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2011年12月19日 (月)

オリンパスの買収監査と社内法務部の役割について

読売新聞WEB(中央オンライン)教養講座にて、大杉謙一教授(中央大学法科大学院)が「会社法で企業不祥事は防げるか」と題する論稿を出されており、当ブログをご紹介いただいております。先日の日経新聞「経済教室」の論稿に続き、大杉先生の建設的なご意見が書かれておりますので、今後の意見形成の参考にさせていただきたいと思います。また、久々の更新となりました活字フェチ弁護士さんのブログ記事も「おお、このフレーズ、どっかで使いたくなる」と思える内容満載でして、こちらも参考になります。

私自身は、まだ(執拗に)12月6日リリースに係るオリンパス第三者委員会報告書を眺めております。いろいろな箇所に過剰反応してしまい(笑)、遅々として進みません。社外協力者やモニタリング不全の中心とされる監査役会、監査法人に焦点があてられることの多い当報告書でありますが、委員より、オリンパス社の法務部の対応にも「問題があった」と指摘されていることは、あまり話題になっておりません(報告書158頁。このあたりは、一般の方にはあまり関心が高い部分ではない、ということなのでしょうか)。

オリンパス社による国内3社及びジャイラス社の買収(2008年)にあたっては、本来オリンパス社の法務部が主導して買収監査を行うべきであったところ、これが全く実施されなかったとされています。オリンパス社の法務部の業務内容は、業務執行行為の適法性の検討や、契約書の内容検討、ということであるにもかかわらず、監査役会と連動して調査・検討が行われなかったのは「監査役会の対応の問題点と並び」、法務部の対応についても問題があったといわざるをえない、とのこと。

私は社内弁護士の経験もありませんし、法務部で仕事をしたこともありませんので、法務部担当社員として、どれほど独立した地位で職務を遂行できるのか、その実務感覚は、あまり存じ上げません。しかしこの報告書では、社内法務部は、社内で買収を主導した部署から「独立した立場で、その内容を十分に検討すべき」とされており、そのような検討がされなかったことを問題視しており、なるほど、法務部とは独立した立場からの意見表明が求められているのか・・・・・と(多少疑問は残るものの)いちおう納得いたしました(内部監査担当者と同じような感覚、と思ってよろしいのでしょうか)。

しかし、この国内3社の買収、ジャイラス社の買収については、監査法人も疑義を呈するほど金額も大きいようですから、法務部の方々が買収の事実をまったく知らなかった、ということはないと思います。たとえ事前に報告されていなかったとしても、事後的には把握しているはずです。そうしますと、法務部の方々も、監査法人と同様に「ちょっとあまり触れてはいけない案件、取締役案件みたいなものがある」といった意識は持っていた可能性があります。

今回のオリンパス社の社内法務部の対応(つまり企業買収案件について、契約書も審査せず、また取締役会の意思決定過程の適法性、買収金額の妥当性も審査しなかったこと)は、一般の企業の法務担当者の方々からみて「ごく一般的に起こりうるものであり、やむをえない」と判断される程度なのか、それとも「オリンパス社の特殊事情によるものであり、到底わが社では考えられない」と判断されるものか、そのあたりを法務部の方にぜひ、お聞きしてみたいところです。金商法というよりも、会社法上の内部統制に関連するものであるため、少し興味を抱いた次第です。

12月 19, 2011 商事系 |

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コメント

企業買収事案には、経理・財務部門と並んで法務部門が深く関与するものです。

企業買収事案に関する法務部門の役割としては、法務デューディリジェンスの実施、相手方との交渉に参画、M&Aに関わる種々の契約書のチェックなどがあり、当然コンサルタントフィーも含めた対価の妥当性についても検討します。
勿論対価の妥当性については経理・財務部門が主導権を握りますが、一般常識とかけ離れた対価の支払いについては、法務部門は当然に認識し、異論を唱えるはずです。
少なくとも、私が在籍した上場2社ではそうでしたし、企業法務仲間の話しでも各社の法務部門は同様の役割を担っていると聞いております。

従って、本事案の様な巨額の企業買収案件に法務部門が全く関与しないというのはちょっと考えられません。オリンパスの法務部門は事前に知っていたはずと考えるのが企業法務に携わる者の共通認識ではないかと考えます。

利益を追求する企業にあって、法務部門は、時として煙たい存在となります。しかし結局は会社のため、会社の最期の砦たるべく、間違ったことは例え社長に対してでも堂々と異議を唱えるのが法務社員の使命と思っております。

どの様な力の論理が働いていたのか、あるいは異論を唱えても無視されたのか、部外者には判りませんので、軽々しく批判をするつもりはありませんが、オリンパスの法務部門が、もし本件を事前に認識しながら何のアクションも採らなかったのだとしたら、責められても仕方ないことだと思います。

投稿: Chuck | 2011年12月19日 (月) 09時28分

「気づいていたが、何も言えなかった。」のではないでしょうか。私は、金融機関で仕事をしており、取引先の法務部門とも接点があるのですが、このレベルの金額が動く契約書に事前チェックなしはありえないと思います。
また、買収が決定すれば、一刻も早く収益化するため、経営企画、開発、マーケティング、営業、人事、総務などの各部門が動き出します。各分野のプロが見れば、実態のあるなしは、すぐに分かります。逆に上から「本件に関与するな」と指示されれば、おかしいと気づきます。程度の差はあれ、かなり多くの社員が、アンタッチャブル案件の存在を認識していたと思われます。トップの不正とはいえ、少なくとも管理職クラスには、その認識に応じたペナルティ(例えば、降格や減俸など)を課さないとこのような企業文化は変わらないと感じました。
余談ですが、学生時代にアルバイトしていた会社が後に公金横領に関与したとして逮捕者まで出しました。現場の末端である私も不正な経理処理に気づいておりましたが、「世の中そういうもんだよ」という社員さんの言葉に「これがオトナの世界かぁ」と納得していた自分を思い出しました。

投稿: kerota | 2011年12月19日 (月) 12時41分

社内法務部に勤めていた者としては、法務部に「社内部署から独立した立場」を求める、この報告書の記載には、違和感があります。確かに、本件の不祥事が長年にわたって隠蔽された「原因の一端」であった可能性はありますが、法務部が「責任の一端」を担うべきとは思いません。
報告書は、3社の買収について「オリンパス法務部が主導して買収監査が行われるべきであるが」と記載していますので、そういう事情があったのかも知れませんが、これは一般的に当てはまる「べき論」ではないと思います。法務部は、通常は総務部門に属する一部署で、彼らには上長の指揮命令に従うべき義務を負っている従業員であることに変わりはありません。「なにかヤバい取引があるみたいだ」と、たとえ気づいた法務部員がいたとしても、「独立の立場」で待ったをかけるような立場にはないし、もちろんその義務もないはずです。
案件によっては(特に企業買収において当てはまると思いますが)、外部の法律事務所に全てお任せ、ということもありますから、その際は法務部は蚊帳の外ということもあります。社内の法務部が法務デューデリをしたところで、独立の立場から法律意見書を書くこともないわけですし、社外の弁護士が検討してOKした契約書を、再度法務部が検討するほど、法務部もヒマではありませんから。
一般化することは本当に難しいですが、法務部の検討を経ない案件も(特にそれが会社トップの主導による場合は)あるというのが実感です。「口出しするな」と言われれば、口出ししないのが、普通のビジネスマンの態度でしょう。
報告書も、「責任あり」とは言っておらず、「問題あり」と言っているにとどまるわけですが、私個人は、上記のような考えから、報告書のこの部分には疑問が残ります。

投稿: ゐ | 2011年12月19日 (月) 14時09分

「法務部門」の問題なのか、「法務部門を統括する役員」の問題なのか、どうも「法務部門」という括りで評価されたくないように思います。と言いますのも、オリンパスにおいて、かかる買収事案の社内決裁の方法(稟議書の立案から主要な審議者を経て社長が決裁し、取締役会がこれを承認するまでの社内手続きが、社内の規程でどのようにルール化されていて、そこには必ず法務の責任者が審議者として関与するのかどうか、関与するとして、それは「法務部門を統括するような役員」だけなのか、役員ではない「法務部長」クラスも関与することがルールとして定着しているのか、このあたりは、会社によって色々な形があるように思います。
調査報告書では、「企業買収にあたりDDの実施や法務部などのチェック等を本来行うべき手続を故意に省略しても問題とならない体制が維持され、」とありますが、「本来行うべき」というのが、調査委員会の方々の常識をもってそう指摘されているのか、それとも、オリンパスの社内規程でそう規定されているからそうなのか、判然としません。でも、やはり、社内規程で明文化されていない場合ですと、「法務部がやるべきことをやっていなかった」と断じるのは酷ではないか思います。調査報告書は、「損失隠蔽、飛ばしの手段が、書類や証拠を残さず、内部からも発見しにくい方法であった」と確認していますから、経営の上層部での秘密裏の事柄を法務部が把握できないことって起こりえるのではないでしょうか。この状態について法務部を責めるのは酷ではないでしょうか。仮に、多少の疑義が生じたとしましても、常勤監査役までがOKでしている事柄に切り込んでいくことを、管理職含め社員に期待するほうがどうかしています。それが役員ではない法務部長であっても同じだと思います。
内部統制システムの整備は取締役にその義務があるのですから、その義務の一部でも法務部社員に転嫁するような話には、すんなり頷けない気持ちです。
私自身上場している事業会社に勤務する法務の人間ですが、企業買収する場合の明文化された社内手続きやマニュアルなんてありません。買収そのものがイレギュラーなイベントであって、もし、そのような買収案件が発生したときは、社長あるいは取締役会がその都度必要な手続きや手順を策定して、トップダウンで事務方に指示が降りてくるもの、ぐらいにしか思っていません。そのようなことを思いますと、はたしてオリンパスでの事情はどうだったんでしょうか。
いつもこのブログは拝見していますが、はじめてコメントさせていただきました。

投稿: skas | 2011年12月19日 (月) 14時32分

私も、chuckさん kerotaさんと同じく、上場企業の法務部門なら、案件をまったく知らないことも、案件に関与しないこともありえないと思います。
法部部門として法務部、総務部、文書部などが少なくとも契約書のチェック権限を有しますから、関与しないはずはありません。契約書のチェック権限があるなら、その前提としてスキームを知る必要がありますので、海外案件なら国内、現地の弁護士の利用も考慮に入れ、スキームの問題点のチェックなどに当たるのが通常でしょう。
仮に最初から関与しなくとも財務部門、企画部門からきちんと声がかかるというのが私の経験してきたところです。

取締役会にかからないような金額で、単純な案件なら、マネジメント数人で外部のコンサルや弁護士を使って内密に済ませることは、可能かもしれませんが、取締役会案件なら他の役員もいるので法務がノータッチなまま役会を通過することは通常ないと思います。

次に法務部を関与させても、その意見をトップが無視するケースが考えられますが、そのようなケースでは、他の役員に「法務部意見はどうなってますか」と発言させ、即決させない手はあります。それが使えないケース(まだそういう経験はありませんが)では、社外監査役に事情を説明して、法務部意見や弁護士意見を提出させることができると思います。

昔話ですが、社外監査役就任を民間経験のない某氏にお願いしに行ったときには、「リスク情報は、必ず法務部から事前に連絡しますから、代表訴訟リスクは考えなくていいですよ」と説得して就任してもらったことがあります(笑)
某氏は「おかげでいい勉強になった」と現在テレビ等でご活躍です(笑)

投稿: 品川のよっちゃん | 2011年12月19日 (月) 14時45分

皆様のコメントにより、法務部門の役割、責任、権限が会社によってそれぞれ異なるということを再認識しました。
ただ、オリンパスほどの規模の会社であれば、法務部門の位置づけはそれ相当のものであって、M&A案件について蚊帳の外というのはあり得ないはずだと考えてしまいます。

オリンパスの法務部が本件に何ら異議を唱えなかったとすれば、きっとやむにやまれぬ事情があったのだと思わざるをえません。

法務部が独立した地位を確立しているしていないに関わらず、法務担当役員から一般職まで、法務を担当する者はすべからく、内部統制上問題のある事案、コンプライアンス上問題のある事案については、知った以上疑問を呈するのが職責というか使命であるとの認識でおります。

幸い私が過去に所属した会社も現在所属している会社もその様な対応をすることを是としてくれており、個人的に幸せなことだと思っております。

法務社員といえど、組織に所属する一社員であることは変わりませんが、少なくとも法的な問題が懸念される事案については意見具申する、あるいは品川のよっちゃん様のコメントのごとく、意見が反映されるよう種々算段するという勇気が必要だと思います。

決して綺麗事を言っているわけではありません。
そうすることが組織を守る最善策であることは昨今の企業不祥事事案が証明しています。

投稿: Chuck | 2011年12月19日 (月) 17時12分

法務部は各社各様です。ビジネスラインの中の専門部署だったり、内部監査寄りのコンプライアンス部門を法務部と称していたりします。また、どんな人が任命されているかによっても、組織上の位置付けや権限(事実上の発言力も含む)は全く異なります。ごく一般的な法務部では・・・といった言い方もできないほど多様なので、もどかしいところですが、あえて一般的な形を想像すると、次のように言えます。

まず本当にアンタッチャブルな案件は法務部門に回ってきません。回せ!と言う権限がある会社も少ないのではないでしょうか。なぜ回ってこないかというと、相談したら触られたくないところをほじくりまわされることが目に見えているからです。また、仮に相談しても、結論を経営判断(営業判断)に委ねられ、かつたくさんの予防線を張られるのが目に見えているからです。予防線を張られると判断者の責任が重くなります(これが防波堤としての法務部の意義だと私は思っています)。つまり、言外に「やめとけ」と言うわけです。
危ない案件には予防線を張るのが、あくまでサラリーマンである法務部員の性です。
危ない相談を受けた場合に限らず、後々問題になっても逃げれるかを考えて仕事をしている人が多いと思います。そういう意味では弁護士や会計士と同じ面があります。社会というフィールドを社内に移してみれば容易に察していただけますよね。外部コンサルであれば、降りるという選択肢がありますが、そういうわけにはいきません。それを察して回してこない、という可能性もあるかもしれません。

投稿: JFK | 2011年12月19日 (月) 23時48分

法務部の人は「法務部員の私だったらこうする」といった視点が必要でないでしょうか。

法務「部」としてくくられ本件を反省するのもそれはそれでよいのですが、
もう少しブレークダウンし、いち法務「部員」として、
どうすべきだったか、何かできたことはないだろうかと問いかけています。

従業員という点では報告書が意図しているであろう意味での「サラリーマン根性」もあります。
しかし、常日頃から、一般従業員よりも法令に慣れ親しみ、
リーガルマインドやらコンプライアンスとやらを振りかざして、
「おかしいと思ったら声を上げてくださいね」と
研修などで啓蒙している法務「部員」としては、
実際の場面に直面したとき(社内通報は有効性が期待できないとの前提で)、
実際にどうしただろうかと。

昨年からずっと問いかけが続いています。

投稿: 法務担当 | 2012年1月18日 (水) 19時43分

たしかに報告書の性格からして、「法務部員としては」と一括りで表現するしか方法がなかったのでしょうね。でもご指摘のとおり、それぞれの法務部員の方々に、個別に検討していただくことは有意義だと思います。現実に、そのように考えておられるオリンパス社の社員の方も多いのではないかと。よく不正調査の場面で、ヒアリングを受ける社員の方も、同じような疑問を抱いておられます。そういった方に、組織風土が変わるきっかけを作っていただけるとありがたいのですが。。。

投稿: toshi | 2012年1月20日 (金) 01時57分

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