九州電力社の企業統治と「物言わねばならない」監査役
(26日正午の報道を受けての追記あります)
ガバナンス問題といえばオリンパス社、大王製紙社の話題が現在進行形でありますが、ここへきて九電やらせメール事件に関する動きが報じられております。九電経営者VS第三者委員会のバトルはとりあえず終息したようみもみえますが、九電内部では経産省に提出した最終報告書の内容を訂正するかどうか、議論があったようでして、12月22日の時点では訂正報告書は提出しない、と決定した旨報じられております(佐賀新聞ニュースはこちら)。
ところで日経新聞の22日未明の記事や共同通信ニュースによりますと、九電さんは上記決定について、定例の取締役会を中止して、一部の役員の判断においてなされたようで、監査役会は年明けにも会長らに対して定例の取締役会を中止した経緯について説明を求めるとされています。会社側は「今月はとくに議題がなかったから役員会を中止した」と説明しているそうですが、上場会社の役員会は審議事項だけでなく、様々な報告事項もあるわけですから、かなり異例の事態であります。上記共同ニュースにもあるように、役員会の混乱をおそれて異例の中止に至ったことも推測されます。あれだけ第三者委員会と対立のあった「やらせメール最終報告書再提出問題」について、役員間の意見交換もなく、一部の取締役による判断で「再提出しない旨」の決定をしても「不当」なだけでなく、会社法上の法令違反は認められないのでしょうか?
会社法362条4項には、定款によっても業務執行者に決定を委任できない事項が列記されておりますが、最後に「その他の重要な業務執行」として取締役会における専決事項が規定されています。おそらく1号から7号までに列記されている業務執行と同等程度の重要性をもった業務執行を指すものと思われますが、今回の「やらせメール事件に関する最終報告書の再提出問題」がこの「その他の重要な業務執行」に該当するのであれば、一部の役員によって独断で決定することは違法、ということになりそうです。もし上記事項が「会社事業の通常の経過から生じる事項」に該当するのであれば、代表取締役に委任されている事項として取り扱っても構わないことになります。
監査役は取締役の法令違反行為や著しく不当な事実を認めた場合には、これを取締役会に報告するために取締役会の招集を請求するか、もしくは自ら取締役会を招集する必要がありますので(会社法383条2項、3項)、やらせメール事件の報告書を訂正しない、と決定した取締役に対して説明を求めることは当然のことではないかと。12月25日に九電では6基すべての原発が停止し、来年早々にも住民に対して5%程度の節電を呼びかけること、(関連会社ではありますが)玄海4号機では配管強度偽装が判明したことなどに鑑みますと、現在は九電の原発事業の再開にとって重要な時期にあるわけでして、このような時期に「やらせメール事件の再提出の要否」を判断することは、九電さんの今後のエネルギー政策の方針決定において重要な事項であり、私個人の意見としては一役員の判断で決定できるほどの日常業務(つまり代表取締役の一存に委任できる事項)とはいえないように思えます。その業務執行が対外的取引行為等、利害関係を有する第三者が存在するようなものであれば「取引の安全への配慮」等も考慮した解釈が必要になりますが、本件はあくまでも九電内部の問題ですから、このように解するのが妥当ではないかと。
もちろん監査役が取締役会の招集を求めたり、自ら招集するのは、取締役の不正な行為を報告するためのものですから、とくに取締役会で十分な審議を尽くしてもらえる保証はございません。しかし、単に社長さんに説明を求めるだけでなく、十分に納得のいく回答が得られない場合には「物言わねばならない」監査役として、監査役として自ら取締役会を招集する等、会社法上付与された権限行使が必要となる場面ではないでしょうか。なお、取締役会の招集請求等の権限は監査役会ではなく、個々の監査役さんに認められるものなので、6名いらっしゃる監査役(うち3名が社外監査役)の方々の中でも意見が分かれるかもしれません。九電のガバナンスを考えるにあたり、今後この件がどのように進展するのか、年明けの動向に注目してみたいと思います。
(26日午後:追記)
halcomeさんもコメントされているように、本日(26日)九電では臨時取締役会が開催され、社長さんが1~2ヶ月後に辞任することになったようです。どのような組織力学が働いたのかは不明です。
私自身も驚いておりますが、決して何か事前の情報を得て本エントリーを書いたものでは決してございません。そのような守秘義務違反行為は絶対にしません。ただ、ここ一週間ほどの報道内容から、かなりガバナンス上の問題点が社内でも浮上していたのではないか・・・との推測からであります。とりあえず、そのことだけ明記させていただきます。
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コメント
ごぶさたしております。
日経ニュースに「九電社長、1~2ヶ月後に事実上辞任」と報じられています。
先生のネタはあまりにもタイミングが良すぎますが、何かご存じだったのでしょうか?すでに監査役が行動を起こしたとか?
投稿: Halcome2005 | 2011年12月26日 (月) 12時18分