オリンパス社社長解職騒動にみる「評価」と「事実」の説明責任
(17日午前:追記あります)
日曜日のお昼のWSJ(日本版:有料会員向け)が第一報だったと思いますが、オリンパス社の社長解職騒動のご本人である元社長さん(ウッドフォード氏)のインタビュー記事が報じられております。(ちなみに産経新聞ニュースはこちら)解任(解職)した日本の取締役会を代表して、会長さんが「どうも外国人社長の指揮は日本の組織風土に合わなかった。社長は組織の信頼を失った」と記者会見をされ、マスコミ各社も日本の会長さんへのインタビューをもとに記事を作っておられました。たとえば読売新聞では、
「独断専横的な経営判断でものごとが進み、経営陣とも組織の齟齬(そご)が発生した」。後任社長を兼務する会長(70)は、解職理由を説明した。
と報じられています。そこでは、元社長さんと他の取締役との間で、どのようなやりとりがあったのか、事実が語られているわけではなく、社長さんに対する評価に関する発言が目立ったものでした。
しかし、本日の元社長さんのフィナンシャルタイムズ社によるインタビュー記事は、会長さんの会見での内容とずいぶんと異なるトーンであります。こういったインタビュー記事が登場することは、オリンパス社でも予想はされていなかったのでしょうか?オリンパス社のM&Aにおけるコンサルタント報酬の支払いが不透明であり、何に使ったのかわからない、不適切な支出があったのではないかと問題視していたそうであります。解職される直前には、元社長は会長さんに「ガバナンスに重大な問題がある」として、辞任を迫った、ということもWSJが報じていました(有料会員向けなので、一部しか閲覧できませんが、こちらの記事です)。また元社長が個人的に調査を依頼した監査法人も問題視していたことを述べておられ、これらは紛れもなく「事実」に関する指摘であります。具体性がありますので、元社長さんの言い分の方が真実だと受け取られる可能性は高いと思われます。(深夜に報じられた毎日新聞ニュースはこちら)
この騒動の構図に近いのが九電のやらせメール事件ではないでしょうか。第三者委員会は県知事と九電との具体的な事実を適示して、九電と佐賀県知事との親密な関係、またやらせメール事件の引き金になったのは県知事の指示である、という評価を下しました。いっぽうの九電側は、すべて九電のコンプライアンス意識の欠如、企業風土の問題であるとして、もっとも肝心なところでは「事実」には触れず、「評価」をもってやらせメールの原因と断定し、最終報告としました。勝手な野次馬が風説を流布しているのであれば無視するのが一番かもしれませんが、やはり九電ご自身が選任された第三者委員会が公式に確定した事実がある以上、この事実をどう受け止めるのか、もし否定されるのであれば、その根拠はどこにあるのか、これを説明しなければ、やはり説明責任を尽くしたとはいえないと思われます。九電に対するものではありませんが「佐賀県知事が指示を否定するのであれば、知事も第三者にきちんと調査をさせて、報告書を出せばよい。それをせずにただ否定するのは何も反論できない証拠である」と第三者委員会の委員長が述べておられたのも、同様の趣旨ではないかと。
先のオリンパス社の事例にしましても、たしかに一方当事者のお話ではありますが、まがりなりにもこれまでオリンパス社の代表者の方の指摘した「事実」でありますので、この事実を真実と受け止めるのか、否定されるのか、やはり根拠事実を示してオリンパス社側としても説明する必要があるのではないでしょうか。説明を回避する方法としては、第三者委員会(社内調査委員会に外部委員が関与するものも含む)を設置して詳細な事実調査を委ねるか、もしくはすでに行政当局による調査が開始されているがゆえに回答を控えるか、いずれかしか選択肢はないものと思われます。
コンプライアンス経営に関する「事実」が元社長から公表されたわけですから、オリンパス社の企業価値に関わる問題ですし、マスコミ向けというよりも、一般株主向けに真実を説明すべき責任があるように思います。一方から「事実」が出てきた以上、もう一方のオリンパス社も「事実」を指摘し、最終的に「評価」をするのは株主であり、投資家であると考えます。
17日午前 追記
今朝のブルームバーグニュースでは、もっと詳細な記事が掲載されております。元社長が解職された3日前(10月14日)に、PWC作成による報告書がオリンパス社幹部のもとへ届いていたようです。このままでは行政当局の調査対象となるおそれがある、とのこと。(ニュースはこちら)
本日、オリンパス社の株価はストップ安だそうですが、これはずいぶんと大きな問題に発展するのではないでしょうか。とりあえず、日本のマスコミも今朝は一斉に報じておられるようなので、会社側の対応を見守りたいと思います。とりあえず日本企業全体のガバナンスへの信頼が毀損されることがないように願っております。
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コメント
外資系報道に対しての大日本本営発表、いや、日本経済新聞社の記事があります。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819696E3E5E2E3EA8DE3E5E3E2E0E2E3E39790E0E2E2E2?n_cid=TW001
「政治とカネ」の一連の報道をほうふつさせるやり取りが上場している株式会社でまかり通るとは思えません。
トップの危機意識の問題が根っこでしょうが、そういったトップを安穏とさせることが出来ることももう一方の課題(一連の電力会社を含む)。
経営者を牽制できる仕組みがワークすることを経営者のみならず、報道姿勢や投資家自身(制度の運用を含めて)も厳しく接するような環境がもっと必要になると想定せざるを得ないですね。
投稿: katsu | 2011年10月17日 (月) 13時20分
会計ニュース・コレクターさんのブログで知りましたが、FACTAの記事によると、オリンパスの以前に行った日本国内のM&Aにも問題がありそうですね。
会計ニュース・コレクター:
http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/
FACTA8月号:
http://facta.co.jp/article/201108021.html
投稿: 迷える会計士 | 2011年10月17日 (月) 13時29分
ウッドフォード氏のインタビューによるとM&Aに関する不可解な取引について疑念を抱いたきっかけはFACTAという雑誌の以下の記事がきっかけだそうです。
http://facta.co.jp/article/201108021.html
売上高がいずれも2億円にも満たない3つの企業に対してそれぞれ200億以上、合計で700億投資したのはまさに不可解です。九電のやらせメール事件とは質的にも金額的にもスケールが違うようです。これから真相が明らかになることを願いますが、肝心のマスコミが少々頼りないのが不安です。
投稿: 会計人 | 2011年10月17日 (月) 23時09分
katsuさん、迷える会計士さん、会計士さん、ご指摘ありがとうございます。なるほど「会員制月刊誌」というのは、この記事だったのですね。
ただ、やはり代表者の方が、この記事を参考にされていたとしても、代表者ご自身の調査の事実を公表したところに意味がある、と私は考えています。経済雑誌等で不正を暴露されたとしても、(数年前のO製紙さんのように)完全に黙ってやりすごしていればなんとかなると思います。しかし元社長の事実適示については、企業としては黙ってはおれないわけでして、何らかの対応が必要になる、というのが今回の重要なポイントだと思いました。ロイターの記事によると、今回の一連の報道について、東証上場部担当者は、「とりあえずオリンパス社側の説明を尊重するが、今後の状況次第では説明を求める」とのこと。やはり元社長さんの発言に対しては、何らかの対応が必要だと思います。
投稿: toshi | 2011年10月18日 (火) 00時45分
ついに動き出しました。
「オリンパスは株主への説明責任果たし懸念払拭してほしい=日生」
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-23727820111020
しかし、よく財務を見てみると
自己資本約1600億円、有利子負債約6500億円、自己資本比率15%
連結経常利益は220億円程度。
資産の部にはのれんが1700億円です。現預金も2000億円程度ありますので純有利子負債ベースでは4500億円。
M&Aでごちゃごちゃ言われて、暖簾を現存する羽目になると、最悪債務超過も想定できます。
自己資本に対する純有利子負債が2.8倍は多い。
株主よりもうるさい銀行筋からも「突き上げ」がきそうですね。
だから譲れないのかもしれませんが。
投稿: katsu | 2011年10月21日 (金) 11時44分
katsuさん、いつも御教示ありがとうございます。ホントですね。でも株主であるならば、日生さんのように強く願うのが当然ですよね。
昨日あたりから、多くのブログでオリンパスさんの財務分析がはじまっていますが(笑)、なるほど、こうなることを回避するために、情報を開示したくなかったのがホンネではないかと。。
投稿: toshi | 2011年10月21日 (金) 14時47分