「一次不正」の前に潜む「予備不正」と社内ルールの効用
何度も当ブログで取り上げておりますゲオ社の内紛劇ですが、昨日週刊ダイヤモンドの特別記事として詳細が報じられております(不祥事続出の問題企業ゲオお家騒動の全貌)。これまで報じられてこなかった背景事情なども含め、実におもしろいです。高橋篤史さんの「兜町コンフィデンシャル」に登場する「わけあり」会社の株式投資に関する話なども出てきて野次馬的にはワクワクしそうな内容であります。いよいよ臨時株主総会が目前に迫ってきましたが(10月13日)、いったいどのような展開になるのでしょうか(取締役が12名になってしまうのかな・・・)。東京の複数の大手法律事務所が、様々なところで関与されているそうですから、ものすごいバトルなのでしょうね。ちなみにゲオ社の社外監査役でいらっしゃるN弁護士とは某委員会で懇意にさせていただいているので、監査役の視点から、また(守秘義務に反しない範囲で)後日、顛末をお聞かせ願えれば・・・と(^^;;。
(ここからが本題でありますが)
私のオフィシャルな講演活動の履歴については当事務所のWEBページ「新着情報」に記載しておりますが、最近は(WEB上にはご紹介を控えております)個別企業さんのご依頼で講演・研修に伺うことが多くなりました(本業の繁忙期と重なり、だいぶお断りするケースも増えており恐縮なのですが・・・)。興味深いのは、一度おじゃました企業さんから二度目のお声掛けをいただく際、「今度は営業部門向けのものをやってほしい」「生産現場向けのものをお願いしたい」「技術開発部門向けのものはできますか?」といった、少し分野別のコンプライアンス対応についての講演ご依頼が多いことであります(あと、役員向け、幹部社員向け、一般社員向け、と3つに分けてご講演をお願いしたい、というご要望も多いです)。
こういったご要望にお応えしようとしますと、前に他社向けで使った資料を「使いまわし」することが困難ですので(笑)、自身の本業からの経験と、普段のお付き合いのなかで認識した事情、そして他社事例に関する第三者委員会報告書などを参考にして資料を一から作ることになります。そのような過程におきまして、営業社員や生産・技術社員の不正を検討するなかで、一般に社内不正として紹介される行動の前に、「予備不正」なる問題行動があるのではないか・・・ということが気になりました。
社内不正のなかで、不正発見がとりわけ困難なのが営業担当社員、技術開発担当社員の不正です。営業担当社員の不正は社外で行われることが多い点、技術開発担当社員の不正は聖域化した職場での専門的知見を要求されるなかで行われる点において、いずれも管理部門において不正が早期に発見できない共通点があります。したがいまして、コンプライアンス研修といいましても、企業倫理に重点が置かれたり、また不正発覚後の第三者委員会報告書の「原因分析」をみましても、「ノルマ達成の厳命によってストレスを感じていたため」とか「行政機関の検査を一回で必ず通すことが厳しく命じられていたため」といった、いわゆる不正の動機部分に焦点があてられたりします。
しかし、営業社員が架空売上計上のために書類を偽造したり、ノルマ達成のために架空循環取引に関与するのは、たしかに「売上目標のプレッシャー」からであることに間違いないのですが、仔細にみていきますと、小さなミスから顧客クレームを受け、これを取り繕うためであったり、取引先担当者との個人的な貸借関係から、新規の取引先の紹介を受け、その取引先の債権回収が困難になったことが原因であったりすることが多いようです。つまり小さな不正が先にあり、その不正を挽回しようとするうちに、犯罪に近いような大きな不正に手を染めてしまうということでして、その「小さな不正」の原因はといいますと、営業担当社員の場合は、取引先や同業他社担当者、顧客との不明瞭なお付き合い・・・ということが発端となっているように思えます。
また、技術開発担当社員の不正といいますと、代表的なのが「性能偽装」事件やリコール隠し事件でありますが、これも私の経験や第三者委員会報告書の記述などを参考にしますと、品質管理については非常に定評のある業界トップ企業で発生していることがわかります。性能偽装事件を起こすような企業だから、さぞや安全面を軽視している企業ではないか、との印象を持たれそうですが、実はそんなことはなく、他社と比較しても社内における安全・安心に対する意識が強い企業が多いと思われます。それだけ「社内における品質管理に関する要求事項が厳しく、プレッシャーが強い」ことだからこそ発生するようにも思えます。しかし、これも仔細にみていきますと、①行政機関の検査官よりも、当社のほうが安全技術に関するレベルは上である、②どっちみち、出口(出荷時)で行政検査よりも厳しい安全基準の検査をやるのだから意味がない、③長年チェックしているのだから、社員の勘に頼るほうが安全、手順は省略しても大丈夫・・・といった技術部門の認識があるため、「チャンピョン品で行政機関の検査を通すことも、一連の手順のひとつ」というのが常態化してきたところではないかと。
ステークホルダーとの信頼関係の構築、社内における品質管理の徹底ということは、企業価値の源です。しかし、裏を返せば「取引先との不明朗なおつきあい」「優秀な技術者としての奢り」につながるものでありまして、これは長所を伸ばそうとすればするほど、必然的に生じる短所ではないかと思います。これを「予備不正」と呼ぶことが適当かどうかは別として、そのまま放置することで、「一次不正」に発展するリスクが高くなるわけでして、「怪しい」と気づく者がいればよいのですが、そのような勘の鋭い社員が存在しない場合、そこに社内ルールの存在価値があるのではないでしょうか。
これは、あるシンポの終了後、当該シンポ登壇者の方からお聞きした話の引用ですが、アメリカのFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)の取締強化が進んでいるなかで、なぜ司法省当局が企業の内部統制システムの構築を奨励しているかといいますと、営業担当社員が社内ルールに反する行動を行っている場合には、規制対象行為の故意を認定しやすくなるばかりでなく、社内ルール違反の事実を間接事実として、規制対象行為の事実を認定しやすくなるから、というものでした。ちょっとこの解釈はコワイ気もしますが、単に企業の内部統制システム構築が情状として斟酌されるだけでなく、犯罪事実の認定にも影響を与えるということもありうることは肝に銘じておくべきことと感じております。
さて、この社内ルールの効用はいろいろと考え付くところがありますが、本日は長くなりましたので、またの機会に詳細に検討してみたいと思います。
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