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2011年10月18日 (火)

オリンパス解職騒動-社長による「内部告発」は事実の重みが違うのでは?

(18日お昼:追記あります)

昨夜に引き続き、オリンパス社の元社長解職騒動に関するエントリーですが、ウッドフォード氏(元社長)がオリンパス社の不明朗な報酬支払に疑惑を抱いたのは、FACTA誌が今年7月に掲載した記事によるもの、とのことであります。

ただ、本日(17日)のフィナンシャルタイムズによる新しいインタビュー記事によりますと、たしかに元社長さんが疑惑を抱いた発端は上記月刊誌の記事だとしても、その後元社長が独自の調査を進め、過去に監査を担当していたKPMG、E&Yからも、疑惑のM&Aにまつわる会計処理については限定付きの監査報告書が提出されていたことが判明したそうです。また、元社長が独自に依頼をしたPWCの調査結果についても、上記記事にありますとおり、問題点が指摘されております。そこで、元社長さんは、経営トップとして「内部告発」をされたそうであります(上記FT記事の表現より)。

昨日のエントリーと同じことを述べるようなものですが、この元社長さんが、軽々に会員制月刊誌の内容を信じ込んで、確たる証拠もなく経営陣に退任を迫ったのであればそれほどの問題ではないかもしれません。かつて、私のブログにコメントされた方のなかにも、おふたりほど、経済誌(雑誌)に某企業の会社ぐるみの不正疑惑を告発をして、当該不正が「独占スクープ」として掲載されましたが、企業側は完全に黙秘(無視)に徹し、他紙が追随することもなく、結局そのまま事件は闇の中に葬られてしまったことがあります。企業の一般社員の方々の内部告発は、匿名のままではなかなか企業を変えられるものではないことを(当時は)思い知らされました。

しかし、(FTの記事によれば)騒動の2週間前に、CEOたる立場となった元社長が、関係者に疑惑に関する質問をしても明確な回答が得られず、かえって社内に疑惑を深める報告書が存在することを発見し、そのうえで独自調査を行ったのでありますから、やはり一般社員の匿名による事実の指摘とは、その重みが相当に違うように感じます。社長と他の経営陣との内紛といえば、一昨年ころの富士通さんの件を思い出しますが、あの事件は社長さんのほうに不明瞭な疑惑が指摘されていたにもかかわらず、「事実を正確に開示しなかった」として会社側が東証さんから厳重注意を受けました。しかし今回不明瞭な疑惑が浮上しているのは社長さん側ではなく、むしろ会社側です。たとえ適時開示の対象事実ではなくても、社長さんの指摘する「事実」について、これをどう受け止めるのか、説明義務を果たさなければ、とうてい投資家や株主に対する信認を得られないと思うのですが。

現在のところ、東証さんは「とりあえず14日の会社側の記者発表を尊重する。なにか新たな動きがあれば会社側に説明を求める」とのスタンスだそうですが、「企業風土を理解してもらえなかった」といった「評価」のみを公表する会社側のスタンスだけでは、おそらく外国投資家からのガバナンスへの失望感だけが増幅されていくように感じます。

18日お昼:追記

katsuさんから教えていただきましたが、ニューヨークタイムス社がウッドフォード氏にインタビューしたところ、英国の不正捜査当局に、不正疑惑の関連資料を渡したとのことであります(ニューヨークタイムズ社のニュースはこちら)。そのなかに、ウッドフォード氏が会長に宛てた書簡もPDFで添付されております。この書簡についてはPWCの報告書の要旨も記載されていますが、NTの記事によると、この内容は全取締役が認識したうえで、ウッドフォード氏の解職が取締役会で決まった、とのこと。会社側は「社内事情をマスコミに漏らすことは守秘義務違反として法的措置も検討する」としていますが、どうなんでしょうか?東京の大手法律事務所の方々も動いておられるでしょうし、あまり法的な根拠をもってブログで述べることは控えますが、ごくごく一般人的な感覚でいえば、「独断専横な社長には困った」として解職されたわけですから、この「評価」が間違っていると考えれば「事実」をもって株主、投資家に伝えることが(株主、投資家の正しい「評価」のためにも)オリンパス社取締役としての善管注意義務を尽くすことになるのでは。とりわけこの騒動が発生する直前まで、アナリストさんへの説明では会社側のウッドフォード氏に対する評価は高いとされていたわけですから、「なんでこうなっちゃったの?」という真実の経過を株主が知りたがっていることは間違いないかと。

社内に不正疑惑の可能性があり、株主の損失を回避するためには、社内の守秘義務に反してでも事実を伝えることが必要なのでは・・・と思うのでありますが(たとえば会社法上も、解任議案が出された監査役さんは総会招集通知に自身の意見を掲載することができますし、また辞任に至った場合も含めて総会で意見を述べる機会が付与されているわけで)。不正の疑惑について、「不正があった」とマスコミに述べるのであれば法的にも問題かとは思いますが、自身が解職され、その会社側が報じた解職理由に誤りがあるということを主張するための根拠事実として「不正疑惑を告発したら、このようになった」と述べるのは(とくに不正があった、とまではマスコミに伝えていないわけですから)特に問題ないように思いますが、いかがでしょうかね?

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コメント

すみません。上記コメントを削除願います。
こちらが社長側の言い分のようです。これが本当だと、会長さんは厳しい立場になってしまいそうです。
http://graphics8.nytimes.com/packages/pdf/business/20111018/letter-text.pdf
ウッドフォード氏が会長に宛てたレターです。
アドバイザーの意見を聞かないとかDDが実施されないとか書いてあります。

投稿: katsu | 2011年10月18日 (火) 12時04分

日本の会計監査人は出てきませんが?連結FSは適正なんですかね?彼らの親分であるKPMGやE&Yの見解は無視できるんでしょうか。

投稿: 某会計士 | 2011年10月20日 (木) 19時04分

>日本の会計監査人は出てきませんが?連結FSは適正なんですかね?彼らの親分であるKPMGやE&Yの見解は無視できるんでしょうか。

本日発売のFACTA11月号にそのあたりのことが・・・(^^;
さっき、旭屋書店で読んじゃいました(^^;

投稿: toshi | 2011年10月20日 (木) 19時24分

世界の目には厳しいものがあります。オリンパスという一企業の問題ではなく、日本企業のガバナンスや証券市場の信頼性が問われています。

ブルームバーグのコラム:
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=aIyaGyLqFZWo

投稿: 迷える会計士 | 2011年10月21日 (金) 14時46分

直前エントリーで懸念していたとおり、どうも一企業の問題だけでは済まないような状況になってきました。言葉は悪いですが、「オリンパス社の特殊事情による問題であり、多くの企業のガバナンスはこのようなものではない」との方向へ力学が働らきだすような気がいたします。

投稿: toshi | 2011年10月21日 (金) 15時06分

FACTAの発行人のブログによると、世界の主要メディアが追いかけているようです。
http://facta.co.jp/blog/archives/20111023001023.html

エコノミスト誌では、ガバナンスの問題だけではなく日本の主要メディアの報道姿勢も批判していますね。

Olympus’s odd transactions were first reported this summer by a small investigative magazine called Facta, but ignored by the mainstream Japanese press.

投稿: 迷える会計士 | 2011年10月23日 (日) 14時26分

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