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2011年10月31日 (月)

大王製紙のガバナンスから日本の企業統治の脆弱性は問えるのか?

もうすでに多くの方がフェイスブックやブログで取り上げておられます大王製紙元会長巨額融資事件に関する特別調査委員会報告書を週末に読みました。

まず、正直に認めなければなりませんが、これまでのエントリーで私が申し上げていたことと、すこし事実関係が違っていたことが判明いたしました。私は「勇気ある内部通報者」として、関連会社の融資担当者の方に焦点をあてておりましたが、実は勇気があったのは関連会社ではなく四国の本社関連事業第1部の担当者の方だったようであります。関連会社の方から「当社から会長個人口座へ3億円を振り込んだ」との連絡を受けたこの本社担当者は、通常の事務連絡ルートを飛び越えて直接社長本人に融資の事実を伝えた、とのこと。もし通常の事務連絡ルートに従って、この情報を伝達していたのであれば、(情報を受領するのは、事情を知悉しておられた元会長の実弟である関連事業部担当取締役ですから)いまもまだ本件は公表されないままだったようであります。情報の滞留は企業に致命的な「二次不祥事」であると、常に講演で申し上げるところでありますが、今回もまさに情報の滞留が問題となっていたようです。

次に、以前こちらのエントリーで疑問を呈しておりましたが、同社では6月の定時株主総会の時点で、18名の取締役のうち7名が退任され、3名の新任取締役とともに合計14名の取締役会が構成されましたが、この大幅な役員構成の変化と本事件との関連性については一切触れられておりません。報告書によれば多くの役員が今年3月以前から事情を知っていたようにも思えますし、今回の事件で元会長側より「これは大王製紙から創業家の支配力を奪うもの」との主張がなされていることも考え併せますと、この役員変更の意味するところ(本事件との関連性)を知りたいところであります(単に役員定年になった方が多かった、ということにすぎないのでしょうか?)。本報告書において、「他の監査役、取締役の責任」に関しましては、わずか2行しか触れられていないことも、このあたりと関連しているのではないかと。

また、特別調査委員会の皆様のご努力にもかかわらず、元会長さんの協力が得られなかったために107億円の融資金の使途は不明のままとなっております。そして本件事件の背景には「創業家に絶対に逆らえない企業風土」にあるとされています。しかし「創業家に逆らえない風土」といいましても、議決権ベースで言えば、創業家が絶対的支配権を有している上場会社は相当数ありますし、すでに監査法人の監査見逃し責任を認めたナナボシ事件判決でも、ナナボシ社の経営者の絶対的支配力を「この企業の重大なリスク」と捉えておりましたので、とくに大王製紙に限っての特徴とまではいえないと思います。むしろ、そのように断定せざるをえなかったのは、大王製紙の大株主である創業家管理会社の実態も、そして大王製紙の100%子会社とは言えない関連会社の「他の株主」の実態もわからないため、重要な点においてヒアリングができない、ということに象徴されているのではないでしょうか。つまりガバナンスの脆弱性もさることながら、第三者委員会が調査機能を発揮しようにも、十分に発揮できなかったことへの歯がゆさがあったのではないかと。

またこのように「絶対的支配者」が存在する企業であるがゆえに、本社の社員からのヒアリングもなかなか困難であったことは想像に難くありません。日弁連ガイドラインを参考にしたとしながらも、委員に同社常務取締役の方が就任された背景には、このことによって社員に安心感を与え、できるだけ真実を語ってもらおう、とする他の委員の苦心が窺われるところであります。また委員に財務会計的知見を有する者がいなかったため、財務担当取締役の力量を必要としたのかもしれません。いずれにしましても、この報告書を通して、本事件は大王製紙に特有のガバナンスの歪みによって発生したのかどうか、他の上場会社でも同様のリスクがガバナンスの脆弱性として顕在化するおそれがあるのか、そのあたりが整理されなければならないと思いました。たとえば特別調査委員会が問題としているような「人事政策は事前に顧問の了承を得なければ正規ルートへ流せないような、二重構造の指揮命令系統があった」という点を改正すれば足りるのか、それとも創業家の支配力が強い企業として、社外取締役を複数導入する必要があるのか、そのあたりの見極めが必要かと。

さて、本報告書を読ませていただき、私個人としての最大の関心事は、すでに大原町農協事件最高裁判決やナナボシ監査見逃し事件判決が出ている現時点において、「監査法人と監査役の責任問題」をどう考えるか、という点であります。本報告書の結論にも賛同できるところと疑問に思うところがございます。このあたりはまた、春日電機事件で有名になりました金商法193条の3の解説や今年10月の日本監査役協会発行「有価証券報告書の監査に関する監査役アンケート集計結果」等を参考にしながら、別途エントリーで述べたいと思います。

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2011年10月28日 (金)

正念場を迎えた「第三者委員会制度」-次のステップへの試練

日弁連の第三者委員会ガイドラインが制定され、すでに1年以上が経過しております。不祥事を発生させた企業に、いわゆる「第三者委員会」が設置され、事実調査、原因究明、再発防止策等を企業のステークホルダーのために説明(報告)するという極めて重大な使命が担われ、実績を重ねてきた結果、相当程度企業社会にも浸透してきたのではないでしょうか。

しかし、皆様ご承知のとおり、世間の話題となっております企業事件について、第三者委員会制度が今後どの程度、社会の期待に応えていけるのか、その試金石になるのではないかと思われる場面がみられます。九電やらせメール事件において、第三者委員会報告書で認定した事実(県知事の発言内容)を企業側が否定し、再度の報告書提出に至ったことはすでにご紹介しましたとおりであります。

しかしそれだけでなく、オリンパス元社長解職事件では、本日(27日)の開示情報を「正しいものと認識している。今後、本件に関して憶測等で市場関係者を誤認させるような発言をした者に対しては法的措置も辞さない」とまで確信しておられる企業の事実関係を、第三者委員会が調査しなければならないわけでして、ここまで言い切っておられる同社が本当に公正かつ独立した第三者委員会を構成できるのかどうか、疑問が呈されるところであります(現に、元社長さんは第三者委員会の報告についてはすでに懐疑的なコメントを述べておられます)。一方で、東証やSESCは「今後設置される第三者委員会の活動を見守っていく」とのことでありまして(ブルームバークニュース)、どのような構成になるにせよ、これは委員にとってたいへんな活動になることは間違いありません。

さらに監査役の関与が悩ましい難問を投げかけている事例もあります。本日ゲオ社のリリースによれば、これまで社内の不祥事について調査を続けていた同社監査役会が、おそらく経営陣の交代劇があったことを原因とすると思われますが、事案が複雑で公正な立場で判断することに困難が生じたようで、すべてを第三者委員会にゆだねる旨、発表をしました。

そして大王製紙元会長解職事件では、本日、元会長側が東証に対して「特別調査委員会の公正性」には問題がある、との意見書を提出されたそうであります(朝日新聞ニュース)。私も本日の報道で初めて知りましたが、大王製紙側の特別調査委員会の委員に、取締役と監査役の方が含まれており、そもそも調査の対象となるべき方が委員に就任される、というのはいかがなものか、との疑念が湧いてまいります。日本監査役協会さんは、第三者委員会に監査役が積極的に関与することを推奨しておられますが、ただ、監査役への責任追及が予想されるような不祥事についての第三者委員会構成には関与すべきではない、との趣旨も含んでおられるのではないか、とも思われます。そうしますと、もし報道されている事実が正しいとするならば、元会長さんの言い分にも説得力があるように思いますが、いかがでしょうか。

ただ、前にも申しました通り、ステークホルダーへ説明責任を尽くすことで、企業の社会的責任を全うさせる趣旨の第三者委員会である以上、下図のように、第三者委員会の活動には悩ましいトレードオフ関係が常につきまとうものであり、このバランスをどうとりながら最終報告に至るのか、ここに社会的使命があるように感じております。

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依頼する企業からのプレッシャー、報告書の内容に期待をする行政当局や監査法人からのプレッシャー、そしてなによりも、企業の社会的信用の変化や株価変動に影響を及ぼす消費者・投資家からのプレッシャーに耐えつつ、上記のような難事件の(とりあえずの)解決に至らしめることが今後できるのかどうか、おそらく年末に向けて、また九電やらせメール事件のようなドラマ(第三者委員会VS企業経営者)がみられるのかもしれません。ただ、社会から批判されることがあっても、委員には上記のような悩ましい関係を模索しながら解決の糸をたぐらねばならないことを、多くの方にご理解いただければ・・・と。私の存じ上げている方も、上記難題事件に関与されることになるかもしれませんので、この話題は今後あまりツッコミを入れることができなったらゴメンナサイ<m(__)m>(けっこう、この話題になるとご異論も出てまいりますが、まぁ、私の立場も察してくださいませ。。。)

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2011年10月26日 (水)

非上場子会社の粉飾決算と会社法改正の必要性

近鉄さんの100%子会社であるメディアート社(すでに解散)の長年の粉飾決算が発覚したのが昨年の2月でして、近鉄さんは、事件発覚後、企業集団内部統制の改革として、このメディアート社にも常勤監査役さんを設置したことを こちらのエントリーでご紹介いたしました。

そのメディアート社の元社長さんが本日(10月25日)、会社法違反(違法配当)容疑で逮捕された、と報じられております(たとえば時事通信ニュースはこちら)。以前ご紹介しました村井会計士の「会計ドレッシング」でも詳細に(物語調に)解説がなされている事件ですので、ご記憶のある方も多いのではないでしょうか。親会社から出向されたメディアート社の元社長さんが「恐怖政治」によって君臨し、赤字であるにもかかわらず黒字のようにみせかけ、長年違法に配当を出していた事件です(なお、粉飾の手口は比較的簡単なものです)。社員も元社長さんから命令されると、拒絶することができなかったそうですが、元社長さんもとくに私利私欲のために粉飾をしていたのではなく「かわいい部下たちに、ボーナスを支給してやりたかった」と述べていることが報じられておりました。

さて、このメディアート社ですが、今回はたまたま違法配当をしていたからこそ立件が可能だったわけですが、粉飾決算だけだったらどうなっていたんでしょうか?上場子会社ではありませんので、有価証券報告書虚偽記載罪は成立しませんし、会社財産が流出していたり、会社に損害が発生していない以上は会社法上の犯罪が成立することもないと思います。ちなみにメディアート事件に関する第三者委員会報告書では、金融機関への(粉飾した決算書を示しての)借入については詐欺罪が成立する可能性が示唆されておりますが、かなり成立は厳しいように思われます。非上場大会社でもなさそうですので(資本金1億、負債総額は不明)、会計監査人の設置が義務つけられていたものでもないようです。

上記第三者委員会報告書によりますと、メディアート社は近鉄さんにとって「重要子会社」でもなかったようでして、親会社の会計監査人も2年に一回程度の外部監査が行われていただけでした。しかし、ふたを開けてみますと、同社は平成14年ころから粉飾を繰り返し、最終的には近鉄さんは監理ポスト入りとなり、さらに財務報告内部統制は有効ではない、との評価結果を開示せざるをえない状況となったわけであります。事態を重く見た近鉄さんは、約50の子会社のうち、新たに12社(合計24社)に常勤監査役を設置して、企業集団としての内部統制システムの構築を図ることを決定しました。

このようなシステム強化策は近鉄さんのように非常に大きな会社であるから出来たと思いますし、またいくら常勤監査役さんを設置したとしても、最近の事例にもみられるとおり、期待どおりの不正予防、不正発見の実効性がどこまで上がるかは未知数であります。ましてや大王製紙さんのような事件が生じますと、子会社の常勤監査役など、とても怖くて誰も就任したがらないのでは?とも思えてきます。

現在審議中の会社法改正のなかでは取り上げられておりませんが、もうそろそろ会社法罰則の改正が必要な時期ではないでしょうか。会社法976条では、刑事罰ではなく過料(100万円以下金員支払を求める行政罰)として会社法違反行為が多数掲示されておりますが、そのなかには情報開示に虚偽ある場合等、けっこう重要と思われる関係者の違反行為も含まれているわけでして、先の第三者委員会報告書でも、行政責任としての「貸借対照表への虚偽記載罪」が成立する可能性が高いものとされています。金商法違反との仕分けに関する問題も整理する必要がありますが、せめて非上場会社の情報開示に関わる部分や大会社の会計監査人設置義務違反などは過料から刑事罰に「格上げ」しても良いのではないかと。重要な案件だけに絞ってでも、刑事訴追の可能性があるならば、メディアート社や林原社のような場合にもかなり抑止力が働くのではないかと思います。また、過料の場合は公益通報者保護法の対象にはなりませんが、刑事罰として規定されれば一般社員による告発も公益通報者保護法によって保護されることになりますので、親会社が早期に子会社の不正を発見できる可能性も高まるように思います。

なお、以前に林原社の件を取り上げたときにも言及いたしましたが、金融庁による金融機関の信用リスク管理態勢への検査のなかで、金融機関が融資先のガバナンス体制をチェックすることを重点項目とすることが有益ではないかと思われます。そこで、非上場会社の粉飾決算を予防し、とりわけ非上場大会社へのガバナンス、内部統制強化のためには、こういった金融監督の在り方と、会社法罰則の改正の組み合わせが最も効果的ではないかな・・・・・と考えております。

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2011年10月25日 (火)

大王製紙解職事件-新たな展開へ

いよいよ大王製紙社顧問(元会長の父)がマスコミ取材に回答されたのですね(毎日新聞ニュース)。やはり、といいますか、当然といいますか、元会長への巨額融資は今年3月の時点で会社関係者間では発覚していたものであり、顧問は元会長に対して融資金の一部返済を求めていたそうです。

こういった状況で、一昨日エントリーしたように、子会社幹部の方の「内部通報」がいかなる意味をもっていたのか、とても興味のあるところです(産経新聞のニュースを読むと、捜査機関もずいぶんと前から元会長さんの口座に関心を寄せていた、とありますし。。。)

取締役会を構成していた役員の方々も「知っていた」そうなので、なんとも。。。しかし役員の方々を弁護するわけではありませんが、「顧問(元会長の父)がなんとかしてくれるだろう」といった甘い期待があったのかもしれません。(仕事中なので、取り急ぎ備忘録程度にて。)

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2011年10月24日 (月)

大王製紙事件にみる「内部通報が内部告発に変わるおそろしさ」

日曜(23日)夜の日経ニュース「大王製紙前会長の巨額借入れ、問われる企業統治-社外役員の役割重要」はひさしぶりに読み応えのある記事でした。企業法務に詳しい弁護士、学者の方々のご意見も「なるほど」と思いましたし(私も19日、20日と毎日新聞でコメントを掲載していただきましたが、無利息なら利息相当分は「利益供与」に該当するのでは?との発想はございませんでした・・・・なるほど・・・・・)、なによりも子会社役員、親会社役員、社外役員の役割をきちんと整理してガバナンス問題に突っ込んでいるところに個人的に好感がもてました(こんな風にオリンパス社長解職事件のほうも突っ込んでいただければ・・・・と)。

上記記事を読み、元会長さんの借入金の解明問題は特別背任の要件該当性に、そして巨額借入が長い間放置されていた問題は役員の監視義務違反に、それぞれ重要な意味を持つことが理解できますが、実はもうひとつ本事件には重要な意味を持つことがあります。それは、元会長さんへ実際に融資をした関連子会社の担当部長の方が、親会社である大王製紙に対して「いくら創業家といっても、無担保で巨額借入とはいかがなものか」と内部通報をされ、これがきっかけとなって子会社52社すべての社内調査が開始された、という点であります。

そもそも「創業家会長に無担保の巨額貸出がある」という事実は、開示の対象となっている以上、親会社の一部社員の間では公知の事実です。おそらく、この内部通報をされた子会社の部長さんと同様に「これってまずくない?」といった意識を持っておられた社員の方もいらっしゃるはずです。ひょっとすると、後日、監査法人の指摘で、元会長さんへの貸付金焦げ付きが問題となったとき、とりあえず社内的には創業家の方々が損失分を補てんすることで内々に済ませる・・・ということもありえたのではないでしょうか。

しかし融資をした子会社の融資担当部長さんからの内部通報があった。ご承知のとおり、最近はヘルプライン規約が整備されていますから、通報があった以上はきちんと対応しなければならない。もし「うやむや」にしてしまえば、会社自身による二次不祥事となるばかりか、内部通報者が今度は外部に「内部告発」をすることが考えられます。名門企業であれば、これは是非とも回避したいと思うところです。将棋でいえば、「歩」が裏返って「金」になってしまうような感覚であります。内部通報➔社内調査➔公表、という流れであればまだ「自浄能力のある会社」としての面目は立ちますが、内部告発➔マスコミ報道➔公表という流れとなってしまいますと、まさに「コンプライアンスを軽視する企業風土」まさに、かつてのダスキン事件の例と同様の傾向になってしまいます。

思うに、ここまで大きな問題に発展してしまった大王製紙の巨額借入事件でありますが、この担当部長さんが内部告発をせずに、実名で内部通報を選択されたのは、これ以上に大王製紙さんがまずい状況になることを回避しつつ、最後の最後に地方の名門企業のプライドを保つためではなかったかと。最後の最後に、大王製紙の企業統治の健全性に賭けたのではないかと推測いたします。ステークホルダーへの説明責任が厳しく問われる時代となり、あえて企業の不利益情報を公表する内部者への対応は極めて重要となりつつあります。「社員がおかしいなぁと感じていること」をそのまま放置していると、後日大きな代償が待っているのかもしれません。

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2011年10月20日 (木)

「物言う監査役」から「物言わねばならない監査役へ」

2年ほど前はガバナンス論議のなかで「物言う監査役」さんに光があたりましたが、最近の監査役事情をみると(ヒトゴトのように申しますが)「きちんと意見を言わないとたいへんな時代になったもんだ」と痛感しております。

オリンパス元社長解職騒動では、本日(19日)会社側から過去のM&A案件におけるコンサルタント報酬の詳細「事実」が公表されましたが、買収価格の3割もの報酬額が合理的であることを主張するところで「当社の監査役会より、適法である旨の意見をいただいております」(ええ!?ここで監査役会に振られてしまうの!?)

九電やらせメール事件では、第三者委員会の事実認定を無視した社内調査報告書が公表されましたが、これをみた第三者委員会委員長の方が「この社内調査報告書を了承した取締役会で社外役員や監査役は何も言わなかったのか?善管注意義務違反のおそれがあるのではないか?」との疑問(を超えた怒り?)を呈されました。

大王製紙元会長の不明朗支出事件では、(無担保貸出合計額が105億円程度、ということだそうですが)少なくとも2011年3月期の有価証券報告書に記載されていた23億5000万の「短期貸付金」について、監査役や監査法人がどのような監査をしていたのか、そこで疑問が呈されていれば、7月以降の不明朗な支出は防げたのではないか、との批判が出ております。子会社の会計監査まで担当しているわけではないとは思いますが、連結ベースでの開示書類作成は親会社の取締役の職務執行なので、親会社の監査役さんの業務範囲であることは間違いないものと思います。

そしてゲオ社の不明朗なコンサルタント料支払い疑惑では、創業家株主からの申出により、監査役会が事実解明のための調査を(外部の専門家らとともに)早急に行い、近々報告書を提出する、とされております(どうも、臨時株主総会の様子からみますと、会社側と株主側で和解的な解決が図られたような気もしますが、やはり調査報告は出されるのでしょうね)。

こうやって有事に立ち至った上場会社の監査役さんの置かれた立場をみますと、以前に比べて重要なポジションとして社会的にも期待されるようになったように思いますが、その反面、ガバナンス不全に陥った(と社会的に評価された)場合には、まさに矢面に立たされ、重い責任を負担しなければならない場面が増えているように思われます。経営者からは「経営判断の適法性」を担保する監査役意見が拠り所とされ、また会計監査人からは、監査責任の一端を担うものとして責任の共有を期待され、この傾向は今後もますます高まるものになるのではないでしょうか。

「物言う監査役」さんが社会から期待されるのであれば、会社法改正論議のなかで出ているとおり、監査役の権限強化、ということが必要なのかもしれません。しかし「物言わねばならない監査役」さんが期待されるのであれば、そこでは「権限強化」よりも、監査役さんの監査環境の整備のほうが重要です。監査役スタッフの充実、内部監査部門との連係、内部統制の運用状況の相当性審査など、監査役が経営執行部とビジネス情報を共有できる環境を整えなければ、「手足を縛られたまま泳げ」と言われるのに等しいのではないかと。

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2011年10月19日 (水)

東京製鐵解職事例-開示情報の十分性

今年の後半になりまして、ゲオさん、九電さん、大王製紙さん、オリンパスさんと、上場会社のコーポレートガバナンスと企業価値に関わる事例が目立ち、コンプライアンス関連の騒動が「てんこもり」の状況になっておりますが、またまた東京製鐵さんにおける「開示の十分性」に疑問符がつきそうな事例が報じられております。社内でナンバー2でいらっしゃった常務取締役営業本部長の方が、社内ルール違反によって取締役会で解任(業務執行取締役なので解職でしょうか?営業本部長だから解任でしょうか?)され、非業務執行取締役に降格されたようであります。取締役会にはご本人は出席されず、後に解任された旨を通告されたとか(ロイター通信はこちら)。

後任の営業本部長さんの会見によると「本人の名誉のために、不適切な行為の中身はいえない」とのことで、さらに「社内ルール違反」が法令違反にあたるかどうかも「今は言えない」とのこと(上記ロイターニュースより)。オリンパスさんの事例ではありませんが、それこそ「日本的風土における取締役会」からすれば、ご本人の名誉のために言えないような「社内ルール違反」であれば、まず経営トップから元常務さんに辞任を促すはずです。おそらく本件でも辞任を促したのではないかと推測されますから、これを元常務取締役さんが拒否したのであれば、やはり企業価値に影響を及ぼすような重大な問題が潜んでいるのではないかと・・・・。

また、私が経営トップであれば、「本人の名誉のため」というのは、すでに何らかの行政当局からの調査等が進められており、調査に支障を来すことなく、企業の自浄作用を内外に示す必要がある場合に用いることが検討されます(その場合、後日、当局の調査結果を踏まえて、法令違反があったのかどうかも含めて正式に開示する、という流れになるかと)。ただ、この場合でも、社内ルール違反➔法令違反ということになりますので、やはり投資家、株主にとっては説明責任を尽くしてほしいところではないかと思います。

この程度の開示で十分(つまり、解任理由はとくに株主の利益に影響を及ぼさない)ということであれば、解任されたご本人には申し訳ないですが、法令違反とは言えない「社内ルール違反」ということですから、「社内の人間関係のもつれ」に由来する出来事だったのではないか、と推測されます。まさかそういった人間関係のもつれが(ナンバー2、ということですから)社内抗争で活用されたり・・・・という、よくありがちな内紛劇ではないですよね(^^;「法令違反ではない社内ルール違反の不適切行為」とか「ご本人の名誉のためにこれ以上は言えない」となりますと、余計にいろいろと詮索してしまいますね。私自身、勉強不足ではありますが、取引所としては、こういった場合、開示の十分性についてどのように判断されるのか(もともと社内ルール違反程度であれば開示は不要なのか)、知りたいところです。元常務さんの社内ルール違反とともに、会社側の開示が適切かどうかという点も、やはり同じくコンプライアンスの問題になるように思われます。

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2011年10月18日 (火)

オリンパス解職騒動-社長による「内部告発」は事実の重みが違うのでは?

(18日お昼:追記あります)

昨夜に引き続き、オリンパス社の元社長解職騒動に関するエントリーですが、ウッドフォード氏(元社長)がオリンパス社の不明朗な報酬支払に疑惑を抱いたのは、FACTA誌が今年7月に掲載した記事によるもの、とのことであります。

ただ、本日(17日)のフィナンシャルタイムズによる新しいインタビュー記事によりますと、たしかに元社長さんが疑惑を抱いた発端は上記月刊誌の記事だとしても、その後元社長が独自の調査を進め、過去に監査を担当していたKPMG、E&Yからも、疑惑のM&Aにまつわる会計処理については限定付きの監査報告書が提出されていたことが判明したそうです。また、元社長が独自に依頼をしたPWCの調査結果についても、上記記事にありますとおり、問題点が指摘されております。そこで、元社長さんは、経営トップとして「内部告発」をされたそうであります(上記FT記事の表現より)。

昨日のエントリーと同じことを述べるようなものですが、この元社長さんが、軽々に会員制月刊誌の内容を信じ込んで、確たる証拠もなく経営陣に退任を迫ったのであればそれほどの問題ではないかもしれません。かつて、私のブログにコメントされた方のなかにも、おふたりほど、経済誌(雑誌)に某企業の会社ぐるみの不正疑惑を告発をして、当該不正が「独占スクープ」として掲載されましたが、企業側は完全に黙秘(無視)に徹し、他紙が追随することもなく、結局そのまま事件は闇の中に葬られてしまったことがあります。企業の一般社員の方々の内部告発は、匿名のままではなかなか企業を変えられるものではないことを(当時は)思い知らされました。

しかし、(FTの記事によれば)騒動の2週間前に、CEOたる立場となった元社長が、関係者に疑惑に関する質問をしても明確な回答が得られず、かえって社内に疑惑を深める報告書が存在することを発見し、そのうえで独自調査を行ったのでありますから、やはり一般社員の匿名による事実の指摘とは、その重みが相当に違うように感じます。社長と他の経営陣との内紛といえば、一昨年ころの富士通さんの件を思い出しますが、あの事件は社長さんのほうに不明瞭な疑惑が指摘されていたにもかかわらず、「事実を正確に開示しなかった」として会社側が東証さんから厳重注意を受けました。しかし今回不明瞭な疑惑が浮上しているのは社長さん側ではなく、むしろ会社側です。たとえ適時開示の対象事実ではなくても、社長さんの指摘する「事実」について、これをどう受け止めるのか、説明義務を果たさなければ、とうてい投資家や株主に対する信認を得られないと思うのですが。

現在のところ、東証さんは「とりあえず14日の会社側の記者発表を尊重する。なにか新たな動きがあれば会社側に説明を求める」とのスタンスだそうですが、「企業風土を理解してもらえなかった」といった「評価」のみを公表する会社側のスタンスだけでは、おそらく外国投資家からのガバナンスへの失望感だけが増幅されていくように感じます。

18日お昼:追記

katsuさんから教えていただきましたが、ニューヨークタイムス社がウッドフォード氏にインタビューしたところ、英国の不正捜査当局に、不正疑惑の関連資料を渡したとのことであります(ニューヨークタイムズ社のニュースはこちら)。そのなかに、ウッドフォード氏が会長に宛てた書簡もPDFで添付されております。この書簡についてはPWCの報告書の要旨も記載されていますが、NTの記事によると、この内容は全取締役が認識したうえで、ウッドフォード氏の解職が取締役会で決まった、とのこと。会社側は「社内事情をマスコミに漏らすことは守秘義務違反として法的措置も検討する」としていますが、どうなんでしょうか?東京の大手法律事務所の方々も動いておられるでしょうし、あまり法的な根拠をもってブログで述べることは控えますが、ごくごく一般人的な感覚でいえば、「独断専横な社長には困った」として解職されたわけですから、この「評価」が間違っていると考えれば「事実」をもって株主、投資家に伝えることが(株主、投資家の正しい「評価」のためにも)オリンパス社取締役としての善管注意義務を尽くすことになるのでは。とりわけこの騒動が発生する直前まで、アナリストさんへの説明では会社側のウッドフォード氏に対する評価は高いとされていたわけですから、「なんでこうなっちゃったの?」という真実の経過を株主が知りたがっていることは間違いないかと。

社内に不正疑惑の可能性があり、株主の損失を回避するためには、社内の守秘義務に反してでも事実を伝えることが必要なのでは・・・と思うのでありますが(たとえば会社法上も、解任議案が出された監査役さんは総会招集通知に自身の意見を掲載することができますし、また辞任に至った場合も含めて総会で意見を述べる機会が付与されているわけで)。不正の疑惑について、「不正があった」とマスコミに述べるのであれば法的にも問題かとは思いますが、自身が解職され、その会社側が報じた解職理由に誤りがあるということを主張するための根拠事実として「不正疑惑を告発したら、このようになった」と述べるのは(とくに不正があった、とまではマスコミに伝えていないわけですから)特に問題ないように思いますが、いかがでしょうかね?

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2011年10月17日 (月)

オリンパス社社長解職騒動にみる「評価」と「事実」の説明責任

(17日午前:追記あります)

日曜日のお昼のWSJ(日本版:有料会員向け)が第一報だったと思いますが、オリンパス社の社長解職騒動のご本人である元社長さん(ウッドフォード氏)のインタビュー記事が報じられております。(ちなみに産経新聞ニュースはこちら)解任(解職)した日本の取締役会を代表して、会長さんが「どうも外国人社長の指揮は日本の組織風土に合わなかった。社長は組織の信頼を失った」と記者会見をされ、マスコミ各社も日本の会長さんへのインタビューをもとに記事を作っておられました。たとえば読売新聞では、

「独断専横的な経営判断でものごとが進み、経営陣とも組織の齟齬(そご)が発生した」。後任社長を兼務する会長(70)は、解職理由を説明した。

と報じられています。そこでは、元社長さんと他の取締役との間で、どのようなやりとりがあったのか、事実が語られているわけではなく、社長さんに対する評価に関する発言が目立ったものでした。

しかし、本日の元社長さんのフィナンシャルタイムズ社によるインタビュー記事は、会長さんの会見での内容とずいぶんと異なるトーンであります。こういったインタビュー記事が登場することは、オリンパス社でも予想はされていなかったのでしょうか?オリンパス社のM&Aにおけるコンサルタント報酬の支払いが不透明であり、何に使ったのかわからない、不適切な支出があったのではないかと問題視していたそうであります。解職される直前には、元社長は会長さんに「ガバナンスに重大な問題がある」として、辞任を迫った、ということもWSJが報じていました(有料会員向けなので、一部しか閲覧できませんが、こちらの記事です)。また元社長が個人的に調査を依頼した監査法人も問題視していたことを述べておられ、これらは紛れもなく「事実」に関する指摘であります。具体性がありますので、元社長さんの言い分の方が真実だと受け取られる可能性は高いと思われます。(深夜に報じられた毎日新聞ニュースはこちら

この騒動の構図に近いのが九電のやらせメール事件ではないでしょうか。第三者委員会は県知事と九電との具体的な事実を適示して、九電と佐賀県知事との親密な関係、またやらせメール事件の引き金になったのは県知事の指示である、という評価を下しました。いっぽうの九電側は、すべて九電のコンプライアンス意識の欠如、企業風土の問題であるとして、もっとも肝心なところでは「事実」には触れず、「評価」をもってやらせメールの原因と断定し、最終報告としました。勝手な野次馬が風説を流布しているのであれば無視するのが一番かもしれませんが、やはり九電ご自身が選任された第三者委員会が公式に確定した事実がある以上、この事実をどう受け止めるのか、もし否定されるのであれば、その根拠はどこにあるのか、これを説明しなければ、やはり説明責任を尽くしたとはいえないと思われます。九電に対するものではありませんが「佐賀県知事が指示を否定するのであれば、知事も第三者にきちんと調査をさせて、報告書を出せばよい。それをせずにただ否定するのは何も反論できない証拠である」と第三者委員会の委員長が述べておられたのも、同様の趣旨ではないかと。

先のオリンパス社の事例にしましても、たしかに一方当事者のお話ではありますが、まがりなりにもこれまでオリンパス社の代表者の方の指摘した「事実」でありますので、この事実を真実と受け止めるのか、否定されるのか、やはり根拠事実を示してオリンパス社側としても説明する必要があるのではないでしょうか。説明を回避する方法としては、第三者委員会(社内調査委員会に外部委員が関与するものも含む)を設置して詳細な事実調査を委ねるか、もしくはすでに行政当局による調査が開始されているがゆえに回答を控えるか、いずれかしか選択肢はないものと思われます。

コンプライアンス経営に関する「事実」が元社長から公表されたわけですから、オリンパス社の企業価値に関わる問題ですし、マスコミ向けというよりも、一般株主向けに真実を説明すべき責任があるように思います。一方から「事実」が出てきた以上、もう一方のオリンパス社も「事実」を指摘し、最終的に「評価」をするのは株主であり、投資家であると考えます。

17日午前 追記

今朝のブルームバーグニュースでは、もっと詳細な記事が掲載されております。元社長が解職された3日前(10月14日)に、PWC作成による報告書がオリンパス社幹部のもとへ届いていたようです。このままでは行政当局の調査対象となるおそれがある、とのこと。(ニュースはこちら

本日、オリンパス社の株価はストップ安だそうですが、これはずいぶんと大きな問題に発展するのではないでしょうか。とりあえず、日本のマスコミも今朝は一斉に報じておられるようなので、会社側の対応を見守りたいと思います。とりあえず日本企業全体のガバナンスへの信頼が毀損されることがないように願っております。

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2011年10月16日 (日)

企業不正対応の実務Q&A(ACFE年次大会のご報告と共に)

Huseitaiou001 タイの洪水で被災された企業の皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。また事業再開にむけての有事対応を余儀なくされるところが多いそうで。今年は本当に厳しい年になりました。

さて、そろそろ書店に並んでいるようですので、新刊書をご案内いたします。10月7日、青山学院大学内のアイビーホールにて、第2回のACFE JAPAN年次大会が開催されました。おかげさまで募集人数を超えて満席状態となりました(詳しい報告はこちらをご覧ください)。

東証自主規制法人理事長のお話、証券取引等監視委員会事務局総務課長等をお招きしての鼎談、各界の有識者の方々による「日本と不正」をテーマとしたシンポなど、参考になるお話をいろいろと拝聴いたしましたが、なんといっても、私的に一番感銘を受けましたのは尼崎信用金庫国際部長(10月1日までは人事部長)の上野さんの「尼信でのCFEの取組み」でした。

「阪神タイガース預金」のお話は、尼信さんの営業面では重要な商品に関するものであり、会場でもずいぶんとウケておりましたが、関西人からみればどーでもいい「ツカミ」の話でありまして、とくに申し上げることもありません。しかし不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)を金融機関なりに分析してお話された内容は、具体的なものであり、非常に参考になりました。とくに融資予約に絡む不正がどのような経緯で発生し、その後、どのように大きな不正につながっていくのか・・・というあたりは、「銀行員もしょせんは人間であり、その弱みにつけこまれる隙間がある」ことを事例をもって理解できました(もちろん他社事例を参考にされてのお話だと思います)。経営陣、フロント、バックそれぞれに「不正の芽」が生じる可能性があるからこそ、尼信さんでは、各部署にCFE資格者を配置できる体制を今後目指していかれるそうです(現在は6名)。

また、世間では「カレログ」が物議を醸しておりますが、「尼信では、もうすいぶん前からGPS付きの通信端末を全営業マンは所持しています」とのこと。導入当初は、金庫内でもいろんな意見があったそうですが、経営トップが金融マンの行動倫理を率先して説いておられたこと、営業マンの安全配慮(おそらく事故に巻き込まれるとか、企業情報を紛失することを防止することがメインかと思われます)のための仕組みが具備されていることなどから、今では職員の方々にも、前向きに受け止められているそうであります。

尼信さんのお話でも認識しましたが、どんなに厳格な金融検査を受けていても、不正が発生する隙間は絶対になくならないのでありまして、これはどこの組織でも同様であります。このたび、上記年次大会開催と同時に、ACFEの理事を中心として「企業不正 対応の実務Q&A」(八田進二監修 ACFE編集 同文館出版 1800円税別)を出版いたしました。企業実務家の方々向けですので、不正対応といいましても、平易に書かれており、社内研修や不正の予防、早期発見のスキル向上に役立つように心がけております。私も16ページ分ほど、執筆させていただきました。主に不正調査を手掛ける弁護士、会計士が中心ですが、不正調査に取り組む実務家の方や学者の方にも執筆いただいておりますので、企業のご担当の方だけでなく、これからCFEの資格を取得したい、と思っておられる方のテキストにも最適かと。

Huseitaiou002 また、同時に「事例でみる企業不正の理論と対応」(八田進二監修 株式会社ディークエスト、ACFE編集 同文館出版 1800円税別)も併せて出版されました。近時の企業不正の事例紹介を中心に、不正対応の基礎理論と実務のあり方(実践編)をまとめたものです。ご執筆は、東大大学院を修了後、自衛隊で情報分析官をされ、その後リスクマネジメント会社を経て、現在ディークエストの課長でいらっしゃる高林真一郎氏によるものです。私も同じように関心を持った事例が出てきますが、専門の畑が違えば、これだけ違う視点から不正対応が考えられるのか・・・との印象を抱くと同時に、不正対応というのは、様々な専門領域を持った者による協働が不可欠であることを知らされました。こちらはまだ私自身読み終えておりませんので、また後日ご紹介させていただきますが、併せてご購入いただけますと幸いでございます<m(__)m>。

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2011年10月14日 (金)

ゼンショー社の経営判断とレピュテーションリスク

「すき家」を運営するゼンショーさんが、警察庁による防犯体制強化の要請を受け、来年3月からは深夜の営業店舗に複数従業員体制を敷くことを発表されたそうであります。私は体調面への配慮から、深夜に食事をすることを控えておりますので、あまり存じ上げないのですが、「すき家」の店舗では深夜の従業員一人体制が恒常化していることが要因となり、外食店舗における強盗事件の8割から9割程度が「すき家」で発生しているとのこと。だとしますと、まぁ常識的に考えますと警察から防犯体制について要望が出るのも当然のことかと(読売新聞ニュースはこちら「警察庁指導受けた『すき家』、夜間勤務を複数に」 )

私は、かつてのヤマハ発動機さん、プリンスホテルさん、ファッションしまむらさんのような「闘うコンプライアンス」を敢行される企業さんが大好きなので、警察庁からの要請に対して、ただペコペコするだけではなく、正しいと思うところがある時には、堂々と主張はすべきと常々考えております。そこで今回の件でも、ゼンショーさんのコメントにも期待していたのでありますが、

「経営を度外視してまで防犯体制を強化する必要があるのか考えたい」

と、当初は広報されていました(たぶん、ホンネではないかと・・・)。ただし、ゼンショーさんの公式ツイッターでは、読売新聞の報道内容について否定しておられます。念のため。 しかし、従業員の職場環境配慮義務を負う企業が「経営を度外視してまで防犯体制を敷く必要があるか?」と開き直ることは、「闘うコンプライアンス」が大好きな私からみましても、さすがにちょっと・・・と思われます。2009年に、労働法違反をパートの女性店員から指摘され、刑事告訴をされたことへの反攻として、この女性店員が「ごはん5杯」をただ食いした事実を(ビデオ撮影を証拠として)「窃盗罪」として逆に刑事告訴したゼンショーさんの姿勢をひさしぶりに思いだしました(^^;;。(ちなみにこちらのエントリーです)。

しかしレピュテーションリスクを考慮されたのでしょうか、当日のうちに、ゼンショーさんは先の広報を一転して撤回し、

「深夜の複数従業員制を採用しても、牛丼の価格に影響を及ぼさないことが経営判断として明らかになったので、防犯体制に全面的に取り組む」

と公表されたそうであります。従業員の職場環境配慮だけでなく、強盗事件にお客様が巻き込まれる可能性もあるわけですから、ここは防犯体制への取り組み姿勢を示す必要があると思います。とくにゼンショーさんの場合は、カップルや女性のみのお客さまも多いと聞いておりますので、そのあたりの配慮は不可欠かと(ただ、よくよく考えますと、撤回前の広報内容と、撤回後の広報内容とでは、「一転して」といえるほどの違いがあるのかどうか、私には理解困難なのでありますが・・・・)

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2011年10月13日 (木)

どうなる?ゲオ社のガバナンス(速報版)

(13日深夜:追記あります)

すでにご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、本日のゲオ社臨時株主総会にて、株主側より提案されておりました定款変更議案(取締役の任期2年→1年)、および社外取締役5名の選任議案が、いずれも賛成多数で可決されております(可決要件を満たしているかどうかは昨日までに判明していたのでしょうね)。これでゲオ社は取締役が12名となり、うち5名が検察OBの弁護士、会計士等を含む社外取締役で構成されることになりました。(リリースはこちら

記者さんからお聞きしましたが、「紛糾必至」と言われていた臨時総会でしたが、わずか20分程度で終了、株主からの質問数も6問程度、ということで、実際に総会に出席された方々にとってはちょっと物足りなかったのかもしれません。かくいう私も、以前のエントリーで述べておりましたとおり、本日、ゲオ社における「不明朗取引」(と、一部で主張されていた事実)に関する監査役会報告が出されるのでは?と期待をしておりました。しかし、残念ながら、本日までに調査が間に合わず、後日報告します、ということになったようであります。

今後、代表者がどうなるのかは、取締役会で決まることになると思いますが、いずれにせよ、取締役の任期が1年とされたうえで、12名中5名が社外取締役・・・・というのは上場企業でもかなり珍しいですし、その顔ぶれを拝見しましても、子会社を含むゲオ社グループのコンプライアンス体制の構築という意味では十分に期待できるのではないでしょうか。とくに子会社における不適切な取引を早期に発見できる体制作りが第三者委員会によって喫緊の「再発防止策」とされておりましたので、そういった体制整備、整備された体制の運用状況については透明性の高い審査がなされるのではないかと。また、社内に未だ眠っているような過去の不明朗な問題などが存在するのであれば、そういった調査活動などもなされるかもしれません。

ゲオ社のガバナンスが今後どうなるのか、注目したいと思います。とりいそぎ、速報版で失礼します。

13日深夜:追記

ゲオの臨時株主総会に出席されたZaimaxさんのブログに詳細が報じられておりますので、ご興味のある方はそちらをご覧になることをお勧めします。企業さんにとって、Zaimaxさんのような100社以上の単位株を保有する株主様については、いろいろとご意見もあるかもしれませんが(失礼があればごめんなさいです<m(__)m>)、当日出席株主の票数が重要な場合に配られる出席票と、前日までの議決権行使によって、すでに議案の賛否が決せられている場合の出席票とでは、内容が異なることなど、会社法を学ぶ者にとりましても、株主総会運営実務の勉強になり有益かと思います(先日も申し上げましたとおり、「大物与党総会屋」さんも登場するあたりも面白い)。

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2011年10月12日 (水)

非上場大会社の法令遵守態勢はどうすれば向上するか?

10月10日の日経朝刊「法務インサイド-傍聴席」にて、日本公認会計士協会会長の山崎氏が、非上場大会社に(会社法で義務付けられている)会計監査人をきちんと設置すべきである、と述べておられます。資本金5億円基準だけで調査しても、日本では会計監査人が設置されていない大会社が500社程度存在するとか。また、天竜川下りで痛ましい事故を発生させてしまった天浜鉄道(資本金6億3000万円)では、適法な取締役会が開催されていなかったようであります。取締役の代理出席が恒常化していたり、書面決議をもって取締役会開催に代えていたとのこと。こういったガバナンス不在の状況が安全管理に影響を及ぼしていたのではないか、と報じられています(ちなみに取締役会を適法に開催せずとも、会社法には罰則はございません)。

やはりこうやっていろいろな問題が報じられますと、上場企業のガバナンスと非上場大会社のガバナンスでは、法令遵守態勢においてかなり差があるように思えます。ただ、非上場大会社への会計監査人設置問題につきましては、会社側に設置に関するインセンティブが働きにくいためになかなか進まないようであります(会計監査人に報酬を毎年払うよりも、見つかったときにペナルティを払うほうが安くつく)。本日、ある研究会でお聞きしましたが、都銀に勤務されておられた方のお話では、銀行融資においては、とくに会計監査人の「適法意見」について関心を示すものではなく、稟議を上げるときにも、決算書は添付するけれども、監査人の意見については添付しないとのことでした(もちろん、以前の問題であり、現在はどうかはわかりませんが)。一番の要因は「金融庁の検査において重点項目とされていないから」とのことです。

また、会計監査人の設置が義務付けられる「大会社」かどうか・・・ということについて、それなりに銀行としても意識するそうですが、担当者が社長さんに「負債が200億を超えましたよね?」と尋ねると、社長曰く「ああ、そう?でも大丈夫、少し返したらまた200億切れるから」といった感じで、法令違反状態を全く意にも介しないそうであります。結局のところ、金融検査の在り方が「会計監査人重視、ガバナンス体制のチェック重視」にならないかぎり、銀行も融資にあたっての審査体制は変わらないのであり、したがって非上場大会社としても法令遵守態勢を構築する機運は盛り上がらないのではないかと(ただ、都銀出身の方のお話では、さすがに今回の林原社の件は、非上場大会社の会計監査人問題を真剣に検討するきっかけになるのでは・・・とのお話でした)。

本日の研究会で初めて知りましたが、非上場大会社の会計監査人の方々は、結構「不適正意見」を出しておられるそうです。やはり開示の対象が限定されていることもあって、不適正意見を出しやすいのでしょうね。しかし、そうであるならば、非上場大会社に会計監査人が設置されたとしても、経営陣はどこまで監査人の意見に従って財務報告の信頼性を向上させるようになるでしょうか?とくに不適正意見を出されても融資に影響がないのであれば「いたくもかゆくもない」といった対応をとる社長さんがいらっしゃるのではないでしょうか。また、そもそもそういった強者の社長さんがいらっしゃる会社の会計監査人を、まともな会計士さんが受けるのでしょうか?もし受けないとなりますと、またまた「わけあり会社」と手を組む会計士の方々の独壇場となって、なにか事件が発生するたびに会計監査の信頼性を毀損する方向に向かうのではないかと。普通に考えますと、どうもそんな気がしてきてしかたありません。

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2011年10月10日 (月)

「一次不正」の前に潜む「予備不正」と社内ルールの効用

何度も当ブログで取り上げておりますゲオ社の内紛劇ですが、昨日週刊ダイヤモンドの特別記事として詳細が報じられております(不祥事続出の問題企業ゲオお家騒動の全貌)。これまで報じられてこなかった背景事情なども含め、実におもしろいです。高橋篤史さんの「兜町コンフィデンシャル」に登場する「わけあり」会社の株式投資に関する話なども出てきて野次馬的にはワクワクしそうな内容であります。いよいよ臨時株主総会が目前に迫ってきましたが(10月13日)、いったいどのような展開になるのでしょうか(取締役が12名になってしまうのかな・・・)。東京の複数の大手法律事務所が、様々なところで関与されているそうですから、ものすごいバトルなのでしょうね。ちなみにゲオ社の社外監査役でいらっしゃるN弁護士とは某委員会で懇意にさせていただいているので、監査役の視点から、また(守秘義務に反しない範囲で)後日、顛末をお聞かせ願えれば・・・と(^^;;。

(ここからが本題でありますが)

私のオフィシャルな講演活動の履歴については当事務所のWEBページ「新着情報」に記載しておりますが、最近は(WEB上にはご紹介を控えております)個別企業さんのご依頼で講演・研修に伺うことが多くなりました(本業の繁忙期と重なり、だいぶお断りするケースも増えており恐縮なのですが・・・)。興味深いのは、一度おじゃました企業さんから二度目のお声掛けをいただく際、「今度は営業部門向けのものをやってほしい」「生産現場向けのものをお願いしたい」「技術開発部門向けのものはできますか?」といった、少し分野別のコンプライアンス対応についての講演ご依頼が多いことであります(あと、役員向け、幹部社員向け、一般社員向け、と3つに分けてご講演をお願いしたい、というご要望も多いです)。

こういったご要望にお応えしようとしますと、前に他社向けで使った資料を「使いまわし」することが困難ですので(笑)、自身の本業からの経験と、普段のお付き合いのなかで認識した事情、そして他社事例に関する第三者委員会報告書などを参考にして資料を一から作ることになります。そのような過程におきまして、営業社員や生産・技術社員の不正を検討するなかで、一般に社内不正として紹介される行動の前に、「予備不正」なる問題行動があるのではないか・・・ということが気になりました。

社内不正のなかで、不正発見がとりわけ困難なのが営業担当社員、技術開発担当社員の不正です。営業担当社員の不正は社外で行われることが多い点、技術開発担当社員の不正は聖域化した職場での専門的知見を要求されるなかで行われる点において、いずれも管理部門において不正が早期に発見できない共通点があります。したがいまして、コンプライアンス研修といいましても、企業倫理に重点が置かれたり、また不正発覚後の第三者委員会報告書の「原因分析」をみましても、「ノルマ達成の厳命によってストレスを感じていたため」とか「行政機関の検査を一回で必ず通すことが厳しく命じられていたため」といった、いわゆる不正の動機部分に焦点があてられたりします。

しかし、営業社員が架空売上計上のために書類を偽造したり、ノルマ達成のために架空循環取引に関与するのは、たしかに「売上目標のプレッシャー」からであることに間違いないのですが、仔細にみていきますと、小さなミスから顧客クレームを受け、これを取り繕うためであったり、取引先担当者との個人的な貸借関係から、新規の取引先の紹介を受け、その取引先の債権回収が困難になったことが原因であったりすることが多いようです。つまり小さな不正が先にあり、その不正を挽回しようとするうちに、犯罪に近いような大きな不正に手を染めてしまうということでして、その「小さな不正」の原因はといいますと、営業担当社員の場合は、取引先や同業他社担当者、顧客との不明瞭なお付き合い・・・ということが発端となっているように思えます。

また、技術開発担当社員の不正といいますと、代表的なのが「性能偽装」事件やリコール隠し事件でありますが、これも私の経験や第三者委員会報告書の記述などを参考にしますと、品質管理については非常に定評のある業界トップ企業で発生していることがわかります。性能偽装事件を起こすような企業だから、さぞや安全面を軽視している企業ではないか、との印象を持たれそうですが、実はそんなことはなく、他社と比較しても社内における安全・安心に対する意識が強い企業が多いと思われます。それだけ「社内における品質管理に関する要求事項が厳しく、プレッシャーが強い」ことだからこそ発生するようにも思えます。しかし、これも仔細にみていきますと、①行政機関の検査官よりも、当社のほうが安全技術に関するレベルは上である、②どっちみち、出口(出荷時)で行政検査よりも厳しい安全基準の検査をやるのだから意味がない、③長年チェックしているのだから、社員の勘に頼るほうが安全、手順は省略しても大丈夫・・・といった技術部門の認識があるため、「チャンピョン品で行政機関の検査を通すことも、一連の手順のひとつ」というのが常態化してきたところではないかと。

ステークホルダーとの信頼関係の構築、社内における品質管理の徹底ということは、企業価値の源です。しかし、裏を返せば「取引先との不明朗なおつきあい」「優秀な技術者としての奢り」につながるものでありまして、これは長所を伸ばそうとすればするほど、必然的に生じる短所ではないかと思います。これを「予備不正」と呼ぶことが適当かどうかは別として、そのまま放置することで、「一次不正」に発展するリスクが高くなるわけでして、「怪しい」と気づく者がいればよいのですが、そのような勘の鋭い社員が存在しない場合、そこに社内ルールの存在価値があるのではないでしょうか。

これは、あるシンポの終了後、当該シンポ登壇者の方からお聞きした話の引用ですが、アメリカのFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)の取締強化が進んでいるなかで、なぜ司法省当局が企業の内部統制システムの構築を奨励しているかといいますと、営業担当社員が社内ルールに反する行動を行っている場合には、規制対象行為の故意を認定しやすくなるばかりでなく、社内ルール違反の事実を間接事実として、規制対象行為の事実を認定しやすくなるから、というものでした。ちょっとこの解釈はコワイ気もしますが、単に企業の内部統制システム構築が情状として斟酌されるだけでなく、犯罪事実の認定にも影響を与えるということもありうることは肝に銘じておくべきことと感じております。

さて、この社内ルールの効用はいろいろと考え付くところがありますが、本日は長くなりましたので、またの機会に詳細に検討してみたいと思います。

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2011年10月 7日 (金)

SMBC日興証券執行役員のインサイダー疑惑

10月6日の日経新聞ニュースによりますと、SMBC日興証券の社員(執行役員)が、今年2月、エノテカ社のMBOに関する情報を、公表前に知人金融会社役員に伝え、当該金融会社役員がエノテカ株式を購入、公表後に売却したとして、当該金融会社役員とともにインサイダー疑惑で強制捜査の対象となっているとのこと。ちなみに日興さんは公開買付代理人として関与していたものです。

SESCさんが、すべてのインサイダー事件を摘発できるかどうかは別にして、リスク・アプローチによる調査手法からすれば、賛同意見表明型のMBO事案(関係者が未公表情報を共有する範囲が広い)、しかも株主から相当に批判の出た事案(上場から廃止までの期間が非常に短い)において、疑惑の値動きが調査の対象になることはむしろ当然のことではないかと思われます(元々、取引所の審査にひっかかったのか、SESC独自の調査によるのかはわかりませんが)。

気になるのは、日興証券側のチャイニーズウォールですが、上記の日経ニュースによると、疑惑の執行役員さんは投資銀行部門を統括されておられるようですから、もともとM&A事案については情報が集約されてくる立場にあるのでしょうね。したがってneed to knowのルールが破られた、というわけではないようです。(チャイニーズウォールが機能しなかった、とすれば一大事ですね(^^; )ただ2009年ころから、当該金融会社役員の方が未公表情報によって売買を繰り返していた、と報じられているところは気になりますが。。。

他の案件の主幹事証券たる地位に影響する等、証券会社の場合は、単なる個人の犯罪では済まないと思いますので、今後のSESCさんの調査が気になるところです。そういえば、特別調査案件といえば、3が月前ころに、あの経産省幹部のインサイダー疑惑がありましたが、その後、どうなったんでしょうね。西友インサイダー事件のように、結構「落としどころ」がしんどい状況になっているのでしょうかね?

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2011年10月 5日 (水)

企業のBCP(事業継続計画)論議に対する素朴な疑問

ひさりぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。災害時における企業の危機管理の一環としてのBCP(事業継続計画、ちなみに損失の危険の管理・・・というのであればBCMのほうが近いように思います)について、いろんな方のご意見を拝聴しております。とりわけ来年にはISO認証の対象となるBCP(正確にはBCMでしょうけど)でありますが、考えるほどに素朴な疑問が湧いてきました。

東日本大震災から半年が経過して、「当社ではBCPが有効に機能した」と言われる会社さんの話を聞いておりますと、結局のところ、「うちの事業が継続できたのは、他の会社のBCPが機能しなかったおかげ」とか「うちはきちんとBCPが機能したから、他の同業者に比べて商品を運ぶ貨物自動車の手配もできたし、商品も押さえることができた。つまりBCPは早いもん勝ちの世界である」、「うちはトップメーカーなので、被災地支援についての政府要請があり、そのために商品輸送にも便宜があった」というもの。要は力があったり、先んじて動いたからこそ機能した、というのが現状ではないかと。おそらくBCPを整備していても、対応が少しでも遅れてしまえば加速度的に目標の業績を達成できない確率が高くなる、というのがホンネのところではないでしょうか。たとえばBCPをまじめに考えますと、取引先に対して「在庫は半年分程度、保管しておくように」と要求することになりますが、これって物流の効率化を図って必死に業績を維持している中小の企業に対してどう受け止められるのでしょうか?

最近はリジリエンス(想定外の事態に陥っても、しなやかに回復する力)などと美辞麗句のように謳われるBCP(事業継続計画)でありますが、機能した部分は初期対応としての社員の安否確認や、帰宅指導等の部分でありまして、工場を稼働するための最低限度の材料の確保等、本当に事業を継続するために必要な部分については、つまるところ弱肉強食の世界であり、サプライチェーンBCPといった「みんなで頑張るBCP」の成功例というのはごくわずかではなかったでしょうか。なかには某自動車会社のように、社員がサプライヤーのところへいって、復旧の手伝いをしてサプライチェーンを復活させた成功例というものもあるようですが、これも結局は「力の支配」によるものではないかと。

たとえばBCPの発動要件についてみてみますと、「震度6強」の地震が発生した場合には非常事態宣言を社長が発令する、といったことで比較的明確かもしれませんが、原発事故等の二次災害によるケースや、台風による被害が発生した場合など、誰が「これはBCPの発動要件に該当する」と判断するのでしょうか?その判断権者のところへは、判断に不足のない程度の情報が集まる体制はどこまで整備すれば良いのでしょうか?さらに、競業他社との協力合意やサプライチェーンBCPについては、他社の発動要件と自社の要件とに食い違いが生じた場合はどうしたら良いのでしょうか?有事に切り捨てるべき事業の優先順位を考えておくように、とのことですが、平時の段階で「切り捨ての順番」を社員も知ってしまうのでしょうか?まだまだありますが、こういうことって、素朴に疑問に思うのでありますが。平時だからこそ考えておく必要があるのは理解できるのですが、これを考えることによって平時の組織に軋みが生じないのでしょうか?

震災後、海外の取引先からBCPの運用状況について聞かれる企業もあるそうです。以前はBCP訓練をしているとだけ答えていたものが、最近は「どのような訓練をしているのか?そのパフォーマンスの評価は?」とまで質問されるとのこと。ISOはプロセスを第三者機関が認証する、ということのようですから、とりあえずPDCAがしっかりしていればよいのかもしれません。しかし、BCPは今後「オールジャパン」で取り組むべき喫緊の課題だそうですから、本気で社会のインフラになるかどうか、検討していくべき問題が山積しているように思えて仕方ありません。

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2011年10月 4日 (火)

セミナーのお知らせ(東京開催)-取締役会と役員が知るべきリスクマネジメント

迷える会計士さんから教えていただきましたが、「日経ビジネス」WEBサイトにて、このたびの大王製紙さんの元会長辞任問題に関する記事を読みました(時事深層-大王製紙にみる企業の不統治)。従来から、元会長さんへの貸付金84億円の使い道については週刊誌ネタにもなっており、世間の興味もそちらに集まるものとは思いますが、当ブログでも以前から関心を寄せております「ガバナンス不全」に視点を置いた記事は初めてではないでしょうか。ちなみに、「元関係会社社員」さんがコメントで書かれていたとおり、この会社のガバナンスは「2代目創業家さん」その方自身であり、3代目の元会長さんが辞任されたのも、この2代目の方の絶大なる権限に基づく・・・というのが、結構真相に近いのではないかと推測しております。

この大王製紙さんのガバナンスを論じる場合にも、注意が必要なのは「子会社の利益相反取引」について、どれだけ親会社役員が目を光らせることができるのか?子会社にも役員がいるのだから、その子会社役員さん方のガバナンスを信頼していれば親会社役員は非難されなくても良いのではないか?といった問題であります。以下は、かりに会社に損害が発生した場合、という前提での話になりますが、私は基本的には子会社のガバナンスに信頼を置くことは妥当であるが、「異常な兆候」について、親会社役員が通常の職務執行をしていれば気が付くほどの「外観」を呈している場合に、見逃しに関する法的責任が問われるものと考えております。そして、(以前も書きましたが)2011年3月期の有価証券報告書に注記された関連会社の取引状況のところに「短期貸付金」として、関連会社から元会長さんに23億ほどの貸付金が存在することが、この「異常な兆候」にあたるかどうか・・・が問題になるものと考えています。

さて、上記日経ビジネスさんの記事にもあるように、「創業家オーナーの上場企業のガバナンス」という理由で、本件を片付けてしまうと思考停止に陥ってしまうと思います。たとえば社外役員を例にとるならば、業界や各企業の経営環境は常に同じではなく、いろんな局面に立たされますので、その経営環境と同時に変化する社内リスクを正確に読み取る才能(もしくは努力)が必要ではないかと。恥ずかしながら、私も監査役として、法律の専門家であるにもかかわらず、この局面の変化に伴うリーガルリスクを認識できず、失態を演じてしまったことが過去にございます。これは会社にとっても大きな損失であります。普段は経営陣と信頼関係を築き、重要なビジネス情報が常に入る体制を整えておく必要があります。しかし、いざリスクを認識した場合には、これを気兼ねなく役員会で述べる必要があります。ただ、ふだん経営陣と仲よくしていればいるほど、このリスク認識の意識が希薄となり、肝心なときにボーっとしてしまうのであります。

業績が良いときのリスク管理(予防措置)、リスクが顕在化したときの火消し(クライシスマネジメント)については、毎度申し上げるとおり、お金を出せばよいコンサルタントは見つかります。いわば「お金で買えるリスクマネジメント」。しかしリスクの早期認識(早期発見措置)はどんなにお金を積んでも買えません。役員の方々のリスク感覚が試されるところであり、企業に大損害が発生するか、何事もなく事態を収拾させることができるかの分水嶺となります。たとえばM&Aで買収した老舗企業A社の代表者は反社会的勢力との「密接関連者」である、とのA社社員による内部通報があったが、真偽不明という場合、あなたが担当役員ならどのような対応をしますか?あなたご自身のリーガルリスクがこわいですか?それとも会社のレピュテーションリスクがこわいですか?

今回、BDTI(公益社団法人会社役員育成機構)におきまして、トーマツさんと一緒に、取締役、会社役員が知るべきリスクマネジメントに関する講演をさせていただくことになりました(10月28日午後3時半より、場所はトムソンロイターさんの赤坂オフィス・セミナールームです。ご案内はごちらでございます)。「お金で買えない価値」については私が、そして「お金で買える価値」(?)についてはトーマツさんがご紹介したいと思います。

また、昨日ご紹介したドッド・フランク法922条とも関連しますが、近時FCPAや海外での賄賂規制法の執行事例が増えていることから、BDTIさん主催の「グローバルな腐敗防止法の波:会社役員が知っておくべきこと」なるセミナーが開催されます(これ、私自身が、いま一番聴講したい話題であります。詳しいご紹介はこちらです)。ホント、みなさんどうされます?カルテルなら、なんとか内部統制によって未然防止も可能でしょうし、そのために真剣に対応しておられるところも多いかと。しかし、外国公務員(もしくは公務員らしき人)への利益供与って、本気で防止できますか?連日、新聞では日本企業の海外展開、M&Aの活発化が報じられるなか、御社だけは絶対にクリーンな交渉で闘えますか?もとより違法行為を勧めることは絶対にございませんが、リスクを承知でグレーゾーンへ飛び込むのと、リスク自体を知らずに飛び込むのとでは、企業の損失に大きな差が生じることは間違いないわけでして、そのあたり、どのようなリスクがあるのか、ご認識いただく良い機会になるのではないかと思います。

どうか上記セミナーにご興味、ご関心がございましたら、ぜひお越しくださいませ<m(__)m>。

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2011年10月 3日 (月)

ドッド・フランク法922条と企業のコンプライアンス・プログラム

先日のオリンパス事件高裁判決あたりから、マスコミ等でもドッド・フランク法に関する話題などが取り上げられておりますが、あの922条の「内部告発奨励条項」は、多くの金融規制の条文のうちのごくごく一部でありまして、金融規制に詳しい方々は、また「ドッド・フランク法」といいましても、別の話題を取り上げることが多いのではないかと思います。

100万ドル以上の制裁金賦課となる証券諸法違反事件(ただしFCPAなども含みますので、日本の企業も要注意)等を告発した人に、その制裁金の10~30%の報奨金が付与される、いわゆる内部告発奨励制度も、今年5月に規則が公表され、8月12日より施行されております(ホームページも出来上がったようです)。もうすでに報奨金請求がなされているように聞いておりますが、どうもWSJの記事によりますと、このドッド・フランク法の施行規則制定手続きに不備があると連邦控訴裁で指摘されたそうであります。不備を訴えていたのは米国商工会議所だそうで、いわゆる行政手続きに瑕疵がある、ということなんでしょうね。

内部告発奨励制度の運用によって企業の費用が膨らむわけですが、その負担によって消費者、投資家の保護が適切に図れるのか、市場の健全性確保が実現するのか、その「費用対効果」の分析がSECによって恣意的になされた、ということのようです。「費用対効果の分析」で思い出されるのがSOX法404条C項を中小の上場会社に適用させるかどうか、の議論であります。高額の内部統制監査証明制度を中小の上場会社に負担させることで、本当に投資家の保護、市場の健全性確保に多大な効果が得られるのか、その費用対効果が立証できないとして、何年も適用が延期になり、ついに昨年9月には内部統制監査制度を中小の米国上場会社には永久に適用しないことが決まりました(適用済の大会社でも簡素化が図られました)。今回の件でも、今後はSECがさらに分析を検討しなければいけないのでしょうね。したがいまして、内部告発奨励制度自体が裁判所によって疑問視されている、というわけではないようです

ただ、DF法922条の規則制定の段階で、いきなりSECに告発するのではなく、できるだけ社内への通報をさせるためのインセンティブが設けられるようになったものの、やはり直接告発の道は選択できるわけでして、この告発奨励条項が、企業のコンプライアンス構築の意欲を減退させることになるのでは・・・との疑問がそのまま残ることは間違いないと思います(SECは強く否定しておられますが・・・)。企業自身が不正を早期に発見して、自ら不正を公表し、再発防止策を構築する・・・という一連の「自浄作用」こそ投資家保護、市場の健全性向上に資するように思うのでありますが、そういった理想と現実のギャップは大きく、やはり内部告発という即効性のあるコンプライアンス手法に(消費者保護、リーマンショックを二度と繰り返さない、との視点からは)大きな魅力がある、ということなのでしょうか。

前橋市の報奨金制度の頓挫(市民の批判によって市長が一日で撤回)・・・というあたりをみますと、こういった内部告発報奨制度が直ちに日本でも適用されるとは思いませんが、ひょっとすると、日本でも「不正防止は内部統制から内部告発へ」といったことが真面目に検討される時期が到来するのかもしれません。

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2011年10月 1日 (土)

九電やらせメール事件にみる第三者委員会設置のむずかしさ

本日(9月30日)午後、九電のHPに今回のやらせメール事件に関する第三者委員会報告書、弁護士チームによる調査対象ごとの報告書2部が掲載されました(九州電力ホームページ)。前のエントリーで私が「九電さんは、とんでもなく内部統制がしっかりしているのではないか」と書きましたが、この報告書をお読みいただきますとおわかりのとおり、委員の方々の(同様とまでは申しませんが)これに近い印象が調査結果として詳細に書かれております。

現在、私も某会社の調査委員をしておりますが、私の場合は社内調査委員会の外部専門家委員として入っておりますので、(とんでもなく忙しいですが)このような第三者委員会の苦しみは味わっておりません。ちょっと時間がとれないので、まだ第三者委員会報告書しか読んでおりませんが、企業コンプライアンスにご興味のある方は(メルシャン事件の報告書以来の)必読書ではないかと。。。以前、常連の経営コンサルタントさんがコメントされていたとおり、プルサーマル佐賀県討論会の「仕込み質問」に関する事実調査は秀逸だと思いました。おそらく廃棄された資料をつなぎ合わせて執念で調査をされたのでしょう。頭が下がります。なお、恥ずかしながら「ソーシャル・ガバナンス」や「企業ドック」なる用語は、私自身存じ上げませんでした。

この最終報告書についての九電さんの紹介文がスゴイ。(第三者委員会ならびに弁護士チームに対して)短期間に公正独立の立場でここまで調査されたことに厚くお礼申しあげます、としながら、

第三者委員会からいただきました今回問題の本質や、再発防止、信頼回復に向けての提言及び要望等につきましては、社内で早急に検討した上で、当社の「最終報告書」に反映し経済産業省へ提出することとしています。

うーーーむ。普通、不祥事を起こした企業の最終報告書は、調査委員会の報告書(要旨)を添付したうえで、同時にリリースするわけですが、この様子からしますと、またまた第三者委員会報告の内容になんらかの反論をして、社会に公表、経産省に報告・・・となるわけですか。第三者委員会報告書のなかにも、「中間報告の際に、九電側から意味不明な反論があったのはけしからん」として委員の方はけん制されておりますが、その「けん制」にもめげず、また九電側としては何か対応されるような気もします。

最近の大手メーカーさんや一次サプライヤーさんが「地産地消」を展開するために、次々と海外に進出していく背景には6重苦のひとつである「電力価格の先行き不透明」が大きな要因になっているでしょうし、電力価格の安定が、いままさに国策であることを考えますと、「なんでやらせメールくらいで辞任しないといけないの?国家の将来、子供の将来のために、なんとしてでも安定供給の道筋をつけなければ国民に申し訳ない」というのが九電社長さんのホンネではないかと。ただ、やはり社会の意識が3月11日を境にして変わったのでありまして、プルサーマル佐賀県討論会の頃と同じような県知事と公共事業会社との関係が許容されるとは、到底私も思えません。

かつて日弁連の第三者委員会ガイドラインを作成したおひとりである國廣正弁護士が、日経新聞のインタビューで

委員会設置にあたっては、就任直前の経営トップとの協議が重要である。ここで、きちんと委員会と会社との関係をはっきりさせないといけない。私なんか、会社から委員就任の要請を受けて、最初の経営トップとの協議の時点で、3社のうち2社からは要請をひっこめられる。

と述べておられました。ホント、この九電と第三者委員会との関係を眺めておりますと、どこまで詰めて最初の協議がなされたのだろうか・・・・・と、そこに興味を抱くと同時に、こういった反応が会社側から返ってきますと、本当にしんどいだろうなあ・・・と感じます。とりいそぎ、第一印象のみ記しておきます。

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