そのテーマのひとつが反社会的勢力リスク~あなたの会社も「共生者」?~、ということであります。昨夜の島田紳助さんの突然の引退会見には驚きましたが、反社会的勢力との親密交際・・・ということであれば、「なるほど」と思ってしまいます。企業社会ではまだまだ反社リスクへの対応が進んでいないのが現状でありますが、時代はすでに変わりつつあり、上場会社や中小企業にとっても高いコンプライアンスリスクの時代になってきたのであります。

ご承知の方も多いとは思いますが、この4月1日より、大阪府をはじめ全国各地で暴力団排除条例が施行され、いよいよ東京都もこの10月1日より施行となります(東京都暴力団排除条例)。今回の暴排条例のスローガンは、これまでの「暴力団をおそれない、金を出さない、利用しない」に加えて、「暴力団と交際しない」が含まれることとなりました。たとえば東京都条例では、契約締結や不動産の賃貸、譲渡に関する企業の法的義務も課されるようになりました(努力義務ではありますが)。また7月末にはアメリカのオバマ大統領が、国際的犯罪組織に金融制裁を加える大統領令において、日本の反社会的勢力を対象とすることに署名しております。もし反社会的勢力との取引等が発覚すれば、「共生者」として銀行や証券取引が困難となるリスクも高まっております。実際に、すでに会社の役員さんが社内調査の結果、辞任に追い込まれているケースも出ております。

まだ事実関係は存じ上げませんが、昨夜の島田さんの件も、少し前の日本相撲協会のパターンに近いのではないでしょうか。力士の賭博問題で出てきた証拠から、警視庁が相撲協会に対して「携帯見たら、八百長やっとるみたいやけど、これってややこしいところとつながってしまう原因になるからご注意いただきたいのですが、どうしますか?自力で解決できますか?」とのこと。警察の介入によって捜査をされたら(いろいろと出てきて)壊滅状態になるので、必死で相撲協会の自浄作用をもって八百長事件に取り組んだ。今回の島田さんの件も、(私の推測にすぎませんが)警察関係者のほうから、「島田さん、ちょっと交際がありますね?どうしますか?会社のほうできちんと対処しますか?対処しないなら、今後なにかあったらほかの人も含めてこっちでやりますけど」といった流れで、会社は必死で島田さんと対応を検討したのではないかと。引退、というけじめをつけたことで、会社側も「自浄作用」を示すことになり、これで一件落着になったのではないでしょうか。(追記:読売新聞ニュースを読むと、なんか上で述べたことが当たっているような感じですね。朝日の報道では外部の第三者情報をもとに社内調査が行われた、とありますのが・・・)

これもまたご承知のとおり、最近は企業間取引の契約書に「暴排条項」が含まれております。「おたくの会社はフロント企業ですね?」などと失礼なことを言えないので、どういったときに契約を解除できるかは、属性要件と行為要件の総合的判断となります。したがって、相手が暴力団とは認められなくても「共生者」の疑いがあれば取引停止・・・という事態も考えられます。社員や役員がそういった方々と交際していた(もしくはしている)ことが発覚した場合、もしくは下請会社や子会社が親密な関係にある場合、取引を一方的に解除されてしまうことになります。「共生者」と思われたらたいへんなわけですから、なにか黒い噂が立った場合には、きちんと社内調査、社内処分をして「うちは反社会的勢力とは何の関係もありません。排除する仕組みもあります」ということをパフォーマンスとして世の中に示す必要があるわけです。

おそらく島田さんのケースでも、少し前ならば謝罪をして、しばらくの間、謹慎していればよかったのではないでしょうか。つまり交際をした個人の問題だったのであります。また、企業としても「平時の内部統制システム」の問題だったのであります。しかし反社会的勢力との癒着問題に関する企業のリスクが高まり、時代も変わりました。もちろん内部統制システムの構築も重要ですが、問題が発覚した際に、企業自身が、どう「けじめをつける」か、どう自浄作用を発揮するか、つまり企業の危機管理(クライシスマネジメント)が問題となる時代になったと思われます。

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2011年8月22日 (月)

司法書士の本人確認における調査不足と善管注意義務違反

おそらく月曜日の朝は多くの方の関心がマーケット情報に集まっていると思いますので、当ブログを閲覧される方も少ないかとは思いますが、興味をそそられた裁判ネタをひとつ。抵当権設定登記の申請を依頼された司法書士さんが、登記義務者の「身代わり」に気づかなかったとして、善管注意義務違反(調査義務違反)に問われた判決が最近の判例時報に掲載されております(判例時報2111号41頁)。

この身代わりの人は、真正な登記済証、実印を持参していたほか、本人の保険証や印鑑登録証まで持ってきていたもの。司法書士さんは地元司法書士会の本人確認規程(平成20年7月施行)に則り、こられの書類を確認したということですが、一審では本人確認義務が不十分だったということで、善管注意義務違反が認められ、登記権利者(依頼者)に対する損害賠償責任が認められました。

その控訴審(福岡高裁宮崎支部)の判決(平成22年10月29日)が上記判例時報で紹介されているものですが、原審とは結論が異なり、司法書士さんの損害賠償責任が否定されております。そもそも司法書士さんは登記申請の代理を依頼された以上は迅速な処理が求められるのであり、過度の本人確認や登記意思確認までは要求されない、しかし一方で、司法書士という専門的知見によって紛争を未然に防止することは世間から期待されるところであり、この期待には応える必要がある、とされています。

そこで、高裁判決は「当事者が本人であることの確認は、基本的には取引当事者の責任で行うものであるが、依頼の経緯や業務の過程で知りえた情報と司法書士が有すべき知見に照らして、当事者の本人性や登記意思を疑うべき相当の理由が存する場合は、司法書士にはこれらの点についての調査確認を行う義務があるというべきである」との判断基準を示しております。結論としては、控訴審判決では、詳細を検討したうえで「身代わりであることを疑うべき相当な理由はなかった」として善管注意義務違反は認められないとしました。

詳細は上記判例時報をお読みいただきたいのですが、原審と控訴審との判断が食い違っておりますし、また上記判例時報の解説者は控訴審の判断基準を妥当なものとしながらも、なお控訴審の認定事実の評価には疑問が残る、としており、極めて興味深い内容です(ただし上記高裁判決は確定しております)。

おそらくどこの司法書士会でも、本人確認に関するルールが規程されていると思うのでありますが、ときどき「身代わり」というのは実際に発生する事件ですし、たとえば取引の際に「様子がおかしい」というような外観が存在するケースでは、さらに調査義務を尽くさねばならない、ということでしょうか。しかし、理屈ではわかっていても、これって現場ではかなり難しいことを専門家に要求しているようにも思えます。たとえば取引の現場で登記義務者が高齢のため、自分で住所を記載できないような場合、登記義務者と同行していた人が代わって書いてあげる・・・ということは実際にあるでしょうし、これを「おかしな様子」と判断することはできないと思いますが、いかがでしょうか。生年月日を言えない、というのも、たしかに問題ではありますが、高齢者の場合は時々みられる現象であり、それだけで取引行為を理解できる能力がないとは言えません。(まあ、事故を未然に防止する、ということからすれば、きちんと顔写真付きの証明書まで確認すればいいのかもしれませんが。)これは司法書士さんだけの問題ではなく、たとえば我々弁護士でも即決和解の相手方の確認や、不動産取引や大きな現金が動くような取引に関わる場合にもあてはまるものではないかと思われます。

司法書士さんの世界では、もうすでに話題になっているケースかと思っておりましたが、グーグルで検索しても、ほとんど本件に関するニュースが出てきませんでしたし、また定例調査から非定例調査へ移行すべきポイントは何か、という最近の監査役監査、親会社取締役の子会社調査に関連する論点とも関連するものと思われましたので、備忘録程度ですがご紹介させていただいた次第です。また関連判例等ございましたらご教示いただけますと幸いです。

PS

話は変わりますが、本日アップされた活字フェチ弁護士さんの「ダメなものはダメ~合弁契約における拒否権条項の作り方~」は勉強になりました。あたりまえと言えば、あたりまえの話なのですが、組織法的発想と取引法的発想、そして合弁会社の実務的発想がクロスする場面の整理として、読んでおりましてとてもおもしろい!ビジネスの最先端で、我々弁護士がどう経営判断にとって役に立つのか、そういったことを考えるヒントになりますね。ひとつ賢くなりました(^^

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2011年8月20日 (土)

「経営判断原則」に関する最高裁のスタンス

川井信之弁護士のブログにて、経営判断原則に対する最高裁のスタンスについて と題するエントリーがアップされましたので、興味深く拝読いたしました。私のブログにもコメントをいただいておりますが、当職おすすめの松本論文をきちんと読まれたJFKさんや川井先生の秀逸なご意見に感化され、私も少しだけ考えたことを補足しておきたいと思います。

もう25年くらい前になりますが、私が司法試験受験生だったころ、商法の基本書に出てくる「経営判断原則」なる、なんとなくカッコいいネーミングの論点と出会い、今に至るまで、そのイメージがそのまま頭のどこかに残っております。(そんなカッコいいイメージの論点というと、他にも民法の「物権変動の公信力説」とか刑訴法の「違法収集証拠排除原則と毒樹の果実」、行政法の「行政裁量収縮論」、手形・小切手の「創造説」など、いろいろあったような。そういった論点を知らないと司法試験に合格できないような、そんな錯覚に陥っておりました 笑)そんなイメージが残っていたためか、つい最近まで、私もア・プリオリに裁判のうえでも当然に「経営判断原則」が適用されているような気がしておりました。

では、実際の裁判で「経営判断原則」がそのまま適用されているかというと、どうもそうではないのですね。たしかに「経営判断原則」らしきものが判断基準として適用されているようには思えるのですが、とりわけ最高裁では こちらのエントリーでご紹介しました刑事裁判で1件だけ、そのような原則があることだけは確認されましたが、判断基準としての「経営判断原則」を適用することには、これまで躊躇しているように思えます(先にご紹介した拓銀事件最高裁判決でも、裁判所は「経営判断原則」の要件等については何ら述べられておりません)。まさに川井先生がおっしゃるように「最高裁は引き気味」のようです。なぜ最高裁は「経営判断原則」の適用に躊躇するのか、実は私も裁判官から聞いたわけではないのでよくわかりません。ただ、日本システム技術事件やアパマンショップ事件ヤクルト事件などから、なんとなく思いつくのは以下のようなことです。

コメント欄にも書きましたが、やはり最高裁の役割からすると、こういった一般的な判断基準を持ち出すことには抵抗があるのではないでしょうか。「大審院」の時代の判例が、いまもたくさん生き続けているように、最高裁判例はその後、何十年もの間、裁判規範として生き続けるわけですので、将来の最高裁判決にも多大な影響を及ぼすのであります。したがって、先例判決と法の解釈によって妥当な判断を下すことができるのであれば、とくに一般的な判断規範を呈示せずに紛争を解決する方向性こそ穏当な裁判所の在り方かと思われます。将来の最高裁に余計な拘束をしない、社会の要請に従って適切な判断が下せるように、というスタンスだと思います。

つまり取締役の任務懈怠→債務不履行責任(委任契約上の「なす債務」)→不完全履行(善管注意義務違反)+帰責性(故意・過失)という大原則から出発して、要件事実論をどう組み立てるのか、事実認定と規範的評価をどう考えていくか・・・ということで考える、その考え抜いた結論としての「判決」の集積が、たまたま「経営判断原則」といわれるアメリカの理論を適用するケースと近くなっている、というあたりが正しいのではないでしょうか。

それともうひとつ、これは先日の大阪地裁商事部の部総括判事さんが(夏期研修で)おっしゃっていたことを参考にしておりまして、誠に恐縮なのですが、最近の取締役の善管注意義務違反が問題となっている最高裁判例の多くが高裁と逆の結論に至っておりますが、そのほとんどすべてが「事例判決」ということであります。どの最高裁の判決文を読んでも「以上で認定した事実関係のもとでは」とかならず条件が付記されています。つまり事実関係が少し変われば結論も変わるかもしれません、ということです。このあたりは判例を読むときにとても注意をしなければいけないところでして、ロースクール生にも注意を促すところです。学部生は「判例百選」でもいいのですが、ロースクール生は判決全文を読むべきなのは、ここにあります。ブルドックソース事件の最高裁決定文を読んだときにも思いましたが、商事事件の紛争解決として、最高裁は「認定した事実関係のもとでは」ということを強調して、敵対的買収防衛策の適法性要件といった「一般的な規範の定立」をできるだけ回避しようとしているところがありました。村上ファンド事件判決も、「重要な決定事実の実現可能性はどの程度か」といった、条文に書いていない規範を定立することなく、刑事裁判の基本である罪刑法定主義のもとでの金融商品取引法の条文解釈(条文相互の論理解釈)と先例(日本織物加工事件最高裁判決の引用)のみで裁いているにすぎません。「経営判断原則」という一般的な規範定立も、それが企業社会や下級審で誤解されずに適用されればよいのですが、誤って適用されることによる企業社会の混乱はできるだけ避けたいのであります。それよりも、個々具体的な経営判断事例ごとに、事実認定と規範的評価が繰り返され、善管注意義務違反(不完全履行)の判断過程が明らかになるなかで裁判例が集積される---そのこと自体に、規範定立と同じ役割が(最高裁によって)期待されているのではないか、と考えています。

それにしても、実に先日の大阪地裁商事部の松田判事の研修は有益でした。実務家が取締役の善管注意義務違反を争う場合に大切なこと、たとえば取締役の「いつの時点」の行動に焦点を当てるのか、それは主張する「損害」と相当因果関係にあるのか、問題とするのは平時の行動か有事の行動か、取締役の人的属性についてはどうか、同じ損害額でも企業規模によって差が出るのではないか、不必要に被告を増やして論点がぼやけていないか等々、「なるほど」と思うところが多かったです。また、「事実認定と規範的評価、どっちで勝敗の差がつくのか」とか松本弁護士の論文のように「専門訴訟の判断については、他の司法審査の在り方を検討すべきではないか」といった話もおもしろかったです。しかし一番おもしろかったのが取締役の善管注意義務違反を争う場合の要件事実論だったのですが、少し長くなりましたので、またそのあたりは福岡魚市場株主代表訴訟の高裁判決が今年10月か11月ころに出るように聞いておりますので、またそのころに高裁判決への感想とともに述べたいと思います。(学者や法曹関係者の皆様であればご存じかもしれませんが、善管注意義務の要件事実と帰責性(過失)の要件事実との関係について、松田判事も疑問を呈しておられましたので「やっぱりなあ」と安心いたしました。ただし松田判事ご自身の私見も述べられておりました)。

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2011年8月18日 (木)

コージツ社の敵対的TOBの今後の展開はいかに?

イオンVSパルコ以来のM&Aネタであります。昨年7月の第三者割当増資で第2位株主となった会社より、株式公開買付の届出を出されたコージツ社(JASDAQ)ですが、取締役会はTOBに対する反対の意思を表明しておられます(DRCKJらによる当社株券等に対する公開買付けに関する反対の意思表明のお知らせ)。今日(8月17日)のコージツ社の株価は、取締役会の反対表明を受けて、買付者が買付価格を引き上げるのではないか・・・という思惑買いによって136円あたりまで高騰したようですが、また130円に落ち着いているようです。

たぶんガチンコだと信じておりますが(まさかシナリオはないですよね?(^^; )、買付者側にも、会社側にも、また第三者委員会にもバリュエーション(企業価値評価)で著名な方々が参加されているので、外野の者からすると、非常に興味深い事例です。企業価値算定を専門とする方々の間でも、「どっちが正しい」という議論になってしまうのでしょうかね?会社側は、反対の意思表明に至るまで、公正な判断を担保するために第三者委員会を設置しています。第三者委員会は、取締役会がTOBに対する意見表明に至るまでの手続きの公正性判断、TOB価格の妥当性、買付者による支配(上場廃止による)が企業価値向上に資するか、といったところを判断し、さらに買付者との価格交渉まで行うものだそうです。

この反対表明によって、今後の買付者側の対応が注目されるところですが、私はどうしてもコージツ社の取締役の方々の行動の適正性に関心を持ってしまいますね。(意見表明に関する)手続きの公正性に問題なし、との第三者委員会の意見が出たわけですから、コージツ社の取締役の方々は、(賛成意見も表明できることが明らかとなりましたので)TOBの賛否について慎重な判断が要求されることになります。現在の登山ブームが一過性のものであることを前提としても、なぜ1株147円以上でないと「合理的な判断」とは言えないのか、買付者の経営ノウハウがよくわからないのであれば、なぜ(せめて第三者委員会からでも)その経営ノウハウを質問によって明らかにしようとしないのか、株主であれば素朴に「知りたい」と思うところに触れておられないので、とてもナゾであります。私はM&Aについては素人的な発想になってしまいますが、1年前に買付者が増資に応じたときには1株92円でも「ほかの一般株主に不利になるようなものではなく、公正な価格です」と説明しておきながら、今度は「130円でも安すぎる、ダメ!」とおっしゃるわけですから、プレミアムを考慮しても、その違いはなんで?と一般株主としては素朴に疑問が湧いてくるように思うのですが・・・。せめてそのあたりの説明が必要かと。

まだまだ本件はいろいろな動きがありそうなので、またイオンVSパルコの時と同様、続編を書きたいと思います。いずれにせよ、TOBをかけた支配株主から社外取締役が選出されているので、このような会社にとって肝心なときに社外取締役が機能しないというのも問題かと(どなたが独立役員として届出がなされているのでしょうか?)。やはり社外取締役の独立性というのは重要ですね。それと、この第三者委員会報告書の内容ですが、これって上場会社のMBOを阻止する少数株主側にとっても今後の訴訟で使えそうな内容ではないか・・・・・と思うのは私だけでしょうか。

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2011年8月16日 (火)

会計ドレッシング-10episodes(東洋経済新報社)

いよいよ16日から日本監査役協会主催の恒例長浜合宿でございます。全国から新任の監査役の皆様が風光明媚な琵琶湖畔の長浜の地で1泊2日の勉強会(A日程、B日程合計4日間)に参加されます。今年は6月の定時株主総会で改選される監査役の方が多い年でしたので、やはり参加者は多いそうで、どちらもほぼ満席のようです。今年もお手伝いをさせていただくことになり、新任の監査役の方々にお会いできるのを楽しみにしております。

さて、本の御紹介ですが、すいません、多くの新刊書をご献本いただいているにもかかわらず、読む時間が限られているものでちょっとご紹介できておりません。<m(__)m>。読まずに「はしがき」だけをちらっと眺めてご紹介だけする・・・というのも、著者の方に失礼だと思いますので、とりあえずきちんと拝読してから・・・と思っておりまして、なにとぞご容赦ください。

Kaikeidore 本日、東洋経済新報社の編集部の方より「ご献本いたします」とのことで「山口弁護士にぜひ読んでいただきたい!」と推薦いただいたのが、村井会計士の「会計ドレッシング-10episodes-」(村井直志著 東洋経済新報社 1680円税込) 。知り合いの会計士の方にお聞きしたところ、「ドレッシング」というのは普通に粉飾を意味する言葉として使われているそうであります。

ご推薦いただいたのはありがたいのですが、実はこの新刊は日経新聞の広告に掲載された当日、脊髄反射的に阪急ブックファーストで購入しておりまして、もうすでに読み終えております。当ブログで今年3月にお勧めの一冊としてご紹介した「決算書の50%は思い込みでできている」の著者による第二弾ということで、今回もたいそう興味深く読ませていただきました(あのときも「会計トラップ」という言葉が新鮮でした)。

題名のとおり、近時の会計不正事件を10件取り上げ、それぞれの章末に、事件の教訓をもとに会社を強くするためのレシピが掲載されております。私は不正調査を仕事としておりますので、当然掲載されております10件の会計不正事件については承知しておりますし、当ブログでもこのうち8件についてはご紹介させていただいております。ただ、本書が素晴らしいのは(前回の「決算書の50%は・・」のときも同様のことを書きましたが)弁護士、会計士等による第三者委員会報告書などをもとに事件を紹介しておられるにもかかわらず、物語調に整理し直し、一般の方々にもわかりやすい内容で書かれていることであります。時折著者による推測も入っておりますが、会計不正事件が発覚するまでの事案の紹介は流れがあっておもしろいですよ。私自身も、紹介されている10件の報告書はすべて読んでおりますが、これを時系列にしたがってわかりやすく紹介することは、著者に事案分析力がないと書けないと思われます。とくに、なぜそういった会計処理をしたのか・・・というあたりは、監査人として会社の経理処理に普段から接しておられる会計士の方でないと自信を持って書けないのです。ここに解説されている10件の事案について、私なりに解説することは可能でありますが、本書を読んで「なるほど、経営者はこういったことに配慮してドレッシングしたのか」と(これまで気づかなかった視点に)納得するところが多々ございました。

10件の会計不正事件のほかに大阪ガスさんの会計不正事件を紹介しておられるのはスルドイ!これは産経新聞だけが記事として取り上げた、やや特徴的な事案なのですが、本件については私自身、諸事情ございまして(笑)、ブログではとりあげられませんでした。どこが特徴的かというのは、お読みになればおわかりになると思います。また、前書「決算書の50%は・・・」ではあまり著者の考える「不正発見」「不正予防」の効果的手法については触れられていませんでしたが、本書では(CFEの資格をお持ちの方には少し物足りないかもしれませんが)企業の管理部門の方々向けにかなり突っ込んだ解説が「第2部」でなされており、こちらも有益かと。とりわけ著者が紹介されているBS重視による異常点監査技法につきましては、社内のモニタリング部門に「不正発見までは求めない、ただ異常な兆候だけは気付いてほしい」とする私自身の意見にも関連するものであり、とても興味を持ちました。

最近、会計士の方が、こういった不正調査や不正事件の原因分析等に専門家的アプローチで迫る本が増えつつあるようですが、当ブログの管理人としてはたいへんうれしく思っております。「決算書の50%は思い込みでできている」と同様、今後も適宜ブログエントリー作成のうえで参考にさせていただきます。

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2011年8月15日 (月)

決算黒いのは七難かくす・・・・・粉飾決算(経営者不正)への誘惑

私が監査役を務める会社も1Q決算報告が終了し、第一回の監査報告会(会計監査人と監査役との意見交換会)も終わりましたが、ここ数年、当社は開示されているとおりの業績不振が続いていたこともあり、これまでになかったほどの「ホンネの意見交換会」が続いております。毎回、社外監査役としていろいろなことを考えさせられます。

今の時代、あまり慣用句として使うのは適切ではありませんので恐縮ですが、「色の白いのは七難隠す」といいますが、「決算黒いのは七難隠す」であります。1円でも黒字が出ていれば監査法人との折衝は楽です。しかし(とりわけ業績が悪いために)赤字となると、継続企業の前提に疑義が生じる事象に関して一気に監査法人のチェックが厳しくなります。中期経営計画の進捗状況、銀行の融資状況に関する変動の有無、決算・財務報告プロセスへのチェック等。また当然のことながら繰延税金資産の取り崩し、固定資産の減損、子会社株式の評価、資産除去債務等、会社側の将来見積もりにも厳しい目が向けられます。監査法人の品質管理に行政当局の厳しいチェックが入るようになったからだと思いますが、それぞれの審査のために必要な資料も細かく要求される、もちろん業績が悪化しているところであるにもかかわらず、こういった複雑なチェックが要求されるために監査法人から求められる報酬金額も当然に増えるわけであります。

つまり監査法人と会社との関係は、黒字が出ていればハッピー、1円でも赤字となれば「職業的懐疑心」との闘いとなるわけです。頭ではわかっていたつもりでも、いざ自分がそういった会社の監査役を務めておりますと、いやいや、本当に身に沁みます。

当社では絶対にありませんが、こうやって厳しい折衝のなかで感じるのは経営陣の関与する粉飾決算への動機づけです。やはり経営者は粉飾決算をしたいと思うのは当たり前であります。最近のようにフェアーバリューや将来見積もりを必要とする勘定項目が増えているなかで、悪気がなくても数字をよく見せよう、との意欲がない経営者などいないのではないでしょうか。利益さえ出ていれば、上述のとおり監査法人との関係はハッピーであり、経営計画の内容にも、その実現可能性にも、子会社の事業にも他人から余計な口出しはされないのであり、また会計監査人との折衝も基本的には経理担当者に任せておけばよい。監査法人の現場担当者も、法人内部の契約審査部や監査審査部の人たちに細かいツッコミを入れられずにOKサインが出るわけで、後ろ向きの仕事をしないで済むわけです。これだけ赤と黒では大違いなわけですから、少々無理してでも赤を黒に変えておこう、という気持ちになるのはむしろ経営者としては当然ではないかと。継続企業の前提さえ崩れなければ、複式簿記の世界ですから「あとで必ず利益が出るから、そのときに帳尻を合わせておけば済むし」で終わり。経営者は将来展望に自信を持っていますから、何も悪いことをしているという意識はないのです。

「なぜ監査法人、監査役は長年粉飾を見逃したのか」と非難されますが、こういった構造があるからではないかと。1円でも利益が出ていればみんなハッピーであり、思考が停止する、「おかしい」といえば「お前はあほか」と言われる。むしろ誠実に赤字決算を出せば、みんなが身構えて、「おかしい」と言われても不思議ではない雰囲気となる。株主からはセグメント毎の業績を指摘されて、(決算書には出てこない無形資産がいっぱい詰まっているにもかかわらず)赤字を垂れ流しているセグメントの切り離しを要求される。それなら毎年粉飾を重ねてでも利益が出ているようにして、みんなハッピーな状況のなかで経営を続ける方を選びたくなるのはあたりまえであります。「それでは株主や投資家をだましていることになるではないか?」との反論が考えられますが、いえいえ、それは後出しじゃんけんの発想であり、経営陣は後でかならず粉飾は利益で消せると考えているのですから、むしろ株主や投資家のためにも今は粉飾で切り抜けようという意識の方が強いはずです。現にこれまでも粉飾決算によって凌いで、あとで利益が出て、結局何も問題にならなかった企業は山ほどあるはずです。

また利益が出ているから、監査法人や監査役が何もリスク感覚がなくなっているかというと、そうではありません。利益が出ている会社であるからこそ、今度は会計処理方針等が正しいかどうかに資源を集中するわけでして。でも会計処理の原因となっている会計事象が存在するのかどうか、というところまでは疑わないのであります。(監査役がそこを疑うということは、会社の存在自体を否定することになるため、ほとんど困難かと)会計不正の調査でむずかしいのは、このように不正発見には「時間軸」の意識が必要だからであります。不正の兆候に気づくためには、会社がどのような局面になると、どのようなリスクが高くなり、そのために誰のモニタリングが期待できるのか、タイムリーな判断が要求されるからであります。つまり、監査法人も監査役も粉飾を見逃してはいけないという意識で仕事をしているけれども、(利益発生という結果から逆算して)「見つけやすい粉飾の発見」に注力しているわけでして、「何もしていない」のとは理由が違うのであります。

※業績が好調だけど、内部統制には重要な欠陥(開示すべき重要な不備)がある、といった内部統制報告書が出てくればおもしろいなあと思います。この会社は儲かってはいるけれども、間違った財務諸表を公表して投資家に迷惑をかけるおそれがある内部統制です、といった評価結果を自ら公表する会社があるならば、本当に誠実だなと思います。まあ、これはほとんど難しいかもしれませんが。。。

モニタリングする側からみると、子会社や特定事業部における会計不正についても同様の傾向があるかと推測いたします。子会社経営者や事業部長が社内で評判が高ければ高いほど、その会計処理のチェックまではできても、会計事象の存否までは調べることができない。たとえば利益を出している子会社のトップに「それはスルー取引ですか?循環取引ですか?」とは聞けない。そんな愛社精神のない監査役には誰も口をきいてくれないでしょう。たとえ監査役といえども、利益追求のために同じ方向を向いていないとわかれば、相手は警戒して真実の情報を流してはくれないのであります。また監査役の心構えとしても誰も最初から、自社では循環取引が行われているなどとは夢にも思っていないのであります。その結果、粉飾は長年発覚せず、取引先の破たんによって表面化するまでわからない、というのが実際のところではないかと。

内部統制のチェック・・・、これは不正の予防に関わるものであり、監査役としても従事しやすい作業かと思います。しかし不正を見つけ出す作業は上述のとおりむずかしい。ただそれでも監査役は不正をみつけなければならない。唯一の方法は、利益追求のために経営陣と同じ方向を向きながらも、何もお膳立てされていない「生のビジネス情報」が飛び交うなかから、法律や会計、あるいは社内ルールや企業倫理綱領に関わる事象を抽出し、そこから異常な兆候を見つけ出すことだと思います。「経営者をはじめ、会社はどんなに誠実な顔をしていても、粉飾決算を当然にやってしまうし、また悪いとも思わないものである」ということを十分に認識したうえでなければ、私は監査役が不正を発見することはむずかしいのではないか・・・・と最近は考えたりしております。

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2011年8月11日 (木)

九電やらせメール事件(関係者の解任と証拠隠滅工作)

仕事中なので、備忘録程度ですが。。。

本日(8月11日)あたりの朝日、読売ニュースでは原子力発電本部に近い幹部社員(執行役員?)2名の方々が、関係書類を破棄した(もしくは破棄を指示した)等の理由で、近く更迭されることが報じられております。本来ならば、第三者委員会の報告内容をまって処分を検討する予定だったものが前倒しで処分を行う、というものだそうです。

内部告発があって、証拠隠滅工作が発覚したものも一部あるようですので、善解すれば「第三者委員会の指示には全面的に協力するように」との経営トップの真摯な意思を表明したものとして、九電本部の自浄能力が発揮された場面のような気もします。しかし、うがった見方をすれば、「すでに九電のポジションがなくなってしまう人たちが、第三者委員会のヒアリングにアレコレと正直に話すことを回避するためでは?」とも推測されるわけで、このあたりはマスコミでは一切報じられておりません。後者であれば、まさに九電ぐるみでの証拠隠滅工作ということになります。

解任処分後も、関係者が第三者委員会のヒアリングに協力することが確約されているのであれば問題ありませんが、解任によって第三者委員会のヒアリングができない・・・という事態となると、これはまた大問題となるような気がいたします。そのあたりが一番知りたいところです。

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ACFE JAPAN 第2回カンファレンス「日本と不正」

Acfecon 今年も(私が理事の末席を務めております)ACFE JAPANのカンファレンスが開催されます。今年のテーマは「日本と不正~日本流不正対策を考える~」というものでありまして、10月7日、場所はアイビーホール青学会館でございます。現在の日本における組織内の「不正」に焦点をあてて、不正に取り組む事例などをご紹介する、というものです。

詳細は こちらのACFEのWEBよりご覧くださいませ。(プログラム内容もご覧になれます)

基調講演とか、鼎談はちょっとスゴいメンバーですね。旬刊商事法務のお正月特別号「新春座談会」のような雰囲気(^^;;。ダイジョウブ?

ご講演は、あましん(尼崎信用金庫)の上野人事部長さんです。わが関西CFE研究会の代表メンバーと申し上げても過言ではございません。たしか今年で合計7名のCFE資格者が組織内にいらっしゃって、それぞれ各部署でご活躍とか。私なんかよりも、不正調査に関しては積極的な研究活動をされておられますので、あましんにおける取組みについては私も興味がございます。(関東の人って、「あましん」と聞くと「ああ、あのタイガースが勝ったら預金の利率があがるとこ?」って、特徴はそれだけやおまへんで・・・笑)

昨年はシンポジウムに登壇させていただきましたが、法曹代表としては鳥飼先生がシンポにご登壇される予定です。それから・・・おお!ベネシュさんも!(そういえば最近、東京の弁護士の方々とご一緒に、日米の不正会計問題に取り組んでおられるとか・・・)なんかパネリストの皆様、ずいぶんと著名人が増えたような(笑)。昨年はどっちかというと「内部統制的実務家」チックだったような(笑)。。。(これって、ひょっとすると鳥飼先生がモデレータなのかな?)

こういったカンファレンスを開催していつも痛感するのが、参加されるのが、どうしても大きな会社の担当者の方々が多いのですね。でも、横のつながりをもつことが有益なのは比較的規模の小さな中小の上場会社の管理部門の方々だと思うのです。内部監査部とか、法務部とか、監査役スタッフの方とか。他社の様子をご覧になって、自社の管理に役立てていただいたり、また他社さんとの交流を深めていただけると非常にお役に立てるのではないでしょうか。ということで、今年はカンファレンスにご参加された方々は、懇親会のほうへもご招待、ということだそうです。私ももちろん参加させていただきますので、交流を深めていただく目的でも結構ですから、どうか一度カンファレンスにご参加ください。また公認不正検査士(CFE)という資格に興味を持っていただけますと幸いです。

ちなみに関西CFE研究会も、いよいよ8月から第4期がスタートいたします。早いものでもう4年目となりますが、研究会のメンバーも39名となりました(メンバーの方々の肩書も変わってきましたね。メンバーのなかには こういった人もおられ、不正調査実務に関する貴重な勉強の機会となっております。)。こちらはCFE資格者のみの参加となりますが、試験合格者の方々にも門戸を開いておりますので、関西在住の方がいらっしゃいましたら、またご連絡ください。

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2011年8月 9日 (火)

九電やらせメール事件-幹部社員の「残念な行動」-

第三者委員会の調査が本格化し、ますます混迷を極めている九電メール事件でありますが、実は「社内の常識と社外の常識」の違いに気づいていた社員の方がおられたようであります。朝日新聞ニュースによると、知事発言メモを添付して賛成意見依頼メールを送ってしまったことを聞いて、ある幹部の方が「知事発言がメールで広がるのはまずい」ということでメールは削除しておくように、と担当者に指示したことが報じられております(朝日新聞ニュースはこちら)。

6月末の株主総会用の想定問答集のなかに、「やらせメールはありました」と回答する準備を整えていたにもかかわらず、関連質問がなかったことを奇貨として7月2日の鹿児島県議会では「やらせメールはなかった」と発言するなど、いよいよ九電メール事件も「かばう」から「かくす」へと、第二ステージに入ってしまいました。こうなりますと、やらせメールをやってしまったことよりも、やらせメールが問題であることを知っていて隠したことへの批判が集中する、いわゆる「二次不祥事」が報道の関心事となり、事件の鮮度が落ちることなく、マスコミの報道価値が長続きすることになります。

それにしても、社内常識と社外常識のズレに気づく幹部がおられたのですから、なぜメールを送る前に止めることができなかったのか、九電側からすれば非常に残念な行動であります。この幹部の方が、やらせメール依頼文書の発送自体を止めることは困難だったとしても、知事発言メモの添付を止めておけば、(おそらくですが)今回のメール事件は九電自身に責任があり、軽率な行動で申し訳なかった、という、いわば「一次不祥事」で終わっていた事件だったと思います。第三者委員会招へいの原因が「知事発言メモの存在に苦慮していた」(経営トップの発言)ということですから、この佐賀支店長作成のメモが内密のままであったとしたら、ずいぶんと展開が変わっていたのではないかと。しかし、事前にメモの添付を止められなかったために県知事の進退問題だけでなく、県知事をかばう、という裏事情まで推測される事態となり、また組織ぐるみでネット等を通じて賛成意見を依頼することの問題性を知っていてこれを隠そうとしていたこと等が明らかになってしまったわけで、いわば「二次不祥事」が世に明らかにされてしまうことになってしまったようです。

ここまで来ると「やらせメールのどこが悪いのか?反対意見だって組織票でしょう?」とか「保安院や知事からの要請があったからやむをえない行動だったのでは?」といった九電擁護論が奏功しない事態となります。「一次不祥事」ならばあのプリンスホテルVS日教組事件のように断固自社の行動の正当性を主張しつづける、というパターンもあるわけですが、「まずいと思って隠していた」ことがばれてしまう、という「二次不祥事」には自社行動の正当性主張は通用しないのであります。機野さんのコメントにもありましたが、もはやここまで来ると企業の体質であり、何を言っても信用してもらえない風潮が長い間社会に蔓延する可能性が高いと思います。

私は決してコンプライアンス経営に反する行動を推奨するつもりはございませんが、どのような組織にも、この幹部社員の方のように、社内のリスクに「気づく」ような勘の鋭い方がいらっしゃいます(ときどき不運にも、全くいらっしゃらない組織もありますが)。たとえば「やらせメール」事件においても、中部電力では浜岡原発の事務所長の方が「やらせメール依頼」を拒絶した、と報じられております(たとえばこちらの記事など)。このような素質を持った方が管理責任者であれば一線を越えない可能性が高いと思います。毎度同じ例えで恐縮ですが、あの関西テレビのあるある大事典事件のときも、東京支局の某部長さんが「許される誇張表現」と「許されない詐欺的表現」の一線を常に意識して番組制作会社と対峙していたために、当該部長さんの時代には大きな問題に発展しなかった、とのこと。同じようにコンプライアンスの「すれすれ」のところを意識した発言のできる人がいれば、多少の問題は発生しても、二次不祥事に発展することがありませんので、どうにか致命傷にならずに済みます。

コンプライアンス経営とビジネス戦略は、今の時代、表裏一体の関係にあり「こういったリスクがある」と発言するだけでは管理部門の社内での地位は上がりません。リスクを呈示したうえで、そのリスクを「ゼロにはできないけれども、最小限度にするならこうしましょう」とか「そもそもリスクをとってまで遂行しなければならないほどのビジネスチャンスではないので、ここは撤退しましょう」といった意思形成過程にも踏み込む必要があると思います。法令違反ではないが、敢行すれば社会的非難を浴びる「レピュテーションリスク」があるかもしれない、それでもビジネスを進めるか・・・・・・・そういった判断過程に踏み込むためには、どうしても「気づく人間」が必要なわけで、リスクが顕在化した場合にも、どこで会社が踏みとどまることができるのか、大きな影響を及ぼすことになります。

それにしても「第三者委員会」の存在は大きいですね。少なくとも第三者委員会による調査がなければ「一次不祥事」どまりで終わっていたのではないでしょうか。個人的な感想で恐縮ですが、ちょうど1年前、郷原弁護士が東京医科大学の第三者委員会委員長としての契約を中途解消したときの記者会見、あの組織にコンプライアンスの体質を根付かせるための意気込みと(果たせなかった)無念さを、是非今回の九電メール事件でも活かしていただきたい、とひそかに期待をしております。

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2011年8月 8日 (月)

親子会社法制とコンプライアンスの視点(親会社役員のリーガルリスク)

法制審議会会社法制部会の審議が再開され、7月27日に第11回会議が開催されたそうであります。議事録はまだ公表されておりませんので、どういった議論がなされたのかは存じ上げません。ただ、公開されている部会資料によると「親子会社に関する規律に関する論点の検討」がなされたとのこと。

そのなかで「親会社株主の保護に関する論点」として多重代表訴訟の検討がなされておりますが、これは旧商法の時代から導入が検討されていた論点であります。いわゆる親会社の株主が、子会社の役員(取締役や監査役)の責任追及すること(株主代表訴訟を提起すること)を認める制度であります。会社法でも「連結経営」の実態を反映しつつありますし、すくなくとも100%子会社のケースでは親会社が子会社役員の責任追及の懈怠が想定され、現実に親会社取締役の子会社管理責任があいまいなまま放置されている現状からしますと、多重代表訴訟が(親会社と一定の関係にある)子会社に対して認められる可能性は十分にあると思われます。

法理論的には、上記会社法制部会で諸々の議論がなされることと思いますし、私には整理する知識も能力もありませんので、ここで自説を申し上げるつもりもありませんが、コンプライアンスの視点からすると、こういった多重代表訴訟が制度として活用される場合には、親会社の取締役の方々は、ずいぶんとリーガルリスクが高まるのではないでしょうか。つまり子会社取締役の責任追及が可能となれば、親会社取締役の責任追及も容易になる、ということであります。

たとえば重要子会社の不正が発覚した場合、親会社の取締役が子会社管理上の責任を問われるケースがありますが(たとえば2011年1月の福岡魚市場事件第一審判決や、メルシャン事件の「キリンH第三者委員会報告書」など参考)、かりに親会社取締役の不正共謀や「知っていながら放置」、不正見逃しに過失あるケースなど、親会社取締役の善管注意義務違反が問われるケースであっても、株主側として、その立証が困難な場合が多いと思われます。現に、親会社主導と思われる不正行為が発覚したとしても、「関与」が立証できないために「監督上の過失」で処理されることもあるかもしれません。

ところで、多重代表訴訟が認められることになりますと、不正行為を直接執行した子会社取締役を被告として(元取締役も被告適格あり-通説)株主代表訴訟を提起できることになりますので、この訴訟結果を親会社取締役を提訴する裁判において活用できる、という機会が発生することになります。おそらく親会社取締役の不正関与の事実や、監督上の過失、企業集団における内部統制構築義務違反、といったあたりを立証する有力な証拠となるはずであります。たとえ子会社取締役の弁済資力が乏しいとしても、親会社取締役の任務懈怠を問える機会が増えるのであれば、これを活用する親会社株主も増えるのではないでしょうか。

もちろん、これまでも子会社取締役を親会社取締役に対する代表訴訟の証人として尋問する機会はありますが、欠席しても親会社や親会社取締役に不利になるわけでもなく、自ら法的責任を負うこともないわけです。しかし、多重代表訴訟となると、そうもいきませんし、会社のために高額の賠償責任を負担するくらいなら、被告として精一杯の防御活動に努めることになり、そこに親会社とは利益相反となる真実が浮上することも考えられます。たとえば先の福岡魚市場事件では、グルグル回し取引(架空循環取引に近い不正な取引)を執行していた子会社取締役は、解任された後、親会社である魚市場の部長に就任しているのであり、(これは推測の域を越えませんが)親会社としては不正行為者を保護しているようにもみえます。100%子会社であり、かつ重要な子会社であれば、いわば親会社の部長クラスの方が子会社取締役に就任しているわけで、そこに株主からの厳しい追及の矛先が向かうとなりますと、親会社としては難しい局面を迎えることになりそうです。

子会社自身が子会社取締役を支援することは、たとえば「不提訴理由通知」を発している関係から許されることになると思いますが(補助参加等)、親会社自身が子会社取締役を支援することは利益相反になりそうですから、弁護士報酬も含めた支援活動にも支障をきたすのではないでしょうか。

もう1点、コンプライアンスの視点からみると、親会社に損害が発生している場合でなければ子会社取締役の責任追及はできないのではないか?という論点であります。損害填補が目的である以上、親会社株主が子会社取締役の責任追及が可能となるのは、子会社取締役の善管注意義務違反によって親会社に損害が発生したような場合に限定されると思われます。しかし、前にも述べましたように、たとえば金商法の世界では、すでにグループ企業としてのレピュテーションリスクに配慮した行為規範の順守が金融機関に要請されているのであり、経営判断において、企業グループ自体の評判も重要な判断要素とされております。企業の社会的な評価が減少すること自体が企業の損害として認識されるに至っているのでありまして、そうであるならば、子会社の不正によって企業グループ全体の企業価値が減少するようなケースであるならば、広く子会社取締役の責任追及が認められることになるものと考えられます。

このような論点は、ほとんど思いつきの域を出たものではなく、まだまだ思案していることの一部ではありますが、親子会社規制の問題をコンプライアンスの視点から検討しますと、親会社や親会社取締役にとって、まだまだいろんな問題が出てくるように思えます。

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2011年8月 4日 (木)

今夕、統合のリリースはあるのか?(日経VS朝日の報道より)

(8月5日未明 追記あります)

とくにビジネス法務とは関係のない、個人的なつぶやきですが・・・

さぞや日経新聞経済部の記者の方々は、経済紙の本領発揮、胸のすく思いで日の出を迎えたと思いますが、朝日新聞ニュースでは日立と重工、「合意至らず発表中止」「統合に向けて意見の相違が大きい」と報道。日立の社長さんが夕方に統合を発表する、と記者団に回答しておられたにもかかわらず、発表は中止の見込みと伝えております。また日経は「経営統合」とありますが、朝日は「これまでの延長としての事業統合への交渉」とあります。

どちらが正しいのでしょうか?私はキリンとサントリーの統合発表のときにも申し上げましたが、こういった大型統合は原則として日本では無理、国の後押しもないし、銀行の力もないし、またそもそも「組織のために犠牲になること」を美徳とする教育は50代~60代ではほとんど受けていないからです。とくに金融機関のトップに近い人たちの中で、「相手を最後まで騙しきれる」力量を持った人がどれほどいるのでしょうか?

ただ、今回ばかりはほとんどの日本の会社の「お尻に火がついている」ことは、いろんな会社の方から聞いております。日本のトップ企業ほど、正確な立ち位置を理解され、重大な経営判断を必要とする時期が間違いなく到来していますね。ということで、私は(今夕の発表が中止になったとしても)基本的に統合の方針が進むのではないかと。

(追記)

結局、統合に関する記者発表はありませんでした。

おもしろいのが三菱重工さんの「一部報道について」のリリース

えらい怒ってはるのでは???日経さんへの抗議???

そういえば重工さん側へのインタビューがあまり聞かれないような。。。

ホント、これほかの会社でも使えそうですね(笑)

経営統合と事業統合とではエライ違いですよ。

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経営判断原則の司法審査方式と「行政裁量論」

今年で54回目を迎えました大阪弁護士会の夏期研修が今日からスタート。初日の午前中は大阪地裁商事部(第4民事部)の部総括判事でいらっしゃる松田亨氏による「近時の取締役責任追及を巡る実務上の留意点」ということで、弁護士会館ホールは超満員の同業者であふれかえっておりました。

さすがに商事部の現役裁判長の講演だけあって、お世辞抜きでおもしろかったです。取締役の債務につき、不完全履行(任務懈怠責任)に関するKg➔E➔Rという、法曹実務家向けならではのお話も、私自身が普段考えていたとおりのことがほぼ正しいと確信できました。ただ、会社法や金商法には取締役、監査役について「相当な注意」の抗弁が規定されている条文がありますが、こういった規定は立証責任の転換を定めたものであるにもかかわらず、取締役の責任を追及する側にとってどれほどの「有利さ」をもたらすのか、疑問が残りました。

さて、私は「もし質問の時間があるならば、ぜひ松田判事に聞いてみよう」と思ったことがございます。金融・商事判例にて、1369号から本日発売の1371号まで上・中・下で連載されました松本伸也弁護士の「経営判断の司法審査方式に関する一考察-行政裁量の司法審査方式との関連において-」という論文がとても面白く、「そもそも日本の裁判所が採用する経営判断原則は、自然発生的に誕生したものではなく、従来から存在する行政裁量の司法審査の方式を基礎としているのではないか?」といった松本弁護士の検証にとても興味を覚えました。この松本弁護士の見解について、商事部判事としてどのように考えておられるか?といった質問であります。

実は1369号が発売された7月上旬より、私はfacebookで「この論文は必読!」とつぶやいておりました。というのも、私も以前から同様の疑問を抱いていたからであります。この夏期研修で、現役の商事部裁判長の考え方をお聞きできるチャンス到来と思い、質問を楽しみにしておりました。ところが、ビックリ!でございました。

研修の途中で松田判事曰く、

最近とてもおもしろい論稿が出ましたね。金融・商事判例という雑誌があるのですが、その7月1日号で、経営判断の司法審査方式が行政裁量の司法審査に似ている、ということを書かれた方がいらっしゃいます。私の個人的意見ということでお聞きいただきたいのですが、私も行政部にも在籍していたことがありますので、まことに卓見で、なるほど・・・・と関心いたしました。(なお、7月15日号まで読んだ・・・とはおっしゃっておられませんでした)ぜひご興味があればお読みください。

ホントは経営判断の司法審査方式として、東京地裁方式や大阪地裁方式まで意識されているのかどうか・・・・という点までお聞きしたかったのでありますが、残念ながら質問時間というものがございませんでしたので、あきらめました(ToT)。ただ講演のなかで、本論文に触れて個人的意見を述べられる、ということはまったく想定しておりませんでしたので、たいへん驚きました。

専門領域を越えて、裁判官の判断過程を推論する・・・というスタイルは、まさに実務家による論文の醍醐味であります。私自身は、2004年2月に出版された別冊商事法務219号「条解・会社法の研究9取締役(4)」における江頭先生や稲葉先生らの座談会(取締役の責任追及に関する規定はどのような形が望ましいか)あたりの内容(そもそも政策的なもの)や、損害賠償補てん機能や違法行為抑制機能といった責任追及規定の趣旨は、ガバナンスやソフトロー、監査役の裁判外の請求権行使等によって代替できる可能性がある以上は、経営判断に対して司法は謙抑的であったほうが妥当ではないか、といったことも検討したら面白そう・・・・・とも思っております。

もし裁判官の思考過程において、経営判断原則が行政裁量論に近いものがあるとすれば、今後の裁判例の分析などにも参考にすべき判例が増えるものと思います。森田果教授の論文へのささやかな挑戦、とありますが、ぜひまたこういった論文の発展系の論文が登場することを期待したいと思います。(なお、松田判事の近時の最高裁判決の分析、最近の善管注意義務違反に関する論点等、いくつか興味深いお話がもあり、それに対して私なりの疑問が湧いておりますが、これはまた別の機会に、ということで・・・・・)

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2011年8月 3日 (水)

内部統制の「重要な欠陥」➔財務諸表監査「意見不表明」とされた事例

昨日に引き続き、内部統制報告制度(J-SOX)に関わる話題であります。内部統制報告制度は「法と会計の共通言語」として、かねてより興味を持ち続けているテーマでありますが、このほど、今後の内部統制報告制度の実務に影響を及ぼすのではないか・・・と思われる興味深い事例が開示されております。

札幌証券取引所上場のRHインシグノ社は、7月28日付けにて「有価証券報告書に関する監査意見不表明のお知らせ」と題するリリースを公表しておられます(リンクはTDNETより)。同社では、6月23日にコンプライアンス問題が発覚し(貸金業者であるにもかかわらず、無登録にて私募債を発行し、ノンバンク社債法に反する行為が認められた、というもの)、7月20日には第三者委員会の調査により、遵法経営姿勢の欠如が指摘されました(この調査報告書もコンプライアンス上の問題を検討するうえで興味深いのですが、本日は触れません)。

この報告書を受けて、同社は7月29日、全社的内部統制および決算財務報告プロセスに重要な欠陥があり、期末までに評価ができなかったことから、内部統制の評価結果を表明しない旨の内部統制報告書を提出し、監査法人(ハイビスカス)も意見を表明しないこととなりました。

このように「重要な欠陥」が認められたために財務報告に係る内部統制の評価結果を表明しない場合、統制リスクが大きいことを前提として監査法人による財務諸表監査が行われることとなりますが、財務報告に係る内部統制は有効とはいえないけれども、財務諸表については(監査の結果)適正意見が付されるケースが(これまでは)ほとんどではないかと思われます。しかし今回は内部統制における「重要な欠陥」の影響を考慮して実施すべき監査手続きが実施できなかったため、連結財務諸表に対する意見表明のための合理的な基礎を得ることができなかった、として財務諸表に対する意見不表明といった結論となっております。

監査人から投資有価証券の評価やのれんの減損、貸倒引当金処理等の決算財務報告プロセスに重要な誤りを指摘されたことも起因しておりますが、取締役会における遵法精神の欠如(コンプライアンス問題)→全社的内部統制に重要な欠陥あり→財務諸表監査が困難となり意見不表明、という流れは初めてのことではないかと(もし他社で既に同様の例がございましたらご教示くださいませ)。たしかに規制法の不知とモニタリング不全、そして決算処理に要する人材不足ということなので、もはや監査法人としては意見を述べうるだけの心証を形成する基礎が存在しなかった、ということだったと思われます。

ただ、今回のように内部統制に重要な欠陥(今後は「開示すべき重要な不備」)ありと判断するのは経営者でありますので、内部統制が有効とは評価できないといった報告書を提出することで、財務諸表監査の結果にも影響が出てくるとなれば、かなり内部統制報告書の影響力も大きなものになってくるのではないでしょうか。最近、内部統制報告制度が見直しの対象となり、緊張感が少し緩和されてきたようなイメージを持たれておりますが、実は全社的内部統制に重要な欠陥があるのでは?といった印象をお持ちの監査法人の方は結構いらっしゃるわけで、今回のように財務諸表監査に影響を及ぼすとなりますと、けっこう経営者を含め、真摯な対応が必要となるケースも出てくるかもしれません。

たとえば当ブログでも何度も問題としている内部統制報告書の訂正(いったん有効と評価した報告書を提出しておきながら、後日、過年度決算訂正を要するほどの不適切な会計処理が発覚した場合に、過年度の内部統制は有効ではなかったと訂正)がなされるケースでは、過年度の財務諸表監査の意見はどうなるのでしょうか?たしかに内部統制が無効→財務諸表監査意見が不適切といった論理的な帰結にはならないはずですが、内部統制が有効ではなかったにもかかわらず、財務諸表監査における意見表明のための合理的な基礎は得られたとする説明は必要になってくるのではないでしょうか。とりわけ決算財務報告プロセスや全社的内部統制に重要な欠陥があると(たとえば第三者委員会報告書などで)指摘された場合、説明の必要性があるのではないかと。

このあたり、あまり会計士の先生方のブログ等では話題になっておりませんので、本件がレアなケースとされるのか、それとも今後の実務に影響を及ぼすものとなるのか、もう少し様子をみておきたいと思っております。

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2011年8月 2日 (火)

日本内部統制研究学会(第4回)のお知らせ

中山研一先生が7月31日に逝去されたとのこと(bunさんのブログで訃報を知りました)。昔、司法試験浪人だったころ、乾研一(中山研一)先生には「関大答練」では何度もお世話になりました。「中山刑法」は正直苦手でしたが、先生には「学説を覚えるよりも現実の出来事に条文をどう引っ張ってくるのか、秩序維持と人権保障のバランスをどのようにとるのか、実務家になりたいなら常にそこを意識するように」と2回ほどアドバイスをいただきました。たしか当時は大阪市立大学の教授でいらっしゃったと記憶しておりますが、他大学出身の受験生にも熱心に教えてくださり、刑法の合格レベルを認識させていただきました。お礼とともに、心よりご冥福をお祈りいたします。

月刊監査役8月号(587号)に、内部統制研究の分野で第一人者でいらっしゃる柿崎教授が「日本の内部統制制度の運用も、そろそろ次のステージに移りつつある」と指摘しておられますが、私も同様に感じております。とくに中小上場企業の強みを生かした内部統制の運用を実践してきた企業は、誰に言われずとも効率性や有効性向上を図ってきたため、形式的な運用に終始してきた企業との差は歴然としてきたように思われます。

私が所属する関西の内部統制研究会も、(参加者はかなり減りましたが)もうすでに発足して5年が経過いたしました。しっかり取り組んでこられた企業の担当者の方は、本体だけでなくグループ会社や海外買収会社のJ-SOX対応に関する効率化に成功し、さらにIFRS任意適用に向けての準備も順調で、J-SOX対応によって得た監査法人の信頼も厚いところであります。私自身も、このたびの内部統制報告制度の見直しを題材として、モニタリングを活かした効率的な内部統制の運用を旬刊商事法務6月15日号上の論文にて提案させていただきましたが、限られた資源によって最大限の効果を得られるJ-SOX対応を、今後も検討していきたいと考えております。

さて、今年も日本内部統制研究学会の季節がやってまいります。今年は9月5日に関西学院大学にて、ご存じ平松一夫先生を準備委員長として開催いたします。(詳しくはこちらの日本内部統制研究学会のHPをご覧ください)午前中は、わが研究会のエースである雑賀(さいが)さんの「中堅中小上場企業における有効性と効率性を両立した内部統制」の発表がありますが、この5年、これほどまじめに内部統制システムを現場で実践してこられた方も、あまりいらっしゃらないのでは・・・と思います。好き放題、彼に管理部門をいじらせたニイタカの社長さんは偉い!(笑)。その結果、ニイタカ社の内部統制は目に見える形でハイレベルとなり、それに気を良くした(のかどうかは定かではありませんが)社長さんは、この規模の中堅企業では異例ともいえる企業内弁護士(東京の大手建設会社から転職)を採用されたのであります!

また午後からは高橋さんの「『損失の危険の管理』の規定の意義と今後の課題」について、たいへん関心がございます。高橋さんも新日鉄の監査役室時代より、内部統制研究の第一人者であり、震災後の日本企業にとって非常に関心の高いテーマをとりあげておられます。テルモ社、しまむら社、ヤマト運輸社など、震災後の危機対応としての情報開示がアナリストの方々に高く評価され、かつ株価にも大きく反映した事例は何度も日経新聞で取り上げられましたが、会社法に規定された「損失の危険の管理」をJ-SOX対応を通じて実践されてこられた企業の姿は、今後の各社の対応にも参考となるものであります。

雑賀さんと同じ時間に別教室で発表される「震災後のリスク管理体制の融合的構築の必要性と内部統制報告制度改訂の影響」も関心のあるテーマです。今年は関西での開催ではございますが、内部統制報告制度という「形」に「魂」を入れ始めた企業と、そうでない企業は、この4~5年でどう変わってきたのか、そのあたりの参考となる学会になるのではないかと期待をしております。どうか多数の方々のご参加をお待ちしております。<m(__)m>

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2011年8月 1日 (月)

他社をかばうことと「コンプライアンス経営」-その2-

(8月1日午前 追記あり)

先週末に急展開をみせております九電やらせメール事件でありますが、第三者委員会委員長のお話では、佐賀県知事による「経済界からの意見も必要」との指示を受けて、九電側が原発容認意見要請に走った可能性が高いとのことであります。会見メモも残っており、また第三者委員会就任の際、九電社長から「どう対応すべきか困惑している」との話があったそうです。

ただ、日経新聞ニュースでは、九電側が(本件は知事の責任ではなく)当社の責任ということを主張されており、知事との会見メモの存在を明かさなかったのは①社内調査との食い違いがあった、②不確実な情報で知事の政治生命に影響を及ぼすことは避けたい、③当社が責任逃れをしていると思われる、との判断があったそうです。私の講演等をお聴きの皆様はおわかりのとおり、これは4年前に当ブログで説明いたしました「他社をかばうこととコンプライアンス経営」の典型的なパターンであります。この4年前のエントリーから今日までも、同様のパターンのケースは数多くの企業で発生しております。不祥事発生に他社が関与していることを公表してしまっては(それによって自社の評判は落ちないことになるけれども)他社に迷惑をかけることになるため、そのまま黙って「罪をかぶってしまう」パターンであります。もちろん「罪をかぶること」が自社にとって今後の経済的な利益に直結するからでありまして、紛れもない経営判断であります。

あるときは監督官庁との今後の関係悪化をおそれ、検査機関(行政の天下り先)との「なれあい」があったことを最後まで伏せて性能偽装事件の非難を一身に浴びた上場企業、OEM供給先に迷惑をかけてはいけないとの理由で食品偽装を隠ぺいした企業、著名な世界遺産の運営に傷がつけばユネスコから登録取り消しを命じられかねない、との不安から、あえて某団体の不祥事の責任を一手に引き受けた上場企業など、マスコミが報じる裏で、「貸し借り」が演じられるケースは枚挙にいとまがありません。もちろんこのような事実調査、原因分析で終わってしまっては、なんら有効な再発防止策は生まれることもなく、再び不祥事の芽が(忘れたころに)伸びてくるわけであります。今回の件も、私は保安院から九電に対してなんらかの圧力があったのではないか、と書きましたが、保安院ではなく地方自治体の首長さんからの要請があったことまでは想像しておりませんでした。

先の九電側の弁明内容も、他社をかばうコンプライアンス経営の非常に典型的なものであります。「社内調査との食い違い」というのは結局、社内調査が徹底していなかったにすぎず、「知事の政治生命云々」もメルシャン事件のときに何度も申し上げましたところの「社内バイアス」(隠ぺいすることが先にありきであって、真実を直視する勇気のない自分をかばうための正当化理由だけを判断根拠としたがる)であります。また「責任逃れ」というのも、会見メモを公表しても事件の責任から逃れられるものではなく(中部電力のようにきちんと要請時に拒絶すれば責任を逃れられますが)、後付けの理由にしかすぎません。結局のところ、やらせメール事件の本当の原因を九電側が(行政をかばって)隠ぺいしていたのではないかと推測いたします。

ただ以上のお話の趣旨としましては、どこの組織でも考えることなので、とくに九電側を非難する意図はほとんどございません。むしろこのような経緯があるならば、この事件の冒頭、九電の社長さんが「そんなに大きな問題なのか」とマスコミに逆に質問された意味も少し理解できるところであります。九電の経営トップは辞任をされるよりも、この組織で今後も陣頭指揮を執り、現在の組織体質を変革することのほうがメリットが大きいのではないでしょうか。そもそも「不祥事があってもつぶれない会社」の場合、「会社が傾く」という社会的制裁が機能しないぶん、不祥事の後始末は責任者の進退問題でケリをつけるのが慣行のようであります。しかし2002年の東電のデータ改ざん事件でも明らかなように、関係者が複数辞任したとしても、優秀な方々がたくさんいらっしゃる組織では、これまでの組織体質を変革せずともかじ取りができる経営トップが次々と登場するわけで、結局組織体質は変わらないまま不祥事は忘れられてしまうことになります。

いま原発問題を企業側からみた場合に一番大切なことは、今後も発生するであろう「ヒヤリ・ハット」事例が、はたして人災なのか天災なのか、きちんと分析できる体制作りであります。そうでもしなければ安全性の向上を誰が真剣に考えるのでしょうか。そのときに肝心なのは情報の正直な開示であり、まさに電力会社の隠ぺい体質からの離脱であります。このやらせメール事件の経過に九電の隠ぺい体質が垣間見えるのが一番の問題ではないかと。その隠ぺい体質がどのように変わっていくのか、リスク管理体制の運用を逐次開示していくことが重要だと思います。

(8月1日:追記)

本日、九州電力のHPに6月21日の佐賀県知事との面談経過ならびに、本件に関する九電としての意見が掲載されております(昨日の日経ニュースの内容とほぼ同様かと)。あらためて「隠ぺいの意図はなかった」とされておりますが、もし今回のやらせメール事件がここまで大事にならず、第三者委員会設置がなければどうなっていたのでしょうか?

また本日の朝日新聞ニュースによる佐賀県知事へのインタビュー記事によりますと、メールによる賛成意見依頼等にも踏み込んだ要請があったようですので、知事の要請が本件に占める役割が大きかったことを裏付けるものと思われます。私には、このような重要な事実を社内調査において軽視されていたとは到底措信しがたいところであります

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