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2011年10月 5日 (水)

企業のBCP(事業継続計画)論議に対する素朴な疑問

ひさりぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。災害時における企業の危機管理の一環としてのBCP(事業継続計画、ちなみに損失の危険の管理・・・というのであればBCMのほうが近いように思います)について、いろんな方のご意見を拝聴しております。とりわけ来年にはISO認証の対象となるBCP(正確にはBCMでしょうけど)でありますが、考えるほどに素朴な疑問が湧いてきました。

東日本大震災から半年が経過して、「当社ではBCPが有効に機能した」と言われる会社さんの話を聞いておりますと、結局のところ、「うちの事業が継続できたのは、他の会社のBCPが機能しなかったおかげ」とか「うちはきちんとBCPが機能したから、他の同業者に比べて商品を運ぶ貨物自動車の手配もできたし、商品も押さえることができた。つまりBCPは早いもん勝ちの世界である」、「うちはトップメーカーなので、被災地支援についての政府要請があり、そのために商品輸送にも便宜があった」というもの。要は力があったり、先んじて動いたからこそ機能した、というのが現状ではないかと。おそらくBCPを整備していても、対応が少しでも遅れてしまえば加速度的に目標の業績を達成できない確率が高くなる、というのがホンネのところではないでしょうか。たとえばBCPをまじめに考えますと、取引先に対して「在庫は半年分程度、保管しておくように」と要求することになりますが、これって物流の効率化を図って必死に業績を維持している中小の企業に対してどう受け止められるのでしょうか?

最近はリジリエンス(想定外の事態に陥っても、しなやかに回復する力)などと美辞麗句のように謳われるBCP(事業継続計画)でありますが、機能した部分は初期対応としての社員の安否確認や、帰宅指導等の部分でありまして、工場を稼働するための最低限度の材料の確保等、本当に事業を継続するために必要な部分については、つまるところ弱肉強食の世界であり、サプライチェーンBCPといった「みんなで頑張るBCP」の成功例というのはごくわずかではなかったでしょうか。なかには某自動車会社のように、社員がサプライヤーのところへいって、復旧の手伝いをしてサプライチェーンを復活させた成功例というものもあるようですが、これも結局は「力の支配」によるものではないかと。

たとえばBCPの発動要件についてみてみますと、「震度6強」の地震が発生した場合には非常事態宣言を社長が発令する、といったことで比較的明確かもしれませんが、原発事故等の二次災害によるケースや、台風による被害が発生した場合など、誰が「これはBCPの発動要件に該当する」と判断するのでしょうか?その判断権者のところへは、判断に不足のない程度の情報が集まる体制はどこまで整備すれば良いのでしょうか?さらに、競業他社との協力合意やサプライチェーンBCPについては、他社の発動要件と自社の要件とに食い違いが生じた場合はどうしたら良いのでしょうか?有事に切り捨てるべき事業の優先順位を考えておくように、とのことですが、平時の段階で「切り捨ての順番」を社員も知ってしまうのでしょうか?まだまだありますが、こういうことって、素朴に疑問に思うのでありますが。平時だからこそ考えておく必要があるのは理解できるのですが、これを考えることによって平時の組織に軋みが生じないのでしょうか?

震災後、海外の取引先からBCPの運用状況について聞かれる企業もあるそうです。以前はBCP訓練をしているとだけ答えていたものが、最近は「どのような訓練をしているのか?そのパフォーマンスの評価は?」とまで質問されるとのこと。ISOはプロセスを第三者機関が認証する、ということのようですから、とりあえずPDCAがしっかりしていればよいのかもしれません。しかし、BCPは今後「オールジャパン」で取り組むべき喫緊の課題だそうですから、本気で社会のインフラになるかどうか、検討していくべき問題が山積しているように思えて仕方ありません。

10月 5, 2011 商事系 |

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コメント

難しいのは、リスクの特定と、どう呼ぶかは別として中核事業の選定ですね。リスクについては、いってみれば半殺しの状態を想定しないと後につながらないため、本社サーバだけは動いているとか、非常に恣意的な設定をしないといけない事情があります。ですので、リスクの特定段階ですでに「まゆつばだな」という印象を検討メンバーは抱いてしまいます。事業の優先順位については、平時の軋轢が最も出やすいところかと思いますね。

ちなみに、発動要件は原因ベースではなくシチュエーションベースで定めるのが有力な考え方かと思います。つまり、震度○の地震、パンデミック、大洪水とかではなく、都内の物流が停止した、本社ビルに入れない、社員の半数が出勤できないといった事態を要件にするということです。発動の具体的場面をイメージすれば明らかで、自社にとってのボトルネックを招く状況を要件としなければ発動は困難ですし、発動後の計画を事前に立てることがそもそも出来なくなります。このアプローチが妥当ならば、他社と発動要件が相違することはむしろ当然ということになります。

鉄は熱いうちにうてといいますが、BCPの導入を企画してまともに聞いてもらえるのは今年限りかもですね。

投稿: JFK | 2011年10月 5日 (水) 22時45分

またまた難しいエントリーにコメントありがとうございます。
後半部分はナイスだと思います。実際、私もリスクベースで発動要件を検討するようご指導申し上げている会社様もあります。こうしますと、有事といえないほどの場面でも会社のリスク管理として適切な行動が期待できるのではないかと考えています。
なお、経営者に本気になってもらわないといけませんので、私は来年以降もBCPの重要性を訴えていきたい、と思っています。まあ、たしかに業績との兼ね合いで、ということにもなりますけど。

投稿: toshi | 2011年10月10日 (月) 02時25分

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