オリンパス社の責任追及訴訟と「なれ合い裁判」の防止
オリンパス社の取締役責任調査委員会が、新旧併せて20名ほど(十数名ほど?)の取締役の法的責任を認めた、との報道がされておりますが、年末のNHK報道(法人としてのオリンパスの刑事責任追及か?)と併せ考慮しますと、本当にオリンパス社の上場は維持されるのでしょうかね?たしかに債務超過ではありませんし、その影響度が計り知れないものとなるかもしれませんが、「組織ぐるみ」と評価されても仕方ないような状況になっているようにも思われます。当ブログでも予想していたように、結局は廃止にはならない(特設注意市場銘柄に落ち着く)のかもしれませんが、博多ぽんこつラーメンさんがご指摘のように、一般の投資家にもわかるように、廃止とならない理由を取引所は説明しなければならないと思います。
ところで株主代表訴訟の提起寸前(提訴請求期間満了直前)の1月8日、オリンパス社自身が、取締役らに対する責任追及訴訟を提起したそうであります。取締役の責任を会社が追及するわけですから、同社の監査役が会社を代表して訴えを提起したことになります。10日には「取締役責任調査委員会」の報告書が公表されるようで、その内容が注目されるところです。
ただ、監査役や監査法人も株主代表訴訟の対象となっていることから、オリンパス社は(提訴請求期間満了の)1月中旬までに「監査役等責任調査委員会」の報告をまって、今度は監査役や監査法人(あずさおよび新日本)を訴えることになりそうです。この場合には監査役ではなく、代表取締役が会社を代表して提訴することになります。おそらく取締役の方々は「監査役会のお墨付きをもらったから経営判断としては適切だった」と抗弁を主張されることでしょうし、監査役の方々は、巧妙に一部の取締役らによって隠ぺいされた事実および取締役会の監督機能に第一次的責任がある、と抗弁されるでしょうから、ここにも利益相反関係が成り立ちそうであります(ややこしいですね)。あの甲斐中第三者委員会報告書の内容からしますと、監査役や監査法人に法的責任なし、との調査委員会報告書は出ないと思われます。
ダスキン事件では取締役、監査役双方の法的責任が認められましたが、これは株主代表訴訟でしたので、手続き的にはそれほど大きな問題はありませんでしたが、オリンパス事件では、会社自ら役員を訴える、ということになりましたので、今後展開される訴訟が「会社と役員との馴れ合い」裁判になってしまうのではないか?との不安が生じるところです。代表訴訟を提起する予定の株主の方々がいらっしゃいましたので、馴れ合い訴訟を防止するために、原告である会社側に訴訟参加をして共同訴訟形態で裁判が進むかもしれません。また、これまで代表訴訟提起を考えていなかった一般の株主も、この訴訟に参加する機会が与えられなければなりませんので、会社が訴えた裁判の内容をオリンパス社は公告しなければなりません。
しかしながら、オリンパス社の全役員の方々が被告とされているのであれば、裁判を実質的に進めることはできるのでしょうか。訴訟準備のための関係書類は地検や警察、金融庁、取引所などに持っていかれてしまっているかもしれませんが、とりあえず裁判を進めるにあたり、被告とされている役員の方々が証拠書類にアクセスすることはできないのではないかと。また、訴訟代理人の弁護士としても、これまでオリンパス社の顧問をされていた法律事務所ではなく、少なくとも取締役責任調査委員会の委員を務められた弁護士の方々が「横滑り」で代理人に就任するのが適切ではないかと思いますがいかがなものでしょうか(監査役や監査法人の責任追及訴訟についても同様)。いずれにしても、訴訟参加する一般株主の代理人弁護士と共同で責任追及訴訟を追行する、ということになるような気もいたします。ウッドフォード氏は、英国審判所で元役員の方々を訴える、ということで、オリンパス社の上場維持問題と並び、今後の責任追及訴訟の進展が注目されるところであります。
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コメント
上場廃止判断の根拠規定は「(虚偽記載の)影響が重大であると取引所が認めた場合」しかありません。
阻却事由の規定は無いので、「上場廃止による株主への影響」を考慮するのは論理的におかしいですよね。ひとつの本文規定からプラスマイナス双方向の「影響の重大性」を考慮することは、法律条文ではないにしても解釈の限界を越えるように思います。
この規定の実際の解釈運用について、毎日JPの1月8日の記事によれば、『虚偽記載の期間の長短や会社の規模から見た不正経理額の大小、債務超過の有無、不正への組織的なかかわりや株主への影響などを総合的に判断する』のだそうですね。
まずこれだけを元に勝手に評価すると、
虚偽記載の期間は非常に長い(+++)
不正への組織的な関わりについて合理的嫌疑あり(++)
訂正後債務超過ではない(-)
会社の規模からみたら不正額は小さい(-)
(既存)株主への影響(--)
これだけでも+が超過。私の主観が入り過ぎだとしても、いいとこ五分五分ではないでしょうか。
そして、そもそも根拠規定の直接の趣旨である「不正による証券市場への影響」を考慮しないのはおかしいので、
(一般)投資家・証券市場への影響(+++)
さらに、規模に応じた相対額のまえに、絶対値を第一に考慮しないとおかしいので、
不正の額が巨額(++)
規定の素直な解釈をとっても、また、総合評価するにしても、結論は上場廃止しかありません。
投稿: JFK | 2012年1月11日 (水) 00時20分
東証自主規制法人が判断するわけですが、「上場廃止問題について突っ込んだ議論が行われた形跡は今のところない。また、商法学者などの専門家で構成する諮問会議も存在するが、それが招集された気配もない。」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31533)
このような状況にもかかわらず、メディアが前のめりに「上場維持」といっせいに報じるのも問題ではないでしょうか。
投稿: 迷える会計士 | 2012年1月11日 (水) 13時04分
JFKさん、迷える会計士さん、ご意見ありがとうございます。JFKさんのような分析的な解説をみたことはありませんでした。いままでの傾向として、こういった分析はJFKさんの真骨頂ですね。おそらくこういった手法のほうが一般人としては議論がしやすいように思います。
「上場維持決定」となったときの、世間の反論が(今から)とても怖い気がしております。
投稿: toshi | 2012年1月12日 (木) 01時26分
追加の疑問が沸きましたので、先生ほかご教示いただけますと幸いです。
一連の上場廃止回避への動きとして、東証にとっては、債務超過ではないことが一番のファクター(≒言い訳)となっているように見えます。
では、この「債務超過ではない状態」は、いつの時点を指すのでしょうか?
①簿外へ飛ばしたとき
②飛ばしたのち不正が判明するまでの期間
③判明した時点(過年度訂正した時点)
理想的には①~③の通時的にクリアしていれば問題ないのでしょうが、
最低限は③でクリアしていれば可と言っているかに思えます(東証として)。
例えば、①で債務超過であったとしても、
②の間でそれ秘匿したままで増資で解消、
③の時点でも解消済みの状態を維持していた場合、
これでよしとするのでしょうか。
更に言えば、②の解消が本業回復によった場合は・・・。
判明した時点により結果が異なるのも不可思議なことですし。
投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2012年1月12日 (木) 01時28分
先生ありがとうございます。総合判断といいながら、本来考慮すべきでない事項を過大に考慮し、考慮すべき事項を過小に考慮する愚を犯していないかどうか、要素を列挙していけば一目瞭然です。マスコミ等においても厳しく論評されるべきかと思います。
もっとも、他の方のご意見も拝見しておりますと、私が上げたような筋論は本題ではなく、「オリンパスという優良企業を上場廃止にすることによる日本経済の損失」「証券市場の損失」的なものが事実上唯一のポイントなのでしょうね。取引所ルールからの乖離が甚だしいですが、気持ちはわからないではないです。
それも含めてどんぶり勘定したいならば、上場廃止基準の一般条項を「上場廃止が相当であると当取引所が認めた場合」と改定すればよいと思います。今先行報道報されているような上場維持判断は、このような条項からしか導出できないでしょう。
ともかく、もっぱら廃止か維持かの風評によってのみ株価が動いているこの現状は、マネーゲームとインサイダーの温床ですね。これこそが影響の重大性の証左だと思いませんか?
債務超過についてですが、債務超過自体、独立の上場廃止基準ですので、不正当時においても発覚・訂正後においても債務超過でないという事実関係でないと阻却要素として考慮されないと私は思います。
投稿: JFK | 2012年1月13日 (金) 01時02分