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2011年12月20日 (火)

続編・オリンパスの買収監査と法務部の役割について

昨日のエントリーには、たいへん多くのコメントやメールをいただき、ありがとうございました。コメント欄にて、ChuckさんやJFKさんがお書きになっているとおり、法務部のM&A案件における役割は、各社各様であることが、ほんの少しですが理解できました。メールを頂戴した方の会社などは、そこそこ大きな企業であるにもかかわらず、総務部や経理部が法務案件を担当していらっしゃるようで、「法務部のお仕事」を一括りで語れないところもあるかもしれません。(そういえば「ろじゃあさん」のブログでも「十人十色、法務部いろいろ」なるシリーズがありましたっけ・・・(^^  )結局のところ、各社の営業戦略があり、その戦略の一環として法務部の位置付けが各社で異なる・・・というところでしょうか。

ところで、中央経済社の雑誌「ビジネス法務」2012年1月号の特集が 「どうすれば法務部はM&Aで活躍できる?」 というものでして、その特集の中で語られている須崎將人氏(ソフトバンク社法務部長-以前、当ブログにもコメントをいただきました)のお話『法務部はM&Aのコーディネターとなれ』(24頁以下)がとても印象的でした。

「強い法務部」を目指しておられる須崎氏によれば、法務部は自社M&Aの構想段階から関与すべき、とされ、これは法務部業務の大原則である、と述べておられます。大枠において社内でコンセンサスをとったうえで、法務部は交渉の前面にいつでも出られるようにすることが肝要とされています。おもしろいのは、海外企業の場合は、法務部や弁護士が前面に出てくるので議論の相手としてはやりやすいのだが、日本企業同士の場合には、なかなか法務部が前面に出てこないので逆に自分たちの立ち位置に困ってしまうことがある、とのこと。

『向こうが一歩下がっているのに、こちら側が前面に出るのもバランス的に悪いというか、結構やりにくいですね』

またソフトバンク社の法務部門では、M&Aに関するあらゆるリスクを検討するとのが慣例とのこと。こういったソフトバンク社のように、M&Aが恒常的な法務部案件になっているケース、会社規模が非常に大きい場合には、弁護士が中心的な役割はを担っているケースでも、法務部はかなり前面に出て活躍するようです。したがいまして、今回のオリンパス第三者委員会報告書で記載された内容を肯定する立場になりそうな気がします。しかし、須崎氏が国内の交渉相手企業の例で語っておられるように、M&A案件がきわめてイレギュラーな業務とされる企業の法務部からすれば、経営執行部と外部専門家でほとんどの内容が固められてしまって、法務部の審査、というものが占める割合はかなり低いものになるのかもしれません。

ところで、市場関係者の方より、本エントリーに関する意見を、メールにて頂戴しましたが、とても重要なポイントを突いているように思えましたので、下記のとおりご紹介させていただきます。

さて、貴ブログを拝見しましたので、O社など企業買収に絡む法務部の役割と実情について、私見をコメント差し上げます。

○法律適合性とソロバン勘定の間

・一般的に法務部の社員の場合、自分の役割は違法性の確認のみ…という割り切りが強く、事業判断への口出しや経営面などソロバン勘定の世界には興味を示さない方が多いというイメージがあります。

○法務部の事前関与(企業買収の神格化の悪影響)

・過去、野村証券やカブドットコム証券のようにインサイダー取引の舞台として企業買収や重要情報の社内共有問題についてに光があたったことから、多くの企業にでは、企業買収の検討実施に当たり、専門部署で極秘に進める傾向が強まり、関連部門との情報共有化は軽視される傾向にあります。もちろん、オリンパスの場合は、意図的にディール関係者を絞っていたのだと思いますが、一般的には自社の企業買収について、法務部も含めて関連しそうな部門は「情報管理」という錦の御旗のもとに関与できていないと思います。

○法務部の事後関与

・さすがに契約書について事実上、関係者が合意した後、押印手続きに先立って法務部がチェックする場面があるのが通例だと思います。しかし、複雑な交渉を重ねた結果の成果である合意条件について、決定的な法律面での瑕疵がない限りにおいては、法務部としては内容を精査せず、承認するのだと思います。

このあたりはJFKさんのご指摘に近いところがあるかもしれません。あまり大きな責任が課せられても(他にも仕事を抱えているので)困ってしまう・・・という意識が(社員として)存在するのでは、と。

・たとえ法務部が「本件を精査したいから、少々時間を欲しい。」と主張したところで重要情報の速やかな開示と言う定義名分には勝てず、「いついつまでに公表し記者会見する予定なのですぐに確認してください。」と求められ、十分な時間も与えられないケースが多いと思います。

・さらには、MAで実績のある法律事務所にアドバイザーを依頼している場合などについては社内的に法務部には何も期待されないでしょう。もし、何か主張したとしても「大手法律事務所の○○先生が問題ないと言っている件について、何を言うのか!」と一蹴されれば終わりです。

○報告書「独立した立場でその内容を検討すべき」について

・金銭面でのシガラミの少ない第三者委員会でさえも、独立性の確保が難しい中、社内の一部門である法務部に独立性を求めると言うのはむずかしいのではないでしょうか。

どうもありがとうございました<m(__)m>。まぁ、事前審査は困難であったとしても、やはり事後的には問題案件では?といった意識を法務部の方々も持っておられたのではないか・・・という疑問は残るような気もします。また、オリンパスの件では、もしも・・・の話ではありますが、監査役会が法務部に相談していたらどうなっていただろうか・・・というところでありました。ホントに監査役会から法律審査を要望されたり、意見交換を求められていた場合、法務部は真正面から対応していたでしょうかね?

法務部の「あるべき」論と現実の姿には若干の差があるような印象を持ちました。以前、ある会社でコンプライアンス・ハンドブックを改訂する作業のお手伝いをしましたが、そのときに社内政治力を見事に発揮して完成にこぎつけた法務部長さんがいらっしゃいました。この「あるべき」論に近い姿の法務部を形成するにあたり、こういった社内政治力も必要になるのかもしれませんね。

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コメント

法務部の役割や業務について、違法性や法的問題点の確認が主体となるとは思うが、大局的な見地からの検討やコメントは重要と考えます。

オリンパスの例で言えば、
・ M&Aの妥当性以外に、高額の報酬支払いについても法務部は、その問題点を考えるべきであった。
・ 株主総会で、取り上げられた時に、合理的な説明が、可能であるかについて法務部が、問題的を提起すべきであった。
・ マスコミや業界紙がかぎつけ、世間に知れ渡ることになり、会社の信用度を落とすことになる可能性を指摘すべきであった。
等です。

なお、事実は、法務部他の部門で社内でコメントを出し、却下されたという可能性もあると思います。そして、その可能性を考えると、会社のトップとは何をすべきかです。社内各部の専門性を生かし、互いに牽制し、会社が自然に正しく運用されるような体制を構築し、維持することは、最重要な仕事と考えます。

投稿: ある経営コンサルタント | 2011年12月20日 (火) 11時40分

大手企業の法務部のことは詳しく知らないのですが、
ある商社法務部では、商社ビジネスに詳しい法律家は不要(顧問弁護士で十分)、法律に詳しい商社マンであるべき、と説明しています。つまり、法務部は第三者的な意見を言う部署ではないという考え方です。あくまで取締役会直系の組織であり、ビジネスを基軸に当事者志向が要求されるということです。他業界の法務部もこの点に関しては似たり寄ったりではないでしょうか。
このような組織では、監査は監査役や会計監査人の仕事であると割り切り、ビジネスに徹してキャリア形成していかざるを得ないと思います。
もっとも、危ないケースに事前に触れた場合、他の部署よりも意見を言いやすい立場にはありますので、プロジェクトや会社そのものを危殆化させるようなリスクを発見したときは、仮に辞めることになったとしても言うべきことを言うという気概を持った人たちも居ると思われます。
ただ、日常的にそのような気概を見せすぎると、ある種の警戒感を与えてしまい生情報が入りにくくなるおそれもあるので、爪を隠しつつバランス感覚をもって仕事をしないといけませんね。

違法行為等の事後処理に関しては、役員への情報伝達の仕組みを前提として、主に顧問弁護士を活用するのが普通ではないでしょうか。そのうえで、外部と内部の調整(日常語への翻訳)、問題整理のために法務部員を使うという形が自然かなと思います。社内組織である法務部に第三者的な監視義務を負わせるのは、彼らのキャリア形成に照らして、ちょっと違うと考えます。

投稿: JFK | 2011年12月20日 (火) 20時44分

はじめまして。これまで数社で法務を担当してきた立場からちょっと感想を述べさせてさせていただきます。
これまでの経験からいうと、法務部の社内プレゼンスの高さ(低さ)や経営トップとの信頼関係(悪い意味でいうと、こいつらは清濁併せ呑むことができると思ってもらえるか)によって、M&Aのような超重要案件への法務部の関与度が変わってくるようです。法務部といえども社内の組織ですから、何が経営にとって最優先されるべきかをまず考える必要があります。単に「その行為は違法です」と進言しても、「アホか」と言われ、それだけでは仕事をしたことになりません。違法性が無いように当該案件を進める方法(黒を白にする、または少しでも白に近いグレーにする)を考えるのが、企業法務の存在意義でもあります。
O社の場合は、経営トップと法務部との信頼関係がどうだったのか気になるところではありますが、あまりにも案件が大きくなりすぎで、事情を知れば知るほどアンタッチャブルであったでしょうから、O社の法務部にも同情の余地があります(同業者としては)。調査報告書に「問題あり」と書かれれば身も蓋もないのですが、できれば知らぬが仏で、通り過ぎていってほしい案件だったでしょう。
デューデリジェンスへの関与については、法務部が全般的な調整はできても、金銭的な評価まですることは難しいのが実情です。せいぜい潜在的な訴訟・紛争のリスク判断や知財の評価などがメインになり、ビジネスそのものの評価は財務部や事業部などの判断が必要になります。他にも人事・労務や環境問題など専門性が求められるケースも多くなります。強いていえば、弁護士が行うデューデリジェンスをコントロールすることが、法務部の腕の見せ所になります。このM&Aがいかに当社のビジネスに貢献するのかとか、経営トップがどうしたいのかなどをよく斟酌して、会社の方針からかけ離れないような判断を弁護士から引き出す必要があります。
いずれにせよ重要案件で経営トップから信頼され、かたや弁護士からも不信感を持たれないようにするためには、日々の業務から信頼関係を構築していく地道な仕事が必要なのですが。

投稿: kise | 2011年12月21日 (水) 23時46分

コンサルタントさん、JFKさん、KISEさん、ご意見、ご教示どうもありがとうございました。「それは違法です」では法務部の仕事はやってられない、とのご意見、企業内弁護士の在り方にも通じるもののように思えて、参考になりました。
ただ、私がこのように新鮮に皆様のご意見を伺った、ということは、やはり世間的には法務部の仕事というものも、あまり認知されていないのではないでしょうか。こういった報告書の考え方が、素直に世間一般のイメージにしっくりくるのが現実かもしれませんね。

投稿: toshi | 2011年12月22日 (木) 01時09分

私事ですが、10年ほど前に海外駐在から帰任するとき、法務部に配属になったと聞いたかつての同僚から、赴任地で何か失敗したのか?とまるで左遷されたかのように本気で心配されました。当時の法務部のステータスといえばそんなものだったんですね。
勿論、その後の企業におけるコンプライアンス重視の追い風に乗って、法務部のステータスは向上したとは思います。しかし、事業の下支えという法務部本来の職責からして、花形になることはないと思います。
法務部門が花形として活躍している企業って、法的問題が山積している企業ということになりますからね。

通常のM&A事案では買収企業の評価いわゆるDDが最も重要ですが、
DDに提供される相手方からの膨大な資料を経営者自ら精査するということままずありません。
従って、法務DDなら法務部門が、会計DDなら経理部門が、事業DDなら経営企画部門がそれこそ精査して、経営判断に必要な重要ポイントをまとめるという作業が必須になります。
ましてや海外企業の買収となればDD資料はすべて外国語なので、それを翻訳して要点をまとめるという作業はそれこそ徹夜の連続ということになります。
今となっては楽しい思い出ではありますが、前職において、ある途上国で丸1ヶ月休みなくM&AのDDと交渉を行って、相手からも本国からもせっつかれながらやっとのことで成約にこぎつけたことが忘れられない体験として残っております。
法務部門の役立ちは、DD資料から要点をまとめる中で、法務的懸念点をハイライトして経営幹部に理解してもらい経営判断に反映させることです。この作業を通じて法務部門は積極的か消極的かは別としてM&A事案に深く関与できるはずです。

投稿: CHUCK | 2011年12月22日 (木) 17時24分

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