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2011年8月22日 (月)

司法書士の本人確認における調査不足と善管注意義務違反

おそらく月曜日の朝は多くの方の関心がマーケット情報に集まっていると思いますので、当ブログを閲覧される方も少ないかとは思いますが、興味をそそられた裁判ネタをひとつ。抵当権設定登記の申請を依頼された司法書士さんが、登記義務者の「身代わり」に気づかなかったとして、善管注意義務違反(調査義務違反)に問われた判決が最近の判例時報に掲載されております(判例時報2111号41頁)。

この身代わりの人は、真正な登記済証、実印を持参していたほか、本人の保険証や印鑑登録証まで持ってきていたもの。司法書士さんは地元司法書士会の本人確認規程(平成20年7月施行)に則り、こられの書類を確認したということですが、一審では本人確認義務が不十分だったということで、善管注意義務違反が認められ、登記権利者(依頼者)に対する損害賠償責任が認められました。

その控訴審(福岡高裁宮崎支部)の判決(平成22年10月29日)が上記判例時報で紹介されているものですが、原審とは結論が異なり、司法書士さんの損害賠償責任が否定されております。そもそも司法書士さんは登記申請の代理を依頼された以上は迅速な処理が求められるのであり、過度の本人確認や登記意思確認までは要求されない、しかし一方で、司法書士という専門的知見によって紛争を未然に防止することは世間から期待されるところであり、この期待には応える必要がある、とされています。

そこで、高裁判決は「当事者が本人であることの確認は、基本的には取引当事者の責任で行うものであるが、依頼の経緯や業務の過程で知りえた情報と司法書士が有すべき知見に照らして、当事者の本人性や登記意思を疑うべき相当の理由が存する場合は、司法書士にはこれらの点についての調査確認を行う義務があるというべきである」との判断基準を示しております。結論としては、控訴審判決では、詳細を検討したうえで「身代わりであることを疑うべき相当な理由はなかった」として善管注意義務違反は認められないとしました。

詳細は上記判例時報をお読みいただきたいのですが、原審と控訴審との判断が食い違っておりますし、また上記判例時報の解説者は控訴審の判断基準を妥当なものとしながらも、なお控訴審の認定事実の評価には疑問が残る、としており、極めて興味深い内容です(ただし上記高裁判決は確定しております)。

おそらくどこの司法書士会でも、本人確認に関するルールが規程されていると思うのでありますが、ときどき「身代わり」というのは実際に発生する事件ですし、たとえば取引の際に「様子がおかしい」というような外観が存在するケースでは、さらに調査義務を尽くさねばならない、ということでしょうか。しかし、理屈ではわかっていても、これって現場ではかなり難しいことを専門家に要求しているようにも思えます。たとえば取引の現場で登記義務者が高齢のため、自分で住所を記載できないような場合、登記義務者と同行していた人が代わって書いてあげる・・・ということは実際にあるでしょうし、これを「おかしな様子」と判断することはできないと思いますが、いかがでしょうか。生年月日を言えない、というのも、たしかに問題ではありますが、高齢者の場合は時々みられる現象であり、それだけで取引行為を理解できる能力がないとは言えません。(まあ、事故を未然に防止する、ということからすれば、きちんと顔写真付きの証明書まで確認すればいいのかもしれませんが。)これは司法書士さんだけの問題ではなく、たとえば我々弁護士でも即決和解の相手方の確認や、不動産取引や大きな現金が動くような取引に関わる場合にもあてはまるものではないかと思われます。

司法書士さんの世界では、もうすでに話題になっているケースかと思っておりましたが、グーグルで検索しても、ほとんど本件に関するニュースが出てきませんでしたし、また定例調査から非定例調査へ移行すべきポイントは何か、という最近の監査役監査、親会社取締役の子会社調査に関連する論点とも関連するものと思われましたので、備忘録程度ですがご紹介させていただいた次第です。また関連判例等ございましたらご教示いただけますと幸いです。

PS

話は変わりますが、本日アップされた活字フェチ弁護士さんの「ダメなものはダメ~合弁契約における拒否権条項の作り方~」は勉強になりました。あたりまえと言えば、あたりまえの話なのですが、組織法的発想と取引法的発想、そして合弁会社の実務的発想がクロスする場面の整理として、読んでおりましてとてもおもしろい!ビジネスの最先端で、我々弁護士がどう経営判断にとって役に立つのか、そういったことを考えるヒントになりますね。ひとつ賢くなりました(^^

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