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2011年9月28日 (水)

九州電力社の「闘うコンプライアンス」にみる「したたかさ」

あらかじめ申し上げておきますが、私は九電さんを批判するものでもなく、またその対応を称賛するものでもなく、企業のコンプライアンス経営の在り方を研究するものとしての関心について、以下にとおり記すものであることを、お断りしておきます(って、最近このフレーズで始まるエントリーが多いような・・・・)

九電のやらせメール事件に絡み、いったん辞任の意向を表明しておられた九電の社長さんが、辞任の意向を撤回して、どうやら続投される見込み、とのニュースが報じられております(読売新聞ニュースはこちら)。他の取締役の方々からも「辞める必要なし」との意見が出ているそうで、つまり今月末にどのような第三者委員会の調査結果が出たとしても(おそらく、すでに内容はある程度判明しているとは思いますが)、そのまま辞任されない雰囲気です。

私は以前のエントリーでも書きましたが、どんなに九電さんが強気であっても、「派閥争い」等の社内力学による「ほころび」をマスコミや第三者委員会に突かれ、そのうちいろんな事実が判明してくるのではないか、そこから社長さんは辞任しなければならないような状況に追い込まれるのではないか、と予想しておりました。しかし、その予想はどうやらはずれてしまったようです。私が予想していたのとは裏腹に、この電力事業会社は相当にしたたか(私の故郷である福岡の大牟田弁でいうところの「やおなか」)な企業ではないか、と。

そもそも九電さんに事態収拾へ向けて経営責任を迫ることができるのは行政当局だと思われますが、その行政当局の関与が次第に明らかになるなかで、行政当局を最後までかばって、「今回の件で悪いのは当社の社風であり、すべての責任は当社にある」と言い張っておられるのでありまして、この対応によって行政からの辞任要求はおそらく出しにくくなっているのではないでしょうか。さらに、本来ならばマスコミの調査能力からみれば、次から次へと「二次不祥事」が出てきそうなものですが、タイムリーに、強固な第三者委員会を招き、その調査協力を全社挙げての最優先課題としました。つまり、第三者委員会による社内調査を尊重する体制をとることで、マスコミによる調査から社内を守ることに専念できたように思います。この企業は、相当に第三者委員会の長所と弱点を研究していたものと思われます。第三者委員会を発足させたにもかかわらず、その調査委員会の調査結果に反論する、弱点を突かれると、その弱点をあえて補強する、という手法も、非常にしたたかさをうかがわせるものであります。

そしてなんといっても驚くべきことは、その「一枚岩の強さ」ではないでしょうか。これだけ世間で騒がれても、内部通報や内部告発というものが出てこない(最初に通報があったのも、たしか関連会社の社員の方であり、社内の人間ではなかったようです)。また、リタイアされた九電OBの方々からも、九電の体質を批判するような声が聞こえてきません。たしか関係書類を廃棄した方々は社内処分を受けたはずであり、普通であれば「俺は九電のためを思ってやったのに、なんだ」といったことで、そこから社内事情が漏れてくるはずでありますが、どうやらそういった「こぼれ話」も聞こえてきません。「いま、この九電の危機を、社内の全員で乗り越えよう」といった気風が、ひょっとすると社員全員に共有されているのではないでしょうか。「どんなに世間から批判されようとも、マスコミや世論の批判は一時的なものだから、なんとか今の逆風を乗り越えよう」といった気概を社員が一丸となって共有しているようにも思えます。そうだとしますと、この組織はとんでもなく内部統制がしっかりしている企業(良い悪いは別として)ではないかと感じるところであります。

先日、セミナーの企画を担当される方からお聞きしましたが、電力会社のなかで、東京でも大阪でも、コンプライアンスに関連するセミナーが開催されると、九電の関係者の方々だけはかならず出席される、たいしたものです、とおっしゃっていました。これは以前からの傾向だそうです。そういえば、先日私が東京で講演した際にも、複数名の九電の方々が参加されていました。おそらくコンプライアンスに関する社内での意識は相当に高いものと思いますし、またコンプライアンス経営の重要性は十分に認識されておられるのではないかと。東電さんと違い、賠償責任を尽くす立場にない以上は、「我々への逆風は一時的なもの。かならずやり過ごすことができる」といったところではないかと。他の電力会社でも、やらせメールに近いことが発覚し、この事態を横目で見ながら「ここで当社の社長が辞任してしまっては、他の電力会社にも混乱を生じさせる」といった理由で辞任撤回の意向を表明するあたりにも、非常にしたたかさを感じます。

さて、もうすぐ第三者委員会による最終報告書が出るわけですが(一部報じられているところでは、社長の責任についても明記される予定とのこと)、第三者委員会は、このしたたかな九電王国にいったい何を残すことができるのか、何を変えることができるのか、報告書の中身とともに、九電さんの報告書への対応についても、非常に関心が高まるところであります。

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2011年9月27日 (火)

災害時における企業の危機管理とその法的リスク

陸山会事件判決など、たいへん興味深い話題が豊富であり、エントリーには事欠かない状況でありますが、本業のためにブログを更新する時間がとれず、またまた広報のみで恐縮でございます。さて、来週10月6日(木)午後1時より、大阪のヒルトンウエストにて第一法規さん主催のセミナーを開催いたします。

災害時における企業の危機管理とその法的リスク

東日本大震災から私が考えたこと、震災後の企業の危機管理のお手伝いをさせていただいたことなどをもとに、①災害時の企業の危機管理は取締役の法的責任が発生するかどうか(善管注意義務違反の有無)を論じるよりも、企業にレピュテーションリスクが発生するかどうか、という視点が重要であること、②平時の企業はリスクを冒して事業活動を継続するのが当然であるが、それは「許された危険の法理」に依拠しているのであり、危機管理を間違えると企業活動は「許されない危険」によって事業停止を余儀なくされるものであること、等につきまして、実例をもとに考えてみたいと思います。もちろんブログではお話できないような内容も含まれております。

たとえば災害時、「正義」と「正義」がぶつかりあう場面、ステークホルダーの利害が対立する場面で、あなたの会社なら、どっちの正義、どっちのステークホルダーの利益を優先しますか?それは取締役の免責が目的ですか、それとも会社の信用確保が大事だからですか?それとも事業の永続性を考えるからですか?・・・・。そういった究極の選択を行うための判断事実に誤りがあったらどうしますか?

いろいろな実例によってリスク管理の手法を検討してみたいと考えています。お時間がございましたら(まだ、ご参加は可能かと思いますので)どうか、上の第一法規さんのWEBからお申込みください<m(__)m>

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2011年9月26日 (月)

「福岡魚市場株主代表訴訟の判例解説」等、二つの拙稿のご紹介

第一法規さんの「会社法務A2Z」10月号(9月25日発売)に、「判例解説 福岡魚市場株主代表訴訟の概要(ポイント)と実務への影響」なる論稿を掲載していただきました(循環取引の解説など、図表をふんだんに活用しております)。私が今年一番注目しておりました地裁判決でありますが、親会社取締役による子会社の不正調査の限界、事実調査の不備が親会社の経営判断に及ぼす影響(経営判断原則の捉え方)、監査見逃し責任を認めるにあたり裁判官は何を「異常な兆候」とみなしたのか?といった興味ある論点が登場します。

なお、本裁判につきましては、高裁判決がもうすぐ出るようにもうかがっております。また、これはブロガーの役得かもしれませんが、本事件については関係者の方からいろいろと裏事情などもご教示いただき親子会社法制におけるガバナンスのむずかしさなども勉強させていただきました(ただし裏事情については一切、本稿では触れておりません)。ご興味のある方はどうか書店にてお買い求めいただければ幸いです。

また、月刊監査役の最新号(10月号)に「災害時における企業の危機管理と監査役の役割(下)」を掲載いただきました。これは最寄りの書店で・・・というわけにはいきませんが、今後各会社で整備・運用されるであろうBCM(ビジネス・コンティニュイティ・マネジメント)の在り方を意識しながら、監査役がどのような視点で経営判断であるBCMに関与していくべきか・・・というあたりを意識したものとなっております。内部統制報告制度(J-SOX)、ITガバナンス、反社会的勢力対応などと並び、BCMもいわば直接的には会社法の外の世界のことかもしれませんが、いずれもコンプライアンス・リスクと重大なかかわりがある以上、監査役もビジネス情報へ積極的にアクセスする必要があります。私見が多く含まれるものであり、異論反論もあろうかと思いますが議論の「たたかれ台」になればいいかなあと(こちらも、どうかよろしくお願いいたします<m(__)m>)。

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2011年9月24日 (土)

弁護士が懲戒請求されるときの気分とは?

本日は、とくにビジネス法務と関係のある話題ではございません。博多ぽんこつラーメンさんから、以下のようなご質問がありましたので、恥を忍んで「懲戒請求を受ける弁護士の心境」について述べてみたいと思います。私は懲戒処分を受けたことはございませんので、あくまでも「懲戒請求の申立を受ける」ことへの心境でございます(誤解なきよう・・・)。

普通の弁護士の方々は、ご自身に懲戒請求されることに対してどのような感触をお持ちなのでしょうか。通常の活動でも日常茶飯事的に遭遇するので大したことはないとお思いなのか、それとも“ちょっとは厄介だな”とお感じになるのか。蛇足かつ仮の話として、若干後ろめたいことがあった際のそれについてもお聞かせ願えないでしょうか。

弁護士としての職務を一生懸命に全うしようとしますと、懲戒請求を受ける・・・ということは十分あります。私の場合、22年ほどの弁護士経験のなかで、二度ほど請求をされ、もしくはされかけたことがあります。ひとつは弁護士の主張によって侮辱された、という相手方からの申し立てでして、これは懲戒を請求されても「弁護士の職務として正当な行為」であることが明らかでしたので、とくに問題にもしていませんでした。

しかし、もうひとつ、これは結構しんどかった。依頼者からの懲戒請求です。先日(9月13日)、大阪地検特捜部の元部長さんらが被告人となっている改ざん事件の初公判に関する日経新聞記事を読み、「ええ!?」と絶句したことがありました。案の定、週刊文春の今週号で、江川紹子さんが厳しく糾弾しておられますが、最高検の公判検事の方と被告人である元特捜部長さんらが、法廷の外で談笑していたそうです。いくら元上司、部下の関係があったとしても、関係者や第三者の目の前での「談笑」や「世間話」は絶対にいけません(江川さんは「最高検は本気で検察を変える気があるのか?単なる出来レースではないのか?」と批判しておられます)。かくいう私も、実は同じようなことがありました。もう17年ほど前の話ですが、民事事件の相手方代理人がたまたま知り合いだったために、証人尋問終了後に、関係者が全員法廷の外に出て行ったことで気が緩んだのか、つい法廷の中で冗談を言い合ってしまいました。・・・お恥ずかしいかぎりです。

一審で芳しい結果が出なかったこともあってか、控訴審係属中に依頼者から「先生は真剣に裁判をしてくれなかった。あの『高笑い』が法廷から聞こえてきたとき、この弁護士にまんまと金だけとられた、と確信した」と言われ、判決確定後に懲戒請求をする、と言われました。法曹の方ならおわかりのとおり、たとえ相手方代理人弁護士が知り合いであっても、依頼者からお金をもらえば弁護士は「パブロフの犬」です。まず第一に依頼者の利益を考えて行動する習性が染みついています。ですから裁判を片手間にしたり、ナアナアで済ませることは絶対にありませんし、むしろ相手方が知り合いの弁護士だからこそ、逆に負けなくないわけでして、現にその裁判も高裁では逆転勝訴となりました。

しかし、たしかに依頼者がいる前で、相手方代理人と親しげに会話をする、というのは軽率でありまして、猛省いたしました。あの懲戒請求によって、「人からみてどう思われるか、依頼者がどのような気持ちになるか」が弁護士にとってどれほど大切であるか、ということを学びました。あの出来事は、今でも忘れることはできません(なお、懲戒請求は結局されませんでした)。

ですから、普通の弁護士にとって懲戒請求を出されることについての心境は、事案によりけりだと思います。正当な職務の遂行と確信していることついて、相手方本人から懲戒申し立てがあってもあまり精神的に悩むようなことはありませんが、依頼者から・・・・となりますと、相当にこたえるのではないでしょうか。ちょっとどころか、かなり厄介なことだな、と思うこともあるのでは、と。後ろめたいといいますか、配慮が足りないと思うことがありましたら、やはり(懲戒の手前の綱紀委員会で棄却される可能性が高いとしても)精神的に重くのしかかることが多いと思います。そもそも人と争うことを商売としているわけですが、「人として人を傷つける」ことは絶対にあってはならないのでして、配慮が足りない点があれば、私の場合、「懲戒相当」事案とはならずとも、自責の念にかられることになるでしょうね。まぁ、しょっちゅう懲戒請求を受けている弁護士ならば「慣れっこ」になってしまっているかもしれませんが(笑)。

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2011年9月22日 (木)

大王製紙会長辞任のナゾ(ガバナンス上の問題というけれど・・・)

あらかじめ申し上げておきますが、私は大王製紙社関係者のどなたかの肩を持つもの、もしくは非難をするものではなく、上場企業のコーポレートガバナンス研究に関心のある者として、本件を取り上げるにすぎないものであることをお断りしておきます(そこまで前置きしなければならないほどのエントリーでもないかもしれませんが・・・・・笑)。

一昨日は7%も株価が下落した大王製紙さんでしたが、大王製紙社(東証1部)の創業家(元)会長さんの「消えた84億円」「エリエールより軽い1万円札」に関する週刊文春記事を読みました。そして、本日週刊誌が発売されるのと同時に、大王製紙社から「特別調査委員会設置のお知らせ」がリリースされました。リリースによりますと、これまでに判明した事実として、23年3月末時点で、連結子会社2社から元会長に対する貸付金(短期)の残高は24億円だったそうであります。その後、23年4月~9月までに60億円が新たに貸し付けられ、一部返済がなされた後、現在残高は55億円とのこと。また、特別調査委員会のメンバーから一部疑義が出て、社内の執行役員の代わりに、独立性の高い委員が選任されたようです(毎日新聞ニュースより)。

文春の記事では、元会長さんの交遊関係やカジノ好きに関する話題が中心ですが、たしかに派手な生活がお好きだったとしても、本当に一個人が短期間に84億円ものお金を「遊興費」につぎ込めるのでしょうか?私の「あまりにも庶民的な感覚」からしますと、いくらなんでも半年やそこらの間に50億も60億もの大金を遊興として使い果たせるものではないと思うのでありますが。。。私も4年前にマカオのSunsで(ごくごく僅かなお小遣いで)遊びましたが、そこから察するに「ド派手な遊び」とはいえ、そこそこ遊ぶのには時間がかかると思いますので、株取引で大損するのとはわけが違うように思います。たとえカジノの「VIPルーム」の常連さんだとしても、使えるお金には限度があるはずです(現に、この文春の記事を真実だとしても、カジノのために社内から流出した金額は20億円ということです)。今後84億円のグループ会社資金の使途が特別調査委員会の調査によって判明するのであれば、遊興費のほかに、何か特別の目的で使われた可能性が高いのではないか・・・と推測するのでありますが、いかがなものでしょうか。この点、9月7日に社長宛に内部通報があったとのことですが、この通報者に果たして調査委員会のメンバーが接触できるのかどうか、興味深いところです。

ところで、

「どうしてこんな大金が代表者個人に流れていたにもかかわらず、内部通報がなされるまで他の役員は見抜けなかったのか、それとも(うすうす他の役員も知ってはいたが)創業家社長(会長)に対して誰も物が言えなかったのではなかったのか」

との疑問が、自然と湧くところであります。いわゆる「ガバナンス上の問題」と言われるところです。

大王製紙の役員さんや監査人の方を擁護するわけではありませんが、50以上もある連結子会社の資金の流れを、親会社の役員がすべて把握していることは現実問題として困難なので、そんな簡単に子会社から元会長への資金流出を問題視することはできなかったのではないでしょうか。親会社の取締役が、子会社における不正(もしくはルール違反)にどこまで目を光らせることができるかといいますと、これはかなり難しいのではないかと。また、「創業家に物が言えない」としても、少なくとも3名の非常勤社外監査役の方々の耳に入っていたとすると、「この短期貸付金とは何ですか、会長?」と問いただされることは間違いないのでは(・・・と信じたいです。。。自己契約について、きちんと子会社の手続がなされているかどうかは、確認しないと自己の善管注意義務違反にもつながりますよね。)つまり、当初の記者発表にあるとおり、本当に親会社の取締役、監査役らにとって、この事実は「寝耳に水」であって、9月に調査をしたうえで、初めて知った可能性もあるのではないか、と思うところであります。

しかしながら、先日のエントリーへ何名かの方がコメントされていたように、23年3月末の時点で(少なくとも)23億5000万円が関連会社から元会長個人に「短期貸付金」として資金が流れていることは会社自身も(本年6月末の時点で)有価証券報告書で公表しております。ということは、開示業務の担当者はこの事実を認識していることになりますし、「そこまで読んでいなかった」という理由があるかもしれませんが、決算役員会では、この報告書(案)が、全ての取締役、監査役が事前に配布されていますので、やはり「知らなかった」では通らないような気もいたします。(この連結子会社が「重要な拠点」であるならば、監査法人さんも注目していたはずであります。)

ここでひとつ気になるのが、この6月の株主総会での役員改選の結果です。大王製紙社には、総会前は18名の取締役さんがいらっしゃったのですが、総会後は14名となり、それまで取締役だった方のうち7名が総会時に退任されています(つまり、3名は新任の取締役がいらっしゃいます)。退任された役員のなかには、人事担当の副社長さんだった方もおられます。また残った11名のなかでも、降格となった方が4名おられます。つまり、総会前の取締役18名のうち、退任・降格となった方が11名ということですから、かなり大きな組織力学が働いた結果ではないかと推認されます。23年3月期は業績が悪化したことも原因かもしれませんが、組織内部での人間関係の軋みのようなものがあったのでは、そして内部通報は、この「軋み」と無関係ではないのでは・・・と考えるのは邪推でしょうか?

こういった難しい事件の特別調査委員会の委員に就任される方々は心労が重なるだろうなあと思います。刑事責任追及の根拠になるかもしれず、かといって創業家一族に甘い結論となると、今度は現取締役・監査役の「見逃し責任」追及の根拠となってしまうかもしれず、はたまた「とんでもない使途」が発覚してしまうかもしれず、灰色認定で「シロ」を「クロ」と認定してよいかどうかもわからず、そしてなんといっても、疑惑の創業家元会長さん、内部通報者へのヒアリングができるかどうかもわからず・・・・・・・ストレスが溜まりっぱなしになってしまいそうです。

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2011年9月20日 (火)

経理担当社員に対する不正調査の限界(山陰放送社の事例)

山陰放送さんの元派遣社員の方が、8月22日に会社の金(約100万円)を着服したとして逮捕されていたのですが、9月16日、大阪地検は嫌疑不十分として、当該元社員の方を釈放したそうであります(毎日新聞ニュースはこちら)。別の新聞報道によると、この派遣社員の方は長年経理担当だった、とのこと。大阪府警(天満署)は業務上横領で立件可能とみて逮捕したのでありますが、検察側は本人が否認している以上、このままでは公判は維持できないと判断した模様です。山陰放送さんとしては、昨年11月に、この派遣社員が社内で不正を行なったとして刑事告訴をしたわけで、その後実名報道による逮捕、そして今回、嫌疑不十分(つまり犯行が認められなかった、ということ)で不起訴となり、今後の対応が注目されるところです。

今年の1月と4月、私が二度にわたりCFE(公認不正検査士)研究会の合同研修等で解説をさせていただいたのが、この業務上横領事件における社内調査の「むずかしさ」であります。今回の事件の被疑者のように、経理部に在籍している社員の資産流用事件に関する不正調査の方法を間違えますと、疑惑の目を向けられた社員の人権を傷つけたり、社内の不正を効果的に摘発できなかったりするわけでして、企業の行動が人権侵害につながる「おそろしさ」があります。とりわけ横領、背任事件に関する社内調査にはきわめて慎重な対応が要求されます。

たとえば今回の山陰放送さんの事例をモデルに考えますと、平成13年6月から同21年12月まで、総額500万円ほどの横領が(社内で)認識されたそうですが、警察に告訴した場合、そのうちのごく最近のものだけに被疑事実を絞ることになります(警察から強く勧められる、というのが本当のところです)。本件では平成21年10月から12月までの約200万円に絞られ、「数回に分けて被疑者は会社口座から引き出し、そのうちの半分は着服した」とあります。山陰放送さんが告訴したのが昨年の11月ですから、この8月の逮捕までの約10か月間、企業は警察と協力して、立件のための証拠の発見、提出に尽力します。すでに社内で被疑者のヒアリングをしていることも考えられます。よく皆様誤解されるのですが、社内不正を告訴した場合、あとは警察の方が立件に向けてなんでもやってくれるわけではなく、告訴を受理し、あるいは告訴ではなく被害届提出の状態で、立件可能な証拠を企業側が積極的に提出しなければ警察が動いてくれない・・・というのが実情であります。

業務上横領の場合は、身分関係を証明するものは特に問題ありませんが、被疑者の「領得意思の実現行為」の特定が難しいところです。被疑者が会社の口座からお金を引き出したとしても、口座からお金を引き出す権限があるかどうか、また入金する権限があるかどうか、いったん引き出した金額が、後日返金されている可能性はないか、またどの口座引き出しが職務であり、どれが私的流用のものか、入金はどうなのか・・・・・といったことが証拠書類によって明らかにされ、結局長期間にわたって返金されていない事実が特定されなければ立件は困難であります(だからこそ、否認事件の場合には、身柄拘束まで長期間の捜査を要することになります)。逆に、経理担当者であるがゆえに、経理特有の処理に関連する証拠が残っていたりしますが、これが「領得意思実現行為」を示す証拠となることについては、捜査関係者もわからないために、会社側が報告書等で積極的に説明する必要もあります。本人へのヒアリングのタイミングも、ひとつ間違えますと、証拠隠滅によって重要証拠がなくなってしまうことにつながりますので、非常に神経を使うところであります。

通常は、身柄拘束に至るというのは、警察が「これなら十分に業務上横領で立件できる」と確信できたからでありますが、検察のほうで「嫌疑不十分」(犯罪事実は明確だが、諸事情によって不起訴とする「起訴猶予」ではありません!)ということで、釈放となるのは非常に珍しいケースではないでしょうか(立件がもっとむずかしい背任罪のケースではときどきありますが・・・・・)。現に、この方は大手の新聞社では実名報道で逮捕の事実が報じられ、山陰放送さんも「このようなことが社内で発生することは誠に遺憾」とコメントされているのであり、今となっては、(告訴が発端である以上)被疑者に対して、たいへんなことをしてしまったことになります。この元社員の方と企業側においては、労働紛争などの事情もあったようですし、ひょっとするとパワハラ的な問題が根っこにあるのかもしれません(単なる推測ですが・・・)。しかし不正調査の巧拙が、企業のレピュテイションを著しく低下させてしまうこともありますので、調査の限界を認識しつつ、効果的な方法を理解しておく必要がございます。

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2011年9月17日 (土)

内部通報で大手製紙会社会長辞任とのこと。

本日は、プロデュース事件の株主の方々が、監査見逃し責任追及の提訴をされたこと、日本公認会計士協会のHPに「架空循環取引防止のための監査」の指針が公表されたこと、コージツのTOBが成立し会社側の今後の対応が注目されることなど、いろいろとエントリーを書きたい話題が多いのですが、内部告発ネタの備忘録としてひとつだけ。

グループ企業7社から合計84億円を借入れ、未だ50億円ほど返還されていないという大手製紙会社の創業家会長さんが「ガバナンス上よろしくない」とのことで辞任された記事が報じられております。日経ニュースでは、グループ会社社員からの「内部告発」(たぶん内部通報だと思いますが)によって、今月7日より社長が調査を開始、その後会長さんが辞任されたということですから、このたびも内部通報が発端となったようであります。ただ、たとえ内部通報が発端となったとしても、今回の結末に至るまでは、様々な葛藤があったものと推測いたします。

どうなんでしょうか、まったく親会社の中で公知の事実ではなく、本当に今回の通報で経営陣が知るところとなったのでしょうか。今後の特別調査委員会での報告内容で明らかになることを期待いたします。それにしても、先日のオリンパス事件といい、九電やらせメール事件といい、内部通報や内部告発が世間の話題となる企業事件の発端となる確率が以前と比較しても高くなってきたように思います。

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2011年9月15日 (木)

日債銀粉飾決算事件差戻高裁判決を全文掲載(法と経済のジャーナル)

朝日「法と経済のジャーナル」が15日、日債銀粉飾決算事件の差戻控訴審判決(8月30日付)を全文を掲載しておられます(約4万字のテキスト形式)。要旨は判決直後からアップされておられましたが、全文を掲載していただけるとは、ホントに(法律家にとっては)お安い購読料です(^^;。どれだけの方が閲覧されるかわかりませんが、そのマニアックな姿勢に本当に感謝いたします<m(__)m>。

本判決は刑事裁判ですが、記事にもあるように、日債銀事件は民事訴訟で流れが変わったと思います。長銀事件判決も含め、「公正なる会計慣行」について、これまでで一番明確に司法の考えを示したのが(民事訴訟である)日債銀損害賠償事件高裁判決(大阪高判平成15年5月25日判例時報1863号)ではないでしょうか。この判例が明確に「公正なる会計慣行は複数ありうる」と示したことから、ずいぶんと議論が進展しました。

さて、朝日WEBに掲載されている判決文、マスキング処理がほとんどなされず、原文のまま掲載しておられるようですので、読みやすそうです。今夜は早速、家に帰って判決全文をじっくり読ませていただきたいと思いますので、ブログの更新はお休みします。。。

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カレログの違法性についてひとことだけ。。。

2週間ほど前からfacebookのほうでは話題になっておりました「カレログ」でありますが、ついに総務省が個人情報保護の観点から検証することになったと報じられております(たとえば こちらのニュース)「カレログ」とありますが、彼氏が彼女の居場所を常に把握するためにアプリを彼女のスマホにインストールして、24時間監視する、ということも多いと思われます。

この話題は、またブログが荒れることが予想されますので(笑)、あまり深入りしないことにしますが、そもそも24時間、彼氏(彼女)の居場所を監視する、という行為についての包括的同意をとったとしても、それは他人のプライバシーを侵害する行為の違法性を阻却しないと考えます(つまり民法上の不法行為に該当する、ということ)。

週刊朝日WEBで、ネット関連法に詳しい牧野二郎弁護士が指摘していることにまったく同感でして、情報を入手されるたびに個別同意があってはじめてプライバシー権放棄に関する同意があるといえるのであり、そもそもカレログアプリをインストールする際の包括的同意は、プライバシー権侵害の違法性を阻却する「同意」ではないと考えられるからです。

もちろん「プライバシー権」や「個人情報の開示」に関する考え方によってはご異論があるとは思いますが、「そもそも事前の包括的な同意」がプライバシー権放棄の意思表示とはいえないのでは?といった疑問が生じてもよいでしょうし、彼女(彼氏)が訴えられた場合にどうなるか・・・、リーガルリスクはある程度考えておくべきではないかと。そもそも同意があったとしても、他人の基本的な人格権を全面的に侵害するような行為は公序良俗に反するものであるため、社会的相当性のある行為ではない・・・と行為無価値的な発想で不法行為を認定する裁判官もいらっしゃるかもしれません。そのことに触れているマスコミの報道がないのは、少し違和感を覚えました。

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2011年9月14日 (水)

会計不正の発見力と内部統制の有効性(構造計画研究所事例)

旧日債銀粉飾決算事件において、東京高検は上告を断念することを発表し、被告人3名の無罪が確定するそうであります。高裁判決についてはまだ判決全文に触れておりませんので、全文を読ませていただいたうえで感想を述べたいと思います。(金融・商事判例あたりに判決文が掲載されることを期待しております)

さて週刊「経営財務」の最新号(9月12日号)で知りましたが、ネットワーク・システム・ソリューションを業とする株式会社構造計画研究所さん(JDQ)が同社の元取締役による不正支出があった旨を8月30日にリリースされております。

リリースによると、同取締役は 「平成13年9月より本年3月までの10年間にわたり、合計49百万円の収入印紙を会社経費にて購入し、自ら保管するとともに随時、うち45百万円分を小分けにしながら金券ショップ等に持ち込み遊興費等に流用していた」 というもの。すでに同取締役は辞任され、実損害額も全額回収されたそうであります。回収した損害額の内41百万円は特別利益(受取損害賠償金)、残りの4百万円は販管費戻入れに計上するそうです。

ところで(経営財務さんも関心を持たれているようですが)本件において、同社では自社の内部統制システムを

「一般的な水準を充たしており、また、本件不正が内部通報によって発覚し、調査委員会の調査により不正の内容を解明して損害額を全額回収することができたことを考慮すれば不正に対するチェック機能は有効に機能している」

と評価しておられます 。いわば、不正発見のためのシステムが早期に機能したために、内部統制に重要な問題があったとは評価していないというものでして、(職務分掌、ローテーション、ダブルチェックシステム等の)作業確実実行力に不備があったとしても、不正早期発見力が機能してモニタリングシステムが代替装置としての役割を果たすことに着目したものと言えそうです。(ただし、迷える会計士さんからご指摘のありますとおり、10年間、不正が発見できなかった、ということであれば、「早期発見」といえるかどうかは疑問があります)

2011年4月18日のエントリ「㈱大水社の内部統制システムは進化したか(二度目の不適切取引の発覚)」におきまして、私は

大水社(大証二部)の二度目の不適切取引の発覚については、自社の内部監査部門が「異常な兆候」を自ら発見し、非定例の調査を進め、架空循環取引の事実を把握したことによるものであり、これは同社の「自浄能力」が機能したものであり、内部統制が進化したものと評価できる

と述べましたが、今回も会計不正による被害が大きくなる前に、自社の不正発見力によって異常な兆候が把握され、社内調査委員会によって役員の不正を突き止めたものとして、構造計画研究所さんの自浄能力が機能したものと評価してよいのではないかと思います。こういった「自浄能力」を考える場合、会計不正を早期に解決したがゆえに「公表まで必要かどうか」といった論点も出てくるわけですが、同社は本件不正の処理がすべて確定したことから対外公表に踏み切った、としてその必要性、公表時期についての検討もなされた様子であります。

会計不正事件が発覚するも、自浄能力が失われていないことを対外的に示して、その信用回復措置を講じる、というスタイルが、これからも増えてくるのではないでしょうか。

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2011年9月13日 (火)

監査役に期待されるITガバナンスの実践

Nazeokitaka今年3月に大規模なシステム障害を発生させてしまったみずほ銀行の事故をテーマにした「システム障害はなぜ二度起きたか」(日経コンピュータ編集 著 日経BP社 1500円税別)を読みました。情報システムの世界・・・といいますと、典型的な文系人間には、なにやらコンピュータ言語が羅列され、とてつもなく難しい世界であり、いわば本件も技術者でないとわからないような書物ではないかと考えておりましたが、専門用語はほとんど使用されておらず、情報システムの素人にも極めてわかりやすく事故の分析がなされております。

「二度起きたか」とありますので、一度目があるわけですが、これは三行が統合された直後の2002年4月の大規模なシステム障害です。そのときの日経コンピュータさんの事故分析の内容も掲載されており、こちらも「なぜシステム障害が発生したのか」、その原因を知るについては非常に興味深いところです。私の事務所の顧問SEさんは上場会社の情報システムを運営する立場にあり、普段の業務上のボヤキも聞いておりましたが、本書を読んで「なるほど、ボヤキたくなることもあるやろなぁ」と。

今年3月のシステム障害事故に関する特別調査委員会報告では、約30の原因を特定するわけですが、本書を読むと、技術的なミスの大半は経営判断上のミスに起因していることがわかります。たとえばみずほ銀行さんの「勘定系システム」はすでに23年も前のシステムをそのまま使っていたそうであります(なお、開発時のシステム部門の方々はすでに退職)。ただ、古いシステムをそのまま使い続けていること自体を問題視しているわけではなく、ほかの大手都市銀行のなかにも、そのまま古い型式のものを現在も使っているところがあるわけでして、ただ、その都市銀行さんとみずほさんとの違いは、その都市銀行さんの場合、どのようなミスが発生する可能性があるのか、きちんとリスク評価を行い、そのリスク対応をされていた一方において、みずほさんは明らかにしていなかった、ということです。また三菱東京UFJさんも、三井住友さんも、同様のシステム障害によって痛い目にあった経験があり、その経験から情報システムの抜本的改革に巨費を投じたにもかかわらず、みずほさんは過去の教訓を活かさなかったということにも触れられております。

そしてもう一点、内部監査や外部監査が機能していれば、みずほ銀行さんやみずほの情報サービス会社さんにおいて、「点検」や「テスト」が機能しなかった事態は回避できたのであり、ATMの全面停止の事態にまで至ることはなかったのではないかと指摘されているところであります。「いずれも、直接的な原因はシステム部門にあるものが多い。だが、その背景にある根本的な原因を見失ってはいけない。根本的な原因とは、みずほ銀行とみずほフィナンシャルグループの経営陣のIT軽視、およびITへの理解不足である」(同書43ページ)という本書の主張が、この本で書かれているすべてを表現しているところであります。

ところで8月30日に、日本監査役協会のHPにおいて「ITガバナンス報告書 監査役に期待されるITガバナンスの実践」なる報告書が公表されました。会社法上の内部統制、金商法上の内部統制報告制度に分けて、いかに監査役がITガバナンスを実践すべきか、具体的なQ&A形式で解説されており、必読だと思います。法律家と会計士が、そして監査役と内部監査部門が「内部統制」を語り合っても、なかなかわかり合えない。これは当然のことであり、そもそも語る「内部統制」の歴史も違えば、語られる背景も違うわけでして、私自身、これに気づくのに5年ほどかかってしまいました(笑 しかしこの「気づき」は非常に重要でして、なぜ最近「会計倫理」が学問上でも実務上でも重要視されてきたのか・・・ということにも関連するところであります)。ようやく、内部統制を見るべき視点が監査役と会計監査人が異なる・・・ということが平成23年改定の監査役監査基準で明らかになったわけで、いわばこのITガバナンスへの監査役の視点も、その延長線上で語られるものであり、非常にタイムリーではないかと考えております。

たとえばメルシャンの事件も、アイ・エックス・アイ事件も、その架空循環取引が長年発見できなかった要因のひとつとして、内部監査部長と監査役が同じ目線で「内規違反」の事実を見ていた点が挙げられます。決算財務プロセスと業務プロセスの異常、そして統制環境の異変にそれぞれ気づきながら、その情報を共有できなかったところに大きな問題があったわけで、たとえばITシステム障害の原因が現場の責任と経営者の無関心にあるならば、やはり監査役にもITリテラシーをもって取り組むべき視点があると思います。たとえば優秀なシステム技術者がいたとしても、その技術者が転職してしまったらどうなるのか、長年基幹システムを使い続けて、開発者や運営責任者が退職してしまったら引き継ぎはどうなるのか、リスクは十分に想定されているのか、想定されるリスクが現実化したときのマニュアルは存在するのか(実際、みずほさんの場合、存在しなかったそうであります)等、とくに情報システムについては高い知識がなくても、情報システム担当者が社内で気持ち良く仕事ができる体制を整えるための具体的な検証はできるはずであります。

これまであまり監査役協会さんのほうでは、IT統制に関する解説書というものは見当たらなかったように思いますが、これを読むと「食わず嫌い」が少しは治癒されるようですし、またなによりも、大規模なシステム障害に陥る前に、社内で早期発見、早期対応を可能とすることへの監査役の寄与というものを感じることができるものと思われます。

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2011年9月12日 (月)

主任航空管制官の守秘義務違反疑惑事件(その2)

本件につきましては、土曜日のエントリーにて「この航空管制官の情報漏えいには何か特別な意図があったのではないか?」と書きましたが、週末のマスコミの続報などを読んでおりますと、JFKさんやkawakawaさんがおっしゃるとおり、当該管制官には特別な目的とかはなく、もっと属人的な「どこにでもある」理由で画像をアップしてしまったような気配であります。当該管制官は2001年ころにブログを開設し、「知人に知ってもらいたかった」との理由から管制塔内の写真画像をアップしてしまったようで、しかもこの9月5日になって、ブログを閲覧した人からの匿名通知によって発覚したとのこと。私の推測に反し、単純に「面白半分」で機密情報を画像としてアップした可能性が高いようであります。

どこにでもあるようなリスク意識に乏しい社員の失態・・・ということで一笑に付すことができればよいのですが、これほど重大な国家間の問題に発展していることからしますと、なぜ組織内でもっと早く問題にならなかったのでしょうか。当該管制官の方は、管制室では個人のデジカメを持参して人物や風景なども撮影しているわけですから、ほかの職場の方々も「情報漏えいの可能性のある行為」程度は問題意識をもっていたのではないでしょうか(個人のデジカメを持参すること自体、禁じられているはずであります)。30年以上、同一の職場に勤務しており、管制業務のスキルも高かった、ということで、他の職員の方々も、面と向かって物が言えないような雰囲気だったのでしょうか。

しかし、そんな雰囲気だったとしても、省内(組織内)の内部通報制度を活用して、こういった行為がなされている、ということが省内の窓口に届くことはなかったのでしょうか。kawakawaさんも指摘しておられますが、この7月には別の管制官の方が、同じくブログにて社内事情を公表し、省内でもブログによる情報漏えいリスクが告知されていたところですから、第三者から匿名の告発がなされる前に、組織内で通報があってもおかしくないのではと。当該管制官の方は、この7月の時点ではすでに画像投稿を終えていたそうですが、管制室内での写真撮影だけでも、やはり部署内では問題意識は生じ得たように思うのでありますが。。。この9月まで、なんら社内で問題意識を持つ方が登場されなかった、というのは、組織としてかなり問題があったのでは・・・との疑問を禁じ得ません。社内ルールがあったとしても、これを「形骸化したもの」としか認識できないような組織の体質があったのではないでしょうか。

情報漏えいに関する組織のリスク感覚が問われている事例のように思えますし、正直申し上げて、もし皆様がおっしゃるとおり「リスク感覚に乏しい、どこにでも一人くらいは存在する人」の存在をゼロにすることが困難だとすれば、どこの会社においても、同様の事態に直面する可能性はあるわけです。民間企業としては、今回の国交省の対応として、単に当該管制官に対する懲戒処分の可否を検討するだけでなく、(確実にまた発生するであろう)情報漏えいのリスクを、どのようにして低減させていくのか、検討される具体的手法こそ知りたいところであります。

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2011年9月11日 (日)

当ブログのコメントにつきまして(お願いとおことわり)

いつも当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。さて、当ブログのコメントにつきましては、たいへん有益なご意見も多く、また私の個人的な見解に対する反論などもたくさん寄せられ、意見集約的にはバランスの良いものになっているものと認識しております。

ただ、最近になりまして、第三者に対する誹謗中傷、他人になりすましての投稿、関係者が閲覧すれば特定企業を指すものとわかる社内事情等、そのまま掲載することができないと思われるものが目立ち、管理人としてもたいへん苦慮しております。

とりわけ(コメントが荒れることを予想していたために、本年度はエントリーしていませんが)司法試験、法曹養成制度改革に関する話題、(2週間ほど前にアップした)反社会的勢力への企業対応に関する話題において、きわめて不誠実と思われる投稿が目立ち、管理人が仕事の合間にコメントを編集できる範囲を越えてまいりました。

現在もコメントの公開は承認制にさせていただいておりますが、このままですと一時的にコメント欄を閉鎖することも検討せざるをえません。とりあえず現在のところ、未承認のまま皆様がたからのコメントの多くが公表されていないことを申し上げるとともに、現状をご理解いただきたくお願い申し上げます。

弁護士 山 口 利 昭

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2011年9月10日 (土)

主任航空管制官の守秘義務違反疑惑事件(何があったの?)

米国大統領機の飛行計画だけでなく、米国空軍「グローバルホーク」の飛行計画までブログに公開してしまった(疑いのある)羽田空港の50代の航空管制官の事件は本当に驚いてしまいました。最初はたまたま管制塔の中をデジカメで撮影したところ「写っちゃった」のかと思いましたが、時事通信社のニュースで「ブログで公開された画像」を知り、これはハッキリと何らかの意図があって重要な機密情報を公開したものであることを認識しました。

ほとんど転勤することもなく、30年間羽田で勤務しておられたとのこと、職場の同僚も「交通量が多い羽田において、彼のスキルは高かった」と述べておられるようで、仕事の面でとくに問題があったようにも思えません。明らかに守秘義務違反を承知の上で、ブログを通じて何らかのメッセージを送ったというのであれば(個人としての覚悟のうえでのことでしょうから)わかりますが、もし「こんなに大きな問題になるとは思わなかった」的な行動だったとすれば、「情報漏えい問題」として、どこの組織でも起こりうる問題と捉えられますので、おそろしい話であります。それも50代・・・ということは、本当に重要な機密情報にアクセスできる人たちなので、なおさらであります。

私自身も守秘義務を抱えながらブログを書く者として、この事件は見過ごすことのできないものでして、「読み手」を意識するにつれ、次第に「もっとおもしろいものを公開したい」「もっと刺激的なほうがウケるかもしれない」という欲望との葛藤の中でエントリーボタンを押すわけで、この50代の管制官もそういった欲望に歯止めがかからなくなってしまったのでしょうか。フェイスブックでも、自分が思ったほど「いいね!」が付かないと、なんだか疎外感ばかりが高まり、尾ひれ背びれを付けておもしろい話を作り上げてしまう・・・ということもよく聞くところですが、そういった延長線上の事件だったのでしょうかね?ただ、画像をみるかぎり、一般の人が「これは機密情報だ」とはわからないものですから、私が考えていることは、なんか後付けの「ありきたり」な理由のようにも思いますし、もっと深いところの理由があったのかもしれず、今後報じられるところを待ちたいと思います。

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オリンパス配転無効事件-最高裁へ-

先日、ご紹介したオリンパス配転無効確認等請求事件の控訴審判決ですが、エントリーで予想しましたとおり、やはりオリンパス社側は上告をしたそうであります(読売新聞ニュースはこちら)。「当社の見解と控訴審判決では大きな隔たりがある」(広報室)とのこと。

内部通報の運用に関わる論点が、最高裁でどのように判断されるのか(ひょっとして判断されない可能性もありますが)、非常に興味のあるところで、今後の上告受理、上告申立事件の手続きについて注目しておきたいと思います。

ちなみに朝日「法と経済のジャーナル」で知りましたが、消費者庁が内部告発の実態調査に乗り出すそうです。今年3月、公益通報者保護法の改正が見送られましたので、ぜひ立法事実の解明につながるような調査を期待いたします。

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2011年9月 9日 (金)

九電の内部統制VS第三者委員会(中間報告書の公表)

9月8日に九電さんのHPで公開されました「九州電力第三者委員会中間報告書」及び「第三者委員会中間報告書に関する当社見解について」、いずれも拝見しました。第三者委員会の調査報告書というものは、会社側が事実解明を委託するものでありますので、本来ならばそこで調査判明した事実については会社側が完全に依拠するのが通常であります。しかし、社内調査の確認作業が主な目的とはいえ、今回の九電やらせメールについては、第三者委員会(正確には委員会が事実調査を委託した弁護士チーム)が認定した重要事実について、「それはあくまでも第三者委員会の判断であって、会社としては違うと思います」と真っ向から反論するという事態になっており、非常に珍しいケースであります。早速、第三者委員会委員長は、九電側に抗議の記者会見をされたようです(西日本新聞ニュースはこちら)。

九電側が真っ向から反論しているのは、「九電が悪い」ということを基礎付ける事実ではなく、県知事の要請がやらせメールの発端となった、という事実に関する部分であります。この調査を担当しておられるのは、あのメルシャン架空循環取引事件でメルシャンの第三者委員会委員長を務めておられた方を中心とする12名の弁護士チームであり、あのメルシャン事件の報告書を読んだ者からすれば、九電メール事件の事実解明についても強い期待が寄せられるところです。なお、本件では別チームが、過去の説明会においても「仕込み質問」が動員要請があったかどうかを調査しており、よく考えますと、これらの事実解明も、最終認定には大きな影響を及ぼすものと思われます。

県知事の発言に関する認定は、同報告書5頁に委員会としての中間意見が掲載されており、「発言当時のF知事の意図あるいは真意は措くとして、同知事が懇談の場で同メモ(注-九電佐賀支店長が作成したメモ)の記載と同様ないしは同趣旨の発言を行ったことは否定し難いものと思われる」として、やらせメールを投稿するよう、県知事が発言した可能性が高いとの心証を抱いていることがうかがわれます。ただ、この報告書で認定された事実関係をもとに判断すれば、九電さんの経営トップの方々が、懇談の結果、積極的に「やらせメール」の依頼に動いた様子は判明するとしても、それは経営トップの方々のイニシアチブに基づく可能性もあり、県知事が懇談の場で具体的な依頼をしたことまでは明確にはなっていないと思われます。したがって県知事がこれまで「発言の趣旨が違う」として釈明している内容を切り崩すには少し足りず、同報告書の後半に記載されているように、さらなるメール投稿依頼時の経緯、そして第三者委員会設置以降に関係書類が廃棄され(もしくは廃棄されかけていた)事実関係を調査する必要があると思われます。

マスコミ各社は「県知事の要請がやらせメールの発端になった」と報じていますが、県知事側も、「もっと賛成派の意見が積極的に出てもいいのではないか、経済団体などに広く告知してもよいのでは」と述べたことは認めているのですから、どっちの主張を前提としても「発端」になっていることは当然のことであります。したがって、知事の発言が「発端になった」からといって、それだけではとくに県知事の責任を問えるものではありません。たしかに、6月26日の原発再開説明会に先立つ5月17日の保安院説明会でも、県知事の要請があったかのような事実が紹介されておりますが、これもおそらく伝聞証拠であり、とくに証拠価値が高いようにも思われません。このあたりは、九電側から「当社の見解」が出てくることにも、なんとなく理解できます。県知事の責任を問えるのは、具体的に「やらせメール」を県知事が要請したこと、つまり佐賀支店長の作成したメモが、正確に知事の発言を反映したものであることが証拠から明確にならなければなりません。

唯一ハッとさせられたのが、D管理部長のヒアリング結果であり、経営トップからの要請内容、県知事の発言内容を含め、いろいろと供述しているのではないか・・・と期待したのでありますが、さすがに九電側も、この報告書原案を見てからだとは思いますが、このD管理部長にヒアリングへの回答の趣旨を再確認し、その結果を「当社の見解」において公表しております(ただ、上司が部下である管理部長に発言の真意を問うたとしても、その回答に信用性は乏しいものと思われますが・・・)。

私は前のエントリーにて、いくつかの理由を掲げて「具体的な意見投稿を要請する県知事の発言があった」と考えている、と書きましたが、なんといっても九電側に分が悪いのは「書類の廃棄」です。この件について「当社の見解」でも、ほとんど反論ができておりません。「外部の人に迷惑がかかるから」ということは、会社側が考えるのではなく、第三者委員会が「公表の可否」をもって判断することでして、到底理解できる理由ではありません。むしろ、外部の誰かにも責任があることを自認するかのような主張ではないかと。第三者委員会が「行政の要請」に疑いの目を持っていることが判明した後の「書類の廃棄」というのは、ほとんど目も当てられないほどの失態であり、最終的には第三者委員会の認定事実の信用性を高めることになるのではないでしょうか(なお、証拠を廃棄した者に対して、九電側が素早く社内処分を下したことが報じられておりましたが、その後、この役員にはヒアリングが可能だったのでしょうか?)。

九電さんが、非常に大きな組織でありますので、私は一枚岩ではないと考えております。そこが第三者委員会のつきどころであり、これまで127名ほどの社員等からヒアリングをされたそうですが、そのなかには、第三者委員会に有利な発言をされる方もいらっしゃるのではないかと。仮に、そういった狙いをもってヒアリングをしようとしても、九電さんのほうが一枚岩となって、頑なにその主張に矛盾する証言が聞き出せないとすれば、それはそれで、九電さんの全社的な「火事場の馬鹿力」はものすごいものと思います。社内が一丸となって、ひとつの経営目的に向かってまい進できる、というのは、内部統制という面からみても、相当に強い組織ではないかと。

普通は、企業体質に切り込んだ第三者委員会報告というのは、企業側から一番嫌われるところであるにもかかわらず、九電さんは「本件は九電の企業体質によるものであって、第三者に責任はない」と自ら主張しておられます(これも珍しい・・・)。それほどまでに、九電さんにとって、県知事に迷惑をかけることが屈辱的ということなのでしょうか。「他社をかばうコンプライアンス経営」は意外と根が深いものだと痛感いたしました。

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2011年9月 8日 (木)

9月16日のセミナー二題(東京と大阪)のご紹介

本日手元に届きました旬刊商事法務最新号(9月5日号)の「スクランブル」にもありましたが、現在、金融審議会のインサイダー取引規制に関するワーキンググループにおいて、規制見直しに関する議論が進んでおります。スクランブル筆者のご意見(公法的規制に私法的規制の予期した効用が損なわれることへの疑問)にまったく同感であり、私自身もバブル期に作られたインサイダー規制を再度検証する必要があるのではないか・・・とも考えるところであります。しかし立法論はさておき、現実の社会では相変わらず、インサイダーリスクに関する話題は尽きないところでありまして、来る9月16日には、東証COMLECさん主催によるコンプライアンスフォーラムが大阪で開催され、今年はインサイダー規制に関する研修が中心となるそうであります。

東証さんのフォーラムに関するお知らせはこちらです。

先日、私がモデレータを務めさせていただいた大証主催のセミナーではパネラーとして参加されていた原弁護士(北浜法律事務所・外国法共同事業、元大阪証券取引所の社内弁護士)が、今回はモデレータとして仕切り役を務められるそうで(どうか頑張ってください)。講演、シンポとも、非常に興味をそそられるものであります。

そしてもうひとつ、旬刊商事法務関連でご紹介いたしますと、この9月5日号から1か月(3号)にわたって「取締役会の監督機能の強化(上・中・下)」を出稿されました大杉謙一教授(中央大学法科大学院)がモデレータを務められますBDTI(公益法人会社役員育成機構)主催のセミナーも、同じく9月16日、赤坂のトムソンロイターにおいて開催されます。今回の大杉先生の論文ともつながりが深いテーマでありますが「会社法の改正~いかにして企業ガバナンスを向上させるか~」というもの。

協賛のウエストロー・ジャパンさんの広報はこちらです。

むむ!?野村教授、河西氏、田中教授、藤縄先生、とこちらも豪華な顔ぶれであり、法制審議会委員の方々、経産省の企業価値研究会、企業統治研究会のメンバーなどズラリ。(このメンバーでこの参加費用はかなり安いでんなぁ(^^;  )。会社法制部会も、そろそろ一般からの意見募集の時期に差し掛かっているのではないか・・・とも思われますし、会社法改正の骨格が見え始めてくる時期ではないかと。以下は引用ですが、

具体的には、社外(独立)取締役の義務付けの是非、監査・監督委員会、内部統制システムの整備の仕方とその監査機関との連携のあり方などを題材として、日本経済を活性化するにはどのような法改正が必要なのか、上場企業は投資家とどのように向きあうのか、そもそも会社法の改正で企業の収益性は向上するのか、上場規則の改正では不十分なのか、などを活発に討論していただく予定です。これらの問題にご関心のある方のご来場をお待ちしています。

とのこと。(うーーん、参加したい。。。)おそらく人気のセミナーだとは思うのですが、ご紹介してもよい、とのことで当ブログでも広報させていただきました。

どちらも興味ある内容でして、また関係者の方々からご招待いただいたのでありますが、実は私自身も、当日は某金融機関において講演をさせていただく予定になっておりまして、参加できませんでした(。。;)当ブログをごひいきにしていただいている方であれば、かなり関心をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんので、ぜひ東京でも大阪でも結構ですので、また参加してみてはいかがでしょうか。また、こそっと当日の様子など、メールでもご報告いただけますと幸いでございます。<m(__)m>

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2011年9月 6日 (火)

真相が第三者にも判明し始めたゲオ社の社内事情

10月13日に臨時株主総会が開催されるゲオ社(東証・名証1部)の社内紛争事案でありますが、またまた続報が出ております。毎日新聞ニュースによりますと、今度はゲオ社の取引先であるIT関連会社が、ゲオ社の取締役に対して2億5000万円の損害賠償請求訴訟を提起した、とのこと。「取締役の妄言によって自社の経営が悪化した」とされております。

今回の報道で興味深いのは、大手の新聞社によって、株主サイド、経営者サイド、どっちの取材を中心に据えるかによって事実報道におけるニュアンスに違いが生じていることであります。このようなゲオ社にとって大切な時期に、あまり断定的に申し上げますと、私が名誉毀損、信用毀損で訴えられるおそれがありますので差し控えますが、紛糾する原因となった事実が少しずつではありますが、垣間見えてきているような気がいたします。監査法人や監査役会も巻き込んだ、まさに全社あげての有事に至ったもので、たいへん珍しいケースではないでしょうか。ただ、ここまで騒動になることは珍しくても、その騒動の発端となった原因行為については、どこの上場会社でも起こりうるようなことではないか・・・・と。

まだまだ10月13日までは続報がありそうな予感がいたします。

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会計界のAKB48からの熱いメッセージ

0005 朝から日本内部統制研究学会年次大会に行ってきました。今年は平松一夫教授が実行委員長をされ、関西学院大学にて開催されました。今年は統一論題を「大震災後の内部統制環境の変革と展望」としておりますので、財務報告に係る内部統制だけでなく、もっと広い(たとえばリスク管理、BCP、クラウドによる事業継続性確保等)内部統制を考えるシンポとなりました。本日学んだことは、今後の実務に役立てていきたいと思っております。

さて、昼食後、青学の八田先生と中庭を歩いていたとき、

「山口さん、今度いい本が出るんですよ。我々会計専門家集団が震災復興特別出版として『会計専門家からのメッセージ』を出します。被災地域の復興に向けて、会計・監査の専門家が何ができるか、被災地を元気にするために出版するんです」

メインタイトルが「会計専門家からのメッセージ」、そしてサブタイトルとして「大震災からの復興と発展に向けて」とあります。(同文館出版 1,890円税込)

ずらり並べられた著名な会計専門家のお名前。おお、これは豪華!スゴイ!

「ねえ?すごいでしょ。」

帯をみると「緊急出版!ニッポンに元気を!」とあります。しかし、もっとすごいのは「48人による会計専門家集団(Accounting  Knowledge  Board)、いわば会計界のAKB48が、元気な日本への復活に向け、叡智を結集する!」とのこと。

「山口さん、なかなかいいコピーでしょ?出版記念シンポを東北大学でやろうと思ってるんですよ。やっぱり東北が元気にならなくっちゃ!ね?山口先生!」

(^◇^;)・・・・・・・・。

なるほど、会計界のAKB48か。。。。。うまいキャッチコピーやなあ。。。しかしホンマに偶然48人だったのでしょうか(笑)

最近では「カレログ」を知ったときの衝撃に次ぐ驚きでありました。

売上の一部が義捐金として寄付されるそうでして、9月12日ころ発売とのこと。内容はなかなか興味をそそるテーマなので、私ももちろん拝読させていただきます。

ニッポン、東北を元気にする心意気には熱いものを感じるのでありますが、会計専門家の皆様がまずは前を向いて元気になっていただければ、と(^^; Gimmyさん、再任されましたよね??(^^;(ちなみに、来年の年次大会は日大で開催される予定とのこと)

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2011年9月 5日 (月)

企業側からみた「オリンパス配転命令事件」控訴審判決の重み

朝日「法と経済のジャーナル」は、以前から内部通報・内部告発事例への関心が高いところでありましたので、少しばかり期待をしておりましたが、予想どおり(ありがたいことに)週末に8月31日のオリンパス配転命令(無効確認)等請求事件(東京高裁第23民事部)の判決全文が掲載されました。ただし有料会員でないと判決全文の閲覧はできないようです。

早速、判決全文に目を通しました。いろいろな視点からアプローチ可能ですが、企業の内部統制システムの構築、つまり企業側からみたオリンパス事件という視点からの感想を若干述べておきたいと思います。なお、博多ぽんこつラーメンさんからご質問がありましたが、(単なる推測ですが)オリンパス社としては最高裁へ上告受理申し立てを行う可能性はあると思っております。

本判決も、原審(東京地裁判決)と同様、「本件配転命令は、東亜ペイント事件(最高裁判所昭和61年7月14日判決)にのっとり、業務上の必要性に比して、労働者の不利益が不釣合いに大きい場合には権利の濫用となり、また、業務上の必要性があっても、不当な動機目的によってなされた場合には同様に権利の濫用となる」という判断基準を軸として控訴人であるH氏への配転命令の効力を検討している点においては同様であります。

しかし本判決は、H氏の内部通報が公益通報者保護法の通報対象事実に該当するか否かという点ではなく、社内のヘルプライン(内部通報規則)によって保護されるものかどうかに焦点を当てているところに特徴があり、これが人事権濫用論に大きな影響を与えています(法律家向けのお話だと、ここで就業規則34条の「正当理由」(配転命令権の濫用)の立証責任問題と評価根拠事実、評価障害事実(規範的要件)の整理として説明するほうがわかりやすいと思いますが、ここではそのようなことは申し上げないこととします)。

誤解をおそれずにわかりやすく説明すれば、H氏による適切な内部通報があったとすると、そもそもH氏を「いい加減なことを申告してきやがった、おかしなやつ」として処遇することはできないのであり、配転の必要性も配転の目的の不当性も厳格に審査されることになります。適正な通報であれば、社内的にはヘルプライン手続きに則って処理されねばならないにもかかわらず、オリンパス社の通報窓口担当者が守秘義務違反を犯し、人事権を掌握する被控訴人が通報を認識するに至ったのであります。このことは配転命令を「権利濫用」と認定するうえでとても重要な事実認定となります。

結局のところ、先の昭和61年最高裁判決の判断基準からすれば、配転命令に正当理由がないケースというのは、きわめて限定的な場面しか想定されていないにもかかわらず(つまり、企業側にとって配転命令の裁量権は広く、簡単に司法判断によって「おかしい」とは言われないにもかかわらず)、内部通報制度を活用したH氏に対する処遇は「業務の必要性や配転の目的も、企業側の主張はまったく不合理とまでは言えないけれども、相当程度疑問が残る」ということで「権利濫用」が認められています。

つまり、ヘルプラインという社内ルールで「内部通報社員には、不利益な取扱をしてはならない」と規定されていることは、裏を返せば企業もしくは通報者の上司は、内部通報者に対して不利益な取り扱いのおそれがある、ということです。だからこそ、通報直後の配転、これまでと全く異なる部署への配属、社内における勤続評価と配転後の評価の差といった事実認定が、「不利益取扱であることを推認させる」ことになり、会社側からの配転先の業務の必要性、配転の目的の合理性といった「企業側のお決まりの主張」では排斥しきれないことになります。普通であれば、会社側の上記のような一般的な主張を排斥できるだけの証拠を社員側が持っていませんので、「正当理由」が認定されることは稀なのですが、ヘルプラインに従って内部通報をした、という「事実」が社員と会社を(訴訟上で)五分五分の関係まで押し上げているという感覚ではないでしょうか。解雇権濫用事例でもそうですが、裁判所は労働契約の効力を判断するについて、就業規則にどう書かれているか…という点を非常に重視しますので、ヘルプラインという社内ルールが存在する以上、そのルールの解釈もまた非常に重視する、ということだと思われます。

さて、そこでオリンパス社のヘルプラインに則ったH氏の内部通報の「適正性」でありますが、ここがたいへん重要でして、本判決は非常に広く、その適正性を認定しています。もちろんオリンパス社のヘルプライン運用規程の解釈としてでありますが、法令違反だけでなく、企業行動規範に反するもの、企業倫理違反、またそれらの「おそれのある行為」に関する通報は適正なものとしています。さらに、通報だけでなく、「相談事例」であっても適正なものとして受理されねばならない、とのこと。つまり、こういった通報は通報者に対する守秘義務に留意して処理しなければならず、この処理を誤ると「通報があったことを人事権者が知った」と認定され、これがダイレクトに「不利益取扱の推認」へと結びつくことになります(通報があったことを人事権者が知らなければ、そもそも報復や制裁と推認されることはありません)。このように広く「内部通報は適正である」と判断されると、本判決のように、従業員と会社は武器対等の状況となりますので、けっして妥協を許さない従業員及び妥協を許さない代理人弁護士が相手方となりますと、企業の社会的信用、社会的評価を大きく毀損するような事態になってしまうリスクが高まる・・・・というのが実際のところではないでしょうか。

なお、これは私が内部通報窓口業務を行っていることからの私見にすぎませんが、たとえH氏が「取引先から社員が引っこ抜かれて、自分の地位が危うくなるから、ライバルが来るのを妨害する意図があった」ことによって、通報してきたとしても、実際に通報事実がヘルプラインの対象になっている以上はこれを「不適切な通報」とは認定できないと考えております。そもそも通報者の意識は、まったくの私心を捨てて行われることは予想されていないのであり、私心と正義感が併存している状況も十分に考えられるのでありまして、そのあたりで会社側が反論をしても裁判所はあまり重視しないものと考えられるからであります。

もうひとつ、これは判決全文を読んで印象に残ったことでありますが、配転後の通報者への処遇がパワハラとして認定されている点であります。怒鳴ったり、嫌がらせをする、といった行動がパワハラに認定される事件はすでにたくさん判例もございますが、本判決では①自主的に退社したくなるような不当な仕事を与える、②これまでの勤務評価に比較して著しく不当な勤務評価を行うこと自体をパワハラと認定しており、また非常に精緻な事実認定によってこれを根拠付けています。このあたりは、別件でも非常に参考となるところでして、またパワハラに関連するエントリーのなかで取り上げてみたいと思います。

繰り返しになりますが、ここまで述べたところは、会社の信用毀損の事態を防止する、つまり企業側からみた内部通報事例への対応を中心に説明いたしましたので、本判決に対する本格的な研究は、また著名な学者、実務家の方々のご解説をお読みください。ただ、就業規則やヘルプラインの見直し、また運用上の留意点のチェックなどが重要かと思われます。いずれにしましても、本判決は相当に原審判決を意識しながら理論構成しているところがみられますので、機会がありましたら、東京地裁判決の全文と比較しながらお読みになることをお勧めいたします。

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2011年9月 4日 (日)

不明朗な取引解明となるか?-ゲオ社の監査役会始動-

なぜここまで私の琴線に触れる事態が次々と発生するのか、とても興味の尽きないゲオ社の社内事情でありますが、9月3日の中日新聞によりますと、ゲオ社の監査役会が、同社における不明朗な取引実態について、外部の専門家等に依頼をして調査委員会を立ち上げ、来る10月の臨時株主総会において調査結果を報告する予定だそうであります(中日新聞ニュースはこちら)。まさに今年新設されました日本監査役協会の改訂監査役監査基準第24条が適用されるような典型的事案であります。

常勤監査役1名に弁護士を含む社外監査役3名という監査役会の構成も、こういった監査役会の決断を容易にしたものかもしれません。監査役監査基準24条によると、(社内に不正の疑いがある場合)監査役会としては第三者委員会を立ち上げるよう、執行部に勧告するか、もしくは自ら弁護士等に依頼をして第三者委員会を立ち上げるべし、とありますので、おそらくガバナンスに問題がある(経営執行部に不正関与の疑いがある)と思料される本件では後者を選択したのではないでしょうか。ただ、その場合でも、不祥事の防止や早期発見、損害拡大防止のため、監査役はできる限り第三者委員会の委員に就任したり、委員に監査役への報告を求める等、その委員会の活動には関与すべし、となっておりますので、委員会発足後の監査役の行動にも関心がございます。経営執行部からも、また説明責任を果たすべき(監査基準18条)大株主からも独立した立場において、当監査役会が本気で機能するのか・・・・、ということが有事に直面した企業のガバナンス上重要だからであります。

現経営陣と創業家大株主との間で、いったいどのような問題が生じているのか(上の中日新聞のニュースでは、少しだけ垣間見えるようにも思いますが・・・・)、またどちらに正義があるのか、おそらく10月13日の臨時株主総会にて相当程度明らかになるのではないかと思われます。しかし大株主提案による社外取締役5名選任議案(定款上は取締役は12名まで。現在は社内取締役のみ7名)の行方が注目されるなか、ガバナンスの一翼を担う監査役会が本格的に始動したことは、会社法的視点からもまたまた興味が出てまいりました。監査役の皆様には、大株主のためだけでなく、一般株主のために説明責任を果たしていただきたいと思っております。ゲオ社の件は、おそらくまた続編が出るものと思いますので、とりいそぎ備忘録ということで。

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