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2011年10月12日 (水)

非上場大会社の法令遵守態勢はどうすれば向上するか?

10月10日の日経朝刊「法務インサイド-傍聴席」にて、日本公認会計士協会会長の山崎氏が、非上場大会社に(会社法で義務付けられている)会計監査人をきちんと設置すべきである、と述べておられます。資本金5億円基準だけで調査しても、日本では会計監査人が設置されていない大会社が500社程度存在するとか。また、天竜川下りで痛ましい事故を発生させてしまった天浜鉄道(資本金6億3000万円)では、適法な取締役会が開催されていなかったようであります。取締役の代理出席が恒常化していたり、書面決議をもって取締役会開催に代えていたとのこと。こういったガバナンス不在の状況が安全管理に影響を及ぼしていたのではないか、と報じられています(ちなみに取締役会を適法に開催せずとも、会社法には罰則はございません)。

やはりこうやっていろいろな問題が報じられますと、上場企業のガバナンスと非上場大会社のガバナンスでは、法令遵守態勢においてかなり差があるように思えます。ただ、非上場大会社への会計監査人設置問題につきましては、会社側に設置に関するインセンティブが働きにくいためになかなか進まないようであります(会計監査人に報酬を毎年払うよりも、見つかったときにペナルティを払うほうが安くつく)。本日、ある研究会でお聞きしましたが、都銀に勤務されておられた方のお話では、銀行融資においては、とくに会計監査人の「適法意見」について関心を示すものではなく、稟議を上げるときにも、決算書は添付するけれども、監査人の意見については添付しないとのことでした(もちろん、以前の問題であり、現在はどうかはわかりませんが)。一番の要因は「金融庁の検査において重点項目とされていないから」とのことです。

また、会計監査人の設置が義務付けられる「大会社」かどうか・・・ということについて、それなりに銀行としても意識するそうですが、担当者が社長さんに「負債が200億を超えましたよね?」と尋ねると、社長曰く「ああ、そう?でも大丈夫、少し返したらまた200億切れるから」といった感じで、法令違反状態を全く意にも介しないそうであります。結局のところ、金融検査の在り方が「会計監査人重視、ガバナンス体制のチェック重視」にならないかぎり、銀行も融資にあたっての審査体制は変わらないのであり、したがって非上場大会社としても法令遵守態勢を構築する機運は盛り上がらないのではないかと(ただ、都銀出身の方のお話では、さすがに今回の林原社の件は、非上場大会社の会計監査人問題を真剣に検討するきっかけになるのでは・・・とのお話でした)。

本日の研究会で初めて知りましたが、非上場大会社の会計監査人の方々は、結構「不適正意見」を出しておられるそうです。やはり開示の対象が限定されていることもあって、不適正意見を出しやすいのでしょうね。しかし、そうであるならば、非上場大会社に会計監査人が設置されたとしても、経営陣はどこまで監査人の意見に従って財務報告の信頼性を向上させるようになるでしょうか?とくに不適正意見を出されても融資に影響がないのであれば「いたくもかゆくもない」といった対応をとる社長さんがいらっしゃるのではないでしょうか。また、そもそもそういった強者の社長さんがいらっしゃる会社の会計監査人を、まともな会計士さんが受けるのでしょうか?もし受けないとなりますと、またまた「わけあり会社」と手を組む会計士の方々の独壇場となって、なにか事件が発生するたびに会計監査の信頼性を毀損する方向に向かうのではないかと。普通に考えますと、どうもそんな気がしてきてしかたありません。

10月 12, 2011 商事系 |

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コメント

コンプライアンスの立場を忘れて、昔の実務家の視点から。
ですので「これがいい」というわけではなく、あくまでも「実態を」という点から。

この点は、そもそも非上場大会社に対して、どれだけ会計監査の「厳密性」が求められているのか、という点に尽きるのだと思います。
非上場大会社の場合、財務諸表についての利害関係者が「上場企業と比して」少数になることは否めないかと思います。
そして、各利害関係者が重視するポイントとしても、会計ルールと税務ルールと比べれば、後者が重要視されるわけです。
会計基準に従って税務基準とかい離するために、税効果会計の影響を受ける、それに対する追加コストを負担するのであれば、税務基準に従って、社外流出を極小化することが合理的です。
会計基準では認められないことは多々ありますので、その点、不適正意見が出ても仕方ないと思います。
また内部統制面でいえば、極端なことをいうと、会計監査人に対して説明できる証憑づくりのためのコスト(効率化してもかかるミニマムコスト)を勿体無いと思えば、その時点で会計監査人の心証形成がかなわず、不適正意見にもなるでしょう。

理屈上、そのような体制では会社運営として成り立たないのでは、と考えやすいですが、サントリーのような巨大非上場企業でもない限り、俗人的運営が多いのが、良い意味でも悪い意味でも特徴です。(サントリーも株主構成を考えれば俗人的と言えるかもしれません。)
そもそも会計基準自体、上場企業しか考えていないで設定されているきらいがある以上、その点を改善しない限り、会計監査人の選任は進まないと思います。

ま、そもそも会計士協会の会長がいうのは、職域拡大のための、ポジショントークだと思っています。大多数の非上場企業の実態を考えると、監査受けても困るんじゃないかと思います。
(非上場企業がいい加減、という意味ではなく、会計基準に合致しないということで。)

投稿: 場末のコンプライアンス | 2011年10月15日 (土) 01時16分

もう一点。
これも、「それが正しい、良い」と言っているわけではない点をご理解いただきたいと思いますが。

>ガバナンス不在の状況が安全管理に影響を及ぼしていたのではないか、と報じられています

報道的には分かりやすく、何となく繋げやすいのですが、この点には強い疑問を持っています。ある意味、思考停止的にも思えるところです。
ガバナンスの不在という漠とした言葉でくくってしまうと、本当に安全管理に問題があった点が分からなくなってしまい、単なる経営者の吊るし上げで終わってしまうことが心配です。

「取締役会を開いていれば今回の事故がなかったと思いますか?」と聞いて、Yesと答える人がいるかどうか考えれば、おのずと答えが見えるとおもいますが、事故の要因は別のところです。
たとえば、役員や部長クラスが銀行出向者である「銀行管理」の会社だったらどうか。(銀行がダメと言っているわけではないです。為念。)自分の会社の事業の実務が分からない中枢では、判断ミスを起こすでしょう。
取締役会が開かれていなくたって、事業実務に詳しい役員が判断することもあるでしょうし、逆に事業に詳しい役員だからこそ、これくらい大丈夫と見切り発車で失敗することもあるでしょう。

残念ながら、取締役会が機関として機能するのは、ビジネス判断の領域だけだと思っています。安全管理ですとか、危機管理といったものは、取締役会の開催があろうがなかろうが、あまり意味がないものと思います。
法的に意味があることは分かっています。事実問題としての点です。
ですので、取締役会ができることは、現場だけでなく、役員もそうですが、それらの判断にたいして「正当性を付与する」「責任を共同化する」ぐらいの機能しかないと思います。開催すれば積極的に、非開催ならばケースバイケースですが、消極的に責任の共同化がされるか、行為者の暴走となるか。
但し、実際の世の中の動きとしては「責任を共同化する」ことで、ブレーキにはなると思います。保守的な判断に傾きやすくなるというのが心理的な効果としてあると思います。

いずれにしても、昨今(いや、今に始まったわけではないかもしれませんが。。。)の報道を見ていると、短絡的な結論を求めるものが多いように思います。それに流される世論も世論ですが。
本質が何かを見て、議論を進めることができない世の中になってしまい、moodが支配する世の中になりつつある気がしてなりません。

会社の事故や不祥事などの報道でも、企業体質とかガバナンス(九電のケースもそうかもしれません。)の問題としてコメントすると締りがいいのか、どのニュースでも決まり文句のようにされています。

気味の悪い世の中になったものです。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2011年10月15日 (土) 01時35分

非上場大会社も一様ではありませんので、類型ごとに論点を整理する必要があるかもしれません。おおざっぱに区分すると、①上場企業の子会社、②外資系企業の日本法人、③業界でも上位レベルの大規模企業、④完全な同族企業などになりますが、会計監査人が設置されていない企業は④の類型が大部分であると思われます。
①については連結ベースの金商法監査と会社法監査の重複
②については会社法の計算書類から親会社仕様の財務諸表への組替の手間
③については各社の開示内容が大きく異なること
等が課題として考えられます。

会社法監査は株主・債権者保護を目的としているにもかかわらず、④の類型では株主=経営者には歓迎されず、債権者である銀行に監査のニーズが低いために会計監査が行われていないのは当然ともいえます。

投稿: 迷える会計士 | 2011年10月16日 (日) 10時40分

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