« 2011年11月 | トップページ | 2012年1月 »

2011年12月31日 (土)

オリンパスの法人としての刑事責任と上場廃止

(31日午後 追記あり)

すっかり年末の温泉でくつろいでおりましたところ、30日夕方のNHKニュースを知って、ちょっと驚いております。

オリンパスの件について、経営執行部の三名の方々以外にも、実際には財務担当社員らが損失隠しスキームに関与していたことが特捜部の捜査で明らかとなったようであります。地検はこのことから、オリンパスの今回の件については「組織ぐるみ」と判断し、法人としてのオリンパスの刑事責任を追及することの検討を始めた、とのこと。

いままで私はオリンパスの上場廃止はされないだろう、との方向性で考えておりましたが、その根拠は(法人としてのオリンパスの責任について)課徴金で済むと思われること、異論はあるでしょうけど、組織ぐるみとは認定できないことを念頭に置いていたからです。しかし、かりに上記ニュースの通りだとしますと、「組織ぐるみ」ということに対して反論ができないことになりそうで、ちょっと上場問題に暗雲が漂うことになるのではないか、と若干の危惧をいだいております。

この点は年末年始の時期ではありますが、他のマスコミからの情報も知りたいところです。

31日追記
読売新聞ニュースによりますと、特捜部は米国との捜査共助を検討してるとか。特捜部はまだ幕引きを決めているわけではなさそうに思われます。まだまだ事件の大きさが把握できないですね。来年の動きもちょっと目が離せないですし、今の時点で「オリンパス事件とは」などと締めくくれないまま年を越すことになりました。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年12月29日 (木)

当ブログの今年の大反省(懺悔・・・)

今年も当ブログをお読みいただき、ありがとうございました。大王製紙社の改善報告内容の件、経営財務12月26日号のCOSOフレーム全面改訂草案(財務報告の信頼性⇒報告の信頼性だそうです)に関する記事など、ご紹介したいと思っておりましたが、積み残しとなってしまいました。また来年にエントリーしたいと思います。

さて、管理人としまして、今年の当ブログ運営上の反省点。

1 会社名を間違えて、社長逮捕の記事を書いてしまったこと。

すぐに同社の経営企画部の方から抗議の電話があり、訂正のうえ謝罪をいたしました。あってはならないミスで、かなり落ち込みました。

2 会社リリースの年月日を1年間違えたままエントリーを書いてしまい、まったくトンチンカンな話をしてしまったこと。

これもメールで指摘を受け、こちらは開示後半日経過してから全て抹消いたしました。これも関係者にご迷惑をかけ、かなり恥ずかしいものでした。

3 コメントやメールのほとんどにお返事ができなかったこと。

とくに法律相談的なメール、質問メール、質問コメント等につきましては、ごめんなさいでした。失礼かとは思いつつ、エントリーを書くのが精一杯な状況だったので、申し訳ございません。やはり本業のクライアントへの対応が最優先なので(^^;

4 軽々に懲戒処分ネタを書いてしまったこと。

「懲戒」、「弁護士」でグーグル検索をかけると、なんと!私の名前が3番目くらいに出てくるではないですか!?これは誤解を受けます。そういえば今年、懲戒処分ネタを書きました。少し配慮が足りなかったようです。

来年は上記1や2のミスは絶対にしないように努めます。どうか皆様、おだやかな年末年始をお過ごしください。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年12月28日 (水)

「コンプライアンス改革」の課題と処方箋(NBL2012年新年号)

すでにお手元に届いている方も多いかと思いますが、NBL(商事法務)2012年新年号におきまして、新春座談会「『コンプライアンス改革』の課題と処方箋」の司会を務めさせていただきました。討論者である国廣正、山田秀雄、増田英次の各弁護士の積極的なご発言に助けられました。すでにコンプライアンス経営の重要性は認識されているはずなのに、どうして企業不祥事は頻発するのか、これまでの問題点をもとに今後どう対応していけばよいのか、建設的な意見を盛り込んだ座談会記事に仕上がっております。

山田弁護士の長年にわたる貴重な社外取締役としてのご経験、増田弁護士の「コーチング理論」による企業マインドの変え方、そして国廣弁護士が解説されるコンプライアンスと会社法、ソフトロー規範との関係など、私自身も話をうかがいながらたいへん勉強になりまして、すでに本業のなかでも取り入れさせていただいております。どうかご一読いただければ幸いです。

なお、本誌は「新年号」ということもあり、内田貴(法務省参与)論文「佳境に入った債権法改正」、伊藤眞(早大教授)論文「会社分割と倒産法理との交錯」、濱田邦夫(元最高裁判事)巻頭言「わが国の法の支配」などとても豪華です。とりわけ淡路剛久(早大教授)による「福島第一原子力発電所事故の法的責任について」は今後の賠償実務にも影響を及ぼすものとして、非常に参考になります(NBL2011年7月1日号の拙著論文「原発事故にみる東電の安全体制整備義務-有事の情報開示から考える」も引用いただき、ありがとうございます)。私などご紹介できる立場にもありませんが、2012年の企業法務の行方を占う各論点に参考となるものばかりです。

会社法務A2Z(第一法規)では、私のセミナー講演録が連載されているところですし、リスクマネジメント・トゥデイ(リスクマネジメント協会)にも掲載いただきまして、ずいぶんとブログ以外のところでお目にかかることが多くなりました。またお目に触れましたら、ご感想などをメールでお寄せいただけますと幸いです。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2011年12月27日 (火)

組織ぐるみの会計不正に立ち向かう社外監査役の事例(共同PR社)

(12月28日 追記あります)

昨日(26日)九電の取締役会招集に関するエントリーを書きましたが、驚くことに、昨日臨時取締役会が開催され、その後の記者会見にて、社長さんは1~2か月後には辞任することを表明されたそうであります。会見では「やらせメール事件のめどが立ったため」とのことだそうですが、おそらく「物言う監査役」さんの存在も大きかったことと推察いたします。

さて、年の瀬も迫った26日、しかも午後9時前の適時開示として、ひさしぶりの「物言う監査役」シリーズにふさわしい事例がJDQ上場企業より公表されております。

危機管理広報、IR等のコンサルティングを業務とされる共同PR社(JASDAQ 2436)は、代表取締役が会社資金を自己目的で不正に流用しているとして、監査役を中心とした調査報告書を適時開示として公表しております(「危機管理広報、IR支援」を業務としている当社ですが、なぜか自社HPにはリリースがされていないようです・・・)。←27日の時点で自社WEB上にリリースが掲載されております。

取締役会への内部調査報告書の提出について

先日の週刊東洋経済による当職へのインタビュー記事でも、また当ブログのエントリーでも述べましたように、経営者の関与する不正は「ガバナンス+内部通報」の組み合わせが機能しなければ発見は困難でありますが、本事例はまさに監査役に対する内部告発と社外監査役3名を中心とした徹底調査によって経営トップおよび他の取締役2名が関与する資金流用事件を解明したものであります。

とくに本件では「物言う監査役」として社外役員が中心となっておりまして、「結論」として40年にわたり君臨してきた現社長の辞任要求、不正に加担した取締役2名への辞任勧告、他の取締役に対して上記3名への懲戒処分勧告や刑事訴追要求など、毅然たる対応が印象的であります。ここまで徹底して経営トップの不正を社外監査役が糾弾するのは、あのなつかしい太陽誘電社の事例(温泉コンパニオン交際費事件)以来ではないかと・・・・・(あのころは、当ブログも勢いがあったような気がします・・・(^^;;  )。太陽誘電社のケースでは、温泉コンパニオン宴会を知った関連子会社の社員による内部告発が発端でありましたが、今回の例では、やはり社長に不正加担を命じられた社員が社外監査役にSOSを送ったものと推測されます。

当調査委員会は、今後の外部第三者委員会による事実解明も求めております。これは社内における派閥争いなど組織力学による調査結果ではないことを内外に示すためにも必須だと思いますし、なにより「自浄能力があること」をステークホルダーに説明するためにも必要な対応であります。したがいまして本格的な事実調査はこれから、とも思われますが、「内部通報+ガバナンスが経営者不正の抑止に効果的」という、典型例としてご紹介させていただきます。

(28日追記)このエントリーを書いた日のニュースによりますと、本報告書の提言に基づき、代表者が辞任を発表した、とのこと。すでに自社WEB上でも公表されておりますことを付言いたします。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年12月26日 (月)

九州電力社の企業統治と「物言わねばならない」監査役

(26日正午の報道を受けての追記あります)

ガバナンス問題といえばオリンパス社、大王製紙社の話題が現在進行形でありますが、ここへきて九電やらせメール事件に関する動きが報じられております。九電経営者VS第三者委員会のバトルはとりあえず終息したようみもみえますが、九電内部では経産省に提出した最終報告書の内容を訂正するかどうか、議論があったようでして、12月22日の時点では訂正報告書は提出しない、と決定した旨報じられております(佐賀新聞ニュースはこちら)。

ところで日経新聞の22日未明の記事や共同通信ニュースによりますと、九電さんは上記決定について、定例の取締役会を中止して、一部の役員の判断においてなされたようで、監査役会は年明けにも会長らに対して定例の取締役会を中止した経緯について説明を求めるとされています。会社側は「今月はとくに議題がなかったから役員会を中止した」と説明しているそうですが、上場会社の役員会は審議事項だけでなく、様々な報告事項もあるわけですから、かなり異例の事態であります。上記共同ニュースにもあるように、役員会の混乱をおそれて異例の中止に至ったことも推測されます。あれだけ第三者委員会と対立のあった「やらせメール最終報告書再提出問題」について、役員間の意見交換もなく、一部の取締役による判断で「再提出しない旨」の決定をしても「不当」なだけでなく、会社法上の法令違反は認められないのでしょうか?

会社法362条4項には、定款によっても業務執行者に決定を委任できない事項が列記されておりますが、最後に「その他の重要な業務執行」として取締役会における専決事項が規定されています。おそらく1号から7号までに列記されている業務執行と同等程度の重要性をもった業務執行を指すものと思われますが、今回の「やらせメール事件に関する最終報告書の再提出問題」がこの「その他の重要な業務執行」に該当するのであれば、一部の役員によって独断で決定することは違法、ということになりそうです。もし上記事項が「会社事業の通常の経過から生じる事項」に該当するのであれば、代表取締役に委任されている事項として取り扱っても構わないことになります。

監査役は取締役の法令違反行為や著しく不当な事実を認めた場合には、これを取締役会に報告するために取締役会の招集を請求するか、もしくは自ら取締役会を招集する必要がありますので(会社法383条2項、3項)、やらせメール事件の報告書を訂正しない、と決定した取締役に対して説明を求めることは当然のことではないかと。12月25日に九電では6基すべての原発が停止し、来年早々にも住民に対して5%程度の節電を呼びかけること、(関連会社ではありますが)玄海4号機では配管強度偽装が判明したことなどに鑑みますと、現在は九電の原発事業の再開にとって重要な時期にあるわけでして、このような時期に「やらせメール事件の再提出の要否」を判断することは、九電さんの今後のエネルギー政策の方針決定において重要な事項であり、私個人の意見としては一役員の判断で決定できるほどの日常業務(つまり代表取締役の一存に委任できる事項)とはいえないように思えます。その業務執行が対外的取引行為等、利害関係を有する第三者が存在するようなものであれば「取引の安全への配慮」等も考慮した解釈が必要になりますが、本件はあくまでも九電内部の問題ですから、このように解するのが妥当ではないかと。

もちろん監査役が取締役会の招集を求めたり、自ら招集するのは、取締役の不正な行為を報告するためのものですから、とくに取締役会で十分な審議を尽くしてもらえる保証はございません。しかし、単に社長さんに説明を求めるだけでなく、十分に納得のいく回答が得られない場合には「物言わねばならない」監査役として、監査役として自ら取締役会を招集する等、会社法上付与された権限行使が必要となる場面ではないでしょうか。なお、取締役会の招集請求等の権限は監査役会ではなく、個々の監査役さんに認められるものなので、6名いらっしゃる監査役(うち3名が社外監査役)の方々の中でも意見が分かれるかもしれません。九電のガバナンスを考えるにあたり、今後この件がどのように進展するのか、年明けの動向に注目してみたいと思います。

(26日午後:追記)

halcomeさんもコメントされているように、本日(26日)九電では臨時取締役会が開催され、社長さんが1~2ヶ月後に辞任することになったようです。どのような組織力学が働いたのかは不明です。

私自身も驚いておりますが、決して何か事前の情報を得て本エントリーを書いたものでは決してございません。そのような守秘義務違反行為は絶対にしません。ただ、ここ一週間ほどの報道内容から、かなりガバナンス上の問題点が社内でも浮上していたのではないか・・・との推測からであります。とりあえず、そのことだけ明記させていただきます。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年12月22日 (木)

独立役員の独立性担保と開示規制(上場ルールの改定)

今年もクリスマスの季節となりました。おそらく22日が忘年会のピークで、明日からの3連休はクリスマスモード一色となるのでしょうね。

昨日(12月20日)の東証社長さんの定例記者会見(会見要旨はこちら)によりますと、巨額損失隠しが発覚したオリンパスや大王製紙の事件を背景に、上場会社のガバナンス(企業統治)に対する国内外の投資家の不信が高まっていると判断したため、社外取締役や社外監査役といった独立役員の開示情報を拡大する方針を決めたそうであります(サンケイビズニュースはこちら)。ニュースには出ておりませんが、上記会見要旨によると内部統制システムに関する開示規制も検討されるようです。

独立役員の出身会社と当社の取引関係や、役員の相互派遣関係等、本来独立役員に求められる行動が期待できるかどうか、という点を投資家が判断する材料を提供する、ということかと思います(すでに任意に情報開示している企業もありますが)。おそらく「独立役員」として届出のある役員の方のみを対象としたものだと思いますが、どうも中途半端な制度改革のような気がいたします

たとえばオリンパス社の場合、社外取締役と社外監査役を含めて5名の社外役員がいらっしゃいますが、実際に東証に独立役員として届け出られているのは社外監査役の方1名だけです(ルールだと1名以上の届出を義務付ける、となっていますので)。その方だけを開示したとしても、あとの4名の社外役員の方々は「どういった経緯で役員に就任されたのか」ほとんど不明なままであり、結局のところ一番利害関係がなさそうな方だけを独立役員として届け出れば済む問題かと(実際、東証社長さんの会見によると、オリンパスの他の社外役員の方々は、利害関係の深い会社や組織のご出身のようです)。本当に開示制度を拡充するのであれば、「独立役員制度」とは別に、会社法上の社外役員として就任している方すべての情報開示を求めるようなものでないと投資家の判断材料にはならないのではないでしょうか。

こういったことを申し上げると、またお叱りを受けるかもしれませんが、そもそも社外役員に独立性を担保する開示制度を作ったとしても、あまり高い期待は持たないほうがよいわけでして、あくまでも「社外役員の倫理観」を横からサポートする程度・・・・・と考えたほうが妥当だと思います。「独立役員」といっても、日本には「社外役員バンク」なるものが整備されているとは思えません。もちろん全国社外取締役ネットワーク(もうすぐ名前が変わりますが)や日本監査役協会の紹介制度がありますが、やはり知り合いの「紹介者」を通じて役員に就任するケースがほとんどではないでしょうか。

「俺の顔をつぶすなよ」

といった形で、お世話になった方から紹介を受けた会社において、どれだけの社外役員の方々が会社もしくは経営陣にモノが言えるのか。社長と喧嘩して、後ぐされなく辞任することは特に問題がないとしても、自分を役員として紹介してくれた人と、その会社との関係を考えると、どうしても「株主の最大利益のため」という気持ちが萎えてしまうのが「サラリーマン根性の集大成」ではないでしょうか。最近の60歳前後の方々は、まだまだお若いです。これからの人生のために、これまで築いてきた人間関係を御破算にするにはまだ早いのが現実であり、「ここはグッとこらえて」と考える方も実際には多いように思います。

実際、社内取締役だけで固めた役員会でも、社長にモノが言える人が多ければガバナンスはしっかりするわけでして、結局のところは、その社長さんの器量によるところが大きいのではないかと。そう考えますと、社外役員の独立性を開示する、ということは、社外役員の発言権への期待というよりも、「そのようなモノが言えそうな役員さんでウチは固めました」ということを世間に公表して、社長の度量を知ってもらう・・・・・というところに意味があると考えた方がよいのではないでしょうか。独立役員さんの属性を云々するよりも、むしろ広く社外役員さんの属性を開示して「社長の度量」を評価いただく制度運用が妥当だと考える所以であります。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年12月20日 (火)

続編・オリンパスの買収監査と法務部の役割について

昨日のエントリーには、たいへん多くのコメントやメールをいただき、ありがとうございました。コメント欄にて、ChuckさんやJFKさんがお書きになっているとおり、法務部のM&A案件における役割は、各社各様であることが、ほんの少しですが理解できました。メールを頂戴した方の会社などは、そこそこ大きな企業であるにもかかわらず、総務部や経理部が法務案件を担当していらっしゃるようで、「法務部のお仕事」を一括りで語れないところもあるかもしれません。(そういえば「ろじゃあさん」のブログでも「十人十色、法務部いろいろ」なるシリーズがありましたっけ・・・(^^  )結局のところ、各社の営業戦略があり、その戦略の一環として法務部の位置付けが各社で異なる・・・というところでしょうか。

ところで、中央経済社の雑誌「ビジネス法務」2012年1月号の特集が 「どうすれば法務部はM&Aで活躍できる?」 というものでして、その特集の中で語られている須崎將人氏(ソフトバンク社法務部長-以前、当ブログにもコメントをいただきました)のお話『法務部はM&Aのコーディネターとなれ』(24頁以下)がとても印象的でした。

「強い法務部」を目指しておられる須崎氏によれば、法務部は自社M&Aの構想段階から関与すべき、とされ、これは法務部業務の大原則である、と述べておられます。大枠において社内でコンセンサスをとったうえで、法務部は交渉の前面にいつでも出られるようにすることが肝要とされています。おもしろいのは、海外企業の場合は、法務部や弁護士が前面に出てくるので議論の相手としてはやりやすいのだが、日本企業同士の場合には、なかなか法務部が前面に出てこないので逆に自分たちの立ち位置に困ってしまうことがある、とのこと。

『向こうが一歩下がっているのに、こちら側が前面に出るのもバランス的に悪いというか、結構やりにくいですね』

またソフトバンク社の法務部門では、M&Aに関するあらゆるリスクを検討するとのが慣例とのこと。こういったソフトバンク社のように、M&Aが恒常的な法務部案件になっているケース、会社規模が非常に大きい場合には、弁護士が中心的な役割はを担っているケースでも、法務部はかなり前面に出て活躍するようです。したがいまして、今回のオリンパス第三者委員会報告書で記載された内容を肯定する立場になりそうな気がします。しかし、須崎氏が国内の交渉相手企業の例で語っておられるように、M&A案件がきわめてイレギュラーな業務とされる企業の法務部からすれば、経営執行部と外部専門家でほとんどの内容が固められてしまって、法務部の審査、というものが占める割合はかなり低いものになるのかもしれません。

ところで、市場関係者の方より、本エントリーに関する意見を、メールにて頂戴しましたが、とても重要なポイントを突いているように思えましたので、下記のとおりご紹介させていただきます。

さて、貴ブログを拝見しましたので、O社など企業買収に絡む法務部の役割と実情について、私見をコメント差し上げます。

○法律適合性とソロバン勘定の間

・一般的に法務部の社員の場合、自分の役割は違法性の確認のみ…という割り切りが強く、事業判断への口出しや経営面などソロバン勘定の世界には興味を示さない方が多いというイメージがあります。

○法務部の事前関与(企業買収の神格化の悪影響)

・過去、野村証券やカブドットコム証券のようにインサイダー取引の舞台として企業買収や重要情報の社内共有問題についてに光があたったことから、多くの企業にでは、企業買収の検討実施に当たり、専門部署で極秘に進める傾向が強まり、関連部門との情報共有化は軽視される傾向にあります。もちろん、オリンパスの場合は、意図的にディール関係者を絞っていたのだと思いますが、一般的には自社の企業買収について、法務部も含めて関連しそうな部門は「情報管理」という錦の御旗のもとに関与できていないと思います。

○法務部の事後関与

・さすがに契約書について事実上、関係者が合意した後、押印手続きに先立って法務部がチェックする場面があるのが通例だと思います。しかし、複雑な交渉を重ねた結果の成果である合意条件について、決定的な法律面での瑕疵がない限りにおいては、法務部としては内容を精査せず、承認するのだと思います。

このあたりはJFKさんのご指摘に近いところがあるかもしれません。あまり大きな責任が課せられても(他にも仕事を抱えているので)困ってしまう・・・という意識が(社員として)存在するのでは、と。

・たとえ法務部が「本件を精査したいから、少々時間を欲しい。」と主張したところで重要情報の速やかな開示と言う定義名分には勝てず、「いついつまでに公表し記者会見する予定なのですぐに確認してください。」と求められ、十分な時間も与えられないケースが多いと思います。

・さらには、MAで実績のある法律事務所にアドバイザーを依頼している場合などについては社内的に法務部には何も期待されないでしょう。もし、何か主張したとしても「大手法律事務所の○○先生が問題ないと言っている件について、何を言うのか!」と一蹴されれば終わりです。

○報告書「独立した立場でその内容を検討すべき」について

・金銭面でのシガラミの少ない第三者委員会でさえも、独立性の確保が難しい中、社内の一部門である法務部に独立性を求めると言うのはむずかしいのではないでしょうか。

どうもありがとうございました<m(__)m>。まぁ、事前審査は困難であったとしても、やはり事後的には問題案件では?といった意識を法務部の方々も持っておられたのではないか・・・という疑問は残るような気もします。また、オリンパスの件では、もしも・・・の話ではありますが、監査役会が法務部に相談していたらどうなっていただろうか・・・というところでありました。ホントに監査役会から法律審査を要望されたり、意見交換を求められていた場合、法務部は真正面から対応していたでしょうかね?

法務部の「あるべき」論と現実の姿には若干の差があるような印象を持ちました。以前、ある会社でコンプライアンス・ハンドブックを改訂する作業のお手伝いをしましたが、そのときに社内政治力を見事に発揮して完成にこぎつけた法務部長さんがいらっしゃいました。この「あるべき」論に近い姿の法務部を形成するにあたり、こういった社内政治力も必要になるのかもしれませんね。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年12月19日 (月)

オリンパスの買収監査と社内法務部の役割について

読売新聞WEB(中央オンライン)教養講座にて、大杉謙一教授(中央大学法科大学院)が「会社法で企業不祥事は防げるか」と題する論稿を出されており、当ブログをご紹介いただいております。先日の日経新聞「経済教室」の論稿に続き、大杉先生の建設的なご意見が書かれておりますので、今後の意見形成の参考にさせていただきたいと思います。また、久々の更新となりました活字フェチ弁護士さんのブログ記事も「おお、このフレーズ、どっかで使いたくなる」と思える内容満載でして、こちらも参考になります。

私自身は、まだ(執拗に)12月6日リリースに係るオリンパス第三者委員会報告書を眺めております。いろいろな箇所に過剰反応してしまい(笑)、遅々として進みません。社外協力者やモニタリング不全の中心とされる監査役会、監査法人に焦点があてられることの多い当報告書でありますが、委員より、オリンパス社の法務部の対応にも「問題があった」と指摘されていることは、あまり話題になっておりません(報告書158頁。このあたりは、一般の方にはあまり関心が高い部分ではない、ということなのでしょうか)。

オリンパス社による国内3社及びジャイラス社の買収(2008年)にあたっては、本来オリンパス社の法務部が主導して買収監査を行うべきであったところ、これが全く実施されなかったとされています。オリンパス社の法務部の業務内容は、業務執行行為の適法性の検討や、契約書の内容検討、ということであるにもかかわらず、監査役会と連動して調査・検討が行われなかったのは「監査役会の対応の問題点と並び」、法務部の対応についても問題があったといわざるをえない、とのこと。

私は社内弁護士の経験もありませんし、法務部で仕事をしたこともありませんので、法務部担当社員として、どれほど独立した地位で職務を遂行できるのか、その実務感覚は、あまり存じ上げません。しかしこの報告書では、社内法務部は、社内で買収を主導した部署から「独立した立場で、その内容を十分に検討すべき」とされており、そのような検討がされなかったことを問題視しており、なるほど、法務部とは独立した立場からの意見表明が求められているのか・・・・・と(多少疑問は残るものの)いちおう納得いたしました(内部監査担当者と同じような感覚、と思ってよろしいのでしょうか)。

しかし、この国内3社の買収、ジャイラス社の買収については、監査法人も疑義を呈するほど金額も大きいようですから、法務部の方々が買収の事実をまったく知らなかった、ということはないと思います。たとえ事前に報告されていなかったとしても、事後的には把握しているはずです。そうしますと、法務部の方々も、監査法人と同様に「ちょっとあまり触れてはいけない案件、取締役案件みたいなものがある」といった意識は持っていた可能性があります。

今回のオリンパス社の社内法務部の対応(つまり企業買収案件について、契約書も審査せず、また取締役会の意思決定過程の適法性、買収金額の妥当性も審査しなかったこと)は、一般の企業の法務担当者の方々からみて「ごく一般的に起こりうるものであり、やむをえない」と判断される程度なのか、それとも「オリンパス社の特殊事情によるものであり、到底わが社では考えられない」と判断されるものか、そのあたりを法務部の方にぜひ、お聞きしてみたいところです。金商法というよりも、会社法上の内部統制に関連するものであるため、少し興味を抱いた次第です。

| | コメント (9) | トラックバック (0)

2011年12月17日 (土)

ゲオ社の社外調査委員会報告書と同社のガバナンス

本日(12月16日)は、あの「金融庁のLEON風ちょい○オヤジ」こと某S審議官兼PCAAOB事務局長を大阪弁護士会にお迎えして、金融検査と弁護士の役割について熱く語っていただきました。たいへんな時期に、よく大阪まで来ていただきまして、責任者として御礼申し上げます。<m(__)m>

審議官の講演をお聞きになられた方ならおわかりのとおり、本当に当会弁護士の皆様にもウケていました。不良弁護士、不良会計士の話もさることながら、とりわけ金商法と会社法にまたがる重要な問題をふたつほど、レジメではなく、ホワイトボードでご説明いただいた内容が新鮮かつ一番有意義でありました。私がZAITEN誌や当ブログで疑問を呈していたある問題についても、「金融庁の一石三鳥の原則」によって解決が図られるとのことで、なるほど、金融庁の「証券市場の健全性確保に向けた熱意」が予想以上・・・との印象を抱きました(すいません、あまり具体的な内容はちょっと書けませんので、またお会いした方々にコソっと。。。)

さて、今年中に出るのだろうか・・・・・と少し不安に思っておりましたゲオ社の(不正解明のための)社外調査委員会報告書ですが、本日(16日)ついにリリースされました。(当社および当社元関係会社における調査結果のご報告)これもオリンパスに負けず劣らずの分厚い内容で、読み応えのある報告書です。(委員の顔ぶれから、またずいぶんとお金がかかってるのだろうな・・・・と)まだ読んでおりませんが、ぜひじっくりと読ませていただきたいと思います。

そしてゲオ社にとって興味深いのは、先日の株主総会で大幅に役員陣が変更し、社外取締役が過半数を占めるに至った同社取締役会が、この報告書を受け止めてどのような対応をとるか・・・ということであります。10月末にも突然の社長交代劇があり(朝日新聞ニュースはこちら)、なにかと不透明な動きがありますが、本当に経営体制が安定するのかどうか、この後の対応に注目してみたいところです。まだ全く読めておりませんので、備忘録程度で失礼いたします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月15日 (木)

クラウドゲート社(架空循環取引)のハイレベルな第三者委員会報告書

本日はオリンパス、大王製紙の決算報告の話題でもちきりの一日でした。各社の第三者委員会や特別調査委員会の報告書も話題となりましたが、それらの報告書にも負けない、いや、もしかしたらオリンパス報告書よりも秀逸な第三者委員会報告書が昨日(12月13日)リリースされております。

第三者調査委員会報告書の受領に関するお知らせ(クラウドゲート社)

札幌アンビシャス上場のクラウドゲート社(デジタルコンテンツ製作 旧商号 テラネッツ社)が、経営トップ主導による架空循環取引を繰り返し、約4年にわたり不適切な会計処理を行っていた件につきまして、弁護士委員2名、公認会計士委員1名による調査委員会が調査結果を報告したものであります。これまでの事実経過と当社の内部統制における欠陥の有無について検討することが主たる目的とされています。

まず役員の変遷表。これは多年度にわたり会計不正事件が繰り返されていたときの関係者説明図のイロハであります。つぎに実際に関係者によって行っていたとされる架空循環取引のパターンを図式化し、読み手に経済的合理性のない取引であることを説明。この部分が非常に秀逸。多少の会計知識は必要ですが、複雑な循環取引を手際良くまとめておられ、だれにでも会計不正の内容が理解できるようになっております。整理されたパターンごとに、不正事実が認定できたものと、合理的な疑いが残るものを区別して結論つけているところも参考になります。

そして各循環取引がどのような目的で行われたのか、①上場準備段階で首尾よく上場審査をパスするため、②銀行からお金を借りる場面において、自社の業績を良く見せるため、そして③業績とは関係なく、上場時においてお世話になった人(迷惑をかけた人)たちへの損失補てんのため、と分けて、それぞれに詳細に認定事実を報告するところは調査活動が効率的かつ効果的であったことを物語っております。これまで100を超える調査報告書を読みましたが、おそらくトップクラスではないかと。

「こりゃスゴイ・・・」と思って委員の方々の経歴をみて納得。弁護士委員のおふたりは、つい最近まで証券取引等監視委員会の検査官として会計不正事件の第三者委員会報告書を読んでおられた方々なのですね。また会計士委員の方も、上場サポートをされておられる方で、IPO実務に精通されておられるようです。おそらく開示検査において「もっとこんな風に報告してくれたらいいのに・・・・・」と思いながら審査をされていたものと推測され、そのご経験が結実したのが上記報告書かと。別の味方をすれば、会計不正事件を審査するにあたり、当局はこんなポイントを重視しているのですよ・・・ということを理解するにあたり、とても参考になる報告書であります。

オリンパス甲斐中報告書を少しずつ読み進めておりましたが、ちょっとこっちの報告書も研究の対象としては素晴らしく、日常の仕事には参考になりそうであります。アンビシャス上場会社というと、ちょっと地味かもしれませんが、架空循環取引の内容としては典型的なものであり、経営トップが不正に手を染めていく経過がよくわかります。企業実務家の皆様方にも、ぜひご一読いただきたい報告書であります(でも、この事件に登場する社外取締役の方もオリンパス事件と同様、すこし私を憂鬱な気分にさせてしまうのですよね・・・・・・)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月14日 (水)

監査法人が経営判断に踏み込むことは御法度?-オリンパス報告書より-

引き続きオリンパス第三者委員会報告書ネタでありますが、2009年3月期の同社連結財務諸表について、同社経営陣に対して監査法人(あずさ)が具体的な行動を開始したのは2008年12月ころから、と上記報告書に記載されております(164頁)。

あずさ監査法人は、当時、オリンパス社による国内3社のM&Aに関連する投資の減損(費用化)と海外法人(ジャイラス)買収におけるFA報酬の不透明さを修正すべき、との問題意識を有していたわけですが、そのためには「単に会計監査上の問題点を指摘するだけでなく、業務執行の妥当性に関しても注意喚起をする必要があると認識していた」ようであります。実際に、経営陣に対して、あずさ監査法人の問題意識を説明し、取締役会での議論の必要性にまで踏み込んだとあります。

今朝(12月13日)の日経電子版(「飛ばし、前任から説明 菊川オリンパス前社長 自ら監査法人解任」なる記事)では、オリンパス社の元会長氏が「経営判断に踏み込んだこと」を理由に、2009年5月、あずさ監査法人を(元会長自ら、あずさ監査法人まで出向いて)事実上解任したことが報じられていましたが、そもそも監査法人が法定監査にあたり、被監査対象企業の経営判断に踏み込むことは御法度なのでしょうか?あずさ監査法人を事実上解任することは、元会長の独自の判断ではなく、取締役会決議に基づくものだそうですから(こちらの朝日新聞ニュース参照)、少なくともオリンパスの現経営陣の方々は、そのように考えておられたようであります。

税効果会計や金融商品会計、固定資産の減損、GC注記の判断など、経営者の経営計画や財務政策、将来予測、見積もりの妥当性に踏み込まねば監査はできないので、会計監査上の問題点を指摘するために監査法人が経営判断に踏み込むことは「職責として」当然のことかと思います。むしろ、オリンパスの元会長さんが怒っているのは、おそらく経営判断の適法性にまで監査法人が踏み込んで、取締役会で再度協議せよと指摘したり、経営陣の交代まで示唆することは越権行為ではないか、というあたりではないかと思われます。「役員会のやり方や、役員構成にまで監査法人に口をはさまれるとは、大きなお世話だ。何様だと思っているんだ」といったところかと。

しかし2009年3月期といえば、内部統制報告制度(J-SOX)が施行されており、監査法人は経営者による全社的内部統制評価を監査する立場にあります。つまり取締役会が機能しているかどうか、監査役(会)が機能しているのかどうか、経営者が適切に評価していることをチェックすることが使命とされているのでありまして、その監査のために統制環境を把握しなければならないはずです。当ブログでも、過去に京王ズHDさんの内部統制報告書が、監査役会が機能していないことを理由としていたことをご紹介しましたが、そこで述べているとおり(最終の評価は経営者によるものだとしても)監査法人側において監査役会が機能していないことについての指摘があったことで、「全社的内部統制に重要な欠陥あり」と評価したものであります。

たしかに、会計監査において特に問題がない企業に対して「取締役会で再決議せよ」とか「問題のある役員は辞任せよ」などと監査法人が指摘することはありえないでしょう。しかし、会計不正の疑義がある場合(財務報告に重要な虚偽記載のおそれがある場合)に、内部統制監査のために、監査法人が統制環境をチェックしなければならないのであれば、会計処理が生まれるに至った経営判断にまで踏み込むのは、むしろ当然のことではないでしょうか。日本取締役協会さんのHPにおいて八田進二教授が述べておられるように、本件は単なる内部統制限界論を示す例ではなく、全社的内部統制がきちんと構築されていれば、不正を防止できたか、もしくはもっと早く発見できた可能性は否定できないのでありまして、取締役会、監査役会の健全性に監査法人が配慮するのは、とりわけJ-SOX施行後であれば監査法人の義務であります。

問題は、そのための義務履行にあたり、わずか1週間で結論が出てきた「2009年報告書」の内容をそのまま受容してしまってよかったのか?単に内部統制監査の問題ではなく、金商法193条の3との関係で報告書を評価すべきではなかったか?というところでありまして、このあたりは監査役会と監査法人の協働問題として、また別途検討してみたいところであります。(迷える会計士さんが一昨日のエントリーについてコメントされているところも、まさに問題意識としては共通しているように思います。)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年12月12日 (月)

オリンパス社の全社的内部統制と「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」

(13日未明 たいへん多くの方にお読みいただき、また反響も大きかったようで、どうもありがとうございます。少しだけ末尾に追記いたしました)

週末、少しずつではありますがオリンパス事件の第三者委員会報告書を読み始めておりました。今週、オリンパス社では過年度決算も訂正されるようですが、この第三者委員会報告書を読む限り、同委員会は、J-SOX(内部統制報告制度)における全社統制の評価において、かなりハイレベルなリスク評価を要求しているように思いました。今後他社において有価証券虚偽記載事件が発生した場合、この報告書が示したレベルの全社統制評価が行われないかぎり、財務報告内部統制において構築義務違反が問われる、ということも考えられますね。本来、文書提出命令によって開示されるべき、いわゆる「三点セット」の文書も精査されておりますし、なんといっても、オリンパス社は形式上はガバナンスもきちんと構成され、また財務報告に係る内部統制も、なんら問題なく有効と評価されてきたわけであります。この第三者委員会報告書が比較的高く評価されているわけですから、今後は粉飾決算事件における取締役や監査役の責任追及訴訟等において、当該報告書は格好の引用資料として活用されることになりそうです。

この報告書でも述べられ、また経済団体や日本監査役協会でもコメントが出されておりますが、「オリンパス事件の教訓は、形式的なガバナンスの仕組みよりも、むしろ取締役や監査役の倫理感、使命感やその職責を担う覚悟の問題」であり、これが最も重要である、とのこと。とくに本報告書では本件事案発生の原因分析のなかで、オリンパス社の場合は会社トップによって不正が行われることを想定したリスク管理体制がとられていなかったことに大きな問題があったとされています(報告書179頁)。「経営中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成ともいうべき状態」と表現されております。

たしかに報告書の事実認定部分を読み進めておりますと「これはたしかにひどいなぁ」といった感想を持つところも多々あるわけですが、これを「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」と言い切って、役員たるもの、高貴な倫理感のもと、「悪いことは悪い」と堂々と言わなければならない・・・というのも、とても現実離れしたものであるような印象を抱きました。そもそも「悪い意味でのサラリーマン根性」が備わっていたほうが上場会社の役員になれる確率が高いのか、低いのか、仮に高いとして、その後役員になったとたんに「役員としての倫理感」や覚悟が備わるようなものなのか、そのあたりが検証されなければ、私など気が小さいものですから、およそ「集大成」などと言い切れないなぁと。

粉飾決算が起きてしまった会社の役員だった者は運が悪かった・・・・というのと、あまり意味が変わらないような気がします。オリンパス社の元社長は「悪い」と堂々と言ったがために解職され、それだけでなく、名誉棄損や秘密漏えいによる損害賠償請求訴訟を提起する、とまで会社から公言されたわけです。この元社長はまだ、有名な監査法人の支援を受けて、「ほぼ間違いなく不正がある」との証拠を握ったから堂々と「悪い」と言えたのです。ましてや、普通の取締役や監査役が、それほど多額の報酬も専門家に払えないまま「たぶん悪いことが起きているけど、間違っていたらどうしよう」といった心理状態で「悪いことは悪い」と堂々と言えるでしょうか?それを言ったら生活ができなくなるばかりか、会社から損害賠償裁判を提起される、というのでは、どんなに高貴な倫理感をもって、どれだけ財務や法務に精通した者であったとしても、声を上げるのは無理です。「自分ひとりの意見で経営の意思決定を遅らせてしまうことを回避することこそ倫理感に基づく行動ではないか」と考える方もおられると思います。「それでもモノを言わねばならない」と言われるのであれば、今後法改正が予想されている社外取締役など、だれも怖くてできないと思います(責任限定契約の存在、D&O保険の存在、といった次元の話ではないと考えます)。

取締役の資質や倫理感、覚悟、というのはもっともだとは思いますが、それらが取締役や監査役に備わっていることと、「経営トップにモノが言える」こととはダイレクトには結び付かないわけでして、その間を結ぶ「何か」を試行錯誤しなければ問題解決にはならないと思います。モノを言わなければ高額の賠償責任を負わされる、というのもひとつの考え方ではありますが、それは社外役員制度導入の機運や、我が国の業務執行取締役中心の取締役会構成の現実(他の取締役の担当分野には関心をもたない)とは合致しないのではないでしょうか。

公益通報者保護法は労働法制のひとつであるため、取締役や監査役が保護されるわけではありませんが、やはり秘密の暴露が許容される要件を検討したり(たとえば目的の正当性、真実と信ずるについて相当な理由があること、証拠を持ち出すことについて不正競争防止法の適用がないこと、不正指摘と解職との間に時間的近接性ある場合には、解職が権利濫用となる等)、「不正」を「不正のおそれ」と広く解したり、会社の利益を守ることを目的とした緊急避難の法理を適用する等、「モノを言える環境つくり」を検討すべきではないでしょうか。

不正と推定される行為や不正調査を開始する要件などを社内規則によって形成していく、ということも考えられます。もちろん、組織によってはそんな簡単に解決するものではないといわれそうですが、この「役員の倫理感」と「現実に物を言える」ことを結び付ける何かを思考しなければ、またオリンパスと同じような事件が発覚して、同じような報告書が作られる・・・という繰り返しに終わってしまうのではないかと危惧しております。

(追記)本エントリーをお読みいただいた常連のgo2cさんのブログにて、かなりスルドイご意見が書かれております。併せてご参照いただければ、と。

| | コメント (10) | トラックバック (1)

2011年12月 9日 (金)

会社法改正試案(パブコメ案)が公表されたようで・・・

まずはお礼ですが、一昨日のエントリーにはご意見ありがとうございました。ご異論、ご批判もあろうかとは思いますが、これまであまり議論されていなかったことに、関心を持っていただけるのであれば幸いです。法解釈もさることながら、監督官庁と監査法人の在り方といいますか役割分担のようなことについても考えるきっかけとなりました。

残念ながら、相変わらず「オリンパス甲斐中報告書」は通読できておりません。ブログ管理人としては(話題についていけてないようで)フラストレーションがたまっております。事実関係については報道されるところで内容を知る程度ですが、街の議論を漏れ聞くところでは、やはり監査法人の対応に関する記述はいろいろとご意見があるようです。ホント、日本の大手監査法人はどうなってしまうのでしょうね?新日本さんの動きなどをみると、もはや有事対応です。

こちらも注目ですが、会社法改正試案(今後パブリックコメントを募集する案)が法務省のHPで公表されました。社外取締役義務化、監査・監督委員会制度については既に取り上げていますが、監査役の監査機能強化が試案に盛り込まれています。

会計監査人の選任・解任権、報酬決定権の(監査役への)付与につきましては、かねてより会計士協会が(会計監査人の独立性に資するものとして)改正の要請を出していたところでありますが、もうひとつの「監査の実効性を確保するための仕組み」のほうは、会社法制部会の早い段階から築館元監査役協会会長が強く主張していたところです。監査環境を整備するための具体的な内容は未定ですが、監査役さんが監査権限を行使しやすいようにするための改正、ということであれば大いに賛成するところです。

とくに内部統制の運用状況の概要を経営執行部が事業報告で開示することが義務化されるのは、監査役による内部統制監査の実効性を高めるためには大きな前進かと。すでに監査役監査基準のなかでは、積極的に運用状況を監視検証して、問題点があれば(取締役の善管注意義務となる事実が判明すれば)監査報告に盛り込むことが「ベストプラクティス」とされています。現実に真面目に取り組んでおられる会社もあると思います。しかし、内部統制の運用状況に関する相当性審査を会社法(会社法施行規則)で明確にすることは、経営執行部にとっても、監査役にとっても企業の内部統制を構築するインセンティブを高めることになると思います。

最近の企業不祥事で問題となった「監査役と会計監査人の連係」、監査・監督委員会設置で必要性が認識されるであろう「監査役と内部監査部門との連係」あたりも、監査役が既存の権限を行使しやすい環境作り・・・・という視点で議論が進化していけばいいなぁと。あと、大王製紙事件でも問題となりましたが、グループ企業としての内部統制構築に向けて、たとえば親会社監査役と子会社役員とのコミュニケーションの在り方などについても前向きに検討されることが期待されます。

さて、法制審の議論がこのあたりまで進んできますと、委員や幹事の皆様の間で「会社法と自主ルールとの棲み分け」に関する共通認識もできてくるのではないでしょうか。「これは法律の改正という点では見送るけど、とりあえず取引所ルールの行動規範で取り入れて、しばらく運用をみたほうがいいのでは」「行為規範としては無理そうだけど、開示ルールのなかに取り入れて、Comply or Explain approach で事実上強制すればいいのでは」「特設注意市場銘柄制度があるんだったら、とりあえず要注意銘柄だけに行動規範として取り入れてみては?」といった認識です。最近の会社法改正論議は、開示規制やソフトローの動向にも影響を与えるものと私は考えています。

また、パブコメの動向もさることながら、(先日も少し書きましたが)民主党、自民党のWGの動きが気になるところです。会社法制部会の議論よりも、もう一歩進んだ独自案が出てくるかもしれず、このパブコメ案で全体像が見えてきたような気でいると錯覚を起こしてしまうかもしれませんので要注意かと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 7日 (水)

ゲートキーパーとしての監査法人への期待(オリンパス報告書への感想)

商事法務さんのNBL「新春特別号」の編集のお手伝いをしている関係で、到底オリンパス事件の第三者委員会報告書を精読する時間がとれないようです。自身が興味を持っているところを「つまみ食い」のような状態でパラパラとめくってみたのですが、監査法人さんの責任評価に関する詳細な検証が目に留まりました。「予備審査会」などという、監査法人さんにとってあまり表で議論したくない(?)フレーズなども登場して、かなり興味深いところです。

当ブログで何度も扱っておりました金商法193条の3について、あずさ監査法人さんが、監査役に「権限発動を仄めかせた」とありますので、結局のところ193条の3に基づく監査役への通知はしなかったのですね。このあたりは事実上解任されたから、ということなのでしょうか。

監査法人が金融機関から「残高証明でだまされた」構図は山一の飛ばしと全く同じだなぁと感じました。しかし、山一事件の頃とちがって、現在は金商法193条の3が規定されています。つまりゲートキーパーとしての監査法人としての責務を尽くしたかどうか、という点が重要であります。

報告書を読むと、(とりわけ)あずさ監査法人さんは、不正を主導していた経営陣とバトルを繰り返し、監査役とも協議を行い「けっこう頑張っていたのではないか」との印象を持ちました。しかし、これは不正の発見のための尽力する、という事後規制の問題です。しかし193条の3が規定された以上、監査法人さんには、ゲートキーパー(犯罪抑止)として、事前規制の分野で職責を果たさねばならないはずです。つまり監査法人と金融庁の連係です。J-SOX(内部統制報告制度)でも、「開示すべき重要な不備」は、将来における財務報告の虚偽記載の危険(おそれ)を開示するわけですから、これと同じ理屈です。

投資家保護のために、まずは監査役と連係し、それが機能しなければ最後は当局と連係する、という構図であります。監査法人が金商法193条の3によって不正の届出をしなければならないのは、過去の不正を暴く義務があるからではなく(事後規制)、不正の兆候を知らせて、投資家にこれ以上の被害が拡大することを防ぐことが目的だからです(事前規制)。だからこそ、監査役を通じて企業の自浄能力で不正を抑止し、これがダメなら最終的には「おかしい」と思ったことを監督官庁である金融庁に報告せよ、と規定されているわけで、監査役に権限行使を促す目的で「193条の3を仄めかせて」済む問題ではないと思います

オリンパス社の監査役(監査役会)の対応から判断すべきなのは(これは前にも書きましたが)不正の兆候が合理的な理由によって減殺されるかどうか、であり、事前規制の観点からすれば、(2009年の第三者委員会の結論である)経営判断の適法性などあまり関係のないことです。また金融機関の残高証明に疑義が残るのであれば、事後規制の観点からすれば「金融機関からだまされたのだから、不正が発見できなくても仕方ない」で済むでしょうが、事前規制の観点からすれば「私たちが要求する形式の残高証明を出してこないのだから、これは怪しい。これでは適正意見はだせない。投資家が被害を受ける可能性が高い」といった警告を発する(金融庁に報告する)というゲートキーパーとしての役割としては全く機能していなかったのではないでしょうか(このあたりは、日本公認会計士協会報告書第○号のような規則があるかかもしれず、私が無知なだけかもしれませんので、またご指摘いただければ幸いです)。

第三者委員会は、監査法人さんに対して「問題なしとはいえない」と、非常にあいまいな言い回しをされていますが、この金商法193条の3による「ゲートキーパーとしての監査法人の役割」を第三者委員会がどう理解されているのか、そのあたりが不明なままであります。さて、この第三者委員会と行政当局(金融庁、検察庁)の役割分担・・・ということも、いろいろと考えさせられるところが多いのですが、それはまた報告書を精読したうえで、別の機会にエントリーしたいと思います。

| | コメント (8) | トラックバック (1)

2011年12月 6日 (火)

JR東日本株主代表訴訟で考える「内部告発より怖い内部通報」

JR東日本社が、自社の信濃川発電所(新潟県)で、国の許可水量を上回る不正取水を見過ごし会社に損害を与えたとして、同社の株主3人が現・旧役員20人に対し57億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を東京地裁に提起したそうであります(毎日新聞ニュースはこちら)。役員らによる不正調査義務違反、もしくは内部統制構築義務違反を根拠とする株主代表訴訟、ということですが、行政当局からいったん水利権許可が取り消されていますし、データの改ざんもあったようなので、原則的には法令遵守体制の整備義務違反、ということでしょうか。

こういった役員の不作為の違法(調査義務違反もしくは内部統制構築義務違反による任務懈怠)が認められるためには、不作為が「作為」と評価しうる程度の違法性が認められる必要性があると思われます。上記毎日新聞ニュースによると、従前から地域住民らによって渇水被害の苦情が寄せられていた、ということですから、苦情があったにもかかわらず、何等の対応を取らなかったことを「不作為による任務懈怠」ととらえるようであります。

しかし住民から苦情が出ていたとしても、それが取締役の元へ情報として伝達されていなければ「作為」と評価しうる程度の不作為(調査義務違反)とまでは言えないようにも思われます。仮に、苦情を受理していた担当社員が、多数の苦情が出ていることを明確に上部に伝えていたのであれば、パロマ工業(元社長)刑事事件判決と同様、国民の生命・身体・財産への危険を取り除くことは経営判断において優先課題とされるべき、と思われますので「調査義務義務」についても現実味を帯びてくるかもしれません。そのあたりの事情がどうであったかは、報道内容からは不明です。

そもそもそういった苦情が上層部へ伝達される仕組み自体が具備されていなかった、ということであれば、調査義務違反とは言えませんが、また別の論点が出てくる可能性もありそうです。JR西日本福知山線の裁判でも問題とされているとおり、ATS(列車自動停止装置)を福知山線の事故現場に「優先的に」設置しておくべき義務があったかどうかは、「危険」に関する情報が当時的確に上層部に集約される体制が整っていたかどうか、ということと関連します。何が経営判断における最優先課題か、ということは、そもそも上層部に的確に判断根拠となる情報が集約される体制が整っていなければ判断すること自体が困難です。大きな組織であれば、経営者が組織のすべてに監視義務を負う、ということは非現実的なので、なおさら(監視義務に代わる)内部統制の構築の要請が高まるわけです。

パロマ工業事件判決をご紹介したときにも申し上げましたが、経営トップは鉄道事業の安全対策を含め、多くの経営判断事項を抱えていますので、取水制限違反の事実調査を、なぜ最重要課題としなければならなかったのか、具体的にどのような情報伝達経路を整備していれば、不正の兆候に関する情報を集約できたのか、そのあたりを原告側は丁寧に論証していかねばならないはずです(経営者はスーパーマンではないので、会社のトップとして、できる範囲のことをやれば任務懈怠に問われることはありません)。

さて、こういったケースにおきまして、企業側にとって一番怖いのが「内部通報があった事実」ではないかと。たとえば現場の担当者の行動を問題視していた同僚からヘルプラインに通報があったとしますと、これはダイレクトに経営トップが「不正の兆候」を認識していたことを証明するものです。このような通報と受けながら、なんら調査をせず放置していた、ということになりますと、これは最優先課題と認識する機会がありながら後回しにした、ということで善管注意義務違反が認定しやすくなると思われます。内部告発であれば、外部への情報提供ということですから、経営者は情報を把握していなかった、ということで責任を回避できるかもしれません。しかし内部通報となりますと、「不正の兆候を知っていた」もしくは「兆候を知る機会があったが、あえて放置した」ということになり、経営陣は非常に苦しい立場に置かれるのではないでしょうか。

経営者の調査義務違反や内部統制構築義務違反を問う裁判においては、この「不正の兆候の有無」や「内部統制構築義務」の中身を具体化する作業がとても重要になりますが、そこでも内部通報の有無は役員の任務懈怠の有無に影響を与える可能性があり、裁判の結果を分ける要素にもなりえることを認識すべきだと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 5日 (月)

企業不正の予防・発見はガバナンス+ヘルプライン

新聞報道等によりますと、いよいよ明日(12月6日)、オリンパス社の第三者委員会報告書が提出されるようで、同社を巡る諸問題もいよいよ今週から動き出すような気配であります(産経新聞ニュースはこちら)。

先週(11月28日)、私も参加しております関西CFE(公認不正検査士)研究会にて、大手監査法人の会計士の方から財務デューデリ(DD)における不正調査の実務について発表をいただく機会がありました。実際に会計士の方が取り扱った事例を参考として討議が行われましたが、非常に興味深かったのが相対取引におけるターゲット会社(買収対象企業)へのノンアクセスDDによる見込み(予測)とフルスコープDD、クロージングDDによる結果判定との関係でありました。

成約に至った事例、至らなかった事例などを参考に(もちろん会計士さんの守秘義務に反しな範囲ですが)検証をしましたが、結果からみるとノンアクセスDDの段階で予想していた問題点が、後日「予想どおり」の判定結果となるケースが多いなあと。監査法人の変更、役員の度重なる途中変更、兼業状況、役員の横のつながり、M&A仲介者の売り込み方法や仲介者自身の素性、その他勘定科目の選択などから「怪しい」と思える会社は、やはり後日ターゲット会社自身から入手した資料によるDD結果とほぼ異ならないようです。

ただ、その会計士の方もおっしゃってましたが、「あくまでも外から企業を審査するだけでは結論は出せない」とのことで、企業の不正を外から判断するのは、いくらその道の専門家でも限界がある・・・というのが実際のところであります。

ある雑誌の取材を受け、私は「経営者関与の企業不正の予防や発見はガバナンス+ヘルプラインがセットで機能しなければ困難」と述べましたが、最近のオリンパス社や大王製紙社の不正事件に関する報道に接し、そのように強く感じます。

先週、朝日新聞「法と経済のジャーナル」に、大王製紙元顧問(創業者一族の方、元会長の父)のインタビュー記事が掲載されておりましたが、すでに当ブログでも書きました通り、本社在職の「勇気ある社員」の方の活躍がさらに明確に表現されておりました。元顧問が息子である元会長を叱責するきっかけとなったのは、この社員の方が子会社担当者に対して「なんであのこと(子会社が元会長に無担保で金を工面したこと)を言わないんだ」とお尻を叩いたことがきっかけだったのですね。

ただ残念ながら、元顧問はそれ以上に元会長を追い詰めることはなかったのでありまして、その後の当該社員による「内部通報伝達ルート」を無視した行動(内部通報があったことを、ダイレクトに社長に伝える)に出て、社内調査が開始される、ということになります。

またオリンパス事件についても、こちらも前に書いたとおり、会員制経済誌に内部告発をしたオリンパス社員が存在し、これがきっかけで経済誌のスクープとなるわけですが、このスクープをとりあげた元社長が厳しく経営陣を追及したことで大きな問題になりました。

いずれの事件も、その発端は社内の一部「勇気ある」社員による情報提供行為でありますが、重要なのは決してそれだけでマスコミが報じるほどに大きな問題には発展していないことであります。どちらも社長、元社長といった役員クラスの者が、この情報に触れ、本気になって解決するために動くことがあったからこそ、マスコミが取り上げるに至ったのであります。ジャイアンツの件も、清武氏が反乱を起こしたからこそマスコミが取り上げるのでありまして、一社員が「コンプライアンス違反」と主張しても、相手がナベツネ氏である以上、記者会見の場も提供されないでしょうし、大きく報じられることもないはずです。この「不正発覚の起爆剤」がなければ企業は内部通報や告発があっても、首尾よく逃げ切れるチャンスはあるわけで、マスコミも一部社員が動いた程度では積極的に事件解明に動き出すことは少ないと思います。

このように考えますと、やはり企業統治(ガバナンス)は重要であり、その牽制機能は発見にも、また予防にも必要だと思います。

不祥事報道が続きますと、よく「一番問題なのは経営トップの倫理観」と言われますが、もちろんそのこと自体は正しいとは思いますが、ただ思考停止の原因にもなります。今年のベストセラー「人事部は見ている」の著書である楠木氏も、本書のなかで「社長は絶対服従の者をボードに置きたがる。過酷で重大な経営判断を下す場面において、もっとも信頼できるのは、自分に絶対に服従してくれる部下だ」という考え方を否定されていません。人は情実と倫理が相反する場面において、果たして情実を抑制して倫理で物事を判断できるほど高貴でしょうか?ほとんどの方が「こんなに孤独で厳しい状況のなかで、社員の生活を背負って経営判断を下すのだから、これを後押ししてくれる人たちを腹心に据えて何が悪いのか」といった正当化理由によって、倫理よりも情実を優先するのではないかと。いや、この場合の「倫理」というのは、「後日解消できる程度の悪事に手を染めることは、何千、何万の従業員およびその家族の生活を支えるために必要な事であり、むしろこれをやらないことのほうが倫理に反する」という理屈も出てくるのではないでしょうか?「正義」と同様、この「倫理」という言葉も相対的、配分的なものであり、とても危険な印象を抱きます。どんなに立派な教育を受けても、「平時の倫理と有事の倫理は違う」といった意見に流されるのではないでしょうか。

たとえば今、オリンパスの法人としての責任と損失隠しを主導した役員の責任問題を切り離し、「主導者=とんでもないワル」といったイメージで語られている気がします。しかし、この方々が、どうしてそのように立ち回れねばならなかったのか、おそらく「正当化理由」があるはずですから、そこまで遡って「果たして倫理観がなかったのかどうか?彼らには彼らなりの倫理観があったのではないか?」というところまで思考を停止せずに、異論も覚悟で検証していく必要があると思います。

法律の世界からみれば「ガバナンス改革」というと「社外役員の義務化」といった議論に結び付きやすかもしれませんが、上記のように考えますと、実は経営学や組織論、心理学の世界からみたガバナンス改革ということもありうるわけでして、法律家以外の方々のガバナンスに関する意見なども、これからたくさん出てきてほしい、と願うところです。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年12月 1日 (木)

証券市場の健全性確保のための司法の限界-東理HD元会長無罪判決

オリンパス事件を考えるうえで参考となりそうな判決が二つ出ました。ひとつはライブドア事件高裁判決であり(こちらは判決全文を読む機会がありそうなので追って検討するとしまして)、もうひとつは東理HD元会長さんに対する特別背任被告事件の無罪判決であります。東理HDの増資を巡り、架空のコンサルタント料名目で約24億円をペーパー会社に流出させたとして、東理HD社の元会長氏が旧商法の特別背任罪に問われた事件において、検察側は①コンサルタント契約は架空取引によるもの、②たとえ架空でなくても報酬額は不当に高額、といった理由で「報酬名目で会社に損害を与えた」と主張していたようであります。しかし裁判所は「架空取引というには(元会長氏以外の第三者も関与していたという点において)合理的な疑いが残るし、また報酬も不当に高額とまでは言えない」と判断し、元会長氏に無罪判決を言い渡した、とのこと(読売新聞ニュースはこちら)。

判決全文を読んだわけでもありませんので、当該判決の当否について論じるつもりはございません。ただ、当ブログで何度も申し上げているとおり、証券市場の健全性確保のための司法判断(事後規制)にはやはり限界があるのではないか・・・・・といった感想をあらためて抱くような裁判であります。かつて三越事件でも、当時の社長が愛人の経営する会社を中間に関与させてマージンを払っていた件につき、「商品の仕入れについて、当該会社が何もしていなかった、とまでは言えない」として特別背任を認めなかった例もありました。特別背任のハードルはかなり高いと思われます。

もちろん「金融庁(監視委員会)や検察庁は、このような無罪判決が出てもいいのでバシバシ立件せよ!」といった意見もあるかもしれません。しかし市場関係の犯罪を取り締まるには人的・物的資源が限られているわけで、リスク・アプローチの観点からは立件が確実と思われるものに絞って今後も対応せざるをえないでしょう。先の読売新聞の報じるところでは、裁判所は検察批判も展開しておられるようで、やはり「バシバシ」とはいかないのではないかと。

最近の状況から見て、証券市場の健全性確保のために、司法が動くことが必要と思われるにもかかわらず、どうしても限界を感じざるをえないのは以下のようなものではないでしょうか。

Sihougenkai0100


今回のオリンパス事件でも問題となりそうな「M&A報酬」は、そもそも「金額が不当」といった闘い方では専門家の意見を徴取したとしても無理があると考えます。ネステージ事件でも問題となりました不動産鑑定士による鑑定評価や、一部の会計士の方が算定される株価算定評価書などの価格につきましても、「おかしいのでは?」と感じつつも、「評価がおかしい」では裁判所を説得することは困難であります。またキャッツ最高裁判決やビックカメラ課徴金審判でも考えましたが、会計士の方々が「これは公正なる会計慣行だ」と主張される会計処理についても、裁判所が会計処理方針の妥当性について判断することはむずかしいと思います(うまく回避して判断するのが常道かと)。

結局、このような証券市場の健全性確保のための事後規制が奏功するのは、暗躍する専門家集団が、「全体構想」の時点から参画(共謀)していた事実関係を丁寧に立証するしかないわけで、そうなると立件できる事件は相当に限定されたものになるおそれがありそうです。したがって誰がみても「怪しい」と思えるような第三者割当増資が繰り返されても、立件できるのはごく一部であり、ほとんどの事例では一般株主の利益が搾取され最終被害者として残ってしまうことになります。

だからといって厳格な事前規制を導入する、というのも経営の裁量を狭めることになり、昨今の経済環境のもとでは到底受容されるものではないはずです。この事後規制の限界と必要最小限度の事前規制の受容のバランス・・・・・、このあたりをガバナンスの強化や開示規制の改訂などを活用しながらどのように実現していくべきか、今後検討していかなければ、また上記と同様の裁判例が集積されていくような気がいたします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年11月 | トップページ | 2012年1月 »