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2012年1月13日 (金)

家族を不幸にするインサイダー取引(その2)

もうかれこれ4年半前に書きましたエントリー「家族を不幸にするインサイダー取引」の続編であります。あれから味の素社員による日本初の否認審判事件があり、カルピス社員の妻による「聞いちゃったインサイダー」事件もあり、本当に妻名義による株取引が問題化した事案もありました。これまでは課徴金事案だったわけですが、経産省官僚の方によるインサイダー疑惑につきましては、妻名義(4口座)による取引が特捜部主導による刑事事件として取り扱われることとなったようです。

もちろん、日本で一番(インサイダー取引を)やってはいけない人がやってしまった、との疑惑があるわけですから、刑事処分、しかも否認事件とあって、身柄拘束ということになってしまうのも仕方ないかもしれません。しかし、私が一番心配するのは、ご本人が否認していることによって、どれほど親族が過酷な捜査に耐えなければいけないのか・・・・・ということであります。まぁ、ご本人については、たとえインサイダーに該当せずとも、組織内ルールに反する行動があったようですから(取扱い企業の株売買の禁止、売買時の報告義務違反等)、疑惑をもたれること自体、自己責任と言われてもやむをえないと思います。しかし家族の方々はどうなんでしょうか。

「俺はやってない。妻が自分の利益のためにやったんだ」との抗弁は、それが真実であれば奥様も耐えられるでしょうけど、夫をかばうために「私が自分の利益のために、たまたま聞いちゃった情報をもとに買っちゃいました」と虚偽の供述をされるのでしょうか?下手をすると共犯や証拠隠滅の刑事犯に該当してしまうわけで、普通は奥様をそのような窮地に陥らせてまで否認を貫く、ということはないんじゃないかと。いずれにしましても、家宅捜索を受ける奥様の境地、そして本日の経産省幹部逮捕の裏で、奥様は捜査機関に対してどのような供述をされているのか、とても関心があるところです。

ところで、以前のエントリーで、某社の資本提携に関する事案につき、株価と出来高を示して「明らかにインサイダー取引があったのでは?」といった感想を書きました。取引所も当局の方も、「絶対にインサイダーは見逃さない」といった解説をされますが、実際には摘発できないインサイダー取引も多いのではないかと(^^;;。

ただ、昨今はJ-IRISSに登録する上場会社も急増しておりますし、各企業とも内部統制の一貫としてインサイダー取引防止体制を構築され、社内ルールも整備されてきておりますので、おそらくピンポイントで審査や調査が絞られるケースも増えているのではないかと推測いたします。当局も人的資源が限られておりますので、リスクアプローチの手法により、嫌疑が濃厚なものを優先的に対象事案とされることが考えられます。やはり普段の株取引の時点において社内ルール違反の事実が認められるのであれば、重点的に調査や審査の対象になるのかもしれません。そう考えますと、社内から不幸な犯罪者を出さないためにも、インサイダー防止のための社内ルールはきちんと運用しておくことが企業のリスク管理の視点からも大切なことではないか、と思うわけであります。たとえ自身が株取引をしない方であっても、情報提供者となって周囲の者を不幸にしないことも心得ておく必要があろうかと思います。

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