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2011年10月24日 (月)

大王製紙事件にみる「内部通報が内部告発に変わるおそろしさ」

日曜(23日)夜の日経ニュース「大王製紙前会長の巨額借入れ、問われる企業統治-社外役員の役割重要」はひさしぶりに読み応えのある記事でした。企業法務に詳しい弁護士、学者の方々のご意見も「なるほど」と思いましたし(私も19日、20日と毎日新聞でコメントを掲載していただきましたが、無利息なら利息相当分は「利益供与」に該当するのでは?との発想はございませんでした・・・・なるほど・・・・・)、なによりも子会社役員、親会社役員、社外役員の役割をきちんと整理してガバナンス問題に突っ込んでいるところに個人的に好感がもてました(こんな風にオリンパス社長解職事件のほうも突っ込んでいただければ・・・・と)。

上記記事を読み、元会長さんの借入金の解明問題は特別背任の要件該当性に、そして巨額借入が長い間放置されていた問題は役員の監視義務違反に、それぞれ重要な意味を持つことが理解できますが、実はもうひとつ本事件には重要な意味を持つことがあります。それは、元会長さんへ実際に融資をした関連子会社の担当部長の方が、親会社である大王製紙に対して「いくら創業家といっても、無担保で巨額借入とはいかがなものか」と内部通報をされ、これがきっかけとなって子会社52社すべての社内調査が開始された、という点であります。

そもそも「創業家会長に無担保の巨額貸出がある」という事実は、開示の対象となっている以上、親会社の一部社員の間では公知の事実です。おそらく、この内部通報をされた子会社の部長さんと同様に「これってまずくない?」といった意識を持っておられた社員の方もいらっしゃるはずです。ひょっとすると、後日、監査法人の指摘で、元会長さんへの貸付金焦げ付きが問題となったとき、とりあえず社内的には創業家の方々が損失分を補てんすることで内々に済ませる・・・ということもありえたのではないでしょうか。

しかし融資をした子会社の融資担当部長さんからの内部通報があった。ご承知のとおり、最近はヘルプライン規約が整備されていますから、通報があった以上はきちんと対応しなければならない。もし「うやむや」にしてしまえば、会社自身による二次不祥事となるばかりか、内部通報者が今度は外部に「内部告発」をすることが考えられます。名門企業であれば、これは是非とも回避したいと思うところです。将棋でいえば、「歩」が裏返って「金」になってしまうような感覚であります。内部通報➔社内調査➔公表、という流れであればまだ「自浄能力のある会社」としての面目は立ちますが、内部告発➔マスコミ報道➔公表という流れとなってしまいますと、まさに「コンプライアンスを軽視する企業風土」まさに、かつてのダスキン事件の例と同様の傾向になってしまいます。

思うに、ここまで大きな問題に発展してしまった大王製紙の巨額借入事件でありますが、この担当部長さんが内部告発をせずに、実名で内部通報を選択されたのは、これ以上に大王製紙さんがまずい状況になることを回避しつつ、最後の最後に地方の名門企業のプライドを保つためではなかったかと。最後の最後に、大王製紙の企業統治の健全性に賭けたのではないかと推測いたします。ステークホルダーへの説明責任が厳しく問われる時代となり、あえて企業の不利益情報を公表する内部者への対応は極めて重要となりつつあります。「社員がおかしいなぁと感じていること」をそのまま放置していると、後日大きな代償が待っているのかもしれません。

10月 24, 2011 内部通報制度 |

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コメント

 自主的に公表するか、マスコミから公表されて慌てるか、確かに大切なことですね。これに株価が連動すると、経営陣としては更に大変でしょうが(オリンパスは、株価におされて委員会設置を検討せざるを得なくなったと思われます。)。

 内部通報をした、「真の愛社精神」ある担当部長さんの今後の人生が気がかりです。担当部長さんを排斥するような方は、「愛社精神」ではなく、「愛(特定役員)精神」を発揮する、ということになるかも。
 ティッシュペーパーにより全国的著名企業になった会社経営陣が、単なる創業者系企業に終わるのか、全国的な著名企業としての創業者以外の株主・役職員を大切にする企業なのか、お手並み拝見です。

投稿: Kazu | 2011年10月24日 (月) 10時28分

総額100億超の不透明融資については、グループの一定数には周知の事実であったと私も推察します。
それに対しあえて声をあげる動機は、自分を守るためというのが一番大きいのではないかと想像いたします。背任の共同正犯になるかもしれない、といった具体的な恐れを抱いたかどうかはわかりませんが、当事者のままではヤバいことになるという感覚に基づき、自浄ならぬ、浄自のために行ったという線もあると思います。この場合、先を越されないこと、そして実名だからこそ意味があるということになります。
あれこれ想像しても仕方ありませんが、愛社精神で実名通報、という単純なものではない気がしております。

投稿: JFK | 2011年10月25日 (火) 00時42分

産経新聞に、ちょっと気になる記事が出ていました。内部告発より数ヶ月前にすでに特捜部が口座を調べていたとのこと。どこまで真実かは定かではありませんが、ちょっと新たな展開があるかも知れませんね。

投稿: toshi | 2011年10月25日 (火) 02時32分

最後の段落、ひとりの公益通報者として、とても共感いたします。
社会がどんなに大きく変わっても変わらない古い大きな組織の体質。
やはり傷を負わなければ変わりようがないということを思い知らされる事件です。
現行法制度下では、実名の公益通報者のみがリスクを背負い覚悟の通報を行いますが、一方的に保護される組織は、それを自覚する術がありません。お互いの傷のリスクを高めるだけの法律に、何の意味があるのかと思います。オリンパストップの外部告発はじめ、深刻な事件が頻発する今、法制度の意義、改正に向けた議論が活発化することを切に望みます。

投稿: 鈴木藍子 | 2011年10月25日 (火) 08時27分

 浄自のためですか。

社内での危険(クビor閑職)<社会内での安全確保

ということになるのでしょうか。
 私は、会社がなくなり失業するリスクかと思いましたが。
いずれにせよ、内部通報の動機は単純なものではないのですね。

投稿: Kazu | 2011年10月25日 (火) 10時39分

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