内部統制の「重要な欠陥」➔財務諸表監査「意見不表明」とされた事例
昨日に引き続き、内部統制報告制度(J-SOX)に関わる話題であります。内部統制報告制度は「法と会計の共通言語」として、かねてより興味を持ち続けているテーマでありますが、このほど、今後の内部統制報告制度の実務に影響を及ぼすのではないか・・・と思われる興味深い事例が開示されております。
札幌証券取引所上場のRHインシグノ社は、7月28日付けにて「有価証券報告書に関する監査意見不表明のお知らせ」と題するリリースを公表しておられます(リンクはTDNETより)。同社では、6月23日にコンプライアンス問題が発覚し(貸金業者であるにもかかわらず、無登録にて私募債を発行し、ノンバンク社債法に反する行為が認められた、というもの)、7月20日には第三者委員会の調査により、遵法経営姿勢の欠如が指摘されました(この調査報告書もコンプライアンス上の問題を検討するうえで興味深いのですが、本日は触れません)。
この報告書を受けて、同社は7月29日、全社的内部統制および決算財務報告プロセスに重要な欠陥があり、期末までに評価ができなかったことから、内部統制の評価結果を表明しない旨の内部統制報告書を提出し、監査法人(ハイビスカス)も意見を表明しないこととなりました。
このように「重要な欠陥」が認められたために財務報告に係る内部統制の評価結果を表明しない場合、統制リスクが大きいことを前提として監査法人による財務諸表監査が行われることとなりますが、財務報告に係る内部統制は有効とはいえないけれども、財務諸表については(監査の結果)適正意見が付されるケースが(これまでは)ほとんどではないかと思われます。しかし今回は内部統制における「重要な欠陥」の影響を考慮して実施すべき監査手続きが実施できなかったため、連結財務諸表に対する意見表明のための合理的な基礎を得ることができなかった、として財務諸表に対する意見不表明といった結論となっております。
監査人から投資有価証券の評価やのれんの減損、貸倒引当金処理等の決算財務報告プロセスに重要な誤りを指摘されたことも起因しておりますが、取締役会における遵法精神の欠如(コンプライアンス問題)→全社的内部統制に重要な欠陥あり→財務諸表監査が困難となり意見不表明、という流れは初めてのことではないかと(もし他社で既に同様の例がございましたらご教示くださいませ)。たしかに規制法の不知とモニタリング不全、そして決算処理に要する人材不足ということなので、もはや監査法人としては意見を述べうるだけの心証を形成する基礎が存在しなかった、ということだったと思われます。
ただ、今回のように内部統制に重要な欠陥(今後は「開示すべき重要な不備」)ありと判断するのは経営者でありますので、内部統制が有効とは評価できないといった報告書を提出することで、財務諸表監査の結果にも影響が出てくるとなれば、かなり内部統制報告書の影響力も大きなものになってくるのではないでしょうか。最近、内部統制報告制度が見直しの対象となり、緊張感が少し緩和されてきたようなイメージを持たれておりますが、実は全社的内部統制に重要な欠陥があるのでは?といった印象をお持ちの監査法人の方は結構いらっしゃるわけで、今回のように財務諸表監査に影響を及ぼすとなりますと、けっこう経営者を含め、真摯な対応が必要となるケースも出てくるかもしれません。
たとえば当ブログでも何度も問題としている内部統制報告書の訂正(いったん有効と評価した報告書を提出しておきながら、後日、過年度決算訂正を要するほどの不適切な会計処理が発覚した場合に、過年度の内部統制は有効ではなかったと訂正)がなされるケースでは、過年度の財務諸表監査の意見はどうなるのでしょうか?たしかに内部統制が無効→財務諸表監査意見が不適切といった論理的な帰結にはならないはずですが、内部統制が有効ではなかったにもかかわらず、財務諸表監査における意見表明のための合理的な基礎は得られたとする説明は必要になってくるのではないでしょうか。とりわけ決算財務報告プロセスや全社的内部統制に重要な欠陥があると(たとえば第三者委員会報告書などで)指摘された場合、説明の必要性があるのではないかと。
このあたり、あまり会計士の先生方のブログ等では話題になっておりませんので、本件がレアなケースとされるのか、それとも今後の実務に影響を及ぼすものとなるのか、もう少し様子をみておきたいと思っております。
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