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2011年8月 8日 (月)

親子会社法制とコンプライアンスの視点(親会社役員のリーガルリスク)

法制審議会会社法制部会の審議が再開され、7月27日に第11回会議が開催されたそうであります。議事録はまだ公表されておりませんので、どういった議論がなされたのかは存じ上げません。ただ、公開されている部会資料によると「親子会社に関する規律に関する論点の検討」がなされたとのこと。

そのなかで「親会社株主の保護に関する論点」として多重代表訴訟の検討がなされておりますが、これは旧商法の時代から導入が検討されていた論点であります。いわゆる親会社の株主が、子会社の役員(取締役や監査役)の責任追及すること(株主代表訴訟を提起すること)を認める制度であります。会社法でも「連結経営」の実態を反映しつつありますし、すくなくとも100%子会社のケースでは親会社が子会社役員の責任追及の懈怠が想定され、現実に親会社取締役の子会社管理責任があいまいなまま放置されている現状からしますと、多重代表訴訟が(親会社と一定の関係にある)子会社に対して認められる可能性は十分にあると思われます。

法理論的には、上記会社法制部会で諸々の議論がなされることと思いますし、私には整理する知識も能力もありませんので、ここで自説を申し上げるつもりもありませんが、コンプライアンスの視点からすると、こういった多重代表訴訟が制度として活用される場合には、親会社の取締役の方々は、ずいぶんとリーガルリスクが高まるのではないでしょうか。つまり子会社取締役の責任追及が可能となれば、親会社取締役の責任追及も容易になる、ということであります。

たとえば重要子会社の不正が発覚した場合、親会社の取締役が子会社管理上の責任を問われるケースがありますが(たとえば2011年1月の福岡魚市場事件第一審判決や、メルシャン事件の「キリンH第三者委員会報告書」など参考)、かりに親会社取締役の不正共謀や「知っていながら放置」、不正見逃しに過失あるケースなど、親会社取締役の善管注意義務違反が問われるケースであっても、株主側として、その立証が困難な場合が多いと思われます。現に、親会社主導と思われる不正行為が発覚したとしても、「関与」が立証できないために「監督上の過失」で処理されることもあるかもしれません。

ところで、多重代表訴訟が認められることになりますと、不正行為を直接執行した子会社取締役を被告として(元取締役も被告適格あり-通説)株主代表訴訟を提起できることになりますので、この訴訟結果を親会社取締役を提訴する裁判において活用できる、という機会が発生することになります。おそらく親会社取締役の不正関与の事実や、監督上の過失、企業集団における内部統制構築義務違反、といったあたりを立証する有力な証拠となるはずであります。たとえ子会社取締役の弁済資力が乏しいとしても、親会社取締役の任務懈怠を問える機会が増えるのであれば、これを活用する親会社株主も増えるのではないでしょうか。

もちろん、これまでも子会社取締役を親会社取締役に対する代表訴訟の証人として尋問する機会はありますが、欠席しても親会社や親会社取締役に不利になるわけでもなく、自ら法的責任を負うこともないわけです。しかし、多重代表訴訟となると、そうもいきませんし、会社のために高額の賠償責任を負担するくらいなら、被告として精一杯の防御活動に努めることになり、そこに親会社とは利益相反となる真実が浮上することも考えられます。たとえば先の福岡魚市場事件では、グルグル回し取引(架空循環取引に近い不正な取引)を執行していた子会社取締役は、解任された後、親会社である魚市場の部長に就任しているのであり、(これは推測の域を越えませんが)親会社としては不正行為者を保護しているようにもみえます。100%子会社であり、かつ重要な子会社であれば、いわば親会社の部長クラスの方が子会社取締役に就任しているわけで、そこに株主からの厳しい追及の矛先が向かうとなりますと、親会社としては難しい局面を迎えることになりそうです。

子会社自身が子会社取締役を支援することは、たとえば「不提訴理由通知」を発している関係から許されることになると思いますが(補助参加等)、親会社自身が子会社取締役を支援することは利益相反になりそうですから、弁護士報酬も含めた支援活動にも支障をきたすのではないでしょうか。

もう1点、コンプライアンスの視点からみると、親会社に損害が発生している場合でなければ子会社取締役の責任追及はできないのではないか?という論点であります。損害填補が目的である以上、親会社株主が子会社取締役の責任追及が可能となるのは、子会社取締役の善管注意義務違反によって親会社に損害が発生したような場合に限定されると思われます。しかし、前にも述べましたように、たとえば金商法の世界では、すでにグループ企業としてのレピュテーションリスクに配慮した行為規範の順守が金融機関に要請されているのであり、経営判断において、企業グループ自体の評判も重要な判断要素とされております。企業の社会的な評価が減少すること自体が企業の損害として認識されるに至っているのでありまして、そうであるならば、子会社の不正によって企業グループ全体の企業価値が減少するようなケースであるならば、広く子会社取締役の責任追及が認められることになるものと考えられます。

このような論点は、ほとんど思いつきの域を出たものではなく、まだまだ思案していることの一部ではありますが、親子会社規制の問題をコンプライアンスの視点から検討しますと、親会社や親会社取締役にとって、まだまだいろんな問題が出てくるように思えます。

8月 8, 2011 商事系 |

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コメント

おはようございます。いつも楽しいブログありがとうございます。
たとえば子会社役員の責任が認められるような裁判が出た場合に、その時点で親会社の株主というよりも、むしろ親会社としては株主代表訴訟を提起することは考えられないでしょうか。むしろ、そうしないと親会社取締役の善管注意義務違反になることもあるでしょうし、いっぽうで馴れ合いとなる危険性もありそうな気がしますが。

投稿: umemoto | 2011年8月 8日 (月) 09時30分

二重代表訴訟まで考えなければならないということは、それだけ法人格が濫用されているということです。株主によるコントロールと論点はズレますが、中国のように、法人格否認を条文化するなどの対応も考えてほしいです。

投稿: JFK | 2011年8月10日 (水) 02時00分

umemotoさん、JFKさんご意見ありがとうございます。
なるほど、どれほどのリスクかは私もよくわかりませんが、umemotoさんのおっしゃるところも理解できそうです。もう少し考えさえせてください。
中国に法人格否認が条文化されていることは存じ上げませんでした。中国法に疎いもので。。。

投稿: toshi | 2011年8月15日 (月) 14時04分

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