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2011年11月30日 (水)

監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方

11月も今日で終わり、早いものでもう師走です。今年は3月の記憶があまりにも衝撃的なものであったため、気持ちの上で1月、2月の記憶が空白になっているように感じます。ただ、12月はまだまだ会社法改正試案の発表、オリンパス事件の第三者委員会報告書の公表、またまた動きのありましたゲオ社の調査報告書の発表など、当ブログ的にも興味のある話題が続きそうです。

さて、昨日(29日)、よく存じ上げている記者の方と話をしておりまして

「一か月ほど前までは社外取締役の義務化は見送られる公算が強い、といった雰囲気でしたけど、ちょっと風向きが変わってきましたよね。でも本当に社外取締役が制度化されてしまったら監査役さんの存在価値はなくなってしまうんじゃないですか?先生はどう考えておられますか?」

との質問を受けました。前のエントリーのJFKさんのコメントにもあるように、社外監査役と監査担当の社外取締役とではいったい何が違うのか、というご質問もありました。

たしかに監査役会設置会社に社外取締役が義務化されるとなりますと、大きな上場会社さんの場合はすでに「棲み分け」のようなものができているのかもしれません。しかし中小の上場会社さんの場合にはちょっと難問です。これまで任意で社外取締役を選任しておられない会社の場合には、監査役との重複感を持たれるところもありそうですね。

Kansaiinkai002 今回の会社法改正のなかで、かりに社外取締役制度が義務化された場合に、昨日ご紹介した監査・監督委員会制度だけでなく、今後継続して監査役会設置会社の機関設定を維持する会社でも参考になりそうなのが(一昨日もご紹介いたしました)「監査委員会ガイドブック」(日本取締役協会著 商事法務 2006年)であります。

本書は平成17年改正会社法の施行に合わせて、委員会設置会社の監査委員会向けの解説書として出版されたものです。すでに出版されて5年が経過しておりますが、監査・監督委員会は委員会設置会社の監査委員会に準じた権限をもつものとして構成される見込みのようですから、あらためて監査委員会の権利・義務、その構成など勉強するには最適です。また独任制である監査役と監査役会との関係や、委員会設置会社における監査委員会との権利・義務の対比などもかなり突っ込んだ解説がされており良本といえます。取締役会の監督機能と監査委員会の監査機能との関係などにも触れており、そこから監査委員会と監査役との監査対象の差はどこにあるのか、という点も考慮されています。

これまで委員会設置会社があまり増えていない現実があるため、委員会設置会社のガバナンスに関する解説書もそれほど多いとは言えません。したがいまして「監査役、監査委員会による内部統制監査」という概念も往査(実査)実務と比較して語られることが少なかったのではないかと思います。監査・監督委員会という新たな機関設計が構想されたことにより、俄然この本は注目を浴びるのではないかと密かに期待しております。なお、この本にもありますように、理念的には監査役会と監査委員会とは異なるものの、現実の企業実務においてはそれほど大きく異ならない運用がなされている(たとえば常勤監査委員を選任している委員会設置会社が7割程度だとか、妥当性監査については監査役会設置会社の監査役も社内的には踏み込んでいるところが多い等)ことも本書で述べられています。

立法事実論(改革によって企業パフォーマンスが向上するか、不祥事の予防が本当に可能となるのか)に力点を置くガバナンス論議と、市場対応論(機関投資家、海外投資家が日本企業に投資するにふさわしいと思える機関設計とは何か)に力点を置く論議とが混在するなか、監査役や監査・監督委員が権限を行使しやすい環境とは何か、また投資家に対して日本のモニタリング機能をどのように説明すべきなのかを考えるにあたり、参考になる一冊です。

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2011年11月28日 (月)

会社法改正-監査・監督委員会の社外取締役「過半数」の重み

企業法務に携わっていらっしゃる方であればご存じのとおり、現在会社法改正に向けた審議が進められておりまして、12月には改正試案が公表される予定であります。いわば「中間試案」でありますが、その骨格が11月16日に開催されました法務省会社法制部会のWEBページにて垣間見ることができます。

最近の新聞報道などでも、監査・監督委員会設置、社外取締役の義務付け、といったことがかなり現実味を帯びて報じられておりますが、このガバナンス改正論議につきまして、本当に初歩的かつ素朴な疑問が湧いてきます。かりに社外取締役の選任が義務付けられるとした場合、その最低人数の及ぼす実務への影響であります。

社外取締役の義務付けと監査・監督委員会設置がセットになりますと、たとえば現在の上場会社の場合(上場会社については、取引所ルールによって会社法上の「大会社」でなくても、監査役会設置が義務つけられておりますので、いちおう上場会社を例にとります)、現在の社外監査役2名(最低)が、横滑りで社外取締役になればいいわけですから、一番経済界にとって受け入れやすいものとなりそうです(ただし法改正後の「社外性」要件をクリアできることが前提です)。

しかし公表された中間試案をみますと、監査・監督委員会の委員(最低3名)の「過半数」が社外取締役によって構成されねばならない、とされています。※ ということは、不慮の事態を想定して(言葉は悪いですが)少し余裕をもって社外取締役を選任しておかねばならないのではないか・・・・との疑問が湧いてきます。とくに社外役員の場合、「あんたとはやってられまへんわ」ということで、経営陣と対立して辞任してしまうことも十分に考えられるところでありまして、たしかに辞任した社外取締役は(法律上は)次の社外取締役が選任されるまで「権利義務取締役」としてその任務は遂行されることにはなっておりますが、実際のところは会社の重要な経営判断に支障をきたすことになるはずです。

※・・・もちろん、未だ「案」としてであります。

もちろん会社法329条2項によって「補欠社外取締役」を選任しておくことも考えられます。しかし、社内の人間であれば機能しそうな「補欠取締役制度」でも、業務執行者に委任できないような会社の重要な意思決定が果たして「補欠社外取締役」に務まるのでしょうか?補欠社外取締役にとっても、非常にリスクが高いような気もします。社外役員といえども、補欠監査役なら引き受けられても、補欠取締役はちょっと・・・と素直に尻込みしてしまいそうです。

法定人数に欠員が生じた場合、社内と違い、社外の場合には候補者選定にも相当の時間を要することになり、簡単に探してこれる、という保証もありません。そうしますと、監査役会設置会社の場合でも、監査・監督委員会に移行する場合には、やはり(不慮の事態に備えて)横滑りだけでは足りず、新たな社外取締役候補を選任しなければならないのではないでしょうか。

だったら、定款を変更してわざわざ監査・監督委員会設置会社に移行することなど必要ない、ともいえそうであります。素直に監査役会設置会社のままで、社外取締役を一人探してきて選任すればいいとも考えられるのでありますが、それでもやはりその「一人」が事故や辞任によって不在となった場合のことを考えますと、余分に社外取締役を選任しておかねばならない、ということになるような気もいたします(補欠社外取締役の問題点は上記と同様と思います)。事実、委員会設置会社の場合には、最低2名の社外取締役が必要でありますが、実務上は委員に事故ある場合に備えて、一定の余裕をもたせて構成を検討しているのが通常であります(「監査委員会ガイドブック」日本取締役協会著 36頁)。

上場ルールで義務付けるのではなく(この場合も争いはありますが)、会社法で社外取締役を義務付ける、ということは、社外役員が不在の場合の取締役会決議の効力や監査・監督委員会の機関決定の効力に影響が及ぶ、ということですから、「最低限の員数を確保する」だけで上場会社役員のリーガルリスクの管理として十分なのか、とても素朴ではありますが疑問が湧いてきました(うーーーん、無報酬の補欠社外取締役って、会社も頼みにくいですよね。。。。)

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2011年11月27日 (日)

山一證券破たんの歴史からみるオリンパス事件

Shuraba001 企業としてのオリンパス社の命運と、不正を主導していた経営陣の命運は、どうも分けて検討される雰囲気になってきたオリンパス事件でありますが、本日(11月26日)の日経朝刊3面の記事にもあるように信頼回復の具体策が未だ見えないのが現実であります。

今年9月に国広弁護士による新刊書「修羅場の経営責任」が発売されましたが、この本が世に出るころ、まさかこんな形で本書が脚光を浴びるとは(著者・出版社も含めて)誰も予想していなかったはずであります。

ビジネス雑誌等で既に多くの書評が出ておりますので、当ブログでご紹介するまでもありませんが、オリンパス事件の動きをみていくためにも、山一證券の破たんを「内部から」みてきた著者の活動記録を精査することは非常に有益であります。とりわけ2300億円にも上る簿外債務が明らかになった後の山一経営陣の(社内調査委員会に対する)「抵抗」はすさまじいものであり、まさに現在のオリンパス経営陣の心証が察せられるのではないかと。

私などは、経験不足から来る「甘さ」でしょうが、これまで公表できなかった不祥事を世に公表した以上、経営陣らは肩の荷が下りたかのように気持ちが楽になり、誠意を持ってステークホルダーのために尽力するのでは・・・・と思うのでありますが、そんな甘いものでないことは、当時の著者の「日記」から明らかになります。不祥事が世に公表された以上、今度は「火の粉」ができるだけ自分にふりかからぬよう、上手に保身に走る姿が如実に表現されております。

損失隠しといっても、誰も私利私欲のために動いていたわけではなく、真摯に「今は悪いことをやっているけれど、これも経営環境が変わって株価が持ち直せば、後日『笑い話』になる」と信じて行っていたのでしょう。これは架空循環取引に手を染める経営者もまったく同じであります(本当に業績向上によって循環取引の損失は消せると信じて行っていたケースが多いと思われます)。あるいは不正行為に手を染める社員特有の「バイアス」が働いていたのかもしれません。

もし今回のオリンパス事件でも、「飛ばし」をそのまま継続していたらどうなっていたのでしょうか。M&Aの手法によって第三者に手数料を支払ったりして無理をしたために監査法人に疑惑の目を向けられ、さらに関与せざるをえなくなった社員の数も増えてしまったがゆえに露見したのかもしれません。そうでなければそのままもう少しの間、静かに深行していたのかもしれません。山一事件からオリンパス事件までの間、法制度や会計基準に変化はありますが組織で動く人間模様に変わりはないものであることが本書を読んで感銘を受けたところであります(著者が「売名弁護士」と批判されたこと、山一社内で非公表と決定されていたはずの報告書を誰がマスコミにリークしたか・・・というあたりも書かれております)。なお後半の「長銀事件」に関与された部分につきましては、大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会主催による来年3月のシンポ「公正なる会計慣行を考える」をご紹介する際にまた引用させていただきたいと思います。

Ino0011KPMGのアンドリュー会長は、オリンパス英国法人の監査において、2年ほど前には疑義を呈し、「決算書に疑義を述べたことによる名誉ある交代であった」と会見されておりました。「オリンパスの不正は明白であった」とのこと。しかし、 それなら本国の監査法人は、単に交代するだけでなく、金商法193条の3による行動はなぜ起こさなかったのか?と私は素直に疑問を感じるところであります。

大王製紙の件、オリンパスの件いずれにおいても、おそらく今後の監査役、監査法人への批判について、冷静に考えるきっかけとなる一冊は、(再掲となりますが)伊藤醇会計士による「命燃やして」であります。すでに1年前に当ブログでもご紹介いたしましたが、本書は最近(2011年10月)増刷が決定したそうであります(これもひょっとするとオリンパス効果かもしれません)。

「山一の損失先送りをなぜ中央青山は見逃したのか?」誰もがその損失額が大きければ大きいほど、監査すべき立場の者へ批判的な目を向けることとなります。10年間にわたり監査見逃し責任の被告となって闘った伊藤会計士は、管財人相手の訴訟で和解をした以外には、4件全ての裁判で勝訴しました。つまり山一事件において中央青山の監査に過失があった、とする裁判は一件も存在しないわけであります。伊藤氏の名誉のために申し上げますが、本書は特定の誰かを批判するためのものではなく、「なぜ監査法人にも不正が発見できなかったのか」を冷静に検討することが本旨であります。マスコミも商売である以上、報道できない事実があり、とりわけ信託銀行、大口顧客、国際的アカウンティングファームによる監査妨害行為があったということを世に公表しているところに意味があると思われます。当時と現在とでは会計基準も変わり、本書で述べられている監査手順が参考になるものではないかもしれません。しかしながら、試査を前提とした監査を行わねばならない以上、被監査対象会社の協力を前提とした監査を遂行することに限界があるのは当然であり、「どこまでやれば不注意と言われないのか」、つまり法と会計の狭間の問題を検討するためには必読の書であると確信します。

本書を読みますと、山一事件発覚時における「監査法人にも責任か」なる大きな報道、そして5年以上経過した裁判で山一監査人が勝訴しても誰も報道してくれない現実、これを私は(「期待ギャップ」に対抗して)「報道ギャップ」と名付けましたが、そういった事実もよく理解できるところであります。そのあたりも認識しながら、現在のオリンパス事件に投影してみると、また興味深いところとなりそうです。

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2011年11月25日 (金)

オリンパス事件も社員の内部告発が発端だった

今朝(11月25日)の朝日新聞朝刊に掲載されていたウッドフォード氏による会見記事を読み、はじめて「オリンパス事件も勇気ある社員の内部告発が発端だった」ことを知りました(正確には雑誌FACTA誌の情報源となった社員・・・とあります)。一昨日のエントリーにも書きましたが、経営者関与の不正が経営者のみで完結することはなく、そこには必ず苦悩する一般社員の姿があります。会員制経済誌に情報を提供したのがオリンパスの一般社員であり、ウッドフォード氏はこの社員を最も尊敬に値する、と述べたそうであります。

結局のところ、大王製紙事件と同様、オリンパス事件も社員による内部通報・内部告発が発端ということになりますが、そう考えますと、今年8月に高裁逆転判決が出た「オリンパス配転命令無効確認事件」が、なんらかの影響を与えたことも否定できないような気がしてきました。内部告発は「いきなり外へ」向かうことことは少ないので、ひょっとしたらオリンパス社内でも特定されている可能性もあるかとは思いますが。そのあたりが心配です。

企業パフォーマンス向上のためのガバナンス改革、ということで会社法が改正されるのであればそれは結構なことでありますが、企業不祥事の予防・早期発見ということを目的として改正されるのであれば、私はガバナンス改革と同時に、内部統制の仕組みも構築しなければ目的を達成できない、と認識するところであります。

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2011年11月24日 (木)

大王製紙の「創業家支配」排除は必要か?

大王製紙エリエール・オープンが終了するのを待って元会長さんへの強制捜査が始まりましたが、本日報じられているところでは(106億円の子会社からの流出のほかに)大王製紙の非連結関連会社からも、さらに5億円以上の迂回融資が元会長氏の口座へ流れていたそうであります。強制捜査に踏み切るにあたり懸案とされておりました被害弁済(会社損害の有無)や資金使途(自己の利益を図る)の要件もクリアされてきたようです。ただ子会社役員の「共謀」を認定している点や、東京地検特捜部が今年4月の時点で元会長氏の海外口座を把握し、内偵していたと報じられていますので、本当は今年3月か4月の時点で社員(子会社社員?)から当局あたりへ内部告発があったのではないでしょうか?9月の時点における子会社財務担当者からの内部通報は、あくまでも社内調査を開始するきっかけにすぎなかったのかもしれません(通報伝達ルートがイレギュラーであったことが不正発覚につながったことは既に述べたとおりです)。このあたりは今後、捜査等では明らかにならないかもしれませんが。。。

オリンパス事件と並び、今年の企業不祥事の代表格となってしまった本事件ですが、こういった事件をきっかけとして、10月以降、ガバナンス論議が盛んになっております。「ほとんどの上場会社はまじめに仕事をしているのであって、これらの事件は特殊事情にすぎない」とも指摘されているわけですが、私は当たっている部分と違う部分があるように思います。

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大王製紙事件などの同族企業を例にとって、経営者関与の企業不祥事発生のメカニズムを表現したのが上図であります。あらかじめ申し上げますが、これは大王製紙に関するものではなく、あくまでも同族企業に関する一般的な傾向、という意味でまとめたものです(念のため)。

左に「不祥事の芽」と書いておりますが、これはあくまでも不正リスクが存在することを述べているものでありまして、決して創業家一族によるグループ支配体制が「悪」と決め付けたものではありません。絶対的支配があるからこそ、指揮命令系統が明確となり、震災対応など緊急時の意思決定が迅速となって企業の社会的責任を果たし得るケースもあるでしょう。うまく機能すれば企業倫理も社員一般に広く浸透するのではないでしょうか。以前も書きましたように、たとえば営業部門の不祥事というのは、根っこは顧客、取引先、同業他社担当者らとの「信頼関係」と裏腹にあります。ステークホルダーとの信頼関係を維持することは営業にとって重要でありますが、その信頼関係が共謀や個人的な貸し借り、競争制限という病巣の発端にもなります。同じように同族企業における経営者関与の企業不祥事は、絶対的な支配力が企業の強みである反面、一歩間違えると企業のガバナンスがマヒする、というリスクの上で発生することとなります。

大王製紙事件の特別調査委員会報告書では、今後当社の再発防止に向け、この企業グループ全体を井川家が絶対的権力で支配する構造を変えなければならないと結論つけておられます。たしかに、大王製紙社の支配力が排除されることがもっとも立ち直りのきっかけとしては大きいものと思います。しかし一族系企業が多くの会社の支配株主である以上、一朝一夕にそういった体制が変わるはずもないわけで、むしろ絶対的支配力が存在するなかで、今回のような経営者不正が起きないようにするための仕組み作りを検討することが「思考停止」に陥らない対応ではないかと思います。

ひとつの案としては、経営者不正は経営者だけで完結するものではない、という点を捉えることが考えられます。架空循環取引等、会計不正に関する事件をみれば明らかですが、経営者に近い者だけで不正を継続して犯すことは不可能であり、からなず支援する社員の存在があります。オリンパスの事件にしても、20年あまり損失の飛ばしを経営者だけで敢行できるわけもなく、そこには将来の昇進を約束された社員の協力が不可欠であります。大王製紙のケースでは、通報システムの伝達経路は元会長と実弟である元取締役が管理しているため機能しなかったのかもしれませんが、たとえば不正に加担した社員が監査役や社外役員に直接通報できるシステムなど、特別予防的にも、また一般予防的にも経営者を不正から遠ざけるシステムによって「不祥事の芽」によるリスクの顕在化を防止すべきであります。こういったシステムの構築と、ガバナンス改革を併せることで、はじめてそこそこの不正予防、不正早期発見の可能性が高まるのではないでしょうか。

大王製紙事件のように、一次不祥事自体が「明らかに特殊事情」である、という事情がなければ、そもそも二次不祥事が表面化することもないわけでありますが、企業はどこでも不祥事の芽を抱えているのでして、また大事件に発展してしまいますと、それが直接の原因か否かは不明なまま、監査役や監査法人の無機能、取締役の監視義務違反といったことが批判されます。そう考えますと、どこの企業もガバナンス改革の必要性は指摘されるところであり、「うちは経営者の倫理意識は高いからだいじょうぶ」と安心してはいられないものと考えます。

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2011年11月21日 (月)

オリンパスのガバナンス不全と企業統治改革論への影響度

朝日新聞ニュース(11月20日)において、かなりオリンパス不正会計事件の進展にとって重要な事実が報じられております。(経済誌では既報ですが)オリンパス社が国内3社を買収するにあたり、価格算定に関する資料が提出される前に、すでにオリンパス社の取締役会において買収を決定していた、とのこと(朝日新聞ニュースはこちら)。公認会計士による価格算定結果が出る前、ということですから、21年5月に提出された(従前の)第三者委員会報告書よりも先に取締役会は3社の買収に関する取締役会決議がなされていた、ということであります。

オリンパス社の第三者委員会は法律家委員によって構成されていますので、「算定された買収価格が異常であり、通常の価格算定の手法からすれば到底適正なものとはいえない」という企業価値判断の適否をもって結論を出すことはせず、むしろ背景事情も含め、「全体からみると、今回の企業買収価格は『最初に結論ありき』というものであり、価格算定は目的ではなく手段にすぎない。ゆえに企業買収価格は適正なものとはいえない」という事実認定から結論を導くものといえます。これは会計処理の適否の判断を回避しながら有価証券虚偽記載等を判断する裁判所の手法に合致するものであり、また最近の(たとえば)ネステージ事件において現物出資対象物の価格算定を行った不動産鑑定士に対する立件を進める捜査当局の手法にも合致するものです。

第三者委員会が、朝日新聞ニュースのような事実を内部資料から重視した、ということは、国内3社の企業買収時の取締役、監査役の行動を評価するにあたり、いよいよ大詰めを迎えつつあるのではないか、と推測されます。私はこの事件が発覚した当初、現在の社長以下、取締役・監査役だった方々は「とりあえず(2年前の)専門家による第三者委員会報告が出ているのだから」買収価格が異常に高額であることの疑問は払しょくされたのではないか(つまり本当に3名以外の役員は「損失隠し」のスキームなど知らなかったのではないか)・・・・・と述べました。しかし上記ニュースが報じるところでは、「最初に結論ありきの役員会決議」の存在が疑われ、公認会計士による評価鑑定、監査役会が依頼した第三者委員会報告書の結果報告は、いずれも「ためにする鑑定、報告」だった可能性も否定できないように思われます。

いま、オリンパス事件、大王製紙事件をきっかけに、企業統治(ガバナンス)改革の必要性が一気に浮上しており、具体的な施策などもすでに提案されているような状況に至っております。たしかに大王製紙事件の特別調査委員会報告書では、大王製紙社の監査役、監査法人の行動について特別な悪質性を認めていないようですし、私自身も日弁連の企業コンプライアンスPTの委員として、こういった改革論議が盛んになることは歓迎する立場ではありますが(以前、当ブログでもとりあげました韓国の「遵法支援人制度」などを例として日弁連声明もだされています)、「オリンパス、大王の事例は氷山の一角か、それとも特別な企業の問題か」という点については少し冷静に判断したほうがよいのではないか、と思っております。

いま企業統治改革として議論されているのは、「なぜ他の取締役が監視できなかったのか」「なぜ監査役は機能しなかったのか」「なぜ監査法人は会計不正を見逃したのか」といったことが世間の期待ギャップとして表面化したからであり、そこで不満が一気に爆発したことによります。ただ、今回の一連の不祥事が、企業統治改革と結びつくためには、社外取締役や監査役、監査法人などが、とりあえず自らの使命に従って通常の職務を遂行しているにもかかわらず、不正を見抜けなかったことが前提となるはずです。ところで過去の不祥事事例において、モニタリング機能が発揮されなかった事例のなかには、①監査役や監査法人が経営者と共謀して積極的に犯罪を遂行した事例、②監査役等が不正を知っていながら何も言わなかった(放置していた)事例、そして③普通の監査役、監査法人ほどの業務すら行っていなかった、いわゆる「名ばかり監査役」の事例も昔から存在するのでありまして、そういった事例では昔から裁判所は(通常の業務を怠ったものとして)法的責任を認めております。したがいまして、今回のオリンパスの事例なども、たとえば損失隠しを主導していた役員以外の取締役、監査役らが、「不正を知りながら放置していた」と評価されるほどの悪質な事実が認定されるのであれば、従来から時々みかけられる特別事情が存在する企業であり、とくに(他社でもよくみられるガバナンス不全に関する)氷山の一角とまでは言えないのではないか、ともいえそうであります。

とりわけガバナンスの機能不全が「悪質」と認定されてしまうと上場維持問題にも影響を及ぼすこととなりますので、むずかしい問題ではありますが、「日本の上場企業のガバナンスすべてに問題が内包されている」という見方とは直接に結びつかない、と考えられます。先の朝日新聞ニュースによりますと「第三者委員会は買収資金の流れ以外にも、チェック機能を果たすべき取締役会が不正を防止できなかった経緯にも注目している」と報じられておりますので、今月中にも明らかになる第三者委員会の事実認定と評価結果は、今後の企業改革論議の行方にも影響を及ぼすものと考えております。

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2011年11月18日 (金)

「清武の乱」とコンプライアンスの本意

(18日深夜 追記)

このエントリーは、昨日いったんアップしたものの、世間のご批判にさらされるのではないか、「お前の方がコンプライアンス感覚が欠如しているぞ」と言われるのではないか、と臆するところとなりましたので、非公開としておりました。しかしブログをご覧の皆様にいろいろとお教えいただくほうが、自身の勉強にもなると思い、改めてアップした次第です。(以下本文)

電車の中で聞こえた会話。。。 「そらぁ、清武がかわいそうやがな。ナベサダが悪いねん、ナベサダが諸悪の根源やがな!」
  ・・・サックス奏者に罪は無いと思うのですが、とんだとばっちりです。。。

(フェイスブック仲間である某大手メーカーの労組執行委員長の方のつぶやきのパクリです)

さて、オリンパス事件にエントリーが集中していたせいで、話題に完全に乗り遅れてしまった株式会社読売巨人軍の内紛問題でありますが、ナベツネこと渡辺読売新聞グループ取締役会長と読売巨人軍清武取締役(代表職)との対立におきまして、清武氏側よりナベツネ氏による重大なコンプライアンス問題が指摘されております。しかし、「コンプライアンス問題」と指摘されているわりには、いったいなにがコンプライアンス上問題となるのか、いまいちよく把握できておりません。世の中で「コンプライアンス」という言葉が当たり前のように使われる今日、その言葉の認知度が高まるにつれ、内容が希薄化していくのも若干不安がございます。そこで、この騒動の中で語られている「コンプライアンス違反」とは何を指すのか、考えてみたいと思います。

とりあえず、清武氏による声明文から察するところでは、ヘッドコーチの人事計画をナベツネ氏に報告していったん了承してもらっていたのにもかかわらず、後日「俺は聞いていない」とナベツネ氏が激怒し、別の方をヘッドコーチに据える案をひそかに原監督と協議して清武案をひっくり返したことを「重大なコンプライアンス問題」ととらえているように思われます。ヘッドコーチ予定者に清武氏が内示をすでに済ませていたことから、親会社の役員といえども、契約法理に従って考えれば一方的に内示を反故にすることはコンプライアンス違反である、といったところでしょうか。

しかし選手同様、監督、コーチも(労働基準法上は)読売巨人軍の従業員ではなく、個人事業主ですから、その契約は労働法上の雇用契約ではなく、また契約社員でもなく、いわば請負契約に近いものかと(子会社による対外的な事業活動に近いのかもしれません。そうでなければ解任など簡単にできないはず)。しかもまだ内示の段階ですから、契約の拘束力はあまり強くないのでは・・・と考えられます。就職時における「内定違反による損害賠償」といった問題も出てこないのではないでしょうか。そのような段階で、100%親会社の役員が子会社の事業活動に関わる経営判断に口をはさむのは、普通どこの会社でもあると思うのでありまして、子会社役員がこれを嫌うのであれば断固拒否すればよいだけの話ですし、また親会社として、そのような子会社役員の対応が気に入らなければ臨時株主総会を開いて解任すれば済むことであります。そのような事態は普通によく耳にするところでありますが、これが特に「重大なコンプライアンス違反」と言えるのかどうか、私はちょっと自信がございません。

むしろナベツネ氏が桃井代表取締役(オーナー職)からオーナー職をはく奪し、また清武氏の処遇問題も独断で決める、ということは、子会社の事業活動ではなく、純粋な組織規律への介入であり、そっちのほうが問題ではないかと思われます。ご承知のとおり、会社法362条4項では、「支配人その他重要な使用人の選任及び解任」は取締役会の専決事項、つまり企業の重要な従業員を指名することは業務執行者に委任することはできず、かならず取締役会で決議をしなければならないことになっております。この「支配人」には、たとえば執行役員、営業本部長等も含む(会社法概説 大隅・今井・小林著)とされておりますので、オーナー、GMといった職務上の地位もこの「支配人」に準ずるものと解されます。したがいまして、100%親会社といえども、勝手に支配人人事を実質的に決定することは子会社の独立性を侵害する法律上の問題となり、これはコンプライアンス違反、内部統制上の問題(企業の業務の適正を確保するための体制構築に問題あり)とされる可能性もあると思われます。

しかしよくよく考えますと(よくよく考えるほどでもないかもしれませんが)、子会社の独立性を侵害するといいましても、子会社人事、たとえば子会社のトップを親会社が指名する、定款を変更させて常勤監査役を設置する、といった重要な人事政策を親会社は普通に行うのでありまして、たしかに法律上は疑義が残るかもしれませんが、とくに「重大なコンプライアンス違反」とまでは言えないようにも思えるのであります。「株式会社読売新聞プロ野球課」の課長さんの降格を行うことと、今回のこととではどれほどの差があるのでしょうか。内部統制上の問題と主張されているようですが、親会社はむしろ読売新聞グループの経営目的を達成するために企業集団としての内部統制を構築する必要があるわけで、子会社の内部統制といえども親会社のコントロールに服することも求められるわけでして。

感情的には清武氏に同情するものですから、脊髄反射的に「ナベツネ氏の重大なコンプライアンス違反、内部統制違反だろ。清武氏はよくやった!」と反応してしまうわけでありますが、きちんと考えていくとよくわからないところがあります。一般の中小の子会社とは異なり、ファンや選手など、プロ野球球団特有のステークホルダーが存在するので、その夢を壊す、といったことを「コンプライアンス」という言葉で表現しようとされているのでしょうか。しかしそうなりますと、ますます希薄化した言葉になってしまうような気がします。

この清武VSナベツネの紛争におきまして、コンプライアンス違反の中身がいったいどのようなものなのか、きちんと頭で整理されていらっしゃる方がおられましたらお教えいただきたく存じます。そもそもコンプライアンスなる言葉は「法令遵守」ということだけでなく、「企業が社会の要請に誠実に対応すること」を含む概念として、かなり抽象化されてきているわけでして、定義づけはあいまいであります。したがいまして、今回の巨人軍騒動にように双方から「あんたのほうがコンプライアンス違反だ!」という主張が繰り広げられる事態も考えられるわけでして、いわば世論を味方につけるための常套句になりつつあるのではないかと思われます。以前「裸の『正義』なる言葉を使用することは危険である」という趣旨のことを述べましたが、この「コンプライアンス」なる用語も、あまりに世論誘導型に使用されてしまいますと、中身が空疎なものとなり、法律の世界から離れていって、「ソフトローとしての規範性」すら喪失してしまうおそれが生じるのではないか・・・と少し危惧するところであります。

(追記)

いやいや驚きました。まさかエントリーをアップした当日に「清武氏、解任」なる事態となるとは全く予想もしていおりませんでした。なお、コメントをいただいている皆様が、たいへん有益なご意見を述べておられ、いろいろと勉強になりました。あらためてお礼申し上げます。<m(__)m>同じように疑問を抱いておられた方も多かったのでしょうね。(気持ち的には清武氏に同情するのですが・・・・・。今後の展開がまだありそうなので、注目しておきたいと思います)

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2011年11月15日 (火)

オリンパス元役員の一言と役員間における「異常な兆候」の共有

10月28日にBDTI(公益社団法人会社役員育成機構)主催のセミナーにて、ダスキン事件を題材に、「社外役員のひとこと」と取締役の善管注意義務についてお話いたしました。違法添加物が混入した肉まんを売り切ってしまった、という不祥事に関する中間報告書が役員会に提出された際、社外取締役のおひとりが代表取締役らに対して「今すぐに不祥事を公表すべきだ」と進言したのでありますが、結局何も決定せず、そのまま放置していました。裁判所(大阪高裁)はこの状況について、「このような社外取締役の進言にもかかわらず、何もしないということは、消極的に隠ぺいすると決定したに等しい」と判断しております。

(連日、この話題ばかりで恐縮ですが)本日(11月14日)のオリンパス事件に関するNHKの報道によりますと、国内3社の買収価格が異常に高いのではないか、と当時の取締役のおひとり(常務取締役)が疑義を呈し、他の役員も同調して「おかしいのではないか」との声が上がったそうです。しかし、「これらの企業の将来価値は非常に大きなものだ」との意見が強く、結局のところは強くは反対できず、買収に賛成してしまったとのこと。なるほど、例の監査役会による第三者委員会設置の決定は、最初から出来レースだった、というものではなく、実際に取締役会で疑義を呈する取締役が何名がいたから・・・・ということだったのかもしれませんね。

しかしそうなりますと、つぎに「異常な兆候」理論が問題になるかと。取締役の監視義務の問題なのか、経営判断の前提となる事実認識の不注意に関する問題なのかはまだ整理できておりませんが、いずれにしましても当時の役員の方々から疑問の声が上がったということは、当時の取締役、監査役の人たちのなかでも「異常な兆候」が共有されていたことになります。「異常な兆候」に触れた役員は、たとえその「兆候」から損失隠しの事実を知ることが困難だとしても、役員の行為規範として、自ら調査する、専門家の意見を聞くなどして、その異常の原因を発見する努力を行う義務があるのではないかと思われます。なかでも、そういった経営判断に疑義が呈された役員会において、当時3名いらっしゃった社外取締役の方々が、どういった意見を述べられたのか、ただ黙っておられたのか、とても興味があるところです。

さて、社外取締役に関連する話題でありますが、私もフォーラムに参加しております上記BDTIにおきまして、11月28日、第4回のセミナーが開催されます。このところ、私も非常に関心のあるテーマが続いておりますが、今回は「日本企業の主要な投資家と議決権行使~ISSの考え方、背景、現状、これからの方向性」と題するものでして、議決権助言会社の基本的な考え方を知るうえで貴重な機会ではないかと思います。WEBから引用しますと、

内外の機関投資家は、背後にいる出資者の利害を考える責務があり、株式投資に伴う議決権の適切な行使は、その重要な要素となっています。 今年の株主総会での議決権行使の結果をみると社外取締役・社外監査役の独立性を求める声が強くなっていますが、それにはこうした変化が背景にあると考えられます。しかし、海外機関投資家のすべてが日本企業のコーポレートガバナンスや株主総会議案、役員の構成、報酬などについて詳細な知識があるとは限りませんし、分析や意見形成に使える時間は限られています。このため、海外機関投資家は議決権行使のアドバイスを専門とする会社の助言を参考とすることが一般的になっています。
このセミナーではISSにて日本企業の株主総会議案の調査を統括する石田猛行氏をお招きしISS社の議決権行使についての基本的な考え方、今年の株主総会の結果を踏まえた現状での判断、そして今後の基準や方針変更の方向性についてお話いただきます。
ISS(インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ株式会社)は、この分野で世界最大手で、最も高く信頼される助言会社の一つです。数多くの海外機関投資家がその助言を重視して総会議案への判断を行うといわれています。

とのこと。やはり社外取締役の独立性についてはISSさんも関心が高いものと思われますので、上手な株主対応を検討しておられる企業の方々には参考になるところが多いかと。また、東証からも上場部長さんが講演される予定です(場所は六本木ヒルズ内にあるTMI法律事務所ということだそうです)議決権助言会社の存在感が高まりつつある今、非常にタイムリーな話題かと思いますので、ぜひ多数の皆様にご参加いただければ、と思います。

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2011年11月14日 (月)

オリンパス社は上場廃止を免れるのか?(あくまでも個人的意見)

オリンパス事件につきましては、先週来、多くの方にコメントをいただいております。お寄せいただいているコメントの内容でもおわかりのとおり、オリンパス事件の関心は「オリンパス社の今後の問題」と「損失隠しに関与した方々の責任問題」に分かれておりまして、本ブログにお越しの皆様方は、どちらかといいますと後者のほうに関心が高いようです。ただ、週末あたりから気になるのは行政当局が(第三者委員会の報告結果が前提ですが)、有価証券報告書虚偽記載の件については、過去の決算訂正をオリンパス社が行うことにより、刑事告発はせずに課徴金処分によって対応する方向で検討を始めた、との報道です。これはオリンパス社の上場廃止問題にも関係するかもしれませんので、オリンパス社の今後の問題にとって重要な情報かと思われます。

いつもブログを拝読しておりますzaimaxさんは、オリンパス社が上場廃止にならない、という結論には絶対に賛成できないとされ、「O社の上場廃止は社会的影響が大きいとして会社が救済され、一般株主だけは自己責任ということでしょうか?」と疑問を呈しておられます。

私個人の意見としても、今回のオリンパスの件は虚偽記載の程度が重大であり、間違いなく上場廃止になるのでは、と予想しております。過去の虚偽記載の程度もさることながら、社長反乱後のオリンパス社の開示態度はひどいの一言です。社長解任を「外国人社長には日本文化を理解できなかった」と一蹴し、海外のメディアに社長が反論をすると、その反論に必要最小限度の情報開示で反論し、さらには社長の主張を紹介する者に対しては「憶測で不確かな情報を流布する者には名誉棄損で法的措置も辞さない」と恫喝、最終的に逃げられないとみるや、損失隠しがあったと謝罪をして情報を開示という有様。私にはとても自浄能力のある企業には思えません。

つまり損失隠しを主導していた3名の方以外は「損失隠しは知らなかった」のが事実だとしても、会社を代表すべき社長が解職されたときの解職理由に関する情報開示(あれで十分と考えたのか?)、社長が内部告発をしたときの情報開示の在り方(2年前の監査役意見だけに頼りっきりで、新たに何も調査せずに開示してよいのか?)、株主をはじめオリンパス社のステークホルダーが情報を共有することを単純に恫喝によって妨害するという対応に、だれも異を唱えなかったわけでして、全社的内部統制が今後しっかり構築されたとしても、再び開示統制が機能不全に陥るであろうと予想されます。これは関係者の刑事処分や過去の決算訂正だけで再発が防止できるわけではなく、すなわちまた投資家・株主、銀行等に迷惑をかける可能性が高いことを示しているとしか言いようがないと思われます。

そもそも「組織の隠ぺい体質」なる開示統制の機能不全は、ダスキン事件のように裁判等によって表面化しなければ評価はできないのですから、原則として上場審査の対象にはならないはずです。しかし今回のオリンパス社のように、堂々と世間に「組織としての隠ぺい体質」示してしまった以上、社長反乱後の一連のオリンパス社の経営判断について、廃止すべきかどうかの審査の対象からはずす、ということは困難ではないでしょうか。むしろ、「ここまで悪質なことをやっても上場廃止にはならないのか。それなら今後はオリンパス社の件を、仮処分事件で廃止決定を争うときの有力な証拠にしよう」と考える上場会社が出てきてもおかしくはないと思われます。

以上が個人的な意見ですが、少し冷静に考えまして、もし(報道されているとおり)私の個人的な予想に反して、上場が維持される結果となるのであれば、どういった理由で維持されるのでしょうか?私は利害関係者ではありませんので、こちらも客観的に検討しておこうかと。

オリンパス社は自浄能力が発揮されたのか?

もう少し大局的に全体をみた場合、オリンパス社は元社長の反乱があってこそ、今回の不正事件が発覚したわけですから、この「元社長の反乱」自体、内部からの自浄作用とみるべきではないか。過去に上場廃止となった事案、たとえばカネボウ事件、ライブドア事件にしても、産業再生機構の調査や外部からの調査によって粉飾が明らかになったわけでして、そのあたりはオリンパス事件とは少し異なるものと思われます。大きな目でとらえるならば、今回の件も自浄作用が機能したものと評価できるのかもしれません。

また、第三者委員会による調査を積極的に導入し、その報告結果を尊重して自主的に過去の決算訂正を行う、という対応が「自浄作用」と評価されるのかもしれません。そもそも第三者委員会への期待というのは、世間的には「行政当局による不正摘発」に代わるもの、つまり事後規制への代替を果たすと思われがちですが、そうではありません。むしろ行政当局のもつ事前規制(投資家・株主が損害を被る危険のある状況を迅速に取り除くための規制)の趣旨を代替するものであり、企業が自主的に間違った開示を正すために(第三者委員会が)果たす役割こそ期待が寄せられるところであります。したがいまして、第三者委員会の調査に企業が協力し、最終的に間違いを認めて速やかな開示情報の訂正を行えば、これは「自浄能力が発揮された」と評価できることとなり、この対応を行政当局も見守ることになります。

開示統制システムの改善が明らかであること

たとえば損失隠しを主導した関係者への刑事処分(偽計取引として金商法違反の刑事責任が問われる)や、競争入札から法令違反企業として排除される、といった企業としのオリンパス社が社会的な制裁を受けることも、上場廃止を免れるための条件になるかもしれません。しかし、もっと大切なことは「不都合な情報を隠ぺいする組織風土・企業体質が一掃された」といった事情が認められることが必要、ということであります。たとえば本件においては、①オリンパス社の取締役会が、損失隠しを主導した者への刑事告訴を決めること、②(主導した)元役員らに対して会社として断固とした態度で損害賠償請求訴訟を提訴すること、③いったん解職した元社長を再びボードに復帰させること、④今回の損失隠しのスキームに協力した者、法人等の情報をすべて開示すること(これは第三者委員会報告で明らかになるかもしれませんが)などを実現することで、はじめて「隠ぺい体質からの脱却の兆し」が国内外を通じて理解されるのかもしれません。

上場維持という結論となりますと、どう説明しても海外の投資家からの不信感はなかなか拭えないものと思いますが、それは企業統治の抜本的な改革を実現する方向で解決する以外にはないのでは・・・・(このあたりは、まだどうも整理がついておりませんが・・・・)

そもそも上場を廃止するか否かは取引所が判断することであり、行政当局が刑事責任を追及しない以上は、単純に廃止事案とはしない、それ以上の理由は不要ということも結論としてはあるかもしれません。しかし、コンプライアンスの視点からすれば、いったん開示統制の機能不全を露呈した以上、二度と同じことを繰り返さないことを世間的に示すことが必要ではないでしょうか。そういった不退転の決意が「形として見える」ことで、ひょっとすると上場廃止が免れることになるのかも・・・・・と思う次第であります。

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2011年11月11日 (金)

オリンパス・大王製紙事件-地味ですが重要な金商法193条の3

一昨日あたりから、行政当局がオリンパス会計不正疑惑事件について、国内3社の買収、ジャイラス社の買収に関する会計処理が行われた時期に監査を担当していた監査法人へのヒアリングを開始した、と報じられております。

当時の監査法人さんは、とりわけオリンパス社による国内3社の買収価格について問題視しておられ、疑義があったからこそ、監査役会が(2009年5月時点で)第三者調査委員会に経営判断の合理性について調査依頼をかけたものと思います。

監査法人としては、「この買収価格、FA報酬額はおかしいのでは?」と問題視していたわけで、監査役会にも(おそらく)疑義を呈したわけですから、そこそこ監査法人は誠意をもって仕事をしていたのではないのか?と思いますし、それ以上、独自に不正を発見することなど困難ではないか、と考えられます。

しかし2008年4月以降に開始する事業年度から、監査証明業務を担当する監査法人・公認会計士さんには金融商品取引法193条3が適用されますので、財務諸表の虚偽記載につながるほどの重大な不正の「おそれ」がある場合には、まず監査対象会社の監査役さんに書面で「不正・違法行為が疑われるために、善処されたい」との通知を出し、監査役さんが何もしない、または対応はしたけども、不正・違法行為のおそれがなくならない場合には当局にその旨を通知しなければなりません。これを怠りますと、過料のペナルティとなります。つまり「守秘義務があるので回答できない」では通用しないことになります。この規定の重要性は、おそらく大王製紙事件でも今後問題となってくると思われます。地味ですが、監査役と監査法人との連係の必要性や、会計不正事件における監査法人の守秘義務解除という問題に深く関わるからであります。

今回のオリンパスの件では、おそらく監査法人さんからオリンパスの監査役さんに対して、内容証明郵便による金商法193条の3に基づく通知はなされていないでしょうし、また当然のことながら金融庁に対して不正のおそれに関する届出もされていないと思われます。カネボウ事件をきっかけに(2007年の公認会計士法の改正とともに)新設された条文であるにもかかわらず、なぜ、193条の3による対応をとらなかったのか、そのあたりは行政当局としても、大いに関心を寄せているはずではないでしょうか。

なお、少々疑問を抱いたのは、2年前にオリンパス社の監査役会が依頼した第三者調査委員会の報告内容は、オリンパス社の企業買収に関する価格決定の背景事情、経緯をもとに、高額な買収がなされた経営判断の合理性について、であります。つまりすでに存在する資料をもとに、経営判断の合理性という法的評価を専門家に求めたわけでして、そのような法的評価を監査法人が知ったとしても、(監査法人は法律の専門家ではありませんので)あまり意味がないように思いました。むしろ監査法人が監査役に求めるのは、会計処理からみて「不正のおそれ」があるので、不正の事実があるかどうか調査してほしい、ということだと思います。つまり監査役が取締役の職務執行を監視検証するとしても、取締役会における意思形成過程を問題とするのではなく、その前提となる取締役の行動におかしな点があったかどうか、ということであり、第三者に調査を依頼するのであれば、まさに今回のウッドフォード氏の要求のように「こんな報酬額など普通はありえないから、ジャイラス社側に直接ヒアリングをして、このアドバイザー会社のだれが直接ジャイラス社と交渉したのか、確認してほしい」とすればよいはずです。消去法の理屈で心証を形成するのは監査法人さんがもっとも得意とするところですので、そういったいくつかの調査結果を集めて「不正のおそれ」を疑わせる事実は存在しない、と調査結果を出すことが一番193条の3の趣旨に合致するのではないかと思います。

そのような「不正のおそれ」が低減されるような事実が判明すれば格別、単に経営判断に合理性がないとは言えない、といった法的評価だけを信用して、「会社は善処された」と判断されたのでしょうか。そのことで監査法人から適正意見が出た、ということであれば、この金商法193条の3が施行される前であれば格別、施行後である2009年の段階ではちょっと疑問に感じるところであります。

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2011年11月 9日 (水)

「他者をかばう美徳」とオリンパス事件の進展

(11月9日夕方 追記あり)

オリンパス社の元社長ウッドフォード氏は1960年生まれ(私と同い年)ですから、もうかれこれ30年にわたりオリンパス社に奉公し、オリンパス社をこよなく愛し、そしてオリンパス社を誇りとして生きてこられたのでしょうね。今日のインタビューでも「これからの従業員、株主のことを思うと、私が復帰するとかそんな問題よりも、早くオリンパス社が信頼を回復して再生できる態勢になることを願う」とコメントしておられます。憎むべきは(自分を解職へと追いやった)役員の面々であって、会社ではないということかと。

そのウッドフォード氏が現社長の謝罪記者会見に対して「(損失先送りを画策した)3人の責任?とんでもない!ボード(取締役会)を構成する全員が辞任しなければならないはずだ!」と強く主張されています。再生のための是非は別として、たしかに現経営陣は元社長からそのように言われてもしかたないように思います。元社長を解職したのは特定の役員ではなく取締役会です。代表取締役を解職する、ということは上場会社にとって由々しき問題でありますので、なにゆえ社長を解職するのか、その解職理由が明確に取締役会で示されなければ審議などできません。ろくに解職理由も調査することなく解任に賛成した、ということはそれ自体が非難に値するかと。

ただ「辞任しなければならないほど重大な責任」が3人を除く他の役員に存在するか・・・・といいますと、私の正直な気持ちとしては、ちょっとなんとも今の段階では申し上げられないところであります。思い悩むところが大きいです。

解職を決めた2日前に国内3社の買収問題、ジャイラス社買収問題に関するPWCの中間報告書が元社長の手元に届いており、そこには英語版とは別に和訳版もあったようです。日本語版がある、ということは元社長が各取締役に報告結果を示すことを前提として作成されているのですから、他の取締役の方々が「報告書は見ていない」ということは考えにくいと思われます。ただ実際には、元社長欠席のまま取締役会が開催されたそうですが、「もう2年も前に、第三者委員会調査で『適法』とされたんだから、何も今頃蒸し返さなくても・・・・」といった協議だった可能性は否めません。

もちろん、2009年に監査役会がわざわざ第三者委員会を設置して、企業買収問題について外部第三者の意見を求めたこと自体、「取引の異常性」が当時の取締役会で問題となっていたことを示しており、さらに当時の監査法人もジャイラス社のFA報酬を問題視していたようなので、「異常な兆候」が存在したことは明らかです。したがって異常な兆候があるにもかかわらず、他の取締役が何等問題意識をもっていなかったとは到底考えられないところです。しかし、2年前の第三者委員会報告書が「著しく不合理な経営判断とはいえない」との結論を出し、この結論にしたがって、当時の監査役会が上記買収問題に「お墨付き」を与えてしまった以上、今回のPWCの報告書を元社長から出されても「もう終わった話だから良いではないか。なぜそこまでこだわるのか」と他の役員らが感じても不思議はないように思われます。

かりに現社長が本日述べておられたように「昨日、元副社長から(損失先送りの処理として行ったことを)聞いて初めて知った」というのが真実だとするならば、まったく損失先送りを実行していた3名以外の取締役は、なにも知らずに元社長の解職に賛同した、ということになります。もちろん、これも企業統治や法的責任を考える上で、たいへんな事態となってしまいますが、「知っていたら、私たちはすぐにでも元社長と同じく解職していただろう」と言われてしまいそうな気もします。つまり我々がボードに残っても、自浄能力はきちんとありますよ、と。今日の現社長の記者会見ストーリーは、かなりしたたかに構成されているなぁと感じたのは私だけでしょうかね?

本日の現社長記者会見に関するニュースを読みまして、まだまだオリンパス社は誰かを巧妙にかばっているのではないか・・といった感想を持ちました。九電やらせメール事件と同様、これからのオリンパス社の再生に向けて、他社(もしくは他の関係者)をかばうことが必要と判断したからであります。昨年ご紹介した「命燃やして」において、10年にわたり山一證券監査見逃し責任を追及された伊藤醇氏(公認会計士)は、その「はしがき」で山一證券の2500億円もの損失隠しがなぜ長年わからなかったのか、その背後に信託銀行、大口顧客、そして海外のアカウンティングファームによる強烈な監査妨害行為があったことを述べておられ、また著書の中でも、なんどもこれらの協力者なしには山一の損失隠しはありえなかったことを述べておられます。粉飾には協力者はつきものです。今回の件が記者会見で述べられたとおり粉飾決算に関連する事件ということであれば、そこには損失隠しに長年協力していた社内、社外の関係者が存在するはずであり、おそらく山一と同様、オリンパス社もこれをかばい続けるものと思います。

第三者委員会、行政当局、そして海外の調査機関等、これから一気に調査が進展することになると思います。損失隠しに中心的に関わった方々への制裁措置がとられれば世間やマスコミの関心も薄れ、一件落着となるかもしれません。しかし、それでは同様事件の再発防止やガバナンスへの海外の信頼回復にはほど遠いように思います。オリンパス社が今後の再生のためにかばい続けようとする関係者の責任追及にまで至るのかどうか、資金の流れの解明とともに、そのあたりを見守っていきたいと思います。

(9日夕方 追記)

上記エントリーを書いた時点では存じ上げませんでしたが、昨日(11月8日)発売の週刊朝日ではスクープとして「発端は経営者総ぐるみの損失隠し疑惑」なる記事が出ていたのですね。なるほど・・・この記事も、8日に企業側から損失隠しを公表するに至った要因になっているのかもしれません。毎度ながら、一度火がついたマスコミのおそろしさを、またまた垣間見た気がいたします。

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2011年11月 7日 (月)

大王・オリンパス事件の視点-春日電機事件を忘れてませんか?

この時期となりますと、日曜日は嫁さんと大和古寺巡りが恒例なのでありますが、今年は日曜日も仕事(涙)でして、少し疲れ気味です。日曜日の深夜というと、ときどき日経の独占スクープネタが楽しみでありますが、「東証、大証、来秋合併」とのこと(^^;

オリンパス元社長解職事件については、皆様本当にご関心が高いようでして、コメントをたくさんいただきながら、お返事もせず誠に申し訳ございません。いや、ほんとにみなさん、次から次へと時事ネタをフォローされており、私の方が参考にさせていただいております。

大王製紙事件もオリンパス事件も、そろそろガバナンスにも関心が集まりつつあるようですが、新聞記事や皆様方のブログ等を拝見しておりまして、ちょっと物足りない点がございます。当ブログで3年ほど前、あれだけ盛り上がった「春日電機事件」のことが、すっかり忘れ去られてしまっているのではないか・・・という点に一抹の寂しさを感じます。

大王製紙事件も、オリンパス事件も、「監査役がどうした」「監査法人がおかしいと指摘していたのではないか」「監査法人は知っていたのか」といった指摘や批判がよく話題に上るようになりましたが、「監査法人と監査役の連携」について、ほとんど触れられておりません。

春日電機事件は、会社を乗っ取った新社長が、自身がオーナーとなっている別会社に春日電機の資産を流出するわけですが、当時の監査法人が「どうもおかしい」と感じて、同社監査役と協議のすえ、金商法193条の3をもって監査役に「会社と対決せざるをえない状況」をお膳立てするわけです。

たとえ有事でなくても、J-SOX導入によって各社とも監査役と監査法人との連絡協議会の回数は増えており、なにかおかしいと感じることがあれば、臨時報告会を設けて対策協議を行うのが通例です。監査役から監査法人に連絡するときもあれば、監査法人が監査役に相談をもちかけることもあります。そのような実務はほとんど一般の方々には知られていないので、おそらくマスコミでも取り上げられないものと思われます。

期末に監査役が有価証券報告書を隅々まで見ていなかったとか、監査法人に不正発見義務はないとか、いろいろと言われておりますが、上場会社の「監査役と監査法人との連係・協調」に関する実務慣行からすれば共同責任の時代になったのではないかと。たとえ監査役が決算役員会で初めて有価証券報告書案を見たとしても、それまでに監査法人が問題視している点があれば、監査役に相談しているはずであります(つまり「見ていなかった」では済まない問題かと)。もし相談していないのであれば、金商法193条の3の規定が存在する以上、それこそ監査法人の怠慢であります。また、たしかに監査法人に不正を発見するまでの具体的な義務がないとしても、監査役から調査依頼や相談が持ちかけられた以上は、財務諸表・計算書類の信頼性に重大な影響を及ぼしかねない虚偽記載のおそれがあるかどうかを判断する必要があるはずです。監査法人と経営者において、その会計処理方針等で対立が生じ、監査法人が辞任するようなことでもあれば、それこそ「不正の兆候」を目の前にした監査役(監査役会)としては、喫緊に後任の監査法人と疑義の解消について協議を行う必要があるはずです。

監査法人の規模にもよるかもしれませんが、そこそこ大きな監査法人であれば、監査役との協議会もきちんと履行されるよう指導されているはずです。つまり監査役か監査法人かどっちかが「おかしい」と感じる点があれば、年間を通じて何度も情報交換を行う機会、経営陣に指摘する機会があるわけですから、実はそういった協議会で何が語られたのか、今回の大王製紙、オリンパスの件ではとても重要な点ではないかと。あの春日電機事件を契機に、これから監査役と監査法人との連係がとても重要性を帯びることになる、と思っておりましたし、昨年上場会社で何件がみられた監査役会による監査法人解任騒動などでも、そういった流れになってきたのかな・・・と感じておりましたが、今回の騒動では、あまりクローズアップされていないので、あえて個人的な意見でありますが、書かせていただきました。

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2011年11月 4日 (金)

コンプライアンス-経営トップのコミットメントと社外役員の目

11月2日の日経WEB経営者ブログにて、マクドナルドHDの原田社長が「オリンパスへの疑問」と題する小稿をリリースされておられます(ちょっとリンクが貼れないのが残念)。長年、オリンパスのトップを務めた方が、社長交代の記者会見にお出にならなかったことを「疑問」とされています。「オリンパスが潔白というのであれば、堂々と記者会見に出て、社長交代の理由などを話さなければならない」とのこと。

この原田ブログにて、非常に感銘を受けたエピソードが掲載されています。マクドナルド店舗が消費税総額表示に移行する際、レジの打ち間違いなどによって151件、総額にして1万円に満たない程度の消費税の二重徴収が発生したことが社内で判明しました。そのことを社長に報告してきた管理職の方が「原田さん、お客さんからのクレームは1件も来ていません(謝罪の必要はありません)」と告げました。これを聞いた新任の原田社長は「なんて企業統治のできていない組織なんだろう」と唖然としたそうです。原田社長は、(社内で一部反対はあったものの)わずか9000円のために、2800万円をかけて新聞に謝罪広告を出しました。

それまでのマクドナルド社のガバナンスがどうだったのかは知るよしもありませんが、私は二重徴収を報告したときの管理職の方の言い分もわかるような気がします。人は自分に責任がふりかかりそうになると、できるだけ「たいしたことはない」ように理解してもらう雰囲気で情報を上に伝えるのが自然な成り行きです。おそらくこの管理職の方も、二重徴収についてお客様からクレームが来ていないことで、社長にホッとしてもらえるものと考えての発言だったのではないでしょうか。しかし新社長に「長年の社内の常識」は通用しなかった。

よく「コンプライアンスは経営トップの率先垂範が重要」と言われますが、この原田社長の謝罪広告の決断こそ、そういった「率先垂範」のイメージにふさわしいものであり、社長の「コンプライアンス経営、リスク管理への本気度」を示すものであることが理解できます。おそらく社内ではビックリした方も多かったでしょうし、「なにもそこまで・・・」と思った社員もおられたでしょう。しかしながら、社長のコンプライアンス経営に対する本気度が社員に伝わったことは間違いないと思います。

ただ、原田社長が疑問を抱いたオリンパス社の元トップの方も、いろいろと報道されているところを総合しますと、オリンパス社を一流の光学機器メーカーに押し上げた功労者のようです。他の経営陣の反対を押し切って高級デジカメ路線を選択し、画素数で常に他社を一歩リードして好業績企業への道筋を示し、多大な貢献をされた、とのこと。「彼の戦略には間違いない」と誰もが評価したからこそ、企業買収戦略についても他の役員から高い信頼が置かれていたのではないでしょうか。その結果、きちんと法で定められた手続きさえ履行してしまえば「問題なし」との経営判断が下された・・・ということではないかと。

昨日(11月2日)、私は広島県のある上場会社(東証)にお招きいただき(どうもいろいろとお世話になりました<m(__)m>)、約1時間、社長さんとお話させていただきましたが、社長さん曰く

「先生ね、私はプロパー出身のサラリーマン社長なんですが、もう何年も社長やってますとね、時々『自分はオーナー社長じゃないか』と錯覚することがあるんですよ。株主構成や従業員の出身地、会社を取り巻く環境が、そのように錯覚させるんでしょうね」

コンプライアンスは時間軸を持っていると思います。どんなに立派な方であっても、時間の経過によって、社長の個人的な生活環境、会社の業績、業界の情勢など、そしてこの社長さんのように周囲の見る目によって、社長の常識が世間の常識と次第に食い違ってくることもありうるのではないでしょうか。先のマクドナルド社の原田社長の言動は、とても感銘を受けるものであり、「ああ、この方なら、きっと会社は正しい方向に進むだろう」と思えるはずです。そして一回、そのように思い込んでしまいますと、人間は楽な方向に自己の行動を正当化したいために、「彼の判断ならば間違いない」と確たる根拠もなく軽信し、そのまま思考停止に陥ってしまいます。ただ、こういう会社こそ、社外役員の方々は、「経営トップのコンプライアンス意識」が高いとしても、バイアスに捉われることなく、常にステークホルダーから「平均的に期待される職責」を果たす必要があるのではないでしょうか。それができるのは、社外取締役や社外監査役など、ビジネス情報に接しつつも、冷静に経営判断の妥当性、適法性を思料する地位にある人たちだけではないかと思う次第です。

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2011年11月 3日 (木)

オリンパス・大王製紙問題と会社法改正論議

民主党が「資本市場活性化・企業統治向上WT」を設置すると報じられています(ロイターニュース)。昨年、議員会館でいろいろと議論させていただいた大久保議員が座長に就任されるようでして、このたびのオリンパス事件、大王製紙事件を契機として、上場企業のガバナンス向上のために、会社法改正だけでなく、開示規制や上場規則の改正なども視野に入れて検討されるようであります。

そういえば、5年前の会社法改正のときも、自民党の商法部会(たしか塩崎部会長)の「一声」で内部統制システムの構築に関する会社法条文が盛り込まれましたっけ(金商法上の内部統制報告制度と会社法上の制度との違いがどこまで意識されていたのかは定かではありませんが・・・)。当時、一生懸命法制審の議事録に目を通しましたが、たしか内部統制システムの構築といった議論はほとんどなかったと記憶しています。パブコメ案の時には、まだ内部統制システム整備に関する条文がなかったはずです。

ちょっと趣旨は違いますが、「会計参与」の導入・・・というのもありましたよね。法制審委員の方々が、商事法務の座談会で「なんで会計参与なんか、入っちゃったんだろう。いまだによくわかんないです。」とつぶやいておられたのを思い出します(笑)。これもほとんど法制審での議論もなされないまま、政治的な意味合いで、ふと気が付いたら条文が入っていたような気がします(その後、立法当初の予想を超えて、会計参与制度が「そこそこ」実務に定着していることはご承知のとおりかと)。

ずいぶん昔ですが、総会屋対策に関する条文が商法に組み込まれる際、東大の竹内昭夫教授が「商法の美しい体系が汚される」として、たしか論文で大いに嘆いておられました。それでも株主総会の正常化のためには実務では必要、とのことで導入が決定したようでして、会社法の改正にはときどきドラマがあるように思います。

会社法改正に関する熱い議論が続き、パブコメ案が間もなく公表されるというこの時期に、あっと驚くような会社法改正条項の追加(もしくは上場ルールの改訂)があるんでしょうか?さすがに「公開会社法」とまではいかないと思いますが、それでも何かドラマがあるのかもしれません。たしかに「立法事実」は目の前で現在進行形で展開されているような気もいたします(すいません、今日のエントリーはうろ覚えのところがありますので、誤りがございましたらご指摘ください)。

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2011年11月 2日 (水)

日本は不祥事が発覚しやすい社会になったのだろうか?

大王製紙社のガバナンスが論じられるときは「創業家に対する絶対服従の企業風土」という言葉が語られるわけですが、オリンパス社のガバナンスの場合には、「業績の飛躍的向上という輝かしい偉業を成し遂げたK元会長への畏敬」という言葉になるのでしょうか?つまり、K氏の目利きの良さは、過去の成功例からみたら反論の仕様がない、だからその行動(リスクテイク)は適正なものと判断できる、というところかと。よく子会社トップの不祥事が語られるとき、「彼は常に子会社の業績を向上させていたので、だれもが素晴らしい実力の持ち主だと思っていた。まさか、粉飾していたとは・・・」と親会社役員が感想を述べることがありますが、これに近いものかもしれませんね。

オリンパス事件につきましては、現時点で「過去の企業買収に問題があった」と断定することはできませんが、注目の「第三者委員会の設置」も決まりましたので、今後は不透明な買収の経過が明らかになるものと予想されます。

ところで、このようにオリンパス騒動が大きな事件となったのは、もちろん元社長であるウッドフォード氏による告発が契機であることは明らかであります。では、もし元社長による海外メディアへの内部告発がなければ、オリンパス社はいまでも安泰としていられたのでしょうか?

たしかに会員制経済誌による一連の社内事情の暴露があり、元社長も当誌の記事をもとに調査に乗り出したそうですから、たとえ元社長による内部告発がなくても、「ゆくゆくは」経済誌のスクープによってオリンパス騒動が勃発していたのではないか、ともいえそうであります。

ただ、オリンパス騒動に関する日本のマスコミの初期対応がどうも気になりました。私は過去におきまして、一般経済誌の記者の方の(日本を代表する某会社の経営陣に関する)不祥事スクープに関与したことがありました。もちろん、ネット上にも大きく報じられたのでありますが、私のドキドキワクワクした気持ちとは裏腹に、日本の大手新聞社は全く後追い記事を掲載することもなく、ただの一発記事で終わってしまいました。内部告発モノですから、会社側が反論すれば、いくらでも再反論の用意はあったのですが。。。今回の件につきましても、FACTA誌の開示した情報を、大手のマスコミがどこまで追随して報じるか・・・といいますと、なにか発端となる事件でも発生しない限り、あまり期待できなかったのではないかと思います。

あの有名なダスキン事件のときは、たしか(ダスキン社が違法添加物入りのぶたまんを売り切ってしまったことに関する)口止め料を過去に受領した某氏が、またダスキン社にやってきて、今度は会社側が口止め料支払を拒否したところ、その数日後に大手新聞社からの問い合わせがあったものと記憶しています。

ネット掲示板や動画サイトが普及し、またブログやツイッターなどが内部告発を助長する手段となりましたが、それらは企業不祥事発覚の端緒にはなりえても、起爆剤がなければ大きな不祥事ネタにはならない。やはり世間で注目されるためには大手マスコミの力が今も大きいのではないでしょうか。

今回のオリンパスの件も、告発をしたのが従業員ではなく社長であったこと、海外メディアが内部告発を真剣に取り上げて海外の行政当局も興味を示したことなどが起爆剤となって、日本のマスコミに火が点いたように思います。つまり大手のマスコミ先行型の報道であれば格別、そうでないケースでは、この「起爆剤」がなければ、現代においても企業不祥事が大きく報じられることはむずかしいのでは・・・といった印象を持っております。よく「昔と違って不祥事は隠しきれない時代になった。だから自浄能力を発揮して、自ら進んで公表しましょう」と言いますが、いざ内部告発者を支援する立場に立ってみると、(良い悪いは別としまして)いまでも企業側が「火消し」に成功する機会も結構あるような気がしています。

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2011年11月 1日 (火)

オリンパス大株主による取締役会議事録閲覧・謄写請求

オリンパス社の大株主であるサウスイースタン・アセットマネジメント社が、過去の企業買収時にオリンパス社がFAに支払った報酬額が異常に高額であるとして、過去の取締役会議事録の開示を求めている、とのこと。10月20日の時点で取締役会議事録の閲覧を求めたところ、オリンパス社側より拒否されたことから、サウス社としては法的な手続きによって閲覧等を求めることも検討していると報じられております(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。

いわゆる会社法371条に基づく(株主の)取締役会議事録等の閲覧・謄写請求権の行使に関するものでして、株主は原則としていつでも議事録等の閲覧・謄写を会社に請求できるわけですが、監査役設置会社の場合には(そもそも業務検査権限を有する機関である監査役が存在するわけですから)裁判所の許可を得た場合にのみ、株主は閲覧・謄写請求を行うことができます。つまりオリンパス社の場合には、監査役会設定会社ですから、株主が議事録等を閲覧したい場合には、裁判所の許可が必要ということになります。ただし、私が以前経験した事例では、裁判所の許可がなくても会社側が任意で開示することは可能ですので(その場合は申立の取下げで終了)、和解的終結ということもあります。

許可を求める株主側としては「株主なんだから取締役会議事録の閲覧を許可せよ」といった簡単な手続きで閲覧が認められるものではありません。会社側が開示を拒否した場合には、商事非訟事件として、株主は審問手続きのなかで具体的な「議事録閲覧・謄写」の必要性を疎明しなければなりませんし、会社側も取締役会議事録が開示されることで(企業秘密の毀損等)会社に著しい損害が生じることを疎明できれば開示は認められません。

そもそも元社長さんが不透明なFAへの報酬支払を問題化して解職されたこと、一定の情報開示後も、内外のマスコミがオリンパス社の企業統治に大きな疑問を投げかけていることからしますと、大株主は私的な利益を求めて、というよりも株主として取締役らの責任追及のための資料として取締役会議事録を閲覧・謄写請求を行う、といったところでしょうか。しかし、過去のFAに対する報酬支払の経過については、オリンパス社自身も「第三者委員会を設置して真実を解明したい」と述べているのでありまして、サウス社のほうも、27日付のニュースが報じているところでは、第三者委員会のメンバーを一名推薦した、ということであります。そもそも厳格な業務監査が期待できない場合に、株主の権利行使を認めるわけですから、権限行使の必要性が(株主側に)認められなければなりません。当面は(事実解明を第三者委員会に委ねる、とのことですから)「株主による閲覧・謄写を認めるべき必要性には乏しい」といったところではないかと。

問題は、このままオリンパス社が第三者委員会を設置できずに、もたもたしておりますと、いよいよオリンパス社と大株主との間で法的紛争が発生してしまう可能性がある、ということですし、取締役会における会議の内容次第では、裁判所による閲覧・謄写等の許可がおりる可能性も結構高いのではないでしょうか(あくまでも個人的な感想ですが)。

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