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2011年9月22日 (木)

大王製紙会長辞任のナゾ(ガバナンス上の問題というけれど・・・)

あらかじめ申し上げておきますが、私は大王製紙社関係者のどなたかの肩を持つもの、もしくは非難をするものではなく、上場企業のコーポレートガバナンス研究に関心のある者として、本件を取り上げるにすぎないものであることをお断りしておきます(そこまで前置きしなければならないほどのエントリーでもないかもしれませんが・・・・・笑)。

一昨日は7%も株価が下落した大王製紙さんでしたが、大王製紙社(東証1部)の創業家(元)会長さんの「消えた84億円」「エリエールより軽い1万円札」に関する週刊文春記事を読みました。そして、本日週刊誌が発売されるのと同時に、大王製紙社から「特別調査委員会設置のお知らせ」がリリースされました。リリースによりますと、これまでに判明した事実として、23年3月末時点で、連結子会社2社から元会長に対する貸付金(短期)の残高は24億円だったそうであります。その後、23年4月~9月までに60億円が新たに貸し付けられ、一部返済がなされた後、現在残高は55億円とのこと。また、特別調査委員会のメンバーから一部疑義が出て、社内の執行役員の代わりに、独立性の高い委員が選任されたようです(毎日新聞ニュースより)。

文春の記事では、元会長さんの交遊関係やカジノ好きに関する話題が中心ですが、たしかに派手な生活がお好きだったとしても、本当に一個人が短期間に84億円ものお金を「遊興費」につぎ込めるのでしょうか?私の「あまりにも庶民的な感覚」からしますと、いくらなんでも半年やそこらの間に50億も60億もの大金を遊興として使い果たせるものではないと思うのでありますが。。。私も4年前にマカオのSunsで(ごくごく僅かなお小遣いで)遊びましたが、そこから察するに「ド派手な遊び」とはいえ、そこそこ遊ぶのには時間がかかると思いますので、株取引で大損するのとはわけが違うように思います。たとえカジノの「VIPルーム」の常連さんだとしても、使えるお金には限度があるはずです(現に、この文春の記事を真実だとしても、カジノのために社内から流出した金額は20億円ということです)。今後84億円のグループ会社資金の使途が特別調査委員会の調査によって判明するのであれば、遊興費のほかに、何か特別の目的で使われた可能性が高いのではないか・・・と推測するのでありますが、いかがなものでしょうか。この点、9月7日に社長宛に内部通報があったとのことですが、この通報者に果たして調査委員会のメンバーが接触できるのかどうか、興味深いところです。

ところで、

「どうしてこんな大金が代表者個人に流れていたにもかかわらず、内部通報がなされるまで他の役員は見抜けなかったのか、それとも(うすうす他の役員も知ってはいたが)創業家社長(会長)に対して誰も物が言えなかったのではなかったのか」

との疑問が、自然と湧くところであります。いわゆる「ガバナンス上の問題」と言われるところです。

大王製紙の役員さんや監査人の方を擁護するわけではありませんが、50以上もある連結子会社の資金の流れを、親会社の役員がすべて把握していることは現実問題として困難なので、そんな簡単に子会社から元会長への資金流出を問題視することはできなかったのではないでしょうか。親会社の取締役が、子会社における不正(もしくはルール違反)にどこまで目を光らせることができるかといいますと、これはかなり難しいのではないかと。また、「創業家に物が言えない」としても、少なくとも3名の非常勤社外監査役の方々の耳に入っていたとすると、「この短期貸付金とは何ですか、会長?」と問いただされることは間違いないのでは(・・・と信じたいです。。。自己契約について、きちんと子会社の手続がなされているかどうかは、確認しないと自己の善管注意義務違反にもつながりますよね。)つまり、当初の記者発表にあるとおり、本当に親会社の取締役、監査役らにとって、この事実は「寝耳に水」であって、9月に調査をしたうえで、初めて知った可能性もあるのではないか、と思うところであります。

しかしながら、先日のエントリーへ何名かの方がコメントされていたように、23年3月末の時点で(少なくとも)23億5000万円が関連会社から元会長個人に「短期貸付金」として資金が流れていることは会社自身も(本年6月末の時点で)有価証券報告書で公表しております。ということは、開示業務の担当者はこの事実を認識していることになりますし、「そこまで読んでいなかった」という理由があるかもしれませんが、決算役員会では、この報告書(案)が、全ての取締役、監査役が事前に配布されていますので、やはり「知らなかった」では通らないような気もいたします。(この連結子会社が「重要な拠点」であるならば、監査法人さんも注目していたはずであります。)

ここでひとつ気になるのが、この6月の株主総会での役員改選の結果です。大王製紙社には、総会前は18名の取締役さんがいらっしゃったのですが、総会後は14名となり、それまで取締役だった方のうち7名が総会時に退任されています(つまり、3名は新任の取締役がいらっしゃいます)。退任された役員のなかには、人事担当の副社長さんだった方もおられます。また残った11名のなかでも、降格となった方が4名おられます。つまり、総会前の取締役18名のうち、退任・降格となった方が11名ということですから、かなり大きな組織力学が働いた結果ではないかと推認されます。23年3月期は業績が悪化したことも原因かもしれませんが、組織内部での人間関係の軋みのようなものがあったのでは、そして内部通報は、この「軋み」と無関係ではないのでは・・・と考えるのは邪推でしょうか?

こういった難しい事件の特別調査委員会の委員に就任される方々は心労が重なるだろうなあと思います。刑事責任追及の根拠になるかもしれず、かといって創業家一族に甘い結論となると、今度は現取締役・監査役の「見逃し責任」追及の根拠となってしまうかもしれず、はたまた「とんでもない使途」が発覚してしまうかもしれず、灰色認定で「シロ」を「クロ」と認定してよいかどうかもわからず、そしてなんといっても、疑惑の創業家元会長さん、内部通報者へのヒアリングができるかどうかもわからず・・・・・・・ストレスが溜まりっぱなしになってしまいそうです。

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コメント

 連結子会社が特定の(親会社)役員に融資をするということのチェックについては、子会社役員としては、当該役員に取り締まられては困るので言うことを聞かざるを得ない、そのため、隠匿される、ということになりそうです。
 そうとなると、親会社取締役・監査役からすると、発見するには、会計監査人による監査(有報の関連当事者取引の記載漏れチェック)か、内部通報しか発見するきっかけはないのでしょうね。しかし、会計監査人は「発見するのは無理」といわれそうで頼りないし、内部通報は某光学機器メーカーで見られるように機能しない例も多いので、蚊帳の外の取締役は発覚すると大騒ぎ、ということもあるのでしょうね。

 ただ、今回の有報で記載があるところを見ると、山口先生の分析通り、内部の色々なことがドラマみたいになっているかもしれませんね。調査報告書が踏み込んだものになるのか、腰が砕けたものになるのか、楽しみです。

投稿: Kazu | 2011年9月22日 (木) 10時52分

的確なご解説、ありがとうございます

正直、エントリーに書いたとおり、どういったことが真実なのか、私にもまだわかりません。世間の興味は元会長さんに流出した金額の中身でしょうが、私はやはりガバナンスのほうに関心があります。もう少し、マスコミのほうで情報を出してくれればいいのですがね。

投稿: toshi | 2011年9月22日 (木) 11時47分

これまでに会計監査に携わってきた者として、これだけ巨額の資金移動が会社内部で認識されておらずに「内部通報?」で判明したとするのは、あまりにも非現実的だと思います。加えて有価証券報告書に記載があるというからも株主総会の招集通知にも情報開示されているはずでしょう。会計監査人も役員への巨額融資の事実をつかんでおれば、役会承認やドキュメントを必ずチェックするはずです。これが無いとするなら、全社統制の重大違反であって、前期の内部統制報告書に重大な開示不備が無いする結論もどうかと思います。何とか穏便にしようとしたが、結局、うまくいかずにリークされる前に会社から発表したという体裁を取ったのではと勘繰りたくなります。監査法人内部でも大変なことになっていると思いますが。

投稿: 某会計士 | 2011年9月23日 (金) 15時07分

コメントありがとうございます。ご指摘の点は、先日の関西CFE研究会におきまして、大手監査法人の公認会計士の皆様からもございました。内部統制評価範囲に含まれるものであれば、取締役会議事録+契約書のチェックは欠かせないはずですし、そこに不備があるにもかかわらず問題視しなかったということになれば・・・・ということのようです。
本事件は、関心をもたれる方の立場によって、いくつかの視点に分かれるのですが、いずれにしましても、本文に書きましたように特別調査委員会の調査はたいへんだろうな、と思います。

投稿: toshi | 2011年9月23日 (金) 15時16分

皆さんの書かれていることは世間一般の常識からすればごもっともなことだと考えますが、この会社に関わった者は全員この会社が世間一般の常識から逸脱していることをよく知っています。
当然監査役を含む役員はこのようなことが行われていることは知っているはずです。ただ監査役といってもオーナーから任命された人物であり、オーナー一族には全く何も言えないのです。特に2代目オーナーは未だに実権を握っており、今回の発表についてもブレーキの利かなくなった3代目にストップをかけたのは彼ではないかと考えています。それほど2代目オーナーの実力は社内では絶対なのです。オーナー家の3代目の不正が判っていても誰もオーナー一族に苦言を呈することはできなかったでしょう。自分の知っている範囲ではこのような個人的な貸付はこれまでにも数多くありましたが、通常は取締役会議事録と契約書はきちんと整備していました。今回のように手続きすら省略してしまうということは、3代目もよほど緊急に資金が必要になったということでしょうか。

投稿: 元関係会社社員 | 2011年9月24日 (土) 09時30分

23年3月期の赤字転落は、業績悪化によるものではなく、130億円もの巨額の特別損失の計上によるものです。投資有価証券の評価損と貸倒引当金繰入といった過去の不適切な投融資の結果です。オーナー企業にありがちな、オーナーの親族企業や親密な相手先に対する投融資が繰り返されていたことが推察され、財務処理について会社と監査人との間では相当激しやりとりがされたでしょうが、23年3月期に全て過去の膿は出し切れたのでしょうか?
調査委員会の報告次第では、過去の有価証券報告書が虚偽であった(本来であれば早期に計上すべきであった損失を計上していなかった)という財務上、監査上の問題が出てくるかもしれません。

投稿: 迷える会計士 | 2011年9月24日 (土) 12時05分

監査法人在籍時にはこのようなオーナー職の極めて強い会社はいくつもありました。また、そのような会社であっていわゆるビッグネームのこともあります。監査現場では、常に担当会計士はもちろん、関与社員も対処に苦慮することが多く、特に若い担当者は、監査特有のジレンマに悩んでいることでしょう。会計監査の責任がとかく注目されてきましたが、現場では常にいろんな葛藤に悩んでいると思うと本当に不憫に思います。

投稿: 某会計士 | 2011年9月24日 (土) 15時29分

この事件の報道に接して、この規模の上場会社が未だ、こんなに、こんなことをしていたのか!と思いました。ポイントは先生ほかご指摘の通りかと。返済があったとしても、取締役への責任は公にきっちり議論されるべきと考えます。大人のマスコミに期待したいです。二番目は、Corporate Governance(CG)なるものがCSR基本方針の下位に位置づけられています。その他EDINET内部統制関連記載内容も日本企業一般的に、CGとCSR、CGと内部統制、CSR(社会的責任)と社会的貢献など概念・定義にゴチャゴチャにされていると思います。いかがでしょうか、このことが、企業全般に形を作ればの風潮となり、この規模の上場会社でも「未だ!」の実態を生み出しているかと思いました。東証などが公表にあたり内容改善勧告すべきですが、ここも弱いですね。こうなると、監査役同様に、半数以上の社外取締役法制化による、CG体制強化は真剣に議論されるべきと考えました。先生方の継続した強い発信を期待します。

投稿: Hikokuri | 2011年9月26日 (月) 10時50分

大王製紙のガバナンスについて、日経ビジネスに記事がでてますね。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110929/222893/?bv_rd

記事で指摘されている点のほか、個人的に気になっているところは、どのような属性の方が社外監査役とふさわしいかという点です。会社によって違いはあるでしょうが、大王製紙の場合には社外監査役3人とも法曹関係者ですね。

投稿: 迷える会計士 | 2011年10月 3日 (月) 11時59分

はじめまして。
興味深く拝見させて頂きました。
「大王製紙の役員さんや監査人の方を擁護するわけではありませんが、」
との前置きはよく理解できます。
ただ・・・ですね。
私も、かつて公開会社の管理部門におりまして、総務部長・内部統制担当・Jasdaqから東証二部指定替えの担当をしていたので多少はわかりますが、とはいっても数十億という巨額のお金、という事ですよね。
元実務担当としては確かに、「50以上もある連結子会社の資金の流れを、親会社の役員がすべて把握していることは現実問題として困難」というのは多少理解できますが、にしても、ですよね。
大王製紙もオリンパスもそうですが、内部統制監査報告書の有効性が、今後問われるということしないのでしょうかね?

投稿: ロイ | 2011年10月26日 (水) 13時08分

ご意見ありがとうございます。ちょっと私の意見は甘いですかね?
J-SOXの関係では、やはり大王製紙のケースが一番問題になるように思いますね。まだそこまで真剣には思案しておりませんが・・・

投稿: toshi | 2011年10月28日 (金) 00時20分

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