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2011年11月 4日 (金)

コンプライアンス-経営トップのコミットメントと社外役員の目

11月2日の日経WEB経営者ブログにて、マクドナルドHDの原田社長が「オリンパスへの疑問」と題する小稿をリリースされておられます(ちょっとリンクが貼れないのが残念)。長年、オリンパスのトップを務めた方が、社長交代の記者会見にお出にならなかったことを「疑問」とされています。「オリンパスが潔白というのであれば、堂々と記者会見に出て、社長交代の理由などを話さなければならない」とのこと。

この原田ブログにて、非常に感銘を受けたエピソードが掲載されています。マクドナルド店舗が消費税総額表示に移行する際、レジの打ち間違いなどによって151件、総額にして1万円に満たない程度の消費税の二重徴収が発生したことが社内で判明しました。そのことを社長に報告してきた管理職の方が「原田さん、お客さんからのクレームは1件も来ていません(謝罪の必要はありません)」と告げました。これを聞いた新任の原田社長は「なんて企業統治のできていない組織なんだろう」と唖然としたそうです。原田社長は、(社内で一部反対はあったものの)わずか9000円のために、2800万円をかけて新聞に謝罪広告を出しました。

それまでのマクドナルド社のガバナンスがどうだったのかは知るよしもありませんが、私は二重徴収を報告したときの管理職の方の言い分もわかるような気がします。人は自分に責任がふりかかりそうになると、できるだけ「たいしたことはない」ように理解してもらう雰囲気で情報を上に伝えるのが自然な成り行きです。おそらくこの管理職の方も、二重徴収についてお客様からクレームが来ていないことで、社長にホッとしてもらえるものと考えての発言だったのではないでしょうか。しかし新社長に「長年の社内の常識」は通用しなかった。

よく「コンプライアンスは経営トップの率先垂範が重要」と言われますが、この原田社長の謝罪広告の決断こそ、そういった「率先垂範」のイメージにふさわしいものであり、社長の「コンプライアンス経営、リスク管理への本気度」を示すものであることが理解できます。おそらく社内ではビックリした方も多かったでしょうし、「なにもそこまで・・・」と思った社員もおられたでしょう。しかしながら、社長のコンプライアンス経営に対する本気度が社員に伝わったことは間違いないと思います。

ただ、原田社長が疑問を抱いたオリンパス社の元トップの方も、いろいろと報道されているところを総合しますと、オリンパス社を一流の光学機器メーカーに押し上げた功労者のようです。他の経営陣の反対を押し切って高級デジカメ路線を選択し、画素数で常に他社を一歩リードして好業績企業への道筋を示し、多大な貢献をされた、とのこと。「彼の戦略には間違いない」と誰もが評価したからこそ、企業買収戦略についても他の役員から高い信頼が置かれていたのではないでしょうか。その結果、きちんと法で定められた手続きさえ履行してしまえば「問題なし」との経営判断が下された・・・ということではないかと。

昨日(11月2日)、私は広島県のある上場会社(東証)にお招きいただき(どうもいろいろとお世話になりました<m(__)m>)、約1時間、社長さんとお話させていただきましたが、社長さん曰く

「先生ね、私はプロパー出身のサラリーマン社長なんですが、もう何年も社長やってますとね、時々『自分はオーナー社長じゃないか』と錯覚することがあるんですよ。株主構成や従業員の出身地、会社を取り巻く環境が、そのように錯覚させるんでしょうね」

コンプライアンスは時間軸を持っていると思います。どんなに立派な方であっても、時間の経過によって、社長の個人的な生活環境、会社の業績、業界の情勢など、そしてこの社長さんのように周囲の見る目によって、社長の常識が世間の常識と次第に食い違ってくることもありうるのではないでしょうか。先のマクドナルド社の原田社長の言動は、とても感銘を受けるものであり、「ああ、この方なら、きっと会社は正しい方向に進むだろう」と思えるはずです。そして一回、そのように思い込んでしまいますと、人間は楽な方向に自己の行動を正当化したいために、「彼の判断ならば間違いない」と確たる根拠もなく軽信し、そのまま思考停止に陥ってしまいます。ただ、こういう会社こそ、社外役員の方々は、「経営トップのコンプライアンス意識」が高いとしても、バイアスに捉われることなく、常にステークホルダーから「平均的に期待される職責」を果たす必要があるのではないでしょうか。それができるのは、社外取締役や社外監査役など、ビジネス情報に接しつつも、冷静に経営判断の妥当性、適法性を思料する地位にある人たちだけではないかと思う次第です。

11月 4, 2011 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

おっしゃるとおり、生え抜きだとあるべき論の判断と行動を貫徹するのは困難だと思います。

内輪であるが故に、上位者、権限を持った者、評価されている者の意見を正しいとみなすバイアスがかかります。保身もありますし。

社外取締役であったとしても、相当程度成功を収めた人物で誰もが意見に耳を傾けるような人でないと、実質的なガバナンスへの影響を及ぼすことは難しいのでしょうね。

投稿: M | 2011年11月 5日 (土) 02時25分

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