九電やらせメール事件にみる第三者委員会設置のむずかしさ
本日(9月30日)午後、九電のHPに今回のやらせメール事件に関する第三者委員会報告書、弁護士チームによる調査対象ごとの報告書2部が掲載されました(九州電力ホームページ)。前のエントリーで私が「九電さんは、とんでもなく内部統制がしっかりしているのではないか」と書きましたが、この報告書をお読みいただきますとおわかりのとおり、委員の方々の(同様とまでは申しませんが)これに近い印象が調査結果として詳細に書かれております。
現在、私も某会社の調査委員をしておりますが、私の場合は社内調査委員会の外部専門家委員として入っておりますので、(とんでもなく忙しいですが)このような第三者委員会の苦しみは味わっておりません。ちょっと時間がとれないので、まだ第三者委員会報告書しか読んでおりませんが、企業コンプライアンスにご興味のある方は(メルシャン事件の報告書以来の)必読書ではないかと。。。以前、常連の経営コンサルタントさんがコメントされていたとおり、プルサーマル佐賀県討論会の「仕込み質問」に関する事実調査は秀逸だと思いました。おそらく廃棄された資料をつなぎ合わせて執念で調査をされたのでしょう。頭が下がります。なお、恥ずかしながら「ソーシャル・ガバナンス」や「企業ドック」なる用語は、私自身存じ上げませんでした。
この最終報告書についての九電さんの紹介文がスゴイ。(第三者委員会ならびに弁護士チームに対して)短期間に公正独立の立場でここまで調査されたことに厚くお礼申しあげます、としながら、
第三者委員会からいただきました今回問題の本質や、再発防止、信頼回復に向けての提言及び要望等につきましては、社内で早急に検討した上で、当社の「最終報告書」に反映し、経済産業省へ提出することとしています。
うーーーむ。普通、不祥事を起こした企業の最終報告書は、調査委員会の報告書(要旨)を添付したうえで、同時にリリースするわけですが、この様子からしますと、またまた第三者委員会報告の内容になんらかの反論をして、社会に公表、経産省に報告・・・となるわけですか。第三者委員会報告書のなかにも、「中間報告の際に、九電側から意味不明な反論があったのはけしからん」として委員の方はけん制されておりますが、その「けん制」にもめげず、また九電側としては何か対応されるような気もします。
最近の大手メーカーさんや一次サプライヤーさんが「地産地消」を展開するために、次々と海外に進出していく背景には6重苦のひとつである「電力価格の先行き不透明」が大きな要因になっているでしょうし、電力価格の安定が、いままさに国策であることを考えますと、「なんでやらせメールくらいで辞任しないといけないの?国家の将来、子供の将来のために、なんとしてでも安定供給の道筋をつけなければ国民に申し訳ない」というのが九電社長さんのホンネではないかと。ただ、やはり社会の意識が3月11日を境にして変わったのでありまして、プルサーマル佐賀県討論会の頃と同じような県知事と公共事業会社との関係が許容されるとは、到底私も思えません。
かつて日弁連の第三者委員会ガイドラインを作成したおひとりである國廣正弁護士が、日経新聞のインタビューで
委員会設置にあたっては、就任直前の経営トップとの協議が重要である。ここで、きちんと委員会と会社との関係をはっきりさせないといけない。私なんか、会社から委員就任の要請を受けて、最初の経営トップとの協議の時点で、3社のうち2社からは要請をひっこめられる。
と述べておられました。ホント、この九電と第三者委員会との関係を眺めておりますと、どこまで詰めて最初の協議がなされたのだろうか・・・・・と、そこに興味を抱くと同時に、こういった反応が会社側から返ってきますと、本当にしんどいだろうなあ・・・と感じます。とりいそぎ、第一印象のみ記しておきます。
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コメント
やっと公表されましたね。
私は、九電の姿勢、よいと思います。第三者委員会に就任される方々も勘違いしている節もありますが、本来、第三者委員会を設置する目的は、事案がおきた原因を客観的に分析し、統制環境や社内体制に潜む問題点を明確にして、再発防止に向けた内部統制システムの改善に資することにあると思います。その意味では、第三者委員会の報告書を盲目的に受け入れるのではなく、客観的検証を踏まえて、自社なりのPDCAサイクルを進めていくのは、本来あるべき姿であり、九電の内部統制システムに対する考え方が、この姿勢からも見て取れると思います。
理想論やありべき論でやたらと聖人君子的な提言をする第三者委員会報告書もありますし、自分達こそが正義と思っている方もいますが(今回の委員にもいたようですが)が、第三者委員会報告書が正しくて、自社の社内調査報告書が間違っているということではありませんので、要は、今後、九電が真摯に社内体制の改善・強化に取り組むことが出来るかの方がよほど重要だと思います。
詳細は、私もこれから検証してみたいと思います。
投稿: コンプロ | 2011年10月 1日 (土) 11時57分
第3者委員会の骨太の報告書並びにこれに至る手続きに感服するばかりです。久々に専門家としての真髄が見られたと感じました。これを受けて、監査法人による全社統制の評価等の内部統制報告はどのようにかなるのでしょうか。あまり期待できないと考えるのは私だけではないでしょう。会計士にもプロとしての気概を示すニュースがないのがさみしいです。
投稿: 某会計士 | 2011年10月 1日 (土) 15時11分
会社の価値観が社会的要請に反するかを評価する項目ははないので、このやらせ事件のみをもって全社統制に不備があるとはいえないでしょう。また、仮に情報の伝達などの面で不備があったとしても、財務報告の信頼性に影響があるという結論には至らないでしょう。前回のエントリでtoshi先生が皮肉っておられたとおり、やらせ事件をもって内部統制が有効でないというのは難しいと思います。
投稿: JFK | 2011年10月 2日 (日) 21時13分
皆様、ご意見ありがとうございます。
本日、某所にて、日弁連・第三者委員会ガイドライン作成に関与された某先生と、本件に関する意見交換をさせていただきました(その内容は、また後日エントリーにて)。
最近、第三者委員会の役割が認知されてきたことは喜ばしいのですが、そのいっぽうで、こういった第三者委員会の信用を活用して、自らの保身に役立てようという社長さん、理事の方々が増えている(また、これに応諾する弁護士もおられる)弊害も出ているようです。これからの課題かと思います。
投稿: toshi | 2011年10月 4日 (火) 01時31分