監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方
11月も今日で終わり、早いものでもう師走です。今年は3月の記憶があまりにも衝撃的なものであったため、気持ちの上で1月、2月の記憶が空白になっているように感じます。ただ、12月はまだまだ会社法改正試案の発表、オリンパス事件の第三者委員会報告書の公表、またまた動きのありましたゲオ社の調査報告書の発表など、当ブログ的にも興味のある話題が続きそうです。
さて、昨日(29日)、よく存じ上げている記者の方と話をしておりまして
「一か月ほど前までは社外取締役の義務化は見送られる公算が強い、といった雰囲気でしたけど、ちょっと風向きが変わってきましたよね。でも本当に社外取締役が制度化されてしまったら監査役さんの存在価値はなくなってしまうんじゃないですか?先生はどう考えておられますか?」
との質問を受けました。前のエントリーのJFKさんのコメントにもあるように、社外監査役と監査担当の社外取締役とではいったい何が違うのか、というご質問もありました。
たしかに監査役会設置会社に社外取締役が義務化されるとなりますと、大きな上場会社さんの場合はすでに「棲み分け」のようなものができているのかもしれません。しかし中小の上場会社さんの場合にはちょっと難問です。これまで任意で社外取締役を選任しておられない会社の場合には、監査役との重複感を持たれるところもありそうですね。
今回の会社法改正のなかで、かりに社外取締役制度が義務化された場合に、昨日ご紹介した監査・監督委員会制度だけでなく、今後継続して監査役会設置会社の機関設定を維持する会社でも参考になりそうなのが(一昨日もご紹介いたしました)「監査委員会ガイドブック」(日本取締役協会著 商事法務 2006年)であります。
本書は平成17年改正会社法の施行に合わせて、委員会設置会社の監査委員会向けの解説書として出版されたものです。すでに出版されて5年が経過しておりますが、監査・監督委員会は委員会設置会社の監査委員会に準じた権限をもつものとして構成される見込みのようですから、あらためて監査委員会の権利・義務、その構成など勉強するには最適です。また独任制である監査役と監査役会との関係や、委員会設置会社における監査委員会との権利・義務の対比などもかなり突っ込んだ解説がされており良本といえます。取締役会の監督機能と監査委員会の監査機能との関係などにも触れており、そこから監査委員会と監査役との監査対象の差はどこにあるのか、という点も考慮されています。
これまで委員会設置会社があまり増えていない現実があるため、委員会設置会社のガバナンスに関する解説書もそれほど多いとは言えません。したがいまして「監査役、監査委員会による内部統制監査」という概念も往査(実査)実務と比較して語られることが少なかったのではないかと思います。監査・監督委員会という新たな機関設計が構想されたことにより、俄然この本は注目を浴びるのではないかと密かに期待しております。なお、この本にもありますように、理念的には監査役会と監査委員会とは異なるものの、現実の企業実務においてはそれほど大きく異ならない運用がなされている(たとえば常勤監査委員を選任している委員会設置会社が7割程度だとか、妥当性監査については監査役会設置会社の監査役も社内的には踏み込んでいるところが多い等)ことも本書で述べられています。
立法事実論(改革によって企業パフォーマンスが向上するか、不祥事の予防が本当に可能となるのか)に力点を置くガバナンス論議と、市場対応論(機関投資家、海外投資家が日本企業に投資するにふさわしいと思える機関設計とは何か)に力点を置く論議とが混在するなか、監査役や監査・監督委員が権限を行使しやすい環境とは何か、また投資家に対して日本のモニタリング機能をどのように説明すべきなのかを考えるにあたり、参考になる一冊です。
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