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2012年1月25日 (水)

外から「あやしい」中から「おかしい」の関係

今週号の日経ヴェりタスの記事「会計不祥事 決算書に残る痕跡」を興味深く読みました。最近の不祥事続発の影響からか、「粉飾はこうして見破れ!」的な記事を新聞や雑誌でよく拝見いたします。確かにヴェリタス誌で紹介されているようなエフオーアイ、シニアコミュニケーション、メルシャン等の事例分析を読むと「なるほど、公表されている決算書等からでも、こくやって粉飾の兆候は出ているんだ」と納得いたします。

ただ、気を付けなければならないのは、最近の会計不祥事にしても、上記問題事案にしても、新聞で大きく取り上げられて、話題になったからこそ当該企業の決算書を熱心に分析できるわけでして、これもやはり「後出しジャンケン」の世界であります。では粉飾発覚前に同様に分析できるか・・・・といいますと、これは当該会社と余程の利害関係人でなければ分析は困難ではないかと。

たしかにヴェりタス誌で紹介されていらっしゃるクレディスイス証券のアナリストさんのように、オリンパス社の粉飾の予兆を2年前から気づいている方がいらっしゃったとしても、それは外部から「あやしい」と感じるところまでであり、「おかしい」と声を上げることはなかなかできないんじゃないでしょうか。いや、外部の方ですから「おかしい」と声を上げる必要もないわけでして、あやしいと感じるのであれば、投資家として「危うきに近づくべからず」とすればよいわけです。そういった意味では、「粉飾決算はこうして見破れ」的なハウツーは、投資家サイドの方々にとっては相当程度、意味のあるものだと思います。

しかしよく考えますと、投資家の方々が「危うきに近づかず」が金銭的に意味のあるものになるためには、誰かが「おかしい」と声を上げる必要があるわけです。誰かがおかしいと声を上げて、これを端緒として社内や行政当局の調査が開始され、最終的に企業側が不適切な会計処理であったことを公表して、初めて意味がある、といえます。上記ヴェリタス誌で紹介されているフタバ産業さんの事案などは「会計士が発見した」とありますが、おそらくこれも社内情報から会計士さんが「おかしい」と疑惑を抱いた事例だったものと推測いたします。

では一体だれが「おかしい」と声を上げるのか?おそらく社内の役員の方から「おかしい」と声を上げるか、もしくは複数の社員の協力をもって「おかしい」と声を上げる必要があるのでしょうね。いま内部通報によって会計不正が明るみに出た事案をいくつか分析しているところですが、やはり一般社員の内部通報が経営者不正につながる事案では、一般社員の単独行動だけでは明るみに出ることは難しいように思われます(大王製紙さんの事案などが代表例です)。たとえ投資家と同様、「あやしい」と感じることができても、「おかしい」との心証を形成できるところまで事実を解明することも難しいのですが、それより難しいのは声を上げること。ここに「あやしい」と「おかしい」の大きな差があるように思います。

上誌のプロが教える「ここに注意」なる欄も興味深いところですが、これを読んでおりまして「時間軸が必要だなあ」と感じました。外のコンサルティングがひょこっと会社に伺って、あやしいなあとは思えても、おかしいとは断言できないわけで、これが「おかしい」と断言できるためには相当に時間的な変化まで読み取る必要がありそうです。昨年末に公表されたゲオ社の社外調査委員会報告書などを読んでも、「おかしい」と声を上げることができるのは、社内力学が機能するなかで、いろんな経営判断に関する対立構造が生じたためであり、結局は役職員の「並々ならぬ欲望」に起因するところではないか、と感じました。外からみた「あやしい」を中からの「おかしい」にどう結び付けることができるか、このあたりはきれいごとでは済まない、不正の早期発見のための重要な論点だと思います。

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コメント

日本監査役協会のセミナーで当ブログのことを知り、いつも拝読しております。監査役にとって人事(ひとごと)ではないような事件が頻発したこの一年でしたが、3月のご講演も楽しみにしております。

投稿: 一燈 | 2012年1月25日 (水) 12時00分

感想で失礼します。
いわゆる不正会計の事案は、大きなものから小さなものまでひっくるめると以下のように大別されるのでないでしょうか。
(1)架空売上、押し込み売上などいわゆる個人の予算必達を動機とするもので、担当者単独でも可能なもの。この場合は、あまり詳しい会計知識は不要なので、罪の意識がないことが多い。
(2)売上・費用の前倒し計上、循環取引など、部門業績にお化粧するため部門ぐるみで実行されるもの。これはある程度の会計知識の素養が必要とされるので、会計的によろしくないことをしているくらいの意識はある。
(3)損失隠し・飛ばしのような、企業業績に大きな影響を与えるため企業ぐるみ(または一部の経営層)で実行されるもの。これには高度な会計知識が求められるので、違法行為であることを認識している。
明らかな横領・背任は別として、このような不正はいずれも私腹を肥やすものではなく、組織のため、会社のためという大義名分があります(厳密には操作した売上・利益が評価されて昇格・昇給していれば私腹を肥やしていることになります)ので、内部から追及するのは、形式的にも心情的にも難しいものです。予算必達プレッシャーや業績悪化を持ちこたえようとする動機は、いくら内部統制やコンプライアンスの仕組みを強固に構築しても、相殺できない場合もあるようです。よほど経営者が割り切って決断しない限りは、あえて悪い情報を調査したり公開したりするといった組織的な動きにはつながらないでしょうから、勇気をもって内部から声をあげても、黙殺されるか、後で不本意な処遇をされるおそれさえあります。ここに内部からの「おかしい」という声の限界があるような気がします。
従って、外圧がなければ(直接の外圧でなくても、不正が続いて3ストライクアウトのようにこれ以上隠し切れないような場合もあるかもしれません)、不正が明るみなることは難しいでしょう。かたや、それなりに巧妙に不正をしていれば、外からの「あやしい」の声も、利害関係があるため時間もコストもかけて調べる必要がある人か、時間も手間も十分にかけるほどに余裕のあるマニアでないと「あやしい」と気づかないでしょうし、よほどの確証がない限り「おかしい」と追及することもできないでしょう。
となると、まだまだ埋もれたままの不正はあるのかもしれませんね。

投稿: KISE | 2012年1月25日 (水) 19時50分

一燈さん、どうもありがとうございます。2月からまた今年も監査役協会の全国ツアーが始まります。今年もどうぞよろしくお願いします

KISEさん、ご意見ありがとうございます。非常に有益な整理で勉強になりました。たしかに内部から「おかしい」というのも難しい局面があると思いますね。私は「埋もれたままの不正」は会計不正に限っても、非常に多く存在すると確信しています。
ところでHISの子会社の経営トップが会計不正のおそれがあるとして親会社会長から更迭されたようです。「あやしい」というレベルでの対応の素早さです。また、この問題についてもブログで触れてみたいと思っています。

投稿: toshi | 2012年1月26日 (木) 02時19分

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