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2012年2月28日 (火)

AIJ投資顧問にマルコポロスは現れたのだろうか?

AIJ投資顧問による年金消失事件について、「日本版マドフ事件」などと報じているマスコミさんの記事を読みますと、ついついマルコポロス氏のことを思い出します。マルコポロス氏は、元ナスダック代表であるバーナードマドフ氏のポンジ・スキーム(ねずみ講)を用いた巨額投資詐欺事件について、事件発覚の前からSECに「あれは怪しいから調査せよ」と警告を言い続けていた方であり、CFE(公認不正検査士)の資格保有者です。事件発覚後は米国議会にも証人として呼ばれ、SECに捜査を求める警告を発していた経緯について詳細に語っておられます。

おもしろいのがマルコポロス氏の著書「誰も聞き入れなかった:実際にあった怖い投資の話」にあるエピソードであり、その抜粋はこちらからお読みになれます(タビスランドHPより)。マドフの投資手法が怪しい・・・ということを多くの人が知っていながら、だれもそれを口に出さなかった。では、なぜマルコポロスが口に出して「怪しい」と公言していたか・・というと、それは上司から「お前もマドフのような運用実績を出せ!」とマドフと比較されならが厳しく命令されていたからだそうです。つまり自己保身(自己防衛)のために「マドフはぜったいイカサマ」というのを証明してみせねばならず、そのためにSECにも警告を発信していた、とのこと。つまり、自分の人生がかかっていたからこそ言い出せたのであり、そこまで追いつめられないと「おかしい」と口に出すことはむずかしいということなのですね

そのマルコポロス氏は、ウォールストリートには「マドフは怪しい」と知っていながら、口に出すことをしない人が多く存在することが「最大の驚き」だったようです。なぜ口に出さないかといいますと、怪しいかもしれないが、マドフの投資によって手数料が入ってくるなら、それでもいい・・・と皆さんが思っていたから、だそうです。また、プロのファンドマネージャーたちでも、普通ならばデューデリを求めて断られた場合、「じゃあ、さよなら」となるわけですが、そのあまりにも美しい投資実績に目がくらんでイギリスのオイルマネーを集めるファンドマネージャーすら数億ドルを預けていた、とのこと。二人しか会計士がいない事務所が帳簿をチェックしている事実には「見てみないふりをして」、その実績に賭けていた、というのが実際のところだったようです。つまりいくら開示規制を強化したとしても、またいくら投資家の能力が高くなったとしても、行政の監督責任は免れ、かつ投資家の自己責任は問えるけれども、だまされる人(だまされたい人?)はなくならない、というのが真実ではないでしょうか

いろいろなブログでAIJ投資顧問の年金消失問題が話題になっていますが、「私は以前から、この業者の手法は怪しいと思っていた。なぜなら」的な書きぶりが目立ちます。しかし、怪しいと思っていたことと、実際に怪しいと口に出すこととは雲泥の差です。たしかに2009年に格付情報センターが警告を出していた、ということのようですが、マルコポロスがSECから無視されたようなものだったのかもしれません。マルコポロス氏ですら、お尻に火がつかなければ口に出すことはできなかったそうで、これだけ2ちゃんねるやヤフー掲示板を初め、匿名による意見広報の機会があるにしても、やはり「あそこは怪しい」と公言することで不正を早期に発見することは本当にむずかしいと痛感します。いや、早期に発見した人ほど、(本来ならば一目散に撤退するのが筋かもしれませんが)AIJの運用の失敗によって大儲けをしているのかもしれません。これからの捜査の行方を注目したいと思います。

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2012年2月27日 (月)

社外取締役導入の本来的意義を考える(SONY、nissenなど)

日経ヴェリタス最新号(2月25日号)59ページに、会社法改正に関連する記事「議論再開 企業側との妥協点は」が掲載されております。当該記事で、2月22日から法制審議会の議論が再開されたことを知りました(「再開」というのは、昨年12月に改正法の中間試案が出て、各界からの意見がとりまとめられ、これを参考に最後の詰めに入ったと理解しております)。再三申し上げますとおり、社外取締役導入の論議は昨今の社会情勢を反映して「企業不祥事防止」という点で語られることが多く、民主党や自民党のWTの提言趣旨も、そのあたりから「上場会社への導入義務付け(会社法改正もしくは取引所ルールによる)」の方向性を導いています。

ただ、社外取締役導入の本来的意義は(もちろんコンプライアンス経営の重要性を語ることも大切ですが)、企業価値の向上を目的とするところにあるわけでして、まさに本日(2月25日)の日経新聞で報じられておりますソニーの社長交代劇などが典型的な事例ではないかと思います。ストリンガー氏は2013年を目途に、段階的に新社長への権限移譲を計画していたそうですが、2月1日の非公式の社外取締役会議において「4月1日をもってすべての最高権限を新社長に移す」ことを決定、直後に結論をストリンガー氏に伝えると「全く抵抗せず、社外取締役の意見を受け入れた」とのこと。4期連続赤字のなかで、ストリンガー氏の構想は株主に説明がつかない、との意見が社外取締役の間では強かったそうです。まさに株主への説明責任を全うするという社外取締役の本来的意義が表面化した例ではないかと思われます。

なお、ソニーの取締役会議長である小林氏は、「15名中13名が社外取締役」というのは、少し多すぎるのではないか、(社内の経営情報が足りないので)もう少し社内取締役の比率を高めたほうがよいのでは、という意見を述べておられます。たしか2年ほど前に、ソニーでは6社以上の社外取締役を掛け持ちされている3名の候補者に一部の議決権行使助言会社から選任に反対意見が出されましたので、ご高名な方が多く、経営情報を収集する時間的余裕がないほどお忙しいのかも。そのあたりも少し問題なのかもしれません。ただ、ここまで本来的意義を実現できるのは、社外取締役が大半を占める取締役会が存在するからであり、今回の会社法改正の目指すところが実現したとしても、他社で同様の状況になることはないでしょうね。

また、社外取締役が半数を占めるカタログ販売大手のニッセン社(ニッセンホールディングス社)ですが、このところUCC社と資本・業務提携を発表し、同業のシャディ社をUCC社から買収、一気に売上2000億企業となるそうであります(もちろん市場はこれを好感しております)。「どんなに良い苗を見つけても、土壌が悪ければ育たない」という前社長さんのシンポでの発言が印象的でしたが、機動的な経営に社外取締役の方々がどのように関与されたのか、また伺ってみたいところです。たしかニッセン社も着物販売事業、金融事業の低迷で業績が落ち込んでいた時期に、過半数を社外取締役で構成するガバナンスへの転換を図り(現在は半数ちょうど)、経営判断のスピードアップ、カタログ販売への資源集中等の効率経営にまい進したものであり、業績を向上させてきた好例ではないかと。社外取締役がちょうど半分・・・という取締役会の構成は、本来的な意義を実現するうえで、かなりバランスが良いのではないでしょうか。もちろん、社外取締役さん方に情報を提供する等、社内の人的資源が必要になるだろうな・・・といった感覚は否めませんが。

ところで、ニッセン社は資本・業務提携の話題が先行しておりますが、次回の株主総会(12月決算 第42回定時株主総会)にて一部定款変更に関する議案が上程され、取締役会の議長は「社外取締役の中から選出する」ことになるそうです。先のソニー社の場合も取締役会議長は社外取締役の方ですが、社外取締役が議長として仕切るというのは、おそらく取締役会の雰囲気もかなり変わるものと思われます(とくに複数の社外取締役が存在する会社の場合)。雰囲気だけでなく、執行部の方々にもかなり影響が大きいのではないでしょうか。しかしこういった制度を充実させるためには、新たな社外取締役候補を探し出すことも頭の痛い作業なのでしょうね。在任期間が長くなってしまいますと、もはや「社外」の良さがなくなってしまいそうですし。。。この点もまた、ニッセン社における取締役会の雰囲気がどう変わるのか、ぜひとも日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの勉強会等でお聴きしてみたいところであります。

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2012年2月23日 (木)

東京でのセミナーのお知らせ(お勧めセミナー厳選)

(2月23日 午後1時 追記あります-ご注意)

昨日のエントリーにはメールやコメントなど、たくさん頂戴いたしまして、どうもありがとうございました<m(__)m>。監査法人と監査役の関係など、相当にマニアックな話題なのであまりお読みいただけないかと思っていたのですが、かなり早朝から脊髄反射的なご意見をメールでも頂戴いたしました。「監査法人vs監査役」(注 決して「対決」という意味ではなく、連携と協調の在り方を探る・・・という意味です)という新境地をブログで開拓するかもしれませんので(^^、またよろしければ、いろいろと参考となるご意見をいただけますとありがたいです。けっこうグチっぽいコメントでも大歓迎です!

さて本日はお知らせでございます。3月は、東京にて数社の会社様よりプライベートセミナーにお招きいただいておりますが、当ブログをご覧の方々にもお申込みいただける(東京での)セミナーがいくつかございます。3月21日は東証ホールにて、「企業価値を守る~不祥事の予防と対策~」と題する東証(自主規制法人 上場管理部)主催のセミナーで講演をさせていただきます。金融庁の佐々木さん、デロイトトーマツの久保惠一大先生とご一緒させていたきます。東証さんからお招きいただいたからといって、東証さんに都合の良いことをお話するかといえば、まったくそのようなことはありません(笑)。たとえ「ドン引き」になっても、いつもの調子で良心に従って、思うところをお話させていただきます。

(追記)Kazuさんもコメントでお書きになっておりますとおり、東証のHPで確認したところ、23日現在、すでに「申し込み締め切り」となってしまいました。

もうひとつは、3月13日に開催されますBDTI(会社役員育成機構)主催のセミナー「経営戦略にひそむ不祥事の芽-最小の労力で最大のリスク管理を行うための視点」でございます。このテーマは本業であります不正調査の経験に基づきまして、どうしても発生してしまう一次不祥事に社内で早めに対処しましょう、という現実的な課題を検討するものであります。本当は「いかにして不祥事を防止すべきか」というのがウケの良いセミナーなのですが、せっかく2時間半ほどお話させていただくのであれば、「二次不祥事につながらない有事対応」を語るほうがおもしろいかと。場所は赤坂ビズタワー30階のトムソン・ロイター。ここは英語が飛び交っており、それだけで私には「アウェー」の雰囲気を漂わせるところでありますが、前回の講演同様、頑張りたいと思います。

さて、最後になりますが、本日もっともお勧めのセミナーをご紹介いたします。実は、私のセミナーの前日であります3月12日に、BDTI主催のセミナー「民主党、資本市場・企業統治改革ワーキングチームの提言から日本企業のガバナンスを考える」が開催されます。詳細は上のリンクからご覧いただきたいのですが、ちょっとビックリするくらいの豪華メンバーですよね。。。よくまぁ、(立ち位置の異なる?)ビックネームが揃ったなあ・・・と。司会者(大杉謙一先生)の人徳かなぁ、それともBenes氏の人徳?でしょうか。いずれにしましても、会社法改正事情の最先端のお話が聴けるかもしれませんね。さきほどお聞きしましたら、12日の講演&シンポのほうも、まだ参加申し込み受付中とのことです。おそらく東証ほどの広報力がBDTIさんにはないのでは?と思いましたので、(老婆心ながら)いちおうフォーラム参加者のひとりとして広報させていただく次第です。12日のセミナーにご参加いただいた皆様には、もう13日には来ていただけないと思いますが(^^;;、私も聴講してみたいと思うイチオシの企画なので、どうかご参加してみてはいかがでしょうか。

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2012年2月22日 (水)

不適切会計事件発覚で薄氷を踏む思いの監査役の方々。。。

(2月22日 午前 追記あります)

ただいま日本監査役協会セミナーの全国ツアーまっただ中でありまして、昨日(月曜日)は名古屋でお話をさせていただきました。講演終了後、中部地区の協会担当の方が「昔はもっと監査役さんにとって『のどかな時代』でしたよ。最近はホント、監査役さんもタイヘンな時代になってきましたよね」とのつぶやき・・・・(本年もお世話になりました<m(__)m>)。いや、私もそう思います。「閑散役」などと揶揄される時代はもう終わったのかなぁと。

昨日、名古屋から東京に移動しまして、毎月楽しみにしている某研究会に参加いたしました。その研究会で、昨年11月に開示されましたインネクスト社の架空循環取引に関する第三者委員会報告書が取り上げられましたので、結構長い報告書ではありますが、ざっと目を通しました。当時の代表取締役の方が一部役員を巻き込んで多額の架空売り上げを計上している点や、親会社からの強いプレッシャーが動機となるなど、かつてのアイ・エックス・アイ社の架空循環取引事例にとても似ております。同社の監査役さん方も、おかしいのでは?と感じておられたようで、売掛金回収が進まない点を代表者にヒアリングしたり、監査役会で独立して滞留債権の管理をされておられたそうです。でも、在庫チェック等においても、経営者側の「にせもの商品」にだまされてしまい、この第三者委員会も「責任を問うのは酷かもしれないが、道義的責任はある」と結論付けておられます。

オリンパス事件や大王製紙事件だけでなく、このインネクスト社の報告書、つい最近(2月17日)にリリースされた共同PR社の報告書、そしてゲオ社の報告書もそうですが、いずれも経営トップが関与する重大な不正会計事件について、「おかしいな」と監査役が感じてはいるのですが、経営トップから「それなりの理由」を述べられると、それで納得してしまって、それ以上の非定例の深度ある監査までは踏み込まない。もし、そこで踏み込んでいたら、不正は早期に発見され、過年度の決算訂正額も変わっていたはずで、むしろ自浄能力が発揮される事例になったのではないか、とも思われます。

最近のこういった不適切会計事例をみますと、監査役さん方が「青天の霹靂」で会計不正の発覚に至る、というものは少なく、やはり不正の兆候が監査役さんの目の前にその姿を現しているケースが多いことに気づきます。先のインネクスト社の事例でも、証券取引等監視委員会が調査に訪れたとき、「ああ、やっぱり!」と悔やんだ監査役さんもおられたのかもしれません。どの事例も、明らかに監査役さんの法的責任あり、と認めたものはありませんが(オリンパス事件はちょっと横に置いといて)、どの第三者委員会の報告書も、監査役さんの対応について疑問を呈しておられます。正直、私自身の感覚としても「これはちょっとビミョーかも・・・・」と思える事例もあるわけでして、ヒヤヒヤされていらっしゃる監査役の方もおられるかも、と推測いたします。

ただ、かくゆう私の推測も、実は「後出しじゃんけん」的発想にとりつかれているところはあります。後で重大な不正会計事件が発生したからこそ、「なんで監査役さんたちは、もう一歩踏み込まなかったのか」とエラそうに言えるわけですが、もし不正の兆候が杞憂に過ぎなかった場合だと「あいつら、細かいことばかり言う連中だな」と、経営執行部に文句を言われ、事後はなかなか重要な情報が監査役さんの耳に入らなくなるのでは・・・との不安にかられるわけでして。そのあたりの不安が、監査役さんの意識の切り替え(平時➔有事)を遅らせてしまうところもあるわけです。監査役さんの「監査見逃し責任」を法的に追及する場合には、このあたりまで考慮したうえで判断する必要があると思います(かなり自己弁護的な感想ではありますが)。

ところで以前、大王製紙社の事例を扱ったときにも申し上げましたが、この「不正の兆候」に接する監査役さんの行動を検証するにあたり、第三者委員会委員の皆様は、監査役会と会計監査人との普段の情報交換会(たとえば報告会等)で、いったい何が話し合われていたのか、あまり気を使っておられないように思いました(おそらく、このあたりを突っ込んで触れているのはオリンパス事件における甲斐中報告書と監査役等責任調査委員会報告書ぐらいではないかと)。監査法人の責任、監査役の責任をそれぞれ別個に検討されているわけですが、最近は監査法人さんの主導によって「情報交換」の場が毎年何回も設定される上場会社も多いわけでして、会計監査上の問題点があれば、それぞれの立場から相談が持ち込まれるのが通常ではないでしょうか。※(追記あり)これは監査法人や監査役の法的責任を判断するうえで、極めて重要なポイントではないかと思うのでありますが、あまり実態が報告書等で示されるケースが少ないようです。

監査見逃し責任については、まだ監査役の皆様への(世間からの)期待ギャップがそれほど大きくないがゆえに「監査役はいったい何をしてきたのだ!」とお叱りを受けることも少ないのかもしれません。しかし、最近の不祥事続発の状況のなかで、監査役さんが自社の異常事態(有事)であることを認識せざるをえない「不正の兆候」とは何か、また問われる場面も増えてくるのではないかと予想されます。ホント、のどかな時代は終わったのかもしれません。。。

(2月22日午前9時25分追記)何名かの現役監査役の方からメールをいただき、当社ではそのような情報交換会はやっていない、こちらから要望しなければ情報交換会は開催されないといったご意見をいただきました。したがいまして、どこでも制度化されている、というわけではないことを付言しておきます。

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2012年2月21日 (火)

会社法改正で生まれる金商法上の「内部統制報告制度」と会社法との接点

ひさしぶりの内部統制ネタであります。このネタでブログが盛り上がっていた時代がなつかしい。。。

昨年1月から今年2月15日までの間に、「内部統制は有効である」との内部統制報告書を過去に提出していながら、「有効ではない」と評価結果を訂正する「訂正内部統制報告書」を提出した上場会社は13社に上ります。そのなかにはオリンパス、大王製紙、ゲオなども含まれるわけですが、結局のところ当該13社は、会社の不祥事が発生したことで「全社的内部統制に重要な欠陥が認められ」ることを理由としています。期末に重要な欠陥が残ってしまったため、今年度は内部統制は有効とはいえない、とする会社や内部統制を評価できる体制が存在しないために意見を表明できない、とする会社が上記期間内に25社ありますが、その中には決算財務プロセスに問題あり、業務プロセスに重大な不備ありなど、とくに大きな不祥事が発生してはいないが、そのおそれがあるとして「リスク開示型」の意見表明の事案も結構あります。

つまり、内部統制報告制度の本来の趣旨(将来における財務報告の信頼性に関するリスクを投資家に開示する)を実現した報告書を提出している会社もあるわけですが、「全社的内部統制に問題あり」との理由によるリスク開示型評価は一切存在せず、不祥事が発生した後に、実は全社的内部統制に問題があったとする、いわゆる「結果開示型」ばかりであります。たしかに経営者自身が(不祥事も発覚していないにもかかわらず)「当社の統制環境に問題がありますよ」とリスクを開示するというのは現実離れしておりますし、会計監査人が「ここの会社はガバナンスに問題あり」として意見表明することもなかなか勇気のいることと思われますので、この結果はやむをえないところかもしれません。

しかし、今後会社法が改正され、監査役による内部統制の(基本方針の整備状況だけでなく)運用状況への監査(審査?)が実践されますと、全社的内部統制に関する「リスク開示型」の有効性評価も出てくるかもしれません。会社法上の内部統制に対する監査、ということであっても、おそらく内部統制監査人(会計監査人)は、監査役監査の結果(運用状況チェックの結果)を今後は援用して監査意見を形成することが考えられますし、内部統制の運用状況をチェックする監査役の姿それ自体が、「統制環境」への監査のポイントにもなるからであります。もちろん監査役さん方の頑張り次第ではありますが、金商法上の内部統制報告制度と会社法上の内部統制評価に関する接点がここに生まれ、財務報告の信頼性に関連する全社的内部統制上のリスクが開示される事例が出てくる可能性があるように思われます。

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2012年2月20日 (月)

「社外監査役」が期待する「社外取締役」の姿とは?

民主党の資本市場・企業統治改革ワーキングチーム(WT)が、3月中旬にも上場会社について社外取締役制度を義務付ける提言を公表する方針であることが週末のニュースで報じられておりました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。社外取締役制度の義務付け問題は、各種団体からの反対意見も根強く、また独立性の欠如した社外取締役が関与した取締役会決議の有効性の議論なども尽きないところですので、未だ流動的かとは思います。ただ、今後の会社法制部会の予定回数もそれほど多くないように聞いておりますので、いよいよ大詰めの議論がなされる時期に差し掛かってきたのではないでしょうか。本日(20日未明)の日経ニュースでも、人材派遣会社のレイス社が、登録者の中から約400名を選抜して、いよいよ社外取締役の紹介事業を本格化することが報じられております。

上の民主党のWTもオリンパス事件や大王製紙事件を背景に、ガバナンス改革が急務として審議が重ねられたわけですが、それらの会社では特殊な事情があったために不祥事が発生したものであり、上場企業のガバナンス改革を強制する要因にはなりえない、との反論もなされるところです。この反論は一面において正しいと考えます。しかし、「巨額損失飛ばし」や「子会社資金の不正流用」といった一次不祥事はたしかに特殊事情かもしれませんが、取締役会の機能不全や監査役による監査見逃し、といった二次不祥事は「悪い意味でのサラリーマン根性」(オリンパス事件の第三者委員会報告書)といった言葉で形容されたように、どこの企業でも発生しうる問題であることは間違いないわけで、ここを区別して検討する必要があろうかと思われます(この点はまた別の機会に論じたいと思います)。

ところで最近の議論は、2011年後半に発覚した事件の影響からか、「不祥事防止」「コンプライアンス」という側面からの社外役員導入論が根強いものに感じます。しかし私のような現役の社外監査役という立場からみた場合、かりに当社に社外取締役さんが就任するということであれば、どんなところに期待をするでしょうか。ホンネで言えば、期待は単純に不祥事防止という点だけにはとどまらないものと考えています。いやむしろ、それだけの役割で社外取締役制度が強制導入されるというのは、実践面において社外監査役との役割分担も悩むところですし、ちょっと導入する会社が「後ろ向き」になるのも当然かな・・・と。

やはり社外取締役も「取締役」である以上、会社の業績に結果を出してもらわないと困るわけでして、機関投資家や一般株主を含め、投資家に対して有益な仕事をしてもらわないとマズいと思います。しかし事業とは無関係のところからお越しになるわけですから、営業や商品企画やマーケティング、マネジメントにおける良いアイデアを出してもらうことは期待しません。そうではなくて、たとえ業績が良くて「利益」が出たとしても、どういったプロセスで利益が出たのか、会社として無理をして利益を出したのか、たとえ「損失」が出たとしても、不透明な事業活動によって出たのか、それとも長期的な展望に立って健全な投資がされたのか、そのあたりをチェックしていただければ・・・・と期待をするわけであります。いわば利益、損失発生のプロセスの正当性を担保する、そして取締役会における議決権の行使をもって株主に社外取締役の意思を表明する、といったところが大きな意義をもつものと考えています。つまり事業の永続性という視点から損益を見ていただきたいのです。

監査役は取締役の職務執行の適法性をチェックするわけですが、任務として「利益」や「損失」の質まで言及するものではありませんし、その正当性を議決権行使によって担保するものでもありません。どなたかがコメント欄で述べておられるように、監査役は経営判断に疑問を抱いても、何も言わずに辞任してしまえば済んでしまうところがあるわけでして(もちろん、私はそれで良いとは思いませんが・・・)それ以上に株主・投資家へ説明責任を尽くすことも現実にはほとんどありません。しかし社外取締役さんには積極的に会社の業績向上に貢献していただきたいわけで、その貢献の仕方というのが、本当に当該会社は健全な経営によって利益を出したのか、つまり持続的な成長が見込める会社なのかどうかを見極めていただくことで貢献していただきたい、と思うのであります。また損失が出たときにも、その損失は長期的な視点からみてどうなのか、先細りの兆候なのか、次のステップへの投資なのか、そのあたりを取締役会における議決権行使によって説明責任を果たしていただくことに期待をいたします。このように考えるのであれば、社外監査役の役割と重複することもないでしょうし、また監査役と社外取締役との連係もうまくいくように思うところです。

委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会を想定したり、取締役の過半数を社外取締役で占める、といった大きなガバナンス改革を念頭に置くならば、もう少し積極的な役割も期待できるところだとは思いますが、いまの世間における社外取締役義務つけの議論を踏まえますと、このくらいの役割を期待をすることのほうが現実的ではないかと。ホント、会社の業績向上に寄与する制度導入でないと困るわけでして。。。

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2012年2月17日 (金)

オリンパス事件7人逮捕と「検察の正義」

本日(2月16日)、オリンパス巨額損失飛ばし事件について、元経営者、指南役等合計7名が逮捕され、いよいよ事件が「事後規制」の領域(民事責任、刑事責任、課徴金等の制裁的意味を持つ行政処分の領域)に入ってきました。

ほかのところでも少し述べましたが、この「7名」という逮捕者の数を予想されていた方はいらっしゃるのでしょうか?マスコミや多くの方のブログを含め、N氏、Y氏が元経営陣とともに身柄拘束される、という予測を聞いたことがありません(もし、事前に7名逮捕、という予測を立てていた方がいらっしゃいましたら、元ネタを含めてお教えいただければ幸いです)。どこで伺っても、みなさん「まあ、刑事問題は首謀した3名までであり、組織ぐるみではないということで上場は維持されて、あとは銀行主導で幕引きでは」といったものでした。昨年12月に公表された訂正内部統制報告書においても、わずかA4一枚に「監査役会、取締役会が機能していなかったため、全社的内部統制に重要な欠陥があった」で終わり。とくに問題の核心に迫るような点は見当たりませんでした。

先週から、日本監査役協会講師の全国ツアーが始まりまして、関西の監査役の皆様の前では申し上げましたが、これからオリンパス事件は大きく動き出しますし、これまで判明しなかった事実がいよいよ浮上してくる、と予想しております。なぜなら、これまでは事前規制の世界であり、「予定調和」的なストーリーが「大きな力」によって展開されてきたのでありますが、これから始まる事後規制の世界では、その「大きな力」によっても抗いがたい別の哲学が機能するからであります。

そのひとつが検察権力であり、もうひとつが司法権力(株主代表訴訟)だと認識しております。言うまでもなく、検察がもつ「正義の哲学」は、およそ他の権力によって押しつぶされることはありません。、ご自身方特有の正義思想に基づいて動くわけでして、このたびも証券取引等監視委員会や警視庁との合同ではありますが、「共謀共同正犯」理論を駆使して、「東理ホールディングス元役員無罪事件の借りを返す」執念で動いているのではないか、その表れが本日の7名逮捕ではないか、と推測いたします。

また、事後規制の典型である株主代表訴訟においても、主導権を握るのは少数株主(オンブズマン?)であり、裁判官であります。予定調和の全くない世界であり、「まあ、これくらいで和解して一件落着」といった大人の対応が許容されるものではありません。裁判において、どのような資料や証言が飛び出してくるのか、まだまだこれからでありますが、関係者にとっては不安な毎日が続くものと思われます。

本日、英国においてウッドフォード元社長の記者会見があり、「歴史的な日になったが、この事件にはまだまだ解明できていないところがある」と述べておられました。しかし、私からするならば、このウッドフォード氏がなぜ25人抜きで伝統あるオリンパス社のCEOとなったのか、これが一番解明されるべき問題であり、これまで第三者委員会報告書でも、取締役責任調査委員会報告書でも、そしてウッドフォード氏ご自身の口からも明らかにされておりません。「この会社は変わらねばならない。だからこそ欧州法人の代表である君にCEOになってもらいたい」とK氏から指名を受けた・・・・・・・、という理由だけでは誰も納得できないはずです。

こういった私個人の疑問も含めて、今後の事後規制の世界において、オリンパス事件の闇の部分が解明されていくことを切に希望いたします。

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2012年2月15日 (水)

関経連後援・CSRセミナー募集締め切りのお知らせ(お礼とお詫び)

平素は当ブログを閲覧いただき、ありがとうございます。

さて、一昨日のエントリーにて日本CSR普及協会主催・関西経済連合会後援にかかるCSRセミナー「企業不祥事の実務対応」のご案内を差し上げましたところ、一日で大阪弁護士会館2階ホールの収容人数に達してしまいましたので、誠に申し訳ございませんが、参加のお申し込みを締め切らせていただくことになりました(汗)。

皆様方のご関心の高さにお応えできますよう、十分に準備をして、当日のセミナーを開催したいと思います。たくさんのお申し込みありがとうございました<m(__)m>。

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「わけあり監査法人」あぶり出し計画?

今週号(205号)の日経ヴェリタス47頁に、「企業会計の信頼回復へ監査法人を監査 不良会計士リスト化 離合集散を監視」なる記事が掲載されております。もう記事の見出しを読んだだけで、どなたが登場されるのか確実に予想がつくわけでして、あの「LEON風ちょい○オヤジ」こと金融庁審議官兼PCAAOB事務局長の某S氏のインタビュー記事。今年は監査法人の「お目付け役」としてお忙しい毎日を送っておられることと存じます。

監査役が監査法人の仕事ぶりをきちんとチェックできていない、株主にももっとこの点について関心をもっていただきたい、株主総会などで投資家は「どのように監査法人を評価しているのか」と監査役にもっと質問してほしい、と上記誌上でS氏が述べておられる点は全く同感でございます。当ブログでも、オリンパスネタ、大王製紙ネタにおきまして何度も触れてきましたし、これだけ監査役と会計監査人の連係・協調が会計士協会や監査役協会から力説されているにもかかわらず、世間ではそれほど「協働関係」が周知されているようには思えません。2月8日の朝日新聞朝刊にて、日本監査役協会の太田会長が「私の視点」で述べておられたように、これからの監査役には投資家への発信力(説明責任を尽くすこと)が必要であります。監査役が自社を監査する監査法人をどう評価しているのか、という点はまさに監査役の発信力を発揮するにふさわしい場面であり、これは決して監査役の「権限強化」の問題ではなく、既存の監査役の「権限を行使する環境作り」の問題だと認識しております。

さて、上記ヴェリタス誌におけるS氏のインタビューでは、やはり監査法人問題がとりあげられており、大手監査法人でも、監査法人統合の歴史からみて、地域によってはかなり実力の差があることにまで言及されております。また監査法人が頻繁に代わる上場会社を担当する監査法人には大いに問題があるとのこと。いわば「不良会計士」を開示情報からあぶり出す、ということのようであります。

そういえば上記記事を読み、昨年、大阪弁護士会にS氏をお招きしたときのお話を思い出しました。昨年は岡山の林原社の倒産事件を契機として、会社法上の非上場大会社(法律上は会計監査人の設置義務があります)の多くに、会計監査人が設置されていない(つまり違法状態にあること)が問題視されました。私もZAITEN2011年9月号でこの問題をとりあげ、「日本公認会計士協会は、500社以上の(会計監査人が設置されていない)非上場大会社に監査人を設置するよう各方面に要望しているが、そんな違法状態を放置しているような会社の監査など、危なっかしくて監査を引き受ける公認会計士さんはいないのではないか?」と疑問を呈しました(いわば自分で自分の首を絞めることになりはしないか、と)。たとえば金融庁としては、銀行検査権限を行使して(取引先の信用リスクの管理態勢のチェックを通じて)非上場大会社のガバナンス強化策を敢行しうるわけですから、非上場大会社も会計監査人の設置が実質的に強制されることになり、私のような疑問も現実化することになります。

S氏は私のこの疑問を受けて、会場の弁護士に向けてご自身の見解を述べられました。

そんな状態になってもいいじゃないですか。危なっかしくて普通の会計士さんは監査を受けないということでしょ?そしたらどうなりますか?そういった「わけあり大会社」は、監査を引き受けてくれる会計士さんを必死に探しますよね。そしたら、またそれを(喜んで)引き受けてくれる会計士さんのリストが作れるじゃないですか。銀行の信用リスク管理態勢が高まる、非上場大会社のガバナンスが向上する、そして不良会計士があぶりだされる、一石三鳥とはまさにこのこと!

なるほど・・・・・・、私とちがって、考え方が非常にポジティブ(^^;(どうしてこんなにポジティブになれるのかな?・・・)。「不良会計士」のあぶり出しについて、さすが監督官庁、執念を感じるお話でありました。非上場大会社の問題ではありますが、最終的には、これも証券市場の健全性確保に向けた施策のひとつ、ということになるのでしょうね。私も「あのビジネス法務の部屋とかいうブログの管理人弁護士は怪しい!」とS氏に名指しで指摘されないよう、これからも精進して参りたい、と思います(^^;

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2012年2月14日 (火)

関経連後援CSRセミナー「企業不祥事における実務対応」のご案内

(2月15日追記 下記セミナーの募集は終了いたしました。たくさんのお申し込みありがとうございました。)

本日は関経連会員団体に所属しておられる皆様へのお知らせでございます。日本CSR普及協会近畿支部主催・関西経済連合会後援によります「CSRセミナー・企業不祥事における実務対応」が、来る2月29日(水)午後3時より6時まで大阪弁護士会館2階ホールにて開催されます(参加費は無料)。開催の趣旨は(チラシからの引用ですが)以下のとおりです。

昨年は著名企業の不祥事が続き、企業内部におけるコンプライアンスの難しさを痛感させました。他方、企業不祥事が後を絶たない中、企業不祥事に対する社会の目は、ますます厳しいものとなっています。そこで、企業の社会的責任(CSR)の観点から、企業不祥事を生じさせない体制づくり、企業不祥事が生じた場合の実務対応、再発防止策等について、企業の立場から、又企業不祥事に様々な立場で関与する弁護士の立場から、それぞれ検討を行いたいと思います。

セミナー「企業不祥事の実務対応」のご案内

セミナー第1部は木曽裕弁護士(東京第一弁護士会)による基調講演、そして第2部は「企業不祥事における実務対応」と題するシンポでして、弁護士の上谷氏(兵庫県弁護士会)、木曽氏、米田氏(大阪弁護士会)、そして日本ハム執行役員の宮地氏にご登壇いただき、私がコーディネーターを務める、というものです。弁護士は、いずれも企業の危機対応や不正調査に精通しておられる方ばかりであり、また日本ハムの宮地氏は、2002年の国産牛偽装事件のときには広報責任者として、そして当ブログでもとりあげました2010年の「日本ハム中元商品詰め替え事件」のときには、危機対応の責任者として前面で陣頭指揮を執られた方です。今回のシンポでも、具体的な食品事故発生をモデル事案に、初動対応、社内における事実調査、公表の要否、行政対応、マスコミ対応に分けて、企業自身が社会的責任を尽くすためにいかに行動すべきか、という視点から検討を行う、というものです。

コーディネーター本人が申し上げるのもナンですが、この企画は必見です。本業として企業不祥事対応の実務経験豊富な上谷弁護士、木曽弁護士、米田弁護士からポイントを指摘していただくだけでなく、宮地氏から、「日ハムは具体的にどのように行動したか」を(もちろん社内秘密は無理ですが)お聞きしていきます。また、あの「船場吉兆事件」では記者会見の際、常に「おかみさん」の横におられた米田弁護士に、船場吉兆事件を振り返って「高級料亭の何が問題だったのか?」「どこにマスコミや行政を本気にさせる要因があったのか?」を解説していただきます。さらに米田弁護士は、あの「ダスキン事件」の際、ダスキンの社外監査役として社内調査報告書をまとめあげたにもかかわらず、株主代表訴訟大阪高裁判決では、被告として厳しく法的責任を問われました。10年の時を経て、あのダスキンの取締役会(平成14年)では何が語られたのか、どうして不祥事を公表できなかったのか、ダスキン事件の本当の問題点はどこにあったのか(弁護士および社外監査役としての守秘義務に反しない範囲で)赤裸々に語っていただく予定にしております。

実務家でも意見が分かれるような論点にも、思い切ってツッコミを入れてみたいと思っております。このメンバーとこの企画でおもしろくなければ、その責任はすべてコーディネーターにあるといっても過言ではありません。企業の役員の方にも、また管理部門の方にも、参考になるお話とすべく、打ち合わせを重ねております。現在までのところ弁護士、企業担当者の方併せて130名ほどの申込みがございますが、まだまだお申込みを受け付けております。どうか是非、2月29日は大阪弁護士会館へ足をお運びいただきますよう、お願い申し上げます(上記リンクからお申込みください。なお、セミナー参加費は無料ですが、6時からの懇親会のご参加には別途参加費用がかかりますのでご注意ください)

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2012年2月13日 (月)

「面白い恋人」がおもしろくない?本当の理由・・・

不正競争防止法ネタはあまり得意とするところではございませんが、このところ話題になっているのが「白い恋人」VS「面白い恋人」事件であり、私も大阪人としてとても関心を持っております。皆様ご存じのとおり、「白い恋人」で有名な札幌の石屋製菓さんが、「面白い恋人」を製造販売する吉本興業さん(正確には子会社)に対して商標権侵害で差止請求と損害賠償を求めて札幌地裁に提訴した件でして、本日(2月12日)のフジサンケイビジネスアイの特集記事でも取り上げられております。石屋製菓さんが記者会見された後、いったん新大阪駅のお土産やさんから突如消えておりましたが、その2~3日後には復活、むしろ事件のおかげで売り上げが急上昇中だとか。

真面目に本件を解説するのが「法務ブロガー」としての役割なのかもしれませんが、知的財産権の専門家ではない者としては(あえて)素人目線から、この事件、どうも素朴な疑問が湧いてまいります。そのネーミングやパッケージの雰囲気が似ているかどうか、いわゆる「誤認混同のおそれ」があるのかどうか…という点については、「こんなの誰だって違うってことはわかるのでは」といったご意見がございます(とくに関西方面の方)。また、「面白い恋人」は、これまで「白い恋人」のネーミングを有名にしてきた石屋製菓さんの努力に便乗しているとのご意見に対しては、吉本興業特有のパロディーなんだから「タダ乗り(フリーライド)」といった問題ではない、とのお声も。

私も大阪人として、最初に石屋製菓さんの記者会見をニュースで見たときは、「こんなのシャレなんだから、そんな裁判沙汰にしなくてもいいでしょうに。誰がみたって、パロディだってわかるんだから、誤認混同のおそれなんかないでしょう・・・」といった印象を抱きました。それどころか、社長さんの横で解説をされている石屋製菓の代理人弁護士の方は、たしか2007年の賞味期限改ざん事件の際、外部調査委員会の委員をされ、現在も内部通報の外部窓口を担当されていらっしゃる方だと思いますので、そもそも会社と独立性を維持しなければならないのでは?といった感想を持ちました。

しかし吉本興業の本拠地「大阪ミナミ」を歩いておりますと、海外(とくにアジア)からの観光客がもはや主力の顧客となっているのがわかります。休日の御堂筋となりますと、とくに中国から来られた観光客の方を乗せた大型バスが目立ちます。バスを降りて3時間ほど、たくさんのお土産を買っていかれるわけで、いまや心斎橋商店街もアジア圏からの観光客がどこもお得意様です。だとすると、日本の知財法が想定しているかどうかは詳しくは存じ上げませんが、お土産物の誤認混同のおそれは日本人の視点ではなく、海外から来る観光客の視点で考えなければならないはずです。そうしますと、おそらく「白い恋人」と思って「面白い恋人」を買って帰る観光客の方もけっこういらっしゃるのではないかと。とりわけ大阪だけでなく、最近は「面白い恋人」を東京でも買えるようになったわけですから、これは正直、石屋製菓さんにとっては面白くない現象になっていると思われます。

また「シャレ」や「パロディ」というのも、日本人だからこそ理解できるのであって、外国人観光客にはシャレは通じません。石屋製菓の「白い恋人」が有名なお土産と知っていても、「面白い恋人」の存在は知らないわけで、写真だけで知っている方は「オオ!シロイコイビト!」って感じで本気で「面白い恋人」を買って帰ってしまう人もいらっしゃるのでは?

「誤認混同」とは少し離れますが、もっと深刻なのが、「面白い恋人」が「白い恋人」とは違うものである、と知りつつも、これを「パロディ」と知らない外国人の存在であります。「ええ?日本は知財大国と思っていたけど、これってOKなの?じゃあ、俺たちも真似して日本に輸出したり、自国でマネしちゃってもいいってことだよね?」と勘違いされてしまうおそれもございます。このような事態が想定されるとなりますと、裁判の勝ち負けにかかわらず、とにかく石屋製菓としてのスタンスを世に示す必要があるわけでして、話し合いで解決することよりも、まず裁判・・・という石屋製菓さんの対応も、最近はなんとなく理解できるようになった次第であります。

とくに北海道は観光産業が重要なものであるがゆえに、「白い恋人」ブランドは、石屋製菓さんの社内事情だけではなく、もはや北海道の地域経済の威信をかけてでも守るべきものではないかと(そういえば、現在の石屋製菓さんの社長さんも銀行出身の方ですよね)。石屋製菓さんを取り巻くステークホルダーの利益を守るためだからこそ、外部調査委員会委員だった弁護士の方が会社側の代理人として提訴するに至ったのかもしれません。吉本興業さんとの話し合いによる和解的解決に進むのか、それとも(メッセージ発信のために)徹底して訴訟で闘っていくのか、今後の展開を見守りたいと思います。

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2012年2月 9日 (木)

大王製紙・創業家のしたたかな訴訟戦略

毎度申し上げるところでありますが、以下は私個人の感想であり、邪推の域を出ないものでありまして、大王製紙社の企業価値に関するご判断は皆様個人の責任においてお願いいたします。

2月8日深夜の日経新聞ニュースでは、12日に大王製紙の持分法適用会社のひとつであるエリエールペーバーテック社(以下、EPT社といいます)の臨時株主総会が開催される(裁判所の許可がおりた)ことが報じられております。創業家が同社の取締役全員の解任議案を上程するために開催されるものでして、創業家側代理人によると解任議案が可決されることは確実とのこと。

大王製紙では数多くの子会社、持分法適用会社がありますが、このEPT社は今回の元会長不正貸付事件のカギを握る会社だと思われます。特別調査委員会報告書によると、このEPT社は、約1か月間に10億円ほどの金銭を取締役会の承認を得ずに元会長の個人口座に振り込みをしており、現在も残高が5億円残っております。

しかも、同報告書によると短期間に多額の資金が元会長個人に貸し付けられたことを不審に思った監査法人と監査役が、実際にEPT社に往査に行っておりますが、融資担当者の話もろくに聴取できないままに往査を終えた、とのこと(結局、監査法人と監査役がこの往査によって何を調査できたのかは、報告書に何も記載されておりません)。大王製紙社において、内部通報があり、社長以下経営陣が不正貸付の事実を知るところとなるのは、なんとこの1年後のことであります。

同報告書では、このEPT社に往査に向かいながら、適切な監査がなされなかったことについて、監査法人には問題がある、との意見を述べておりますが、監査役の業務が適切だったかどうかには何ら触れられておりません。私がこの特別調査委員会報告書を初めて読んだときも、「これって、監査法人や監査役が不正の兆候にアクセスしたことにはならないのだろうか」と疑問を抱いたところであります。

ところで、創業家は株主代表訴訟を提起して、不正貸付を行った取締役の責任を追及することを予定している、と報じられているので、おそらくこのEPT社の取締役らが対象とされているものと予想されます(本来、大株主であれば、まず最初にご子息である元会長さんに会社が残金返還するよう求めるのが筋だとも思うのでありますが・・・)。この株主代表訴訟の対象となる取締役の方々は、自分に責任がないとして争うはずです。 

「だって、監査法人さんも、監査役さんも、当社に来て問題がないかどうか調査したけども、とくに指摘されることはありませんでした」

と、具体的な事実を掲げて反論する可能性があります。つまり特別調査委員会報告書には出てこなかったような、大王製紙社の監査役、監査法人の行動が、代表訴訟を仕掛けることによって浮上する可能性が出てくるのではないかと。

つまり大王製紙側としては、関連会社役員を応援しようとすると、自社の監査役は監査法人の監査の問題が浮上することになり、いっぽう監査役や監査法人の責任を回避しようとすると、関連会社役員の責任が認められやすくなるという二律背反の関係が生じるように思われます。今回とくにEPT社は、いったん持分法適用会社となった関連会社を子会社に復活させることに貢献した会社のひとつです(大王製紙社の指示に従って関連会社の株式を大王製紙側に譲渡した会社)。大王製紙側としても、無下に扱うことはできないのではないでしょうか。これは創業家としては、大王製紙側の一番痛い部分をピンポイントで突いてきたものと思われます。非常にしたたかな戦術ではないかと思われるのでありまして、かなり大王製紙側は厳しい局面を迎えるように感じました(それにしても、関連会社の役員さん方が、とても気の毒に思えるのは、私が単に甘いだけなのでしょうか・・・・)

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2012年2月 7日 (火)

監査役は会計監査人の情報をどこまで入手できるのか?

会社法改正に関するネタでございますが、日本公認会計士協会、日本監査役協会とも、会社法改正中間試案に対する意見のなかで、監査役による会計監査人選任権、報酬決定権付与につき、賛成の意見を述べておられます。会計監査人の職務の独立性確保、監査役の権限強化ということで、両協会の意見としては妥当なものと思われます。また、これは昨今の企業不祥事で問題となっております「監査役と会計監査人の連係・協調」を推進するものとしても意義があるものと思われます。

しかし、理念としては賛同するものの、監査役の現実の職務環境に鑑みて、果たして「選任権、報酬決定権」の実効性には疑問が呈されるのではないでしょうか?そもそも選任権にしても、報酬決定権にしても、監査役と会計監査人の対立の構図が予想されなければ絵に描いた餅になってしまいます。「連係と協調」が謳われることは良しとしても、ときには「緊張関係」もあるわけで、その緊張関係が現実化した場合、監査役としては本当に別の監査法人を選任する権利を行使できるのでしょうか。つまり会計監査人選択の自由が監査役に担保されているからこそ、選任権も報酬同意権も活かされるはずです。

たとえば監査人の報酬が高いから他の監査法人に監査を委任したい、監査方針に意見の対立があるため、他の監査法人の監査方針を聞いてみたい、といった気持ちが監査役(会)にあったとしても、現実に監査役会で他の監査法人を探してきて、どこの監査法人がふさわしいのか、決定できるだけの力があるのでしょうか。最近は会計監査人の交代というリリースが開示情報として目にすることが多くなりましたが、現実には経営執行部や総務・財務部門が一生懸命情報を入手して、様々な交渉を重ねることによって変更されているのが実務の現状だと思います。とくに上場会社の場合、会計監査人の空白は許されないわけですから、短時間に監査法人を見つけてくる必要があるわけでして。果たしてその人的・物的資源が監査役に存在するか、といいますとかなりの困難が伴うように思います。しかも会計監査の責任は今後、監査法人と監査役の連帯責任、という流れが強まるなかで、監査人選任の決定権が監査役にあるとなりますと、その選定の根拠も明確にしておかねばならない、ということになり、監査役にとってキビシイ事態も予想されます。

オピニオンショッピングではありませんが、監査法人を自由に選択できるだけの情報を監査役が入手できるのかどうか、その環境が整わなければ、会社法が改正されたとしても、結局はいままでどおり経営執行部が監査法人を選定し、その報酬も実質的に決めてしまって、形だけ監査役が関与する、ということになってしまうような気がしております。現在でも、監査法人の内部統制を監査役が審査する・・・というのが実務ですが、実際にはほとんどが監査法人が作成したペーパーを確認するだけの形骸化したものになっているのではないでしょうか。財務会計的知見を有する社外監査役の存在もこれまで以上に要請されてくるのではないかと。ともかく「会計監査人は監査役が決めたことだから」として、会計監査上の法的責任だけが監査役に厳しくのしかかる・・・・・という風潮だけは避けていただきたい、と思います。

PS 活字フェチ弁護士さんのブログで知りましたが、ISSの議決権行使ポリシー(2月1日施行)が変更され、日本企業に対する議決権行使助言の態度がずいぶんと厳しいものになっておりますね。外国人株主が多い上場会社の社外監査役さんは、ちょっと理解しておいたほうがよろしいのではないかと。

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2012年2月 6日 (月)

創業家との対立で懸念される大王製紙の企業価値

土曜日(2月4日)の日経朝刊にて、大王製紙の関連会社11社が、いったんは持分法適用会社になったものの、再び子会社に復活したことが報じられておりました。昨年の元会長不正貸付事件の際、特別調査委員会は創業家との決別を大王製紙社に要望しておりました。その流れで、元会長、元顧問の方々が大王製紙社および子会社の役員を辞任されたことから、いったんは大王製紙の支配力が薄まったとして子会社➔持分法適用会社へ移行することとなりました。

しかし関連会社の株主構成について、大王製紙本体と創業家ファミリー企業が別々の大株主として存在することからややこしい問題が発生しております。創業家からの独立を目指し、創業家ファミリー企業から株式買取を希望する大王製紙側と創業家(ファミリー企業)との間で買取価格に大きな差が生じたため、ほとんど買取が進展しておらず、業を煮やした大王製紙側は、持分法適用会社どうしの持合い株式を大王側に譲渡させることで大王製紙が単独で過半数を維持する戦略に出たそうです。株式譲渡や譲渡承認に取締役会決議が必要になるでしょうから、持合い双方の会社の意思決定に大王製紙側が強く関与できる組み合わせで整理を行ったものと思います。

大株主として君臨する創業家側は、これから関連会社の役員関係を整理しようと考えていたところ、いきなり先手を打って持ち合い株式の整理に大王側が走ったため、複数の関連会社の株式譲渡に関する取締役会決議の無効確認請求の訴えを各地の裁判所に提起した、とのこと。取締役の選任・解任作業を進めようとしていた時期に審議されたものであることや、創業家の取締役に通知がなかったこと等が理由のようです。創業家側が主張している評価額の5分の1程度の買取価格で株式譲渡が行われたそうですから、紛争になるのも当然かもしれません。しかし残る18社の持分法適用会社については、まだそのような整理が終了していない、ということですから、今後ますます大王側と創業家側との対立が激化するのではないでしょうか。

創業家が本体である大王製紙の株式の過半数を握っておらず、関連会社を複数のファミリー企業で支配する、という複雑な統治形態がとられていることで、こういった問題が発生しているわけですが、関連会社には多数の「大王製紙から派遣された役員」の方々が、現在も存在していることから、この「サラリーマン役員」さん方はたいへんなご苦労ではないかと推察いたします。大王製紙側の指示に従うべきが筋だとは思いますが、創業家の方からも、様々な要求が飛んでくるはずです。俺たちの言うことを聞け、でないと取締役を取り換えるだけでなく、不適切な価格で株式譲渡に応じ会社に損害を与えた、ということで代表訴訟も提起するぞ、ということではないかと。この関連会社役員の皆様は、いったいどちらを向いて仕事をすればよいのか、とてもつらい立場にあるのではないでしょうか。いや、ひょっとすると関連企業の取締役会での意見が対立して、いろいろな権謀術策のなかで決議が成立したり否決されているのではないかと邪推してしまいます。これで果たして企業経営が遂行できるのでしょうか。

また、大王製紙社の子会社、持分法適用会社は、そもそも地方の有力製紙会社を買収してきたところもあり、大王とは関係の薄い役員の方もいらっしゃるはずであります。そのような役員さんも大王製紙と創業家との紛争に巻き込まれる形となるため、おそらく従業員を含め、非常に経営が不安定になる可能性があるかと思います。非常に売り上げ比率の高い関連会社もあり、また大王製紙にとって重要な原材料調達先になっているところもあるようですから、こういった対立が本業に及ぼす影響も無視できないように思います。早期に事態の収拾を図らなければ大王製紙社の企業価値が毀損される不安が生じることになりそうです。オリンパス事件に比べて、最近は少し報道される機会も少なくなった大王製紙社の件ですが、関連会社も巻き込んで、その企業価値の行方が左右されるのはこれから始まる第二幕の結果次第のようであります。

なお、以上は今回の対立構造からみた私個人の感想を述べたものであり、「邪推」がはずれている可能性もございます。どうか株取引は個人責任において行っていただきたいと思います。

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2012年2月 2日 (木)

内部統制を活用した反社排除体制の構築(ミドルクライシスマネジメント)

Midorukura00本日も東証さんでシステム障害があり、現在も復旧していないとか(2月2日午前11時半現在)。先日も、みずほ銀行さんがシステム統合に向けて2500億円の投資を行う旨の報道がありました。企業のシステムリスクへの対応は、本来なら経営マターの問題であるにもかかわらず、痛い目に合うまでは担当者任せ、の典型的なリスクではないかと思います。

前も申し上げましたが、こういった「直面してしまうと経営問題に発展してしまうけど、まあ、うちの会社では大丈夫」と楽観的に考えてしまって、予算措置が遅れていると思われるのがシステムリスク対応のほかに反社会勢力対応かと思います。システム対応は「私にはわからないから」といって経営陣に敬遠されるのですが、反社会勢力対応は「私はちょっと怖いし、立ち回りに失敗したら責任をとらされるし、うちには警察OBの方が総務にいるから」ということで敬遠されます。いずれもリスク評価ができる担当者が非常に少なく、また他の社員もあまり首を突っ込みたくない・・・という点では共通しているかと。

ただ、暴排条例施行後のマスコミの取り上げ方や、各企業の対応状況などをみておりますと、企業は反社会勢力へ半分、そしてこれを取り締まる当局へ半分、目を配る必要が「全社的対応」として出てきたのではないでしょうか。最近、話題の新刊ノンフィクション「さいごの色町 飛田」を読みました。再開発で賑わう天王寺にいまでも160軒もの遊郭(飛田遊郭)がございますが、あの飛田がなぜ昭和33年の売春防止法施行後もそのまま残り、反社勢力を排除しつつ、警察の規制にも負けずに事業を継続しているのか、その知恵には企業のリスク管理の視点から学ぶところも多いように感じました。料理組合を中心として全料亭が一丸となって対応し、自店の利益だけで「抜け駆け」はしない、ホンモノの「料亭」の存在を容認することが自店の防衛につながる等、まさに全社的取組であります(ちなみに料理組合の顧問法律事務所といえば・・・・なるほど、みなさんご承知のあの方のところなのですね。さすが、ピカイチのリスク管理)。

さて、このたび反社リスク等、リスクマネジメントコンサルティングを主な業務とするエスピーネットワークさんから「ミドルクライシス・マネジメント-内部統制を活用した企業危機管理-」なる本が出版されました。読み終えるまで時間がかかりましたので、少しご紹介が遅れましたが、さすが創業以来6000件以上の危機対応事案を手掛けてきた会社が社運をかけて(?)世に送り出したものだけあり、とてもリスク管理の視点から有益な内容になっております。著者の渡部洋介氏は警察OBの方で、一見「武闘派的企業対応」の指南本か?とも錯覚するわけでありますが、当社はすでに警備的対応だけでなく、知的介入対応にも力点を置き、証券会社、損保会社等の出身者も数多く在籍しております。したがいまして、この本は有事を経験している会社が、有事に至らないための予防的対応、また警察から要チェック企業としてマークされないための信用維持対応、といったあたりを中心にまとめられた本です。

一般の書店には並んでおりませんので、お買い求めは(上記PDFにより)エスピーさんに直接ご連絡いただければ、と。実は多くの出版社から発刊の検討がなされたのですが、ご推察のとおり、内容が内容だけに「尻込み」されたところも多かったそうです。たしかに「関係解消のポイント」などを拝見しますと、なるほど、ノウハウが詰まっていて参考になりますし、私も「講演で使えそう」とひそかに思っております。反社と対面する場合、あまりたくさんの社員で対応してはいけない…という理由も、なるほど・・・と。「VOL1 反社会的勢力からの隔絶」とありますが、続編があるのかないのか、そのあたりは私は存じ上げません。本当にお困りになる前に、ぜひご一読いただき、平時の内部統制、有事の危機対応、そしてどこまでやれば行政当局に理解してもらえるか、社内で考えるきっかけにしていただければと。

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社外取締役と監査役の機能の違い(明確にできるか?)

本日(2月1日)、日本監査役協会から「会社法制の見直しに関する中間試案に対する意見」がリリースされております(提出は1月31日とのこと)。監査役制度周辺に関するコメントが多いのは当然ですが、社外取締役制度の義務付けについては、有価証券報告書提出会社に限り、条件付きで賛成・・・・ということのようです。中間試案に対する監査役アンケートの集計結果でも、「社外取締役制度義務付け」については賛成と反対が拮抗しており、監査役会設置会社の監査役の皆様もご意見が非常に分かれていることがわかります。監査役と社外取締役の間に明確な機能分担ができるのかどうか・・・そのあたりへの考え方の相違が反映されているのかもしれません。また、昨年11月に、 「会社法改正ー監査・監督委員会の社外取締役・過半数の重み」のエントリーで素朴な疑問を述べましたが、やはりその素朴な疑問はけっこう大きな問題だったようであります。

金融・商事判例2月1日号の神田教授の巻頭言「会社法制の見直し」でも「監査役の役割と社外取締役の役割をどう調整するかが制度論をするうえでのポイントとなる」と論じられており、私もとりわけ社外取締役と社外監査役との役割が明確に区別できるか?という点は大いに悩むところです。法務省としては、経営監督機能と利害相反機能を社外取締役に期待される役割として整理されておりますが、それで明確な区別ができるかどうかは議論のあるところのようです。実際に、どのように役割を分担すべきか明確にされませんと、メルシャン事件の第三者委員会報告書43ページ以下に出てくるとおり、取締役と監査役さんとで「あれ?役員会に報告するのはアナタではないの?」「いやいや社長に報告するのはアナタでしょ」といった具合に、やっかいな業務は人任せにして、結局不正疑惑が何年も社内に温存されてしまう、という事態になってしまうおそれがあります(海外子会社の不正調査の場面などにも同様の問題があります。これは笑い話ではなく、けっこう不正事件には発生しております)。

理論的な整理をブログで論じるというのは(文字数があまりにも限られているために)適当ではないように思いますし、私の思考力を越えておりますので、高名な先生方や著名な実務家の方々にお任せすることとして、8年ほどの社外監査役の経験から論じるとすれば、やはり監査役と社外取締役とは(期待されている役割かどうかは別として)、大いにその機能は異なるものと考えています。なんといいましても、企業活動は「山あり谷あり」でして、企業の業績や業種ごとの経営環境の変遷によって監査役と社外取締役とで期待される役割は変わるからです。

監査役が不正や不備(いずれも取締役の職務執行の適法性にかかわるもの)を発見した場合、監査役はこれを報告し、またその「重大性」に関する意見を述べます。監査役が感じる「重大性」はあくまでも監査役固有のものであり(監査役それぞれが感じ方が異なる場合もあります)、この意見をもとに取締役が経営上の判断を行うわけで、その監査役の意見の重みを感じるのも個々の取締役で異なるわけでして、そこに社外取締役への期待があります(先日の「朝日法と経済のジャーナル」における阪神電鉄元社外取締役玉井氏の「秘話」とまったく同じ構造)。

社外取締役は「人の監査」をするわけではなく、あくまでも企業価値を向上させる仕事の過程で「組織の監督」をするわけですから、監査役の意見の重みを認識しつつも、監査役が期待する経営判断とは全く異なる判断に与することも十分ありえると考えます。重大なコンプライアンス違反が指摘されたとしても、これとは別に重大な経営問題があればその優先順位を検討しなければなりませんし、経営資源の配分についても配慮しなければならないと思います。オリンパス事件や大王製紙事件のインパクトが強かったために、不正抑止という視点ばかりが強調されておりますが、取締役の違法行為を指摘するという監査役の役割と、株主からの信認義務を取締役が尽くすという視点から経営判断の健全性を確保するという社外取締役の役割は異なるものであり、ときには監査役と異なる判断をするのも当然のことと思います。

あくまでもコンプライアンスの視点に限ってのお話ですが、経営判断に対して「人の監査」を通じてブレーキをかけるのが監査役の仕事であり、社長と一緒に業績を上げることに没頭しながら、つまりアクセルを踏みながら最良の選択を模索するなかでコンプライアンス経営を実現するのが社外取締役の仕事ではないでしょうか。会社が大きなカーブに差し掛かったときには監査役の機能が生きるでしょうし、長いストレートをアクセル全開で駆け抜けるときには社外取締役の機能が生きるわけです。このたびの決算発表をみていても、会社は生き物であり、良い時もあれば悪いときもあるわけでして、事業継続に向けて、どちらの機能が生かされるのかは企業の置かれた環境によって異なるものと思います。事故を回避するためにはブレーキを踏むことだけではなく、巧みなハンドルさばきも必要だと考えます。

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