« 山一證券破たんの歴史からみるオリンパス事件 | トップページ | 監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方 »

2011年11月28日 (月)

会社法改正-監査・監督委員会の社外取締役「過半数」の重み

企業法務に携わっていらっしゃる方であればご存じのとおり、現在会社法改正に向けた審議が進められておりまして、12月には改正試案が公表される予定であります。いわば「中間試案」でありますが、その骨格が11月16日に開催されました法務省会社法制部会のWEBページにて垣間見ることができます。

最近の新聞報道などでも、監査・監督委員会設置、社外取締役の義務付け、といったことがかなり現実味を帯びて報じられておりますが、このガバナンス改正論議につきまして、本当に初歩的かつ素朴な疑問が湧いてきます。かりに社外取締役の選任が義務付けられるとした場合、その最低人数の及ぼす実務への影響であります。

社外取締役の義務付けと監査・監督委員会設置がセットになりますと、たとえば現在の上場会社の場合(上場会社については、取引所ルールによって会社法上の「大会社」でなくても、監査役会設置が義務つけられておりますので、いちおう上場会社を例にとります)、現在の社外監査役2名(最低)が、横滑りで社外取締役になればいいわけですから、一番経済界にとって受け入れやすいものとなりそうです(ただし法改正後の「社外性」要件をクリアできることが前提です)。

しかし公表された中間試案をみますと、監査・監督委員会の委員(最低3名)の「過半数」が社外取締役によって構成されねばならない、とされています。※ ということは、不慮の事態を想定して(言葉は悪いですが)少し余裕をもって社外取締役を選任しておかねばならないのではないか・・・・との疑問が湧いてきます。とくに社外役員の場合、「あんたとはやってられまへんわ」ということで、経営陣と対立して辞任してしまうことも十分に考えられるところでありまして、たしかに辞任した社外取締役は(法律上は)次の社外取締役が選任されるまで「権利義務取締役」としてその任務は遂行されることにはなっておりますが、実際のところは会社の重要な経営判断に支障をきたすことになるはずです。

※・・・もちろん、未だ「案」としてであります。

もちろん会社法329条2項によって「補欠社外取締役」を選任しておくことも考えられます。しかし、社内の人間であれば機能しそうな「補欠取締役制度」でも、業務執行者に委任できないような会社の重要な意思決定が果たして「補欠社外取締役」に務まるのでしょうか?補欠社外取締役にとっても、非常にリスクが高いような気もします。社外役員といえども、補欠監査役なら引き受けられても、補欠取締役はちょっと・・・と素直に尻込みしてしまいそうです。

法定人数に欠員が生じた場合、社内と違い、社外の場合には候補者選定にも相当の時間を要することになり、簡単に探してこれる、という保証もありません。そうしますと、監査役会設置会社の場合でも、監査・監督委員会に移行する場合には、やはり(不慮の事態に備えて)横滑りだけでは足りず、新たな社外取締役候補を選任しなければならないのではないでしょうか。

だったら、定款を変更してわざわざ監査・監督委員会設置会社に移行することなど必要ない、ともいえそうであります。素直に監査役会設置会社のままで、社外取締役を一人探してきて選任すればいいとも考えられるのでありますが、それでもやはりその「一人」が事故や辞任によって不在となった場合のことを考えますと、余分に社外取締役を選任しておかねばならない、ということになるような気もいたします(補欠社外取締役の問題点は上記と同様と思います)。事実、委員会設置会社の場合には、最低2名の社外取締役が必要でありますが、実務上は委員に事故ある場合に備えて、一定の余裕をもたせて構成を検討しているのが通常であります(「監査委員会ガイドブック」日本取締役協会著 36頁)。

上場ルールで義務付けるのではなく(この場合も争いはありますが)、会社法で社外取締役を義務付ける、ということは、社外役員が不在の場合の取締役会決議の効力や監査・監督委員会の機関決定の効力に影響が及ぶ、ということですから、「最低限の員数を確保する」だけで上場会社役員のリーガルリスクの管理として十分なのか、とても素朴ではありますが疑問が湧いてきました(うーーーん、無報酬の補欠社外取締役って、会社も頼みにくいですよね。。。。)

|

« 山一證券破たんの歴史からみるオリンパス事件 | トップページ | 監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方 »

コメント

「業務執行と監督の分離を図りつつ,そのような社外取締役が,監査を担う・・・」となると、もはや取締役ではなく監査役ではないか、と思ってしまうのですが。なぜこんな建て付けにしてしまうのでしょうか。いつも同じことを書いて恐縮ですが、社外取締役義務化の前に、なぜ監査役や社外監査役による監視監督ではだめなのか、機能していないならばそれは何故なのかといったところからメスを入れるのが先です。また、「委員会設置会社の例外」的な設計も疑問です。普及させたくないとしか思えません。もっとシンプルに設計しないと外国にも嫌われます。

その他の点では、多重代表制の導入、広義の内部統制について「運用状況の概要等」が事業報告の開示事項になる点が注目されます。

投稿: JFK | 2011年11月30日 (水) 00時13分

アメリカの金融機関も、一流の社外取締役がたくさんいましたが、住宅ローンバブルやリーマンショックには無力でした。責任をシェアしたわけでもない。
在籍年数が長い社外取締役は「仲良しクラブ」と揶揄されます。

私も、本質は数の問題ではないと思います。

投稿: katsu | 2011年11月30日 (水) 09時40分

ほんとそうですね。JFKさんやkatsuさんの意見は最近よく聞かれるところです。監査・監督環境をどう作っていくか、そのあたりも併せて検討せざるをえないですね。肝に銘じておきたいと思います。

投稿: toshi | 2011年12月 1日 (木) 02時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 会社法改正-監査・監督委員会の社外取締役「過半数」の重み:

» 単なるネコでしょ? / 会社のツボ [企業法務のツボ★活字フェチ弁護士の臨床的視点]
●タイトルはともかく、引き続き会社法改正の中間試案についての感想(not解説)。 [続きを読む]

受信: 2011年12月19日 (月) 00時46分

« 山一證券破たんの歴史からみるオリンパス事件 | トップページ | 監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方 »