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2011年10月 3日 (月)

ドッド・フランク法922条と企業のコンプライアンス・プログラム

先日のオリンパス事件高裁判決あたりから、マスコミ等でもドッド・フランク法に関する話題などが取り上げられておりますが、あの922条の「内部告発奨励条項」は、多くの金融規制の条文のうちのごくごく一部でありまして、金融規制に詳しい方々は、また「ドッド・フランク法」といいましても、別の話題を取り上げることが多いのではないかと思います。

100万ドル以上の制裁金賦課となる証券諸法違反事件(ただしFCPAなども含みますので、日本の企業も要注意)等を告発した人に、その制裁金の10~30%の報奨金が付与される、いわゆる内部告発奨励制度も、今年5月に規則が公表され、8月12日より施行されております(ホームページも出来上がったようです)。もうすでに報奨金請求がなされているように聞いておりますが、どうもWSJの記事によりますと、このドッド・フランク法の施行規則制定手続きに不備があると連邦控訴裁で指摘されたそうであります。不備を訴えていたのは米国商工会議所だそうで、いわゆる行政手続きに瑕疵がある、ということなんでしょうね。

内部告発奨励制度の運用によって企業の費用が膨らむわけですが、その負担によって消費者、投資家の保護が適切に図れるのか、市場の健全性確保が実現するのか、その「費用対効果」の分析がSECによって恣意的になされた、ということのようです。「費用対効果の分析」で思い出されるのがSOX法404条C項を中小の上場会社に適用させるかどうか、の議論であります。高額の内部統制監査証明制度を中小の上場会社に負担させることで、本当に投資家の保護、市場の健全性確保に多大な効果が得られるのか、その費用対効果が立証できないとして、何年も適用が延期になり、ついに昨年9月には内部統制監査制度を中小の米国上場会社には永久に適用しないことが決まりました(適用済の大会社でも簡素化が図られました)。今回の件でも、今後はSECがさらに分析を検討しなければいけないのでしょうね。したがいまして、内部告発奨励制度自体が裁判所によって疑問視されている、というわけではないようです

ただ、DF法922条の規則制定の段階で、いきなりSECに告発するのではなく、できるだけ社内への通報をさせるためのインセンティブが設けられるようになったものの、やはり直接告発の道は選択できるわけでして、この告発奨励条項が、企業のコンプライアンス構築の意欲を減退させることになるのでは・・・との疑問がそのまま残ることは間違いないと思います(SECは強く否定しておられますが・・・)。企業自身が不正を早期に発見して、自ら不正を公表し、再発防止策を構築する・・・という一連の「自浄作用」こそ投資家保護、市場の健全性向上に資するように思うのでありますが、そういった理想と現実のギャップは大きく、やはり内部告発という即効性のあるコンプライアンス手法に(消費者保護、リーマンショックを二度と繰り返さない、との視点からは)大きな魅力がある、ということなのでしょうか。

前橋市の報奨金制度の頓挫(市民の批判によって市長が一日で撤回)・・・というあたりをみますと、こういった内部告発報奨制度が直ちに日本でも適用されるとは思いませんが、ひょっとすると、日本でも「不正防止は内部統制から内部告発へ」といったことが真面目に検討される時期が到来するのかもしれません。

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