« 東京製鐵解職事例-開示情報の十分性 | トップページ | 大王製紙事件にみる「内部通報が内部告発に変わるおそろしさ」 »

2011年10月20日 (木)

「物言う監査役」から「物言わねばならない監査役へ」

2年ほど前はガバナンス論議のなかで「物言う監査役」さんに光があたりましたが、最近の監査役事情をみると(ヒトゴトのように申しますが)「きちんと意見を言わないとたいへんな時代になったもんだ」と痛感しております。

オリンパス元社長解職騒動では、本日(19日)会社側から過去のM&A案件におけるコンサルタント報酬の詳細「事実」が公表されましたが、買収価格の3割もの報酬額が合理的であることを主張するところで「当社の監査役会より、適法である旨の意見をいただいております」(ええ!?ここで監査役会に振られてしまうの!?)

九電やらせメール事件では、第三者委員会の事実認定を無視した社内調査報告書が公表されましたが、これをみた第三者委員会委員長の方が「この社内調査報告書を了承した取締役会で社外役員や監査役は何も言わなかったのか?善管注意義務違反のおそれがあるのではないか?」との疑問(を超えた怒り?)を呈されました。

大王製紙元会長の不明朗支出事件では、(無担保貸出合計額が105億円程度、ということだそうですが)少なくとも2011年3月期の有価証券報告書に記載されていた23億5000万の「短期貸付金」について、監査役や監査法人がどのような監査をしていたのか、そこで疑問が呈されていれば、7月以降の不明朗な支出は防げたのではないか、との批判が出ております。子会社の会計監査まで担当しているわけではないとは思いますが、連結ベースでの開示書類作成は親会社の取締役の職務執行なので、親会社の監査役さんの業務範囲であることは間違いないものと思います。

そしてゲオ社の不明朗なコンサルタント料支払い疑惑では、創業家株主からの申出により、監査役会が事実解明のための調査を(外部の専門家らとともに)早急に行い、近々報告書を提出する、とされております(どうも、臨時株主総会の様子からみますと、会社側と株主側で和解的な解決が図られたような気もしますが、やはり調査報告は出されるのでしょうね)。

こうやって有事に立ち至った上場会社の監査役さんの置かれた立場をみますと、以前に比べて重要なポジションとして社会的にも期待されるようになったように思いますが、その反面、ガバナンス不全に陥った(と社会的に評価された)場合には、まさに矢面に立たされ、重い責任を負担しなければならない場面が増えているように思われます。経営者からは「経営判断の適法性」を担保する監査役意見が拠り所とされ、また会計監査人からは、監査責任の一端を担うものとして責任の共有を期待され、この傾向は今後もますます高まるものになるのではないでしょうか。

「物言う監査役」さんが社会から期待されるのであれば、会社法改正論議のなかで出ているとおり、監査役の権限強化、ということが必要なのかもしれません。しかし「物言わねばならない監査役」さんが期待されるのであれば、そこでは「権限強化」よりも、監査役さんの監査環境の整備のほうが重要です。監査役スタッフの充実、内部監査部門との連係、内部統制の運用状況の相当性審査など、監査役が経営執行部とビジネス情報を共有できる環境を整えなければ、「手足を縛られたまま泳げ」と言われるのに等しいのではないかと。

10月 20, 2011 監査役の理想と現実 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/53035710

この記事へのトラックバック一覧です: 「物言う監査役」から「物言わねばならない監査役へ」:

コメント

>「手足を縛られたまま泳げ」
過渡期の現象として、必要なことなのかもしれません。
その結果、引き受け手がなくなり、スタッフなどがはじめて充実するようになるのではないかと。

その手前に、監査役に対する「厳しい事後評価」が必要なのかもしれません。(いまだ、定年後の『閑査役』気分の方々は多いです。。。)
上場企業ではなく非上場企業で事例が出てくると違うと思いますね。
(たとえば、ユッケが食べられなくなった原因企業のような規模の監査役など。)

私なら、よほど相手の氏素性が分かった相手でなければ、監査役など引き受けないですね。
昔は銀行の窓際行員が出向で取引先監査役についていたもんですが、そんな長閑な時代ではなくなったということでしょう。。。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2011年10月20日 (木) 09時01分

現行の制度であっても、少なくとも取締役会に上程された案件については、適切に判断し、物をいう監査役でなくてはならないでしょう。

オリンパスの国内M&Aについての取締役会資料が「現代ビジネス」にスクープされています。取締役や監査役は、何らかの異議を述べたのでしょうか?

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/23598

投稿: 迷える会計士 | 2011年10月20日 (木) 11時59分

 社外役員の方の経歴を見ますと、取締役では医師、マスコミの社長経験者、証券会社(担当は債券と不動産証券化?)出身、監査役では一部上場企業社長経験者、役員経験者などでした。独立性は、取引関係もあるのでよく分かりませんが。
 
 監査役としての意見を聞かれた当時は、こんなことになるとは思っていなかったでしょうね。一言言えば「うるさ役」でしょうし。

投稿: Kazu | 2011年10月20日 (木) 12時19分

久々の投稿です。ご指摘の一連の事件では、本ブログを除くと監査役の役割に言及されることは、「幸い」少なかったようです。
しかし今回オリンパス社が正当化の根拠として「監査役意見」を前面に押し出したことによって、否応なく監査役の責任問題が論議の対象となるでしょう。同社の「配転無効事件」でも監査役がなぜ経営監視の役割を果たさないのか甚だ疑問に思っていましたので、踏み込んだ議論を期待します。
従業員不正の見逃し等での監査役の法的責任厳格化の流れには賛成できませんが、経営者の職務執行に違法性もしくはその疑義を認識しながら適切に是正しなかった場合の責任は厳しく問われて当然でしょう。そのためには「権限の強化」も「監査環境の整備」も必要でしょうが、経営者に対し正論を堂々と言える人間を監査役に選任できる仕組みと形だけでない地位の実質的保障が何よりも重要と思います。

投稿: いたさん | 2011年10月20日 (木) 14時23分

これを契機として役員の賠償責任額の制限を外すような動きってないのでしょうか。監査役の実情として、社内出身者は親分(会長その他)に逆らえないし、社外出身者は実情に疎く必要以上に事なかれ主義に陥っているように思えます。
この事例に限らず、「監査役が~」ということを主張の正当性に多用されるのであれば、それくらいの責任を生じさせてもよいのではないでしょうか。

投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2011年10月23日 (日) 19時51分

皆様、ご意見ありがとうございます。やっと最近ガバナンスに注目した記事が目に付くようになってきたみたいですね。今朝の法務インサイドあたりからも、記者さんの関心がわかります。うーーん、限定契約がなくなってしまいますと、本当に独立した立場から、意見を述べる人がいなくなってしまいそうなんで、ちょっとまずいかもしれないですね。。。

投稿: toshi | 2011年10月25日 (火) 02時41分

 責任限定契約は、支払うことが可能な金額に抑えられる(といっても、代表訴訟で敗訴するケースは、故意または重過失が殆どなので、発動されることは殆どないのですが。)ので、無制限で「どうせ払えないから一緒だ」ということにならず、いいブレーキになるのではないかと思っています。
 まあ、役員背金が追求されるのが殆ど故意・重過失案件なので、あまり影響がないとも言えますが・・・。

投稿: Kazu | 2011年10月25日 (火) 10時43分

コメントを書く