正念場を迎えた「第三者委員会制度」-次のステップへの試練
日弁連の第三者委員会ガイドラインが制定され、すでに1年以上が経過しております。不祥事を発生させた企業に、いわゆる「第三者委員会」が設置され、事実調査、原因究明、再発防止策等を企業のステークホルダーのために説明(報告)するという極めて重大な使命が担われ、実績を重ねてきた結果、相当程度企業社会にも浸透してきたのではないでしょうか。
しかし、皆様ご承知のとおり、世間の話題となっております企業事件について、第三者委員会制度が今後どの程度、社会の期待に応えていけるのか、その試金石になるのではないかと思われる場面がみられます。九電やらせメール事件において、第三者委員会報告書で認定した事実(県知事の発言内容)を企業側が否定し、再度の報告書提出に至ったことはすでにご紹介しましたとおりであります。
しかしそれだけでなく、オリンパス元社長解職事件では、本日(27日)の開示情報を「正しいものと認識している。今後、本件に関して憶測等で市場関係者を誤認させるような発言をした者に対しては法的措置も辞さない」とまで確信しておられる企業の事実関係を、第三者委員会が調査しなければならないわけでして、ここまで言い切っておられる同社が本当に公正かつ独立した第三者委員会を構成できるのかどうか、疑問が呈されるところであります(現に、元社長さんは第三者委員会の報告についてはすでに懐疑的なコメントを述べておられます)。一方で、東証やSESCは「今後設置される第三者委員会の活動を見守っていく」とのことでありまして(ブルームバークニュース)、どのような構成になるにせよ、これは委員にとってたいへんな活動になることは間違いありません。
さらに監査役の関与が悩ましい難問を投げかけている事例もあります。本日ゲオ社のリリースによれば、これまで社内の不祥事について調査を続けていた同社監査役会が、おそらく経営陣の交代劇があったことを原因とすると思われますが、事案が複雑で公正な立場で判断することに困難が生じたようで、すべてを第三者委員会にゆだねる旨、発表をしました。
そして大王製紙元会長解職事件では、本日、元会長側が東証に対して「特別調査委員会の公正性」には問題がある、との意見書を提出されたそうであります(朝日新聞ニュース)。私も本日の報道で初めて知りましたが、大王製紙側の特別調査委員会の委員に、取締役と監査役の方が含まれており、そもそも調査の対象となるべき方が委員に就任される、というのはいかがなものか、との疑念が湧いてまいります。日本監査役協会さんは、第三者委員会に監査役が積極的に関与することを推奨しておられますが、ただ、監査役への責任追及が予想されるような不祥事についての第三者委員会構成には関与すべきではない、との趣旨も含んでおられるのではないか、とも思われます。そうしますと、もし報道されている事実が正しいとするならば、元会長さんの言い分にも説得力があるように思いますが、いかがでしょうか。
ただ、前にも申しました通り、ステークホルダーへ説明責任を尽くすことで、企業の社会的責任を全うさせる趣旨の第三者委員会である以上、下図のように、第三者委員会の活動には悩ましいトレードオフ関係が常につきまとうものであり、このバランスをどうとりながら最終報告に至るのか、ここに社会的使命があるように感じております。
依頼する企業からのプレッシャー、報告書の内容に期待をする行政当局や監査法人からのプレッシャー、そしてなによりも、企業の社会的信用の変化や株価変動に影響を及ぼす消費者・投資家からのプレッシャーに耐えつつ、上記のような難事件の(とりあえずの)解決に至らしめることが今後できるのかどうか、おそらく年末に向けて、また九電やらせメール事件のようなドラマ(第三者委員会VS企業経営者)がみられるのかもしれません。ただ、社会から批判されることがあっても、委員には上記のような悩ましい関係を模索しながら解決の糸をたぐらねばならないことを、多くの方にご理解いただければ・・・と。私の存じ上げている方も、上記難題事件に関与されることになるかもしれませんので、この話題は今後あまりツッコミを入れることができなったらゴメンナサイ<m(__)m>(けっこう、この話題になるとご異論も出てまいりますが、まぁ、私の立場も察してくださいませ。。。)
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コメント
「第三者委員会」の報告内容が正しいかどうかを確認する「第四者委員会」が設置され、その「第四者委員会」の報告内容が正しいかどうかを確認する「第五者委員会」が設置され、その「第五者委員会」の……
…以下、永遠に続く(笑)。
はっきり云いまして、第三者委員会とやらが有効に機能しうるのは、経営者が完全に入れ替わった時だけ、入れ替わった時だけ!!ですよ。前経営者の経営が正しかったか、不正は防げなかったかどうかを、新しい経営者が「本気で」「膿を出し切る気概を持って」調査する、調査して貰うという意識があってこそ、です。
投稿: 機野 | 2011年10月28日 (金) 00時33分
九州電力とオリンパスの共通点は、第三者委員会を設置した者が調査を受ける訳でして、その意味で有効に機能するかどうか、という点がいつも難しいですよね。その点、郷原先生は、形式的な設置者と最終的な利益を受けるものの区分をしっかり分けている(故に嫌われるのでしょうか。)という感じがします。
オリンパスの場合、事後追認をした(新聞によれば)役員が、第三者委員会を設置するかどうかの権限を持っていることになるので、機能するかどうか心配です。機野さんの指摘どおり、経営者が新しくないので機能しないかも。
投稿: Kazu | 2011年10月28日 (金) 10時25分
調査報告書には,「会社には社外監査役3名がおり,本件のようなトップの不祥事にはチェック機能を発揮することが期待されていたが,残念ながら社外監査役には本件貸付についての情報が届いていなかった。」とありますが,これ(報告書)を書いている5人の中に社外監査役が存在していることを合わせて読むと,妙に言訳めいて聞こえます。
それよりも社外監査役のみなさんは,報酬をいただいている会社の有価証券報告書すら,読まないものなのでしょうか,というか,読まなくてもいいのでしょうか。有価証券報告書には,井川意高に対する短期貸付金2,350百万円と未収利息18百万円の記載があるのですが,それは,「経理部,常勤監査役,取締役,監査法人など,社外監査役に適切な情報を届ける役割を担う人々」が教えてくれなければ発見できないものでしょうか。会社の発表では,社外監査役3名は,報酬を5%,3ヶ月間自主返上するそうです(監査役報酬が昨年と同額の27百万円だとして,27百万円÷12×5%×3ヶ月=337,500円)が,責任がないのなら,自主返上する必要もないのではないかと。
投稿: Tenpoint | 2011年10月28日 (金) 19時46分
会計監査の世界に身においてまだ3年の若輩者です。浅学の身でコメントするのはいささか気がひけますが初めてコメントさせていただきます。
監査の世界ではご存知の通りしょっちょう「インセンティブのねじれ」とやらが議論になります。第三者委員会が設置される際においてもこの「インセンティブのねじれ」に似た状況が作出されてしまうのでは、との疑念があります。第三者委員会にももちろん報酬は支払われるはずで、その報酬を支払うのは当事者の会社なわけ(という風に今まで思っていたのですが、これは間違いないでしょうか?)で、第三者委員会の方々はさぞかしねじれた立場にいらっしゃるのかと思ったのですがいかがなものでしょうか。
もっとも、第三者委員会の報酬については一定の算定式があって、それにのっとって半ば機械的に算定されるものと想像はしておりますが。(もし違っていたらご教授いただけましたら幸いです)
そして、さすがにオリンパスの第三者委員会の報酬は世間相場ですよね。。法外な報酬はよもや払うまいかと。
投稿: 日本公認会計士協会準会員 | 2011年10月29日 (土) 00時29分
大王製紙もオリンパスも、もうそういうレベルではなく、内外の司直、公安の手によって捜査(もう「調査」ではない)されることでしょう。第三者なんちゃらの出番ではありますまい。委員にさせられるどこかの弁護士センセも恥の上塗りに利用されるだけですよ。
だって、法的には犯罪をおかしたわけでもない九州電力だってあそこまで厳しく責任を問われてるわけじゃないですか。
投稿: 機野 | 2011年10月29日 (土) 04時11分
皆様、ご意見ありがとうございます。本エントリーはずいぶんと各方面で話題になってしまいました(笑)。昨日(28日)の赤坂ビズタワーでの講演でも、企業の役員の方々からたくさんの質問をいただきました。
立場上、書けないこともありますので、一言だけですが、オリンパスの件は「誰を委員に選任するか」ということよりも「誰が委員を選任するか」のほうに注目が集まるのかもしれません。ステークホルダーのために活動するのが第三者委員会のそもそもの出発ですから、もちろん捜査と並行することもありえますし、国会答弁のように「まずは丸投げ」されることもありえますが、いずれにせよ、エントリーに書いたとおり相当厳しい職責が待っていることは間違いないと思います。
準会員さんのおっしゃるように、「ねじれ」があることは間違いありません。ただその「ねじれ」といっても会計監査制度と根本的に大きな違いがありまs。そこはまた別途問題提起してみたいと思っております。
投稿: toshi | 2011年10月29日 (土) 11時42分
オリンパスはまた第三者委員会をつくるんですか!
09年5月に第三者委員会は作られ、今回問題となっているM&Aについて検討され、さらにPWCも独立的な立場から報告書が作成されています。監査役会の「違法ではない」との結論は、第三者委員会の結論を受けたものでしょう。両者には多少表現に違いこそあれ、「黒とまでは断定できない」というのが結論であり、新たな第三者委員会も、三度目の正直とはならないでしょう。
S氏(N証券のオリンパスの担当していたことがあり、某事件で逮捕された人物と言われています)のブログを読むと、相当に深い背景がありそうです。
司直の手をもってしても、違法性の立証が難しい事件かもしれません。
投稿: 迷える会計士 | 2011年10月29日 (土) 12時48分
結局、第三者委員会の立場(目的)・利益関係(設置者)・権限(執行方法)・結論の取扱い等々があまりに雑多になっており、恣意的な運用も可能な形となってしまっていることが、混乱事例の続出の一因ではないでしょうか。
乱暴かつ単純な整理として、上場企業に限ってはそれらを強制力持って証券取引所が定義する。また、地域独占(電力やインフラ関係)や行政官庁の許認可権限の強い一部の業種(金融他)に限っては、重層的に監督官庁が、第三者委員会への指導権限を所持するようなものはいかがでしょうか。更には、第三者委員会メンバーの当該会社に対する名誉毀損その他は免責で。
調査対象ともなり得る取締役会のよる人選や、報告結果の事実認定を曲げて最終報告とした事例、恫喝的とも取れるコメント込みで始めるものが、今後も頻出すると、せっかくの制度が意味のないものとなってしまいます。
もちろん、各種反論は司直の場等々で可能なのはいうまでもありません。
うちの会社も創業者が長期にトップに君臨し続け、監査役含む役員は、どうも親分に逆らってまで何かをするような素振りはなし。仮にトップの不祥事が起きたら(トップは聞くところによると人格者とのことであるが)、間違いなく第三者委員会の人選から始まり、作成過程と結論については、“大人な”対応に相当程度の熱意と行動が注がれるように思えます。
以上、お子様の戯言ですが。
投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2011年10月31日 (月) 00時37分
私は「第三者委員会」なるものについては、きわめて懐疑的な立場です。無用の長物以上に、弊害が大きい存在で、日弁連のガイドラインがその存在にお墨付きを与えていること、それも害毒だと思っています。
それを明確にしてから、下記の通り感じていることを記したいと思います。
結局のところ、第三者委員会なるものは、時の経営陣が(不祥事後の交代した経営陣であれ、続投した経営陣であれ)説明責任を果たすことができない場合に設置されるものに過ぎないわけです。
説明責任を果たすことができない理由としては、色々あるのだと思います。
立場の問題(続投経営陣の場合など)で説明しても世間的に受け入れてもらえない、能力の問題(会計的素養や法的素養を必要とする事案)で解明できない、などなど。
しかし、それらを越えて経営陣が説明すれば良いことであり、できなければ経営陣が辞めて、できる経営陣に交代するべきが筋かと思います。
立場の問題は、受け入れてもらえないのであれば、それは経営者として受け入れられていないことと同義でしょう。
能力の問題は、その能力がなければ、再発防止の構築が第三者委員会の提言等で可能であっても、第三者委員会が永続するわけでもないので、運営ができないでしょうから、形だけ整えるだけで終わることでしょう。
第三者委員会に安易に丸投げするからこそ、経営陣VS委員会、などという喜劇が起きるわけで、すべての責任を背負って経営陣が解明、再発防止、説明責任を果たせばよいわけです。
できなければ他の者に経営権を委譲すればよい。
それができない企業であれば、そのような企業は退場すればよいわけです。
技術やら製品やらは、他の企業が承継して行けばいいでしょう。
雇用問題もあるでしょうが、企業風土は、なにも経営者だけで作られるものではありません。
そのような企業を作り出した一端は従業員にもありますので、雇用を失うことも已むをえないでしょう。
なんの法的権利も義務も持たない「第三者委員会」なるものが、妙に中立を「装う」から厄介なわけです。
経営者が会社法という法的根拠をもって、株主からの経営の付託に見合った報告をすればよく、できなければ辞める。
従業者には、一般的な使用人としての義務以上には、調査に応じる義務はないかもしれません。が、その結果、株主等に受け入れられない報告がでてきたら企業の存続にかかわり、自己の雇用にも影響を及ぼしかねない。
このような緊張感こそが、企業運営を健全化するのではないかと思っています。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2011年10月31日 (月) 12時06分
総理大臣が本件に特別にコメントしていましたね。プレッシャーが更にかかる・・・。
一企業のお粗末な経営判断だった(と思われる)ことがその会計処理の詳細や事実関係の説明責任だけではなく、日本の上場会社に対する第三者委員会のリトマス検査になりそうですね。
やっぱりこの記事も外資系報道機関がインタビューしていました。
今度のガイアツは過去(アクティビスト)と違って、筋がしっかりしている。
サッポロの時の様な「そんなんでイインカイ?」では済まされそうにない。
投稿: katsu | 2011年10月31日 (月) 13時58分
オリンパスでは、株主からの提訴請求(代表訴訟の前段階)が監査役(≠監査役会)に対してなされ、一方、経営側で第三者委員会が設立されたようですね。
監査役の調査と第三者委員会の調査が並行するので、どうなるのでしょうか?
まさか、監査役が執行部の選任した第三者委員会の調査をそのまま容認して意思決定することはないと思うけれど、もしそうだとしたら、オリンパスのガバナンスに対する理解に疑問を持ちます。
投稿: Kazu | 2011年11月 2日 (水) 16時54分
ガイアツを期待するなんて(或いはガイアツを黒船のように過度に恐れたりするなんて)、なんと愚かしいことでしょうかっ。
などと書きつつ、一方で面白がっている自分がいたりするのですが(笑)。
ま、オリンパスが潰れようが開き直り通そうが興隆しようが、私には関係ないはず。こんなことで溜飲を下げようだなんて、我ながらちょっと情けない…
社員やその家族や組合などは恥ずかしくないのかな、とは思います。
社外監査役にせめて小学生ほどの良心があらば、今夜もきっと眠れずにいることでしょう。それとも頻繁に催されているという監査役とドン(前社長兼会長)との会食に、ドンに対して従順になるようなクスリでもタップリ盛られているのでしょうか。
投稿: 機野 | 2011年11月 2日 (水) 23時38分
編集を試みようとしましたが、とーりすがりさんのコメントについて、第三者委員会のある方個人に対する誹謗中傷が認められましたので、申し訳ありませんが、公表を差し控えさせていただきました。
投稿: toshi | 2011年11月 3日 (木) 01時15分